電気自動車などの性能向上のため,リチウムイオン電池の急速充電・高出力といった高レート特性の向上が強く求められている.高レートでの使用条件下で十分なパフォーマンスが達成できない原因一つとして,充放電中に化学反応が不均一に進むことが挙げられる.このような充放電時の不均一な化学反応を,2次元X線吸収スペクトル法により視覚化する試がある.この解説では,近年我々が取り組んでいる非負値行列因子分解(Non-negative Matrix Factorization(NMF))による2次元X線吸収スペクトルデータ解析を紹介する.本手法により,従来手法とは異なる吸収スペクトルの差異に基づく化学反応の不均一性の検出ができる.しかしながら,NMFで抽出したスペクトルの特徴が,我々に解釈可能な物理的特徴量と一致しているかどうかという問題に直面する.これは,データ駆動科学の多くの事例で直面している共通の問題である.我々は,NMFにより分解したスペクトルベイズ分光を適用することにより,我々が解釈可能な物理的特徴量に変換することで,この問題の解決を試みる.
本研究では,金属温度予測を目的として,金属の光学顕微鏡画像からスパースモデリングを用いて温度を推定する枠組みを提案している.具体的には,光学顕微鏡から得られる析出物領域に対して面積や円周,円形度などの38種類の画像統計的なパラメータを算出する.算出されたパラメータを入力,クリープ破断試験で一般的に用いられているLarson-Millerパラメータ(LMP)を目的変数として,Bolassoと呼ばれる統計モデルを構築する.これにより,光学顕微鏡画像から金属温度を予測することが可能となる.実データとしてはNIMSクリープデータシートNo.56AおよびNo.M-11で報告されているデータに適用し,フィッティング性能および未知データの予測性能を調べた.その結果,未知データにおける温度予測を±10 [°C] 以内の誤差で実現させることに成功した.
神経科学で用いられるデータ解析手法の分野横断的な活用事例として,材料科学,特に非弾性中性子散乱実験での事例を紹介する.中性子散乱実験は応用範囲が広く,様々な対象の研究に用いられている.近年の技術革新により,高効率に大容量の非弾性中性子散乱実験データを得られるようになった.データは,エネルギーと運動量で表される4次元空間中の点群として得られ,解析のためにこれをヒストグラム化する必要がある.従来は目視でのヒストグラム化が行われていたが,人的コストや処理の恣意性が問題となるため,多次元ビン幅最適化手法が提案された.これは,発火率推定に用いられるビン幅最適化手法の多次元化と,計算量削減のための工夫によって構成されている.本稿ではそれらの詳細について述べる.