本論文の主目的は,財の水集約度(derived water)分析法を応用して,農・工産物の生産や輸送に要した水を家庭単位での間接水需要として表現する方法に拡張することにある。その前提として,財の水集約度分析の必要性を示すため,本文の前段では著者らの既発表の研究をも要約しながら,研究全体としてのまとめをも行うことにした。本研究全体としての目的は,地域の水資源賦存量および水環境容量の制約によって顕在化している水利用に関する費用・便益の空間的偏りを是正するために,水資源配分システムを公平性の観点から評価する方法論を開発すること,である。
一般に,地域の都市化や工業化に伴い,種々のコンフリクトが発生する。本研究でとりあげた淀川流域では,琵琶湖総合開発や吉野川開発に関連した大規模かつ多目的計画が逆に水利用の競合を高めたり,水源地域と水利用地域との便益のアンバランスをきたすなどの問題が指摘されている。一つの結果として,例えば琵琶湖の場合,水利用に伴うコストおよび便益の社会的・空間的配分が府県間で著しい偏りを顕わすことになる。このような点に着眼し,地域水利用システムの理論的かつ方法論的な枠組を次のように設定した。
飲料用などを除く一般の水需要は必ず財・サービスなどの需要にもとづくにも拘らず,水利用の便益評価は生産・物流システムとは隔絶されている。そこで,財生産などに必要な水資源量および環境の汚濁浄化容量,さらに生産過程における水利用技術の便益を,当該財の直接利用者に間接的に認識させるため,新しい(PPPを越えた)情報体系を確立する。このような永資源配分理論は,地域水利用システムの性格に従って,次のような条件を満たさねばならない。
a.財・サービスの交換に関する地域の物流を考慮できること。
b.工業用水原単位に,地域ごと・水資源種別ごと・水資源種別ごとの分類を考慮すること。
c.水配分の決定には,水利用の正(財生産のための有効性)負(水質汚濁など)両側面を含めること。
d.地域内,地域間,および国際的に行われる移出入・輸出入を地域水配分分析に含めること。ただし当面は,方法論の適用可能性を実証するため,流域内府県相互間の工業生産品の物流に限って取扱う。
次に,方法論の基本的枠組を示すため,水資源利用に伴う便益配分についての分析方法と,それによる分析結果を示す。分析方法としては,生産段階での工業用水使用量とCOD発生量で財1単位(または単位生産額)あたりの原単位を決定する。この原単位が生産と消費の連鎖における財の地域配分構造にもとづいて,空間的に集合・分散するパターンを求めることによって,水資源利用に伴う便益の地域的移動状況を評価でき,これが財の水集約度分析の基本型となる。この詳細を次の2段階に従って示す。
第1段階では,生産・消費の連鎖をモデル化するため,淀川給水区域を府県別に区分するとともに,最終消費を簡略化した製品分類で表わし,生産額,卸売額小売額を指標として各府県を「支配」「中間」「下位」の3階層に分け,各階層ごとに中間生産,最終消費のパターンをモデル化する。モデル化には上記指標の他,産業連関表をも利用する。
第2段階では,上記モデルに水使用およびCOD原単位を組みあわせ,水資源および汚濁に関する水集約度の府県間投入・産出関係の計算法と結果を示す。これによって,産業別・水源別用水量が水利用便益配分を最終的に評価する重要な要素であることが示される。
分析結果を簡単にまとめると以下のとうりである。まず,淀川流域では一般に,便益が上流府県から下流府県にもたらされていることが明らかになった。また地域水収支は水の水利権配分がもたらしている偏在的な利用を増大させている。汚濁負荷量からみた水便益の県域間配分も同様なパターンを示している。この配分の特徴は大阪府が全給水域の便益を最終的に集めていることである。ところが滋賀県自身の水資源の便益は,汚濁負荷からみた場合を含め,地域配分効果によって県外に移されていることになる。
以上のような結果を応用して,技術的水利用システムと地域水利用システムの比較を行い,水資源を中心とした環境論的意味での新しい産業特性を抽出することも可能になった。
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