水資源・環境研究
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36 巻, 1 号
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特集 日本のダム問題の現状
特集にあたって
特集論説
  • 小野有五
    2023 年 36 巻 1 号 p. 4-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    サンルダムは、北海道北部、天塩川水系の名寄川の支流、サンル川に2018年に建設された。1996年からの根強い反対運動によってその着工は阻止されてきたが、北海道開発局は2003年、ダム推進派を大多数とする「天塩川流域委員会」を設置、ダム建設の主体であった開発局旭川建設部の元職員を委員長にして一方的な運営を行い、建設を容認させた。本論では、その経緯とともに、サンルダムの基本的な問題点、建設に反対した筆者らの運動について述べる。とくに重要な論点となったのは、天塩川の基本高水流量の過大な算定や、その治水基準点が、水害の多発する下流部ではなく中流部に設定されていた問題、およびサンルダムによるサクラマスの日本最高の産卵場所の破壊であった。北海道開発局は、魚道によってサクラマスの遡上は維持でき、「順応的管理」をすると主張したが、そうであるなら、まず魚道の効果を確認し、それが不十分ならダム計画を再検討すべきであるのに、それを無視してダム建設を強行した。現実には、ダム湖を迂回する長大なバイパス水路と、落差30mの階段式魚道によって、サクラマスの遡上・産卵は大きなダメージを受けていることが建設後のデータから指摘されている。
  • 梶原健嗣
    2023 年 36 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    洪水期における容量配分において、八ッ場ダムの洪水調節容量は7割以上を占める。その運用を司る洪水調節計画は、ダム建設中の2013年、第4回基本計画で大きく変更された。洪水調節のモデルとなる洪水が変わったほか、初期から大量にダム湖内に洪水を溜め込む形に変更された。問題は、この計画変更に合理性があるかである。  現実の洪水が洪水調節計画と乖離する時、異常洪水時防災操作(但し書き操作)への移行を余儀なくされることがある。近年でも、2018年の平成30年7月豪雨で8ダム、2019年の令和元年東日本台風で6ダムが、当該操作を余儀なくされた。平成30年7月豪雨時、野村ダム、鹿野川ダムで異常洪水時防災操作を余儀なくされた原因が洪水調節計画の変更だったことを踏まえれば、八ッ場ダムの新洪水調節計画にもそうした危険性が潜んでいないか、検証される必要がある。
  • ~要らない徳山ダムの水を引く導水路は要らない~
    近藤ゆり子
    2023 年 36 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    日本一の巨大ダム・徳山ダムは、木曽川水系水資源開発基本計画に位置づけられた水資源機構ダムである。2008年の運用開始以来、新規開発水は一滴も使われていない。要らないからである。名古屋市、愛知県が建設費を負担して確保した水を使うには、木曽川まで導水する施設-導水路-建設が必要となる。徳山ダムの完成直前の2007年、関係者間で導水路計画が合意された。その導水路計画に整合するように木曽川水系河川整備基本方針・河川整備計画が策定され、2008年に事業実施計画も認可となった。だが、いまだに導水路の本体着工に至っていない。木曽川水系の水余りが誰の目にも明らかになった後も、従来型思考で水資源開発施設建設を続けてきた矛盾が、さらなる矛盾を生んでいる。不要な施設建設は、財政面でも環境面でも、将来世代に負のツケを回すことにしかならない。これまでの過ちを直視し、誤りを正して方向転換を図る、その覚悟が今、問われている。
  • −知事として挑戦した日本のダム問題と流域治水−
    嘉田由紀子
    2023 年 36 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    編集者から「日本のダム問題」について全体の概要解説と同時に琵琶湖淀川水系の大戸川ダム、丹生ダムの経過報告の依頼をいただいた。江戸時代から現在までの日本の河川政策を大きく4つの時代区分でたどり、私が滋賀県知事として2014年に「流域治水推進条例」を制定した学問的背景をたどった。流域治水は江戸時代以来の日本の地域社会に埋めこまれていた「近い水」思想に根ざした自然との共生・共感を内包した「はん濫折り込み済み治水」の経験と知識を今の時代に援用したものだ。一方、大戸川ダムや丹生ダムは近代科学技術の制御・管理論を基本思想として、高い堤防とダムで「河道内閉じ込め型治水」思想に根ざし、そこに中央集権型の公的予算付与が政治的権力と結びついて積み上げてきた「遠い水」政策だ。淀川水系流域委員会で積み上げた「ダムだけに頼らない治水」を実現するために、流域住民にとって真に望ましい流域治水をいかに実現するのか、その未来への可能性も提案したい。流域の未来は流域住民自治にかかっている。
  • 大野智彦
    2023 年 36 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    日本のダム問題の現状を考える上で、建設計画の長期化は注目すべき現象である。現在、各地で進められているダム事業の中には、構想から数十年が経過している事例がいくつかある。本稿では、そうした事例の1つとして愛媛県肱川流域で建設が進む山鳥坂ダムに注目する。山鳥坂ダムはその構想以降、事業目的の変更や建設凍結など様々な紆余曲折を経て約40年が経過している。ここではそうした山鳥坂ダム建設事業の歩みを振り返ると同時に、(1)ダム事業が長期化するメカニズムとしての経路依存性、(2)環境改善が評価される一方で環境悪化が評価されないという事業評価の課題、(3)手段の目的化といった論点を整理した。
  • 高橋謙一
    2023 年 36 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    長崎県川棚町で進められている石木ダム建設事業は、利水、治水どちらの点でも全く必要性のない事業である。しかも巨額の税金等の支出が嵩んでいる。一方、事業計画地内には、今なお13世帯約60名の『居住者』が現に生活を営んでおり、居住地を離れることを拒んでいる。また、同意なくして工事を強行しないという『覚書』もある。
このような状況下であるのだから、起業者は『居住者』らと「この事業が、今の時点で、本当に必要な事業である」かどうかについて真摯に協議・意見交換をしなければならない。それが日本国憲法、民主主義の当然の定めである。 しかるに起業者は、そのような真摯な対応をすることなく、事業を力ずくで強行しようとしている。かかる公権力の横暴に対し、『居住者』らが自己の権利擁護のために抵抗するのはやむを得ないことであり、日本国憲法及び民主主義の根幹を守るためにも、国民はその支援をしていく必要がある。
  • つる詳子
    2023 年 36 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    30年来、球磨川流域のフィールド活動を実施してきた筆者は、2020(令和2)年7月4日に発生した球磨川大水害後、地元八代市の坂本村の救援活動を開始すると同時に、球磨川流域の山腹現場、すべての水害犠牲者の住居地訪問、多くの聞き取り活動、中下流域の殆どの被災集落の被害実態検証等、様々な現場に足を運び、現場での検証を重ねてきた。一方で、水害の直後には、2008年に中止になった川辺川ダム計画が流水型ダムとして浮上し、十分な検証も行われずに計画は急スピードで進んでいる。筆者の検証から見えてきたものは、降った雨を川の中でコントロールすることを含め、国が行おうとする流域治水の限界で、今までの河川政策、土地利用政策、森林政策等、流域の土地改変に関わるすべての政策を見直す必要があるのではないかということである。今回調査が及ばなかった人吉市内や球磨川南部の地域については触れていないが、球磨川流域で起こったことは全国どこでも起こりうる問題であると確信している。
論文(論説)
  • −湖南省湘潭市の民間河長を事例に−
    鄧 楚慧 , 平山奈央子 , 瀧 健太郎
    2023 年 36 巻 1 号 p. 46-53
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    近年、中国の水資源管理において、水環境や水生態などの対策の責任者が「河長」として任命され、河川や湖沼の保護作業を指導する「河長制」という制度が注目されている。また、持続可能な制度運営のために政府によって住民参加が提唱されている。しかし、住民らが活動を継続しにくいなどの課題がある。そこで、住民活動を継続させる要因と活動の効果を明らかにすることを目的とし、湘潭市の民間河長プロジェクトに関してヒアリング調査を行った。  結果、継続の要因として、政府との信頼関係・互恵協力関係を構築したうえで、法律や協会の規定による民間河長の規範的管理とニューメディアの活用が不可欠であることが明らかとなった。また、民間河長が「河長制」に与える影響として、1)民間河長の増加や専門性の向上によって河長の人手不足などを補ったこと、2)河長の業績を民間河長が評価することにより政府内部で行われる人事考課の透明性を確保したことが明らかとなった。
研究ノート
  • ―北タイの大規模灌漑事業におけるPIM導入と改革の事例研究―
    保屋野初子 , 東 智美
    2023 年 36 巻 1 号 p. 54-65
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    タイでは、国家が整備してきた灌漑事業の非効率性を改善する目的で、2004年から王立灌漑局(RID:Royal Irrigation Department)主導により利水者を組織して水管理に参加させる参加型水管理(PIM:Participatory Irrigation Management)の政策的導入が図られてきた。本研究の目的は、参加型水管理における利水者の主体化が可能となる要因を、タイ北部チェンラーイ県の大規模灌漑事業を事例に、水管理責任者らへの聞き取り調査により明らかにすることである。調査の結果、RID主導で行われた水利費の統一的な徴収、水利組織の強化、灌漑共同管理委員会(灌漑JMC)設立などPIM改革の過程で、利水者・水利組織が自ら水管理に対する意識や行動を変化させ、問題解決に主体的に取り組むようになったことが明らかになった。
  • 宮下由菜 , 伊藤達也
    2023 年 36 巻 1 号 p. 66-73
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    多摩地区の水道は1970年代より都営一元化が進み、現在30ある市町村のうちの26市町村が東京都の管轄となっている。一方昭島市では、事業開始から一貫して地下水のみを水源とした独自運営を続けている。なぜこのような事業を続けてこられたのか。まず既存資料からは、水道料金が安い、水質が良好である、自己水源を大切にしてきた事業形態であるなどの評価を得ていた。次に、昭島市水道部と東京都水道局に行ったヒアリング調査では、昭島市が独自運営を続けてこられた理由は、地質や地形に恵まれたこと、人口増加が緩やかで、水需要が大きく増えなかったことであるとわかった。また、他市が地下水の汲み上げをやめていったことも要因として考えられていた。昭島市としては今後も独自の運営を続けていく方針であり、東京都水道局との議論もその方向性で落ち着いていることがわかった。すべての都市が地下水に依存すればよいという訳ではないが、水源を100%地下水とする水道事業は、都市化の進んだ東京都における自己水源保全の貴重なモデルとして残していくべきだと考える。
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