日本神経回路学会誌
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29 巻, 3 号
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巻頭言
解説
  • 毛内 拡, 塚田 稔
    2022 年 29 巻 3 号 p. 112-118
    発行日: 2022/09/05
    公開日: 2022/10/05
    ジャーナル フリー

    本稿では,2021年に神経回路学会の名誉会員にご就任され,2022年の日本神経回路学会学術賞を受賞された塚田稔先生の業績を,「神経科学とアートの理解」という観点から紹介する.塚田先生は,玉川大学名誉教授で,日本神経回路学会の設立にもご尽力された.研究では,Hebb則と双璧をなす,脳で行われている学習の基礎原理である時空間学習則に関する多くの研究を,理論と実験の両側面から主導してきた.また,現役の画家でもあり,数多くの賞に入選し,大学や研究所,ホテル,個人などに多くの作品が収められている.アートを生み出し,理解する脳のしくみについても示唆に富んだ提案をされており,代表的な著書に「芸術脳の科学~脳の可塑性と創造性のダイナミズム~」(講談社ブルーバックス,2015)がある.この度著者(毛内)は,大変幸運なことに,塚田先生のご自宅のアトリエに伺い,直接インタビューを行う機会をいただいた.本稿は,そのインタビューの一部を解説記事としてまとめたものである.絵画を見ているときに脳のどこが働いているのか,神経科学的に考えてから見て絵画がわかるとはどういうことなのかを,「塚田の脳の自己組織化と芸術」の観点からご解説いただき,今後の展開についてもご紹介いただく.

  • 石津 智大
    2022 年 29 巻 3 号 p. 119-134
    発行日: 2022/09/05
    公開日: 2022/10/05
    ジャーナル フリー

    神経美学(neuroaesthetics)とは,様々な美学的体験(美的範疇)や芸術的活動に関係する脳機能と認知の仕組みを研究する認知神経科学の一分野である.誕生から20年弱の比較的新しい分野だが,美学的体験や芸術についての認知神経科学・心理学的アプローチは各国の研究機関でも重視されている.現在,欧州と北米を中心にロンドン大学ユニバーシティ校,ウィーン大学,マックスプランク研究所,ニューヨーク大学,ペンシルベニア大学,UCバークレーなど主要大学・研究機関において研究講座が開設されている.ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ心理学部では,正式に当分野を修めることのできる修士課程コースも開講され,今後さらなる展開が期待される.

    知覚・認知と美学的体験との関係を科学の対象として研究した最初の試みは,19世紀末頃のグスタフ・フェヒナーによる実験美学に端を発する.複雑な感性的体験を一つの変数で説明し,共通の要素を見つけることで,多様な感性的体験を定式化しようと試みたのだ.しかしフェヒナーにとってより重要な目的は,刺激への反応の背後に想定される神経活動との関係性を説明することであり,それは心理物理学と実験美学のひとつの目標でもあった.非侵襲の脳機能画像法と認知神経科学の発展により,現在その実証性の理念は神経美学に引き継がれたといえる.本稿では,前半で神経美学,特に視覚における神経美学研究を概観する.続いて後半では,現在注目されている負の感情価を伴う美的感性について仮説を含めて議論する.心理学的・脳機能的な観点から,負の感情価の伴う美的体験について仮説と今後の検討課題を提示することを目的としている.なお本稿では,主に視覚・視覚芸術に関する神経美学を扱う.音楽に関する認知神経科学的検討は,本特集号の大黒による論考を参照されたい.

  • 大黒 達也
    2022 年 29 巻 3 号 p. 135-147
    発行日: 2022/09/05
    公開日: 2022/10/05
    ジャーナル フリー

    音楽の神経科学は,脳機能計測技術の進歩に伴い30年余りで急速に発展した分野である.対象とする内容は,音楽認知,作曲や創造性,演奏など多岐にわたる.音楽処理機構の理解は,音楽特有の現象だけでなく,ヒトの本質を理解する上でも重要な鍵となる.例えば,音楽は,聴覚だけでなく,ヒト一般的な,行動,情動,学習,社会コミュニケーションなどの多くの脳機能と密接に関与している.近年,脳の一般原理である予測処理に基づく「統計学習機能」の観点から,音楽と脳の関係を説明しようという動きが活発化している.本稿では,統計学習と脳の予測が音楽認知にどう関わっているのかについて最近の研究動向を述べる.また,統計的学習の観点から音楽の「創造性」がどのようにして生まれるのかについて今後の研究の展望を議論する.

  • 茨木 拓也
    2022 年 29 巻 3 号 p. 148-156
    発行日: 2022/09/05
    公開日: 2022/10/05
    ジャーナル フリー

    なぜ芸術に人は価値を見出し,文化・産業として選択され続けてきたのか.一見科学の俎上に上がりにくそうな主題だが,芸術に対する感動体験の背景にある神経情報表現やその操作が可能となってきたことで,人類は少しずつではあるがその謎に迫りつつある.それを支えるのが脳の情報処理を各種手法でセンシング・解析・介入する神経科学の研究の進展とニューロテクノロジーと呼ばれる一連の技術群である.本稿では情報処理臓器「脳」の情報表現を扱うという観点から芸術,特に音楽に関する研究事例やエンターテインメント産業に応用できる可能性の状況について概観する.そしてアートにおける新たな表現媒体としての可能性に関して紹介するとともに,実際のビジネス特に臨床場面での応用可能性について解説する.こうした昨今の研究の進展は,脳の情報という新たな情報媒体を扱う技術とアートが融合するところに新たな表現や産業が生まれていくとなることを期待させるものである.

会報
編集後記
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