視機能評価指標の一つとして用いられている網膜電図(ERG)の日内変化を記録することにより、ラット網膜機能に概日リズムが存在するか否かを検討した。
4~7ヵ月齢の雄性Jcl: Wistarラットを用いた。ERGは、動物の左側眼球の強膜内に慢性的に埋め込んだ電極から無麻酔・無拘束下で4時間毎に2日間連続して記録した。動物を15分間暗順応させた後、キセノンランプを用いて1Jの光刺激を行い、得られた波形を30回加算平均した。ERGのa波及びb波は振幅及び潜時を、律動様小波はO1, O2及びO3の振幅の和を律動様小波和として計測した。動物室の通常照明サイクル(点灯時間帯7:00~19:00)下では、a波及びb波の振幅は23:00あるいは3:00に最大値を、11:00あるいは15:00に最小値を示し、潜時は23:00あるいは3:00に最小値を、11:00あるいは15:00に最大値を示した。律動様小波和でも同様の変化がみられ、網膜の光に対する反応性は暗期に亢進し、明期に低下するといった一定のリズムで変動した。同様のERGの日内変動は、照明を常時点灯あるいは常時消灯した条件下で記録した場合においても認められた。従って、この日内変動は生体自身のもつ概日リズムに起因していると考えられた。また、照明周期を反転(点灯時間帯19:00~7:00)し、約1ヵ月間飼育した場合にはERGの概日リズムに12時間の位相のずれが生じたことから、照明周期(光)がERGの概日リズムの同調因子の一つであることが示唆された。
以上より、ラット網膜の光に対する反応は日内変動し、暗期に亢進、明期に低下するといったラットの行動リズムに類似した概日リズムを有することが示された。
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