本稿は,ケニア西部グシイ地方のソープストーン彫刻産業において,生産から販売までの全工程を記述することを目的とする。ソープストーンとは滑石の一種で,なめらかな触り心地が特徴のある石である。その彫刻品は「キシイストーン」と呼ばれ,ケニアのみならず東アフリカを代表するツーリスト・アートのひとつとなっている。本稿の記述は,産業の中心地およびその周辺での調査に基づくものであり,聞き取り調査の調査協力者数は述べ126人であり,世帯調査は計171世帯を対象に実施した。
制作プロセスの調査で明らかになった本産業の特徴は,1つのモノに複数の人が,複数の場で関わっていることと,全工程が地域内で行われる総合的地場産業であることである。また,補足的に実施した世帯調査の結果からは,調査した世帯の約9割が本産業で生計を成り立たせていることがわかった。
本稿では以上の調査結果から,生産地を拠点に全工程を行うことで本産業が総合的地場産業として,雇用を生み出し,工芸品やアートという付加価値を生み出していること,また,材料自体の性質が,生産地を拠点とする雇用を守護している面を併せ持っていることを指摘した。
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