今日水辺の環境が再評価されている。ところが一般に,わが国の水辺は溜池,ダム,用水路など農業水利施設と深く関わっているために,その維持管理のあり方が水辺の環境保全に大きく影響すると考えられる。
そこで本稿は経済性の観点から維持管理の実態を比較分析した。調査対象地として,土地利用の変化が著しくかつ水源の多様化の著しい,静岡県掛川市を選定した。
維持管理における規模の経済は,頭首工による河川水利用では非常に有効に作用しているが,溜池水利用ではほとんどみられない。しかし河川上流部では,受益地が狭小なために維持管理費が増蒿し,他方下流部では河川の流量不足のために水源が複合化し,二重,三重の費用負担を余儀なくされている。他方小規模溜池の受益地では,転作拡大→耕作放棄→溜地管理の粗放化の傾向が現われている。
したがって水辺の環境保全の基本的要件は,(1)河川上流部の小規模水利組合の強化と負担金の軽減,(2)中下流部用水不足地区を中心とした維持管理組織・農業生産組織の再編成による用水の合理的利用,(3)小規模溜池に対する維持管理組織の再編強化の三点にある。さらにこれら三つの基本的要件は,(4)掛川市全域の水利施設の維持管理を補完する「総合的水管理システム」の確立という要件を希求するものである。
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