日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第49回大会
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細胞周期・アポトーシス・シグナル伝達
  • 近藤 隆, 于 大永, 松谷 裕二, 趙 慶利, AHMED Kanwal, 魏 政立, 根本 英雄
    セッションID: OR-11-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    目的 新規に合成されたフラン融合性四環性化合物(DFs)には抗ウイルス作用があることが判明し、注目されている(Matsuya et al. J. Org. Chem., 69, 7989, 2004)。本研究では、これらのDFsにアポトーシスの増強作用があるか否かについて、検討した。
    材料と方法 細胞にはヒトリンパ腫細胞株のU937を用いた。アポトーシス誘導因子として、温熱処理(44 oC,20分)あるいはX線照射(5 Gy)を用いた。アポトーシスの関連指標として、核の形態学的変化、DNAの断片化、ホスファチジルセリンの細胞膜表面発現、ミトコンドリア膜電位(MMP)の低下、スーパーオキシドの産生、関連蛋白質の変化、細胞内カルシウムイオン濃度の変化等について検討した。
    結果 毒性のない濃度においてDFsによる放射線誘発アポトーシスの増強は認められなかったが、温熱誘発アポトーシスを増強する化合物があり、DF3が最も効果が高かった。DF3はアポトーシス指標を濃度依存性に増強するとともに、MMPの低下、カスペース-8、-3の活性化、Bidの活性化およびシトクロムcの遊離の増強をした。さらに、DF3は単独処理で早期に細胞内スーパーオキシド産生を増強し、その後、過酸化物質の一過性の増強を誘発することが判明した。
    結論 DFsによる温熱誘発アポトーシスの増強機構として、細胞内酸化ストレスの増加およびミトコンドリア経路の活性化が関与することが示唆された。
  • 鈴木 啓司, 山内 基弘, 児玉 靖司, 渡邉 正己
    セッションID: OR-11-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    放射線照射後の正常ヒト二倍体細胞において、リン酸化ATMのフォーカスを起点とするDNA損傷チェックポイント因子のフォーカス形成が明らかになっている。これまでに、放射線照射後に形成された初期のリン酸化ATMフォーカスは照射後の時間経過とともにそのサイズが増加すること、またこの過程はDNA損傷修復にともなう二次的なクロマチン構造変化によるものであること、を明らかにしてきた。このようなリン酸化ATMフォーカスサイズの増加は、DNA二重鎖切断部位においてDNA損傷チェックポイントシグナルを増幅する役割を担っていると考えられる。そこで本研究では、この仮説を証明するために、DNA二重鎖切断修復に欠損を持つ細胞が、DNA損傷シグナルを増幅できるのかどうか、ATMによるp53のセリン15のリン酸化を指標に検討した。
     実験には、CHO細胞およびxrs-5細胞を用いた。Xrs-5細胞はKu80蛋白質を欠くため、G1期での主要なDNA二重鎖切断修復過程である非相同末端結合修復(NHEJ)に欠損を持つ。X線(1 Gy~4 Gy)を照射後細胞を1時間培養し、4%フォルマリンで固定後に膜透過処理を施し、抗リン酸化ATM抗体および抗セリン15リン酸化p53抗体を用いた免疫蛍光抗体法により、リン酸化ATMフォーカスサイズとp53のリン酸化との関係を調べた。また、細胞周期は、S期を抗RPA抗体で、G2期を抗リン酸化ヒストンH3抗体で染色して解析した。その結果、1 Gy照射細胞では、xrs-5細胞特異的にG1期の細胞でのリン酸化ATMフォーカスのサイズ増加が見られなかったが、そのような細胞では、p53蛋白質のリン酸化レベルも低いことが明らかになった。
     以上の結果は、DNA損傷チェックポイントシグナルの増幅がDNA二重鎖切断修復にともなうクロマチン構造変化と共役して進み、それによってATMから下流因子へのDNA損傷情報が効率よく伝達されていることを示す。
  • 笹野 仲史, 細井 義夫, 白石 憲史郎, 榎本 敦, 宮川 清, 勝村 庸介, 中川 恵一
    セッションID: OR-11-6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    エダラボンは、ラジカルスカベンジャーとして、急性脳梗塞の治療などに臨床的に使用されている。今回の実験では、エダラボンの放射線防護剤としての効果をin vitroで研究した。放射線によって高頻度にアポトーシスを誘導することが知られている培養細胞MOLT-4を用いてエダラボンの放射線防護効果を検討した。MOLT-4にエダラボンを投与して放射線照射をしたところ、エダラボンを投与しなかった群に比べて細胞死は抑制され、エダラボンの放射線防護剤としての効果が示された。特に放射線照射後にエダラボンを投与した場合にも細胞死が抑制されることをわれわれは見出した。ラジカルスカベンジャーは、放射線により生じたフリーラジカルを捕捉することにより放射線防護効果を発揮するため、一般には放射線照射後に投与した場合には放射線防護効果はない。エダラボンがフリーラジカル捕捉以外に、別の機構で放射線によるアポトーシスを抑制していることが示唆された。
ポスターセッション
損傷・修復(回復・DNA損傷・修復関連遺伝子[酵素]・遺伝病)
  • 川田 哲也, 神應 百重, 劉 翠華, 斉藤 正好, 川上 浩幸, 茂松 直之, 久保 敦司, 伊東 久夫
    セッションID: P1-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    背景および目的
    放射線に対し著しい感受性を示す疾患の一つとしてAT(Ataxia telangiectasia)が知られているが、高感受性のメカニズムは不明である。高感受性メカニズムとして、cell cycle checkpoint control lossが一般的に受け入れられている。本研究では、cell cycle の影響を除外する目的で、静止期のA-Tおよび正常線維芽細胞にガンマ線を照射後、37℃で24時間、修復させた後に細胞生存率とFISH法を用いた染色体異常解析からATの感受性メカニズムの解明を目的とする。G0期、G1期の修復はNHEJによって行われることから、PLDRの観点からもNHEJにおけるATMの役割を検討した。
    材料・方法
    (1) 材料:ヒト由来の正常線維芽細胞であるAG1522,ヒトAT homozygote 由来のGM02052を用いた。(2) 約2Gy/minの線量率でガンマ線照射を行い、照射後に24時間インキュベーターにて修復時間を与えた。(3) 感受性の解析:コロニー形成能より生存率を算出することにより感受性を決定した。(4) 染色体異常解析:1番および3番の染色体プローブを用いてdeletion, color-junction頻度を測定した。
    結果および考察
    A-T細胞は正常細胞と比較して著しい染色体異常(後修復および欠失)が見られた。静止期細胞における修復はNHEJで行われると考えられ、AT細胞ではNHEJの正確性が著しく阻害されていることが示された。細胞生存と染色体異常は相関関係が見られ、後修復および欠失はATの放射線高感受性の原因と考えられた。PLDRの検討からは、正常細胞ではdelayed platingではimmediate platingにくらべ異常が約半分に減少し、AT細胞ではいずれにおいても著しい異常が認められた。NHEJの正確性は正常細胞においては細胞周期に依存するが、ATでは依存しないことが示唆された。
  • 寺西 梨衣, 西田 友紀, 松山 聡, 杉浦 喜久弥, 井出 博, 久保 喜平
    セッションID: P1-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    塩基除去修復(BER)は損傷塩基を修復する機構であり、脱塩基部位(AP site)を生成する過程に始まり、short-patch経路もしくはlong-patch経路に続く。BERはM期を除く細胞周期の各期でおこるといわれているが、細胞周期との関連性については完全には解明されていない。本研究では、細胞周期の各期における修復様式を明らかにするため、AP siteの定量法であるARP法およびFARP法を用いてG1期とS期におけるmethyl methansulfonate (MMS) 誘発塩基除去修復の修復動態の比較を試みた。まず初めに、単層培養したヒトHeLa RC355細胞をserum starvation/mitotic selection法により同調した。G1期およびS期に同調した細胞をMMS (2.5〜10 mM)で1時間処理した後DNAを抽出し、ARP法を用いてDNA中のMMS誘発AP site数を比較した。いずれの濃度でもG1期とS期のAP site数に大きな差は見られなかった。さらに、FARP法を利用して細胞核内のAP site数の比較を行ったところ、S期細胞中のAP siteの方が高値を示していた。細胞内DNA量を考慮すると、この結果はARP 法で得られた結果を反映しているといえる。以上より、G1期、S期ともに効率良くBERが行われていると考えられる。
  • 植松 哲生, 竹田 純, 長井 秀樹, 丹羽 太貫
    セッションID: P1-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    放射線照射により、直接、間接的に様々なDNA損傷が生じる。その内でDNA double strand break(DSB)はchromosome aberrationといった甚大な遺伝情報の変化をもたらすという意味で重要である。DSBの修復に関わる様々な因子は既に数多く同定され、修復経路について分子レベルでの解析が進んでいる。我々は、DSB、およびその修復によるクロマチン状態の影響、さらにはDSBによる晩発効果とクロマチンの関連性を検討するため、新しい実験系の構築を試みている。
    また、DSB修復のうち、組み替え修復における、相同染色体同士の相互作用を細胞内で可視化するための細胞を、マウスのembryonic stem cell(ES cell)で作成している。
    これらの実験のデータを報告したい。
  • 森 利明, 吉田 幸平, 藤脇 梨恵, 大谷 謙二, 八木 孝司, 渡辺 千尋, 吉原 亮平, 石井 直明, 紙谷 浩之, 原島 秀吉, 滝 ...
    セッションID: P1-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    活性酸素はDNAに酸化的傷害をもたらし、突然変異の原因となる。グアニンの酸化物である8oxoGはシトシンと同様にアデニンとも対合することが知られている。8-oxoGTPはDNA合成の際に鋳型であるシトシン以外にアデニンの向かい側にも取込まれ、修復されないとA:TからC:Gへの塩基置換が生じることになる。 大腸菌ではMutT(8-oxodGTPase)系が8-oxodGTPを8-oxodGMPに加水分解してこれを防いでいる。ヒトやげっ歯類、シロイヌナズナなど高等生物でもホモログMTH1、AtNUD1として類似の機能が知られている。そこでセンチュウ(C. elegans)に8-oxodGTPを8-oxodGMPに加水分解する活性があるかどうかを調べた。

     野生型C. elegansの粗抽出液と8-oxodGTPを反応させたところ8-oxodGMPの生成がみられたのでさらに精製を試みた。DEAEイオン交換クロマトグラフィーのNaCl(0.1M)溶出画分に本活性が認められたが8-oxodGDPの加水分解活性も残存していたので、さらにヘパリン及びイオン交換クロマトグラフィーを行ったところ8-oxodGDPの加水分解活性をほとんど除くことができた。 酵素活性にはMgイオンが必須でアルカリ側に至適pHがあった。またこの画分は2-OH-dATPを脱リン酸化して2-OH-dAMPを生成したが、dGTPやdATPの分解活性はほとんど認められなかった。
  • 横谷 明徳, 牛込 剛史, 鹿園 直哉, 藤井 健太郎, 漆原 あゆみ, 鈴木 雅雄, 田内 広, 渡邊 立子
    セッションID: P1-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    本研究の目的は、放射線によるエネルギー付与の空間構造とDNA損傷の性質の関連を明らかにすることである。まず、直接効果を寄与の程度を調べるため、1ヌクレオチドあたり約35分子の配位水を結合させた高水和状態のプラスミドDNA(pUC18)薄膜を照射試料とし、ラジカルスキャベンジャー濃度を変えた水溶液試料に対する軟X線光子(150 kVp, Wターゲット:特性X線~60 keV)照射による1本鎖切断(SSB)収率との比較を行った。次に高水和DNA試料に対して軟X線に加え様々なイオン粒子を照射し(He, C及びNeイオン; 20 ~500 keV/μm) 、生じたSSB,2本鎖切断(DSB)に加え、8-oxoGなど塩基除去修復酵素(EndoIII(Nth)及びFpg)処理によりSSBに変換され得る酸化的塩基損傷と、これらがクラスター化して生じるためDSBとして検出される損傷の収率を調べた。その結果、1)細胞内と同程度のラジカルスキャベンジャー環境では全SSB収率のうち約30%が直接効果により生じること、2)SSB収率はほとんどビームの性質に依存しなかったのに対してDSBはビームの性質に複雑に依存すること、3)酵素処理によりSSB(単独の塩基損傷)及びDSB(クラスター損傷を構成する塩基損傷)として検出される酸化的塩基損傷は軟X線領域で最大となるがLETの増大とともに劇的に減少し、4)同じLET領域でもイオンビームに比べ光子の方が高い塩基損傷収率を与え、さらに5)全ての放射線照射でFpgよりNth処理の方が有意に大きなSSB収率を与えることが明らかになった。これらの結果をコンピュータによるトラックシミュレーションの結果と比較し、放射線の直接効果により生じるDNA損傷と放射線の線質の関係を議論する。
  • 前川 秀彰, 及川 美代子, 斎藤 公明, 藤本 浩文, 屠 振力, 渡辺 立子, 山内 恵美子, 土田 耕三, 中垣 雅雄, 高田 直子
    セッションID: P1-6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
     昨年度まで我々はセシウム137のγ線により切断されたプラスミドDNAの頻度をリアルタイムPCR法により検出できることを示してきた。スカベンジャーとしてTris-HCl を使用し、0~150Gyの幅で照射した後のプラスミドDNAに対し1003bp、505bp、243bpの各増幅長における増幅のパターンを解析した。その結果、閉環状型(CC)と開環状型(OC)の比率は増幅度が未照射を100%とすると300%にも上昇することがあることが示された。これはCCがPCR増幅をされにくいと解釈することで説明できる。この極大値は細かく測定点を取ると15_から_20Gyになり、電気泳動による結果(約80Gy)とは明らかに異なり、電気泳動法により算定された切断誘発率p=0.2を使用した理論計算とPCRの実験結果との間にズレが生じることが明らかになった。このことはDNAの損傷は予想より多く起こっており、そのため切断誘発率を高く設定しないと合わなくなったのではない課と考えられる。本発表では温度による物理切断を考慮に入れた上で推定が説明可能かどうかを合わせ検証したので報告する。
  • 森 利明, 馬籠 信行, 吉川 祐子
    セッションID: P1-7
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    DNAが電離放射線で照射されると不正常な修飾塩基やDNA鎖の切断(SSBやDSB)、DNA残基と核タンパクのクロスリンクなどが生じることはよく知られている。これらの損傷は主としてヒドロキシラジカル(OHラジカル)によって引きおこされると考えられている。 DNAの近傍で発生したOHラジカルは主にDNA残基と反応するが、その一部はDNAを構成する糖鎖やリン酸基を攻撃することによってSSBやDSBが生じる。DSBは修復されにくいため細胞死や突然変異、染色体異常、ゲノムの不安定化など放射線による傷害の原因となっている。このため放射線によるDSBの生成機構を解明することはきわめて重要な研究課題である。

    近年われわれは蛍光顕微鏡によって長鎖DNAの高次構造を直接観測してきた。具体的にはポリアミン化合物などを添加することによって、コンパクトにおりたたまれたグロビュール状態やコイル状態など長鎖DNAの高次構造をコントロールできるようになった。

    今回われわれはT4 DNA(166 Kbp)の希薄水溶液を放射線照射して、DNAの切断が高次構造とどのように関係するのか検討をおこなった。その結果グロビュール状態とコイル状態で、放射線によるDSBの生成量に明確な差があることがわかった。
  • 高城 啓一, 畑下 昌範, 福田 茂一, 久米 恭, 松本 英樹
    セッションID: P1-8
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
     同一吸収線量を与えた場合、重イオンビームはX線やガンマ線と比較してより深刻なダメージを細胞に与える。一方、プロトンビームはX線やガンマ線とほぼ同程度のダメージしか与えない。このような作用の相違は、粒子の通過経路上に付与されるエネルギーの分布パターンの違いによるものと考えられている。重イオンのトラックに沿って生成される細胞障害の密度はプロトン、X線、ガンマ線よりも高い可能性がある。
     電離放射線のようなDNAの2重鎖切断(DSB)を引き起こす刺激を細胞に与えると、核内にリン酸化されたヒストン2AX(γ-H2AX)のスポット、いわゆるフォーカスが形成される。γ-H2AXはMRE11/Rad50/NBS1複合体、Rad51、Ku70、DNA-PKcsといったDSB修復タンパク群のための足場を提供するものと考えられている。DSBを誘起するような刺激を与えると、わずか数分のうちにDSBが生じた位置の周辺でセリン139の位置でH2AXがリン酸化される。それゆえ、γ-H2AX フォーカスの形態は粒子の通過経路に沿ったエネルギー付与パターンを反映していることが予想される。
     本研究では、X線(130 kVp)やプロトンビーム(200MeV)、カーボンビーム(350MeV)を照射後に形成されるγ-H2AXフォーカスを免疫細胞化学的に検出し、フォーカスの形態的特徴を、レーザー共焦点顕微鏡を用いて比較した。その結果、カーボンビーム照射後に形成されるγ-H2AXフォーカスが幾つかの点で他の線源によるものと異なることを見出したので報告する。
  • 関根 絵美子, 岡田 真希, 于 冬, 野口 実穂, 藤井 義大, 藤森 亮, 岡安 隆一
    セッションID: P1-9
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    【目的】重粒子線は宇宙放射線の重要なコンポーネントとして存在し、またブラッグピークを利用して癌の放射線治療においても大きな貢献を果たしている。しかし、低LET放射線であるX線、γ線に比べ高LET放射線である重粒子線による影響はまだ不明な点が多い。そこで本研究ではX線、炭素線、炭素線と同じLET(約70kev/μm)で違う核種(ネオン線、シリコン線)、またネオン線、シリコン線において違うLET(約200kev/μm)を照射した場合に生じるDNA DSBの修復の様子を量的に比較検討した。この実験には、正常ヒト線維芽細胞(HFLIII)とDSB修復欠損(LigaseIV欠損)細胞(180BR)を用いた。
    【方法】正常ヒト線維芽細胞(HFLIII)、DSB修復欠損細胞(180BR)に、X線(200kV,20mA)、炭素線(290MeV/u、LET:約70keV/μm)、ネオン線(400MeV/u、LET:約70keV/μmと約200keV/μm)、シリコン線(490MeV/u、LET:約70keV/μmと約200keV/μm)をそれぞれ2Gy照射し、0、2、6、24時間後のDSBの修復の様子G1-type PCC法にて経時的に観察した。また、X線、炭素線、ネオン線、シリコン線をそれぞれ0.5Gy~4Gy照射し生存曲線を求めた。また誤修復はPCC-FISH法によって観測した。
    【結果・考察】ネオン線(400MeV/u、LET:約70keV/μm)、シリコン線(490MeV/u、LET:約70keV/μm)の2Gy照射時におけるDSB修復の速度はX線、炭素線(290MeV/u、LET:約70keV/μm)照射時の修復に比べると遅かった。今回、同じLETにおいて、違う核種間のDSBの修復過程に有意な違いが見られたが、これはビームのエネルギーの違いや構成核種とその分布の違いによるものと思われる。180BR(修復欠損(LigaseIV欠損))は、全ての条件においてHFLIIIに比べて修復の速度は遅かった。一部のPCC-FISH法による誤修復のデータも紹介される。
  • 中沢 由華, SAENKO Vladimir, ROGOUNOVITCH Tatiana, 難波 裕幸, 光武 範吏, 山下 俊一
    セッションID: P1-10
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】甲状腺組織は、放射線被ばくにより癌が高頻度に誘発される。従来放射線影響を調べるためのin vitro実験では、甲状腺濾胞細胞単独培養が用いられてきた。しかし組織は、上皮細胞や間質細胞など多種の細胞から形成されており、相互に影響を与え合っている。そこで今回、混合培養による放射線損傷への影響について検討した。【材料と方法】甲状腺組織のin vitroモデルとして、ヒト初代培養甲状腺細胞とヒト線維芽細胞との混合培養を用いた。それぞれの細胞の単独培養と混合培養での放射線影響を、DNA二重鎖切断の指標であるリン酸化H2AXを指標として免疫蛍光染色法により比較検討した。【結果】混合培養、単独培養とも、γ線照射後にリン酸化H2AXの数は急増し、その後時間とともに減少した。また、いずれにおいても線量効果関係が見られた。しかし、混合培養におけるリン酸化H2AXの数は、単独培養よりも有意に少なかった。混合培養におけるリン酸化H2AXの減少に関わる機構を明らかにするため、ギャップ結合を阻害する薬剤としてLindaneを用いた。Lindaneを加えることで、混合培養、単独培養双方ともリン酸化H2AXの数が増加したが、混合培養では、単独培養ほど増加がみられなかった。このことから、ギャップ結合は混合培養におけるリン酸化H2AXの減少に関わる主要な経路ではないと推測された。【結語】混合培養時にγ線誘発リン酸化H2AXの減少がみられ、DNA二重鎖切断の減少が生じたことが示された。また、ギャップ結合が阻害されるような状況下では、通常の状態よりもDNA損傷を生じやすいことが示唆された。混合培養におけるリン酸化H2AX減少の原因としては、細胞間相互作用に関する液性因子の影響などが推測され、今後更に実験を進める予定である。
  • 漆原 あゆみ, 鹿園 直哉, 横谷 明徳
    セッションID: P1-11
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線が細胞死や突然変異等の影響をもたらす原因として、DNA損傷の生成が挙げられるが、細胞には様々な修復機構によって恒常性を維持する事も知られている。しかし、DNA損傷の中でも、DNAヘリックス2回転中に二つ以上の損傷が近接して生じた「クラスターDNA損傷」と呼ばれる損傷では、その修復が阻害される事が報告されてきている。クラスターDNA損傷の中で、最も研究が行われているのがDNA二重鎖切断である。一方、塩基損傷による突然変異誘発については、ほとんど明らかにされていない。そこで我々は、クラスターDNA損傷が単独の損傷に比べて突然変異誘発を促進するかどうかを、大腸菌を用いて調べた。塩基損傷には、8-オキソグアニン(8-oxo-7, 8-dihydroguanine; 8-oxoG)とチミングリコール(thymine glycol; TG)を用い、8-oxoGが制限酵素認識配列中にあり、その相補鎖の1bp離れた位置にTGが来るようオリゴヌクレオチドを設計した。損傷を含むオリゴヌクレオチドは、pUC18及びpUC19プラスミドとライゲートさせた後、大腸菌野生株、及びグリコシラーゼ欠損株(fpg, mutY, nth, nei, fpg mutY, nth fpg mutY, fpg mutY nei)に移入し、菌株を一晩培養した。その後プラスミドを回収し、クラスターDNA損傷による突然変異を制限酵素により切断されない断片として検出し、突然変異の誘発頻度を調べた。その結果、8-oxoG、TGそれぞれの単独の損傷よりも、損傷のクラスター化によって突然変異頻度が増加する事が明らかとなり、クラスターDNA損傷は修復を受け難い可能性が示唆された。また、用いたクラスターDNA損傷の変異誘発頻度は複製の方向とは関係しないことが示唆された。本研究で得られた結果と、以前我々が行ったジヒドロチミン(dihydrothymine; DHT)と8-oxoGを用いた結果とを比較し、議論する予定である。
  • 中根 千陽子, 吉原 亮平, 滝本 晃一
    セッションID: P1-12
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    紫外線はDNA上の隣接するピリミジン塩基間でシクロブタン型ピリミジン2量体及び(6-4)光産物と呼ばれるDNA傷害を形成し、致死や変異誘発の原因傷害となる。また、植物種によっては生育に抑制的に作用することが知られ、その克服は将来の食料資源確保の方策の一つになるかもしれない。太陽光下で生育している植物は連続的に紫外線に曝されており、修復系が作用しているとはいえDNA傷害が多く生じていると考えられる。DNA傷害が生育抑制に作用しているなら、その機能を増幅させることによって生育抑制が緩和されることが期待され、紫外線に感受性の高い作物の収量増加につながる。紫外線によって形成されるピリミジン二量体のうちその約7割がCPDと言われている。光回復はこの傷害に対する有効な修復機構である。そこで、この光回復機能を増加することによって紫外線による生育抑制を軽減できないか調べた。
    我々がクローニングしたホウレンソウCPD光回復遺伝子を、植物細胞内で高発現になるよう形質転換用プラスミドpBI121のCaMV 35S プロモーターの下流に挿入しプラスミドpSpCPDPR3を作製した。アグロバクテリウムを用いてこれをシロイヌナズナへ導入し、いくつかの形質転換体を得た。形質転換体のゲノムDNAを鋳型にしたPCRにより目的遺伝子の導入を確認し、さらにRT-PCR解析により実際に導入遺伝子が発現していることも確かめた。UV-B照射による生育抑制の程度を光回復遺伝子導入個体と野生型とで比較したところ、形質転換体の生重量の減少が野生型に比べて小さいことが示された。CPD光回復遺伝子を新たに導入することで植物の紫外線耐性が増強される可能性が示され、光回復が植物の紫外線防御に有為な役割を果たしていることが示唆された。
  • 槌田 謙, 久木原 博, 柳原 啓見, 小松 賢志
    セッションID: P1-13
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    DNA鎖間架橋 (Interstrand cross-links : ICLs)はDNA二本鎖がDNA架橋剤によって架橋された構造のDNA損傷であり,転写,複製,組み換えを阻害する。我々は真核生物のICL修復機構の解明を目的にICLの高感度定量法(Psoralen-PEO-biotin excision assay: PPBE法)を開発し,様々なDNA修復遺伝子欠損細胞でのICL除去速度を測定した。正常細胞は細胞当たり2500個のICLを24, 48時間後でそれぞれ77, 93%除去した。この除去反応はDNA複製の阻害によって低下することからICL修復はDNA複製時に行われることが示唆された。DNA架橋剤感受性を示すファンコニ貧血細胞であるFA-G,-A相補性群細胞では正常細胞と比べICL除去速度に有意な低下が見られた。一方,FA-D2相補性群細胞ではICL除去速度は正常細胞とほぼ同じであったことからFA-D2タンパク質はICL除去には関与しないことが示された。相同組換え(HR)関連遺伝子欠損細胞はDNA架橋剤感受性を示すがICL除去速度は正常であったことからHRはICL除去後の修復に関わることが示唆された。さらに損傷乗り越えDNA合成(TLS)に関与するREV3の欠損細胞ではICL除去速度が低下することからTLSがICL除去に関与することが示唆された。
  • 吉原 亮平, 滝本 晃一
    セッションID: P1-14
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    突然変異の分子レベルでの研究は微生物や動物に比べて植物では多くない。そこで、植物の変異の特性を調べるために、in vivoにおける変異をポジティブディテクションできる変異解析システムを開発し実際に変異解析に適用した。概要は次の通りである。変異の標的遺伝子として大腸菌由来のrpsLを発現するプラスミドpML4を植物形質転換用プラスミドに挿入し、アグロバクテリアを用いてfloral dip法によりシロイヌナズナに遺伝子導入を行った。抗生物質で形質転換体を選別後、PCRによりrpsL遺伝子が組み込まれていることを確認した。この形質転換植物あるいはその種子を変異原処理して発芽生育させ、プラスミドレスキュー法により植物ゲノムからpML4を回収した。これをストレプトマイシン(Sm)耐性の大腸菌に導入し、Smを含む培地で変異を選別した。Sm感受性はSm耐性に対して優性であるので、変異rpsL遺伝子を持つpML4が導入された大腸菌だけがSm存在下でコロニーを形成する。 rpsL導入種子をEMS処理し発芽生育させた後pML4をプラスミドレスキュー法により回収し、Sm培地で変異クローンを検出した。Sm耐性コロニーから得られたプラスミドrpsL遺伝子の塩基配列解析により変異が確認できた。他の生物種でみられたように、EMS処理によってシロイヌナズナにおいてもG:C to A:Tトランジションが主に誘導された。しかし、シロイヌナズナでは他の生物種に比べて5’-PuG-3’のグアニンで変異が誘発される傾向が強いという特徴がみられた。また、太陽紫外線の連続照射を受ける一方で光回復や色素など紫外線防御機構も備えている植物で紫外線誘発変異が検出できるかどうかも検討しており、これについても報告する。
  • 柳原 啓見, 槌田 謙, 森 俊雄, 小林 純也, 小松 賢志
    セッションID: P1-15
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    ナイミーヘン染色体不安定症候群 (NBS) は放射線高感受性、染色体不安定性、高発がん性を特徴とする常染色体劣性の遺伝病である。患者由来細胞は電離放射線に高感受性でありataxia telangiectasia (AT)細胞とその細胞学的特徴の多くを共有している。これまで、我々はNBSの原因遺伝子NBS1がATM依存的に放射線照射後の細胞周期チェックポイントやDNA修復に機能する事を明かにした。最近の研究によりNBS患者由来細胞は、DNA複製フォーク停止による誘導応答反応において、ATR遺伝子に異常があるSeckel症候群由来細胞と類似することが報告された。PI3-kinaseファミリーであるATMやATRはチェックポイント機構で重要な働きをし、ATRはHU処理及び紫外線(UV)被曝により生じた複製フォークでの損傷に機能する。
     今回、複製フォークで働くNBS1の役割を調べるために、免疫染色法を用いてUV照射後のNBS1の挙動を検討した。放射線照射後のNBS1 フォーカス形成にはFHA/BRCT領域とH2AXの結合が必須であることが知られている。本研究においてUV照射後のFHA変異体株においてNBS1フォーカスが観察された。さらにH2AX(-/-)細胞のS期細胞でも確認された。これらの結果から、UV誘導NBS1フォーカス形成は放射線照射とは異なる機構で働くことが示唆された。
  • 末冨 勝敏, 高橋 千太郎, 藤森 亮, 久保田 善久, 佐藤 宏, 岡安 隆一
    セッションID: P1-16
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    【目的】DNA ligase IVはDNA二重鎖切断の非相同末端結合修復系に関与する主要な蛋白の一つである。我々は、RNAi (interference) の癌細胞に対する増殖抑制効果を検討するため、その標的蛋白であるDNA ligase IVの遺伝子発現を特異的に抑制する様に、その遺伝子配列情報を元にデザインした21塩基の二重鎖RNAを合成し、HeLa細胞に導入した。
    【方法】DNA ligase IV遺伝子の配列情報を元に合成したsiRNA (small interfering RNA)を導入試薬を用いてHeLa細胞に導入した。定量PCRでmRNAレベルを、Western blotで蛋白レベルを測定することによりDNA ligase IVの発現を調べた後、HeLa細胞の増殖に及ぼすDNA ligase IV siRNAの影響について検討した。
    【結果】コントロール細胞と比較して、siRNAを導入したHeLa細胞では、DNA ligase IVのmRNA発現が70%以上低下し、細胞内タンパクレベルについても顕著な低下が認められた。 DNA ligase IV siRNA導入後のHeLa細胞の増殖速度、DNA二重鎖切断や細胞死について検討した結果、DNA ligase IV siRNAを導入した細胞において増殖速度の低下やDNA二重鎖切断の増加が認められ、さらに細胞の形態から30%以上の細胞がネクローシスを起こして死んでいることが明らかとなった。DNA ligasae IV siRNAを導入した細胞における放射線感受性について検討した結果、若干の放射線感受性の増加が認められた。
  • 桂 真理, 伊達 修, 宮川 清
    セッションID: P1-17
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    Rad51B, Rad51C, Rad51D, XRCC2, XRCC3は相同組換え修復で中心的役割を果たすRad51と20-30%の相同性を有し,これらはRad51パラログとよばれ2つの蛋白質複合体を形成する.Rad51が相同組換え修復の早期から重要な役割を示すのに対し,Rad51パラログも同じく相同組換え修復に対して何らかの重要な役割を担っていると考えられているが,その詳細は未だ不明である.このなかでRad51Bはヒト14番染色体q23-24に位置し,この部位は子宮筋腫などの良性腫瘍においてしばしば染色体転座によって構造異常をおこすことが報告されている.しかし、このこととRad51Bの生物学的意義との関係は不明である.ヒトRad51Bの機能解析をするために,われわれは大腸がん細胞株HCT116においてRad51Bのジーンターゲッティングを行なった.段階的にRad51B+/+/+/-,Rad51B+/+/-/-,Rad51B+/-/-/-を作製したが,これらの細胞はDNA架橋剤などに軽度の感受性を示し,姉妹染色分体交差およびRad51のフォーカス形成の減少を示した.また,中心体数の異常がRad51Bのノックアウトにしたがって段階的に増加し,それに伴って異数体数も増加した.HCT116以外でもヒト線維肉腫細胞株HT1080よりsiRNAを用いてRad51Bを約半量にノックダウンした細胞においても中心体数異常の増加が観察された。 これらの結果より,中心体数と染色体数の安定保持に対Rad51Bの量的効果が存在することが示唆された.
  • 太田 陽介, 島田 幹男, 小林 純也, 小松 賢志
    セッションID: P1-18
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    DNA二本鎖切断は放射線によって誘発されることが知られている。DNA二本鎖切断損傷修復時にはDNA末端をプロセシングするために、MRE11などのヌクレアーゼ活性を持つたんぱく質が関与することが知られている。また、DNA損傷に伴うチェックポイント制御活性にもMRE11のヌクレアーゼ活性が必要であると報告されている。それ故、今回我々はヌクレアーゼ阻害剤を用いて、DNA損傷応答への影響を検討した。DNA二本鎖切断発生時にはDNA損傷部位でヒストンH2AXのリン酸化依存的、NBS1/MRE11/Rad50複合体、MDC1などのDNA損傷応答因子が早期にフォーカスを形成することから、最初にこれらフォーカス形成に対する阻害剤の効果を検討した。その結果、リン酸化H2AX(γH2AX)、NBS1、MDC1、リン酸化ATMのフォーカス形成が阻害されていた。しかし、H2AX、ATMのリン酸化をウェスタンブロットで検討するとDNA損傷に伴うリン酸化は正常に起こっていたことから、ヌクレアーゼ阻害剤はATM依存的リン酸化には影響せずにフォーカス形成のみを抑制することが考えられる。次に放射線誘導細胞死に対する阻害剤の効果を検討すると、IR照射後の生存率は正常マウス細胞ではわずかな上昇が見られたがDNA修復因子Ku70のノックアウトマウス細胞では顕著な生存率の回復がみられた。DNA二本鎖切断修復には相同組換(HR)と非相同末端結合(NHEJ)があり、Ku70はNHEJに機能していることから、阻害剤処理によってDNA修復のもうひとつの経路であるHRがKu70ノックアウト細胞で増強されている可能性が考えられ、DR-GFPアッセイによって検討中である。
  • 佐藤 惇, 小林 純也, 林 幾江, 小松 賢志
    セッションID: P1-19
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    放射線などにより、ゲノムDNAは二重鎖損傷(DSBs)を生じる。生物はこのようなDSBsを直ちに検知、認識することで細胞周期チェックポイントを活性化し、損傷DNAの修復を行う。このようなDNA損傷応答の活性化には近年、ヒストンH2AXが関与していると考えられている。H2AXはDSBsの発生に伴い早期にリン酸化され、このリン酸化がDNA損傷修復タンパク質のフォーカス形成に重要である。H2AXは放射線高感受性やゲノム不安定性を示すナイミーヘン症候群、毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝子であり、DNA損傷初期応答に機能するNBS1、ATMと複合体を形成し、DNA損傷認識に重要な役割を持つと考えられる。そこで今回、H2AXのDNA損傷応答の活性化における役割を明らかにするために、H2AX複合体の全容と機能の解明を試みた。GST-tagged H2AX、GST-tagged H2AX(S139E)融合タンパク質を利用したpull-down法で培養細胞抽出液からH2AXと結合しうる候補タンパク質群を分離し、質量分析計で解析した結果、複数の候補タンパク質を同定した。その中で、我々は最近p53との関係が報告されたnucleolinに注目した。nucleolinは主要な核小体タンパク質で、リボソームの生合成の調節やRNA binding proteinとしてrRNAのプロセシングに必要とされることが知られている。そしてさらに、nucleolinはDNA損傷に応答して、核小体から核全体に拡散し、DNA複製ストレスにおける損傷応答に重要なRPAと結合する。これらの結果から、H2AXとの機能的な関連も考えられ、本研究ではnucleolin siRNAを用いたノックダウン実験を行った。その結果、H2AXのリン酸化に影響を及ぼすことからnucleolinはDNA損傷においてH2AXと機能する可能性が示唆された。
  • 横田 裕一郎, 山田 真也, 長谷 純宏, 鹿園 直哉, 鳴海 一成, 田中 淳, 井上 雅好
    セッションID: P1-20
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>植物の致死、染色体異常および突然変異誘発において高LET重イオンが大きな効果を有することがわかってきたが、そのメカニズムは明らかでなかった。そこで本研究では、高LET重イオン照射した植物細胞に誘発されるDNA2本鎖切断(DSB)を定量的に分析した。
    <実験方法>タバコBY-2細胞から細胞壁を除いて得た単細胞(プロトプラスト)を植物のモデル細胞として用いた。タバコプロトプラストにLETの異なるヘリウム、カーボンおよびネオンイオンを氷温下で照射した。ゲノムDNAをパルスフィールドゲル電気泳動法によりサイズに従って分離し、DNAの断片化パターンからDSB生成数および隣接するDSBの間隔を評価した。
    <結果>DSB生成量はイオン種およびLETに依存し、調査範囲では124および241 keV/μmのカーボンイオンで最大となった。0.2 keV/μm ガンマ線、9.4および17.7 keV/μmのヘリウムイオンはDSBをほぼランダムに誘発するのに対して、94.8から431 keV/μmのカーボンイオンおよび440 keV/μmのネオンイオンではガンマ線に比べてDSBをゲノムDNA上に集中して誘発することが明らかになった。
    <結論>高LET重イオンが植物細胞にDSBを効率良く・集中的に誘発することは、重イオンが有する高い生物効果の一因であると考えられた。
  • 奥井 登代, 金江 豊, 遠藤 大二 , 福井 大祐, 小菅 正夫, 川瀬 史郎, 林 正信
    セッションID: P1-21
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    【目的】Ku70タンパク質は、DNA依存プロテインキナーゼ(DNA-PK)のサブユニットとしてDNAの2本鎖切断(DSB)修復に重要な役割を果たしていることが知られている。私共は、正常ラットの線維芽細胞では、70%以上のKuタンパク質が細胞質に存在し、放射線照射後核へ移行し、1時間以上核内に保持されるのに対し、DNAのDSB修復に欠陥のあるLECラット線維芽細胞では、放射線照射後Kuタンパク質は一旦核に移行するが、速やかに細胞質に戻ることを報告し、Ku70タンパク質が放射線照射後核内に維持されることがDNAの2本鎖修復に重要であることを示した。一方、ヒト細胞では非照射細胞でKuタンパク質は核内に主として存在していることが示されている。本研究はヒトをはじめとする霊長類とその他種々の動物種におけるKuタンパク質について細胞内の存在位置を解析し、放射線照射後の細胞内の移動がDNA修復にどのように影響するかについて検討することを目的とした。
    【材料と方法】ニホンザルおよびゾウについては初代培養線維芽細胞を用いた。ヒト(HEK293)、ウマ(E.Derm)など霊長類4種、その他の哺乳動物細胞10種類は株化細胞を用い、Kuタンパク質の細胞内における局在性の解析を行った。固定した細胞を抗Ku70抗体およびFITC標識IgG抗体と反応後、レーザー共焦点顕微鏡を用いて観察した。画像の再構成と蛍光量の定量解析は、顕微鏡付属の解析ソフトを用いて行った。
    【結果と考察】ヒト、ニホンザルなどの霊長類の細胞ではKu70タンパク質は非照射細胞では主として核に存在し、照射前後で細胞内における存在位置の変化は認められなかった。一方、ゾウなどの霊長類以外の細胞では、非照射細胞ではKu70タンパク質は主として細胞質に存在しており、照射後核内へ移動することが確認された。Kuタンパク質の細胞内の存在位置の違いが放射線照射によるDNAのDSB修復にどのように影響するかについて現在、解析中である。
  • 梶村 順子, 吉田 真衣, 渡辺 敦光, 本田 浩章, 増田 雄司, 朴 金蓮, 楠 洋一郎, 林 奉権, 濱崎 幹也, 柿沼 志津子, 島 ...
    セッションID: P1-22
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 放射線は、DNA二重鎖切断、単鎖切断、およびAP部位の生成などのさまざまなゲノム障害を誘発する。我々は、YファミリーDNAポリメラーゼのひとつであるRev1がAP部位の誤りがちなDNA修復に関与することを生化学的に証明した。そこで、本研究では、Rev1の個体における突然変異の生成や発がんでの役割を解明する一助として、Rev1トランスジェニックマウス(Rev1マウス)を作成しその検討を行った。
    [方法] Rev1マウスおよび野生型マウス(C57BL/6系統)にN-methyl-N-nitroso urea (MNU)投与と放射線照射を行い、リンパ腫および小腸腫瘍の発生を観察した。
    [結果および考察] MNU投与Rev1マウス、野生型マウスともに、胸腺リンパ腫および小腸の腫瘍発生を認めた。Rev1マウスは、野生型マウスと比べ、雌のリンパ腫発生率が有意に高く、雄の小腸腫瘍数が有意に増加していることを認めた。誘発した胸腺リンパ腫の解析では、1)表層マーカーの解析より、さまざまな分化段階のT細胞ががん化していること、2)Ikaros遺伝子、p53遺伝子の点突然変異が起こっていることを明らかにした。さらに、誘発した小腸腫瘍の解析より、導入したRev1遺伝子のコピー数が多いRev1マウス(Homoマウス)では、野生型マウス並びにコピー数が少ないHemiマウスと比較して1)腫瘍の1匹当たりの発生個数が増加していること、2)早期に腫瘍が発生することを明らかにした。以上の結果より、Rev1の機能亢進は、MNUが誘発するリンパ腫と小腸腫瘍の発生を促進することから、Rev1がマウスの発がん感受性を高めること、さらに、小腸での腫瘍発生はRev1の発現量に依存する可能性が示唆された。放射線照射マウスの腫瘍発生については現在検討中である。
  • 増田 雄司, 木南 凌, 神谷 研二
    セッションID: P1-23
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    損傷乗り越えDNA合成機構は、DNA修復機構とともに染色体の恒常性の維持に必要不可欠な生物機能である。酵母で同定されたREV1REV3REV7、遺伝子は、損傷乗り越えDNA合成反応に関与し、電離放射線からの生体の防御と突然変異の誘発に重要な役割を担っている。我々はこれまでに、ヒトREV1タンパク質は、鋳型塩基に対してdCMPを取り込むデオキシシチジルトランスフェラーゼであり、REV7タンパク質と安定な二量体を構成することを示した。最近では、REV1タンパク質がY-ファミリーの全てのDNAポリメラーゼ(pol eta、pol iota、pol kappa)と相互作用することを示し、損傷乗り越えDNA合成において中心的な機能を担っていることを示唆した。
    今回我々は、REV1タンパク質の大変興味深い生化学的性質を報告する。REV1タンパク質の生化学的解析から、REV1タンパク質は単鎖DNAに高い親和性をもち、単鎖DNAに結合したREV1はその単鎖DNA上にあるプライマー末端だけに特異的にターゲティングされることを見いだした。この過程でREV1タンパク質は単鎖DNA上をスライディングしていると思われる。この性質は他のDNAポリメラーゼには観察されず、一部欠失型のREV1では消失することから、REV1に特異的に備わっている性質である。この結果は、REV1の最初のターゲットがプライマー末端というよりは単鎖DNAであることを示唆している
  • 龍本 考弘, 西村 はる菜, 寺東 宏明, 井出 博
    セッションID: P1-24
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    放射線は,DNAに酸化損傷や鎖切断を生じるが,他の損傷としてDNA-タンパク質クロスリンク(DPC)やDNA鎖間のクロスリンクも生じることが知られている。さらに,これらの損傷は,アルデヒド化合物や白金化合物の処理などでも生じる。しかし,これらの損傷に対する修復機構は,酸化損傷や鎖切断の修復に比べ不明な部分が多い。DPCは,ヒストンや転写因子などと異なり,DNA鎖にタンパク質が共有結合で固定されているため,立体障害によりDNAおよびRNAポリメラーゼの進行を阻害し,複製や転写に大きな影響を与えると予想される。当研究グループでは,原核生物のUvrABCタンパク質および修復欠損株を用いてDPC修復機構を検討した。その結果,UvrABCのin vitro DPC除去活性はクロスリンクタンパク質のサイズに依存し変化すること,さらにin vivoにおけるDPC修復には,ヌクレオチド除去修復(NER)および組換え修復の関与が示唆された。本研究では,ヒト培養細胞のDPC修復機構を検討した。DPC損傷生成の特異性が高いと考えられるformaldehydeおよび5-aza-2'-deoxycytidineで細胞を処理し,コロニー形成法により生存率を求めた。formaldehydeは塩基およびタンパク質のアミノ基が架橋したDPC,また,5-aza-2'-deoxycytidineはDNAに取り込まれ5-azacytosineとCpGメチル化酵素が架橋したDPCを形成する。予備実験では,野生株に比べNER欠損株はformaldehydeに対しわずかな感受性を示した。この結果は,大腸菌においてNER欠損株と野生株の間に明確な感受性の差が認められたのと異なっている。今後5-aza-2'-deoxycitidine感受性を含め,より詳細な検討を行い,その結果を報告する。
  • 久木原 博, 槌田 謙, 小松 賢志
    セッションID: P1-25
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    マイトマイシンC(MMC)などのDNA架橋剤はDNA鎖間架橋(Interstrand cross-links : ICLs)を形成することでDNA複製を阻害し、S期チェックポイントを活性化させる。近年、タンパク質のユビキチン化が様々なDNA損傷応答に関与することが明らかにされたが、DNA複製阻害時での解析は行われていない。そこで本研究では、ユビキチンを認識する抗体(FK2)を用いてMMC処理した細胞のユビキチン化タンパク質を免疫染色法で解析することで、複製阻害時におけるユビキチン化の制御機構について検討した。正常細胞ではMMC処理後8時間で約80%の細胞でフォーカスが観察された。また、サイクリンAとの二重染色法の結果、このフォーカスはS期依存的に形成されることがわかった。DNA修復に関わるNBS1、Mre11、BRCA1をそれぞれ欠損した細胞ではフォーカスが形成されなかった。一方、MMC高感受性を示すファンコニー貧血細胞(FA-G、FA-D2細胞)では正常細胞と同程度のフォーカスが形成された。また、ユビキチン化タンパク質のフォーカス形成には、NBS1の相同組換えに関わるFHA、BRCTおよびMre11結合ドメインだけでなく、S期チェックポイントに関わるATM結合ドメイン、ATMによってリン酸化される部位も必要であることがわかった。さらに、ATMおよびSMC1のリン酸化もこのフォーカス形成に必要であるという結果から、MMC処理後のタンパク質のユビキチン化はDNA修復やS期チェックポイントにおいて機能していることが示唆される。
  • 冨田 純也, 石川 智子, 金 鎭炯, 亀井 保博, 上田 龍, 藤堂 剛
    セッションID: P1-26
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    DNAは損傷部位において突然変異が誘発される。この突然変異誘発機構にDNA損傷部位を乗り越えてDNA 複製を行うTLS(translesion synthesis) DNA ポリメラーゼが関与している。突然変異誘発機構はDNA修復機構であるとともに染色体の維持に必要不可欠な機能である。TLS DNA ポリメラーゼの一部は、一次構造上の類似モチーフの存在からYファミリー と分類される。ショウジョウバエで同定されたdRad30A, dRad30B, dRev1は このファミリーに属している。我々の研究室ではin vitro の系で、これらいずれの遺伝子産物も損傷を乗り越えるDNA合成活性を持つ事が明らかにしてきた。近年、人でREV1タンパク質がYファミリー のTLS DNA ポリメラーゼ(Polh, Poli, Polk)と相互作用する事が明らかとなった。また、これらのTLS DNA ポリメラーゼはPCNAとも相互作用する。このことは、TLS DNA ポリメラーゼがDNA損傷部位において重要なDNA複製機能があるとこを示唆している。我々は、突然変異誘発機構を調べるために、ショウジョウバエのTLS DNA ポリメラーゼの機能解析を行っている。我々はショウジョウバエにおいてdRad30A, dRad30B, dRev1の相互作用を調べた。dRad30Aは、dRev1と相互作用するのに人より1箇所多い2箇所のFF配列が重要であることがわかった。またdRad30Aは人から保存されているdRev1のC末で相互作用する事がわかった。dRad30Bは、dRev1と複数のドメインで相互作用し、dRev1のBRCTドメインで相互作用する事がわかった。また、イーストのツーハイブリッド法により幾つかの候補遺伝子も同定した。その遺伝子のうち一つについて解析を行ったのでこれについても報告したい。
  • 中村 允耶, 蘇 金玲, 米倉 慎一郎, 米井 脩治, 石井 直明, 張 秋梅
    セッションID: P1-27
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    生物の細胞内では、活性酸素種や電離放射線によって、様々な種類のDNA損傷が生じている。こうしてできた損傷のうち、酸化的塩基損傷の多くは塩基除去修復機構で修復されている。塩基損傷はDNAグリコシラーゼによって認識、除去され、その結果生じるAPサイトはAPエンドヌクレアーゼ、APリアーゼによって処理され、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼの反応によって修復が完了する。この機構は、バクテリアからヒトに至るまでほとんど全ての生物において共通して存在することから、遺伝情報の維持に重要な役割を果たしていると考えられる。エンドヌクレアーゼIII (Nth) はチミングリコールなどの酸化ピリミジン損傷を主に認識し、除去する活性を持つ2価のDNAグリコシラーゼであり、塩基除去修復機構の最初のステップを担っている。この遺伝子は、大腸菌や、ヒト、酵母など多くの生物において保存されており、酸化塩基損傷の除去に重要であることが示唆されている。ウラシル損傷のみを認識するウラシルDNAグリコシラーゼの基質特異性がきわめて限られているのに対し、Nthは比較的幅広い基質に対して活性をもつ。大腸菌では、MutMやNeiとともに、Nthが8-オキソグアニンを除去する活性を持っているが、C. elegansではMutMの機能ホモログであるOGG1やNeiホモログが同定されていない。従ってC. elegans ではNthが主として8-オキソグアニンを除去する活性を持っている可能性がある。我々はC. elegans のNthホモログをクローニングし、大腸菌を用いて組み換えタンパク質を発現させたところ、大腸菌 nth nei変異株の過酸化水素に対する感受性を相補することを確認した。また、タンパク質の精製を行って、その活性を調べた。
  • 顧 永清, 増田 雄司, 神谷 研二
    セッションID: P1-28
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    DNAヘリカーゼはDNA複製、修復等DNA代謝に必要不可欠な酵素の一つである。DNAヘリカーゼのいくつかは、その欠損が正常なDNA複製や修復反応を妨げることにより遺伝病の原因となることが知られている。また、それらの遺伝子を欠失した細胞では電離放射線や紫外線に高感受性となることから、放射線からの生体の防御に重要な機能をもつことが明らかとなっている。
     酵母の遺伝学的解析から、SF Iスーパーファミリーに属するDNAヘリカーゼPIF1はDNA複製の円滑な進行に必要不可欠な因子であることが示唆されている。この遺伝子は、酵母から哺乳類まで広く保存されていることから、DNA代謝に重要な遺伝子であると考えられた。
    今回我々は、ヒトPIF1遺伝子を同定しその機能解析を行ったので報告する。クローニングしたヒトPIF1 cDNAは、641アミノ酸残基からなる69 kDaのタンパク質をコードした。このPIF1遺伝子は、染色体15q22にマップされ、13のエキソンから構成されていた。この遺伝子の生化学的機能を明らかにするために、組み換えタンパク質を精製した。精製したPIF1タンパク質はDNAヘリカーゼの特徴である単鎖DNA依存的ATPase活性をもつことを証明した。
  • 朴 金蓮, 増田 雄司, 神谷 研二
    セッションID: P1-29
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
     損傷乗り越えDNA合成機構は、DNA修復機構とともに染色体の恒常性の維持に必要不可欠な生物機能である。酵母で同定されたREV1、REV3、REV7遺伝子は、損傷乗り越えDNA合成反応に関与し、電離放射線からの生体の防御と突然変異の誘発に重要な役割を担っている。ヒトREV1タンパク質は、鋳型塩基に対してdCMPを取り込むデオキシシチジルトランスフェラーゼ活性を持つ。この活性は、進化的にとてもよく保存されていることから、生体の防御において生物学的に重要な活性であることが示唆されているが、その意義は不明である。
     今回我々はヒトREV1タンパク質の構造解析から、dCMPの認識に重要と考えられるアミノ酸残基を同定した。それらのアミノ酸残基が実際にdCMPの認識に機能しているかどうかを実験的に証明するために、それらのアミノ酸残基をアラニンに置換した変異体REV1タンパク質を精製し、その生化学的性質を詳細に解析した。その結果、たった一つのアミノ酸置換によってREV1の基質特異性と損傷乗り越えDNA合成活性が劇的に変化することが分かった。今後は、この変異型REV1タンパク質を培養細胞で過剰発現させ、dCMP transferase活性の生物学的意義を明らかにしたいと考えている。
  • 小林 純也, YANNONE Steve M, 小松 賢志, CHEN David J.
    セッションID: P1-30
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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     Werner症候群 (WS) は様々な老化症状が若年齢時より現れることを特徴とする常染色体劣勢遺伝病である。Werner症候群患者由来繊維芽細胞は正常人由来細胞よりも短い分裂寿命を示すだけでなく、ゲノム不安定性、一部のDNA損傷誘導に対して高感受性を示す。WSの原因遺伝子WRNはRecQ helicaseファミリー遺伝子の一つであり、その遺伝子産物は3’→5’ helicase、および3’→5’ exonuclease活性をもつことが報告されている。WRNタンパク質はNBS1, BRCA1, MDC1などのDNA修復関連因子と同様にDNA二重鎖切断(DSBs)発生部位にフォーカス形成をするとともに、Ku70/80, RPAなどと複合体を形成することから、WRNはDNA修復に機能することが示唆される。近年、新たにWRNと結合するタンパク質として、NBS1が同定されたが、NBS1はナイミーヘン症候群原因遺伝子であり、相同組み換え修復やS期チェックポイントなどの幅広くDNA損傷応答を制御することが知られている.それ故、本研究ではDNA二重鎖切断損傷応答におけるWRNとNBS1の相互作用について検討した.
     最初に、免疫沈降法でWRNとNBS1のインターラクションを確認すると、DNA損傷の有無にかかわらず、WRNはNBS1と結合しており、またBRCA1との結合も確認された.WRN細胞はDSB損傷によりフォーカスを形成するのでNBS細胞でWRNフォーカスの形成を確認すると、ガンマ線 5 Gy照射、及び低濃度カンプトテシン処理ではフォーカス形成はみられなかった.また、WRNタンパク質はDSB発生後にATM依存的にリン酸化されるが、NBS細胞ではIR照射後のWRNのリン酸化はみられなかった.さらに、FHAドメインを欠く変異型NBS1を発現する細胞ではNBS1とWRNとの結合、およびWRNのリン酸化がみられなかった.これらの結果から、WRNはNBS1との結合に依存して、DNA損傷部位にリクルートメントされるとともにリン酸化され、DNA損傷応答に機能すると考えられる.
  • 山本 亮平, 竹中 重雄, 井出 博, 山本 和生, 松山 聡, 久保 喜平
    セッションID: P1-31
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    DNAは安定な化合物ではあるが、常に様々な環境の変化に曝されており、また、そこに含まれている情報は完全に保全される必要がある。それゆえに、原核生物からヒトに至るまで、いくつものDNA修復機構の存在が知られている。塩基除去修復(BER)は、その内の経路の一つである。BERでは、主にアルキル化や酸化などの損傷を受けた塩基の除去と、それに続く修復が行われている。チミングリコール(Tg)は、BERで除去される代表的な酸化損傷塩基である。Tgを初めに認識し、除去するDNAグリコシラーゼとして、大腸菌のNthとNei、酵母のNtg1とNtg2、哺乳類のNTH1とNEIL1などが知られている。これらは全て、APリアーゼ活性も付随する、2価性のDNAグリコシラーゼとして報告されている。しかし、我々はマウス臓器の核内に、1価性のTg-DNAグリコシラーゼ活性を発見した。 マウス臓器から粗核抽出物を得、CHTセラミックハイドロキシアパタイトType1カラム(BIO-RAD製)クロマトグラフィを行った。得られた各画分の、Tg-DNAグリコシラーゼ活性量とAPリアーゼ活性量を調べたところ、常に後者が少なく、ピークは一致した。上述した通り、現在知られているTg-DNAグリコシラーゼは全て2価性のものであることから、両活性量に差があることは、未知の1価性Tg-DNAグリコシラーゼ活性の存在を意味する。しかし、活性画分前後のNaBH4還元ゲルシフトアッセイを行ったところ、活性ピークと一致する強度を示すバンドが見られた。このことから、追跡している1価性Tg-DNAグリコシラーゼ活性に関わるタンパクには、極めて弱いAPリアーゼ活性が付随している可能性がある。
  • 那須 知尋, 松山 聡, 日下 裕之, 久保 喜平
    セッションID: P1-32
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    DNA修復には、損傷塩基の多様性に応じて複数の経路が存在する。その中のひとつ、Short-patch BERと呼ばれる塩基除去修復機構は大部分の損傷塩基の修復を行う。DNA glycosylaseによる損傷塩基の除去に始まり、形成された脱塩基部位 (AP site) の5'側でDNA鎖をAP endonuclease (APE) が切断し、Polymerase β (pol β) による5'-deoxyribosephosphateの除去と修復合成およびDNA ligaseによるligationで完了する。XRCC1は触媒活性を持たないが,この経路における足場タンパクであると考えられている。これまでの我々の研究により、DNA glycosylaseのひとつである、ヒトmetylpurin DNA glycosylase (hMPG)がAPEと、APEがpol βとそれぞれ相互作用すること、また、pol β欠損細胞ではglycosylase活性が低下することが明らかにされた。
    今回、ヒポキサンチンを含むオリゴヌクレオチドとMPGの濃度がほぼ等しいsingle turnoverの実験において、MPGの除去活性はAPE存在下で最大1.53倍上昇し、pol β存在下においては最大1.43倍上昇した。これはsteady-stateでの実験結果とは異なるものとなった.またAPE、pol βの両者が存在する場合においては、それぞれAPE、pol β単独で存在する場合よりもはるかに大きなMPG活性の上昇がみられた。これらの結果はpol βがMPGの活性に影響を与える可能性を示している。
  • 日下 裕之, 松山 聡, 政次 英明, 山本 亮平, 井出 博, 久保 喜平
    セッションID: P1-33
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    塩基除去修復はDNA glycosylaseが初めに損傷塩基を認識することで開始される。酸化損傷塩基に働くDNA glycosylaseであるNEIL1は大腸菌Endonuclease VIIIのホモログとしてヒトやマウスなどで同定されている。マウスNEIL1において、NEIL1よりも塩基配列の短いNEIL1 protein (NCBI AAH43297) mRNA(以下variant1)や、variant1の塩基配列の436番目に停止コドンを持ち、その直後に10塩基のinsertが入ったunnamed protein (NCBI BAC30707) mRNA(以下variant2)が存在することが報告されている。しかし、これまでにこれらvariantの働きに関する報告はない。そこで、本研究では、その発現の意義を明らかにし、これらvariantの組換えタンパクの酵素活性を検討することとした。variant遺伝子をクローニングするために、マウス各種臓器でのNEIL1およびvariantのmRNAの発現動態を調べた。NEIL1およびvariantが増幅されるprimer set 1と、NEIL1、variant1、variant2いずれも増幅されるprimer set 2を用いてRT-PCRを行った。その結果、脳、心臓、肝臓、腎臓で少なくともNEIL1とvariant1のいずれかが発現していることが考えられた。一方、primer set 1で増幅が認められなかった肺、胃、脾臓のmRNAはprimer set 2で増幅され、これらの臓器ではvariant2のみが発現していることが考えられた。現在、variantの高発現系を構築し、組換えタンパクの酸化損傷塩基に対する活性の有無を検討中であり、これらの結果も合わせて報告する。
  • 飯島 健太, 村中 千寿子, 小林 純也, 坂本 修一, 小松 賢志, 松浦 伸也, 一政 祐輔, 田内 広
    セッションID: P1-34
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    ナイミーヘン症候群(Nijmegen breakage syndrome: NBS)は、放射線高感受性や免疫不全、高発がん性を呈する常染色体劣性遺伝病である。我々は、NBSの原因遺伝子NBS1によって制御されるDNA損傷応答機構を解析するために、ニワトリDT40細胞を用いたNBS1ノックアウト細胞を作成し、NBS1が放射線などで生じるDNA二重鎖切断の相同組換え修復に必須であることを明らかにしている。今回、その後のNBS1ノックアウト細胞の表現型解析の過程でNBS1がp53とは独立に放射線誘発アポトーシスを制御するという事象を発見した。この事象はp53欠損のDT40細胞に限ったものではなく、NBS1患者細胞においても放射線照射後に起きるアポトーシスが著しく抑制され、その抑制の程度はAT細胞よりも強いことがわかり、ATM-p53経路とは異なる放射線誘発アポトーシス制御機構があることが強く示唆された。そこで、SV40でトランスフォームしたNBS患者細胞を用いて、X線照射後におけるアポトーシス誘導関連タンパクの質的および量的な変化をウエスタンブロットや免疫沈降によって解析した。その結果、Chk2の活性化といったアポトーシス誘導の初期過程のみならず、アポトーシス発動の終盤においてもNBS1が何らかの制御をかけていることを示すデータが得られた。このことから、NBS1はこれまで知られているような放射線で生じたDNA二重鎖切断の修復やS期チェックポイント制御のみならず、発がん抑制にも寄与する異常細胞の除去も制御していることが推測された。
  • 中村 恭介, 坂本 修一, 飯島 健太, 望月 大輔, 勅使河原 計介, 小林 純也, 松浦 伸也, 田内 広, 小松 賢志
    セッションID: P1-35
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    DNA二重鎖切断(DSB: double strand breaks)が起こると、NBS1はATM、MRE11と相互作用し、イントラS期チェックポイント調節や、DSB修復に関与する。ニワトリNBS1が相同組み換え(HR: homologous recombination)によるDSB損傷修復に必須であることを報告した。さらにNBS1のHRにおける機能的役割やATM、MRE11との関連性について解明すべく、様々なNBS1変異体を作製し、それらのHR活性をDR-GFPとSCneoアッセイにより解析した。その結果、C末端に存在するMRE11との結合ドメインを欠失した変異体はHR活性を全く回復できず、N末端領域のFHAまたはBRCTドメインの変異体もほとんどHR活性を回復することが出来なかった。これら変異体のHR活性の欠失は、損傷部位におけるMRE11のフォーカス形成の異常と一致する。対照的に、ATMからリン酸化を受けるセリン残基の変異体と、ATMとの結合ドメインを欠失した変異体はHR頻度にほとんど影響を与えなかった。これはATMそれ自体と、NBS1のATM結合ドメインはイントラS期チェックポイント調節に必須であるが、ATMの欠損によりDSB損傷時のHR修復が減少しないという結果からも確認できる。つまりNBS1は細胞周期チェックポイント調節においてATMと協調して働くが、HR修復においてはそうではないということである。これらの結果は、NBS1のN末端とC末端のドメインがMRE11ヌクレアーゼをDSB部位へリクルートし、その部位に維持することによりHR経路を活性化しおり、それはATM非依存的であることを示している。
  • 森下 聡, 中野 敏彰, 片渕 淳, 的場 渚, 堀河 友祐, 寺東 宏明, 井出 博
    セッションID: P1-36
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    DNA-タンパク質クロスリンク(DPC)は,タンパク質がDNAに共有結合することで生じるDNA損傷であり,放射線,アルデヒド化合物,Pt化合物などの暴露により生じることが知られている。DPCはかさ高い損傷であることから,DNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼの進行を阻害し,細胞に重篤な影響を与えることが予想される。しかし,DPCの修復機構については明らかにされていない点が多い。かさ高い損傷は一般にヌクレオチド除去修復(NER)機構により修復されることから,原核生物のNER酵素であるUvrABCを用いてin vitroにおけるDPC除去活性を検討した。その結果,DPC除去活性はクロスリンクしたタンパク質のサイズに依存し大きく変化することが明らかとなった。本研究では,DPC誘発剤に対する大腸菌DNA修復欠損株の感受性を調べ,in vivoにおけるDPC修復機構を検討した。大腸菌をDPC誘発剤(ホルムアルデヒド(FA),5-アザシチジン(AC))で処理し,コロニー形成法により生存率を求めた。FAはDNA塩基とタンパク質のアミノ基が架橋したDPC,また,ACは5-アザシトシンとメチル基転移酵素(Dcm)が架橋したDPCを形成する。大腸菌をFAで処理した場合,野生株に比べuvrA株およびrecA株は高い感受性を示したが,umuDC株は野生株と同定の感受性を示した。一方,ACで処理した場合,recA株は高い感受性を示したが,uvrA株およびumuDC株は野生株と同定の感受性を示した。これらの結果は,FAで形成されるDPCの修復にはNERおよび組換え修復が関与するのに対し,ACで形成されるDPCの修復には組換え修復のみが関与することを示唆する。DPCを導入したプラスミドベクターおよび他の修復欠損細胞を用いた結果についても合わせて報告する
  • 中野 敏彰, 森下 聡, 寺東 宏明, SEUNG PIL Pack, BENNET VAN Houten, 井出 博
    セッションID: P1-37
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線による主要なDNA損傷として,酸化された塩基や鎖切断が同定されている。さらに,これらの損傷は,それぞれ塩基除去修復機構および組換え修復により修復されることが明らかにされている。電離放射線は,上記の損傷の外にDNA-タンパク質クロスリンク(DPC)やDNA鎖間のクロスリンクを誘発することが明らかにされているが,これらの損傷の修復機構は解明されていない部分が多い。我々は,これまでに,グアニンの脱アミノ化損傷であるオキザニンがポリアミンやDNA結合タンパク質(ヒストン,DNAグリコシラーゼ)と反応し,DPCを形成することを明らかにした。さらに,第46回大会では,オキザニンとポリアミン(スペルミン)のクロスリンク損傷がヌクレオチド除去修復(NER)機構で修復されることを報告した。DPC損傷では,かさ高いタンパク質の立体障害により,損傷部位へのNER損傷認識タンパク質の結合や引き続くNER複合体の形成が阻害される可能性が予想される。本研究では,DPCのNER修復モデルとして原核生物のUvrABCを用いて,鎖切断および損傷結合能を検討した。オキザニンを含むオリゴヌクレオチドを合成し,32P標識後,サイズの異なるタンパク質と反応しDPC基質を調製した。このDPC基質をUvrABCとインキュベート後,鎖切断生成物を変性PAGEで分析した。また,DPC基質をUvrABとインキュベート後,DNA-タンパク複合体形成を未変性PAGEで分析した。UvrABCのdual incision活性は,DPCタンパク質のサイズに依存し大きく変化した。同様に, UvrBのDPC-DNAに対する結合量もDPCタンパク質のサイズに依存し変化した。この結果は,UvrA2Bの損傷初期認識がDPCに対するNERの鍵ステップであることを示す。
  • 島田 幹男, 小林 純也, 田内 広, 小松 賢志
    セッションID: P1-38
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
     DNA二重鎖切断は電離放射線や化学薬剤により誘発される重篤なDNA損傷である。真核生物はDNA二重鎖切断を修復する為に二つの修復経路を進化発達させてきた。一つが非相同末端結合修復であり、切断された末端同士を直接結合する。この修復経路は細胞周期全体で機能しており主にG1期で活性が高い。もう一つが相同組換え修復であり、DNA合成期から分裂期までに機能し相同染色体、又は姉妹染色分体を鋳型として修復を行うために正確な修復経路であると考えられている。今回、DNA修復因子hMRE11の機能解析の結果を報告する。hMRE11は二つの修復径路のうち相同組換え修復で主要な役割を担っていると考えられており、真核生物で広く保存されている。hMRE11はヒトではNBS1、hRAD50と複合体を形成しており、減数分裂やS期チェックポイントにも関わっていることが報告されている。hMRE11遺伝子に変異をもつヒトの患者細胞であるATLDは放射線感受性の他、染色体不安定性、免疫不全といった重篤な臨床症状を示す。最近ではhMRE11のメチル化、及びリン酸化等の修飾が報告されているが、DNA修復との関連性は未だ不明な部分が多い。それ故、hMRE11の機能未知の部分の変異体を作製し、DR-GFPレポーターによるアッセイ系を用いて相同組換えの効率を測定する。また複合体を形成しているNBS1へのこれらの修飾による影響を免疫沈降法及び免疫染色法を用いて検討し、報告する。
  • 北澤 諭, 中嶋 敏, 松永 司, 加藤 俊介, 石岡 千加史, 安井 明
    セッションID: P1-39
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    癌抑制遺伝子産物p53はDNAに損傷を受けると活性化し,細胞周期の停止やアポトーシスを誘導することで細胞の癌化を防ぐ.しかし,p53が損傷したDNAにどのように応答し,癌を防いでいるかの多くは不明である.我々はDNA損傷に対してp53が応答する機構とその役割を解明することを目的として,p53のin situ 可視化解析を試みた.顕微鏡のレンズを通してレーザー照射することにより,細胞の核内に局所的に種々の損傷を誘発し,その損傷に対するp53の動的な現象を調べた.p53-GFP融合蛋白質をヒト細胞で発現させレーザーを照射したところ,レーザー照射部位にp53がすばやく集積することを見出した.p53のN末端或いはC末端を削ったp53欠失変異体を作製し,集積に必要なp53の最小領域を解析すると,102-354番目のアミノ酸の領域がp53の集積に必要とされる最小領域で,この中にはDNA結合ドメインと四量体化ドメインが含まれていた.野生型p53に比べDNA結合活性が低下するp53点変異体や,4量体を形成できないp53点変異体の集積を解析したところ,4量体形成をとれないp53点変異体(L330H,R337H,K351Eなど)は野生型p53と同様に集積したのに対して,DNA結合活性が低下するp53点変異体(V143A,R175H,R273Hなど)はレーザー照射部位に集積することができなかった.以上よりp53の集積はp53の四量体形成ではなく,DNA結合能力に依存していることが分かった.又,癌患者において高頻度で変異が確認されているホットスポット内のp53点変異体のほとんどで,DNA損傷への集積が見られなかった.このことより,p53がDNA損傷部位に集積することと細胞の癌化との関係が示唆された.今後,損傷部位へのp53の集積がp53の活性化などに果たす役割を調べる予定である.
  • 有吉 健太郎, 児玉 靖司, 白石 一乗, 鈴木 啓司, 後藤 眞, 渡邉 正己
    セッションID: P1-40
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    ウェルナー症候群(WS)原因遺伝子産物であるWRNタンパク質は、DNAヘリケース及びエキソヌクレース活性を示すが、生体内での機能の詳細は不明である。そこで本研究は、WRNタンパク質のテロメア維持機能における役割を明らかにするために、WS細胞におけるテロメアの安定性について調べた。WS細胞は、老化マーカーであるSA-β-gal陽性比率が少ない時点で、二動原体染色体出現頻度が正常細胞より10倍程高い値を示した。このことは、WS細胞では恒常的にテロメアが不安定化していることを示唆している。そこで、WS患者由来線維芽細胞を用いてテロメアFISHシグナルを解析したところ、シグナル異常として増加(extra telomere signal: ETS)と消失(loss of telomere signal : LTS)の2種類があり、WS細胞では正常細胞に比べてETS及びLTSの頻度がどちらも約2倍高いことが分かった。ETSは過酸化水素処理に鋭敏に反応して増加することから、酸化ストレスによって誘発される現象であると考えられる。次に、リン酸化ATMフォーカスとテロメアFISHシグナルを同時に検出して解析したところ、テロメアに局在するリン酸化ATMフォーカスは、正常細胞で0.02%~0.5%であり、また、WS細胞で0.2%~0.3%であることが分かった。この結果は、ETSの細胞当りの頻度が正常細胞で10%~13%、WS細胞で20%~23%であることを考慮すると、ETSがDNA二重鎖切断によって生じるものではないことを示している。本研究の結果は、WS細胞ではテロメア構造が細胞内酸化ストレスに対して脆弱性を示し、不安定化しやすいことを示唆している。したがって、WRNタンパク質は細胞内酸化ストレスによる障害からテロメアを保護する機能を有すると考えられる。
損傷・修復(マイクロビーム・放射光・紫外線)
  • 口丸 高弘, 本田 和裕, 藤田 智久, 佐藤 文信, 清水 喜久雄, 加藤 裕史, 飯田 敏行
    セッションID: P1-41
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    株細胞であるPC12細胞は、神経成長因子NGF (Nerve Growth Factor)を加えることで神経突起を伸ばし、交感神経様細胞へと分化することが知られており、神経分化・突起伸展のモデル細胞として広く研究に用いられている。また、このような神経分化過程が、PC12細胞への放射線の照射によっても誘起されることが知られており、PC12細胞での放射線誘起効果は神経分化メカニズムの解明、細胞の放射線応答などにおいて興味の対象となっている。しかし、PC12細胞への放射線応答に関してはγ線を用いた集団照射に関してデータが報告されているが、単一の細胞への照射実験はおこなわれていない。
    本研究では、マイクロフォーカスX線管(管電圧:50 kV、管電流:1 mA)、ガラスキャピラリを用いたテーブルトップサイズの単一細胞照射用X線マイクロビーム装置(ビーム径:10 μm [FWHM]、照射線量率:∼0.05 Gy/s)を用いて、単一のPC12細胞にXマイクロ線ビームを∼10 Gy 照射し、神経分化過程における線量依存性などを調査し、単一神経細胞の分化制御について調べた。
  • 新見 文香, 笠石 陽平, 梶 芳朗, 小林 克己, 藤林 靖久, 湯川 雅枝, 磯 弘之, 石川 剛弘, 高倉 かほる
    セッションID: P1-42
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
    会議録・要旨集 フリー
    最近銅を含むPET薬剤として開発されたCu-ATSMは、低酸素組織や細胞に集積することが知られている。本研究ではこのCu-ATSMの性質を利用して低酸素細胞に銅を取り込ませ、これに銅K殻吸収端単色X線を照射し、その染色体損傷を調べた。
    3000nM Cu-ATSMを培養液に加え、ヒト培養細胞(GM05389、HSG)を通常の酸素条件と低酸素条件でそれぞれ10時間培養した。その後、単色X線照射を高エネルギー加速器機構の放射光施設において行なった。用いたX線のエネルギーは銅K殻吸収端を挟む(9.027keV(CuK-H)と8.973keV(CuK-L))とした。放射線照射直後の細胞への影響は、カリクリンAを用いたPCC法(未成熟染色体凝縮法)を用い、その染色体損傷を調べた。培養細胞の染色体損傷としてbreaks/gapsならびにisochromatid breaksを調べた。
    また、培養細胞への銅元素の取り込みは放射線医学研究所においてPIXE分析法(particle-induced x-ray emission spectroscopy)を用いて確認した。
    普通の酸素条件で培養された時と比較して、低酸素下で培養された細胞はCu-ATSMをより多く取り込むことが分かった。Cu-ATSMを取り込んだ培養細胞を単色X線照射すると、その染色体損傷はCu-ATSMを取り込んでいないものより多く現れた。また、CuK-Hで照射されたものはCuK-L照射のものよりも、染色体損傷の度合いは大きくなった。
    培養細胞中に銅が取り込まれている時に染色体損傷が増加していることから、細胞内に取り込まれた銅原子のイオン化や励起という物理的現象と染色体損傷増感という生物的減少の関係が明らかになった。
  • 高倉 かほる, 金杉 勇一, 浜田 信行, 和田 成一, 舟山 知夫, 坂下 哲哉, 柿崎 竹彦, 小林 泰彦
    セッションID: P1-43
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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       本研究では、重イオンビームで照射された培養細胞の培養液を、まったく照射をうけていない他の細胞に与えることで,あたかも細胞が直接照射されたかのように損傷を受けると言う、培養上清によるバイスタンダー効果を調べることを試みた。照射効果としては、化学PCC法により染色体損傷を調べた。また、DNA 損傷の修復酵素として良く知られるDNA-PK が、バイスタンダー効果にどのように関わっているかを見るために、DNA-PKcs の阻害剤であるLY294002(LY) を用いて、バイスタンダー効果への影響を調べた。用いた細胞はヒト正常線維芽細胞GM05389 である。細胞は照射の24時間前に1.5 x 106cells /60 mm dishで蒔かれ、照射を直接受けるドナー細胞、照射された細胞の培養液(上清)に浸されるレシピエント細胞として、それぞれ用いられた。照射は、TIARAイオンビーム照射装置を用いて、20Neイオン(260 MeV, 437 keV/microm), 10 Gy の照射を行った。ドナー細胞を照射して培養液を加え、24時間培養した後に上清をレシピエント細胞に移し、その後12時間培養してからレシピエント細胞の染色体損傷を、PCC法により調べた。染色体1本に切断が見られるchromatid breaks と、同じ場所の染色体2本に切断が見られるisochromatid breaks をレシピエント細胞について調べたところ、明らかなバイスタンダ-効果が確認された。レシピエント細胞をLYで処理した場合は、処理しなかった場合に比べて、バイスタンダー効果は増大したが、ドナー細胞をLYで処理してから照射し、上清をレシピエント細胞に加えて、レシピエント細胞におけるバイスタンダー効果を調べたところ、LY処理を行わなかった場合と比べて、バイスタンダー効果は明らかに減少し、バイスタンダ効果におけるDNA-PKcsの関与が示唆された 。
  • 藤井 健太郎, 横谷 明徳, 鹿園 直哉
    セッションID: P1-44
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    我々は昨年、イオンビーム照射によりプラスミドDNA中に生じる1本鎖切断(SSB)、2本鎖切断(DSB)及び塩基損傷とこれらを含むクラスター損傷の収率について報告した。一方、フォトンビームである軟X線により特定元素のK殻光電効果を起こすことで、DNA中の特定部位に対する選択的な損傷誘発が期待されている。本研究では高輝度放射光施設(SPring-8)から得られる軟X線を線源とし、OHラジカルを介さず光電効果及び低速二次電子の作用により直接生じる損傷の収率の励起元素依存性を明らかにすることを目的とした。
    試料となるDNAフィルムを作成するため、TE緩衝液で希釈したプラスミド(pUC18)試料溶液(∼1μg/μL)をガラス基板上に5μL滴下し、溶液中の塩の析出を防ぐため窒素ガスをフローさせながら徐々に乾燥させた。この後さらに、真空乾燥機中に30分保持することでDNA分子周囲の水和水を取り除いた。得られたフィルム状の試料(0.62g/m2)をSPring-8·BL23SUに設置されたイオン質量分析用真空チェンバに導入し、炭素、窒素および酸素K殻励起領域の単色軟X線(270, 380, 435, 560eV)を室温で照射した。照射後試料をTE緩衝液で回収し、鎖切断によるコンフォメーション変化をアガロース電気泳動法により調べた。
    得られたSSBの収率は、エネルギーによらずおよそ1∼2×10-10ssb/Gy/Daであり、これまで報告されている軟X線(2keV)照射の場合とほぼ同じであった。講演では、Fpg及びNthの二種類のグリコシレースで処理(37℃、30min)することで得られた酸化的塩基損傷の収率のエネルギー依存性についても紹介し、鎖切断と酸化的塩基損傷及びこれらを含んだクラスター損傷の生成に果たす光電効果および二次電子の効果について議論する予定である。
  • 山口 力, 橋 克俊, 高村 泰輝, 藤山 浩樹, 野澤 貴浩, 伊藤 敦
    セッションID: P1-45
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    [背景・目的] バイスタンダー効果について多くの報告がなされているが、発現機構など不明な点が多いのが現状である。当研究室ではこれまで、X線誘発のバイスタンダー効果の実験に、市販のラボ型マイクロビームX線分析顕微鏡が有効であることを明らかにしてきた(2003年度本大会)。本研究では、バイスタンダー効果の発現機構の一つであるギャップジャンクション(GJ)を介したモデルに注目し、GJ阻害剤であるLindaneを用いて、照射後のバイスタンダー効果誘発の時間経過の検討を試みた。このために、まず、LindaneのGJ機能抑制に対する濃度及び処理時間依存性を調べた。ついで、p53発現を指標としたバイスタンダー効果におけるLindaneの作用を調べた。
    [材料・方法] 細胞は、ヒト正常皮膚繊維芽細胞NB1RGBを用いた。Lindane(γ-BHC)によるGJ機能抑制はLucifer Yellow Transfer法を用いて観察した。バイスタンダー効果の検出は、照射後6時間インキュベーション後、p53発現領域をFITC標識蛍光抗体法によって観察した。なお、X線分析顕微鏡(XGT-2700、堀場製作所)による照射条件は、ビーム直径100μm、管電圧30kVである。
    [結果・考察] LindaneによるGJ機能阻害効果の結果は以下の通りであった。1)100μM、2時間処理によって、GJ機能は完全に抑制される、2)抑制は、Lindane除去後4時間で完全に解除される。これらの結果は、Lindaneが、その投与時間と濃度を選択することによって、GJ経由バイスタンダー効果発現の時間経過を調べるツールとなりうることを示唆している。X線照射によって標的部位より広範囲に見られたp53発現領域は、Lindane処理によってマイクロビーム径程度に制限され、バイスタンダー効果の抑制が観察された。現在、Lindane濃度と処理時間の検討を行っている。
  • 高橋 正明, 川崎 順二, 寺西 美佳, 熊谷 忠, 日出間 純
    セッションID: P1-46
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    UVBはシクロブタン型ピリミジン二量体 (CPD)といったDNA損傷を誘発する。植物は、生成したCPDを主に、CPD光回復酵素による光修復機構により修復しており、このCPD光回復酵素活性の高低は、植物のUVB抵抗性を決定している。一方、植物細胞には、核、葉緑体、ミトコンドリアが存在し、それぞれ固有のゲノムを有している。核ゲノムに生じるCPD は、CPD光回復酵素により修復されることが知られているが、他の2つのオルガネラについては未知である。これまで我々は、イネにおいては、核のみならず葉緑体やミトコンドリアDNA上に生成したCPDが青色光照射時間に依存して、修復している事実を見出した(日本放射線影響学会48回大会)。CPD光回復酵素の遺伝子は、核に1コピーでコードされている。したがって、イネにおいては、CPD光回復酵素が、核、葉緑体、ミトコンドリアにおいて、CPD修復の機能を担っている可能性を示唆した。
     本研究では、核、葉緑体、ミトコンドリアに移行し、青色光に依存したCPD光修復に、CPD光回復酵素が関与しているかを明らかにするために、CPD光回復酵素活性の異なるイネ品種(ササニシキ、サージャンキ)、ならびに酵素活性を著しく低下させたアンチセンス形質転換体イネを用いて、各オルガネラでのCPD光修復速度の解析を行った。光回復酵素活性が高いイネ・ササニシキと低い・サージャンキを比較したところ、明らかに、核、ミトコンドリア、葉緑体でのCPD光修復速度はササニシキの方が高かった。また、アンチセンス形質転換体イネにおいては、各オルガネラでのCPD光修復活性は認められなかった。以上の結果から、核にコードされているCPD光回復酵素は、核、葉緑体、ミトコンドリアへ移行して各オルガネラDNA上に生成したCPDを修復する機能を有していることが強く示唆された。
  • 田口 託, 小野 泰一, 寺西 美佳, 日出間 純, 熊谷 忠
    セッションID: P1-47
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/13
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    紫外線UVB (280-320 nm) 量の増加は、植物の生育阻害を引き起こす。UVBによる生育阻害の程度は、品種間・植物種間内で大きく異なることが知られている。これまでに我々はイネを材料に、1.UVB感受性は品種間で異なる、2.この品種間差異は、UVBによって誘発されるDNA損傷の一つであるシクロブタン型ピリミジン二量体 (CPD) を修復するCPD光回復酵素の活性の高低と高い相関がある、3.品種間における酵素活性の差異は、CPD光回復酵素遺伝子の自然突然変異に由来する構造の変化に起因していることを見出し、CPD光回復酵素の活性の違いが、イネ品種間のUVB感受性を決定している可能性を指摘した。そこで、この可能性を実証するために本研究では、イネ・ササニシキにササニシキ由来のCPD光回復酵素遺伝子をセンスまたはアンチセンス方向に導入し、ササニシキよりもCPD光回復酵素活性を増加 (B4系統・C1系統)、または著しく低下させた形質転換体 (AS5系統) を作製し、これらを材料にCPD光回復酵素活性とUVB感受性との関係について解析した。
    センス形質転換体B4およびC1は、転写レベルで約20および150倍、活性レベルで約5および50倍それぞれ増加していた。一方、アンチセンス形質転換体AS5はほとんど活性を検出できなかった。これら形質転換体と野生型ササニシキをUVB付加条件下 (可視光; 350 μmol m-2 s-1, UVB; 42.5 kJ m-2 s-1) で40日間生育させたところ、B4およびC1系統はともにササニシキと比較して、分げつ数で約25%、地上部新鮮重で約15%阻害が軽減され、AS5はこの条件下では、生育に致命的な影響を受けた。以上のことから、イネ品種間のUVB感受性はCPD光回復酵素活性によって決定されており、CPD光回復酵素活性を増加させることで、UVB抵抗性を獲得できることが、本実験により実証された。
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