Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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79 巻, 1-4 号
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原著
  • 内野 透, 白子 智康, 吉里 尚子, 吉成 暁, 鳥居 高明, 中村 匡聡
    原稿種別: 原著
    2021 年 79 巻 1-4 号 p. 1-14
    発行日: 2021/06/11
    公開日: 2021/09/11
    ジャーナル オープンアクセス

    2015年から2017年にかけて静岡県焼津市の水路から採集されたフネドブガイ属の一種 Anemina sp. について,種を特定することを目的に分子系統解析および殻形態の検討を行った。ミトコンドリアCO1遺伝子を用いた分子系統解析の結果,静岡県産フネドブガイ属はDNAデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録されているフネドブガイ Anemina arcaeformisAnemina globosulaAnemina euscaphys の配列とともに単一のクレードを形成し,クレード内の平均遺伝距離が0.39%と小さいことから,これらはすべてフネドブガイとして見なされ得ることが示唆された。一方,形態観察では,静岡県産フネドブガイ属の殻形態は,殻後端の位置が低い点と稜線が発達する点,殻幅が小さい点で Anemina euscaphys のそれと一致した。DNA塩基配列を取得した個体の形態に関する情報は先行研究では示されておらず,これらの配列が誤同定された個体から取得された可能性も考えられること,ならびに,これらを分類学的に整理した先行研究はなされていないこと,また,検討すべき有効種である Anemina fluminea が先行研究では扱われていないことから,本研究では種を確定させず,フネドブガイ属の一種とするに留めた。

    フネドブガイとして見なされ得る系統群は,これまで中国,韓国,日本の九州北部に分布することが知られており,本州からは初の記録である。今回本種が見つかった水路はウナギ養殖場から流れ出ているものであることから,本種はウナギ稚魚(シラスウナギ)の輸入に伴い,他の生息地から移入された可能性がある。一方で本種はヌマガイ Sinanodonta lauta やタガイ Beringiana japonica,ミナミタガイ Beringiana fukuharai などとよく似ているため,在来種でありながらこれらの種と混同されてきたためにこれまで報告がなかったという可能性も十分に考えられる。

  • 天野 和孝, 小森 加成江
    原稿種別: 原著
    2021 年 79 巻 1-4 号 p. 15-28
    発行日: 2021/06/11
    公開日: 2021/09/11
    ジャーナル オープンアクセス

    アカガイScapharca broughtoniiとその近縁種が本州日本海側の上部鮮新統から発見された。これはアカガイとその近縁種の最古の記録である。サトウガイScapharca satowiも秋田県の上部鮮新統天徳寺層のアカガイと同じ産地から報告されている。これらの化石記録は,遺伝的に近縁なアカガイとサトウガイが後期鮮新世までに半閉鎖的な日本海に流入した暖流の北限付近で種分化したことを示唆している。本種の冷温帯水域からの最古の記録は北海道中部の中部更新統の伊達山層からの化石である。このことは,アカガイは中期更新世に冷水域に適応進化したことを示唆している。

短報
  • 伊藤 寿茂, 染谷 聖, 柿野 亘
    原稿種別: 短報
    2021 年 79 巻 1-4 号 p. 29-33
    発行日: 2021/06/11
    公開日: 2021/09/11
    ジャーナル オープンアクセス

    イシガイNodularia douglasiae(岡山県産イシガイ属)の幼生について,それらが寄生を継続して稚貝に変態できる魚種(潜在的宿主)を実験飼育下で確かめた。健常な幼生を人為的に寄生させた10魚種(キンギョ,オイカワ,カワムツ,タモロコ,ミナミメダカ,オヤニラミ,アシシロハゼ,ヌマチチブ,ゴクラクハゼ,ヨシノボリ属の一種)を水槽内で継続飼育して,魚種毎に離脱してきた幼生と稚貝を観察,計数した。その結果,オイカワ,カワムツ,ミナミメダカ,アシシロハゼ,ヌマチチブ,ゴクラクハゼ,ヨシノボリ属の一種の7魚種より,変態を完了させた稚貝が出現した。このうちヨシノボリ属の一種は既にイシガイの宿主として知られていた。オイカワとカワムツは,かつてのイシガイの亜種で現在は同属他種とされるタテボシガイNodularia nipponensisの宿主として知られていたが,本報によりイシガイの宿主としても機能することが判明した。本報では,ミナミメダカ,アシシロハゼ,ヌマチチブ,ゴクラクハゼの4魚種が,日本産イシガイ属の宿主として,新たに検出されたことになる。これらの魚種は自然下においてもイシガイの繁殖に寄与している可能性がある。

  • 陳 哲宇
    原稿種別: 短報
    2021 年 79 巻 1-4 号 p. 34-37
    発行日: 2021/06/11
    公開日: 2021/09/11
    ジャーナル オープンアクセス

    Serriphaedusa属はNordosieck (2001) によって,四川省のClausilia serrata Deshayes, 1870をタイプ種として創設された。この属は,殻口の上板の大部分が螺状板から分離していること,下板が急激に上行することや,縫合に3~8の腔襞をもつか,それらの一部が連結して月状襞となることで特徴づけられる。本属はこれまでのところ中国固有であり,20以上の既知種もしくは亜種が四川省,雲南省,貴州省や広西チワン族自治区に分布している。著者は成都の劉正平氏が四川省雅安市滎経県龍蒼溝国家森林公園から採集した本属の標本を研究した結果新種と認めたので,ここに記載する。

    Serriphaedusa zhengpingi n. sp.

    貝殻は大型で濃い褐色,ホロタイプの殻長は41.2 mm,螺層は12½層。原殻は細かく刻まれる。初期成殻には細かい成長脈が密に並ぶが,体層に近づくにつれて不規則で疎らとなる。殻口は斜めの紡錘形で外唇は厚く反転して次体層から離れる。殻口上部の湾入は鋭い角度を形成する。主襞はよく発達し,奥部では徐々に弱まって螺状板に接続し,下板は上板から大きく離れて位置する。下軸板は明瞭に現れ,主襞は腹後側から背側に位置する。縫合襞は存在し,腹外側から背側に走る。上腔襞と斜めに位置する月状襞は三角形を形成する。閉弁は殻口から見えない。

    本新種は大型で細長い貝殻をもつことでSerriphaedusa marteli (Dautzenberg, 1915)とSerriphaedusa boisseaui Grego & Szekeres, 2011に類似するが,縫合襞をもつこと,主襞や月状襞がより奥部に位置すること,上腔襞を1本しかもたないことでこれらの種から区別される。また,殻口の周りには結節が生じない。

  • 照井 滋晴, 秋山 吉寛
    原稿種別: 短報
    2021 年 79 巻 1-4 号 p. 38-43
    発行日: 2021/06/11
    公開日: 2021/09/11
    ジャーナル オープンアクセス

    We observed sphaeriid clams attached to the digits of salamanders distributed in wetlands of eastern Hokkaido, Japan. One of the clams in either the genus Euglesa or Odhneripisidium was found on a salamander (Salamandrella keyserlingii) captured on dry land, showing that the clam was being transported by a land-walking amphibian. It is possible that sphaeriid clams migrate between water areas using salamanders to expand their distribution.

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