日本神経回路学会誌
Online ISSN : 1883-0455
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27 巻, 3-4 号
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巻頭言
解説
  • 稲垣 秀彦
    2020 年 27 巻 3-4 号 p. 97-106
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2021/01/08
    ジャーナル フリー

    本稿では,脳がどのように動作を計画し実行するのか,その神経機構と情報処理について記述する.行動する際,我々はまずどのような動作をするかの意思決定を行う.その決定は短期記憶として維持され,脳が外部・内部情報に基づき,最適なタイミングと判断した時に実行される.例えば,バッターやテニスプレーヤーはボールがリーチに入る以前から,どのようにスイングするかを決め,それは短期記憶として維持される.そしてボールがリーチに入った瞬間,すなわちスイングするのに最適なタイミングだと視覚情報から脳が判断した際,計画された通りにスイングする.このように事前に計画された動作は,そうでないものに比べ,正確かつ初動(Reaction time)が速いことが知られている.このような動作計画の短期記憶は,Motor planningと呼ばれ,運動野及び,間接的・直接的に接続した他の脳領域が必要であることが知られている.動作の計画時,これらの脳領域では持続的神経発火(Persistent activity)が数秒以上に渡って観測され,それがMotor planningを維持していると考えられている.では,1)どのような数理的原理でこの持続的神経発火は維持されるのか?,2)どのような回路がこの持続的神経発火を維持しているのか?,3)どうして,この持続的神経発火は動作の情報を維持しながらも,動作を引き起こさないのか? これらについて,我々や他のグループが発見した最新の知見をまとめる.

  • 伊藤 博
    2020 年 27 巻 3-4 号 p. 107-117
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2021/01/08
    ジャーナル フリー

    脳は,外界刺激への反応を最適化するのみならず,内部モデルを作り個々の行動のもたらす結果を推測することで,より長期的で複雑な行動計画を可能としている.空間探索はその能力を端的に示す行動で,一つ一つの行動選択が目的地に到達するためにどのような意味を持ち得るかを,脳内の空間地図に照らし合わせて計算していると考えられる.本稿では,まず空間認知・探索の研究の歴史を振り返り,これまで解明されてきた脳内メカニズムを議論する.こうした研究の多くは,海馬や嗅内皮質領域の活動と,動物の現在地またはその周辺の空間表現との関連を主に探ってきた.しかし,空間探索には他にも様々な計算過程,例えば目的地の決定や経路の選択が必要であり,こうした点に関しては未だに多くの部分が不明である.また脳内空間地図により計画された目的地への経路が,最終的に四肢の動作として表現されるための座標変換も必要となる.このように空間探索行動には,様々な計算が複雑に絡み合っており,それぞれの異なる機能に着目した研究が求められる.こうした問題に対して我々のグループが行ってきた研究の成果を紹介しながら議論したい.

  • 浅利 宏紀
    2020 年 27 巻 3-4 号 p. 118-126
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2021/01/08
    ジャーナル フリー

    神経科学の分野における近年の技術発展は目を見張るものがあり,一昔前では夢のようだった実験でも実現可能になってきている.しかしながら,脳の理解に本質的に近づいているかといえば疑問の余地があると言わざるを得ない.本稿では,最近開発された大規模・高生産性実験手法を網羅的に解説しつつ,私見を交えながら脳の理解へと通じる道を考察する.

  • 田中-水谷 弘子, Lukas Ian Schmitt, 中島 美保
    2020 年 27 巻 3-4 号 p. 127-143
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2021/01/08
    ジャーナル フリー

    “認知”機能は,複数の皮質および皮質下の領域にまたがる広範囲に分散した神経回路の計算処理によって生じる.近年,神経細胞の活動を一時的に活性化あるいは抑制したり,複数の脳領域から数百から数千の神経細胞の神経活動を同時に記録する新しい手法の開発によって,分散する脳ネットワークのよる情報処理メカニズムを調べる技術は大幅に向上してきた.しかし,これらの手法を最大限に活用し,認知機能を支える神経機構を解明するためには,行動実験を用いて,関連する脳ネットワークを適切に従事させることが重要である.この総説では,近年の技術革新の紹介とともに,齧歯類を用いた認知行動実験のデザインの仕方に焦点を当てて論ずる.これらのアプローチは認知機能に関連する神経回路を同定するだけでなく,神経発達障害において認められる認知機能障害の機序の解明にも役立つ.

  • 柳下 祥
    2020 年 27 巻 3-4 号 p. 144-151
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2021/01/08
    ジャーナル フリー

    報酬による学習においてドーパミンは主要な役割を担う.特に近年の光遺伝学を始めとした神経回路操作技術や遺伝子コードされるプローブを利用した神経活動の観察技術の進展により,ドーパミンが報酬予測誤差信号として学習を制御する実態がわかってきた.一方,ドーパミンがどのように学習の基盤となる神経回路の変化を起こすかについては不明な点が多かった.そこで,筆者らは光遺伝学によるドーパミン神経操作に加えてケイジド・グルタミン酸の2光子刺激による単一スパイン・シナプスでのグルタミン酸シグナルの操作技術を駆使しこの問題に取り組んだ.結果,学習に関わるドーパミン一過性変化が側坐核のD1受容体およびD2受容体発現細胞のスパイン・シナプスの可塑性を制御する機序を世界に先駆けて明らかにした.このシナプス細胞基盤の知見を元に,条件づけ学習を詳細に検討したところ,D1受容体発現細胞は汎化学習・D2受容体発現細胞は弁別学習を担うことがわかった.一方,消去学習はこれらの機序では説明がつかなかった.このようにドーパミン報酬予測誤差信号が側坐核のシナプスを介して制御する学習の実態の解明に近づいた.また,統合失調症とD2受容体の関連は古くから知られていたが,この関係をD2受容体発現細胞の機能低下と弁別学習障害により妄想の基盤となるサリエンス障害が生じるのではないかという仮説を提唱するに至った.このようにシナプス可塑性・学習により環境構造を内在化する機能を詳細に理解した上で,現在はさらに脳が社会環境と相互作用することが精神疾患理解に新たな道を拓くのではないかと考え,研究を進めている.

  • 平 理一郎
    2020 年 27 巻 3-4 号 p. 152-164
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2021/01/08
    ジャーナル フリー

    本稿は前半部において,まずげっ歯類の脳の神経細胞活動を同時に多数記録する方法としての2光子顕微鏡について,その歴史を概観する.その後,広視野2光子顕微鏡の代表として,筆者が留学していたスミス研(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)の最新の2光子顕微鏡を紹介する1).後半では,2光子カルシウムイメージングとニューロピクセルプローブを用いることで数千の神経細胞活動を同時記録した研究論文を3編紹介し2~4),それらが明らかにした点を概観することで,同時多細胞記録によってどのような脳の性質が解明されうるか,またされるべきかを考察する.最後に,そうした特徴の1つの候補として脳の「全体性」について述べる.

  • 船水 章大
    2020 年 27 巻 3-4 号 p. 165-173
    発行日: 2020/12/05
    公開日: 2021/01/08
    ジャーナル フリー

    私たちの脳は感覚刺激を提示されたままに知覚できるのでしょうか.感覚刺激から行動を決定する場合,その行動は,感覚刺激だけでなく状況(刺激の提示確率や行動から予測される報酬)に影響される.感覚刺激と状況の統合は,ベイズ推定に基づく信号検出理論で最適化できる.近年,知覚意思決定における大脳新皮質の関与が多く報告されている.本研究は,ベイズ推定や信号検出理論に基づいて,これらの知見をまとめる.大脳新皮質が感覚刺激と状況を統合し,行動を決定する可能性を考察する.

会報
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