【目的】バランス能力低下は転倒を及ぼす1 つの要因として考えられている.2009 年にHorak らによりBESTest というバランスの評価法が開発され,近年転倒との関連性について報告がなされている.今回,延髄外側・小脳梗塞によりバランス能力低下を呈した症例に対しBESTest を用い,入院時と1 か月後にて変化を認めたため報告する.尚,本報告は本人に十分な説明を行い同意を得た.
【方法】症例は延髄外側・小脳梗塞により,発症48 日後に当回復期リハ病院に入院した60 代女性.入院時は交代性感覚障害による温痛覚鈍麻,表在・深部感覚鈍麻,右上下肢の軽度失調がみられた.ADLは起居動作が完全自立,移乗が修正自立,移動がwalker 使用し自立であった.BRS は全てVI レベル,筋力はMMT にて体幹3,両下肢2-3 であ
った.バランスの評価としてBESTest を実施し,初期評価を入院3-4 日後,再評価を入院30-31 日後に行った.
【結果】BESTest の初期評価時の合計点は46 点,各セクション(以下Sec)はSec1:7 点,Sec2:12 点,Sec3:8 点,Sec4:4 点,Sec5:7 点,Sec6:8 点であり,特にSec4 の姿勢反応とSec6 の歩行安定性の低下がみられた.そのため,荷重感覚訓練や立位での動作訓練,歩行訓練を中心に介入したところ,1 か月後の合計点は66 点,各Sec はSec1:8 点,Sec2:18
点,Sec3:8 点,Sec4:8 点,Sec5:10 点,Sec6:14 点となった.他の身体機能の変化点として,感覚障害(表在)軽減,体幹・両下肢の筋力増強を認め,失調は上下肢ともにほぼ消失.ADL は移乗が完全自立,移動がノルディック杖を使用し自立,Tcane 使用し監視となった.
【考察】本症例にて1 か月後にADL・移動動作が向上している理由には,BESTest の結果より,支持基底面内での重心移動や新たな支持基底面を作るバランスの戦略が可能となってきたこと,歩行中の様々な課題に対して対応出来るようになったことが考えられる.今回,BESTest を行ったことで本症例のバランス能力の傾向の推察や介入方法の検討に具体性を生むことができた.
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