香味に新たな特徴をもつ清酒を開発するため,植物から野生酵母を分離した.26S rDNA D1/D2領域とITS1-5.8S rDNA-ITS2領域の塩基配列の解析より,6株がSaccharomyces cerevisiaeと同定された.遺伝子解析および生理学的試験の結果から,NKY32,NKY362,NKY392,NKY2024の4株は清酒酵母タイプ,NKY1488とNKY1945の2株は清酒酵母と異なるタイプと判断された.分離酵母6株を用いた総米3 kgの小仕込試験の結果,それらのアルコール発酵能は清酒酵母K701と同程度であった.NKY1488とNKY1945の製成酒には,高い酸度,低いアミノ酸度,高い酢酸濃度という特徴があった.これらの結果から,分離酵母6株の清酒製造現場での実用化の可能性とNKY1488とNKY1945の特徴ある醸造特性を見出した.NKY1488を用いた総米500 kgの実地醸造試験において,もろみ初期で発酵の遅れは見受けられず,特別な製造方法を用いずに清酒を製造できた.製成酒は有機酸組成に特色があり,官能的に花様・香辛料様の香りおよび酸味に特徴があった.これらの結果より,NKY1488の清酒酵母としての実用性が確認できた.
Octospora系統(チャワンタケ目,ピロネマキン科)は多数のコケ植物生および少数の非コケ植物生の種からなる系統群である.本系統に含まれる種は主にヨーロッパや北アメリカから報告されているが,日本からの正式な報告は皆無であった.筆者らは盤菌類の調査によって得られた標本の中から,本系統に含まれる以下の4属4種を形態的に同定し,これらの同定結果は核リボソームRNA遺伝子の大サブユニット領域を用いた分子系統解析によっても支持された.Leucoscypha leucotricha (新称 ワタゲシロチャワンタケ)は非コケ植物生で,カバノキ属の樹下より採集された.他の3種はいずれもコケ植物生で,Neottiella albocincta (新称 アラゲタチゴケチャワンタケ)はナミガタタチゴケを,Octospora ithacaensis (新称 ゼニゴケツブチャワンタケ)はゼニゴケを,Octosporopsis erinacea (新称 ケゼニゴケニセチャワンタケ)はケゼニゴケをそれぞれ宿主としていた.いずれも東アジア新産で,O. erinaceaは基準産地のボルネオ島に続く二例目の報告となる.
Urocystis tranzschelianaはサクラソウに寄生し,花の葯の柄に分生子を,子房内にくろぼ胞子を形成する.本研究では,植物組織内における菌の存在部位の特定を目的として,U. tranzschelianaに特異的なPCRプライマーを開発した.この種特異的プライマーを用いて,くろぼ菌に感染したサクラソウの株(ジェネット)の個体(クローンラメット)のPCR法によるDNA検出を行った結果,菌体は花器だけでなく,地下茎や花茎にも存在していた.この結果から,サクラソウの感染株の地下茎には菌が存在しており,地下茎から無性芽に菌が直接侵入することにより,同じ株の次世代個体に感染することが示唆された.
日本新産のモリノカレバタケ属菌Gymnopus densilamellatus(ミツヒダニオイカレバタケ,新称)を,新潟県産標本に基づき形態的特徴の記載と図を添えて報告した.本菌の子実体は異臭を発し,白色型と褐色型の2型があり,ひだが緻密である点が特徴である.核rDNA ITS領域の系統解析により,日本と韓国産標本の配列は単系統群をなし,本菌が朝鮮半島から日本列島へ連続的に分布することが示された.
日本産イグチ類子実体に寄生するSepedonium属菌を調査した結果,日本新産種であるS. chalciporiとS. laevigatumを発見した.S. chalciporiはコショウイグチを寄主とし,輪生状に発達したフィアライドと表面構造が樽状の疣状突起となる厚壁胞子が特徴的である.また,S. laevigatumは,顕著に長いフィアライドと表面構造が緻密な結節状の厚壁胞子により特徴づけられる.
Hemileia属サビキン,H. strophanthiとH. wrightiaeがタイで見出された.両種は宿主の狭小な気孔から抜け出た菌糸から分化した柱状の胞子堆に求頂的に胞子を形成する.Hemileia strophanthiはカムペーンペット県で未同定のキョウチクトウ科樹木に寄生していた.Hemileia wrightiaeはプーケット県でキョウチクトウ科樹木Wrightia arboreaに寄生していた.Hemileia strophanthiはインドネシアおよびアフリカ南東部と西部地域でも見出されている.Hemileia wrightiaeはアジア各地域に分布している.
モミ属樹木の材上に発生したキクラゲ属の子実体を採取し,分子系統解析と形態比較によりA. americana s. str.と同定した.本邦におけるA. americana s. str.の報告は初である.
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