EpiTrackはてんかん患者の認知機能を評価するために開発された神経心理学的検査である。主に注意機能、遂行機能を測定する検査とされ15分程度で簡便に実施することができる。本研究では日本版EpiTrackを開発し、信頼性と妥当性の検討を行った。健常群218名、てんかん患者の臨床群51名に日本版EpiTrackとその他の神経心理学的検査を実施した。EpiTrack得点の平均値と標準偏差、およびROC解析の結果をもとにカットオフ値(29/30点)を設定した。健常群ではカットオフ値を下回った割合は10.1 %であった。一方、臨床群では54.9%であり、半数程度がカットオフ値以下の値を示した。妥当性に関して、EpiTrack得点は注意機能や遂行機能を測定するとされる仮名ひろいテストと最も高い相関を示した。再検査に関する信頼性について、ピアソンの相関係数は0.76であり十分な値が得られた。日本版EpiTrackは信頼性と妥当性を備えた検査であり、てんかん患者の認知機能を評価するスクリーニング検査として活用することができる。
てんかん診療連携への関心が高まる一方で、てんかんセンターの診療実績は明らかではない。わが国におけるてんかん診療連携の課題を明らかにするため、2014年から2020年までの全国てんかんセンター協議会(JEPICA)年次施設報告を集計した。施設あたりの長時間ビデオ脳波モニタリング(VEEG)件数は有意な増加傾向を示していた。てんかん外科は900~1,100件/年で推移し、施設あたりの件数は中央値19~26で増加傾向を認めなかった。米国てんかんセンター協会の報告に比べると、わが国のてんかんセンター数は人口比にして半分以下、VEEG件数も少なく、てんかん外科件数も40%程度と推定された。わが国におけるてんかん専門医療の提供は、てんかんセンター数、VEEG実施件数、手術件数のいずれにおいても米国に比べて少なく、必要な患者を専門医療につなげる診療連携の強化が望まれる。
脳梁離断術はてんかん性スパズム、強直発作、脱力発作などの転倒する発作で最も有効とされる。今回、非定型欠神発作重積に脳梁離断術が有効だった1例を経験したので報告する。症例は6歳女児。生後Down症候群と診断された。8カ月時にWest症候群を発症した。5歳時から強直発作、ミオクロニー発作、非定型欠神発作などの多彩な発作を認めるようになり、Lennox-Gastaut syndrome spectrumと診断した。6歳0カ月時には最大で1日100回以上の非定型欠神発作が出現して、脳波検査では発作時、発作間欠時脳波ともに全般性変化を呈した。難治に経過し、薬剤治療による欠神発作重積の抑制は困難と判断して6歳1カ月時に脳梁離断術を行った。手術直後から各種発作は消失した。術後の脳波では全般性棘徐波が右前頭部に局在化した。脳梁を介した神経興奮の拡がりが脳梁離断術によって抑制されたことによって、全般発作である非定型欠神発作が抑えられた可能性を考えた。本症例の経験から、特に欠神発作重積が薬剤抵抗性で退行を呈するなどの緊急性を要する症例では、脳梁離断術の適応を積極的に検討すべきと考えた。
症例は23歳左利き女性。10歳発症の前頭葉てんかん、年単位で経過した意識が保持される非対称性強直発作が就労後、右手指を用いた行為により時間単位で誘発された。頭皮脳波は頭蓋頂中心の低振幅速波活動のみ、頭部MRIで左補足運動野の皮質肥厚あり、臨床症状と各種脳機能画像から左固有補足運動野を主たるてんかん原性領域と考えた。発作増加に伴い抑うつ症状が出現し仕事を退職し、23歳時墜落外傷で緊急入院となった。多職種間でのカンファレンスを繰り返し入院2カ月後に慢性硬膜下電極留置後、焦点切除を行った。病理はfocal cortical dysplasia type IIa、術後3年発作なく就労を再開している。小児期発症adolescent and young adult世代の難治てんかん患者では、早期から多職種で連携し将来を見据えた治療方針の検討、心理社会的側面への対応が重要である。