東アフリカの沿岸部では,餌を入れたかごを水底に沈めておき,中に入った魚を漁獲するかご漁がひろくおこなわれている。本稿は,ケニア沿岸南部の海村を調査地として,かご漁をおこなう漁業者たちによる,餌の採集活動について考察するものである。
かご漁では,おもにアオサやソゾなどの海藻と,キバウミニナやクモヒトデといった動物性の餌が用いられ,これらは村周辺の岩礁やマングローブ林に分布している。漁業者たちは,餌の量を増やしたほうが大漁の可能性が高まると考えており,海藻の資源量が季節的に減少したり,潮汐によって活動時間が制限されるなか,自身の漁場で用いるのに適した餌を確保しようと,採集に大きな時間を費やす。しかしながら,餌の重量と漁獲量との間には,漁業者たちが説明するような,明確な相関性を見出すことはできない。
漁獲と直結しない行動は,漁撈活動を記述する上において見落とされてしまう場合も少なくない。しかしながら,このような行動に着目することは,ローカルな自然・社会環境に適応した漁撈活動の成り立ちと,個々の漁業者による漁撈戦略をより深いレベルで理解するために,大きな意義をもつといえる。
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