関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第35回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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口述
  • 宮本学
    p. 121-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)に携わる者として、食事と排泄の介助困難は利用者とその介助者からよく聴取される。今回、重度の嚥下障害から胃瘻造設、また排泄コントロールが困難となった症例に対して症例自身のQOL 向上を目的としたアプローチを実施し、結果ADL 向上に繋げることができた。尚、本報告については対象者および家族に対して説明し同意を得た。

    【症例】67 歳女性。平成5 年に日本脳炎によるてんかん発作を発症。その後、在宅生活に戻られるが退行の出現、認知面の低下から訴えなどの表出が困難になり徐々にADL 低下。平成25 年に転倒をきっかけに訪問リハ開始。生活機能は昇降式椅子坐位レベルであり歩行練習は可能であったが、平成26 年12 月大脳皮質基底核変性症、多発性脳梗塞を発症、また誤嚥性肺炎から経口摂取が困難となり胃瘻造設となる。2 か月後に退院となるが意欲の低下がみられ、歩行も主介護者の夫と二人介助で行う状況であった。訪問リハ開始時のBarthel Index(BI) は5 点であり食事がなんとか可能。入院後は上述通り、胃瘻となってしまったためBI は0 点となる。また介護用ベッド導入となっている。

    【経過】 退院後の意欲低下原因として経口摂取の訴えがあったことを夫より確認。担当ケアマネージャーを通し、係り付けの病院の主治医より嚥下造営目的で1 週間入院し、お楽しみでゼリーの摂食が可能となった。退院後はゼリー摂食時での姿勢の注意点を書面とし、訪問看護も週1 回で介入していたため、一口量の調整等も加え、他職種との連携も図った。結果BI は15 点となり、姿勢調整も影響し排泄コントロールにも繋げることができた。

    【考察】本症例は意識清明であるために経口摂取ができないことから意欲が低下し、結果ADL 低下を呈してしまった。退行、認知症があり通常の会話が困難になっても利用者の主訴を確認することで運動療法以外に着手したことがADL 向上に繋がったと推察する。

  • 須藤京子
    p. 122-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】訪問看護ステーションでの訪問療法士の役割はなにか。他医療機関から終末期依頼は多い。看護師と同時に療法士が入る機会、診療情報提供が乏しいことも多い。この症例も他医療機関と連携が悪く、行動制限が長引いて希望が見えなかった事例である。今後の連携の在り方について再考したため報告をする。

    【症例紹介】X 年12 月大学病院を退院。73 歳女性、要介護4。家族構成、要介護1 の夫、日中仕事の息子。介護状況は不良。病状S 状結腸癌、胸椎5 番転移。化学療法適応外。背中から右胸部の疼痛。両下肢完全麻痺(受容不完全)。浮腫、表在、深部感覚脱失。軽度鬱。体位交換不可。自宅退院を希望。自宅で暮らすための体制を最低限揃え退院。

    【取り組み】「リハビリしたい」と泣く。退院診療提供書は今後の痛みの増強、骨折リスクが高く車いす移乗不可。の内容。「動くと背中の骨がバラバラになる。いつ息が止まるかわからない」と言われ恐怖あり。疼痛にはオキシコンチン、オキノーム。機能低下と比例し増強。把持力、ファスナーの開閉困難。全身低下が予測より早いため、看護師と相談し疼痛が弱い時間に車いす移乗を計画した。

    【結果】脊柱のデータを欲しいと退院時前から申し入れ。往診医、他スタッフで連絡を続けたが、理由不明、返答がなく2 週経過。これ以上待てず、「庭がみたい」の計画をデータも無く車いすの移乗が可能か、医師を中心に相談。短時間の了承で20 分間施行。

    【考察】X 年1 月、救急搬送先で呼吸困難で死亡。骨折リスクで車いす不可。このエビデンスの理解できず、活動開始が遅れた。終末期は本人の希望が影響を大きく与えると考えている。その人のQOL、医療機関の医療従事者のQOL とは何か。在宅では患者が主体であると考えている。この認識の相違は連携が取れなかったために際立った。

    在宅での短期決戦を充実したものにするには医療現場からスタートをし、退院後は即受け継ぐ事を理想としたい。

  • 柴田磨奈実
    p. 123-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 要介護高齢者にとって排泄援助を受けることは,日常生活の中で最も羞恥心を持ちやすく,自尊心が傷つけられやすい.介護者にとってもオムツ交換を介助で行うことは身体的にも精神的にも負担は大きい.また,機能性尿失禁とは高齢者に特徴的で下部尿路に器質的な障害はないが排尿習慣の喪失や住環境,介護力が関与した失禁である.自宅退院を目指し機能性尿失禁に着目し排泄訓練,歩行訓練,環境設定を中心に介入した.尚,ヘルシンキ宣言に則り説明,同意を得た.

    【症例紹介】 100 歳代,女性,自宅にて転倒し右骨盤骨折受傷,保存治療となる.受傷後11 日目に当院へ転院.受傷前ADL は自宅内伝い歩き,シルバーカー歩行自立,トイレ動作自立.

    【評価】 排尿障害の分類は機能性尿失禁,トイレでの排尿回数0 回,HDS-R14 点,FIM57 点,歩行:平行棒内軽介助,立位保持:腋窩支持で軽介助,トイレ動作:軽介助【治療・経過】 尿失禁タイプを診断し3 日間7~19 時の時間帯で1 時間ごとにパッドチェックを行い失禁・尿意の有無を確認し排尿パターンの把握を行った.その結果からトイレへ定時誘導を実施.18 日間行い尿意の関心出現,失禁回数3 回→2 回,トイレでの排尿回数0 回→5 回となった.歩行形態はシルバーカー見守り,トイレ動作はパッドの交換のみ介助,下衣操作は見守り,FIM は70 点へ向上し自宅退院とな

    った.

    【考察】 今回排泄に着目し排尿パターンの把握,トイレへの定時誘導を行うことで排尿習慣の再獲得となった.排尿習慣の再獲得により要介護者の精神的負担の軽減,それに伴うQOL 向上,介助者の介護負担軽減となると考えられる.今後の検討項目として夜間の排泄,排便コントロールが挙げられる.他職種と連携することで夜間トイレへの排泄誘導,下剤や利尿剤などの服薬コントロール,水分・食事量のin-out の把握により自然排便を促せるのではないかと考

    える.

  • 松本和 , 高橋茉也 , 上杉睦
    p. 124-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに・目的】 透析(以下HD)患者は週3 回の通院,3 時間程度のHD 治療による時間の制約から,日中のADL の低下が問題である.HD 患者が在宅生活を継続するためには,HD を継続しながら効果的な運動療法の実施が必要である.本研究では老健のリハビリ目的の入所を繰り返し利用し,身体機能,ADL の向上により在宅生活を継続した症例の1 年間の経過を報告する.

    【症例呈示・経過】90 歳代,女性,既往歴は慢性腎不全,左右大腿骨頸部骨折等.転倒による疼痛のため玄関の階段昇降困難となりリハビリ目的での老健に初回入所後5 ヶ月後に在宅に退所となる.4 ヶ月間の在宅生活の後,階段昇降能力の向上と自宅内歩行の安定を目標に再入所した.リハビリ内容はマシントレーニング,エルゴメータ,階段昇降,歩行練習を週7 回実施.評価項目はFIM 総得点,膝伸展トルク,TUG,5m 歩行速度であり,初回入所時,退所時,再入所時,再退所前に測定した.

    【結果】FIM 総得点(点)は初回入所時97 が退所時に99 へ向上した.特に改善した項目は階段昇降であった.膝伸展トルク(kg/f)は初回入所時3.6,退所時11.2,再入所時9.8,再退所前に10.3.TUG(秒)は初回入所時84.0,退所時53.3,再入所時42.3,再退所前40.3.5m 歩行速度(秒)は初回入所時49.8,退所時27.6,再入所時17.6,再退

    所前14.0 であった.

    【考察】 本研究の結果より,老健に繰り返し入所しリハビリを積極的に実施することで長期的にADL,身体機能が向上した.特に本症例では在宅生活で階段昇降の必要性があり,集中的に動作練習を行うことで,在宅生活が維持で

    きた.HD 患者では運動療法におけるトレーナビリティが高い対象者が多く,リハビリの継続により在宅生活の継続が可能な対象者は多いと考える.

  • 坂井亮太 , 佐藤祐 , 出口亜衣 , 石田茂靖 , 荒川武士 , 松本直人
    p. 125-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】舌骨上筋群は、喉頭周囲筋群の中でも嚥下時の喉頭挙上に関わる重要な筋群である。舌骨上筋群の筋力向上方法の一般的なもののひとつに頭部挙上訓練がある。さらに、舌骨上筋群を経皮的に電気刺激することによる改善効果が報告されている。この両者を併用した介入を施行することで、舌骨上筋群の更なる筋力向上効果が期待できるものと推測された。そこで本研究は、頭部反復挙上訓練と舌骨上筋群への経皮的電気刺激療法を併用した介入が舌骨上筋群の筋力に与える即時効果を検証した。

    【対象と方法】対象は健常成人10 名(平均年齢25.4±2.4 歳、平均BMI20.7±2.2)とした。方法は、電気刺激を行いながらの背臥位での頭部反復挙上運動を30 回3 セット施行した。電気刺激には川村義肢社製MURO Solution を用いた。刺激部位は、舌骨上縁から2cm 上縁、正中から2cm 外側とした。刺激標的筋は顎二腹筋とし、筋電導出筋はオトガイ舌骨筋とした。舌骨上筋群の筋力は、課題前後に背臥位での頭部屈曲運動の等尺性収縮力をハンドヘルドダイナモメーターにて測定した。得られた値は体重で除して体重比を求め、実施前後の値をWilcoxon の順位和検定にて解析した。有意水準は5%とした。

    【説明と同意】すべての被験候補者に対し研究内容を十分に説明し、同意を得られた場合のみ実施した。

    【結果】施行前8.0±3.7kgf/kg、施行後10.0±3.7kgf/kg で、施行後に有意な増加(p=0.002)が認められた。

    【考察】頭部挙上訓練と随意運動介助型電気刺激療法を併用した介入により、舌骨上筋群の即時的な筋力増果が認められた。これは随意運動介助型電気刺激が感覚フィードバック情報となり、正しい運動を導いたためと考えられた。今後は、対照群との比較を検証していく予定である。

  • 岩立健司 , 福田大輝 , 豊田大輔 , 松井満則 , 坂巻里味 , 宮内彩佳 , 染谷雅則 , 高塚梨沙 , 西岡遵子 , 橋本勉 , 橋 ...
    p. 126-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】肩関節周囲炎の患者にて結帯動作制限が残存することが多くみられ、運動療法のみでは効果が少ない症例もある。また、患者に対し物理療法として、干渉低周波(以下:干渉波)を施行するが、鎮痛や血流増加を目的として使用することが多い。干渉波の効果には、筋のリラクセーション効果があるが、運動療法と併用し関節可動域改善に使用することは少なく、その報告も少ない。そこで今回、ストレッチと干渉波を組み合わせて行うことによる相乗効果により、結帯動作制限の改善に対して有用であるか検証した。

    【対象】結帯動作に左右差が有る若年者54 名(男性22 名、女性32 名)、年齢27.8±6.2 歳とした。

    【方法】結帯動作は座位で母指を立てた手掌握りにて、第7 頸椎棘突起から母指先端の指椎間距離で測定した。干渉波は、腹臥位にて棘下筋斜走線維に1~20Hz で筋収縮がわずかに生じる程度の刺激で15 分間施行した。ストレッチは背臥位にて肩関節水平内転を20 秒間3 回実施した。この方法を用いて、干渉波とストレッチを施行した群(以下:干渉波群)とストレッチのみ施行した群(以下:ストレッチ群)の2 群に分類し、結帯動作の変化を調査した。統計処理は対応のないT 検定を使用し、有意水準5%未満とした。本研究は当院倫理委員会に承認を得た上で、対象者には研究の主旨を十分に説明し同意を得た。

    【結果】干渉波群の結帯動作平均変化量は3.8±2.5cm、ストレッチ群の結帯動作平均変化量は2.1±2.1cm となり、干渉波群に有意差を認めた。

    【考察】干渉波を施行することで、筋緊張が軽減し、ストレッチの効果が高まったと考えられる。そこから干渉波と運動療法の相乗効果が示唆され、結帯動作制限の改善に有用であると考える。

    【終わりに】今回は若年者にて効果が示唆されたが、今後干渉波のみの検証や、有疾患者での効果も検討していく必要がある。

  • 岡知紀 , 佐々木慎 , 照屋康治
    p. 127-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】慢性期の脊髄疾患患者において全身振動刺激(Whole body vibration:WBV)に対する痙縮抑制や他動関節可動域(以下ROM)改善の報告はあるが、パフォーマンスに対する報告は少ない。今回、慢性脊髄疾患に対しWBV の単回施行がパフォーマンスに及ぼす影響について検討した。

    【方法】対象は、慢性期脊髄疾患患者10 名でModified Ashworth scale(以下MAS)が1 以上で10m 歩行評価見守り~自立で実施可能なもの。設定は、宮良らの報告をもとに姿勢は椅子上長座位にて、足関節最大背屈位の最大角度で保持し大腿部1/2 より遠位をPower plate(プロティア社製)上に接する形で刺激した。刺激条件は30Hz・振幅

    4-8mm・5 分間とした。評価項目はMAS、ROM、10m 歩行速度、Functional Reach Test(以下FRT)を測定。統計学的解析は、Wilcoxon の符号順位和検定を用い介入前後の数値を示した。優位水準は5%とした。

    【説明と同意】今回の発表に際し、対象者に目的について十分に説明を行い、当院倫理委員会より承認を得た。(承認番号船H27-62)【結果】MAS は下腿三頭筋(前:2.0±0.6、後:1.3±0.4、p<0.05)・ハムストリングス(前:

    2.0±0.6、後:1.2±0.4、p<0.01)・股関節内転筋(前:2.1±0.7、後:1.4±0.6、p<0.05)と有意な改善をしめした。

    ROM は足関背屈ROM(前:0.5±6.8、後:3.5±6.6 度)・Straight Leg Raising test(前:74.5±5.4、後:83.5±6.7 度)において優位な改善を示した(p<0.05)。下肢運動機能は10m 歩行速度(前:9.8±2.5、後:9.3±2.4m/min)と優位な改善を示し(p<0.05)、ケイデンス(前:1.8±0.2、後:1.9±0.2step/min)では優位な改善は見られなかった。FRT は(前:22.7±4.7、後:23.9±4.8cm)と優位な改善を示した(p<0.05)。

    【考察】Chan らによるとWBV により運動ニューロンでのΙa 求心線維の影響が減弱したことで痙縮抑制され、これによりパフォーマンスが向上したと考える。

  • 喜多智里 , 小武海将史 , 奥壽郎
    p. 128-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【諸言】平成23 年9 月に早期発見治療を目的とした包括的褥瘡ケアシステム(システム)を導入し効果を第49 回日本理学療法学術大会で報告した.今回はシステムの経済面への効果を検討する.

    【方法】平成23 年9 月から3 年間の入所者759 名(男性244 名女性515 名,年齢83.7 歳,介護度3.1)を対象にシステム導入前1 年間(前1 群),システム導入後1 年(後1 群),システム導入後2 年(後2 群)に3群化し次の項目を調査

    した.褥瘡治療状況,褥瘡治療コスト,褥瘡治療人件費,コストと人件費の総額を1 か月に算出し3 群の差を統計ソフトSPSS で解析した.倫理的配慮は施設倫理委員会の承認後,入所者と家族に研究について説明し同意を得た.

    【結果】新規発生率は前1 群・後1 群・後2 群の順に10.5%,22.1%,25%,以下同様に治療繰り越し率18.1%11.4%,7.5% であった. コストと人件費総額1 か月,クッション購入費1 か月,委員会人件費は3 群間に差はなかった.治療薬代1 か月は3642 円,6527 円,2543 円で後1 群・後2 群に差がみられた.エアマットリース代1 か月は0 円,4419 円,7082

    円で3 群間に差がみられた.治療人件費1 か月は28432 円,38771 円,36204 円で前1 群・後1 群で差がみられた.栄養食品代1 か月は14784 円,8454 円,8192 円,写真代1 か月は0 円,358 円,332 円,カンファ人件費は1 か月0 円,16407 円,17940 円,受診付添人件費は1 か月1887 円,0 円,0 円, 受診代は1 か月4334 円,0 円,0 円で前1 群・後1 群,前1 群・後2 群で差がみられた.

    【考察】新規発生率増加,繰り越し率減少はシステム導入で発生報告により早期発見治療が定着したと考えられる.コスト総額に差はなかったが個々を比較すると, 後1 群,後2 群においては前1 群になかったエアマットリース代,写真代,褥瘡カンファ人件費など褥瘡ケアに関する必要経費が含まれておりシステム導入により経済面には好影響であったと考えられる. 課題として,褥瘡発生予防をさらに徹底させることで経済面の低下が望まれる.

  • 山岸洋平 , 真保千佳 , 山内茉莉子 , 山本健滋 , 山崎ちづる
    p. 129-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    <目的>Pushing を認める症例に対する,非麻痺側と麻痺側での移乗介助方向の違いが,介助者の介助負担感と介助量に及ぼす影響について明らかにすること.<方法>当院入院中でPushing がみられ,移乗に介助を要する6 例に対し,プラットホームから車椅子への移乗介助を,非麻痺側と麻痺側方向で各1 回行った.対象者および家族全員に本研究に関する説明を行い,同意を得た。移乗アプローチの順序はランダムに決定した.検者は当院リハ職員9 名で実施し,各症例の移乗介助後に,介助者の介助負担感(Numerical Rating Scale 方式)と介助量(自立・最少介助・中等度介助・最大介助・全介助の5 段階)を評価した.対象のPushing の重症度の評価法としてScale of contraversive pushing (以下SCP)を用い,SCP0~3 までをPushing 軽度群,SCP3.25~6 までをPushing 重度群と

    した.統計処理は両群に対して正規性の検定を行い,正規分布している項目には対応のあるt 検定を,正規分布していない項目にはウィルコクソン符号付順位和検定を行った.有意水準はそれぞれ5%とした.<結果>介助負担感では,非麻痺側への移乗時において,SCP 重度群がSCP 軽度群に比べ有意に介助負担感の増加を認めた.また,SCP 重度群の比較において,非麻痺側への移乗が麻痺側への移乗に比べ介助負担感が増加する傾向がみら

    れた.介助量では各項目の比較において有意な差は認められなかった.<考察>非麻痺側への移乗においては,SCP 評価項目における座位での修正への抵抗の有無が,介助負担感の増加に影響すると考えられた.SCP 重度群の比較においては,非麻痺側への移乗の際にPushing がみられ,介助負担感の増加に影響すると考えられた.介助量では検者による介助方法の違いから,有意な差が認められなかったと考えられた.

  • 小川康弘
    p. 130-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】有料老人ホームは近年増加傾向にあるが,人員上一人ひとりに同じ時間だけ関わる事が困難であり理学療法士の利点である「入居者に関われる時間の確保」が難しく,リハビリ意識をどのように構築するかが課題であると言える。本報告は当ホームにおける体力測定の分析からリハビリ非実施者の生活上のリハビリ意識に体力測定がどのくらい影響があるかを考察することを目的とする。

    【対象】当ホーム平均介護度2.48,平均年齢85.78 歳(2016 年4 月現在)。体力測定は月に一度,10m 歩行,握力測定,片脚立位,functional Reach Test,Floor Finger Distance,Time Up and Go test(TUG)を実施した。期間は

    2013 年10 月から2016 年3 月まで30 ヶ月間継続し前月の測定数値との比較とこの一か月間の体調変化を問診した。対象は入居時歩行で日常生活自立しておりリハビリ非実施を選定した入居者とした。なお本人もしくは家族に本研究に関する同意を得た。

    【検証方法】1)入居から測定が継続できた人数と自主トレ励行者数2)12 か月以上継続した入居者を対象に入居から6 か月間と直近6 か月間のTUG 平均値比較【結果】期間中52 名が対象として実施された。1)継続できた入居者は29 名うち55.2%(16 名)が自主トレ励行者だった。2)対象者は17 名。改善10 名,1 秒未満低下2 名,3 秒未満低下3 名,3 秒以上低下2 名であり,88%が3 秒未満低下に収まった。3 秒未満低下15 名中8 名が自主トレ励行者であった。

    【考察】今回の結果から12 ヶ月以上継続している17 名中10 名が改善していることがわかった。当ホームでは積極的にケアスタッフと協同し生活内でのリハビリを支援しており入居者同士自主トレで切磋琢磨する慣習がある。また測定時の問診では前月の数値を意識する発言が多く体力測定が生活に溶け込んでいることがわかった。以上を踏まえ定期的な体力測定は能力に関心を持たせ,改善しようというリハビリ意識に有用であることが示唆された。

  • 森川健史 , 高橋夏海
    p. 131-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】ストレッチポールを用いたエクササイズが片脚立位中の体幹前額面アライメントに与える即時的効果の検討を本実験の目的とした。

    【方法】対象は健常成人男性16 名(28.7±5.0 歳)とし、除外基準として片脚立位を行う際に支障となる下肢体幹の有痛性疾患と神経疾患の既往とした。対象者は左右交互に片脚立位になりその姿勢を正面からデジタルカメラで撮影した。その後、日本コアコンディショニング協会にて提唱されているストレッチポールを用いたベーシックセブンによるエクササイズを行い、再度片脚立位による撮影を行った。PC に取り込んだ画像から画像解析ソフトを用いて対象者の胸郭傾斜角・骨盤傾斜角・胸郭骨盤側屈角を算出した。統計処理は、算出した項目ごとに利き脚・非利き脚の違いについて対応のないt 検定を用いて確認した後に、エクササイズ前後を対応のあるt 検定を用いて比較を行った。すべての統計処理について、IBM SPSS Statistics 23 を使用し、有意水準5%とした。

    【倫理的配慮】本実験は当院倫理委員会承認のもと、ヘルシンキ宣言に基づき書面と口頭にて説明をしたうえで同意書に署名をした者を対象とした。

    【結果】胸郭傾斜角・骨盤傾斜角・胸郭骨盤側屈角のそれぞれについて、利き脚・非利き脚による違いを各項目で対応のないt 検定を用いて比較した結果、有意な差は認めなかった。エクササイズ前後の各項目の値を対応のあるt 検定を用いて比較した結果、有意な差は認めなかった。

    【考察】下肢には蹴り脚と踏切脚という機能的な役割の違いが左右側性Laterality として知られているが、本実験の結果より、片脚立位では支持脚の違いによる前額面アライメントの違いを認めなかった。また、ストレッチポールを用いたエクササイズは片脚立位の前額面アライメントに変化を及ぼさないことが示唆された。

  • 江川智広 , 石川大樹 , 前田慎太郎 , 栗原秀平 , 福原大祐 , 平田裕也 , 宮崎拓真
    p. 132-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】円板状半月板は正常半月板と比較し分厚く大きな形状を示し,その発生頻度は5~15%と報告されている.外側円板状半月板(LDM)がほとんどであり,内側円板状半月板(MDM)は大変珍しく報告は散見する程度である.我々は,スポーツ選手のMDM 症例10 膝を経験したので,その臨床成績とリハビリテーションの実際を報告する.

    【対象と方法】対象は2004 年~2015 年までにMDM に対して形成的切除術を行った7 例10 膝とした.平均年齢は

    31.0 歳(13~56 歳),男性5 例8 膝,女性2 例2 膝.術後経過観察期間は平均6.4 ヶ月(4~12 ヶ月)である.検討項目は術後合併症,ROM,受傷前と復帰後のTegner Activity Score(TAS) ,スポーツ復帰時期とした.本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った.

    【リハビリテーション】術後は可及的に全荷重を許可した.トレーニングは,関節水腫等の炎症所見が無いことを医師と確認を取りながら段階的に行った.術後2 カ月頃より自転車とジョギングを開始し,徐々にステップ動作やジャンプ動作を開始した.愁訴が残存する症例には必要に応じて足底板を挿入し,術後4 カ月前後でスポーツ復帰を許可した.スポーツ復帰基準は関節水腫がなく,Mc Murray test 等のmeniscus sign が陰性であり,各種スポーツ動作で疼痛がないこととした.

    【結果】術後にOCD,再損傷や再手術症例はなかった.ROM は術前屈曲151.5±4.7°が術後154.5±1.6°,伸展は術前後ともに1.3±2.2°であった.またTAS は受傷前,復帰後ともに6.3±2.0(3~9)であり,全例元のスポーツレベルに復帰できた.スポーツ復帰時期は平均4.5±0.7 カ月であった.

    【考察】結果から,MDM の形成的切除術後は慎重なリハビリを行い,4~5 カ月で合併症もなく全例元のスポーツレベルに復帰可能であった.しかし,LDM と比較すると若干復帰が遅れる傾向にあり,静的・動的下肢アライメントやスポーツ特性なども考慮して,さらなる早期復帰を検討していきたい.

  • 志田康成 , 穂谷優二 , 守屋智史 , 柳英利 , 林淳慈
    p. 133-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 本研究の目的は,脊椎圧迫骨折(圧迫骨折)患者の在院日数に影響する因子を調査することによって,提供体制や問題点を明らかにすることである.

    【対象および方法】 2012 年7 月1 日から2014 年7 月31 日までに圧迫骨折の診断で入院した165 例(平均年齢

    76.0±12.6 歳)を対象とした.在院日数の中央値(35 日)を基準に,A 群(在院日数≦35 日,82 例)とB 群(在院日数>35 日,83 例)に分類し,患者背景,治療経過,転機を比較検討した. 【倫理的配慮】 本研究は既存カルテのみから抽出した後ろ向き研究であり,個人が特定されるデータは残さず,全て数値化し分析を行い,結果の公開に際しては研究対象者のプライバシー保護に十分配慮した.

    【結果】 患者背景は,年齢,性別,Body Mass Index,既往歴,骨折椎体数,入院前の移動形態は2 群間で統計学的な有意差を認めなかった. 治療経過は,理学療法開始日は統計学的な有意差を認めなかった.A 群はB 群より鎮痛剤使用が多く(65% vs 46%,p=0.01),歩行開始日(15.2±3.9 日 vs 18.8±6.6 日,p<0.01)は早かった.A 群はB 群より退院時に独歩の割合が多かった(45% vs 25%,p<0.01). 転機は,A 群がB 群に対して退院先が自宅の割合が多かった.(75%vs56%,p=0.01)【考察】 本研究では,年齢,既往歴,骨折椎体数,入院前の移動形態,理学療法開始日は2 群間で差を認めず,同等であった.A 群は鎮痛剤使用が多く,疼痛管理が良好であったことにより,歩行開始が早期となり,廃用症候群を最低限に留めたことで,独歩の獲得率が高くなり,自宅への退院が多かったと考えられる。

    【まとめ】在院日数は疼痛管理により,早期に歩行を開始することで短縮できる可能性を示した.

  • 上薗紗映 , 仙波浩幸 , 林光俊
    p. 134-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】整形外科クリニックでは、愁訴など精神心理的問題などに遭遇することが多々ある。一方で、その問題にどう対応するかについてはテーマとして扱われてこなかった。今回、整形外科クリニックで起こりうるこれら問題に対して、理学療法士がどう対応しているか、経験年数別に分析したため報告する。

    【倫理的配慮】本研究は、当院倫理委員会の審査を受けている。

    【方法】整形外科クリニックに勤務する29 施設280 名の理学療法士に対し、質問紙を送付し回答を得た。調査内容は、年齢、性別、経験年数、精神的問題の経験の有無、対応方法などである。対応方法は、「傾聴」「自主トレーニングへの移行」「所見との乖離を説明」「特に対応しない」「担当変更」「医師の診察へ戻す」「他科を薦める」「その他」を複数回答で選んで、成功したかどうかについて記載を求めた。

    【結果】回答率は218 名77.1%であった。回答者の属性は、男性164 名、女性54 名、経験年数平均5.3±4.4 年、平均年齢28.7±5.1 歳で、75.5%が精神心理的問題を経験していた。年代は若手:1-5 年目(137 名)、中堅:6-10

    年(52 名)、ベテラン:11 年以上(27 名)に分けて集計した。対応は若手では8 項目7 項目、中堅では8 項目中6 項目、ベテランは8 項目中3 項目のみで悪化例を認めた。どの年代でも、「担当変更」は成功率が高かった。

    【考察】今回、悪化例を経験する項目が年代を追うにしたがって減少しており、経験を重ねることで対応が熟達している可能性が示唆された。一方で年代を問わず「所見との乖離を説明」については悪化例が多く、特に中堅・ベテランは若手よりも悪化例を多く経験していた。これは、難渋例を多く担当しているということが影響していると考えられる。

    今後さらに研究を重ね、対応方法の熟達度を向上させるためのプロセスを明確にできるように進めていきたい。

  • 稲崎陽紀
    p. 135-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】心肺運動負荷試験(CPX)による運動耐用能評価は予後や運動処方、運動療法の効果を判定する上でも重要である。本研究では心臓外科術後患者において体格指数(BMI)がCPX の値にどのように影響するかを調査することを目的とした。

    【方法】対象者は2013/12/14 から2015/10/17 までに当院で心臓外科手術を受け、CPX を施行した99 名とした。

    BMI は日本肥満学会による分類で低体重群17 名、標準群66 名、肥満群16 名、平均年齢は65.7±11.6 歳、男性

    57 名、女性42 名、平均在院日数は26.8±13.8 日であった。術式は、冠動脈バイパス手術24 例、弁形成術・弁置換術62 例、人工血管置換術7 例、その他6 例であった。CPX の測定にはエルゴメーターを使用し退院前に施行した。peak VO2、anaerobic threshold (AT)、VE /VCO2 slope の値を算出しBMI との関連性を調査した。統計学的分析にはspearman の順位相関係数を用い有意水準は5%未満とした。この研究はヘルシンキ宣言に沿って行い、得られたデータは匿名化し個人情報が識別できないよう配慮した。

    【結果】BMI とAT¬にr=-0.238 と有意な負の相関が認められた(p<0.05)。BMI とpeak VO2 、VE /VCO2 slope との間に相関は認められなかった。

    【考察】今回の結果から心臓外科術後の患者においてBMI とAT において有意な負の相関が認められ、BMI が増加するにつれAT が減少することが示唆された。肥満群の過体重には脂肪量が影響していると考えられ、これらが酸素代謝に関与しないことからBMI とAT が負の相関関係になると考えられる。本研究の限界として体組成や脂肪量の数値が得られていないことがあげられる。

    【まとめ】心大血管術後患者においてBMI が増加することで有酸素性運動や日常的な作業耐用能に影響を与える可能性が示唆された。以上のことからBMI は運動耐用能、心肺機能を把握するうえで考慮すべき一因子となると考えられる。

  • 五十嵐祐介 , 中村智恵子 , 平山次彦 , 中山恭秀
    p. 136-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】多様な症状から構成される廃用症候群(以下廃用)は主となるタイプ分類などが無く、介入効果などの検証を行うためには身体機能に対する特徴を様々な視点から探る必要がある。先行研究では廃用症状や算定区分で身体機能を比較している報告や原疾患別による転帰についての報告が見られているものの、原疾患別から見た身体機能の違いに関する報告はみられない。原疾患では各疾患で身体機能に及ぼす影響は異なり、更に重症度など様々な要因が関連すると考えられる。今回は原疾患ごとの分類でADL 能力を比較し疾患による傾向があるのか検討することを目的とする。

    【方法】対象は廃用と診断され入院前の日常生活自立度でランクJ に分類される患者106 名とした。このうち、廃用に至った原疾患に対し先行研究を参考に7 群に分類(呼吸器疾患、悪性新生物、循環器疾患、腎尿路生殖器疾患、内分泌・栄養・代謝疾患、消化器疾患、その他)した。各群の年齢、理学療法介入(以下介入)時及び転院・退院時Barthel Index(以下BI)得点とその変化値、入院から介入までの期間をKruskal-Wallis 検定にて比較した。なお、本研究は当大学倫理審査委員会の承諾を得て施行した。

    【結果】入院から介入までの期間では悪性新生物が呼吸器疾患、循環器疾患、腎尿路生殖器疾患、その他と比較し有意に大きい値を示した。これに対し年齢や各時期のBI 及びBI 変化値は全ての群間で有意差はみられなかった。

    【考察】入院から介入までの期間にて悪性新生物と4 つの原疾患群で有意差がみられたものの、ADL 能力では各時期での有意差はみられなかった。これより廃用患者のADL 能力を検討する場合、疾患別の分類からではなく原疾患の重症度やそれに伴う安静度など他の要因からの検討を行う必要があると考える。

  • 宮澤伸 , 渡邊裕之 , 増間弘祥 , 溝渕鷹嗣 , 望月裕太
    p. 137-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】股関節内転筋損傷はサッカーにおけるキック動作で最も発症しやすい筋損傷の一つである.しかしながら,股関節内転筋損傷の発生因子については不明な点が多い.本研究のデザインは股関節内転筋損傷の発症に関連する因子をメディカルチェック(Medical Check: MC)の結果から検討する後ろ向きコホートとした.

    【方法】対象は中学生男子サッカー選手58 名(身長:164.2±5.8cm,体重:51.5±5.8kg,BMI:19.1±1.3)とした.MC は下肢筋柔軟性(下腿三頭筋,ハムストリングス,大腿四頭筋),全身関節弛緩性テスト,股関節内転及び外転筋力について行なった.6 ヶ月間の観察期間を置いて股関節内転筋損傷の発生の有無を調査し,非損傷群(41

    名),損傷群(5 名)の2 群に分類した.統計学的解析は2 群間における各検査項目についてMann-Whitney のU 検定を用いて比較した.本研究は指導者,選手,保護者にMC の説明と同意を口頭と書面にて行った.

    【結果】各MC 項目のうち,蹴り足ハムストリングスの筋柔軟性は損傷群が45.00±11.73°,非損傷群が

    53.90±7.29°と損傷群で有意な低下(P=0.050)が認められ,関節弛緩性は損傷群が2.60±0.82 点,非損傷群が

    1.68±0.97 点と損傷群で有意に高値(P=0.049)を認めた.

    【考察】中学生男子サッカー選手は筋柔軟性と関節弛緩性の観点において先行研究による成長期のスポーツ障害因子と類似した結果が得られた.また,蹴り足ハムストリングスの柔軟性低下はキック動作時の股関節内転筋起始部周辺への反復ストレスを生じ,損傷の発生リスクが高まると考えられた.

    【まとめ】中学生男子サッカー選手における股関節内転筋損傷の発生因子として高い関節弛緩性と蹴り足ハムストリングスの柔軟性低下が関与していることが示唆された.

  • 信澤麻美 , 高橋裕司 , 鈴木学 , 青木啓一郎 , 大澤彩 , 鈴木貞興
    p. 138-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】卓球競技は、一般的に傷害が少ないスポーツといわれている。奥脇(2012)は、11 競技(野球、バスケットボール等)の傷害発生率は約9.2%と報告している。卓球競技においては、小中学生の傷害発生についての報告はなされている。しかし、トップレベル選手のみが対象となっている。また傷害を発生させる要因を検討した先行研究は、我々が渉猟した限り確認することができなかった。本研究の目的は、卓球競技における傷害発生状況と傷害発生に関係する要因について検討することである。

    【対象および方法】A 県B 市内の卓球部に所属する中学生および高校生237 名を対象に、郵送式、自記式質問紙法にて実施した。調査票の内容は、卓球の練習内容と傷害発生に関する内容の15 項目であり、自由記載と5 件法の回答とした。統計処理は、傷害の有無と傷害発生の要因との関係について、統計ソフトJMP Ver.を使用し、二項ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。本研究の実施に際し、対象者へ研究目的、プライバシーの保護、参加の拒否及び中止の自由、分析結果の開示などを文書にて説明し、返信をもって同意とみなした。

    【結果】調査票は144 名から回答を得た(回収率60.8%)。卓球競技における傷害発生率は、16.7%であった。傷害発生を説明する変数の中で統計学的に有意であったものは、1 日平均休憩時間(p=0.0015)と1 日平均フットワーク練習時間(p=0.00117)であり、オッズ比はそれぞれ0.931、1.035 であった。

    【考察】卓球競技における傷害発生率は、他のスポーツよりも大きかった。休憩時間を多く取ると傷害発生は少なくなり、フットワーク練習時間が長くなると傷害発生が多くなることがわかった。本研究は卓球競技における傷害発生に対する理解の一助になると考える。本研究の限界は、競技レベル、傷害発生部位の特徴を検討できなかったことである。

  • 横村太志 , 川井誉清
    p. 139-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】臨床において、手関節の肢位により肩甲帯の筋活動が変化することを経験する。手関節の位置の違いによる肩甲帯の筋活動に関する報告は少ない。そこで、本研究の目的は、手関節の位置関係が肩甲帯の筋活動に与える影響を検討することとした。

    【方法】対象は健常男性成人(年齢29.1±5.3 歳)9 人9 肢とし、全例利き手とした。測定項目は、手関節を中間位、掌屈位(PF)、背屈位(DF)に設定し、肩関節90°外転位における肩甲骨周囲筋の筋活動を測定した。測定肢位は、肘伸展・前腕中間位にて、2kg のダンベルを把持し肩関節外転90°での等尺性収縮にて5 秒保持を3 回行った。測定筋は、僧帽筋上部線維、僧帽筋下部線維、菱形筋、前鋸筋とし、表面筋電図(ノラクソン社製マイオトレース

    400)を用いて計測を行った。筋電図から得られた結果の中間の3 秒を用い、筋活動の全波整流を行った。PF およびDF を手関節中間位で正規化し、統計学的処理はSPSS version 17 .0for Windows を用いて、対応のあるt 検定を用い、有意水準は5%とした。

    【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、被験者には十分な説明を行い、同意を得た上で測定を実施した。

    【結果】僧帽筋上部線維はPF:108±11%、DF:102±15%、僧帽筋下部線維はPF:108±8%、DF:104±19%、菱形筋はPF:101±10%、DF:0.93±9%、前鋸筋はPF:96±13%、DF:102±10%であり、菱形筋および前鋸筋で有意差を認めた。

    【考察】 ThomasW.Myers は、手掌を床面に向けると上肢後面、小指球筋、上腕三頭筋、腱板、菱形筋に沿って配置されると述べている。そのため、手掌を床面に向けるPF で菱形筋が優位とり、背屈に関しては、小指球筋の影響が減少するため、唯一の肩甲骨外転作用を持つ前鋸筋の筋活動が増加したと考える。手関節掌・背屈の違いにより、肩甲帯筋活動に影響を与えるため、治療やADL 指導においても考慮する必要があると考える。

  • 安江大輔 , 押山徳 , 伊沢諒
    p. 140-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】自動挙上制限をきたすPseudoparalysis は大きな腱板断裂の合併症として生じることがあり,患者の日常生活に大きな支障を与える.今回,右肩腱板広範囲断裂症例の外来リハビリテーションにおける保存療法により効果を得られた症例につき,検討を加え報告する.

    【症例提示】73 歳男性,2016 年3 月2 日に転倒受傷し疼痛出現,挙上困難となり3 月10 日に当院の外来受診し肩腱板三腱断裂(棘上筋,棘下筋,肩甲下筋)と診断を受ける.保存療法にて同日より外来リハビリテーションを週3 回程度の頻度で実施した.

    【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,あらかじめ本研究の内容・個人情報の保護を十分に説明し,参加に同意を得て行った.

    【経過と考察】理学療法開始時の主訴は疼痛と挙上困難であった.疼痛は安静時・夜間時NRS6,運動時NRS8 であ

    った.転倒の影響で上肢から手指にかけての内出血,腫脹が認められた.自動挙上35°P,結帯L5P であった.急性期では損傷部位の炎症の沈静化と拘縮予防を目的にポジショニング,上肢の腫脹・浮腫の管理,生活動作指導,肩甲胸郭関節のROMex を中心に実施.炎症沈静後は他動的な肩関節のROMex,残存腱板筋の選択的強化,三角筋の強化,肩甲骨周囲筋の機能強化,姿勢・動作指導を中心に実施した.理学療法開始後1 ヶ月半で,安静時・夜間時NRS0,運動時NRS2,になり自動挙上145°,結帯L2 となった.挙上が可能になった要因として炎症症状の沈静化と,残存腱板筋と三角筋・肩甲骨周囲筋の協調的な活動により新たなフォースカップルが形成され肩甲上腕リズムの再構築が図れたからだと考える.保存療法により機能を獲得しても使用度合により断裂が拡大し日常生活に支障をきたす可能性があるため医師と連携をとりながら状態を観察する必要がある.また断裂拡大を最小限におさえ,出来るだけ長期にわたり日常生活での機能を維持することを目指していきたいと考える.

  • 罍洋祐 , 田村耕一郎 , 鈴木伸 , 島田崇宏 , 廣瀬秀史
    p. 141-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】投球動作に肘外反ストレスは二峰性でAcceleration(Acc)直前とBall Release(BR)直後に発生するとされているが,BR 直後の肘内側痛発生メカニズムは解明されていない.臨床にてBR~Follow through(FT)に肘内側痛を訴える症例は,共通して肘を突き出したBR のように感じていた.そこで肘を突き出すBR と肘内側痛の関連を検証する為,シャドウピッチングの動画を分析した.

    【方法】対象はLate Cocking(LC)~Acc に肘内側痛を訴えていた小・中学生7 名(9-15 歳 A 群), BR~FT に肘内側痛を訴えた小・中学生5 名(11-13 歳 B 群)とした.シャドウピッチングはデジタルビデオカメラ(CASIO EX-FC300S)を使用した.投球側矢状面を撮影しA,B 群を比較検討した.矢状面より手掌面が投球側を向いた時をBR とし,その際の肘屈曲角度を抽出した.肘屈曲角度は投球側上腕上面-前腕上面を結んだ線にて計測した.肘屈曲角度について対応のないt 検定を用い,有意水準5%とした.なお,被験者には本測定の趣旨を説明し同意を得た.

    【結果】肘屈曲角度はA 群30.73±24.81°,B 群53.56±19.45°であった.統計処理を行った結果,有意差は認められなかった.しかしB 群は肘屈曲位でBR を迎える傾向がみられた.

    【考察】坂田らは肘屈曲位でのリリースは,肘関節肘内側支持機構におけるMCL に対しストレスがかかる可能性があると報告している.本研究結果から有意差は認めなかったが,B 群に肘屈曲位でBR を迎える傾向がみられ,坂田らを支持する結果となった.肘屈曲位でのBR と肘内側痛の関係性について肘屈曲位の為,投球側肘関節を支点とし,さらにBR 時に肩内旋運動を誘発することで肘外反ストレスが生じると考える.有意差を認めなかった点から肘屈曲位でのBR 以外にもBR~FT 時の肘内側痛発生要素があることが示唆された.今回,矢状面のみで検討していた点が有意差を認めなかった要因として挙げられる.今後,他方向,3次元的に投球動作を分析していく必要がある.

  • 内田拓実 , 倉品渉 , 押山徳 , 野澤健二 , 伊澤一彦 , 飯島裕生 , 笹沼秀幸 , 矢野雄一郎
    p. 142-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】投球肘障害において、過去の肘痛は肘痛発生危険因子のひとつであると報告されている。本調査の目的は、高校生野球選手において過去の肘痛の有無と身体的特徴の関連を検討することである。

    【対象と方法】対象者は、平成27 年に野球肩・肘障害メディカルチェックに参加した栃木県内の硬式高校野球部1 年生のうち、現在肩と肘に痛みがない41 名(身長171.7±5.2cm、体重66.4±7.7kg)である。対象者をアンケート結果に基づき、過去肘痛あり群(以下あり群)8 名(身長172±4.1cm、体重66.1±6.0kg)と過去肘痛なし群(以下なし群)33 名(身長172±5.4cm、体重66.5±8.3kg)の2 群に分類し比較検討した。評価項目は11 項目であり、肩関節機能評価として、肩関節最大外旋可動域(以下MER-A)、肩関節2nd 外旋可動域、肩甲骨内転柔軟性、前腕機能評価として、握力、手内在筋機能評価として、母指・小指ピンチ力、下肢体幹機能評価として上体反らし、腰割り、開脚、SLR を測定し、環境因子評価として、アンケートから平日と休日の練習時間を調査した。統計学的処理にはR3,2,4 による2 標本ウィルコクソン検定を用い、有意水準は5%未満とした。尚、ヘルシンキ宣言に沿って事前に配布した検診内容の案内書に研究目的を明記し、同意に基づき倫理的配慮を行った。

    【結果】11 項目のうち2 群間で有意差があったものはMER-A のみで、あり群150°(135°-161°)なし群

    160°(150°-170°)(p=0.009)であった。

    【考察】笹沼らは高校生硬式野球選手の肘障害と過去の肘障害の関連を報告している。一方で過去の肘障害と身体機能との関連に関する報告は少ない。本調査の結果より高校生野球選手においてMER-A が投球肘障害の再発リスクに関係している可能性が示唆された。宮下らは肘関節のスポーツ障害は隣接する関節の機能低下の影響を受けると報告しており、MER-A 低下は肘関節外反ストレスを増大させるひとつの指標になると考えられた。

  • 櫻井貴紀 , 橋立博幸 , 鈴木堯幸 , 小嶌弓果 , 藤澤祐基 , 斎藤昭彦
    p. 143-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】反復的な動作練習を実施する際に、動作時における注意の向け方に関する言語教示や外在的フィードバック (FB) を組合せて用いることによって運動学習効果が促進されると考えられているが、十分な検証はなされていない。本研究では、異なる言語教示と外在的FB の組合せが立位前方リーチ動作課題に及ぼす即時的影響の違いについて検証することを目的とした。

    【方法】健康な若年男性40 名 (平均21 歳) を対象に、言語教示 (自己の身体への注意 (IFA 教示)、身体外への注意 (EFA 教示) とFB (パフォーマンスの知識 (KP)、結果の知識 (KR)) の組合せによって無作為に4 群 (IFA 教示とKR を与える IFA+KR 群、IFA 教示とKP を与えるIFA+KP 群、EFA 教示とKR を与えるEFA+KR 群、EFA 教示とKP を与えるEFA+KP 群、各群n=10) に割付け、各群において計3 回の言語教示 (練習前、第1-3 試行後、第

    4-6 試行後) と計2 回の外在的FB (第1-3 試行後、第4-6 試行後) を用いて立位前方リーチ動作練習を連続10

    回実施した。練習前後において、第3 中手骨頭移動距離 (リーチ距離)、肩峰と外果のなす角度 (A-M 角度)、肩峰と大転子のなす角度、大転子と外果のなす角度、足圧中心移動距離を測定した。本研究は対象者に研究の概要を説明し同意を得て実施した。

    【結果】 練習前の各測定項目について4 群間の有意差は認められなかった。練習前後で各測定項目を比較した結果、EFA+KR 群およびEFA+KP 群では練習前後でリーチ距離、A-M 角度の有意な増加を示したが、IFA+KR 群およびIFA+KP 群ではいずれの測定項目でも練習前後での有意な変化は認められなかった。

    【結論】EFA 教示を付与した2 群ではEFA 教示によって最大限の体幹前傾と必要最小限の殿部後方移動が促されリーチ距離が増加したと考えられた。健康な若年男性では、FB の種類にかかわらず、IFA 教示と比べてEFA 教示の付与の方が立位前方リーチ動作課題のパフォーマンス向上に即時的な影響を及ぼすと推察された。

  • 鈴木尭之 , 橋立博幸 , 櫻井貴紀 , 小嶌弓果 , 近田正幸 , 藤澤祐基 , 齋藤昭彦
    p. 144-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】動作時における注意の向け方に関する言語教示 (自己の身体への注意 (IFA 教示)、身体外への注意

    (EFA 教示) の付与は効果的な運動学習を促す1 要素と考えられているが、先行研究によって報告されている結果が異なっている。本研究では、立位前方リーチ動作課題に対して異なる言語教示が即時的に及ぼす影響について検証することを目的とした。

    【方法】対象は健康な若年男性40 名 (平均21 歳) であり、立位前方リーチ動作を、言語教示をせずに実施する通常条件、IFA 教示を付与するIFA 条件、EFA 教示を付与するEFA 条件の合計3 条件にて行った。測定項目はリーチ距離、上前腸骨棘移動距離、大転子移動距離、肩峰-外果のなす角度 (A-M 角度)、肩峰-大転子のなす角度

    (A-T 角度)、大転子-外果のなす角度 (T-M 角度)、前後・左右の各足圧中心移動距離 (COP 前後移動距離、COP 左右移動距離) とした。本研究は対象者に研究の概要を説明し同意を得て実施した。

    【結果】EFA 条件は通常条件と比べてリーチ距離、A-M 角度、A-T 角度、COP 左右移動距離が有意に高い値を示し、T-M 角度、大転子移動距離は有意に低い値を示した。一方、IFA 条件では通常条件と比べてリーチ距離、A-M

    角度、A-T 角度、COP 前後移動距離、COP 左右移動距離が有意に低い値を示した。また、通常条件に対するIFA 条件またはEFA 条件の各測定項目の変化率を算出し、リーチ距離の変化率を目的変数、A-M 角度およびA-T 角度の変化率を説明変数とし、身長を調整変数とした重回帰分析を実施した結果、いずれの条件間の変化率においてもA-M 角度、A-T 角度の変化率がリーチ距離の変化率に対して有意な関連項目として抽出された。

    【考察】EFA 教示では、基づく身体外部への注意により対象者の運動制御過程への意識的な干渉を少なくして自動的な運動制御が促進され、その結果として最大限の体幹前傾と身体の前方移動がなされたことによって即時的にリーチ距離が増加したと考えられた。

  • 水村あゆみ , 橋立博幸 , 朝倉彩 , 勝田絵梨 , 嵩里日奈子 , 藤澤祐基 , 斎藤昭彦
    p. 145-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】近年、歩行中の携帯電話操作に伴う事故の危険性が指摘され、携帯電話操作を伴う歩行では歩行速度や歩行安定性が低下することが報告されている。本研究の目的は、歩行中の携帯電話操作が歩行と携帯電話操作課題の双方のパフォーマンスに及ぼす影響を検証するとともに、歩行路における障害物の有無による差異について検討することとした。

    【方法】健康な若年成人40 人 (平均20.8 歳) を対象に、縦20m、幅1m の直線歩行路での3 分間連続歩行を、歩行中の携帯電話操作課題 (計算課題アプリケーション) の有無と歩行路の障害物 (高さ0.7m、底面0.3m 四方の円錐状、直線歩行路10m 地点中央に設置) の有無を組合せた計4 条件にて実施した。主な測定項目は、3 分間歩行距離 (3MD) とともに、3MD における合計歩数、10m 区間毎の平均歩数および平均歩行速度とした。また、静止立位条件または携帯電話操作課題を伴う歩行条件で行った計算課題の解答総数、正答数および正答率を測定した。

    本研究は対象者に研究の概要を説明し同意を得て実施した。

    【結果】 歩行に関する測定項目を二元配置分散分析にて比較した結果、携帯電話操作課題の付加による有意な主効果が認められ、携帯電話操作課題有り条件では無し条件と比べて、3MD、3MD における合計歩数および平均歩行速度の有意な低下と平均歩数の有意な増加を示したが、携帯電話操作課題と障害物の有無による交互作用は認めなかった。また、携帯電話操作課題の成績を条件間で比較した結果、携帯電話操作課題を伴う歩行条件では静止立位条件と比べて、解答総数、正答数および正答率が有意に低い値を示した。

    【考察】 携帯電話操作課題の付加は、歩行とともに歩行中の携帯電話操作課題のパフォーマンスの低下を引き起こすことが示唆された。また、健康な若年者では必ずしも歩行路の障害物による明らかな動作制限を起こさずに、携帯電話操作課題を伴う障害物歩行を遂行し得ると推察された。

  • 久保田圭祐 , 塙大樹 , 国分貴徳 , 平田恵介 , 小林章 , 金村尚彦
    p. 146-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】ヒトの歩行の制御戦略の単純化として、作用の類似した筋群がグループ化され、歩行に応じてそれらが協調的に働くという筋シナジー仮説が存在する。これまで、歩行の筋シナジー解析の多くは片側下肢にて検討されてきたが、片側性の関節疾患患者では筋シナジーが左右で異なる可能性がある。そこで、今回我々は試験的に健常者において両下肢から筋シナジーを抽出し、その類似性を検討することを目的とした。

    【方法】対象は健常男性1名(21 歳)とした。床反力計付きトレッドミル(BERTEC 社、1000Hz)、筋電図18ch(Delsys 社・NORAXON 社、1000Hz)を用いて床反力、筋活動を測定した。対象筋は、両側の大腿直筋、内側広筋、股関節内転筋群、大殿筋、中殿筋、半腱様筋、前脛骨筋、腓腹筋内側頭、ヒラメ筋の計18 筋とした。被験者はトレッドミル

    (2、3、5km/h)で2 分間の歩行を行った。各歩行周期で時間正規化し、加算平均波形を作成した。筋シナジーの抽出には非負値行列因子分解を用いた。両下肢の類似性の検討には相関係数を用いた。

    【説明と同意】研究への協力に際し、書面にて説明し同意を得た。

    【結果】両下肢ともに4 個の筋シナジーが抽出された。相関係数は荷重応答期(LR)と立脚後期(TSt)に活動するシナジーが平均0.85 と高い相関、遊脚後期(TSw)に活動するシナジーが平均0.50 で中等度の相関を示した。遊脚前期

    (ISw)に活動するシナジーは平均0.30 と低い相関を示した。

    【結論】本結果から、同一被験者においてLR とTSt、TSw に活動するシナジーは両下肢で類似する可能性が示された。これらのシナジーは荷重下の生体力学的な機能に関連するため、左右でも高い類似性を示したと考えられる。

    一方でISw に活動するシナジーは両下肢でも変動を有していたため、前額面上での何らかのキネマティクスの左右差が影響している可能性が示唆された。今後は健常者にてさらに検討を進めつつ、疾患応用へとつなげていきたいと考える。

  • 生方雅人 , 岩本紘樹
    p. 147-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】小型三次元加速度計を用いた動作分析は、対象者への負担が少なく、客観的データが得られる利点がある。近年、携帯情報端末に内蔵されている加速度計を利用した歩行評価の試みがなされ、その信頼性が報告されている。本研究では、携帯情報端末からリーチ時の加速度データを抽出し、その信頼性を検討した。

    【方法】本研究内容は当院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号151201 号)。対象は健常成人10 名(男性7 名、女性3 名、平均年齢27.5 歳)であり、測定に際し説明し同意を得た。利き手の前腕遠位背側に携帯情報端末(iphone

    6s、Apple 社製)を縦方向に装着し、立位にて任意の速度でリーチを10 回繰り返し行った。始点を被験者の体側、終点を設定された的とした。条件は最大前方リーチ(MA 条件)、最大側方リーチ(ML 条件)の2 条件とした。データ抽出には、アプリケーションソフト(App)である加速度センサーロガー(REGREX Co.Ltd、10Hz)を用い、2 回の測定より、反復したリーチ課題の全体の加速度(g)の動揺性を示す指標として二乗平均平方根(RMS 値)と、その級内相関係数

    (ICC)を算出した。機器の短軸方向をx 軸、長軸方向をy 軸、奥行きをz 軸とした。

    【結果】RMS 値(x 軸、y 軸、z 軸、合成値)はMA 条件で0.67±0.10、0.80±0.13、0.38±0.14、1.12±0.06 であった。ML 条件では0.36±0.14、0.85±0.12、0.63±0.08、1.13±0.09 であった。そのICC(1.1)および95%信頼区間はMA 条件で0.908(0.691-0.976)、0.948(0.818-0.987)、0.934(0.770-0.983)、0.856(0.548-0.962)であった。ML 条件では0.990(0.961-0.997)、0.897(0.661-0.973)、0.844(0.516-0.958)、0.889(0.637-0.971)であった。

    【考察】RMS やその標準偏差より、リーチ方向により加速度動揺の特徴は異なることや、パターンに個人差があることが示唆された。App 等によるデータ抽出の制約はあるものの、高い再現性を認め、リーチ動作を分析するための機器としての有用性が示唆された。

  • 飯塚隆充 , 大角哲也 , 原田亮 , 臼田滋
    p. 148-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】固定点への軽い指先接触(light touch: LT)で立位姿勢動揺が減少することが報告されているが、接触方向の相違による影響は明らかではない。本研究の目的は、健常成人を対象にLT の接触方向が立位姿勢動揺に及ぼす影響を分析することである。

    【方法】対象は右利きの男性19 名(27.2±5.6 歳)とした。閉脚立位にて、上肢下垂したNo Touch(NT)条件、大転子の高さの水平面に接触するLT 条件、右肘関節90°屈曲位で前方の水平面に接触するHorizontal LT(HLT)条件と前方の垂直面に接触するVertical LT(VLT)条件の4 条件と、開閉眼の計8 条件とした。計量器KS-243(DRETEC 社)を用いて、右示指で1N 以下の接触を維持した。測定は重心動揺計G-7100(ANIMA 社)にて30 秒間(20Hz)、パラメータは総軌跡長、前後・左右方向速度のroot mean square(RMS 速度)とした。統計処理は、視覚条件別に反復測定一元配置分散分析と多重比較を行い、有意水準は5%とした。本研究は榛名荘病院倫理委員会(承認番号

    150102)にて承認されている。

    【結果】総軌跡長(cm)の平均値±標準偏差は、開眼でNT が36.5±9.7、LT が28.1±6.7、HLT が25.9±5.7、VLT が25.4±5.7、閉眼で各49.5±9.2、37.1±10.1、35.5±8.3、35.7±9.3 であった。RMS 速度(cm/s)の前後方向は、開

    眼で0.95±0.24、0.74±0.16、0.64±0.17、0.64±0.15、閉眼で1.33±0.27、0.99±0.31、0.86±0.23、0.91±0.26、左右方向は、開眼で1.10±0.32、0.83±0.22、0.81±0.18、0.78±0.19、閉眼で1.44±0.31、1.11±0.32、

    1.11±0.28、1.08±0.31 であった。全パラメータで分散分析にて有意差を認め、接触方向の影響では開眼時のRMS 速度の前後方向のみ有意差を認めた。

    【考察】健常成人において、前方の垂直面に対するLT は前後方向の動揺を有意に減少させることが示唆された。脊椎脊髄疾患患者などの下肢に障害を有する対象では、LT の接触方向の影響は健常成人と異なる可能性があり、今後検討予定である。

  • 橋立博幸 , 澤田圭祐 , 笹本憲男
    p. 149-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】本研究は、パーキンソン病を有した地域在住高齢者の事例の経過をとおして、社会参加として開始したグラウンドゴルフの成績向上について検討することを目的とした。なお、本研究は、対象者と家族に本研究の主旨を説明し同意を得て実施した。

    【症例】73 歳、男性、在宅生活中の平成18 年にパーキンソン病の診断を受け、抗パーキンソン剤内服治療を行い、要支援2 にて平成23 年8 月から通所介護 (週2 回),平成24 年8 月から訪問リハ (週1 回) を実施した。その後、生活機能が改善し、平成25 年11 月から自宅近隣の公園での自治会主催のグラウンドゴルフ (週2 回) へ参加し始めた。グラウンドゴルフは、各コースにおいてクラブでボールを打ってホールポストへホールインするまでの最小打数を競う競技であり、本症例が参加したグラウンドゴルフでは全長約10m 程度の8 種のコースを3 ラウンド実施し、その合計のスコアが少ないほど良い成績となる。グラウンドゴルフ開始時の本症例は、Yahr の分類II、基本的ADL 自立、レッグプレスマシン1 回最大挙上量 (1RM) 78kg、timed up & go test (TUG) 9.9 秒、グラウンドゴルフのスコアは75

    であった。

    【経過】平成25 年12 月から平成26 年11 月までの1 年間 (A 期) で合計45 回、平成26 年12 月から平成27 年

    11 月までの1 年間 (B 期) で合計72 回のグラウンドゴルフに参加した結果、各期の平均スコアはA 期73.3±6.1 からB 期71.2±6.4 と有意に向上し、各期の最高スコアもA 期59 からB 期52 と向上した。また、3 か月ごとに追跡した1RM とTUG を比較した結果、B 期 (1RM 109.0±15.1kg、TUG 8.2±0.5 秒) はA 期 (1RM 83.0±8.9kg、TUG

    10.4±0.7 秒) と比べて有意な向上を示した。

    【考察】診断後7 年経過したパーキンソン病者においても、通所介護および訪問リハの利用とグランドゴルフの参加を継続することにより、下肢筋力および歩行能力とともにグラウンドゴルフの成績向上が得られる可能性があることが示唆された。

  • 安食翼 , 山中誠一郎 , 野口隆太郎 , 荒井浩之 , 山根佑典
    p. 150-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】今回両下腿切断・両手指壊疽の診断で入院された患者様に対し、週2 日来院する義肢装具士と共に、疼痛に対応しながら仮義足作製を進め、独居での在宅復帰を果たした症例を経験したので報告する。なお、報告に関しては当院倫理委員会の承諾を得ている。

    【症例紹介】70 歳代男性。入院前はエレベーター無しのマンションの4 階で独居生活であり、外出機会は多かった。

    H27 年6 月に治療での投薬により末梢循環不全に陥り、両手指・両足に壊疽を生じ、両下腿を切断。H27 年7 月リハビリ目的に当院へ入院。

    【初回評価】著明な関節可動域制限は無く、MMT 体幹・両下肢3~4。両手指はDIP 関節より末梢に皮膚の壊疽あり。両側握力11kg 台。断端に異常感覚は認められず。基本動作軽介助~見守り、ADL 要介助。

    【治療経過】関節可動域の維持、体幹・股関節周囲筋の筋力・協調性向上を中心に実施。退院先に関しては、階段を使用しない建物への引越しを提案した。断端管理は弾性包帯を使用し、10 病日からはシリコンライナーを使用。17

    病日に仮義足採型を行った。訓練を続ける中で断端周径の減少あり、荷重時に疼痛が出現。チェックソケットの修正やパッド、断端袋、アライメントの調整にて都度対応したが、93 病日に再採型を行い、119 病日に熱硬化性ソケットへ変更。退院先に関しては、物件が見つからず、元の家に131 病日に家庭訪問を実施。157 病日に屋内フリーハンド、屋外両ロフストランド杖での義足歩行を獲得し、自宅退院となった。

    【考察】本症例は、高齢での両下腿切断であり、両上肢の機能低下もあり、入院時の予後の提案に難渋した。身体機能面と手指の状態を他職種連携にて確認しながら歩行補助具や歩行量を調整し、義肢装具士も交えて個別に対応出来た事が安定した歩行獲得へ繋がったのではないかと考える。断端管理に関しては、断端周径の変動が大きい場合、チェックソケットにて経過を観察する事も有用であったと思われる。

  • 木本龍 , 多田智 , 田中尚文 , 村上峰子
    p. 151-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【はじめに】 当院の物忘れ外来では、認知症や軽度認知障害(以下、MCI)を有する患者の診療に医師や看護師と共に理学療法士(以下、PT)も携わっている。今回、義足作製中に担当PT が認知症を早期に発見し、早期介入によって認知機能の改善を認めた症例を経験したので報告する。

    【症例】 68 歳男性。妻との二人暮らし。現病歴:6 年前に糖尿病性壊疽により左下腿切断し、義足装着にてADL は自立していた。3 か月前に義足を新たに作製したが、十分に管理ができず、1 ヶ月で破損させた。担当PT が本人と家族に問診すると、薬の飲み忘れが増えた、易怒性の出現など、認知症が疑われるエピソードが聞かれたため、物忘れ外来受診を勧めた。

    【物忘れ外来での診察】 まず、PT が問診および神経心理学的検査を実施した(HDS-R:16 点)。診察の結果、アルツハイマー型認知症と診断された。身体活動量は1000 歩/日、水分摂取量は500ml/日、収縮期血圧は150 台、血糖値は200 台であった。腎機能障害と経済的理由により薬物療法は行わず、非薬物療法として運動療法および家族指導を担当PT が行った。

    【理学療法および結果】 家族および介護支援専門員と連携をして活動量の向上、水分摂取量の確保、服薬管理、義足管理の徹底し、デイサービスを週1 日から2 日に増やすように指導した。その結果、2 ヶ月後には身体活動量は

    6000 歩/日、水分摂取量は1500ml/日、収縮期血圧は130 台、血糖値は150 台、HDS-R:22 点となり、薬の飲み忘れや易怒性は改善した。

    【考察および結論】 本症例で提示したようにPT は認知症症状を早期に発見し、生活指導上のケアや家族指導を実施できる専門職である。認知症やMCI を有する高齢者は急増しているが、今後はPT が物忘れ外来に関わっていくことで、より良い認知症・MCI の治療が可能になると考えられる。

    【倫理的配慮および説明と同意】 患者および家族に症例報告について口頭および書面にて十分に説明し、同意を得た。

  • 成田悠樹 , 野崎陽平 , 保坂貴美子
    p. 152-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】地域在住高齢者の運動習慣を構築する手段として、トランスセオレティカル・モデル(TTM)という健康行動理論を用いた指導が取り入られている。一方、運動習慣の構築は、要介護高齢者にとっても生活機能の低下を予防する為には非常に重要となる。今回、複合的な疾病を罹患した要介護高齢者にTTM の活用から身体活動(PA)の向上を促し、その効果がみられたので報告する。なお、症例には事前に発表について十分な説明を行い、同意を得た。

    【症例紹介】65 歳女性。要介護2。訪問リハビリテーション実施期間は約3 ヵ月間。Hope は「杖で安心して歩けるようになりたい」。病歴は、平成24 年に脳梗塞を発症し、翌年に大腿骨頸部骨折を受傷。うつ症状もあった。日常生活活動(ADL)は車椅子自走にて自宅内を移動し、トイレ動作は自立。監視下にて4 点杖歩行が可能であった。TTM に関する行動変容ステージは実行期。運動が習慣化されていない状況であった。

    【経過】開始時のPA は週間歩数にて平均約240 歩と極めて少ない状況であった。TTM 活用時、行動変容を起こす方略として、セルフモニタリング・刺激統制の技法を用い、1 日のPA の測定と確認、自主運動表の提示等から行動のきっかけ作りになるように工夫した。また、行動達成後の次への意欲を引き出す為に、援助関係の利用から自己報酬を促した。その後、自立歩行実施の意思があり、下肢装具や移動先の環境調整を図ったところ、自宅内での歩行・運動機会が増加し、運動習慣の構築に繋がるようになった。最終評価時、PA は週間歩数にて平均約160 歩に向上し、行動変容ステージも維持期に変容した。

    【考察】症例は疾患の影響から車椅子生活中心の生活になっており、運動習慣が定着していない状況にあった。

    TTM を活用した結果、行動が変容し、運動が習慣化したことで身体活動の増進に繋がったと考える。TTM は地域在住高齢者だけでなく、要介護高齢者にも活用できる可能性が示唆される。

  • 松岡勇太 , 林悠太
    p. 153-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】今回、介護付有料老人ホーム入居中の超高齢者が、大腿骨転子部骨折受傷後の機能訓練によって生活機能に向上が認められ、その後、介護職員との連携により長期間維持された症例を経験したため、報告する。なお、本報告は対象者と家族に対し、ヘルシンキ宣言に沿って報告の主旨および目的の説明を行い、同意を得た。

    【症例】対象は、104 歳、女性、要介護2 で、アルツハイマー型認知症を呈している。平成25 年9 月5 日に当施設内にて転倒し、左大腿骨転子部骨折を受傷した。翌日に観血的手術を受け、同28 日に退院した。退院時、ピックアップ歩行器(前輪キャスター付)を使用し40m程度を見守りで歩けたが、歩容やアライメントの不良、疼痛が認められたため、転倒リスクが高いと判断し車椅子移動を選択した。その時のfunctional independence measure の運動項目

    (mFIM)は57/91 点であった。

    【経過】PT による機能訓練は、退院後1 ヶ月間は歩容の改善・歩行量の増加を目的とし、週3~4 回の頻度で実施した。その結果、居室内は独歩自立、居室から食堂までは介護職員見守りの下、ピックアップ歩行器(四輪キャスター付)にて歩行可能となった。mFIM は81/91 点まで向上した。 その後は、週1 回の機能訓練に加え、介護職員見守りの下、週1 回の屋外歩行や40m程度のフロア内の廊下を日常的に5 往復以上歩いている。転倒はなく、mFIM も

    81 点を維持している。介護職員には、日々の活動量の重要性や本症例の対応方法を書面や口頭にて指導し、転倒予防と活動量の確保を図っている。

    【考察】介護付有料老人ホームにおいて、退院直後のPT の早期介入、介護職員との連携による活動量の維持・増加によって、その後の生活機能の維持・向上につながることが示唆された。PT の役割は、個別での機能訓練の介入だけでなく、環境設定や福祉用具の選定、さらには介護職員への指導も重要になると考えられる。

  • 梅澤浩輝 , 小林将生 , 宮澤佳之 , 佐藤みゆき
    p. 154-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】片麻痺患者における四肢周径を急性期から在宅まで評価することで、エネルギー摂取量と消費量が体重および周径に与える影響を検討する。

    【方法】対象:視床出血・右麻痺。70 歳代・男性。初期評価時、体重54kg、BMI21.5、BRS 4-4-3、Barthel Index 5 点、m-FIM 17 点。発症7 週目に回復期に転棟。19 週目にT 字杖歩行自立し自宅退院。測定項目:体重、麻痺側・非麻痺側の大腿周径(膝蓋骨上0cm、5cm、10cm、15cm)、下腿周径(最大)、上腕周径(最大)、入院中は隔週で18

    週間10 回、在宅は発症24 週に1 回、計11 回測定。エネルギー摂取量と推定消費量は、入院中のみ毎週記録。

    摂取量は当院栄養課の記録を使用。消費量はハリスベネディクトの式から算出。摂取量と消費量の差からエネルギー蓄積量を算出。本研究は対象者に十分説明し同意を得て行った。

    【結果】0 週、4 週、8 週、12 週、18 週、24 週における体重は、それぞれ、54kg、50kg、50.5kg、51kg、53kg、51.5kg、大腿周径(10cm)は、それぞれ、麻痺側40.5cm、37.5cm、38.0cm、39.0cm、39.5cm、38.5cm で、非麻痺側40.5cm、

    38.5cm、38.5cm、38.5cm、40.0cm、39.5cm であった。エネルギー蓄積量は、超急性期(0 週、1 週)と合併症罹患期

    (4 週、5 週)において、それぞれ、-24kcal/日、-58kcal/日、-283kcal/日、-290kcal/日であり負の値を示した。それ以外の期間では45~280kcal/日であり正の値を示した。

    【考察】発症直後から麻痺側・非麻痺側の両下肢に周径減少がみられ、先行研究と同様の結果を示した。体重・周径の増加が、合併症の改善によりエネルギー蓄積量が正に転換した6 週目以降に見られたことから、合併症によるエネルギー蓄積量の低下を防ぐことが、体重・周径の減少を予防する一因になると考えられた。

    【まとめ】脳血管障害においても、エネルギー消費量に合わせて摂取量を適切に調整することが、体重・四肢周径の減少を防ぐために必要な可能性が示唆された。

  • 井出彰悟 , 沼尾拓 , 網本和 , 市川恭兵
    p. 155-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】半側空間無視(USN)の治療に視野を水平面上で変位させるプリズムアダプテーション(PA)が報告されているが実際のUSN 患者では水平面だけでなく前額面上での変位も同時に起きているとされる。Head Mounted Display

    (HMD)とweb カメラを使用することで、視野を水平面と前額面の三次元上で変位させることが可能となっている。水平面上(Yaw 角)でのPA 同様の効果は報告されているが前額面上(Roll 角)の効果は明らかとなっていない。体性感覚の情報を減らすことで視覚情報の比率を増やし、アダプテーションが優位に進むのではないかと考え、足底接地の有無によるアダプテーションの効果を検証した。

    【方法】書面にて説明し同意を得た健常成人16 名を足底接地群と非接地群に分けた。介入の前後に評価課題として、カメラを正中に向けたHMD を装着し足底を接地または非接地させた座位をとり、前方に設置したタッチパネルの体幹正中、胸骨柄の高さを人差し指で指差す課題を10 回ずつ行い、自身の上肢が見えないよう視界を調節した。

    介入は同様の肢位で胸部前方に4 点のターゲットを表示し、目視しつつランダムに計48 回指差しをさせた。HMD に装着したカメラを水平面上で右へ、前額面上で反時計回りにそれぞれ10 度傾けた。介入前後での指差し位置のずれを計測した。

    【結果】足底接地群は介入前に比べ介入後には水平面上で35±23mm 左へ偏倚していた(p<.01)。足底非接地群は水平面上で33±7mm 左へ 、前額面上で43±26mm 下方へ偏倚していた(p<.01)。

    【考察および結論】両群とも水平面上のアダプテーションは有意に生じていたが、体性感覚情報の影響のある前額面上の視野変化に対しては、臀部、足底と体性感覚情報の多い足底接地群においてはアダプテーション効果が認められず、臀部のみの足底非接地群は有意なアダプテーション効果が示された。症例に適用する場合にこのような足底接地の有無が重要な条件となると推察される。

  • 富田駿 , 加藤宗規
    p. 156-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】Body Lateropulsion(以下,BL)を呈し,立位保持困難となった症例に対し,段階的難易度調整を用いた評価と介入を実施し,その効果について検討した.

    【方法】対象は80 歳代女性.診断名は左中脳~視床梗塞であった.右上肢には軽度運動麻痺を認めたが,下肢には認めなかった.感覚は右上肢のみ深部・表在覚とも軽度障害であった.初期評価(3 病日)ではBurke Lateropulsion Scale(以下,BLS)が13/17 点であり,立位では右側後方に傾き立位保持が困難であった.3 病日から

    6 病日の立位保持練習は平行棒片手支持及び両手支持にて実施したが,介助を要した.そこで7 病日より段階的難易度調整を用いた評価と介入を開始した.目標を1 分間の立位保持とし,前方に鏡を設置した状態で支持物を段階的に変更した.支持物の段階は,段階1:縦手すり,段階2:平行棒片手支持,段階3:両手掌支持,段階4:片手掌支持,段階5:支持物なしの5 段階であり,段階の引き上げ基準は1 度でも1 分間の立位保持に成功した場合と

    した.本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院生命倫理審査委員会の承認を得て行い,症例と家族からも承諾を得た.

    【結果】17 病日に段階4 での立位保持に成功し,介助者1 人でのトイレ介助が可能となった.退院となった33 病日時点において段階5 での立位保持は困難.BLS は立位項目の改善は認めず10/17 点であった.

    【考察】理学療法を実施した30 日間において,BLS の立位項目評価では改善を認めず,理学療法への動機づけにもネガティブな影響を及ぼす可能性もあるとともに,トイレが1 人介助で可能となった変化をBLS では説明できない.段階的難易度調整を評価と介入に用いることにより,比較的短期間で立位改善を確認すること,および日常生活活動にも反映することが可能となるため,BL を呈する症例に有用であると考えられた.

  • 鈴木淳志 , 原島宏明 , 宮野佐年
    p. 157-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】牧迫らにより、歩行の自信の程度を把握する指標として、Gait Efficacy Scale(以下GES)が良好な信頼性を有する評価であると報告されており、自己効力感が歩行指標の変数やADL の低下、転倒の発生に影響を与えるとされている。退院時ADL の自立の可否は、在宅復帰に対し重要な因子であるが、GES を用いた自立度判断の報告は少ない。本研究の目的は退院時GES の有用性の検討と自立度判断値の算出は可能であるかの検討とした。

    【方法】対象は当院回復期病棟に在棟していた脳卒中患者49 名(男性33 名女性16 名、年齢70±11.6 歳)であり、評価項目は入退院時のGES、MMSE、10m 歩行快適・最大速度(以下10mCWS・10mMWS)、TUG、FBS、ABMS、FIM、mRS とした。統計学的処理では相関の検討、ROC 曲線を作図し、感度、特異度より、カットオフ値の算出を行った。各変数の関係はSpearman の相関を用いた。解析はSPSS17.0jForWindows を用い、5%未満を有意水準とした。

    【倫理的配慮】 本研究は当院リハビリテーション科における標準的評価のデータベースからの解析であり、全て匿名化された既存データのみで検討を行った。

    【結果】退院時GES と相関が認められた退院時評価項目はMMSE.312、ABMS.392、FBS.639、10mCWS.540、

    10mMWS.565、TUG.525、mRS.339、FIM.421 となった。ROC 曲線では曲線下面積.716、感度.941、特異度.583 であり、mRS grade2 と3 を判別する退院時GES のカットオフ値は54.5 点と算出された。

    【考察】結果より退院時GES と多くの評価項目に相関がみられた。これは回復期病棟において、身体機能面の向上には自己効力感も関係が強いことが示唆されている。カットオフ値より、自立度判断時GES も因子に加えることで、身体機能面、精神・心理面を含め、適切な自立度判断ができるのではないかと考えられる。

    【まとめ】 症例数を重ね比較・検討していくことで、さらにGES 評価の有用性の検証が必要である。

  • 尾崎将俊 , 村井政夫 , 磯部貴光 , 村田知之 , 沖川悦三 , 菅野達也 , 柏原康徳 , 山本澄子
    p. 158-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】近年、既存のペダリング機器とは異なる足漕ぎ車いすが登場した。足漕ぎ車いすはペダリング装置を漕ぎながら、ハンドル操作することで前後・左右への移動が可能である。本研究の目的は、回復期脳血管障害者に対して足漕ぎ車いす使用が即時的に歩行速度の変化に及ぼす影響を運動学、運動力学的に分析することである。

    【方法】足漕ぎ車いすはProfhand、計測機器は三次元動作解析装置、床反力計を使用した。対象は回復期脳血管障害者7 名。計測課題は足漕ぎ車いす使用前後の最大努力下の歩行3 施行及び足漕ぎ車いすペダリング計測とした。統計学的処理は、足漕ぎ車いす使用前後の歩行の時間距離因子・運動学・運動力学的パラメーター、ペダリング運動の麻痺側と非麻痺側の時間因子を比較するため有意水準5%としWilcoxon の符号順位和検定を用いた。

    【倫理上の配慮】本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て行った。

    【結果】歩行速度は使用前1.1m/s から使用後1.3m/s に有意な増加が認められた。床反力では、歩行周期における麻痺側踵離れからつま先離れの麻痺側床反力前方成分が使用前1.7N/kg から使用後2.0N/kg になり有意な増加が認められた。関節モーメントでは,歩行周期における麻痺側踵離れからつま先離れの麻痺側股関節屈曲モーメントが使用前0.9Nm/kg から使用後1.1Nm/kg になり有意な増加が認められた。ペダリング動作の各相における所要時間では、下肢関節伸展から屈曲に移る相が非麻痺側に比較して麻痺側で長くなる傾向があった。

    【考察】ペダリング運動において下肢最大伸展から屈曲に切り替わる時期で麻痺側の所要時間が長くなる傾向があった。この切り替える動作は,歩行周期中の麻痺側の踵離れからつま先離れの相に類似している。よって、下肢の伸展から屈曲に切り替える動きへのトレーニング効果が麻痺側股関節屈曲モーメント、麻痺側床反力前方成分増加に繋がり、歩行速度が増加したと考えられた。

  • 米村祐輝 , 川嵜康太 , 呂善玉 , 田中亨典 , 池田智子 , 金野千春 , 小池友佳子
    p. 159-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】我々は第51 回日本理学療法学術大会において,脳卒中片麻痺患者に対する歩行神経筋電気刺激装置

    (帝人ファーマ株式会社,ウォークエイド,以下WA)とゲイトソリューションデザイン(以下GSD)の併用(以下WA+GSD)による歩行練習の即時的効果について報告した.本研究では,WA とGSD の効果をより詳細に分析する為,GSD のみとWA+GSD の歩行練習による筋活動の変化を検証した.

    【方法】対象は脳卒中片麻痺患者5 例(男性5 名,平均年齢59.8 歳)とし,下肢Brunnstrom Recovery Stage3~5,下腿三頭筋の筋緊張はModified Ashworth Scale1~3 であった.介入は対象者ごとにGSD のみとWA+GSD の歩行練習を各30M 行った.それぞれ別日に実施し,間に未実施日を1 日設けた.計測は Gait Judge System(パシフィックサプライ社製)と表面筋電計を用い,介入前後の10M 歩行所要時間と麻痺側前脛骨筋,腓腹筋の筋活動を測定し,麻痺側遊脚期の各筋の積分値を算出した.統計処理はWilcoxon の符号付順位検定を用い,各介入前後で比較した.有意水準は5%とした.

    【倫理的配慮】本研究は,当院生命倫理委員会の承認を受け,対象者には書面にて同意を得て実施した.

    【結果】WA+GSD 介入前後において腓腹筋の筋活動に有意差を認め,介入後は筋活動が減少した.GSD のみ介入前後の腓腹筋の筋活動,WA+GSD,GSD のみ介入前後の前脛骨筋の筋活動に有意差は認めなかった.また,

    10M 歩行所要時間は数例の改善は認めたが,各介入前後で有意差は認めなかった.

    【考察】WA の効果として皮質脊髄路を刺激し拮抗筋の痙性の改善を認めると報告されていることからも,本研究の結果は,WA により麻痺側遊脚期に腓腹筋の筋活動減少を可能とし,脳卒中片麻痺患者に対する歩行練習の一手段としての有効性を示唆するものと考える.しかし,10M 歩行所要時間については歩行速度の向上に至らない例もあり,WA の効果を活かす適応例について検討していく必要がある.

  • 野本真広 , 矢倉千昭 , 石川響 , 鈴木大毅 , 合田明生
    p. 160-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】脳卒中片麻痺患者の麻痺側下肢筋力は歩行自立の独立因子であり,麻痺側膝関節伸展筋力は歩行能力と関連することから,歩行自立に影響する可能性がある.しかし,回復期における歩行自立度との関連を示した報告は少ない.本研究は,回復期リハビリテーション病院に入院中の脳卒中片麻痺患者を対象に,入院時と退院時の麻痺側および非麻痺側下肢筋力と歩行自立度との関係を調査した.

    【方法】対象は,脳卒中片麻痺患者22 名(年齢70.5±12.9 歳,男性13 名,女性9 名)であった.患者の基本情報として,年齢,性別,疾患名,障害名,MMSE の点数,FIM の総得点,運動項目,認知項目の点数,移動項目の点数を収集した.下肢筋力は,入院時と退院時における麻痺側および非麻痺側膝関節伸展筋力を測定した.本研究は,聖隷クリストファー大学院の倫理委員会の承認を得て実施し(受付番号:15016),ヘルシンキ宣言に沿って研究を実施した.

    【結果】歩行自立患者は,入院時13 名に対し退院時19 名であった.入院時歩行自立群の非麻痺側膝関節伸展筋力は,非自立群より有意に高い値を示した(p<0.05).入院時歩行非自立群と退院時歩行自立群では,非麻痺側膝関節伸展筋力が有意に高い値を示した(p<0.05).入院時および退院時歩行非自立群では,麻痺側膝関節伸展筋力が低下する傾向を示した.

    【考察】脳卒中片麻痺患者において,入院時および退院時の非麻痺側膝関節伸展筋力は歩行自立に関係する可能性が示された.先行研究より,脳卒中片麻痺患者の歩行動作は,麻痺側および非麻痺側の膝関節伸展筋力が重要であると報告されており,脳卒中片麻痺患者の歩行自立に非麻痺側膝関節伸展筋力が影響を及ぼした可能性があると考えられる.

    【まとめ】脳卒中片麻痺患者において,非麻痺側膝関節伸展筋力は歩行動作の自立に影響を及ぼす可能性があり,麻痺側の下肢機能だけでなく非麻痺側の下肢機能も評価していくことが重要である.

  • 宮本恵理 , 三浦隆 , 原田悠平 , 中村豊
    p. 161-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】神奈川県大磯町において、大磯町、東海大学、アルケア株式会社の三者による産官学連携での運動器機能評価と介護予防教室を併せたモデル事業を実施し、その有効性を検証する。

    【方法】大磯町の特定健康診査参加者のうち、同意の得られた513 人に運動器機能評価(ロコモ度テストとアルケア社製訓練機能付下肢筋力測定器『ロコモスキャン®』による大腿四頭筋を中心とした下肢筋力測定)を行い、基準以下の結果を示した者および希望者の合計85 人を対象に半年間、月一回の介護予防教室(強度別運動指導、健康講話、レクリエーション)を実施した。教室では初回と最終回の各種機能測定に加え、毎教室開催時に下肢筋力測定を実施し、その結果に応じて毎月の運動負荷強度を決定した。本教室は医師、保健師のほか神奈川県理学療法士協会から派遣された理学療法士の管理の下に開催された。本事業はヘルシンキ宣言に沿って行い、東海大学「人を対象とする研究」に関する倫理委員会において承認を得た上で実施した。

    【結果】参加者の教室継続率は87%、データ取得率は81%であった。項目別の結果では全体の87%が下肢筋力向上を示した。また、ロコモ度テストは65.2%が向上、23.2%が維持となった。ロコモ度テスト項目のうち身体的機能評価法である「立ち上がりテスト」、「2 ステップテスト」ではそれぞれ27.5%、44.9%の結果向上が認められ主観的評価法の「ロコモ25」では66.7%が改善傾向を示した。その他に、歩行速度、片脚立ちでは有意に改善傾向を示した。

    【考察】地域レベルで運動器機能評価を行い、健康リスクを有すると思われる住民を対象に介護予防教室を開催することにより、参加者の健康を身体的指標・主観的指標の双方から向上させることができた。今回の定期的な下肢筋力測定による個人に適した負荷の運動指導が、参加者の無理のない運動継続につながり、運動器機能向上に貢献したと考えられる。

  • 加藤仁志 , 渡部美沙 , 中村有希 , 入山渉 , 鳥海亮
    p. 162-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】都市部在住高齢者における足趾把持力を調査した先行研究では、足趾把持力は高齢者の運動機能の評価として有用であり、介護予防や転倒予防における評価法として活用できることが示唆されているが、山間部では足趾把持力と運動機能との関連は明らかにされておらず、評価の有用性は明らかになっていない。そこで本研究では、山間部在住高齢者における足趾把持力評価の有用性を検討するために、足趾把持力と運動機能との関連を明らかにすることを目的とした。

    【方法】対象は山間部の介護予防事業に参加している地域在住高齢者28 名とした。検査項目は足趾把持力、等尺性膝伸展筋力、片脚立ち時間、Functional Reach Test(FR)、5m 最大歩行、Timed Up and Go Test (TUG)であった。

    足趾把持力の測定は足趾筋力測定器を用い、測定肢位は椅子座位とし足趾を測定器のバーに掛け、バーを最も把持しやすい位置に調節し、最大筋力で足趾を屈曲させ筋力を測定した。統計学的解析は、足趾把持力と他の運動機能との関連を検討するためにSpearman の相関係数を算出した。また、片脚立ち時間、FR、5m最大歩行速度、TUG を従属変数とした重回帰分析を行った。対象者には書面にて研究内容を説明し、署名にて同意を得た。

    【結果】足趾把持力との相関が認められたのは片脚立ち時間のみであった(r=0.39、p=0.04)。片脚立ち時間、FR、5m

    最大歩行速度、TUG を目的変数とした重解析分析の結果、いくつかの項目が説明変数として抽出されたが、いずれの分析においても足趾把持力は抽出されなかった。

    【考察】山間部在住高齢者における足趾把持力は他の運動機能との関連性が低く、評価としての有用性も低く、先行研究とは異なる結果であった。本研究と先行研究との相違点は、対象者の居住地域であり、本研究では山間部に在住し、先行研究では都市部に在住している。この山間部と都市部の相違点として生活様式や職業歴などの影響が考えられた。

  • 坂本祐太 , 志茂聡 , 甘利貴志 , 堀内俊樹 , 渡邉浩文
    p. 163-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【はじめに】慢性痛には精神・認知的要素が影響する。就労者の抱える痛みとしては腰痛が代表的である。近年、就労者の腰痛に対し,身体機能として柔軟性や筋力の改善が痛みの軽減に関与する報告は散見されるが,リハビリテーション従事者を対象にした報告は少ない。本研究では,慢性痛をもつ就労者の,痛みの精神・認知的要素と身体機能の比較とともに身体活動量を指標の一つとして検討した。

    【方法】対象は,リハビリテーション業務の従事者とした。3 か月以上の痛みを持つ慢性痛群9 名,健常群11 名の計

    20 名とした。評価項目は,慢性痛評価としてVisual Analog Scale,Pain Catastrophizing Scale,Hospital Anxiety and Depression Scale を用いた。身体機能には,握力をスメドレー式握力計,下肢筋力を徒手筋力計で膝伸展筋トルク値

    (Nm/kg)を算出し,柔軟性をFFD(Finger Floor Distance:指床間距離)で測定した。身体活動量は,身体活動量計を用いた。統計学的解析は慢性痛群と健常群の2 群をt 検定で比較し,解析にはJMP ver11 を用いた。なお,本研究はヘルシンキ宣言に則り説明し,同意を得た。

    【結果】慢性痛群は,痛み期間230.6±228.1 週,VAS 36.9±27.9mm,痛み部位は腰部4 名,頭頚部3 名,鼠径部

    2 名,胸部1 名,肩部1 名,膝部1 名となった。統計学的解析では,FFD は慢性痛群-5.6±8.6cm,健常群

    5.13±9.2cm で統計学的有意差を得た(p<0.05)。その他の項目では,統計学的有意差は得られなかった。

    【考察】本研究により,リハビリテーション従事者における慢性痛の部位は腰痛の比率が多い傾向が明らかとなった。

    しかし,その他の部位においても,慢性化した痛みを訴える対象がみられた。慢性痛群と健常群の比較では,柔軟性の指標であるFFD に統計的有意差を得た。また,痛みの精神・認知的要素,身体活動量は有意差を認めなかった。就労者における慢性痛には,身体機能の柔軟性が関係する可能性が示唆された。

  • 吉澤隆治
    p. 164-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【はじめに】 地域包括ケアにおける介護予防施策として、さまざまな場所で理学療法士によるイベントが展開されている。今回、介護予防および健康コミュニティの構築を目的に保険薬局にてウォーキングイベントの定期的な開催スキームを確立した。

    【方法】 ウォーキングイベントの中心となる実施内容は、メディカルウォーキングというメソッドを採用した。実施内容は以下の通りである。 測定:血圧、体重、歩幅 講座:歩行の効果(理学療法士) サルコペニアとは?<運動におけるたんぱく質摂取の重要性>(管理栄養士) 実技:筋トレ、インターバル歩行(歩行速度計測)【結果】 上記のスキームにて、月1 回の頻度で開催した。参加人数は延べ132 名(2015 年6 月~2016 年3 月)測定結果、歩行速度の改善が認められた。また、参加者に聞き取りを行った結果、ウォーキングが定着化した、股関節の痛みが軽減したという回答を得た。

    【考察】 この取り組みは、保険薬局が介護予防を実践する拠点化、薬局起点の健康コミュニティの構築を目的として企画した。保険薬局で行う理由として、外来リハや介護事業所の利用を避ける傾向にある虚弱な高齢者が多数いることを店舗勤務の薬剤師および管理栄養士に対するインタビューによって確認した。さらに、厚労省から2015 年10

    月に出された「患者のための薬局ビジョン」の中で、健康管理の拠点として保険薬局が健康サポート薬局として機能することを期待されている背景がある。保険薬局の機能に理学療法士としての専門性が加わることで、健康不安のある地域住民に対し、薬剤師および管理栄養士との専門的なアプローチによって運動を継続することが可能になる。

    今後、このスキームが介護保険における地域リハビリテーション活動支援事業として機能させることによって、安心安全なまちづくりにつなげていくことを関係機関とともに検証していく。

  • 原田智史
    p. 165-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】山梨県A 市より委託された二次の介護予防複合プログラムに多職種と共に携わっている。今回、ある対象者からPT の専門性や住環境評価の必要性を考える機会を得て、今年度からは評価する体制を整えた。今後PT が介護予防に携わる際の指針の一助となることを目的に実践報告をする。なお本演題はヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には説明と同意を得ている。

    【対象】 対象は変形性膝関節症を罹患し、BMI 29.6 の74 歳女性で、「膝が痛い」「階段の昇り降りが大変」との主訴を持つ方である。問題点は、両膝関節の痛み、体重増、バランス能力低下、歩行能力低下。また、運動の為に行っている階段昇降が、過負荷の懸念があることや自宅内に段差が多く、浴槽も深いなど住宅環境にも問題があった。

    【プログラムの提示と結果】膝の疼痛軽減及び持久力向上目的に筋力強化や座位ウォーキング、座位バランスなどのプログラムを提示した。3 か月後、長坐位体前屈、開眼片脚立位、5m 最大歩行、TUG に改善が認められたが、膝の痛みに変化はみられなかった。カンファレンスでは、保健師から「階段昇降を無理して行っており、自宅内に段差が多く住環境が整っていないため、運動よりも生活の安定が必要ではないか」という住環境評価の必要性を示唆する意見が出た。

    【結論とまとめ】我々の関わりで、身体機能の向上や自立した生活の継続には繋がったが、住環境に対しては提案のみの指導となった。二次の介護予防は要介護状態の発生を防ぐことが目的であり、対象者は元来生活機能悪化のリスクを抱えている。二次の介護予防でPT に求められる専門性は「運動と生活を繋ぐ」ことであり、そのためにはPT が住環境評価と指導を行うことも必要である。A 市の理解もあり、介護予防事業として住環境評価を行う体制を整うことができたため、今後は住環境の視点も併せ持ち介護予防を実践していきたい。

  • 南條恵悟 , 池田崇 , 前田真吾
    p. 166-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】 通所リハビリテーション(通所リハ)ではFrenchay Activity Index(FAI)を用いた手段的日常生活活動

    (IADL)の評価が推奨されている。FAI で測定される身体活動が地域高齢者の運動機能の維持に寄与することは報告されているが, 要介護者を対象とした報告は少ない。そこで本研究は通所リハ利用中の要介護者を対象としてIADL の程度が運動機能の変化に及ぼす影響を検討することを目的とする。

    【方法】 対象は平成27 年5 月~平成28 年2 月の期間中に短時間型通所リハを利用した要介護者で, 6 ヶ月以上の利用があった32 名(平均年齢77.9±10.2 歳 男性14 名 女性8 名)とした。評価項目はFAI, Timed Up and Go Test(TUG), Functional Reach Test, 片脚立位保持時間, 高齢者用マシンによるLeg press, Hip abduction, Knee extension, Rowing の等尺性最大筋力の体重比とし, 後方視的に診療録より取得した。平成27 年5 月~7 月までの計測値を初回評価, 3 ヶ月後を中間評価, 6 ヶ月後を最終評価とした。統計解析は初期評価時の全対象者のFAI の中央値(14 点)を基準値とし, 中間評価時の時点で基準値よりも高い点数の対象者を高活動群15 名, 低い点数の対象者を低活動群17 名とした。群間での各評価項目の変化率の比較を対応のないt 検定を用いて行った。変化率は, 最終評価の値を初期評価の値で除し100 を乗じた数値(%)とした。統計学的有意水準は5%とした。本研究はリハビリケア湘南かまくら小倫理委員会(16-01-006)の承認を得て実施した。

    【結果】 TUG の変化率が高活動群(93.4±15.1%)に比べ低活動群(102.9±10.4%)で有意に高値であり, その他の評価項目の変化率には群間で有意差は見られなかった。

    【考察】 IADL の自立していない地域高齢者で歩行習慣や外出頻度の低下が歩行速度等の低下を招くとは報告されている。本研究の結果から, 低活動の要介護者は定期的な機能練習をしていても移動能力の低下を招き易い可能性が示唆された。

  • 北原俊 , 杉山正樹 , 大塚千晴 , 柏崎龍朗 , 高崎友宏
    p. 167-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【はじめに】当院では平成26 年度からロコモティブシンドローム(以下ロコモ)健診を実施している。今回アンケートによるロコモ25 を用い、受診者が運動機能の低下・生活状態への不安を感じる要因となる身体的特徴について検討したので報告する。

    【方法】 平成26 年4 月から平成28 年3 月の当院ロコモ健診受診者66 名をロコモ25 の判定基準を基に「ロコモ度

    0」群(23 名)、「ロコモ度1」群(21 名)、「ロコモ度2」群(22 名)に分けた。身体機能として、「2 ステップ値」、「脚力年齢」、「開眼片足立位時間(左右)」、「閉眼片足立位時間」、「10m歩行時間」、「TUG」を各群で多重比較・フィッシャーの正確確率検定を用い比較・検討した。尚、データは厚生労働省情報管理ガイドラインに基づく匿名化の処理管理を実施した。

    【結果】「2 ステップ値」、「開眼片足立位時間(左右)」、「閉眼片足立位時間」に各群で有意差は認なかった。「10m歩行時間」では「ロコモ度0 群」対「ロコモ度2 群」でP 値=0.011、「ロコモ度1」群対「ロコモ度2」群でP 値=0.002

    の有意差を認めた。「TUG」では「ロコモ度0」群対「ロコモ度2」群でP 値<0.001、「ロコモ度1」群対「ロコモ度2」群でP 値=0.001 の有意差を認めた。「脚力年齢」では「ロコモ度0」群が40 代-50 代に16 名、「ロコモ度1」群が60 代に8 名、「ロコモ度2」群が70 代に9 名と各群内で人数が集まっており、P 値<0.001 にて有意差を認めた。

    【考察】高齢者は運動単位数の減少によりTypII 繊維の縮小、TypI・TypII の混在が増加するといわれている。「10m

    歩行」、「TUG」、「脚力年齢」では他と比較し、TypII 繊維の影響が大きいと考えられ、下肢筋力低下が受診者の自覚的不安感の原因となったことが推測される。

    【まとめ】受診者の自覚的不安感の身体的特徴として下肢筋力の低下の影響が大きいことが確認された。

  • 山賀恭輔 , 三宮将一 , 坂本篤則 , 田村暁大 , 戸塚裕亮 , 上林和磨 , 刀根章浩 , 赤坂清和 , 山本邦彦(MD)
    p. 168-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】大腿骨近位部骨折では3 週間以内にADL 能力が回復しない場合に病院転院が多いが早期に杖歩行が自立し自宅退院となる症例がある。今回、大腿骨近位部骨折の年齢、術後在院日数等の基本情報や術後5 日のSLR、基本動作、トランスファーや歩行介助量と歩行補助具を調査し転退院時の杖歩行自立に関わる予測因子を検討した。

    【方法】2015 年2 月~2016 年1 月に入院した大腿骨近位部骨折95 例から保存療法、ハンソンピン、術後併存症状がある症例等を除外し、術後5 日に調査項目の全ての情報がある40 例を対象。調査項目は年齢、術後在院日数、術前待機日数、受傷機転、術前屋内外歩行能力、認知症の有無、骨折側、骨折部位(頚部または転子部)、手術内容、術後5 日のSLR 可不可、起き上がり、起立、立位、トランスファー、歩行の介助量と歩行補助具、荷重量とした。

    起き上がり、起立、立位、トランスファーは監視以上を可、介助以下は不可、歩行は歩行器歩行監視以上で可、歩行器歩行介助や平行棒内歩行、歩行困難は不可とした。転退院時は病棟内歩行介助量、歩行補助具、荷重量を調査し杖歩行が修正自立以上で自立、監視以下は不可とした。退院時杖歩行自立(10 例)と不可(30 例)の2 群とし術後在院日数、術前待機期間、年齢のMann-Whitney U 検定を行った。ロジスティック回帰分析は目的変数を杖歩行自立・不可、説明変数はχ2 検定p<0.1 の項目、術後在院日数、術前待機期間、年齢は単回帰分析p<0.1 としp 値を用いたステップワイズにて変数選択を行った。

    【結果】術後在院日数、術前待機期間、年齢に有意差はなかった。χ2 検定は認知症の有無、起き上がり、立位、起立、トランスファー、歩行器歩行可不可に有意差を認めた。ロジスティック回帰分析は骨折部位が頚部、トランスファー可能を抽出した。

    【考察】転退院時の杖歩行自立は頚部骨折で術後5 日にトランスファー可であることに影響される可能性が高いと示された。

  • 長嶋遼 , 鎌田知紗 , 日野裕介 , 小島一則(MD) , 長田信人(MD)
    p. 169-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
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    【目的】全身振動トレーニング(以下WBVT)は振動刺激を用いた運動療法であり、関節負荷が低いことから医学領域に用いられている。先行研究は高頻度(週3 回)のものが散見しているため、低頻度(週1 回)でのWBVT の効果を研究することとした。

    【方法】対象は運動器不安定症と診断された26 名(男性3 名、女性23 名、平均年齢72.5 歳)。WBVT を行う群

    (WBVT 群)と床上で行う群(no-WBVT 群)をランダムに分けhamstrings stretch、squat、deep squat を各30 秒、週1 回で12 週行った。WBVT はPower PlatePro5®:POWER PLATE International 社製を用いた。home exercise は安保らの研究からleg extension とASLR exercise を指導し実施頻度を確認した。1、4、12 週目に30 秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)、TUG、片脚立位を測定し結果をt 検定で解析した。被験者には本研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。

    【結果】CS-30 は4 週目でWBVT 群がno-WBVT 群に比べ有意に値が上昇した(p<0.05)。TUG は4 週目で群間の有意差は見られなかったが、12 週でWBVT 群がno-WBVT 群に比べ有意に減少した。片脚立位は群間での有意差は見られなかった。またhome exercise の回数に有意差は見られなかった。

    【考察】全身振動は連続的な伸張反射と相互抑制を生じる緊張性振動反射を引き起こす。Roelants らの研究ではsquat 姿勢による筋電図を測定した所、WBVT を用いた場合下肢筋力の筋電図が有意に上昇した(227~400%)とされている。WBVT による筋活性化に加え、拮抗筋の相互抑制が生じたことで高い負荷を与え、筋力増加が生じたと推察する。また松田らの報告では下肢筋力と動的バランスの相関が認められており、WBVT による動的バランスの改善も示唆された。

    【おわりに】WBVT は医療現場での利用が増加しているが研究報告の数は少ない。本研究では週1 回という低頻度においてもその効果が確認された。今後は運動療法の選択肢の一つになりうる可能性が伺われた。

  • 佐藤元勇 , 仲島佑紀 , 大西和友 , 三上紘史 , 藤井周
    p. 170-
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/03/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】中高齢者の反復性肩関節脱臼はBankart 損傷に加え腱板断裂を合併することがあり、その両者を修復した場合、術後可動域の回復が遷延することが懸念される。本研究は、鏡視下Bankart 修復術(ABR)に鏡視下腱板修復術(ARCR)を併用した症例の術後可動域推移を検証することを目的とした。

    【方法】当院において50 歳以上でABR を施行し、術後6 ヶ月以上経過観察が可能であった34 例を対象とした。

    ABR 単独で行った24 例(単独群:男性9 例、女性15 例、年齢56.6 歳)とABR にARCR を併用した11 例(併用群:男性3 例、女性8 例、年齢66.5 歳)の2 群に分類した。これら両群の術後1、3、6 ヵ月の可動域推移を比較検討した。統計学的解析には両群間および時期を2 要因とした2 元配置分散分析を用い、有意水準は5%とした。なお術前可動域は単独群で他動挙上(AE)は153.3±17.7°、下垂位他動外旋(ER)で57.9±11.7°、併用群AE は

    142.7±32.5°、ER は57.2±10.8°であり両群間に有意差はなかった。データの取扱いにはプライバシーの保護に充分配慮した。

    【結果】術後1、3、6 ヵ月における可動域は、AE は単独群で118.3±20.3°、143.7±14.5°、157.5±15.8°、併用

    群で116.8±18.6°、145.9±21.8°、152.7±21.0°であった。ER は単独群で17.5±17.0°、28.9±14.9°、

    43.5±17.1°、併用群で20.9±10.6°、31.3±11.6°、40.0±14.3°であった。両群間および時期を2 要因とした2 元配置分散分析の結果、各時期による主効果は認めたが、両群間では主効果は認められなかった。

    【考察】中高齢者の反復性肩関節脱臼に対する鏡視下Bankart 修復術は、腱板修復術を併用しても術後早期の他動関節可動域の推移は同等であった。本研究結果は術後理学療法展開の一助となると考えるが、臨床上、併用群においては可動域回復に難治する症例も見られたことを考慮し、今後さらに症例数を増やし追究していく必要があると考える。

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