多くのアフリカ諸国でみられるように,アフリカ中部のガボン共和国では,病気の治療や家族関係,仕事,そして政治的な問題の解決のためにおこなわれる伝統儀礼が,広く人びとのあいだで信じられ,利用されている。なかでも「ピグミー」と呼ばれる人びとは,豊富な植物の知識をもち,超自然的な力をそなえた存在として特別視されている。
本稿では,ガボン南部のピグミーの1グループであるバボンゴの伝統儀礼について,以下の2点を明らかにする。(1)バボンゴは,周縁的な村に暮らしていながらも,伝統儀礼を通じて政治的な権力者を含めた都市の人びととの関係を築いている。(2)現金収入の乏しい村に暮らすバボンゴにとって,伝統儀礼が貴重な収入源となっている。
これまでの研究では,ピグミーが周縁的な存在であるために,外部世界と関わるには近隣農耕民に対して政治的に依存せざるをえないこと,近代的な国家システムへの参与が困難であることが指摘されてきた。しかしながら,ガボン南部のバボンゴは,周縁的な存在であるために逆に外部の人びとから伝統儀礼が価値づけられ,その能力が頼られることで,農耕民に依存することなく外部世界とかかわり,伝統儀礼の担い手として独自の社会的地位を築いているといえる
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