本稿では,データ利活用社会を推進する目的で構築された計算基盤であるmdx を紹介する.mdx は 2023 年5 月より正式運用を開始した計算基盤である.mdx の特徴の1 つは,仮想化技術を用いて構築されている点であり,mdx の物理的な計算資源の上に複数の独立した仮想クラスターを構築することが可能となっている.2023 年7 月現在,100 を超える全国の研究プロジェクトがmdx の物理計算資源上にそのプロジェクト固有のクラスター環境を構築し,計算資源を共同利用している.本稿では,mdx のもつ仮想化機能の特徴と,具体的な研究プロジェクトでの利用例を紹介する.
医療分野でのICT の活用が進む中,大量の医療画像データを全国規模で収集し,利活用することが課題となっている.本稿では,この課題を解決するために国立情報学研究所を中心に整備・運用されている医療画像ビッグデータクラウド基盤について報告する.クラウド基盤には,全国から医療画像データが日々収集され,これまでに4.2 億枚以上の画像が蓄積されるに至っている.また,AI を用いた画像解析研究への利用が進んでいる.定常的に医療画像データを収集し,蓄積ならびに解析可能な基盤を整備・運用することは,過去のデータを利用した新たな技術開発のみならず,公衆衛生上の非常事態における迅速な医療画像処理手法の開発を可能とする.本稿ではその事例として,クラウド基盤を活用して実施されたCOVID-19 肺炎CT 画像解析についても紹介する.
医用画像処理技術の発達により,生体の内部を視覚的に理解するためのさまざまな技術が開発され,利用されている.しかし,それらにより直接的に得ることができるのは画像や映像であり,診断は医師など人の手によって行われている.これらの労力を軽減するソフトウェアへの期待は大きく,すでに医療の現場で利用されている技術も増えてきているが,医療(医用画像)と計算機技術の両方の知識と技術が必要なため,対象は限られている.そこで本研究では,医用画像処理分野と高性能計算分野の研究者が協力してPET における画像再構成の高速化と大規模化に取り組んでいる.本稿ではその取り組みの内容とこれまでに得られた成果を紹介する.
本稿では,スーパーコンピューターを活用したディープラーニング(DL)を用いたコンピューター支援検出(CAD)ソフトウェアの開発について紹介する.スーパーコンピューター上に構築した非同期並列実行型ベイズ的最適化に基づくDL 学習環境を紹介するとともに,3D U-Net を用いた胸部CT 画像の肺結節検出におけるハイパーパラメーター探索の例を示した.構築した学習環境により,ハイパーパラメーター探索を伴うDL の学習の期間短縮が実現できた.
深層学習(deep learning)が医用画像処理,特に画像再構成処理に応用されて久しい.本稿では,特にdeep learning を利用したPET(positron emission tomography)画像再構成にフォーカスし,これらの歴史や最新技術について,今後の展望も踏まえながら論じる.