中部熱帯アフリカにおける農耕民の研究は, 主生業である焼畑農耕が中心に論じられてきた。一方で, 農耕民は農耕だけでなく狩猟活動も盛んに行っていることが指摘されている。しかし, それらの活動はそれぞれ独立して研究される傾向にあった。これに対し, 本稿ではそれら活動の連関に注目する。
具体的には, カメルーン南部熱帯雨林に暮らすバンツー系農耕民ファンの焼畑農耕, カカオ生産, 狩猟活動の関係を土地利用と労働力利用の視点から分析を行った。土地利用の観点からは, 獣害を防ぐという点で, ファンは焼畑とカカオ畑を狩猟場として利用している。労働力利用の観点からは, 労働の報酬という点で獣肉が密接に関わる。なぜなら, ファンは, 焼畑の伐開やカカオ収穫のための労働の報酬として獣肉を含めた食事と蒸留酒を提供しなければならず, 蒸留酒の購入には, 獣肉やカカオの販売によって得られた現金が利用されるため, 獣肉の確保が不可欠になるからである。
このように, 焼畑農耕, カカオ生産, 狩猟が, とりわけファンの労働力確保の点で相補的に結びつき, 活発化しているのである。これは, リスク回避として, 状況に応じて別の生業を選択する, これまでのアフリカ農耕民の生業複合の理解とは異なり, 新たな視座を提供するものである。
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