近年, 毒性試験の分野において慢性毒性試験, がん原性試験が多数実施された結果, 各臓器・器官における変化, さらにはその発生率などが次第に明らかにされてきた。しかし骨・軟骨における自然発生病変の病態さらに発生率についてはほとんど不明であった。そこでラット, マウスの骨・軟骨について形態学的研究を行った結果, 変性性骨関節症, 骨硬化症, 腎性骨異栄養症, 骨端軟骨の退行性変化, 骨無菌性壊死が観察された。変性性骨関節症: 本症はヒトにおいて加齢により発生する代表的な関節疾患の一つである。しかし実験動物における自然発生の変化は詳細に報告されていない。今回Sprague-Dawleyラットの大腿骨, 膝蓋骨を検索した結果, すでに6ヵ月齢より関節軟骨の基質に変性を示すものがみられ, さらに12ヵ月齢では軟骨の変性・壊死, 関節軟骨縁での軟骨増殖, 糜爛が出現していた。また組織化学的検索の結果, 本症の発生, 進展については軟骨基質におけるグリコスアミノグリカンの変化が重要であると考えられた。一方, ICRマウスの脛骨においても関節軟骨基質の変性, 軟骨の変性・壊死, 関節軟骨縁での骨増殖, 糜爛, さらに関節軟骨下での骨硬化性変化が観察され, それらは加齢に伴い重度となっていた。これら動物の変性性骨関節症はヒトにおける本症の病因論及び発生機序の解明に寄与するものと思われた。骨硬化症: 6, 18, 30ヵ月齢のFischer344ラットの脛骨, 胸骨を検索した結果, 雌雄共に6ヵ月齢から骨髄腔に骨質の増加が観察され, 30ヵ月齢では骨髄腔は層板形成を示す新生骨で置換されていた。また変化は雄に比較し雌で重度であった。一方, ICRマウスの脛骨, 胸骨では, 雌で300日齢以降, 雄で350日齢以降に骨硬化症が高率に観察された。変化の程度としては雄に比較し雌で重度であったが, 730日齢までの発生率に雌雄間の差はみられなかった。また変化はラットと異なり多数の造骨性細胞, 骨芽細胞の増殖さらには破骨細胞の出現で始まり, 結果として骨質は増加していた。腎性骨異栄養症: マウスにおける本症の詳細な報告はなされていない。雌雄各370例のICRマウスを検索した結果, 雄で300日齢以降の8例, 雌では450日齢以降の11例に腎性骨異栄養症が観察された。マウスにおける本症の発生率はすでに報告されているラットのものに比較し低率であったが, 骨の変化は本質的に同一であった。一方, ラットでの本症はヒトの腎性骨異栄養症のモデルとして問題になってきた。しかし, その発生が高率化するのは生後1.5年以降からという時間的問題のため研究に支障を来してきた。今回早期から腎糸球体硬化症を示す高脂血症ラットを検索した結果, 14週齢から腎性骨異栄養症が観察された。この結果から高脂血症ラットは本症の疾患モデル動物になることが示唆された。骨端軟骨の退行性変化: Fischer344ラットの大腿骨, 胸骨を検索した結果, 雌雄共に7ヵ月齢より骨端軟骨の変性・壊死が観察され, 加齢に伴い重度化していた。本症の発生原因としては骨端軟骨に対する物理的圧力が考えられた。骨無菌性壊死: ICRマウス雌雄各300例を検索した結果, 雄6例, 雌17例の脛骨に無菌性壊死が観察された。変化は関節軟骨下に限局するもの, 骨端全体さらには骨幹に広域に及ぶものに分類された。発生原因としては血管障害が推測された。以上の骨・軟骨における形態学的研究の成果は, ラット, マウスを用いる化学物質の骨・軟骨に対する毒性学的研究あるいは実験動物学の基礎的資料として有用であると考えられた。
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