新学術領域研究「多元計算解剖学」は,高精細医用イメージング技術と情報学の融合の成果である「計算解剖学」の多元化をおもな目的として計画された.新たに立ち上げた多元計算解剖学では,計算解剖学の研究成果をもとに,細胞レベルのミクロから臓器レベルのマクロまでの解析を空間軸として,胎児の発生から死亡時までの人の一生涯を対象としたさまざまな期間における解析を時間軸として,機能的な画像イメージングや細胞や臓器の生理機能,代謝などを対象とした解析を機能軸として,正常から炎症や発がん過程など病的疾患を対象した解析を病理軸として捉え,それぞれの軸を融合・統合することにより,多元計算解剖モデルを確立し,人体の真の理解を深めることを目指した.本稿では,多元計算解剖学の多くの成果の中から,早期発見や治療の困難な疾患に対する診断・治療法へと展開された成果の概要を紹介する.
EndoBRAIN(製造:サイバネットシステム社,販売:オリンパス社)は,内視鏡検査中に発見された大腸ポリープが腫瘍なのかどうかを瞬時に解析予測し,医師の診断支援を行うシステムである.EndoBRAINは人工知能に基づく診断支援システムとして,本邦初の薬事承認を2018年12月に得た医療機器であるが,承認達成は緊密な医工産官連携研究の賜物であった.昭和大学(医)-名古屋大学(工)-サイバネットシステム株式会社(産)での連携体制を構築し,複数の公的研究費(文部科学省科学研究費(新学術領域研究・多元計算解剖学を含む)・日本医療研究開発機構(AMED)研究費)のサポートを得ることで,着実に研究成果を蓄積し,薬事承認に至った.本稿では,EndoBRAINの研究開発概要を示すとともに,医療機器開発における鬼門である薬事承認と,その後の普及において不可欠とされる(しかしながらいまだAI医療機器については実現していない)保険承認に対するアプローチについて紹介したい.
本稿では,日本学術振興会科学研究費補助金「多元計算解剖学の画像診断における臨床展開(研究課題番号:26108009)」において,われわれが行ってきた研究のうち,肺結節の診断支援に関するものを紹介する.胸部CT画像に対する肺結節の診断支援では,肺結節の検出,セグメンテーション,および良悪性鑑別の順に処理が進められることが一般的である.本稿では,過去画像と現在画像に対する経時差分画像から肺結節の検出を行う手法,現在画像と経時差分画像を用いて肺結節のセグメンテーションを行う手法,および医師が診断に用いる画像所見を用いて現在画像に映し出された結節陰影を良悪性鑑別する手法を紹介する.
東京女子医科大学脳神経外科では,2000年以降導入された術中MRIと連動し,ナビゲーションシステムを2000例以上に活用した.2004年以降,覚醒下脳機能マッピング中のナビゲーション画像や電気刺激および患者反応の情報を術中脳機能検査(IEMAS)を500症例超に活用した.脳表面や白質をプローブで術中電気刺激マッピングしたアナログ位置情報をログ情報として記録し,患者の脳機能情報を術中MRIに付加し,デジタル化した.得られた術中MRI上の反応点を術前MRI および標準脳上に変換し,画像変換に伴う精度を算出した.刺激によるログ情報の得られた20例で解析を行い,言語停止(22),言語遅延(10),運動(12)および感覚(7)反応点(合計51)が得られた.反応点の画像変換精度は,術前MRIへは2.6±1.5mm,さらに標準脳へは1.7±0.8mm であり,標準脳を術前・術中の患者MRIに逆変換投影することも可能であった.
内視鏡手術は,術者により行われる内視鏡画像に基づく手術器具と臓器のインタラクションであり,両者のインタラクションに関する定量的な情報を実時間で抽出する技術は,術者を補佐する手術支援ロボットの自律レベル向上にきわめて有用である.本稿では,新学術領域研究「多元計算解剖学」の公募研究A03-KB102(デプス画像を実時間で生成可能なステレオ内視鏡に基づく手術支援ロボットの自律制御)として実施した研究の中から,(1)手術器具先端と臓器表面の距離推定,(2)臓器牽引時にかかる手術器具先端荷重の推定に取り組んだ例を紹介する.本研究で導入したステレオ照合エンジンは,多元計算解剖学モデルの1 つの「元」を提供する術中モダリティーであり,手術支援ロボット制御へのさまざまな応用展開が可能である.
We previously proposed a pulmonary nodule clarification method for chest radiographs that controlled for the pulmonary vessels that were frequently extracted as false positives. In addition, further true pulmonary nodules were detected by applying a wavelet analysis and an error diffusion method to control for density alterations caused by clavicles, ribs, and peripheral pulmonary vessel shadows (background noise). However, this method was insufficient for extracting pulmonary nodules at the level of the pulmonary hilum. We herein report a new method for detecting such pulmonary nodules by applying cellular automata and adaptive rank filtering to the binary image produced using the error diffusion method. Two radiologists compared the new images obtained by the proposed technique with the background noise-suppressed pulmonary nodule-clarified images regarding suppression of the background noise and visibility (degree of emphasis) of the pulmonary nodules. This evaluation used 117 images with pulmonary nodules from the Japan Society of Radiological Technology database, excluding “extremely subtle” and “obvious” pulmonary nodules. While the pulmonary nodules at the level of the pulmonary hilum were enhanced, the background noise using the proposed method was not higher than that in our previous method in 76.1% of cases. The visibility of the pulmonary nodules was improved in 12.8% of cases. The proposed method for clarifying pulmonary nodules is expected to improve the detection of lung cancer nodules.