当院は道北地方における脳神経内科のてんかん専門医のいる准研修施設である。当院で診療した65歳以上初発のてんかん症例の診療実態について、2011年4月から2018年3月までの期間を新規抗てんかん薬の単剤使用が可能になった2015年3月を境に前半・後半に分けて検討した。対象症例は44例で、前半16人、後半28人、平均発症年齢は77.0歳で、発作症状は痙攣が45.4%、意識障害・意識減損が27.3%、物忘れが22.3%であった。全例が焦点てんかんで側頭葉てんかんが36.4%であった。基礎疾患は脳卒中が38.6%、認知症が25.0%であり、何れも後半での割合が高かった。発作消失率は81.4%で、単剤での発作消失率は前半60%に対して後半85%と増加していた。当院における高齢初発てんかんでは脳卒中・認知症とも後半により多くみられた。単剤での発作消失率は後半で増加していることから、脳卒中・認知症に伴うてんかんでも新規抗てんかん薬の使用により良好に発作を抑制できる可能性が示唆された。
2014年に施行された自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行後に発生したてんかん発作に起因した交通事故のうち、刑事処分が判明している事例について調査した。さらに新法施行前の状況との比較を行い、現況と防止策について考察した。
対象26例の刑事処分は、有罪19例、無罪3例、不起訴4例で、起訴された22人の罪名は、危険運転致死傷が19人(86.4%)、過失運転致死傷が3人(13.6%)であった。
新法施行後、起訴事例のほぼ9割に危険運転致死傷が適用されており、司法の厳罰化の影響がみられた。新法施行前と比較して、運転に関する医師の指導を受けていた運転者は有意に増加していたが、怠薬や医師の指導を軽く受け止めていた患者もみとめられ、より徹底した注意・指導が必要と思われた。またてんかんの発症率が上がる高齢者の診断を迅速的確に行い、運転に関する注意を行うことが必要と考えられた。