本研究は,兵庫県立人と自然の博物館において実施されている市民講座のひとつ「鳴く虫インストラクター養成講座」を事例にして,サイエンスコミュニケーションをより豊かにしていくために,市民の主体的な参加を支援する方策について考察することを目的とした.市民の主体的な参加を図るプロセスデザインの観点である, a)講座の進め方(プロセス)はどのようになっているのか, b)どういう参加意識の人々を対象にして,どのような場を提供しているのか,の2点から検討した.検討の結果, 「鳴く虫インストラクター養成講座」には初級クラスと上級クラスがあり,初級クラスでは主に,宿題等により,個人の主体的な取り組みが勧められていること,上級クラスでは他者との共同作業をする中で,受講生一人ひとりに進んで取り組みへ参加することが促されていること分かった.また,上級クラス修了後に受講生は,アマチュアグループへ加入することもできるようになっていた.これにより,講座の受講生は同じ興味をもつ仲間のいるコミュニティーで,継続して主体的な活動に取り組むことのできる場が与えられていた.初級クラスから上級クラスと段階別に講座の内容や展開を進展させ,個人中心からグループ中心へと作業のやり方にも変化をもたせていることが「鳴く虫インストラクター養成講座」のプロセスデザインの特色として抽出できた.
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