本論文では,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業(以下では,AMEDプロジェクトと記す)について,背景,狙い,体制,プロジェクトを支えるクラウド基盤の仕組み,プロジェクトの進め方(PDCAサイクル,タスク設定のチェックポイント)などについて述べ,後続の稿の概観を示す.
深層学習によって,医療画像に対しても高い精度をもつさまざまなアルゴリズムが開発されている.しかし,これらはある特定の疾患に限定されたものが多く,画像収集の難しさから多種多様な疾患への対応には至っていない.そこで,医学系の学会と連携して画像収集とアルゴリズム開発を行うAMEDプロジェクトが始まった.本稿ではそのプロジェクトに参加しているわれわれの病理画像と内視鏡画像の胃がん検出タスクにおけるこれまでの進捗と知見について述べる.
バイオ医療画像解析について,これまで行ってきた活動を紹介する.また,プロジェクトの取り組みとして,内視鏡画像を対象とした胃の部位ラベル付きデータセットの構築について述べる.特に,専門医からの情報提供と画像解析の結果を繰り返しやり取りして精密化する方法をとったことを紹介する.また,今年度,新たに設定されたタスク(潰瘍性大腸炎,十二指腸乳頭)についても取り組み状況を紹介する.
本稿では,われわれがAMED プロジェクトにおいて行ってきた医用画像解析研究について紹介する.具体的には,非造影腹部CT 像からの血管診断支援およびCT 像からの腹部複数臓器自動セグメンテーションを含む放射線画像診断支援研究,胃および大腸の内視鏡画像の観察部位分類を含む内視鏡画像解析研究を行った.これらの研究を概説し,得られた成果等について述べる.
本稿では,AMEDが支援する医学系学術団体と国立情報学研究所とが連携して構築している,大規模かつヘテロな(取得施設・患者属性・疾患などのばらつきの大きなデータから構成される)医用画像データベースを用いた画像処理について述べる.特に,日本医学放射線学会がデータ提供元となっているCT画像データベースでは,撮影対象部位が全身の各部に及び,特定の対象疾患が決まっていないため,画像データのバリエーションが大きい.このデータベースに対して,多様体学習による次元圧縮とクラスタリングを適用し,目的とする解析に必要なデータを抽出した後,AIを用いた全自動画像解析を適用した.ここでは整形外科での応用例として,筆者らがこれまでに開発してきた筋骨格解剖の自動認識システムを大規模症例に対して適用した例を紹介する.整形外科手術においては,患者個別の筋骨格解剖の理解は不可欠であり,性別・年齢等,それぞれの属性ごとの筋骨格解剖の統計的分析は,診断や手術計画の支援に有用である.
心臓の特徴は,自ら能動的に変形運動をし,かつその変形運動自体が全身への血液の拍出という機能に直結していることである.したがって,心疾患の診断には形態と機能の双方の情報が必要である.医用画像工学分野においても,動き続ける対象から空間情報・時間情報・機能情報を安定的に取得する取り組みが続けられた結果,臨床においてマルチモダリティーによる形態と機能の包括評価がなされるようになってきた.本稿では,心臓を対象としたイメージング技術と解析技術とを概観した上で,臨床応用と将来展望について述べる.
骨のおもな疾患として,骨粗しょう症が挙げられる.骨粗しょう症に対する画像診断は有効であるが,医師の負担増加や経験差による診断結果のばらつき,病変部の未検出等が懸念されている.そこで本稿では,指骨computed radiography(CR)画像から骨粗しょう症の識別を行い,医師に提示するための診断支援手法を提案する.提案手法では,畳み込みニューラルネットワークの一種である,Residual Network (ResNet)を用いた識別器を構築し,骨粗しょう症有無の識別を行う.ResNetへの入力画像には,CR画像から生成した画像を用いる.本稿では,3種類の入力画像を提案し,各画像で学習および,識別の評価を行う.実験では,101症例に対し提案手法を適用し,receiver operating characteristics(ROC)曲線上のarea under the curve(AUC)値を用いて評価したところ,最大で0.931という結果を得た.
生体内に豊富に含まれる水分子の拡散は,これを拘束する微細構造の特徴を反映している.拡散MRIは,単一あるいは異なる複数の撮像設定による拡散強調撮像手法およびそのデータの総称であり,特に脳神経領域の生体構造の可視化や定量化において必要不可欠である.よく知られた拡散テンソル撮像法のみならず,さまざまな撮像法により,生体構造の新たな情報がもたらされる.本稿は3回にわたる拡散MRI講座の第1回として,拡散強調像の基礎から信号値モデルとそのパラメーター推定を含む拡散MRIの概要を解説する.