比較眼科研究
Online ISSN : 2185-8446
Print ISSN : 0286-7486
ISSN-L : 0286-7486
38 巻
選択された号の論文の3件中1~3を表示しています
短報
  • 長谷川 貴史, 山本 孟, 坂本 雄二
    2019 年 38 巻 p. 3-8
    発行日: 2019/12/25
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    Dodecahydrosqualene(DHS、スクワラン)の角膜保護効果をin vitro豚眼短期ドライアイモデルで評価した。角膜障害のない新鮮豚眼を180分間乾燥させるとともに60、90、180分の点眼間隔で、人医領域において使用実績のあるひまし油(CO)もしくはDHS含有人工涙液を0.5%、1%、5%濃度で点眼した。COもしくはDHS含有人工涙液のすべての濃度において点眼間隔が延長するにしたがって、メチレンブルー(MB)染色スコアー、角膜から抽出したMBの吸光度(MB吸光度)、ならびにリサミングリーン(LG)染色濃度の値は増大したが、同一濃度と同一点眼間隔のCOとDHS含有人工涙液の角膜保護効果は類似していた。しかし、0.5% と1% DHSの180分間点眼間隔と5% DHSの60分間点眼間隔においては、同一条件のCOよりも角膜保護効果が良好であった。加えて、5% DHS含有人工涙液の60分間隔点眼処置眼においてはMB染色スコアー、MB吸光度値、ならびにLG染色濃度値すべての項目において対照眼と統計学的に有意差が認められなかった。病理組織学的には、DHSの60分点眼間隔処置眼における角膜上皮細胞の状態は5% COの同一処置条件眼と比較してより対照眼の角膜上皮細胞のそれに類似していた。以上の所見から、DHSは乾性角結膜炎のような涙液膜異常を有する症例の治療に適用される人工涙液の代替油脂製剤として利用可能であることが示唆された。

レター
  • 中川 あゆみ, 井上 晃子, 貞本 和代, 香西 聖子, 根本 真吾, 倉田 昌明, 酒井 修, 徳重 秀樹
    2019 年 38 巻 p. 9-13
    発行日: 2019/12/25
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    ラタノプロストはぶどう膜強膜経路からの房水排出を促進することで眼圧下降作用を示すと考えられており、ヒトの緑内障治療薬として汎用されている。本研究では、0.005%ラタノプロスト点眼液(ベトラタン®、千寿製薬、大阪)のイヌにおける有用性を薬理学的、薬物動態学的及び毒性学的に検証した。0.005%ラタノプロスト点眼液の1回投与では眼圧が有意に下降したものの、投与後20時間以降で投与前の眼圧値に戻っていく傾向を示した。一方、本剤を12時間間隔で2回投与すると、投与開始後24時間にわたり有意な眼圧下降作用が示され、眼圧値は低値を維持した。0.005%ラタノプロスト点眼液の単回投与後8時間では、活性本体であるラタノプロスト遊離酸の房水中濃度は3.3 nMであり、ラタノプロスト遊離酸のプロスタノイドFP受容体作動に対する50%効果濃度(EC50:3.6 nM)を下回ることから、1回投与では薬剤の消失により眼圧下降効果を維持できなかったと考えられた。また、本剤を反復点眼投与した際の血漿中への薬剤移行量は極めて微量であり、重篤な毒性は認められなかった。以上の結果は、イヌの緑内障に対する0.005%ラタノプロスト点眼液の1日2回点眼投与の、臨床学的有用性を支持するものと考える。

  • 政次 美紀, 厚見 育代, 根本 真吾, 倉田 昌明
    2019 年 38 巻 p. 14-21
    発行日: 2019/12/25
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    房水は眼房を満たしている透明な液体であり、眼圧の維持や、無血管組織である角膜、水晶体への栄養供給等を担っている。ヒトを含めた動物の房水組成に関する情報は、眼科領域の医薬品や医療機器開発において有用であるが、その情報は散在している。今回、房水組成及び血液組成について文献等からの情報を集約した。調査対象の動物種は、眼科領域の非臨床試験で汎用されるウサギ及びサル(マカク属のアカゲザルやカニクイザル)並びにヒトとした。

    本調査では、タンパク質、アミノ酸、糖質を含む低分子有機成分、ビタミンや電解質といった約60の成分について房水中及び血液中濃度情報を収集した。このうちヒト、ウサギ及びサルのすべての情報が得られた成分数は約半数の26であった。各成分の測定年代・測定方法が異なっているため厳密な比較には限界があるものの、房水−血液間や動物種間で一定の傾向がみられた。房水中のタンパク質濃度は血液中に比べて低いが、タンパク組成中のアルブミンが占める比率は房水と血液に共通して高かった。房水中のアスコルビン酸の濃度は、今回調査した動物種では共通して、血液中濃度に比べて高かった。房水中の電解質濃度に種差はみられず、血液中濃度との間にも大きな差はみられなかった。

    本調査で集約した情報は、房水成分の特徴の把握や、種差を考える上での基礎情報となる。房水組成及びその種差を知ることは、眼球の病態生理の研究や、眼科用の医薬品・医療機器及び再生医療の研究開発において有用と考えられる。

feedback
Top