バイオ医療画像解析分野において,深層学習をはじめとした教師あり機械学習手法がさまざまなタスクに応用され,高精度の認識を実現している.しかし,観察対象種・病気の種類・イメージングモダリティーに合わせ,個別に専門家が教師あり学習に必須な大量の教師データを作成するのは高コストである.本稿では,なるべく少ない教師データ作成コストで機械学習を可能とする教師なし・半教師あり・弱教師あり学習に関して,どのような問題設定および手法があるかの概略を述べ,筆者が取り組んだ具体例を紹介する.
教師なし画像セグメンテーションは,医用画像処理をはじめとするさまざまな研究分野において重要な技術である.教師なし画像セグメンテーションのベーシックな手法は,何らかの人間が設定した特徴量に基づき,特徴類似度と空間的連続性を考慮した方法で画素のクラスタリングを行う.これに対し,筆者らは畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の教師なし学習を画像セグメンテーションに応用する手法を提案した.提案したCNN は,一般的な教師あり画像セグメンテーションと同様に,入力画像の各画素がどのクラスターに属するかを推定する.しかし,画素ラベルの教師信号やネットワーク事前学習を一切必要とせず,対象画像の入力時にはじめてネットワークの学習を行う.本稿では,このような教師なし画像セグメンテーションを行う従来のベーシックな手法,および深層学習を用いた筆者らの提案手法について解説する.
本稿では,点群を使った物体の位置姿勢推定手法を紹介する.この技術は,特定の3Dモデルの姿勢を推定するインスタンスレベル姿勢推定と,未学習の物体の姿勢を推定する,カテゴリーレベル姿勢推定の2つの問題設定が存在する.両者の問題設定について,代表的な研究事例を紹介する.また,筆者らの最近の取り組みとして,自己教師付き学習によるカテゴリーレベル姿勢推定を紹介する.
医用画像処理において,教師なし異常検知は重要なタスクである.一方,生成型深層モデルと教師なし異常検知との間には深い関係がある.本稿ではまず生成型モデルについて概説し,生成型深層モデルをいくつか紹介する.そののち,それらによる医用画像に対する教師なし異常検知の試みについていくつかの報告を述べる.最後に,最新の手法である自己教師あり学習による表現学習を用いた異常検知についても触れる.
分光情報を利用した計測法では,丸ごとの生体や生きた細胞組織から得られる吸収・散乱スペクトル情報の解析によって生体の機能および組織形態を評価することができる.数ある分光イメージングの中でも,定常白色光源を用いた拡散反射分光イメージングは簡易な光学システムで実現可能であり,基礎研究から臨床診断まで幅広い応用が期待できる.本稿では,拡散反射光に含まれる分光情報を利用することで,生体の機能や病態的変化に関わる色素タンパクの挙動や細胞・組織の形態変化を評価するための方法とin vivo生体医用イメージングへの応用について,筆者らの研究成果も交えて最近の研究動向を報告する.
MRIから得られる脳体積(ベイズ推定による事後確率)分布から,機械学習法を用いた回帰モデルに基づく脳年齢推定は,アルツハイマー病や側頭葉てんかんなどの脳変性の進行動態を表すバイオマーカーとして着目されている.しかしながら,MRIは磁場強度の違いなどにより撮像された画像品質が異なるため,得られた解析値に機種間差(measurement bias)が存在することが知られており,これが機械学習の汎化性を著しく減少させることが知られている.本研究では,一般線形モデルを経験的ベイズ推定により拡張したComBat法を脳体積値に適応し,脳年齢推定の汎化性が向上することを示した.
例えばMRIに後付けできるアドオンPETなど,リングの一部を開放化したC型PETによりPETの応用が広がる可能性がある.その一方で,測定データの欠損に起因した強いアーチファクトが再構成画像に発生してしまう.そこでわれわれは,開放部と対向する位置に散乱検出器を追加して,欠損情報をコンプトンカメラの原理により補うC型コンプトンPETを提案し,開発を進めている.本研究では,C型コンプトンPETのアーチファクト低減効果をモンテカルロシミュレーションによって検討した.具体的には,半径20 cm,開放部の角度が115度のC型PETの内側に,散乱検出器を半径15 cmで円弧状に配置したジオメトリーを模擬した.視野中心に配置した円柱ファントムを再構成し,定量的に評価した結果,視野領域全体における円柱内部の画素値の割合が89%から95%に増加したことから,アーチファクト低減に有効であることが示された.
現在,医療のさまざまな分野において画像支援診断(CAD: computer-aided diagnosis)の研究・開発が行われている.大腸は,周辺臓器との分離の難しさから,CTを用いてのCAD開発はあまり行われてこなかった.最近では,内視鏡検査の高精度化やCTコロノグラフィー検査の普及などから大腸がんの発見などを目的としたCADの研究が行われている.しかし,内視鏡検査やCTコロノグラフィー検査は事前準備が必要であり,特にCTコロノグラフィーにおいては炭酸ガスの注入による大腸の拡張を行う点から,一部の症例では大腸に負担がかかるために検査自体が行いにくいなどの問題もある.本研究では,腹部検診時に撮影する単純腹部CT画像から大腸領域を抽出する手法についての研究・開発を行った.提案する多段階式抽出法は,閾値を高い値から徐々に低い値に変動させながら二値化を行い,特徴をもとに最適形状を抽出する手法である.本手法を用いることにより,大腸に負担を与えるCTコロノグラフィー検査などを行わずにCAD開発に用いる画像を取得できる.ダイス係数を用いた本手法での抽出結果とグランドトゥルースの一致率は82%となり,本手法での抽出性能が確認できた.
深層学習は,データ駆動型の仕組みで画像分類や領域分割などを実現してきた.これは,入力するデータと正解の関係を大量のデータで学習したといえる.この仕組みを使って分類の問題に取り組む場合,まれに起こる事象に対応するためにはまれな事象のデータを大量に集める必要があるが,現実的には不可能な取り組みとなり得る.異常検知は,大量の正常データを用いて正常な特徴の範囲を定め,そこからの逸脱により異常の程度を判定する考え方に基づいて,まれな事象の分離を実現する考え方である.本稿では,自己符合化器(AutoEncoder)を用いた特徴の抽出方法とその評価方法について述べる.