MRIで得られる物理量をバイオマーカーとして臨床利用するためには,当該物理量の定量化,ならびにそのための測定法の標準化が不可欠である.このような観点から,北米放射線学会を中心としたQuantitative Imaging Biomarkers Alliance(QIBA)が検討を進めている.機能的MRI,動的造影MRI,動的磁化率コントラストMRI,筋骨格MRI,拡散強調MRI,磁気共鳴エラストグラフィーについてはprofile とよばれる要求仕様などをまとめた文書が作成され,臨床実用に向けて準備が進められている.他方,動脈スピンラベリング,拡散テンソル,脂肪プロトン密度などはまだ標準化検討の初期段階にある.MRI にはほかにも温度,pH,磁化移動率など,バイオマーカーとなりうる物理量がある.本稿では標準ファントムの状況も含め,バイオマーカーとしての定量化・標準化の最新動向と課題を論じる.
慢性肝疾患患者が世界的に増加する中,超音波で非侵襲的に肝硬度を測定する剪断波エラストグラフィが広く臨床で施行されている.一方で装置間の測定値のばらつきにより,装置ごとに異なる診断基準が報告されていたり,検者間の測定のばらつきやMR エラストグラフィとの硬度の差異が経験され,臨床的に診断に使用する際の混乱もみられる.画像バイオマーカー標準化委員会であるJapan-QIBA の検討において,粘弾性ファントムを測定した場合の装置間のばらつきは,コンベックスプローブを用いた場合95%信頼域で11%であり,またMR エラストグラフィとは測定や解析に用いられる周波数帯域の違いにより硬度の差異が生じると考えられた.QIBA では脂肪肝の診断に用いられる減衰イメージングの標準化も検討されており,今後超音波バイオマーカーの標準化により,慢性肝疾患に対する超音波診断の精度向上が期待される.
陽電子放出断層撮影(PET)は生体構成元素を放射性薬剤として使用できるため,生体の生理学的状態を画像化できる唯一無二の特徴を有している.PET 装置が開発された1980 年代当初からPET による臨床研究が行われ,現在では分子イメージング技術として創薬研究にも応用されている.しかしながら,PET は装置,撮像方法,画像処理条件のみならず,被験者の体重や安静状態などによって,画質や定量性が大きく異なる.このため,学会主導でPET イメージングの標準化が推進されてきた.本稿では,わが国におけるPET イメージングの標準化の歩みを概説し,欧米の動向についても紹介する.
宇宙物理や高エネルギー物理の分野で長い歴史をもつコンプトンカメラの技術を医療応用できれば,新たな核医学診断法を開拓できるかもしれない.一方で,ヒト撮像においてPET と同程度の解像度を実現するには,装置性能の向上が必要不可欠である.SPECT やPET は確立された性能評価技術を活用して装置開発が進められているが,コンプトンカメラは放射線の検出方式や検出器配置がさまざまであり,標準的な性能評価技術が存在しない.標準評価法があればさまざまなコンプトンカメラの検出器性能とイメージング性能を明らかにでき,装置性能の直接比較だけでなく,臨床機に要求される検出器性能の導出,有望な検出器の選定にも活用できると考えられる.そこで,量子科学技術研究開発機構が主体となって分野横断的な研究グループを組織し,医用コンプトンカメラを同一条件で性能比較できる標準評価法の開発に取り組んでいる.本稿では,この取り組みについて概説する.
ピンホールSPECT システムでは,ピンホール径に依存して再構成画像に空間分解能の低下が発生する.従来,このようなピンホール開口に起因するボケは,検出確率に基づくシステムマトリックスを求め補正する,あるいは投影線の数を増大させて改善するなどの方法がとられてきた.しかし,前者は画素が小さいときやピンホール数が増大すると計算負荷が大きくなるという欠点があり,後者はピンホール径が大きくなると空間分解能が十分に改善できないという問題があった.そこで本研究では,深層学習(U-net, U-net++)を用いてピンホールによる空間分解能の低下を低減する方法を考案した.具体的には,空間分解能が低下した投影データを入力データとし,理想的な無限小ピンホールの投影データを教師データとして学習させる畳み込みネットワークを実装し,空間分解能の低下を抑制した.シミュレーション結果からPSNR 値で画質を評価すると,提案手法(U-net, U-net++)はそれぞれ17.48, 17.92 dB となり,従来法である21-rays 法の16.82 dB と比較して,空間分解能を改善できることが明らかとなった.
本稿では,筆者らが開発した拡散MRI 解析ソフトウェアについて述べる.解析手法に関する技術的な詳細は参考文献などに譲り,開発当時の状況や開発の経緯,フリーウェアとしての配布と普及,その後の発展などを中心とした.また,その経験から医用画像研究におけるソフトウェア開発についても私見を述べる.