アフリカ研究
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2016 巻, 90 号
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
論文
  • —ヴィシー政権期・仏領西アフリカにおけるホテル襲撃事件と事件の捜査・対応の検討から—
    中尾 世治
    原稿種別: 論文
    2016 年 2016 巻 90 号 p. 1-13
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,ボボ・ジュラソでのホテル襲撃事件を事例とし,植民地行政のイスラーム認識とその認識が事件の捜査でいかに運用され,事件への対応がどのような結果を招いたのかを論じた。事件までの経緯の検討からは,襲撃者たちが既存のイスラームの権威とは疎遠であったこと,賃金労働者を巻き込むものであったことを指摘した。さらに,事件の中心人物たちは元衛兵のネットワークによって結節していたことを明らかにした。しかし,これらの点は,実際の捜査ではほとんど注目されることはなかった。事件の捜査の検討からは,連合総督が直接介入するトップダウンの捜査によって,現場の行政官の報告が度外視され,「外部」からの「影響」という想定に固執し,捜査が迷走したことを示した。さらに,対応としては,オート・コートディヴォワール首席行政官の独断による「行政的処罰」を高官たちが追認した結果,大モスクのイマームやハムダライ街区の有力者などが収監された。この両人のボボ・ジュラソからの追放によって,一方において,大モスクのイマーム位が植民地行政との距離の近さを要求されるようになり,他方では,ハムダライ街区内部での局所的な政治・宗教的状況の変化を引き起こし,これらが1940年代末以降のムスリム内部における対立関係の政治的状況を用意したことを明らかにした。

  • —ケニアの灌漑事業区への入植者とその息子たちの事例分析—
    伊藤 紀子
    原稿種別: 論文
    2016 年 2016 巻 90 号 p. 15-28
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,ケニア最大の稲作地域「ムエア灌漑事業区」の農民が,「市場経済的行為」と「モラル・エコノミー的行為」を,どのように生計や社会に組み込んでいるのかを検討する。具体的には,事業区への入植者である第一世代と,その息子たちからなる第二世代の農民が,コメを生産・処分する過程に注目し,次の3点を明らかにする。(1)第一世代と第二世代はともに,市場経済的行為とモラル・エコノミー的行為を組み合わせているが,生産と処分の過程においてそれらの組み合わせ方が異なる。(2)世代間の行為の組み合わせ方の違いは,第一世代と第二世代のそれぞれが持つ社会関係や,利用できる水田の広さの違いに関連する。(3)第一世代と第二世代は,相互行為を通じて世代間の経済格差を是正しながら,共存している。以上3点から,コメを生産する過程が世代間に緊張を発生させるが,コメを消費する過程がその緊張を和らげており,2つの世代の農民はこの過程を通して,入植村における社会関係を培っていることがわかる。本事例は,アフリカに創設された商品生産の地において,市場経済原理と慣習制度の規範の両方を組み込むことが,農民の生計や社会秩序の維持に大きく貢献していることを示唆する。

研究ノート
  • 五野 日路子, 高根 務
    原稿種別: 研究ノート
    2016 年 2016 巻 90 号 p. 29-36
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,マラウイの社会的現金給付政策におけるコミュニティ住民主体の受給者選定(CBT)の特徴を,村落レベルの実態調査にもとづき検討することにある。検討にあたっては,①CBTにおいて問題とされてきた,権力者による恣意的な選定や富裕層の受給がどのように回避されているか,②CBTで選ばれた受給者世帯がどのような社会経済的特徴を有しているのかに注目した。まず,この政策における受給者決定プロセスにおいては,富裕層や村長を排除する制度が採用されており,これまで問題とされてきた恣意的な受給者の選択が避けられていた。また,受給者世帯となっているのは,政府の定める受給条件だけではなく,農村住民が重要と考える貧困や脆弱性の基準を考慮して選ばれた世帯であった。先行研究において指摘されてきた政府の定める受給者条件と実際の受給者の判断基準に違いが現れるのは,受給者選定方法に問題があるわけではなく,誰が受給者となるべきかに関して政府と農村住民の間に判断基準の違いがあるためだと考えられる。したがって今後の政策の評価においては,村民が置かれている現状や,村民自身の判断基準をも考慮に入れた,詳細かつ多面的な評価が必要である。

特集:アフリカの人口高齢化―健康・生活・ケアの現在と未来
  • 増田 研
    原稿種別: 特集:アフリカの人口高齢化―健康・生活・ケアの現在と未来
    2016 年 2016 巻 90 号 p. 37-46
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    感染症による死亡率が低下したアフリカでは現在,人口が急増する一方で長寿命化が進行している。この延長線上に,今世紀後半にやってくるとされるアフリカの少子高齢時代をどのように迎えるのか,そのためにどのような調査や政策が求められるのか,という課題に関する問題整理を試みたのが本稿である。高齢化社会の到来をにらんだ取り組みとしては,年金や給付金制度の策定などがすでにいくつかの国で始まっているが,高齢者の生活ケアや健康・医療問題など,課題は多いとされる。アフリカ社会の高齢化に関する先行研究の多くは,社会保障の不在や非感染症への対応の遅れ,都市部貧困層の高齢化,農村社会の高齢化,ファミリーケアの衰退といった数多くの問題点を指摘する。しかしながら,個別社会において人口高齢化が何をもたらすのか,そもそも何が課題であるのか,そうした課題に地域社会の脈絡にそくしたどのような社会的対応がありうるのかといった点について,今後は民族誌的なアプローチによる研究が本格化されることが望ましい。高齢化先進国の社会保障政策や試行錯誤を参考にしつつも,地域社会のあり方に学び,アフリカの未来の姿についての関心を共有することが求められるのである。

  • 林 玲子
    原稿種別: 特集:アフリカの人口高齢化―健康・生活・ケアの現在と未来
    2016 年 2016 巻 90 号 p. 47-58
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    サブサハラアフリカの激しい人口増加は,高齢人口の増加ももたらす。高齢者の健康状況の1指標として,サブサハラアフリカ19カ国のセンサスにおける「障害」項目を分析した。国別の障害率の水準は異なるが,いずれの国でも障害率は高年齢になるほど高くなる。「見る」,「聞く」,「身体」に関する障害率は年齢と共に上がるが,「話す」,「精神」に関する障害は,年齢に応じた上昇があまり見られない。障害率は女性が男性よりも低く,農村部が都市部よりも高い国が多い。また過去20-30年間の変化には一定の傾向が認められない。サブサハラアフリカおよび他の地域の国々について,障害でない率を健康率と定義して健康寿命・障害期間を計算すると,寿命が長ければ健康寿命も長く,また障害期間も長くなる傾向がある。寿命が短いサブサハラアフリカの国々の障害期間は短いが,障害を持ちながらも長生きできるような施策が求められている。

  • 波佐間 逸博
    原稿種別: 特集:アフリカの人口高齢化―健康・生活・ケアの現在と未来
    2016 年 2016 巻 90 号 p. 59-70
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    この論文では,ウガンダ北東部カラモジャ地域におけるナイル系牧畜民ドドス社会でのフィールドワークにもとづき,社会的な文脈における女性の老成過程を記述する。閉経を迎えたり,あるいは性交を終える決断を下したりしたドドスの女性は,アキマット(akimat)という範疇に位置づけられる。高齢女性の日常生活は孫との協働によって特徴づけられ,そこは共に生きる孫たちが高齢女性の「身体となる」場として理解できる。孫たちは,共に在ることから直接得られる内発的な報酬とともに,病人のケアと治療実践をとおして彼女の生における知と実践を引き取る。さらに親しい他者との死別を生き抜いてきた高齢女性の経験の分かち合いは,高齢女性が死に近づくほど生活の隅々にまで及ぶようになる。「世代間の互酬性」のモデルによる暗示とは異なり,個人の自助自立は,高齢者ケアを含む相互行為を理解する唯一の枠組みではない。人々が共に生きるという社会的事実において当事者相互が直接結びつくことを自覚するドドスの立場に立つならば,共に生きる場を生成する行動である分かち合いへの身構えを,世代間の互酬性とは異なる根源的な原理として理解できる。

  • 野口 真理子
    原稿種別: 特集:アフリカの人口高齢化―健康・生活・ケアの現在と未来
    2016 年 2016 巻 90 号 p. 71-83
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    エチオピア南西部のアリの社会に暮らす高齢者の生活を支えている社会関係を記述することを通して,かれらの生活を理解することを試みる。これまで,アフリカ農村における世帯の生計戦略を扱う際に,高齢者の役割について言及したものは少なくないが,高齢者自身に焦点をあててその生活を分析した研究は僅少である。本稿では,社会における高齢者の生計や社会関係を規定する多様な条件をあきらかにした上で,実際に当該社会において生活する高齢者と周囲の人びととの相互関係を記述した。事例に挙げた二人の高齢者は,誰がケアの担い手となり,何処に,誰と住むかについて,社会規範に従って選択をおこなっていた。しかし,老親ケアの規範の範疇外にある者が同居したり,日常的便宜をはかったりするということも観察された。生業活動をおこなう場面や,日常的に世話を必要とされる場面で,協力する人との関係は固定的ではない。高齢者が他者を助ける場合も稀ではない。むしろ,高齢者に限らずこの地に住む人びとの生活は,それぞれの場面で,居合わせた人と助けを必要とする人とのあいだで,その場の状況や会話を通じて「応答的に」生まれた協力関係を利用し営まれている。

  • 山本 秀樹
    原稿種別: 特集:アフリカの人口高齢化―健康・生活・ケアの現在と未来
    2016 年 2016 巻 90 号 p. 85-92
    発行日: 2016/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    近年,世界全体で母子保健や感染症対策が進み,世界全体で乳児死亡率が低下し,世界全体の平均寿命も1990年の65歳から2013年に71歳と延び,各国で高齢者人口が増加し,アフリカ諸国の都市部では高齢者の孤立や生活苦が表面化している。

    都市における高齢者を地域社会で支援する「共助」のあり方について,ザンビア共和国ルサカ市の低所得者居住地であるチャワマ地区の高齢住民および住民団体(CBO:Community Based Organization)のリーダを対象に聞き取り調査とワークショップを2015年3月および8月に実施した。高齢者は住民との交流を望んでおり,住民リーダーらも高齢者を地域社会で支援するシステムが必要であると認識していることがわかった。CBOはマンパワー,予算,経験が十分でない等の課題がある。地域住民らの活動の連携や社会参加の場として日本の公民館をモデルにした集会所(CLC:Community Learning Center)の役割が注目された。

    Post MDGsとして採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)に高齢者者対策の項目(目標3「あらゆる年齢のすべての人に対する健康な生活の確保,福祉(well-being)の促進」)が入り,今後アフリカ諸国を含めた世界的規模で地域の「共助」を活用した高齢者対策を実施することが求められる。

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