理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
  • 坂本 裕規, 村上 慎一郎, 近藤 浩代, 村田 伸, 武田 功, 藤田 直人, 藤野 英己
    p. Ab1306
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】 骨格筋量は30歳を頂点として加齢と共に減少する。また、筋力低下による活動量の減少は生活習慣病発症の危険因子である肥満を助長する。一方、筋力や体型は運動や食事などの環境要因だけでなく遺伝的要因も関与する。運動能力に関する遺伝子は200以上、肥満に関しても127以上の遺伝子の関連が報告されている。これらは筋力やBMI、体脂肪量に関連する。しかし、筋力低下や肥満に関係する遺伝子多型の情報は臨床応用には未だ至っていない。高齢者における遺伝子のこれらの遺伝子多型を解明し、筋力低下や肥満を生じやすい対象を特定できれば、予防的な早期介入が可能になると考える。本研究では高齢者における筋力や体型に関係すると考えられる遺伝子の多型が筋力や体組成に及ぼす影響について検証した。【方法】 対象は地域在住の健常女性164名(72.8±7.08歳)とした。体型や筋力に関係すると考えられる成長ホルモン受容体(GHR)、毛様体神経栄養因子(ZFP91-CNTF)、アクチニン3(ACTN3)、インスリン様成長因子受容体(IGFR-1)に関する遺伝子多型の解析のため口腔粘膜から得た細胞を用い、核DNAを抽出(Gentra Puregene Buccal Cell Kit,QIAGEN)した。TaqmanプローブによるリアルタイムPCR法でアレルの検出を行い、遺伝子多型(SNP)を同定した。筋力と体型を評価するため、握力、膝伸展力、足把持力の等尺性筋力を測定した。さらに、超音波機器を用いて大腿遠位部内側における内側広筋の筋厚を計測した。体組成の測定は、BMI、脂肪量、体脂肪率とした。測定結果の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当該施設における倫理委員会の承諾を得て行った。また対象者には実験の目的と方法を詳細に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 GHRにおけるSNP頻度はAA型20%、AG型50%、GG型30%であった。内側広筋の筋厚では、GG型はAG型に比べて有意に高値を示した。また膝伸展力と足把持力は、GG型がAA型に比べて有意に高値を示した。さらに握力でも同様に、GG型はAA型とAG型に比べて有意に高値を示した。この結果からGHRのGG型においては筋力や筋量が高く、A型アレルを持つ高齢女性は筋力や筋量が有意に低くなることが明らかとなった。次にZFP91-CNTFのSNP頻度はAA型44%、AT型38%、TT型18%であった。足把持力は、AT型はTT型に比べて有意に高値を示した。また脂肪量は、TT型がAA型に比べて有意に高値を示した。同様にBMIと体脂肪率においてもTT型はAA型とAT型に比べて有意に高値を示した。この結果よりTT型のSNPを持つ高齢女性では筋力が低く、肥満傾向が高いことが明らかになった。一方ACTN3とIGFR-1の遺伝子に関しては、各SNP間に有意差を認めなかった。【考察】 健常高齢女性において、GHR遺伝子多型は筋厚と筋力に、ZFP91-CNTF遺伝子多型は筋力と体組成に関与することが明らかになった。GHR遺伝子多型は筋厚と筋力の両方に影響を及ぼしていたことから、GHR遺伝子多型は筋肥大による筋力に関連することが明らかとなった。またZFP91-CNTF遺伝子多型は筋厚には影響を及ぼさなかったことから、ZFP91-CNTF遺伝子多型は神経系が関与する筋力に関係すると示唆された。先行研究ではGH投与によって青年の除脂肪体重が増加するとしている。またCNTF遺伝子多型は成人の筋力に影響を及ぼすとされている。以上のことから、健常高齢女性においてもGHR遺伝子多型は筋量に、ZFP91-CNTF遺伝子多型は筋力に関与すると考えられる。ACTN3遺伝子に関して、持久力を要するスポーツ選手と瞬発力を要するスポーツ選手の間で遺伝子型が異なるとの報告がある。一方、ACTN3遺伝子多型は筋力に影響を及ぼさないとする報告もある。本研究では、高齢女性におけるACTN3遺伝子多型は骨格筋量や筋力に影響を及ぼさなかった。異なるスポーツ特性間では差異を認めるが、地域在住の健常女性のような一般的な対象者では差異を認めなかったため、ACTN3遺伝子はトレーニングへの反応性に影響を及ぼすものと思われる。また本研究ではIGFR-1遺伝子多型は筋力と体組成の両方に影響を及ぼさなかった。先行研究ではIGF-1遺伝子多型が筋力に影響を与えるとされているが、その先行研究では対象が白人と黒人に限定されている。本研究の対象は日本人のみであったため、人種の違いによって異なる研究結果がもたらされた可能性がある。今後は対象集団を拡大することと、理学療法介入の効果を検討することが課題であると考える。【理学療法学研究としての意義】 GHRとZFP91-CNTFの遺伝子多型が高齢女性の筋力や体組成に影響を及ぼす事が明らかになったことから、筋力低下や肥満を生じやすい者を特定し、早期から理学療法士が介入できるようになる可能性が示唆された。
  • 池澤 秀起, 井尻 朋人, 高木 綾一, 鈴木 俊明
    p. Ab1307
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。そのため、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、患側上肢を用いない運動として、腹臥位での患側上肢と反対の股関節外転位空間保持が有効と考えた。腹臥位で股関節外転位空間保持は、股関節に加え体幹の安定を得るための筋活動が必要になる。この体幹の安定を得るために、股関節外転位空間保持と反対側の僧帽筋下部線維が作用するのではないかと考えた。そこで、僧帽筋下部線維のトレーニングに有効な股関節外転角度を明確にするため、外転保持が可能な範囲である股関節外転0度、10度、20度位における外転保持時の僧帽筋下部線維の筋活動を比較した。また、各角度での僧帽筋下部線維の活動を、MMTで僧帽筋下部線維の筋力測定に用いる腹臥位での反対側の肩関節外転145度位保持時の筋活動と比較した。これにより、僧帽筋下部線維の活動がどの程度得られるかを検証した。【方法】 対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性14名(年齢23.1±3.7歳)とした。測定課題は、利き足の股関節外転0度、10度、20度位空間保持と、利き足と反対側の肩関節外転145度位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位とし、この肢位から股関節屈伸0度位で設定角度まで股関節外転させ、空間保持させた。肩関節外転位空間保持は、MMTでの僧帽筋下部線維の測定肢位である、肩関節145度外転、肘関節伸展、手関節中間位で空間保持させた。測定筋は利き足と反対側の僧帽筋下部線維とした。筋電図測定にはテレメーター筋電計(MQ-8、キッセイコムテック社製)を使用した。また、肩関節、股関節外転角度はゴニオメーター(OG技研社製)で測定した。測定筋の筋活動は、1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。さらに、股関節外転位空間保持において、股関節外転角度の変化が僧帽筋下部線維の筋活動量に与える影響を調べるために、各外転角度での僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した。加えて、僧帽筋下部線維の活動量を確認するため、腹臥位での肩関節外転145度位保持時と、股関節外転0度、10度、20度位保持における各々の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】 股関節外転位空間保持での僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、股関節外転0度で14.6±10.9、10度で17.1±12.3、20度19.9±16.6となり、股関節外転角度の増減により有意な差を認めなかった。また、肩関節外転145度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は17.6±9.9となった。股関節外転0度、10度、20度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値と、肩関節外転145度位保持時では全てにおいて有意な差を認めなかった。【考察】 腹臥位での股関節外転位空間保持で、僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、股関節外転角度の増減により有意な差を認めなかった。この要因として、ベッドによる体幹支持、体幹筋や僧帽筋下部線維を含めた肩甲骨周囲筋の活動など、様々な要素が脊柱や骨盤の固定に作用したためではないかと考える。 一方、腹臥位での肩関節外転145度位保持時と股関節外転0度、10度、20度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した結果、有意な差は認めなかった。つまり、全てにおいて同程度の僧帽筋下部線維の筋活動が生じていたといえる。このことから、腹臥位での股関節外転0度、10度、20度位保持は、上肢の運動を伴わずに反対側の僧帽筋下部線維の活動を促せるため、可動域制限や代償動作により筋活動を促すことに難渋する対象者の治療に活用できる可能性がある。しかし、股関節外転位空間保持による反対側の僧帽筋下部線維の活動は脊柱の固定に作用することが考えられるため、起始部付近の活動が主であることが推察される。そのため、上肢挙上時の僧帽筋下部線維の筋活動に直結するかは検討の余地が残ると考える。【理学療法学研究としての意義】 腹臥位での股関節外転0度、10度、20度位保持は、反対側上肢の僧帽筋下部線維のトレーニングに有効であることが示唆された。これは、可動域制限や代償動作により僧帽筋下部線維の活動を促すことが難しい対象に対して有効であると考えられた。
  • 相澤 高治, 松田 雅弘
    p. Ab1308
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 Hoppingは俊敏性の評価やACL損傷後の競技復帰基準として使用される。Hoppingに関する先行研究では、筋力と一定距離をHoppingで駆け抜ける時間(以下;Hopping能力)との関連性を検討したものが多く、Hopping能力と膝周囲筋力との関連性は低いというものが多い。筆者らは股関節屈曲筋力とHopping能力との間に高い関連性を報告したが、種類によっては動作に特異性があることも考えられ、不明な点も多い。そこで今回の研究の目的はHoppingと股関節・膝関節筋力との関連性について検討した。【方法】 下肢に整形外科疾患のない健常大学生27名(男性13名、女性14名、平均年齢21.03±0.83歳、身長165.03±7.85cm、体重60.44±11.65kg)を対象とした。各被験者に対して等速性股関節屈伸筋力・膝関節屈伸筋力測定および片脚HOPテストを実施した。測定下肢はボールをよく蹴る側の下肢とし、右脚25名、左脚2名であった。筋力測定にはBIODEXを用いた。測定する角速度は300deg/secで行った。各角速度で3回測定した上で、トルク体重比を算出した。(股関節屈曲筋力:HF、股関節伸展筋力:HE、膝関節屈曲筋力:KF、膝関節伸展筋力:KE)。片脚HOPテストの種類は「6mHOP」、「8の字HOP」、「小刻みHOP」の3種目とした。「6mHOP」では、6mを片脚にて駆け抜ける時間を記録した。「8の字HOP」は2.5m間隔におかれた椅子を、片脚で8の字で駆け抜ける時間を記録した。「小刻みHOP」は1.25m間隔に椅子を置き、8の字を描くように駆け抜ける時間を測定した。各テストは2回行い、時間の短い方を採用した。統計処理はSPSSver15(Windows)を使用して3種目のテストの測定値と各股・膝関節の屈曲・伸展トルク体重比間との間の相関をPearsonの相関係数を用いて有意水準は5%にて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に対してヘルシンキ宣言にもとづき、事前に本研究の目的と方法を説明し、研究協力の同意を得た。【結果】 「6mHOP」:HF(-0.52**)HE(-0.52**)KF(-0.63**)KE(-0.48*)。「8の字HOP」:HF(-0.57**)HE(-0.60**)KF(-0.78**)KE(-0.64**)「スラロームHOP」:HF(-0.51**)HE(-0.51**)KF(-0.75**)KE(-0.61**)。(*p<0.05、**p<0.01)【考察】 股・膝関節筋力と3種目のHOPテストの間には関連性があった。西村らは「6mHOP」などの速度を計測するテストは筋力の影響を受けにくいと報告している。伊藤らは「8の字HOP」において膝筋力との関係性が殆どなかったと報告している。西村らの報告は一定以上の筋力を有したスポーツ選手を対象としており、伊藤らは比較的遅い角速度で測定しており、今回のような速い角速度ではなかった。今回測定したすべての筋力との間に関連性を示したことから、一般的な大学生を対象とした場合、速い角速度での筋力が高いほどHOP能力が高い傾向にあると示唆される。「小刻みHOP」は股関節筋力よりも膝関節筋力の方がより関連性が強い傾向にあった。一定スピードを保ったまま複数回のstepを繰り返すには膝屈曲位での接地を繰り返す必要がある。特に膝屈曲筋力との関連性が強かったことは、ハムストリングスによる膝関節への安定化と股関節伸展筋力補助が同時に行えて、小刻みなステップを安定して行える能力に寄与したと考えられる。「8の字HOP」は筋力との関連性が最も強い傾向にあった。これは短時間のうちに減速と加速を要求する場面の両方が存在するため、他の二種目と比較して筋力を必要としたと考えられる。加速場面ではキック期後半からスイング期に股関節屈曲筋力が活動しているとの報告や、ハムストリングスの影響が大きいとの報告もある。減速場面では、膝伸展筋や大殿筋による衝撃吸収が、体幹の前方回転防止の為大腰筋やハムストリングスの体幹安定化機能が重要になると推測される。速い角速度での筋力発揮能力が高いものほどこれらの要求に答えることができ、関連性が強くなったものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 速度を測定するテストと筋力の関連性は低いとされていたが、一般的な大学生では筋力によって能力に差があることが分かり、パフォーマンスを向上させるには初期に筋力強化を中心に展開する必要性が明らかにされた。特に競技によってはstepを多く含むものは膝関節屈曲筋力の重要性が明らかとなった。
  • 山本 純志郎, 岡田 哲明, 原田 鉄也, 田平 一行
    p. Ab1309
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 自転車エルゴメータ運動において、回転数は筋収縮の速度・頻度に影響し、トルクは筋発揮張力に影響する。これは負荷設定条件の違いより運動時に異なる身体的応答が出現することを示している。先行研究の多くは同一仕事率における回転数の違いから検討している。しかし仕事率一定の場合、回転数の変化とともにトルクも変化するため回転数以外の要因も多く含まれる。そこで、本研究ではトルクによる影響と回転数による影響を比較し検討した。【方法】 自転車エルゴメータ(Corival, Load社)使用による20watt/minのramp負荷法(60rpm)による症候限界性心肺運動負荷試験を実施し、peak wattを算出した。その後、負荷設定条件の異なる2種類の心肺運動負荷試験を実施した。両試行は3分間の安静後、4分間の運動と4分間の安静をそれぞれ4セットで構成し、各運動(ex.)の仕事率はramp負荷法により求めたPeak Wattの30%・40%・50%・60% (30%ex.・40%ex.・50%ex.・60%ex.) とした。各試行の間は最低24時間以上をあけた。1)トルク変動運動(回転数一定)回転数を60rpmに一定とし、上記の仕事率で4種類のトルクを算出した。2)回転数変動運動(トルク一定)回転数の異なる4種類(60rpm・80rpm・100rpm・120rpm)の運動を上記の仕事率とそれぞれ対応させ一定のトルクを算出した。呼気ガス測定には、MetaMax3B(Cortex社)によりBreath by Breathで連続記録した。HRはRA800CX RUN(Polar社)により測定し、血圧・心拍出量はPORTSPRES(FMS社)により測定した。筋酸素動態は組織血液酸素モニターBOM-L1TRM(オメガウェーブ社)を用い右外側広筋筋腹で測定した。各運動の最終1分間の平均値を測定値とし、30%ex.の値を基準とした百分率で表した。統計処理としては、各試行間の比較は二元配置分散分析を、同一運動強度間の比較に対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に対し、事前に実験の目的、プロトコルおよび考えられる危険性の有無を説明した上で、実験参加の同意を得た。【結果】 回転数変動運動はトルク変動運動と比較し酸素供給系の項目が有意に高値を示した。また回転数変動運動における値の増加率は一定ではなく、二次関数的に高回転になるほど大きく増加した。筋酸素動態ではDeoxy-Hbは両試行間、各運動強度において有意な差はみられなかった。(VO2:50%ex. p=0.016, 60%ex. p=0.027、VE:50%ex. p=0.002、60%ex. p<0.001、HR:50%ex. p=0.002、60%ex. p<0.001、CO:50%ex. p=0.004, 60%ex. p=0.043、Deoxy-Hb:50%ex. p=0.9978, 60%ex. p=0.1184)【考察】 トルク変動運動に比べ回転数変動運動で酸素供給系の因子は有意に高値を示した。つまり、回転数の増加は組織の酸素需要を増加させ、その反応として換気・血流系により酸素供給が増加、結果としてエネルギー消費を増大させたると考えられる。この要因には回転数上昇に伴う筋収縮頻度増加による筋の熱産生増大(Fenn効果)や、筋収縮速度増加による運動筋のATP消費増大、また高回転運動による筋線維タイプの動員比率の影響が挙げられる。また内的仕事率のO2コストは外的仕事率のそれより大きいと報告されており、回転数の増加に伴う内的仕事率の増加も影響すると考える。これらの総和として機械的効率が低下しているためと考えられる。次に筋酸素動態に関しては、Deoxy-Hbは2施行間の各運動強度に有意差はみられなかった。Deoxy-Hbは筋血流の変化に最も鈍感で筋酸素抽出能に最も反映するとされており、負荷設定条件の違いで運動筋の酸素抽出能に及ぼす影響に差はないと考えられる。また酸素抽出能に関してはFickの法則に基づいており、次式で表される。Deoxy-Hb∝VO2m/Qm本研究では、2施行間でDeoxy-Hbに差はないが、VO2は回転数変動運動で有意に上昇した。運動時におけるVO2の上昇は運動筋のVO2mの上昇に反映することから、回転数の上昇によりVO2と同様にQmの上昇も算出できる。よって負荷設定条件の違いは末梢機能へ与える影響の差は少ないと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 回転数による負荷設定は酸素供給系・エネルギー消費系を賦活させ、同一運動強度であっても身体的負荷量を増大させる因子であることが示唆された。一方、末梢ではVO2同様に筋血流量の増大が示唆されたものの、筋酸素抽出能などの機能には大きな違いは示さなかった。臨床応用では、回転数の増加は筋張力の増大を伴わず身体的負荷量を上昇させる点での有用性と、高回転では二次関数的に身体的負荷が増加する危険性の両方を持つ運動であると考えられる。
  • 橋爪 真彦, 小野 くみ子, 塩谷 英之
    p. Ab1310
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 座位姿勢は、有酸素運動後の心拍減衰時定数(T30)において仰臥位との間に有意に差はなく、臥位と比べてエネルギー消費が3~5%の増加にすぎないと報告されている。椅子の背もたれにもたれる姿勢では安定性が高く、背もたれがないものと比べて姿勢維持のための筋出力が小さいと考えられる。また、呼吸困難の軽減に効果的なリラクセーション肢位として両肘を両膝についた前傾座位があり、この姿勢は有酸素性運動後の心拍数(HR)の回復が、背もたれにもたれた座位と比べて早いということが報告されている。しかし、先行研究のような座位姿勢の違いに着目した研究は、安静期及び有酸素性運動後が主体であり、無酸素性運動後回復期における座位姿勢の違いによるHRの回復や心臓自律神経系への影響については報告されていない。そこで、本研究では間欠的無酸素性運動後回復期における座位姿勢の違いによる心臓副交感神経系活動への影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象者は心疾患の既往がない健常男子大学生10名(年齢22.0±1.7歳、身長172.7±3.7cm、体重62.6±6.3kg:平均値±S.D.)とした。対象者には、実験前夜からアルコールとカフェインの摂取、激しい運動、実験前2時間以降の飲食をそれぞれ禁止とした。回復期の座位姿勢は、背もたれにもたれる“背もたれあり(B)条件”、背もたれにはもたれない“背もたれなし(N)条件”、両肘を両膝についた“前傾姿勢(F)条件”の計3条件を設定し、それぞれ別日の同時間帯に行った。対象者は、椅子座位にて背もたれにもたれた安静座位を5分以上保持した後、間欠的無酸素性運動として階段昇降を行った。運動様式は、高さ17cmの階段24段を1段ずつ全力で駆け上がり、その後20秒休息を1クールとし、この休息20秒の間に同じ24段の階段を降段する積極的休息をとった。この運動をカルボーネンの式で算出した80%強度の目標心拍数に至るまで繰り返し、到達後すぐにあらかじめ決めた座位姿勢条件を30分間保持した。安静期及び回復期には、呼吸数が15回/minになるように設定したメトロノームに合わせて呼吸を行った。測定項目は安静期と回復期0~30秒、3、4、5、10、15、30分時におけるHR及び心臓副交感神経系活動(HF)、T30とした。心拍変動からMemCalc法を用いて周波数解析を行い、正規化するために自然対数化したlnHFを採用した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的、方法を説明し書面にて同意を得た。なお本研究は倫理委員会にて承認を得た。【結果】 安静期および運動期において、いずれの値も3条件間に有意差は認められなかった。回復期においてT30は、B条件で181.8±22.2、N条件で202.5±49.0、F条件で154.1±29.9であった。F条件はN条件と比較して有意に低値を示した(p<0.05)。また運動終了後30秒のHRはF条件で139.4±4.0bpmであり、B条件(144.5±3.7bpm)及びN条件(146.5±5.1bpm)と比較して有意に低値を示した(p<0.05)。心臓副交感神経系活動は回復期30分間を通して、3条件間で有意な差は認められなかったが、回復30秒では回復0秒からのHFの変化率がF条件で他の2条件と比較し高い傾向を示し、3~30分のlnHFの推移においてF条件は、N条件及びB条件と比較して低い傾向を示した。【考察】 前傾座位姿勢は、上部体幹を上肢で支えることで体幹筋の肢位保持への寄与が減少し筋酸素摂取量が減少することや、肩甲帯が固定されることで頚部や肩甲帯の呼吸補助筋が有効に作用し、酸素の取り込み量を高く維持し得る状況下にあることが報告されている。このことから本研究においてもHRの回復が早くなったと考えられる。また体幹前傾によって、腹腔内圧が上昇して腹壁の緊張が解かれることで横隔膜が降下し、伸縮が容易になることが考えられる。前傾姿勢において、この呼吸ポンプ作用が増し、1回心拍出量が増加する。これらのことから、酸素の運搬が促進されて運動後の回復が早まり、本研究においても副交感神経系活動の指標であるHFの回復30秒での運動直後からの変化率が高い傾向を示したと考えられる。また、前傾姿勢を長時間取り続けることで、姿勢保持に寄与する体幹や股関節伸筋群の持続的な伸張などによる疲労が推察される。このことから、本研究では有意な差は認められなかったものの、回復3~30分のlnHFがF条件において他の2条件と比較して低い傾向を示したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 無酸素性運動後の回復期において、運動直後のHRの回復や心臓副交感神経系活動の再興奮亢進に前傾座位姿勢は望ましいと考えられた。スポーツ現場では短距離走後の回復、臨床現場や日常生活では階段昇降や自転車を漕いだ後の短時間での回復に前傾座位姿勢を応用することができる。
  • 岡田 哲明, 山本 純志郎, 原田 鉄也, 田平 一行
    p. Ab1311
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 無酸素Power時の筋酸素動態に関する報告はみられるが、無酸素性運動時と有酸素性運動時における最大Power発揮時の呼吸循環応答を比較した研究報告は少ない。運動時のエネルギー供給において、クレアチンリン酸系、解糖系、有酸素系のエネルギー供給機構の割合が変化し、無酸素性運動ではエネルギー供給の多くがクレアチンリン酸系と乳酸系が占めている。しかし、血液循環が絶えず行われており、有酸素系代謝が常に行われている。本研究は、無酸素性,有酸素性の各運動における最大Power発揮時の骨格筋の酸素応答,呼吸循環応答の比較と、無酸素運動時における有酸素能の影響、以上の2点を明らかにするために研究を行った。【方法】 対象は健常男子大学生13名(22.3±0.6歳) とした。エルゴメータ (Corival,Lode社)を用い、無酸素性運動としてWingate test、有酸素性運動として心肺運動負荷試験(CPX)の2種類の運動負荷試験を行った。Wingate testでは負荷量を各被験者の体重の7.5%にtorqueに設定し、30秒間の高負荷全力ペダリング運動を実施した。CPXでは負荷量をRamp負荷(20Watt/分)、ペダル回転数を60回転/分とした。測定方法は、呼気ガス分析装置(Meta Max3B)を用い、breath by breath法にて酸素摂取量(V’O2),換気量(VE)、組織血液酸素モニタ(BOM-L1TRM,オメガウェーブ社)により右外側広筋の還元ヘモグロビン量(Deoxy-Hb)、心拍数モニター(RS800CX RUN,Polar社)により心拍数(HR)の測定を行った。解析方法は、各条件において運動時のPeak Powerを記録し、Wingate testのものを無酸素Power、CPXのものを有酸素Powerとした。Wingate testにおいてPeak Powerは運動開始後10~20秒の間で発揮されるため、各測定値はその間の平均値を使用した。CPXでは運動終了前の30秒間の平均値をpeak値とした。無酸素性代謝域値(AT)はV-slope法により求めた。また、Wingate testにおけるPeak Power時のV’O2を求め、CPXにおける同じV’O2時のPowerを無酸素性運動時における有酸素Powerとした。統計処理は、各試行のPeak Power,V’O2 peak,VE,HR,Deoxy-Hbの比較には対応のあるt検定を行った。また、無酸素Powerと有酸素Power,V’O2 peak,ATとの関連はPeasonの相関係数を用いた。いずれも有意水準は5%未満とした。無酸素Powerにおける有酸素Powerの割合は、有酸素PowerをWingate test時のPeak Powerで除することで求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、実験に先立ち、全ての被験者に本研究の目的,方法について説明し、実験参加の同意を得た。【結果】 Peak Powerは無酸素性の方が有酸素性に比べ大きく(p<0.01)、V’O2 peakは無酸素性が小さく、Deoxy-Hbは無酸素性が大きく、いずれも有意差(p<0.01)がみられた。VE,HRは共に無酸素性の値が有意に小さかった(p<0.01)。無酸素Powerと有酸素Powerに有意な相関(r=0.66,p<0.05)があり、有酸素Powerが高い人ほど無酸素Powerが高い傾向があった。無酸素PowerとCPX時のV’O2 peak (r=0.54,p=0.054)、AT(r=0.64,p<0.05)の両条件において相関があった。無酸素Powerにおける有酸素Powerの割合は20.3±5.5%であった。【考察】 無酸素Powerは運動開始10~20秒で最大値となり、その後減少がみられた。また、Deoxy-Hbの変化量は大きいが、V’O2 peak,VE,HRは小さく、Peak Power時には十分な酸素供給が行えていないと考えられる。Peak power後から運動終了後にかけてV’O2 peak,VE,HRの著しい増加がみられる。上流での糖の分解が急激に進むと、ピルビン酸が大量に供給されるが、下流のミトコンドリアでのピルビン酸の消費がそれほど増加しないため、乳酸が著しく増加し代謝性アシドーシスとなる。その代償として換気の亢進が生じると考えられる。本研究において、各運動時のPowerに相関があり、無酸素Powerと有酸素代謝能を示すVO2peak,ATに相関がみられた。無酸素性運動時において有酸素代謝能が影響を与えており、有酸素代謝能の向上が無酸素Powerを高める可能性があると考えられる。また、骨格筋の脱酸素レベルとV’O2 peak、筋力とV’O2 peakに強い関与があると報告されており、V’O2 peakを高めるには筋有酸素能の向上も必要と考えられる。無酸素性運動時における有酸素性エネルギー代謝機構の割合は25.3%、48.3%と様々な報告がされている。本研究では20.3%であり、前者の先行研究と近似値を示した。このことから、無酸素性運動時に有酸素性エネルギー代謝機構が20%以上占めていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 無酸素Powerと有酸素能との相関がみられ、無酸素Powerにおける有酸素Powerの割合は20%以上を占めていた。有酸素能の改善が無酸素性の運動能力の向上につながる可能性が考えられる。
  • 中野 静菜, 玉利 光太郎
    p. Ab1312
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 近年の登山ブームで、幅広い世代の登山人口が増加している。しかし高所という低酸素環境は、生体にとってハイリスクであり、低酸素環境へいかに対応できるかが高山病などの急性症状の発症を軽減させる鍵となる。急性高山病とは、高所に到達した後6~9時間から72時間までの間に発症し、頭痛(必発)・倦怠などの症状を呈するものをいう。先行研究ではSpO2、性差、心拍数、呼吸法などの生体内因子と高山病発生との関係に着目し、リスク管理につなげることを提唱している。しかし、生体外因子、とくに登山で用いられるリュックサックが生体にどのような影響を与えるのかについてはよく分かっていない。本研究では、異なる形状のリュックサックが、換気応答、姿勢、自覚的運動強度にどのような影響を与えるのかについて検証した。【方法】 対象は、健常な女子大学生19名(年齢:19.6±1.57歳、身長:1.59±0.05m、体重:53.83±10.89kg、BMI:21.23±3.91)とした(うち呼吸器疾患の既往2名、運動器疾患の既往5名、両方の既往2名)。また、喫煙者は除外した。実験手続としてトレッドミル(AR-200、ミナト医科学)運動負荷試験を行い、呼吸代謝測定システム(AE300SRC、ミナト医科学)を用いて各種呼気ガス値と一回換気量(TVE)の測定、及び換気応答マーカーである換気効率(VE/VCO2)、呼吸リズム(TVE/RR)の算出を行った。また主観的尺度として、実験終了直後には自覚的疲労強度(Borgスケール)を用いて記録した。被験者それぞれに対し、1)通常歩行のみ(以下、コントロール条件)、2)体重20%の重量の登山用リュックサックを背部に密着させるよう肩ベルトを締めた状態での歩行(以下、タイト条件)、3)体重20%の重量の一般的なリュックサックで肩ベルトを最大限に伸ばした状態での歩行(以下、ルーズ条件)の3つのタスクを課し、測定を行った。運動負荷試験のプロトコールには、Bruceにより提唱されているものに一部修正を加えたものを用いた。運動中止基準は、年齢推定最大心拍数の85%とした。さらに、姿勢アライメントのタスク間の違いを見るために、耳垂、第7頚椎、肩峰の3点がなす角をデジタルカメラで撮影・計測した。なお、統計処理は繰り返し測定デザインの二元配置分散分析を行った(α=0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は全ての被験者に対し、目的、実験手続、危険性について十分な説明を行い、文書による同意を得た。【結果】 姿勢アライメント、自覚的疲労強度(Borgスケール)、換気効率については、各条件間に有意な差はみられなかった。しかし、TVEはルーズ条件で有意に高値を示した(p=0.003)。また、TVE/RRは、タイト条件がその他の条件に比べ低値を示す傾向がみられた(p=0.068)。【考察】 本研究のTVEとTVE/RRの結果から、タイト条件がルーズ条件に比べ浅く速い呼吸リズムを助長する傾向がみられるということが分かった。この結果の要因として、タイト条件では肩ベルトの他に、胸部及び腹部ベルトも締めていたため、胸郭の可動性が制限される、いわゆる拘束条件となっていたことが考えられる。この仮説を一部支持する結果として、Bygraveら(2004)は、12名の男性に異なる締め付け強度でリュックサックを背負わせた時の肺活量を測定し、締め付け強度が強い条件では肺活量が有意に減少したと報告している。また、女性は胸郭容積を変えるために肋骨の動きに依存する割合が大きいと言われていることからも、タイト条件は女性が呼吸するには効率の悪い条件であり、登山に際し必ずしも登山用リュックサックを背負うことは推奨されるものでないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 登山はスポーツ愛好者だけでなく余暇活動や趣味活動としても幅広い世代に愛されている運動だが、重篤な状態に陥る可能性のある高山病への予防対策は進んでいるとは言い難い状況にある。生体外因子であるリュックサックが呼吸機能に及ぼす影響は、生体内因子と比較してどの程度大きいかどうかは不明だが、介入可能であり変更も容易だという利点があるため、今後の実証研究を行うための科学的根拠として、本知見は意義があると考える。また登山だけではなく、通常の生活においても頻繁に用いられるリュックサックが呼吸機能に影響を与える可能性を提示したことは、呼吸理学療法学の基礎資料として一定の貢献を果たしていると考える。
  • 加藤 太郎, 福井 勉
    p. Ab1313
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 用手的呼吸介助手技は呼気時に胸郭の生理的運動方向に合わせて用手的圧迫を加え、吸気で圧迫を解除する方法である。その生理学的効果は、呼気流速の増大、吸気量の増加、呼吸仕事量の軽減等が挙げられる。しかし用手的呼吸介助手技は、胸骨や多発肋骨骨折を呈する状態や循環動態が不安定な状態では禁忌とされ実施できない。骨折などの禁忌がある状態でも実施できる安全な用手的呼吸介助手技はないだろうか。胸郭に圧迫を加えずに皮膚を吸気相に合わせて動きを誘導することで、一回換気量が増大することを人工呼吸器のモニター上で数値として臨床的には確認できる。皮膚に関する動きの研究には皮膚緊張線などを分析したLangerの皮膚割線などが挙げられる。しかし、これは静的な皮膚の緊張方向に関する報告であり、皮膚自体の運動に関する報告ではない。本研究は呼吸運動時の皮膚の運動特性を明らかにすることを目的とし、皮膚上マーカを体幹に貼付した状態での呼吸運動を分析検討した。【方法】 対象は、健常成人男性10名(年齢29.4±4.25歳、身長170.2±5.49cm、体重67.7±8.46kg)であった。測定機器は、三次元動作解析装置VICON MX(VICON社製)を用いた(カメラ8台、計測周波数100Hz)。マーカは、正中列と側方列(左右)と正中・側方中間列(左右)(以下、中間列とする)とし、縦5列に分け、各列に8個のマーカを貼付し合計40個のマーカ(マーカ直径16mm)を格子状にした。正中列は、胸骨柄上部、剣状突起、および両上前腸骨棘間の中点を基準とし、胸骨柄上部と剣状突起の間を1/3、2/3に内分する点および剣状突起と両上前腸骨棘間中点の間を1/4、2/4、3/4に内分する点とした。側方列は後腋窩と、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の中点を基準とし、この間を1/7、2/7、3/7、4/7、5/7、6/7に内分する点とし、左右に貼付した。中間列は胸骨柄上部と後腋窩の中点と上前腸骨棘を基準とし、この間を1/7、2/7、3/7、4/7、5/7、6/7に内分する点とし、左右に貼付した。各列ともに、頭側から尾側に向かって順に1~8マーカとし、1、2マーカは上部胸郭皮膚、3、4マーカは下部胸郭皮膚、5、6マーカは上腹部皮膚、7、8マーカは下腹部皮膚とした。肢位は床上での背臥位とし、両上肢の位置を90°外転させ両手掌を頭部後面に位置させたハンモック肢位とした。測定は、5回の深呼吸を1試行とし、5試行実施した。呼気と吸気の相分けは、身体の水平面において剣状突起マーカが頭部方向へ最も動いた時を最大吸気位とし、尾側方向へ最も動いた時を最大呼気位とした。各呼吸の最大呼気と最大吸気間の各マーカの変位量を算出した。40個のマーカ毎に変位量の大きさを、一元配置分散分析および多重比較法(Bonferroni検定)を用い解析し、縦5列と横8列それぞれの運動特性を検討した。統計処理はSPSS ver.18.0J for Windowsを使用し危険率1%未満を有意水準とした。【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。全対象者に、事前に本研究内容を書面および口頭で十分な説明を行い、署名にて同意を得た。尚、本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会の承認の下で実施した。【結果】 縦5列の運動特性は、正中列、中間列の変位量が大きかった。側方列の変位量は、正中列と中間列と比べて有意に少なかった(p<0.01)。横8列の運動特性は、上腹部皮膚の正中列と中間列の5、6マーカの変位量が最も大きかった。次に変位量が大きいマーカは、下部胸郭皮膚の正中列と中間列の4、3マーカ、続いて、上部胸郭皮膚の正中列と中間列の2、1マーカの順となった(p<0.01)。正中列、中間列、側方列の全てにおいて、ASIS上である下腹部皮膚の8マーカの変位量が有意に少なかった(p<0.01)。【考察】 呼吸運動時の皮膚の変位量は、上腹部皮膚の前面が最も大きく動き、続いて下部胸郭皮膚の前面、上部胸郭皮膚の前面の順となった。体幹側面の皮膚の動きは体幹前面の皮膚と比べて動きは少なかったが、体幹側面に着目すると、体幹前面と同様の特性を持ち、上腹部皮膚の側面が最も大きく動き、続いて下部胸郭皮膚の側面、上部胸郭皮膚の側面の順となった。福井らは、肩関節屈曲・伸展時と股関節屈曲・伸展時の皮膚運動について、皮膚は関節運動の骨同士が近づく場合には遠ざかる方向へ、また骨同士が離れる場合には近づく方向に移動する、と報告している。これは、四肢関節運動と皮膚運動に関する報告であるが、呼吸運動と皮膚運動においては、腹部や胸郭の部位により変位量が異なる運動特性を認めた。これら運動特性を考慮し、皮膚からの呼吸介助手技における誘導方向に応用することは臨床上、有用であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、皮膚誘導を用いた吸気時呼吸介助手技が行える可能性を示唆でき、その誘導方向に応用できる結果であると考える。
  • 岩部 達也, 尾﨑 勇, 橋詰 顕, 福島 真人
    p. Ab1314
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 CO2レーザーや表皮内刺激電極を用いた痛覚の研究では,刺激から400 msの間に陰性-陽性の痛覚誘発電位が出現することが知られている.その振幅は,主観的な痛みの程度と相関する.呼吸の深さや頻度を工夫すると痛みが軽減すると言われているが,痛覚刺激を呼息相と吸息相に与えて検討した研究はない.本研究では,呼息相と吸息相に痛覚刺激を与え,痛みの主観,痛覚誘発電位および交感神経活動が呼吸相で変化するかを検討した.【方法】 対象は健常成人9 名 (男性7 名,20~25 歳) で,平均身長169 cm (160~178 cm) だった.被験者はヘッドレスト付の肘掛け椅子に座り,リラックスした状態を保った.被験者毎にWong-Bakerスケール (0 = 痛みなしから5 = 耐え難い程の強い痛みの6段階) で「2 = 軽度の痛みで少しつらい」となる強度を決定した.脳波,交感神経皮膚反応 (SSR) ,指尖容積脈波 (DPG) ,呼気CO2濃度を連続的に記録し,CO2濃度が20 mmHgを越えた時 (呼息相の初期) か下回った時 (吸息相の初期) に左手背に表皮内刺激電極で電気刺激を与えてpainを誘発した.Habituationが生じないように1試行10分未満で,刺激間隔を数十秒あけて順不同で呼息,吸息各相5回刺激した.十分な休息をとり6試行を行った.各試行の最後に刺激0 mAで呼息,吸息各相3回のsham刺激を行った.被験者は刺激毎に痛みの主観を右の示指 (WBスコア1) と中指 (WBスコア2) の伸展で判断した.脳波は加算平均し,痛覚誘発電位であるN1,P1を解析した.SSRも加算平均し,最大陰性振幅を解析の対象とした.DPGは刺激前5拍の波高の平均値を求め,刺激後10拍までの変化を%比で表した. 統計学的解析は,WBスコア1と2の割合が呼吸相で異なるかについて,χ2検定を行った.N1,P1およびSSRの最大振幅および頂点潜時について,呼吸相の間でpaired t-testを行った.DPG波高については,呼吸相 (呼息相と吸息相) と脈拍 (刺激前の平均から刺激後10拍まで) の2要因で繰り返しのある2 way ANOVAを行い,事後検定としてpaired t-testを行った.また,DPG波高の経時的変化について,呼息相のpain刺激とsham刺激,吸息相のpain刺激とsham刺激のそれぞれに対し,繰り返しのある1 way ANOVAを行い,事後検定としてBonferroniの多重比較を行った.これらの統計解析は,IBM SPSS Statisticsを用いて行い,有意水準はp < 0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は青森県立保健大学倫理委員会の承認を得ており,対象者には実験内容を十分に説明し,書面により同意を得た.【結果】 一定強度で刺激したが,痛みの主観はWBスコア1と2の間で変動し,その割合は呼吸相で異なった.全被験者あわせて270回中に1と判断した頻度が吸息相116回に対し,呼息相では180回と多かった (p < 0.01) .N1振幅は吸息相 / 呼息相で-8.9 ± 1.3 / -4.6 ± 0.9 μV (平均値 ± 標準誤差) であり,呼息相で小さかった (p < 0.01) .P1振幅も,吸息相 / 呼息相27.1 ± 2.3 / 21.7 ± 2.2 μVと,呼息相で小さかった (p < 0.01) . SSR振幅は,吸息相 / 呼息相で-1.8 / -1.3 ± 0.2 mVであり,呼息相で小さかった (p < 0.01) .N1,P1およびSSR潜時はいずれも呼吸相で差は認められなかった.DPG波高は,呼息,吸息時ともにsham刺激では呼吸に伴う律動的な変動がみられるのみだったが,pain刺激では刺激前と比べ5-9拍目で低下した. Pain刺激時のDPG波高を呼吸相で比較すると2拍目と6-8拍目で差が認められた.【考察】 本研究では,呼息相と吸息相に一定のpain刺激を与えた結果,痛みの主観が呼息相で減弱し,N1,P1の振幅も減少した.また,SSR振幅も呼息相で減少し,DPG波高の低下も著しかった.これは,同一強度の刺激であっても,痛覚情報のインプットが呼吸相で変化することを示している.痛覚に関する脊髄後角ニューロンは脳幹由来の下行性経路によって調節されている.実際に,PAGへの刺激によって痛みが抑制することが知られている.本研究においても,呼息相,吸息相の自律神経活動の変化が下行性疼痛抑制系に影響を及ぼし,痛覚情報のインプットが変化した可能性が考えられる.【理学療法学研究としての意義】 痛みはリハビリテーションを阻害する因子の一つであり,呼吸によって痛みの程度に変化が生じることが明らかとなれば,呼吸によって痛みを制御するような一理学療法技術・理論としての臨床応用が可能となる.
  • 田島 悠樹, 室井 幸, 伊達 祐輔, 小林 祐介, Tety Fadillah, 松岡 成美, 朝原 早苗, 黒澤 和生
    p. Ab1315
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 移動手段として、多くの人が車いすを使用している。車いすの駆動は、主に手を使用して行うが、BoningerらによればSingle Loop Pattern (SLP), Double Loop Pattern (DLP), Circle Pattern(CP),Pumping Pattern (PP)の4種類の駆動方法に大別されると言われている。車いすを使用している人の中でも上肢の傷害を負う人も少なくなく、損傷の少ない駆動方法についてCPが最適であるという研究報告が行われている。しかしながら、車いす駆動時に向けられている注意容量から難易度を明らかにしたり、駆動の能率の側面から検討を加えた報告は少ない。この研究の目的は、プローブ反応時間(P-RT)及び生理学的コスト指数(Physiological Cost Index:PCI)とった注意需要の変化と能率の指標を用いて、通常の車いす駆動速度における駆動方法の違いを明らかにし、最適な駆動方法を検討することである。【方法】 車椅子スポーツの経験がない健常成人男性10名(平均年齢21.7±1.7歳、平均身長172.5±5.4cm、平均体重60.4±6.9kg)を対象とし、4種類の車椅子駆動方法を用いてトレッドミル上での車いす走行を行った。SLP、DLP、CP、PPの4種類の駆動方法の施行順序は無作為とし、トレッドミルの速度は60m/minに設定した。また、電子メトロノームに合わせ1秒に1回車椅子を漕ぐように被験者に指示をした。走行中に「ピッ」という予告合図の後に、前方から発する光刺激を感知したら出来るだけ素早く「パァ」と発声するように教示し、この一連の動作を10回施行して、平均値を個人の代表値とした。被験者の発声音は、ヘッドホーンに取り付けたマイクロフォンにより集音し、光刺激と同期させディスプレイ上に描出した(マルチパスシステム:DKH社製)。プローブ反応時間(P-RT)の測定は、トレッドミル上走行開始2分15秒後に開始した。能率の指標であるPCIは、(運動時心拍数-安静時心拍数)をトレッドミルの走行速度(m/min)である60(m/min)で除して算出した。心拍数は、心電図モニターより15秒間の値を計数して4倍し、1分間あたりの心拍数として求めた。安静時心拍数は、実験前5分以上の安静をとった後に測定した。また、運動時心拍数は、心拍数が定常状態となるトレッドミル走行開始2分後に測定した。トレッドミル走行の課題間には、5分以上の安静をとり、安静時心拍に戻ったことを確認し次の施行を行った。統計処理は、一元配置分散分析(SPSS)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 実験に先立ち、研究の内容と手順について説明し、被験者から同意を得て行った。【結果】 P-RT、PCIともに4種類の駆動方法の相違による主効果は検出されなかった。P-RTにおいて、統計上の差は示していないが、他の駆動方法と比較してDLPの平均値が最も延長していた。PCIにおいて、SLPの平均値が最も低値を示した。【考察】 今回の対象者である健常成人男性では、通常の走行速度における車いす駆動の違いによる注意需要の変化に有意な主効果はみられなかった。また、能率の指標であるPCIについても同様に有意な差は示さなかった。このことは、実施した4種類の車いすの駆動方法においては、駆動の際に向けらけている注意の容量に差はなく、能率の面からも差がなかったと解釈できる。また、対象年齢が若年でもあり、比較的車いす駆動に向ける注意が少なくて済んだためだと考えることもできる。駆動方法のうち、CPが上肢の損傷が最も少ない駆動方法として推奨されている。CP以外の駆動方法の比較においては、注意需要や能率の面からの差がなく、CPを駆動方法として選択する方が注意需要も能率の面からも最適であると結論づけられた。研究結果より、健常成人男性において駆動の難易度や能率の側面から駆動方法はどの方法も推奨されるが、上肢傷害の少ないCPが最も推奨できる駆動方法であると言うことができる。【理学療法学研究としての意義】 車いす駆動方法の難易度や能率の面から検討することによって、上肢の傷害を予防し、かつ最適な駆動方法を見出すことである。
  • 竹内 弥彦, 大谷 拓哉, 三和 真人
    p. Ab1316
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに】 超高齢社会を迎えたわが国においては、重篤な合併症を引き起こす高齢者の転倒を予防していくことの社会的意義は大きい。高齢者の転倒要因は多種多様であり、その防止策を一概に述べることは難しいが、力学的安定性の観点から考えると、支持基底面から重心の投影線が外れた際に、足を踏み出し支持基底面を拡大するステッピング反応に着目する必要があると考える。とくに、転倒方向としての報告が多く、脊椎圧迫骨折などの外傷を引き起こす後方への転倒防止対策から、後方へのステッピング反応のメカニズムについて検討することが重要であろう。本研究の目的は、不安定な状況下におけるステッピング反応、とくに一歩、足を踏み出す瞬間(ステッピング出現時)のメカニズムに焦点をあて、身体重心の動揺特性とその制御に関与する下肢関節モーメントについて、加齢の影響を含めて明らかにすることである。【方法】 対象は日常生活が自立している高齢者20名(67.1±3.3歳)と若年者10名(20.1±0.7歳)とした。後方ステッピング反応の計測には、赤外線カメラ8台で構成される3次元動作解析装置(Motion Analysis社製, Mac3D system)と床反力計(AMTI社製, BP400600)4枚を用いた。Helen Hayes marker setを参考に、赤外線反射マーカを計25ヶ所、被験者の体表に貼布し標点とした。被験者は前方2列、後方2列に設置された床反力計の前列2枚に左右の足部を踏み分けて、立位姿勢を保持した。続いて、随意的に後方へ重心を移動させ、寄りかかった検者の手掌を離すことで外乱を加え、後方へのステッピング動作を実施した。外乱刺激には、Horakらが考案した「Push and Release Test」を用い、外乱が加わった時期を同定するために、検者の手背に小型の加速度計を取り付けた。データのサンプリング周波数はカメラ200Hz、床反力計および加速度計1000Hzとし、AD変換器を介してPC取り込み時に同期した。加速度値から外乱が加わった時期を、ステップ足の床反力値から足部が離床した時期をそれぞれ同定し、Perturbation-Stepping(PS)期と定義した。さらに、後方設置の床反力値からステップ足が着地する時期を同定し、Single-Stance(SS)期と定義した。PS期とSS期における支持脚の関節モーメントと重心動揺特性(動揺量、速度、加速度)を前後、左右、上下方向別に算出し、加えて、PS期とSS期の時間を算出した。なお、関節モーメント値は各被験者の体重で正規化した。統計処理は、PS期とSS期の時間および関節モーメント、重心動揺特性について、高齢群と若年群の差をWeltchのt検定を用いて検討した。さらに、PS期、SS期ごとでPearsonの積率相関係数を用いて、時間、関節モーメント、重心動揺特性間の相関関係を分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した。全ての被験者には、ヘルシンキ宣言をもとに実験の趣旨を口頭および書面を用いて説明し、署名にて同意を得た。【結果】 PS期における上下方向の重心動揺特性値の結果、若年群に比し高齢群で有意に高値を示した(p<0.01)。関節モーメントの比較では、膝関節伸展モーメントにおいて高齢群0.55Nm/kg、若年群0.39Nm/kgで高齢群が有意に高値を示した(p<0.05)。SS期では、高齢群における相関分析の結果、股関節の屈曲・外転モーメントと時間との間に有意な正の相関関係を認めた(それぞれ、r=0.51,0.54 p<0.05)。【考察】 外乱刺激からステップ足が離地するまでの重心動揺特性、とくに上下方向の動揺速度に関連した指標にて、加齢の影響が見いだされた。本研究で用いた外乱刺激(Push and Release Test)は、被験者の肩甲帯を後方で支持する手掌を急激に外すことで加えられるため、後方向および下方向への加速度が生じる。本研究の結果から、高齢者では外乱刺激後の下方向の加速度を制御する機能が低下していることが示唆される。また、PS期ではステップ足を離床させるために、支持脚側に急速に重心を移動させる必要がある。膝関節伸展モーメントの結果において、高齢群で有意に高値を示したことから、高齢群ではステップ足を離床するための支持脚に加わる質量の支持を、膝関節の伸展力を用いて対応していることが示唆される。SS期での高齢者における各指標間の相関分析の結果、ステップ時間と股関節の屈曲・外転モーメントとの間に有意な正相関を認めたことから、高齢群では片脚立位時間の制御に支持脚股関節の屈曲・外転モーメントが関与していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究で得た、後方へのステッピング出現時における加齢の影響や関節モーメントの発生に関する知見は、介護予防事業に参入している理学療法士が立案する転倒予防プログラムの内容を、より科学的根拠に基づいたものとするための基礎データとして活用可能と考える。
  • ─歩幅と歩隔の制限が与える影響─
    松山 太士, 小久保 充, 斎藤 良太, 山本 裕紀, 田岡 葵, 矢崎 進
    p. Ab1317
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 日常の臨床において,通常歩行が比較的安定した対象者に対し,継ぎ足歩行課題によるバランス練習を実施する場面は多い。また,継ぎ足歩行は軽度から中等度の失調症状を呈した者へのバランス評価としても用いられている。一方で,継ぎ足歩行は比較的難易度が高い課題であり,通常歩行が可能であっても継ぎ足歩行は実施困難な者も存在する。継ぎ足歩行は通常歩行と比べて歩幅・歩隔の両者とも制限を加えた条件での歩行形態であるが,歩幅の制限と歩隔の制限それぞれの影響については十分に検討されていない。本研究は,継ぎ足歩行課題における歩幅に制限を加えた条件と歩隔に制限を加えた条件との違いに着目し,歩行の安定性にどのような影響を与えているのかを足圧中心軌跡交差点の変動幅から分析することで,継ぎ足歩行の歩幅と歩隔の制限をどのように設定することが難易度の調整に有効であるかを明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は,若年健常成人20名(男性11名,女性9名,平均年齢26.6±4.3歳)とした。長さ10mの歩行路に5mの助走距離を確保した位置に,長さ2m・幅60cmの床型足圧センサー(Zebris社 FDM system)を設置した。歩行路の左右中心に歩隔規定線を,その垂直方向に30cm刻みの歩幅規定線を引いた。歩行形態は,通常歩行,歩隔規定歩行(歩隔規定線上を歩くが歩幅は自由),歩幅規定歩行(歩幅規定線を踏まずに歩くが歩隔は自由),継ぎ足歩行(歩隔規定線上を歩幅規定線を踏まずに歩行)の4種類とした。計測は各歩行形態とも6回歩行し,そのうち通常歩行の歩数を基準とし,他の歩行形態の歩数も通常歩行と同歩数のデータのみ解析に用いた。測定機器から得られた足圧中心軌跡交差点の前後変動幅(以下,前後変動幅),足圧中心軌跡交差点の左右変動幅(以下,左右変動幅),歩隔,歩幅を4種の歩行形態間で比較した。統計学的解析は反復測定一元配置分散分析とsheffeの多重比較法を用い,いずれも有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者全員に本研究の趣旨を十分説明し同意を得た。【結果】 前後変動幅は,通常歩行との比較において歩幅規定歩行・継ぎ足歩行は有意に増加し(p<0.01),歩隔規定歩行との比較において歩幅規定歩行は有意に増加した(p<0.01)。左右変動幅は,通常歩行との比較において歩幅規定歩行と継ぎ足歩行は有意に増加し(p<0.01),同様に歩隔規定歩行との比較において歩幅規定歩行と継ぎ足歩行は有意に増加した(p<0.05)。また,通常歩行と歩幅規定歩行との比較において歩隔が有意に増加した(p<0.01)。【考察】 継ぎ足歩行は,通常歩行より「歩幅を制限すること」「歩隔を制限すること」の二つの要素の組み合わせであると考えることができる。若年成人を対象とした場合,通常歩行と比較して歩幅を制限することにより有意に前後変動幅と左右変動幅の増加がみとめられた。一方,歩隔を制限しても前後変動幅・左右変動幅ともに有意な変化をみとめなかった。よって,継ぎ足歩行の要素である歩幅の制限と歩隔の制限を比較した場合,歩幅の制限を加えることが課題難易度に与える影響がより大きいことが示唆された。これらより,継ぎ足歩行の実施が困難な対象者の場合,課題設定の際には通常歩行より徐々に歩幅を制限することで課題難易度を調整することが適切であると推察される。また,歩幅を制限することで不安定となった要素を歩隔の増大により代償する傾向があると考えられるため,課題設定の際には歩隔増大による代償に留意する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 歩行安定性向上目的にて継ぎ足歩行によるバランス練習が困難な場合の課題設定に際しては,歩幅を制限することにより課題難易度を調節することが適切であることが示唆された。これにより,継ぎ足歩行によるバランス練習の課題難易度をより細やかに調整が可能となることが考えられる。若年成人を対象とした今回の研究を基盤として,今後は虚弱高齢者や障害高齢者などへ対象を広げることで,移動能力向上や転倒予防など多くの領域において効果的な理学療法の提供に寄与できる可能性がある。
  • ─NU STEPを使用して─
    﨑山 宗俊, 歌﨑 学, 坂倉 浩士, 鵜沼 早紀, 高橋 佑香, 小山内 隆
    p. Ab1318
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 交互式上下肢協調運動器(Senoh社製 NU STEP TRS4000)は、座位で行うエクササイズであり、全身筋力賦活や持久力向上など幅広い訓練効果が期待できると推奨されている。上下肢協調運動は、パーキンソン病患者に対し、有用な理学療法アプローチの一つとされており、当院においてもパーキンソン病患者に加え様々な疾患を有する患者に対し、交互式上下肢協調運動器を使用したエクササイズ(以下NS-ex)を施行している。今回、健常成人に対してNS-exを実施し、バランス能力、歩行能力、柔軟性など、それぞれに与える効果を検証する事を目的とした。【方法】 対象は整形外科的神経学的疾患のない健常成人24名(男性11名・女性13名、平均年齢29.2±6.0歳)。測定項目は身長、座高、体重、座位リーチ距離(以下SFR)、立位リーチ距離(以下FR)、最速10m歩行速度(以下10mMAX)、指床間距離(以下FFD)とした。対象を無作為にNS-ex実施群(以下Ex群)12名とNS-ex非実施群(以下C群)12名に分類した。NS-exは、5分間のNS-exを週4回、2週間の頻度で実施した。負荷は、Senoh社報告による年齢別負荷、速度基準に基づき個別に設定した。FRは、前方、右方、左方の3方向を測定。前方はDancanらの方法に準じて実施し、左右側方は開始肢位リーチ側肩90°外転位より、水平に最大リーチ動作を実施した。SFRは、右方、左方の2方向を測定。開始肢位は骨盤・体幹前後傾中間位、坐骨位置を台の前後1/2、足底非接地の端坐位とした。測定は開始肢位より、リーチ側肩90°外転位にし、水平に最大リーチ動作を実施した。FR、SFRとも各方向それぞれ2回練習後、繰り返し3回行い、最大値を採用した。測定は、両群とも初回訓練実施前(初期)、1回目実施直後(即時)、初期から1週間後(1W)、初期から2週間後(2W)の計4回実施し、1)Ex群とC群の2群の比較検討、2)測定項目毎にEx群およびC群それぞれを時系列毎に比較検討を行った。解析は1)対応のないt検定、カイ2乗検定、2)2元配置の分散分析および多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は熱川温泉病院の倫理委員会の承認を得て実施した。測定に際しては、本研究の目的・意義を説明し、書面にて同意を得て実施した。【結果】 1)FR前方、FR左方、FR右方においてEx群はC群に比べ有意に高い値を示した。2)FFD、FR左方は、Ex群において初期と比べ、即時以降、有意に高い値を示した(p<0.01)。FR前方、FR右方、SFR各方向は、Ex群において初期と比べ、1W以降、有意に高い値を示した(p<0.05)。10mMAXは、初期と比べ1W以降、両群とも有意に高い値を示した (p<0.05)。【考察】 本研究は、座位での上下肢協調運動を行い、バランス能力、歩行能力、柔軟性にどのような影響を及ぼすか検証した。結果では、NS-exによって、FR前方、FR左方、FR右方がC群と比べ有意に向上を認めた。更にEx群は、時系列ごとの比較において、FFD、FR左方は即時より、FR前方、FR右方、SFR各方向は1W目より向上が認められた。しかし、10mMAXは、NS-ex実施の有無に関わらず、1W目より向上し、両群とも同じ傾向を示した。本研究ではNS-exにより、バランス能力向上、柔軟性向上が図れる可能性があると推察した。また、座位バランス能力は1週間、立位バランス能力は1週間以内、柔軟性は、即時効果として向上すると考えられた。これは、律動的な運動により即時的に柔軟性が向上し、リーチ動作の向上に繋がったのではないかと推察した。更に、リーチ動作により四肢・体幹の協調性賦活などが1週間前後より図れ、座位・立位リーチ距離の拡大に繋がったのではないかと考えた。しかし、10mMAXでは、両群とも同じ傾向を示した。これは運動学習などにより、両群において効果が表れた可能性があり、今後より判別しやすい歩行能力評価の検討が必要と考えられた。また、機能向上が図れた時期や向上した測定項目の関連性、生理学的作用なども、今後検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】 本研究において、NS-exによる座位での上下肢協調運動は、座位バランス能力向上のみならず、立位バランス能力、柔軟性など幅広い身体機能向上が図れる可能性が示唆された。今後、座位での上下肢協調運動による生理的影響の調査や症例数の増加を行うことで、座位での上下肢協調運動が立位バランス能力や柔軟性向上を図る理学療法訓練の一手段に成り得る可能性が有ると考えられた。
  • ─主観的に重いと感じる下肢挙上時と軽いと感じる下肢挙上時の比較─
    岡本 光央, 山崎 貴博, 木藤 伸宏, 佐々木 久登
    p. Ab1319
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 日本での腰痛有訴者率は,極めて高い疾患である。この腰痛の85%は,原因が特定できない非特異的慢性腰痛が占めていると報告されている。近年,この非特異的腰痛は,体幹筋の運動制御の変化を示し,これが腰痛と関連しているという科学的根拠に注目が集まっている。先行研究において,腰痛症を呈する者は,健常者と比較しローカル筋である腹横筋・多裂筋・および内腹斜筋下部線維の反応時間の遅延とグローバル筋である外腹斜筋の過活動を示すという報告がある。しかし,これらの体幹筋の運動制御の変化は,腰痛症との関係が明確になっていない。腰痛者における体幹筋の運動制御を評価するテストとして,ASLRテストがあり,このテストの下肢挙上時に下肢が重いと感じる程度と腰痛重症度に相関があることを報告した。しかし,この下肢挙上時の主観的に重いと感じる現象の科学的根拠は示されていない。本研究は,ASLRテストの下肢挙上時の下肢が重いと感じる現象と体幹および下肢筋の反応時間との関連性を調査した。【方法】 11人の男性健常者にASLRテストを実施し,重い下肢側と軽い下肢側を決定した。さらに,負荷なしおよび体重6%の重錘負荷を装着(以下負荷あり)し,音刺激に素早くASLRを実施した。その時の重い下肢と軽い下肢を挙上した時の体幹筋と下肢筋の反応時間を比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 研究に先立ち広島国際大学倫理委員会にて承認を得た後,すべての被験者に研究の目的と趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実験を行った。【結果】 負荷ありASLR時の重い下肢挙上側と反対側外腹斜筋の反応時間の遅延と重い下肢挙上側と同側内腹斜筋下部線維および反対側大腿二頭筋の早期活動を示した。【考察】 本研究の結果より,負荷ありASLRにおける重い下肢挙上時の反対側外腹斜筋は,下肢挙上に先行し瞬時に体幹を安定させるためのフィードフォワード制御に変化が生じていた可能性があると推察した。ゆえに,健常者の下肢挙上時に下肢が重いと感じる理由は,この外腹斜筋のフィードフォワード制御の変化の可能性があると推察された。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から,次のことが示唆できる。第1に,ASLRテスト時の筋の反応時間は,体幹筋の運動制御の評価の指標となる可能性があるということである。四肢の随意的な訓練は,ただ動かすというのではなく,この上述した体幹の運動制御を評価し,フィードフォワード機構を考慮した四肢の動きに伴う体幹の筋反応を出す必要があると推測される。第2に,下肢挙上時の体幹の運動制御は,下部体幹のみを捉えるのではなく,下肢,上部体幹を含めた運動制御を考慮する必要があるということである。しかし,本研究で外腹斜筋の反応時間の遅延を起こす原因を解明することはできなかったため,これは今後の課題である。さらに,本研究の結果が,腰痛と関連しているかどうかは注意すべき点である。今後,腰痛を有する者のASLR時の筋の筋収縮反応時間を検討し,姿勢制御のメカニズムと疼痛発症メカニズムを明らかにすることは,今後の課題である。
  • ─対象者の肢位によって計測値が異なる─
    神谷 訓康, 上坂 建太, 作井 大介, 出口 広介, 河野 裕治, 岩津 弘太郎, 三瓶 秀幸, 北野 貴之, 吉田 都, 入谷 直樹, ...
    p. Ab1320
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【背景】 Demi-spanは身長を推定するために開発された身体指標である。その定義は、肩関節外転90°、肘関節・手関節・手指関節中間位としたときの、指尖から胸骨までの距離と定義されている。Demi-spanは計測が簡便で、他の身長を推定する指標より再現性が高いと報告されており、栄養のスクリーニング尺度であるmini nutritional assessmentなどで使用を推奨されている。本邦では、Nishiwakiら(2011)が、欧米人との体格差を考慮してdemi-spanから身長を推定する式を報告している。先行研究はすべて坐位で計測を行っているが、理学療法の対象には高齢者が多く、術後早期や発症早期に全身状態不安定で、仰臥位で計測することが必要な状況がある。また、仰臥位での計測は、坐位での計測より上肢の肢位を固定しやすく、計測の再現性を高めたり、対象者が同一肢位を保持する負担を軽減したりする効果が期待できる。実際、我々が仰臥位でdemi-spanを計測し、Nishiwakiらの推定式を用いると実際の身長と大きく異なった。その理由の1つは、坐位と仰臥位で肩甲帯から上肢までのアライメントが異なり、demi-spanの計測値が変化する事が考えられた。また、Nishiwakiらは女性で153名、男性で47名と、少ない対象者から推定式を導いていることから、式の精度が低かった可能性も考えられた。したがって、本研究の目的は、1) 仰臥位でdemi-spanを計測し、先行研究の推定式から得られる値と、身長の実測値の際を検討すること、ならびに、2) 仰臥位で計測したdemi-spanから身長を推定する式を作成すること、とした。【方法】 対象は50歳以上で、立位で身長を計測できる者とした。除外基準は、両上肢に明らかな関節拘縮や手指欠損がある者、股関節または膝関節に変形性関節症の既往がある者、圧迫骨折の既往がある者、円背がある者とした。円背の定義は、Nishiwakiらが用いた方法を採用し、硬いベッドに仰臥位になり後頭部をベッドにつけた際、頭部を前後屈中間位に保持出来ないこととした。Demi-spanの計測肢位は仰臥位で、肩関節外転90°、肩関節水平内外転・内外旋中間位、前腕回外90°、肘関節・手関節・手指関節中間位とし、一側の胸骨鎖骨切痕から反対側の指尖までの距離を計測した。計測は0.1cm単位で行った。身長は身長計を用いて立位で計測した。統計解析は、demi-spanの計測値からNishiwakiらが示した式で身長の推定値を算出し、身長の実測値との差の平均値を算出した。次に、従属変数を身長、独立変数をdemi-spanとして単回帰分析を行った。【倫理的配慮】 研究実施に先立って、対象者に研究の主旨、方法、個人情報を厳重に管理することを説明し、同意が得られた場合にのみ計測を実施した。【結果】 11月5日時点で、男性75名(年齢70.1±8.9歳、身長165.1±7.0cm)、女性68名(年齢73.8±7.5歳、身長151.8±6.0cm)の計測を実施した。Nishiwakiらの推定式から算出した身長は、実際の身長と比較して平均で男性10.8±4.7cm、女性8.6±4.3cm高かった。単回帰分析の結果、身長の推定式は男性でy=1.38x+45.3 (r=0.766、P<0.01)、女性でy=1.28x+49.6 (r=0.699、P<0.01)であった。【考察】 本研究は、仰臥位でdemi-spanを計測した場合、先行研究で得られた推定式を適用すると、身長を過大評価してしまうことを明らかにした。本研究の計測結果に、Nishiwakiらの推定式を適用できなかった原因として、仰臥位と坐位で肩甲骨の内外転に差が生じ、demi-spanに変化を生じた事が考えられる。すなわち、仰臥位では坐位よりも肩甲骨は内転し、肩関節は軽度水平外転位となりやすい。そのため、仰臥位で計測すると坐位と比較してdemi-spanが長くなったと考えられる。また、先行研究で示された推定式の精度が不十分であったことも考えられる。本研究では仰臥位で計測したdemi-spanから身長を推定する式を求めたが、今後さらに対象者数を増やし、一般化可能性の高い推定式を示す必要があると思われる。【理学療法研究としての意義】 本研究は、肢位によってdemi-spanの推定式を使い分ける必要があることを示した。そして、過去の研究では示されてこなかった、仰臥位で計測したdemi-spanに適用する推定式を新たに作成した。
  • 仲村 匡平, 村田 伸, 兒玉 隆之
    p. Ab1321
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに】 日常生活において立位を保持したまま顔を洗ったり、散歩しながら会話をしたり、障害物に気を付けながら移動するなど立位や歩行を保ちながら他の事柄に注意を向けている。その際に重要な働きをするのが前頭連合野の注意配分機能である。加齢に伴って注意資源量が減少し、効果的に注意資源を配分することが困難になるため、同時に行う複数の行為のパフォーマンスが低下し、転倒の要因となると考えられている。二重課題を用いた研究では、歩行速度や歩行時間に着目している報告はあるが、二重課題条件下での歩幅、歩隔、つま先角度など詳細な歩行因子を比較した研究は見当たらない。そこで本研究は、虚弱高齢者の二重課題条件下での歩行の特徴について、自由歩行との比較から検討した。【方法】 対象者は、某通所リハビリテーション施設に通う高齢者22名(年齢;81.4±8.8歳)であった。対象者全員が独歩また杖歩行が可能であり、歩行器を使用している方はいなかった。また、後述する課題(100からの秒読み)が実施困難であったものは除外した。歩行の測定は、開始地点から5m先の終了地点までの自由歩行を指示し、その中央2.4mの間をシート式足圧設置跡計測装置で測定した。これを、歩行以外の課題を与えない自由歩行(single-task歩行;ST歩行)、および歩行(主課題)を行いながらもう一つの課題(第2課題)を遂行するという二重課題条件下歩行(dual-task歩行;DT歩行)の2条件で行った。ST歩行とDT歩行の順序は、転倒の危険性を考慮しDT歩行に比べ難易度の低いST歩行を先に行い、次いでDT歩行を行った。なお、ST歩行およびDT歩行は2回の測定を行い、平均値を採用した。歩行を行いながら与えた課題は、100からの秒読みである。対象者に対しDT歩行の測定前に椅子座位にて60からの秒読みあるいは30からの秒読みの練習を行った。ST歩行およびDT歩行の際には、開始地点から終了地点まで日常生活上の歩行速度での自由歩行を行いながら立ち止まることのないよう指示した。なお、DT歩行の際は自由歩行を行いながら秒読みを続けることを指示し、立ち止まってしまった場合は再度測定を行った。測定項目は1歩行速度、2歩行率、3ストライド時間、4両脚支持期時間、5立脚期時間、6遊脚期時間、7ストライド、8歩幅、9歩隔、10つま先角度である。統計処理は、各測定項目についてST歩行とDT歩行変数を対応のあるt検定を用い比較した。有意水準の判定は、危険率5%未満とし、統計解析にはSPSSを用いた。【説明と同意】 対象者には、研究の目的と方法及び対象者にならなくても不利益にならないことを十分に説明し、参加は自由意志とした。【結果】 ST歩行1歩行速度(63.06±17.96cm/sec)、2歩行率(96.57±13.36歩/分)、3ストライド時間(3.31±1.42sec)、4両脚支持期時間(0.19±0.08sec)、5立脚期時間(0.84±0.19sec)、6遊脚期時間(0.45±0.05sec)、7ストライド(77.35±15.2cm)、8歩幅(38.59±7.54cm)、9歩隔(20.15±5.20cm)、10つま先角度(4.29±5.68°)とDT歩行1歩行速度(54.28±13.09cm/sec)、2歩行率(86.96±13.81歩/分)、3ストライド時間(3.65±1.42sec)、4両脚支持期時間(0.22±0.06sec)、5立脚期時間(0.94±0.17sec)、6遊脚期時間(0.49±0.07sec)、7ストライド(75.28±14.97cm)、8歩幅(37.55±7.41cm)、9歩隔(22.41±6.25cm)、10つま先角度(5.12±6.02°)の変数を比較した結果、DT歩行において歩行速度(p<0.001)、歩行率(p<0.0004)、両脚支持期時間(p<0.001)、立脚期時間(p<0.003)、遊脚期時間(p<0.01)、歩隔(p<0.01)に有意差が認められた。なお、ストライド時間、ストライド、歩幅、つま先角度には有意差は認められなかった。【考察】 本研究においてDT歩行の歩行速度が有意に低下し、先行研究と矛盾しない結果が得られた。また、高齢者では認知課題を加えることにより、体幹の動揺が増すことや姿勢調整を優先することが報告されている。本研究により、DT歩行では歩行速度が低下するとともに、歩行率が減少し、歩隔、両脚支持期時間、立脚期時間、遊脚期時間が増加することが示唆された。つまり、DT歩行時の体幹の動揺に対応する為に歩隔を広げ、下肢の振り出しを慎重に行った結果、歩行速度が低下したと推察した。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、DT条件下での歩行の特徴として歩行速度は低下し、歩行率は減少、歩隔、両脚支持期時間、立脚期時間、遊脚期時間は増加することが明らかとなった。今後は、これらの特徴を考慮した理学療法および転倒予防を行うことが必要と思われる。
  • 増田 紗嘉, 菅沼 一男, 芹田 透, 保科 和央, 西尾 玲奈, 佐藤 妙子, 榊原 僚子, 金子 千香
    p. Ab1322
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 高齢者の転倒は,骨折につながり,生活の質の低下,身体機能低下などを引き起こす誘因といっても過言ではない.屋内での転倒は,段差や方向転換が多いことが原因として挙げられている.近年,転倒を未然に防ぐことを目的として,転倒予測の指標を作るための研究がなされてきた.しかし,これらの研究は,狭い空間で行うことが難しい,機器が必要となる,簡便でない,方向転換を含めた歩行場面を再現していないなど課題も多い.そこで,機器を使用することがなく,簡便であり,方向転換を多く取り入れた歩行による転倒指標が必要であると考えた.本研究は,3mの距離で身近にあるペットボトル(500ml)を使用したジグザグ歩行の歩行時間を評価指標とし,転倒予測の評価として用いることができるかについて検討することを目的とした.【方法】 対象は屋外独歩可能な65歳以上の高齢者50名(男性23名・女性27名)年齢73±5.9歳,身長154.3±9.3cm,体重56.7±9.6kgであった.過去1年間の転倒経験の有無をもとに転倒群25名(男性12名・女性13名)と非転倒群25名(男性11名・女性14名)に分類した.転倒群は,年齢73.2±5.9歳,身長153.7±8.0cm,体重57.4±10.2 kg,非転倒群は,年齢72.9±5.6歳,身長155.0±10.8 cm,体重56.1±9.4 kgであり両群の属性に差は認められなかった.なお,測定に影響を及ぼすと考えられる整形外科疾患ならびに中枢神経系疾患などを有する者は除外した.歩行距離は, 3mとしスタート地点とゴール地点に50cmのビニールテープを貼り目印とした.歩行路には,60cm間隔にペットボトルで作成したポール(以下,ポール)を4本設置した.測定は,スタートの合図とともにジグザグ歩行を開始し,ゴールラインを跨いだ時点までとした.また,測定時にポールを跨いだ場合は無効とし再度測定を行った.測定者は1名の検者が,3日以上の間隔をあけて2日間行った.1日目, 2日目ともに測定の前に1回の練習を行い,その後2回の測定を行うこととし,各測定間は1分以上の間隔をあけた.測定値は,2回の測定値のうち最速値を小数点第1位で四捨五入した.統計学的手法は,各検定に先立ち各変数が正規分布に従うかをShapiro-Wilk検定で確認した.その後,検者内再現性には,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:以下,ICC)と対応のあるt検定を用いた.また,転倒群と非転倒群の歩行時間の群間比較には対応のないt検定を用い,転倒群と非転倒群を最適分類するためにReceiver Operation Characteristic (以下,ROC)曲線を用いてカットオフ値を求めた.統計解析は,SPSS Ver.15J for Windowsを使用し,すべての検定における有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の概要と目的を十分に説明し,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文を用いて説明し,書面にて同意を得たうえで実施した.【結果】 Shapiro-Wilk検定の結果,全ての変数が正規分布に従わないとは言えないことが確認された.検者内再現性は,転倒群の1回目の測定値が12.6±2.5秒,2回目が12.6±2.6秒,非転倒群の1回目の測定値が8.7±2.1秒,2回目が8.8±2.0秒であり,対応のあるt検定において差は認められず(p>0.01),ICC(1,1)は,転倒群0.97,非転倒群0.94であった.転倒群と非転倒群の歩行時間の群間比較は,転倒群12.6±2.5秒,非転倒群8.7±2.1秒であり2群間に差が認められ転倒群で有意に増加した(p<0.01).また,転倒群,非転倒群の歩行速度のROC曲線から最も有効な統計学的カットオフ値は10.5秒と判断した.【考察】 本研究はジグザグ歩行の歩行時間を転倒予測の評価指標として用いることができるのかについて検討した. ICCは転倒群,非転倒群ともに高値を示し対応のあるt検定の結果,差が認められなかったことから測定の再現性は良好であると考えた.転倒群,非転倒群の群間比較において差が認められ転倒群の歩行時間が有意に増加した.また,ROC曲線から算出されたカットオフ値は10.5秒(感度80.0%,特異度84.0%)であった.このことから,10.5秒を境界に転倒の起こり得る確率が高くなると考えられ,同時に本テストの検者内再現性も良好であることから,転倒予測の一指標としての応用が期待できると考えた.【理学療法学研究としての意義】 転倒予測を目的とした研究は,数多く報告されているが,これらの方法は,測定に広い場所が必要,高度な機器が必要,歩行場面を再現していない等の問題点が考えられる.また,転倒の原因の一つに方向転換が関係している.本研究で用いたジグザグ歩行テストは歩行に方向転換の要素を取り入れることにより転倒を予測しようと考えた.本法は3mの距離で測定が行え,ペットボトルを使用して測定が行えることから訪問リハビリテーションやスペースの取れない場面などで測定が可能であり転倒予測をする上で有意義であると考えた.
  • 菅沼 一男, 増田 紗嘉, 高田 治実, 江口 英範, 豊田 輝, 芹田 透
    p. Ab1323
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 転倒は,高齢者の日常生活活動を低下させるのみでなく,医療費の増大などの問題を含んでいる.転倒予測について,様々な報告がなされているが方向転換を多く取り入れた報告は散見する程度である.屋内での転倒は,方向転換が要因であるとされることから,方向転換を多く含んだ転倒予測評価が必要である.また,簡便に評価を行うことができる評価指標であれば,理学療法士以外のスタッフが評価を行うことも可能である.本研究は3mジグザグ歩行,10m歩行,年齢が転倒経験の有無と関係があるのかについての検討することを目的とした.【方法】 対象は,屋外独歩が可能な65歳以上の高齢者50名とし,過去1年間の転倒経験の有無により転倒群25名(男性12名・女性13名)と非転倒群25名(男性11名・女性14名)に分類した.転倒群は,年齢73.2±5.9歳,身長153.7±8.0cm,体重57.4±10.2 kg,非転倒群は,年齢72.9±5.6歳,身長155.0±10.8 cm,体重56.1±9.4 kgであり両群の属性に差は認められなかった.なお,測定に影響を及ぼすと考えられる整形外科疾患ならびに中枢神経系疾患などを有する者は除外した.ジグザグ歩行距離は, 3mとしスタート地点とゴール地点に50cmのビニールテープを貼り目印とした.歩行路には,60cm間隔にペットボトルで作成したポール(以下,ポール)を4本設置した.測定は,スタートの合図とともにジグザグ歩行を開始し,ゴールラインを跨いだ時点までとした.また,測定時にポールを跨いだ場合は無効とし再度測定を行った.10m最大歩行速度の測定は,助走路を設け,計測地点を越えた接床からゴール地点を越え接床した時点までの時間を測定した.歩行条件はできるだけ速く歩ける速度とした.測定値はジグザグ歩行,10m歩行ともに,2回の測定値のうち最速値を小数点第1位で四捨五入した.各測定間は1分以上の間隔をあけジグザグ歩行と10m歩行の測定順はランダムとした.統計学的手法は,各検定に先立ち各変数が正規分布に従うかについてShapiro-Wilk検定を行った.その後,ジグザグ歩行,10m歩行,年齢の関連度をみるために相関係数を求め,転倒群,非転倒群の群間比較には対応のないt 検定を用いた.また,転倒の有無を従属変数とし,ジグザグ歩行時間,10m歩行時間,年齢を独立変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った.変数の選択は,尤度比検定による変数増加法を用いた.統計解析は,PASW statistics 18(SPSS Japan)を使用し,すべての検定における有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に従い,本研究の概要と目的を十分に説明し,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文を用いて説明し書面にて同意を得たうえで実施した.【結果】 ジグザグ歩行の測定値は,転倒群が12.6±2.5秒,非転倒群が8.7±2.1秒であり,10m歩行は,転倒群が8.9±1.8秒,非転倒群が7.7±1.9秒であった.各変数はShapiro-Wilk検定の結果,正規分布に従うことが確認された.そこで,Pearsonの積率相関係数を求めた.ジグザグ歩行と10m歩行(r=0.553)および10m歩行と年齢(r=0.520)は有意な相関を認めたが,ジグザグ歩行と年齢(r=0.225)は相関がみられなかった.また,対応のないt検定の結果,ジグザグ歩行,10m歩行ともに有意差が認められた.多重ロジスティック回帰分析において,転倒の有無に影響する因子としてジグザグ歩行が選択された(モデルχ2検定でp<0.01).ジグザグ歩行のオッズ比は,0.377(95%信頼区間0.218~0.652)であった.また,変数の有意性はジグザグ歩行がp<0.01であった.このモデルのHosmer-Lemeshow検定結果はp=497であり,予測値と実測値の判別的中率は82.0%であった.【考察】 過去1年間の転倒経験の有無に対して,ジグザグ歩行,10m歩行,年齢が影響するのかについて検討した.多重ロジスティック回帰分析においてジグザグ歩行が選択されたことから,転倒経験の有無はジグザグ歩行との関連が考えられた.オッズ比からジグザグ歩行時間が1秒増加することで転倒の危険が2.65倍になることが示唆された.また,Hosmer-Lemeshow検定結果から,このモデルは適合していると考えられ判別的中率が82%であることから転倒を予測する指標として用いることが期待できると考えた.本法のジグザグ歩行は,3mであり狭い空間でも測定が可能であり,ペットボトルで作成したポールを用いることで簡便で接触しても安全な測定方法であると考えた.しかし,バランス能力を要求されることから,今後は,安全性や評価の適応範囲などについての検討が必要であると考えた.【理学療法学研究としての意義】 ジグザグ歩行による転倒予測は,特別な機器を用いることもなく小スペースで行える.このことから,訪問リハビリテーションやデイサービスなど限られたスペースでも実施できることから有益な方法であると考えた.
  • 金子 千香, 丸山 仁司, 菅沼 一男, 今野 千帆, 榊原 僚子, 稲田 由紀, 増田 紗嘉
    p. Ab1324
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 転倒と転倒に伴う骨折は高齢者の寝たきり要因の上位に挙げられる.高齢者の転倒に伴う代表的な骨折として大腿骨頸部骨折が挙げられ,受傷機転の95%は転倒によるとされている.日本では2010年度推定で約17万人が受傷し,2030年には約26万人に達すると予想されており,高齢者の転倒予測と予防策が重要とされている.立位での静的姿勢制御能および前傾姿勢の安定性は60歳代以降において低下し,前方への最大振幅は将来の転倒を予測する最大の因子ともいわれている.足趾機能は立位での前方重心偏移時のバランス保持に重要な役割を担っている.足趾把持力強化としてはタオルギャザーを用いることが多く,先行研究において足趾把持力強化が転倒予防に効果があるという報告がされている.しかし,足趾の機能を総合的に評価する方法は確立されていない.本研究の目的は転倒予測のための足趾機能評価として,タオルギャザー実施時間測定(以下,タオルギャザーテスト)の信頼性と妥当性を検討することである. 【方法】 信頼性の検討は健常者9名(男性4名・女性5名,年齢29.0±7.8歳)を対象とし,同日内に3回のタオルギャザーテストを行った.測定の信頼性を確認した後,65歳以上の高齢者女性15名を対象にタオルギャザーテスト, Timed Up and Go test(以下,TUG),Functional Reach Test(以下,FRT)を実施した.対象者は過去1年間の転倒の有無により転倒群と非転倒群に分類した.転倒群は9名(年齢82.5±4.9歳),非転倒群は6名(78.4±7.2歳)であった.なお,対象者は神経学的疾患のない自立歩行可能な者とした.タオルギャザーテストの開始肢位は股関節・膝関節ともに90度屈曲位で足底が完全接地する椅坐位とした.足底にフェイスタオルを縦長に敷き,タオルに引いた開始線と床面の開始線を合わせ,両足趾尖端を開始線に揃えた状態から,タオルの先端10cmを前方の台上に乗せ,できるだけ速くタオルギャザーを行い,タオル尖端10cmが台上から落ちるまでの時間を測定した.測定時間の上限は60秒とした.測定は3回実施し,測定値は最速時間を採用した.TUG,FRTは既存の測定方法に基づき測定した.全ての測定の測定値は小数点第1位までを採用した.統計学的手法は,信頼性の検定には一元配置の分散分析と級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:ICC)を用いた.転倒群と非転倒群の群間比較は対応のないt検定を用いた.さらに,タオルギャザー実施時間測定とTUG,FRTの測定結果の相関についてPearsonの積率相関係数を求めた.すべての検定における有意水準は5%未満とし,統計解析はSPSS for Windows ver.14.0Jを用いて行った.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の内容(目的,方法等),個人情報の取り扱いについて十分に説明し,同意書にて同意を得た上で倫理的配慮に基づき研究を実施した.【結果】 タオルギャザーテストの信頼性は一元配置の分散分析の結果,主効果は認められず,ICC(1,1)は0.821であった.各評価の測定値(転倒群/非転倒群)はタオルギャザー実施時間が55.2±11.5秒/19.5±23.4秒,TUGが13.9±3.0秒/8.0±2.4秒,FRTが21.7±6.6cm/25.7±4.9cm,であった.群間比較では,タオルギャザーテストとTUG は2群間に差が認められたが,FRTは差が認められなかった.タオルギャザーテストとTUGの相関係数は0.651であり,タオルギャザーテストとFRTは0.468であった.【考察】 転倒予測としてのタオルギャザーテストの信頼性と妥当性を検討した.本法の信頼性は良好であった.タオルギャザーテストとTUGの測定結果は,群間比較において差が認められ,タオルギャザーとTUGに中等度の相関関係が認められたことから,タオルギャザーテストを転倒予測の評価指標として用いることが期待できる.しかし,本研究では症例数が少なく適正な分解点を示すことができなかった.また,転倒群ではタオルギャザーを実施困難な者が多かった.以上のことからタオルギャザーテストを転倒予測に用いるには,課題の内容を修正し,対象数を増やすことが必要であると考えた.【理学療法学研究としての意義】 既存の転倒予測評価としてはTUGやFRTなどが知られている.これらの評価は,特別な機器を使用せずに行えるため一般的に広く使用されている.しかし,バランス能力の低下した測定対象者に歩行や応用的な立位を強いる必要があり,測定自体に転倒の危険性がある.また,環境が整わないために実施できないこともある.本法は,椅坐位で安全かつ簡便に,誰にでも行える転倒予測評価として応用できる可能性があると考える.
  • ─各体節の動揺に着目して─
    大谷 拓哉, 竹内 弥彦, 三和 真人
    p. Ab1325
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 静止立位時の身体動揺は基礎的な平衡機能を反映し,身体動揺の増大や動揺速度の増大が平衡機能の低下を示すと考えられている.高齢者における転倒頻発の誘因の一つに平衡機能の減退があげられ,身体動揺に着目した平衡機能の加齢変化に関する報告がなされているが,それらはいずれも身体の合成質量中心(center of mass; COM)もしくは足圧中心を指標としている.生体は剛体ではないため,姿勢制御時に身体の各体節の動きに差異が生じている可能性があり,より詳細な分析には各体節の動きの観察が必要である.特に高齢者では脊柱支持組織の加齢変化により,胸椎部を主体とした脊柱全体の後弯やその代償としての骨盤後傾といった姿勢のアライメントの変化を生じることが多く,高齢者に特徴的な姿勢制御に関する知見を得るためには,頭部や胸郭部,骨盤帯など体節別のCOM動揺を分析することが重要と考える.そこで本研究では,外乱刺激を加えた際のステッピング反応によって高齢者を転倒リスクの高い群と低い群に分類し,静止立位時の各体節のCOM動揺を比較検証することを目的とした.【方法】 対象は60歳以上の高齢者15名(男性8名,女性7名,平均年齢67.2±3.2歳(62-74歳))とした.Horakらが考案した「Push and Release Test」を用いて高齢者に対し後方への外乱刺激を加え,1回のステッピング動作によって姿勢を保持できた高齢者を1回ステップ群(n=7),複数回のステッピング動作によって姿勢を保持できた高齢者を複数回ステップ群(n=8)とした.静止立位姿勢のCOM計測には,光学式の三次元動作解析装置(Motion Analysis社製MAC3D system)を用いた.剛体リンクモデルはHelen Hayes Hospital markers setを参照し,25個の赤外線反射マーカを被験者の体表に貼付した.被験者は裸足にて両足内側縁を15cm離した静止立位姿勢を25秒間保持し,初めの5秒間を除いた20秒間を解析対象とした.マーカの動きのサンプリング周波数は200Hzとした.動作解析ソフトVisual3D(C-Motion社製)を用いて,頭部,胸郭部,骨盤部の各体節についてセグメントモデルを作成した.解析項目として,静止立位20秒間における各体節のCOMの位置変化の実効値および速度,加速度の実効値を前後・左右方向別に算出した.1回ステップ群と複数回ステップ群との比較にはWelchのt検定を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は千葉県立保健医療大学倫理委員会の承認を受けて実施した.全ての被験者には,ヘルシンキ宣言をもとに,研究内容,参加の利益・不利益,参加・中止の自由などを口頭および文書にて説明し,書面への署名にて同意を得た.【結果】 1回ステップ群と複数回ステップ群との比較において,頭部の前後方向の加速度(1回ステップ群:0.084±0.016 m/s2 ,複数回ステップ群:0.11±0.023 m/s2)と胸郭部の左右方向の加速度(1回ステップ群:0.044±0.011 m/s2,複数回ステップ群:0.06±0.013 m/s2)に関して有意差が認められた(それぞれp=0.024,0.026).他の変数については有意差が認められなかった.【考察】 Stepping strategyは補償的バランス反応と定義され,Mcilroy(J Gerontol 1996)は外乱を加えた際の高齢者のステッピング反応の特性として,一度目のステッピングが着地した後,さらに何度かのステッピングが出現することを報告している.さらにMaki(ISPGR 2001)は,着地後のステッピング出現が加齢や転倒リスクと関連していることを報告している.本研究では,複数回ステップ群において頭部の前後方向の加速度と体幹の左右方向の加速度が有意に大きく,複数回ステップ群は静止立位時の重心動揺性が大きいことが明らかとなった.COMの位置変化や速度には有意差が認められず,加速度にのみ有意差が認められたことから,複数回ステップ群ではCOM速度の増加と減少を頻回に繰り返す様式で立位姿勢を保持していると考えられる.転倒リスクの高い高齢者は静止立位時の頭部と胸郭部の動揺性が大きいことが示唆され,動的な動作のみでなく,静止立位時のこれらの要素にも着目した研究や介入を行っていくことが,転倒予防の観点から重要であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究によって,転倒リスクの高い高齢者は,静止立位時の頭部および体幹部の動揺性が大きいことが示唆された.本研究結果は,高齢者の転倒予防に向けて,動的な動作のみでなく,静止立位の特に頭部と体幹の動揺性に着目した研究や治療介入の必要性を示唆している.
  • ─機能的近赤外線分光装置(fNIRS)を用いて─
    那須 高志, 齋藤 明子, 中村 さつき, 河埜 康二郎, 石原 早紀子, 畑 幸彦, 黒岩 直美
    p. Ab1326
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 現在,認知症患者は増加傾向にあり早期予防が求められている.認知機能低下の早期には前頭前野の血流低下が関係し,前頭前野の血流増大が認知機能改善の一つとされている.われわれは前回の本大会にて健常若年者を対象にして歩行条件の違いによる脳賦活領域の検討を行い,歌を口ずさむ歩行が最も前頭前野の賦活したことを報告した. 今回,認知症予防に効果的な歩行条件を設定するために,前回と同じ課題で健常高齢者の前頭前野に与える影響を調査し,健常若年者と比較したので報告する. 【方法】 対象は健常若年者群3名(男性1例・女性2例,年齢は26.2±3.1歳)と健常高齢者群3名(女性3例,年齢は68.3±3.0歳)であった.歩行に関する課題は,課題1:自然歩行,課題2:104回/分のリズムに合わせた歩行,課題3:同リズムの歌に合わせた歩行,課題4:歌を口ずさむ歩行とし,課題の施行は1ブロックを自然歩行15秒→各課題歩行60秒→自然歩行15秒とし2ブロック施行し,課題は紙面にてランダム提示した.それぞれの課題について,脳血流酸素動態を機能的近赤外線分光装置(fNIRS:島津社製 FOIRE3000)を用いて測定した.光ファイバフォルダを前頭-頭頂部を覆うように全49チャンネル(以下:ch)装着した.プローブ位置は国際10-20法に基づきCzを基準に設定した.歩行はBIODEX社製(BIODEX gaite training system)トレッドミルを用い速度は両群とも3.2km/hとした.  解析には酸素化ヘモグロビン(以下Oxy-Hb)値を用い各条件下での歩行と自然歩行の間でOxy-Hb加算平均値を比較した.次に前頭前野背外側部に相当する左右8chにおいてOxy-Hb実測値の絶対値の和を算出し,条件1と各条件の変化率を群間で比較した.なお,統計学的解析は対応のあるt検定を用いて行い,有意水準p<0.05で有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は十分な説明のもと同意を得られた被験者を対象とし,信州大学倫理委員会の承認を得た.【結果】 各条件における若年者群と高齢者群の脳賦活領域は,課題1では両群ともに左右前頭前野,課題2では両群とも左右前頭前野背外側部・運動前野背外側部・運動感覚野領域,課題3では両群とも左右前頭前野背外側部・運動前野・運動感覚野領域,課題4では両群とも左右前頭前野背外側部・補足運動野・運動前野・運動感覚野領域であった. 課題1に対する前頭前野背外側部のOxy-Hb変化率は,課題2では若年者群が右100.1%・左106.6%,高齢者群が右66.2%・左127.9%,課題3では若年者群が右102.1%・左104.1%,高齢者群が右150.5%・左115.4%,課題4では若年者群が右105.1%・左104.6%.高齢者群が右244.3%・左351.7%であった.【考察】 課題1に対する前頭前野背外側部のOxy-Hb変化率では,若年者群と高齢者群ともに課題4が課題1~3より高く,特に高齢者群でより高い変化率を示す傾向にあった.  課題4は課題1~3より複数課題の処理を要する歩行であったので,賦活領域は両群とも左右前頭前野背外側部・運動前野・補足運動野・運動感覚野と広範囲に渡った.二重課題条件下での歩行能力には注意機能が重要であるという山田らの報告や注意機能には前頭葉機能が重要であるというWeberらの報告からも,課題4は複数課題の遂行を必要としたため両前頭前野領域を賦活したものと思われた.特に加齢によって低下した注意機能が必要とされたために高齢者群では特に強く賦活されたのではないかと考えた. 【理学療法学研究としての意義】 認知症予防に効果的な歩行条件を設定するために本研究を行った.歌を口ずさむ歩行は前頭葉機能をより必要とする課題であり,特に高齢者においてより強く両前頭前野領域を賦活した.今後さらに検討して,認知症予防リハビリテーションプログラムの1つに加えたいと考えている.
  • 生友 尚志, 田篭 慶一, 三浦 なみ香, 住谷 精洋, 中川 法一, 増原 建作
    p. Ab1327
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 変形性股関節症(以下、股OA)は股関節の拘縮や下肢の短縮などにより骨盤傾斜を生じる。中でも前額面における骨盤側方傾斜は、見かけの脚長差や歩容に影響を及ぼし、臨床においてもよく評価する項目である。しかし、骨盤側方傾斜角度を立位にて測定した報告はあるが、臥位にて測定し定量的に評価した報告はほとんどない。そこで今回、人工股関節全置換術(以下、THA)前後の骨盤側方傾斜角度を測定し、その特徴と脚延長量との関係性について明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】 対象は2008年9月から2011年5月までに当クリニックにてTHAを行った504関節のうち、片側末期股OA患者200名(男性23名、女性177名)とした。平均年齢は63.5±9.7歳、身長は154.6±7.1cm、体重は55.3±9.6kgであった。両側股OA、慢性関節リウマチ、大腿骨骨頭壊死、骨切り術後、急速破壊型股関節症の症例は対象から除外した。手術方法は全例後側方進入であった。骨盤側方傾斜角度と脚長差は、通常の検査にて撮影した手術前と手術直後の両股関節臥位単純X線正面像を用いて計測した。計測機器は画像情報統合システムShade Quest(横河メディカル社製)を使用した。骨盤側方傾斜角度は両側の涙痕下端を通る直線と水平線のなす角とし、患側骨盤下制方向を正、挙上方向を負とした。術前の骨盤側方傾斜角度が2°以上を骨盤下制位群(以下、D群)、-1.9°~1.9°を骨盤中間位群(以下、N群)、-2°以下を骨盤挙上位群(以下、U群)の3群に分類した。さらに3群を術前後の骨盤側方傾斜角度の変化により6群に分類し、D群の中で術前後で骨盤下制した群をDD群、反対に骨盤挙上した群をDU群、同様にN群下制をND群、N群挙上をNU群、U群下制をUD群、U群挙上をUU群とした。術前後の骨盤側方傾斜角度の変化量は、術直後から術前の骨盤側方傾斜角度を引いた値とした。脚長差は両側の涙痕下端を通る直線と患側の小転子先端を通る平行線との垂線の長さAから健側の小転子先端を通る平行線との垂線の長さBを引いた長さ(A-B)とした。また、術直後の脚長差から術前の脚長差を引いた長さを脚延長量として算出した。術前後の骨盤側方傾斜角度の変化量と脚延長量との関連性を検討するために、統計解析はpearsonの相関係数を求めた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者には口頭ならびに書面にて十分に説明し、研究の参加の同意を得た。また、本研究は当クリニックの倫理規定に則り実施した。【結果】 術前の骨盤側方傾斜角度による分類は、D群49名、N群73名、U群78名であった。各群を術前後の骨盤側方傾斜角度の変化により分類した結果は、DD群22名、DU群27名、ND群49名、NU群24名、UD群71名、UU群7名であった。各群の骨盤側方傾斜角度と術前後の変化量(術前、術直後、変化量)は、DD群(3.1°、5.2°、+2.1°)、DU群(4.2°、1.8°、-2.4°)、ND群(-0.3°、2.5°、+2.7°)、NU群(0.3°、-1.6°、-1.8°)、UD群(-4.8°、-1.0°、+3.7°)、UU群(-3.1°、-4.2°、-1.1°)であった。脚長差と脚延長量(術前、術直後、脚延長量)は、DD群(-10.1mm、3.9mm、14.0mm)、DU群(-14.8mm、0.0mm、14.8mm)、ND群(-13.5mm、2.5mm、16.0mm)、NU群(-13.2mm、0.2mm、13.4mm)、UD群(-11.7mm、2.2mm、14.0mm)、UU群(-10.6mm、0.9mm、11.5mm)であった。術前後の骨盤側方傾斜角度の変化量と脚延長との間に相関関係はみられなかった。【考察】 本研究の結果より、術前の骨盤側方傾斜角度により分類した3群の術前後の骨盤側方傾斜の特徴は、D群は術前後で骨盤下制したDD群より骨盤挙上したDU群のほうが多く、N群はND群よりNU群のほうが少なく、U群はUD群よりUU群のほうが少なかった。また、術前後の骨盤側方傾斜角度の変化量と脚延長量との間には関係性は認められなかった。すなわち、術後患肢が延長しても骨盤が下制する症例ばかりではなく、反対に骨盤挙上する症例もあり、その内訳は術前の骨盤側方傾斜角度により分類した3群により異なることが分かった。これは術前の骨盤側方傾斜角度は骨・関節包・靭帯による関節拘縮の影響が大きく、術後はその影響が軽減し残った股関節周囲筋の伸張性による影響のほうが大きくなるためであると考える。また、股関節周囲筋の伸張性に個人差があり、これが大きな影響を与えていると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、片側股OAの変形の進行過程やTHA術前後の骨盤側方傾斜角度の変化を予測する上で参考になるものであり、意義のある研究であると思われる。
  • 宮﨑 和, 島岡 秀奉, 山﨑 香織, 西本 愛, 森澤 豊
    p. Ab1328
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 肩関節の運動療法において,腱板機能不全の改善を目的とした運動課題や肩の主動作筋などの運動課題に関する知見は多く,臨床的にもこれらの筋の機能改善が重要視されている.しかし,肩関節疾患の患者に認められる肩関節運動変容として,いわゆる「肩の代償運動」でリーチ運動や挙上を行っている場合が多く,肩関節の機能的特性を考えると単一の筋群もしくは運動方向に対するトレーニングでは,挙上能力の改善に難渋する例もしばしば経験する.また腱板断裂術後患者では自動運動が許されるまでの間に修復腱板以外の健常な肩関節筋群が運動様式の変化とともに廃用に陥ることが予測され,その後の肩関節挙上,リーチ運動などの回復に長期間を要する.そこで今回われわれは,肩関節周囲筋の中でも体表にあり比較的表面筋電図の測定が容易な僧帽筋群に着目し,ADLおよびAPDLを考慮し立位における肩関節屈曲および外転運動における僧帽筋活動を健常者で検討したので報告する.【方法】 対象は健常男性7名(両肩14肢,平均年齢22.4±1.8歳)とし,被検筋は左右の肩関節の僧帽筋上部・中部・下部線維とした.測定は,両上肢を下垂し後頭隆起および臀部を壁に接触させた立位を開始肢位とし,運動課題は両側肩関節屈曲および外転位を30°,60°,90°の合計6パターンで各5秒間保持させ,各運動とも3回施行した.各運動課題中の筋活動は,NeuropackS1(日本光電製)にて導出し,得られた5秒間のEMG値のうち安定した3秒間の積分値を算出し,左右3回試行分の平均EMG積分値を個人のデータとした.統計学的処理として,屈曲および外転運動とも各筋の30°での平均EMG積分値を100%とし,平均EMG積分値の規格化を行った上で,7名(14肩)の各僧帽筋の線維毎に各運動課題における筋活動の相対的な変化を一元配置の分散分析にて比較した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に本研究の目的・方法と研究参加に関するリスクと個人情報の管理に関する被検者説明書を作成し十分な説明を行った上で,紙面にて同意を得た.【結果】 各筋の屈曲および外転30°での平均EMG積分値を100%とした場合,肩関節屈曲動作において,角度60°では僧帽筋上部線維は157%,中部線維111%,下部線維163%となり,90°では僧帽筋上部線維350%,中部線維114%,下部線維190%となり,僧帽筋上部および下部線維に屈曲角度の増加に伴う筋活動の増大がみられた(P<0.01).一方,肩関節外転運動においては,角度60°で僧帽筋上部線維239%,中部線維164%,下部線維96%となり,90°では僧帽筋上部線維568%,中部線維245%,下部線維117%となった.外転角度の増加ともない僧帽筋全線維に筋活動の増大がみられ,特に僧帽筋上部および中部線維にその変化が顕著であった(P<0.01).【考察】 肩関節屈曲運動では,肩甲上腕関節の動きに伴い肩甲骨は上方回旋する.肩甲骨の上方回旋は前鋸筋と僧帽筋上部・下部線維の共同した活動により出現する.過去の報告では,僧帽筋下部線維は起始を肩甲棘内側縁に持つため肩甲骨上方回旋の支点となる.また肩甲上腕関節を屈曲保持した場合,肩甲骨に前傾方向へのモーメントが発生し,この前傾モーメントを制動するのが僧帽筋下部線維であるとされる.本研究でも肩関節屈曲時に僧帽筋上部・下部線維の筋活動が増加しており,これら僧帽筋群の協調した筋活動により肩甲骨上方回旋が起こっていることが示唆され,立位時の肩関節屈曲時においても,僧帽筋下部線維が肩甲帯の安定性に機能すると推察された.一方,肩関節外転運動では肩甲骨に下方回旋モーメントが発生し,これを制御するために鎖骨外側・肩峰・肩甲棘上縁に付着する僧帽筋上部・中部線維が活動するとされ,本研究においても,肩関節外転時に僧帽筋上部・中部線維の筋活動が増加しており,立位時においてもこれらの僧帽筋群が協調して肩甲骨を内転方向に固定し,肩甲帯の安定性に機能することが推察された.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,立位でのリーチ運動や空間保持における肩関節周囲筋の活動様式を確認する上で,重要な筋電図学的分析であると考える.また肩関節疾患患者の挙上運動における,いわゆる「肩の代償運動」の要因を検討する際に必要な知見であると考えられ,より効果的な理学療法プログラムの立案のために必要性の高い研究であると考える.
  • ─羽状角,筋厚,筋束長,筋活動量の経時的変化─
    曽田 直樹, 植木 努, 池戸 康代, 石田 裕保
    p. Ab1329
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 疲労状態の組織に能力以上のストレスを与え,さらに無理な動きをしようとした場合,その筋肉や腱,靱帯といった組織に微細外傷や炎症が発生し,局所的な組織障害を招く.そのため筋の疲労時や疲労後の形態学的変化を把握することは,肉離れなどの解明の基礎的研究になりうる重要な知見である可能性がある.筋疲労を評価した報告では,その生理学的変化として筋電図を用い評価されてきた.その特徴として筋活動量の増加や周波数帯域の低周波化がよく知られており,筋活動量や中間周波数は筋疲労の簡便な指標となる.しかし筋電図では筋の形態学的な変化を把握することは困難である.筋疲労時中の形態学的変化を調査した研究では, 超音波を用いて観測されておりてり,その指標として筋厚や羽状角,筋束長が用いられるようになってきた.しかし,その報告は少なく,肉離れの多い膝周囲筋の形態学的変化や疲労後の変化を見ていない.そこで本研究では,超音波,筋電図を用いて疲労課題中および課題後の羽状角,筋厚,筋束長,筋活動量の経時的変化について調査した.【方法】 対象は,下肢に既往のない健常女性12名とした.対象筋は外側広筋とした.疲労課題は,最大筋力の75%の強度,膝関節屈曲45度での持続性等尺性膝伸展運動とし,2秒間以上その筋力が維持できなくなった時点を終了とした,また課題後は,同肢位のまま30秒間の安静時間を設けた.なお最大筋力の測定および一定筋力の持続にはBiodex社のsystem3を用いた. 外側広筋の形態学的変化の観測として超音波画像診断装置(東芝メディカルシステムfamio8)を用い,課題中および課題後30秒間を記録した.測定部位は,先行研究に基づき大転子と大腿骨外側上顆を結んだ線上50%の位置とした.プローブを皮膚面に対して垂直に保持し,筋肉を圧迫しないように皮膚に軽く触れるようにして接触させ静止画および動画を記録した.測定項目は,羽状角,筋厚,筋束長とし,羽状角は深層の腱膜と筋束のなす角度,筋厚は表層の腱膜と深層の腱膜の間で測定した.筋束長の推定には,先行研究に基づき筋厚および羽状角から筋束長を算出した.(筋束長=筋厚/sin羽状角).生理学的変化として表面筋電図(NORAXON社製)を用い,疲労課題中の外側広筋の筋電図波形を記録した.測定した全波形は,整流化後,50msのRoot Mean Square(RMS)値を求め,最大等尺性収縮時のRMS値を100%として正規化した値(%MVC)を求めた.統計学的分析には,課題前後の羽状角,筋厚,筋束長の比較に対応のあるt検定を行った.また疲労課題が継続可能であった時間を100%とし,4区間(1期25%,2期50%,3期75%,4期100%)に区切り,各区間における羽状角,筋厚,筋束長,RMSを算出し,その変化をfriedman検定にて解析を行った.有意な場合に多重比較(sheffle)を行った.有意水準は5%とした.統計はエクセル統計2006を使用した.なお課題前は安静時,課題後は課題終了の30秒後,課題中は課題の継続可能であった区間を表している.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて承諾を得た.また本学倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 疲労課題の継続時間の平均は57.9秒であった.羽状角の課題前後の比較では,課題前は12.1度,課題後は14.5度と課題後に有意に増加していた.筋束長では,課題前92.9mm,課題後81.3mmと課題後に有意に減少していた.筋厚は課題前18.0mm,課題後18.6mmで有意な差は認められなかった.また課題中の変化では,羽状角が安静時と比較し,第1,2,3,4区間で有意に増加した.筋束長は,安静時と比較して第2,3,4区間で有意に減少した.筋厚については,有意な差は認められなかった.RMSについては,第1区間と比較して第3区間で有意に増大していた.【考察】 疲労課題における形態学的変化は,課題開始後,羽状角の増大と筋束長の減少が起こったが,その後は,大きな変化は見られなかった.課題中,角度が変化しなかったのは,課題が75%MVCと高負荷での条件であったため課題初期から羽状角の角度が最大になっていて変化する余地がなかった可能性が考えられる.また課題後の羽状角の増加,筋束長の減少していることは,安静時と比較し疲労直後は形態学的にはトルク発揮に不利な状態になっていることが示唆される.【理学療法学研究としての意義】 これらの知見は,筋疲労に対する評価や治療効果の指標となる可能性があり,さらには,筋疲労を評価することにより肉離れの予防やトレーニング効果に役立つ可能性がある.
  • ― Borg Scaleを指標に用いて―
    輿石 哲也
    p. Ab1330
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 臨床において筋力・筋持久力増強等の運動療法を行う際に、患者から疲労感の訴えを聞くことがある。しかし、どの程度の疲労感で運動を一時中止し休憩を挟むべきか、また最大筋力の低下が起こり、筋疲労が起こるかの先行研究は少ない。そこで今回、筋持久力に着目し、主観的な疲労感と筋疲労の関係を明確にすることを目的として、自覚的運動強度のScaleである15段階のBorg Scaleを疲労感の指標に、中等度の運動負荷で膝関節伸展運動を反復する運動課題を行った。その後、どの程度の疲労感から筋疲労が起こるか、群間における運動課題前後の筋力の変化率を比較し検討した。【方法】 対象は健常成人女性60名(年齢27.1±5.3歳、身長158.0±5.3cm、体重52.4±7.4kg)、対象を15名ずつ4群に分け、Borg Scaleを疲労感の指標にし、Borg Scale 13「ややきつい」まで運動課題を行う群(以下BS13群)、Borg Scale 15「きつい」まで行う群(以下BS15群)、Borg Scale 17「かなりきつい」まで行う群(以下BS17群)、運動課題を行わないcontrol群(以下C群)とした。筋力測定・運動課題の開始肢位は、端座位で両腕を胸の前で組み、右膝関節90°屈曲位、下腿は下垂した肢位とした。筋力測定は、各群とも運動課題前後に実施し、右大腿四頭筋の最大筋力を3回測定し平均値を求めた。測定方法は、Hand-held dynamometerアニマ社製μ-Tas F-01(以下HHD)を使用し、センサーを下腿遠位部前面に付けベッド脚と固定用ベルトで連結した。また、最大等尺性収縮で5秒間測定し、30秒以上の休憩を挟んだ。運動課題は、重錘バンドを右下腿遠位に着け、2秒に1回のペースで右膝関節伸展運動を反復させた。重錘バンドの重さは、女性の体重の24%から膝関節伸展運動の最大挙上重量の予測値を算出し、予測値の40%に設定した。また、運動課題の量は、Borg Scaleの表を見ながら、右大腿四頭筋がBS13群は「ややきつい」、BS15群は「きつい」、BS17群は「かなりきつい」とそれぞれ感じるまで運動を反復し、運動課題を中止させた。運動課題前後の最大筋力の変化率は、(運動後最大筋力-運動前最大筋力)/運動前最大筋力×100で算出し、各群間の変化率を比較した。統計処理は、Kruskal-Wallis検定後、scheffe法による多重比較を行った。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、当院の倫理委員会の承認を得て実施した。また、対象に対して本研究の目的や方法を説明し、署名による同意を得た。【結果】 運動課題前後の最大筋力の変化率はC群0.02±2.89%、BS13群-4.79±7.34%、BS15群-15.10±12.50%、BS17群-21.88±12.42%であった。検定の結果、C群とBS13群では最大筋力の変化率に有意差が認められず、C群とBS15群、BS17群では有意差が認められた(p<0.01)。また、BS13群とBS15群、BS13群とBS17群では有意差が認められた(BS13群-BS15群:p<0.05、BS13群-BS17群:p<0.01)。BS15群とBS17群では有意差が認められなかった。【考察】 筋疲労とは、筋収縮を連続して行う際、筋力低下が起こることであり、疲労とは生体がある機能を発揮した結果、その機能が低下する現象や組織・器官の興奮性が低下する現象、また、予防的な警告であり、疲労困憊に陥る前に活動をやめさせる神経メカニズムや生体の防御反応といわれている。今回の結果から「ややきつい」の疲労感では筋力低下が起こらず、「きつい」の疲労感では筋力低下が起こり、筋疲労が起こっていると示唆された。これは、「ややきつい」と「きつい」の間で筋疲労が起こり始めており、「ややきつい」の疲労感は筋疲労が起こる前の警告、「きつい」の訴えは筋疲労が起こっている警告として捉えられると考えられる。宇都宮は、最大筋力の15~40%の負荷で疲労が起こるまで反復すると筋持久力増強に効果があると述べている。本研究も同様に最大筋力のおよそ40%の負荷をかけていたため、筋持久力増強における反復量は、筋疲労が起こり始める「ややきつい」と「きつい」の間までの反復が適切と考えられる。また、筋疲労の起こり始めに休憩を挟むことで、過度な疲労の蓄積を防ぎ、過負荷の予防につながると考えられる。今後は、疾患の有無や性別・年齢による違い、疲労感による目安が筋力・筋持久力増強時の運動負荷量の指標になるか検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 Borg Scaleを指標にした今回の結果から、「ややきつい」の疲労感では筋疲労が起こらず、「きつい」の疲労感から筋疲労が起こっていた。臨床においては、「ややきつい」と「きつい」の疲労感の間で注意を払う必要があると示唆された。これは、筋疲労の有無の判断となり、運動負荷量の設定や運動療法時に休憩を挟み、過負荷を予防するひとつの目安になると考えられる。
  • 小笠原 巧, 坂野 裕洋, 嶋 祥理, 服部 光秀, 佐藤 香奈, 松原 貴子
    p. Ab1331
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 肩こりや腰痛などの自覚症状を訴える者の多くは,理学療法の対象となる.そのため,理学療法において痛みに関する調査・研究は重要である.また,これら骨格筋由来の運動器の痛みの特徴として動作時痛があり,この痛みによって身体活動が制限され,日常生活に支障を来す場合が多い.そのため,動作時痛を定量化することは,患者間や治療前後の比較を可能とし,効果判定などに有益となる.そこで我々は,検体採取自体が簡便で非侵襲的なため,比較的臨床応用が容易な唾液による評価に着目した.唾液には,自律神経により分泌が調節される消化酵素である唾液αアミラーゼ(sAA)と糖タンパク質であるクロモグラニンA(CgA)が含まれ,両者は疼痛などのストレス指標として一般的に用いられている.sAAは,分泌経路が身体的ストレス系である交感神経-副腎髄質系経路(SAMsystem)と精神的ストレス系である視床下部-下垂体-副腎皮質系経路(HPAaxis)の2つにより影響を受け,身体的,精神的ストレスの双方を反映すると言われている.それに対し,CgAはHPAaxisによる経路のみで分泌されるため,精神的ストレスのみを反映すると言われている.そこで,動作時痛を唾液にて評価する場合,sAAは動作時の疼痛では無く,身体活動に影響を受けることが予測され,CgAは動作時の疼痛に影響を受けることが予測される.そこで本研究では,健常成人の下腿三頭筋に遠心性収縮(ECC)運動を行うことで遅発性筋痛(DOMS)を発現させ,歩行時痛に対するsAA,CgAの反応性について検討した.【方法】 健常若年男性7名(平均年齢20.1±1.6歳,平均身長169.8±4.1cm,平均体重61.7±6.8kg)を対象に,下腿三頭筋のECC運動を行い,visual analogue scale(VAS) を用いて,運動前と運動後から7日後までの経時的な下腿三頭筋の安静時痛,短縮痛,伸張痛を聴取した.さらに,ECC運動前と運動2日後に傾斜角度15°に設定したトレッドミルを用いて3分間の通常歩行を行い,歩行直前と歩行中に感じた疼痛の程度をVASにて聴取した.また,歩行の直前と直後に唾液を採取し,採取した唾液を試料とし,sAAとCgAを測定し,トレッドミル歩行後の値をトレッドミル歩行前の値で補正した変化率(%)を算出した.なお,統計学的検討は,群間および群内比較を一元配置分散分析にて行い,有意差を認めた場合は事後検定にてFisherのPLSD法を用いて行った.相関は,スピアマンの順位相関係数を用いて行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本実験のすべての手順は,世界医師会の定めたヘルシンキ宣言(ヒトを対象とした医学研究倫理)に準じて実施した。全ての被験者には,本研究の主旨を文書及び口頭にて説明し,研究の参加に対する同意を書面にて得た.【結果】 VASを用いた経時的な筋痛は,ECC運動1日後より伸張痛と短縮痛が発現し,短縮痛は3日後まで,伸張痛は5日後まで有意に増加した.また,ECC運動2,3日後の伸張痛は,安静時痛,短縮痛と比べ有意に高値を示した.sAAは,ECC運動前において歩行前後で有意な増加を認めたが,ECC運動2日後では歩行前後で有意な変化を認めなかった.歩行時痛とsAAの関係性はECC運動2日後において負の相関関係にあった.それに対してCgAは,ECC運動2日後において歩行前後で有意な増加を認め,歩行時痛とCgAの関係性は正の相関関係にあった.【考察】 下腿三頭筋のECC運動によって,運動2日後に伸張痛を主としたDOMSの発生を認めた.そのため,運動2日後では歩行に伴って下腿三頭筋に疼痛が誘発された.しかし, sAAは疼痛を伴わない運動前の歩行前後で有意な増加を認め,疼痛を伴う運動2日後には変化を認めなかった.また,運動2日後のsAAと疼痛の関係をみると,疼痛の増加に伴いsAAは減少していた.一方,CgAは疼痛を伴う運動2日後の歩行前後に有意な増加を認め,運動2日後のCgAと疼痛の関係をみると,疼痛の増加に伴いCgAも増加していた.このことから,CgAは歩行に伴って誘発される疼痛による精神的ストレスの増加を反映して増加することが考えられ,骨格筋由来の動作時痛を評価する場合,有用な評価指標となる可能性が窺えた.【理学療法学研究としての意義】 理学療法において,骨格筋に由来する動作時痛を訴える患者は多い.そのため,動作時痛を客観的に定量化する手法を確立することは,治療効果の判定などに有益と考える.今回の結果は,骨格筋由来の動作時痛を評価する場合,CgAは有用な評価指標となる可能性を示唆する.これは,動作時痛を客観的に定量化する手法を確立するための基礎的資料を提供することができると考える.
  • 滝澤 恵美, 鈴木 大輔, 伊東 元, 藤宮 峯子, 内山 英一
    p. Ab1332
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 大内転筋は,大腿四頭筋や大殿筋に次ぐ大きさを有する扇形の筋である。しかし,その大きさに反して大内転筋を含む股関節内転筋群の機能や役割は,はっきりとわかっていない。筋の形態は張力特性を反映するため筋の機能と関係がある。そこで本研究は,大内転筋を任意の筋束に分けて筋の形態を詳細に調べ機能について検討した。【方法】 1. 材料:男性のホルマリン固定遺体7体(左2肢,右3肢)を使用した。死亡時の平均年齢は80歳(75~90歳)であり,神経筋疾患を有した遺体,関節拘縮,著明な筋萎縮および過剰筋が見られる下肢は除外した。大内転筋を剖出し,大腿深動脈の貫通動脈を基準に大内転筋を4つの筋束(AM1-AM4)に分けた。2. 形態計測:AM1-AM4の各筋束の体積,筋長,筋線維長,生理的断面積(PCSA)を計測した。さらに比較群として恥骨筋(PE),長内転筋(AL),短内転筋(AB)についても同様の項目を計測した。なお,内転筋群のうち外閉鎖筋は他の内転筋と明らかに異なる走行と作用を示すため,薄筋は二関節筋であり他の内転筋と異なる特徴を持つため比較群から除外した。大内転筋の筋束および比較群の筋は骨付着部をメスで切離し,表面の結合組織,血管,神経を除去した後に次の計測を行った。体積は,水を入れたメスシリンダーに筋または筋束を入れ増量分を計測した。筋長および筋線維長は,筋を伸長させ起始から停止までの距離を定規で計測した。筋長は腱および腱膜を含む筋の最大部分,筋線維長は中間部分の長さを用いた。PCSAは筋腹の最大部を筋線維に対して垂直に切断後,断面をデジタルカメラで撮影し画像解析ソフトを用いて求めた。 3. 解析:各標本の大腿骨大転子から外側上顆までの長さを大腿長とし形態計測値の標準化を行った。標準化後の体積,筋長,筋線維長,PCSAの平均値を用いて主成分分析を行った。また主成分分析で分類されたグループ間で形態値を比較するためにScheffeの線形対比を用いて多重比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本人および家族の同意のもと札幌医科大学に献体された遺体を用いた。なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 AM1-AM4,PE,AL,ABの総体積は362.7±74.4cm3,総体積に占める大内転筋の割合は65.3±5.1%だった。大内転筋の筋束のうちAM3およびAM4が大きく,それぞれが大内転筋総体積の約30%を占めた。AM1 は一番小さく12.9%であった。AM1-AM4とPE,AL,ABから得られた体積,筋長,筋線維長,PCSAの計測値を用いて主成分分析を行った。固有値が1以上を示した主成分は第一主成分のみで,固有値3.64,寄与率は91.1%であった。計測した筋群は,第一主成分スコアが負のAM1・PE・ABと正のAM2-AM4・ALの2つのグループに分類された。 異なるグループに属したAM1とAM2-AM4で各計測値をScheffeの線形対比を用いて多重比較した結果,筋長と筋線維長(p<0.01),体積(p<0.05)で有意差を認めたが,PCSAでは有意差は認められなかった(p>0.05)。神経支配はAM1とAM2が閉鎖神経後枝,AM3は閉鎖神経後枝と脛骨神経の二重神経支配,AM4は脛骨神経であった。【考察】 筋線維は定まった長さのサルコメアからなるため,筋線維長が長い程,サルコメアが多く並び関節を大きく動かすことが可能である。一方,PCSAは筋線維の数と太さを反映するため,PCSAが大きい程,発揮される力が大きい。本研究の結果,大内転筋は筋束ごとに異なる筋の形態と支配神経を示した。これより,筋線維長がAM1より有意に長いAM2-AM4は股関節に大きな可動域や運動性をもたらす筋束であると推察された。一方,筋線維が短く関節近くに配置されているAM1はより細かい動きを素早く行うことに優位性を持つと推察され,関節の動的安定性を担う筋束であると推察された。【理学療法学研究としての意義】 筋の質量は機能的な重要性を示す1つの指標である。しかしながら,大内転筋はその質量に反して驚くほど情報が少ない。本研究では,大内転筋の約7割に相当する筋束が表面筋電図では評価が難しい深部に存在すること,さらに深部の筋束は形態的にも神経支配の上でも差異があることを示した。これらは,一般的に重要視される中殿筋のみならず,対側にある巨大な大内転筋の潜在的役割を探索することの必要性を示しており関節障害の治療において意義のある情報となりうる。
  • 荒木 智子, 須永 康代, 鈴木 陽介, 木戸 聡史, 井上 和久, 久保田 章仁, 相澤 純也, 加地 啓介, 兵藤 甲子太郎, 高柳 清 ...
    p. Ab1333
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 足部の成長は幼児期が最も著しい。昨今、立位時に足趾が接地していない「浮き趾」という状態が散見される。「浮き趾」は痛みや不快感などはない。本研究の目的は幼児における浮き趾の出現と足部形態・足趾形態との関連について検討し、「浮き趾」の発生要因を探索することである。【方法】 対象は健常な3-6歳の幼児100名(男50名、女50名)、200足である。3歳児39名(78足)、4歳児18名(36足)、5歳児37名(74足)、6歳児6名(12足)であった。対象は足部に問題や既往がないもの、測定時に外傷などがないものとした。足長・足幅を測定し、フットプリントと写真を採取した。フットプリントは立位で測定をした。写真は座位で上方より撮影した。足趾の接地状態についてフットプリントの撮像状況により、各足趾に0-2点(0点:完全離地、1点:部分接地、2点:完全接地)で点数化した。また、写真より足部形態の特徴(ギリシャ型(以下G型)、エジプト型(以下E型)、スクエア型(以下S型))を分類し、写真と触診から評価した。足趾形態は足趾の変形がない(以下N群)、Claw toe群(以下C群)、Hammer toe(以下H群)、内反小趾群(以下A群)に分類された。評価は全て同一検者が実施した。統計学的処理はSPSS17.0を用い、各年齢群間での足部形態、足趾形態と浮き趾についてKruscal-Wallis検定を行い、浮き趾の点数と足部形態、足趾形態について多変量分散分析、多重比較を行った。いずれの方法でも危険率は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 幼児及び保護者に対して、研究内容・方法について書面で説明し、署名により同意を得た。測定時には改めて口頭で幼児に同意を得て、測定途中でも中断できるように配慮し実施した。【結果】 全体の77.5%は第5趾が完全離地の状態であった。第5趾の「浮き趾」が多いのは先行研究と一致した。3歳児の67%、4歳児の75%、5歳児の86%、6歳児の91%にみとめられ、5歳児は3歳児に比べて第5趾完全離地は有意に増加していた(p<0.01)。浮き趾の平均点数は全体で4.5点、3歳児は4.5点、4歳児は4.5点、5歳児は4.6点、6歳児は3.7点であった(N.S.)。足部形態の分類では母趾が最も長いE型が54%だった。次いでG型33%、S型13%であった(N.S.)。3歳児、6歳児ではE型が多く、4歳児、5歳児ではG型が多かった。足趾変形はN群が多く60%でC群が32%、H群は5%にみられた。足趾変形と浮き趾の点数はA群が最も低く3.1点、他の3群は4点台であった。N群とC群で3-5歳間は年齢とともに平均点が上方に変化した。C群がN群より平均点が高かった。足部形態と浮き趾の点数ではG型、E型がS型よりも高い点数を示した。また足部形態との比較では、全分類でN群が多かった。C群、H群はG型で最も多くみられ、次いでE型であった(N.S.)。【考察】 第5趾の「浮き趾」は全体の77%にみられ、年齢に伴う増加はなかったが、3-5歳では部分接地の割合が減少し、完全離地が増えていた。しかし全趾を含む点数では有意な変化はみられず、第5趾特有の変化であることが示唆された。足部形態では、先行研究でE型が70%以上とされているが、本研究ではそれより低い割合にとどまった。ここから幼児の足部形態の多様性が示唆される。足部の長軸方向への成長は骨の成長に依存するため、足部形態が変化していくことが推測される。足趾の変形は6割がなかったが、「浮き趾」の平均点は低かった。ここから足趾の変形と「浮き趾」の関連はないことが明らかになった。幼児の足部、足趾は成人に比して柔らかく、その間の形態変化は歩容や姿勢制御など機能面への影響が考えられる。足長は3-5歳で、足幅は4-5歳で著しく進む。運動発達もその間に著しく進み、姿勢制御の体性感覚は6歳頃から優位になる。姿勢制御には足部の関与が大きく、そのためにも足部形態、足趾機能を良好に保つことが重要だと考える。これまで「浮き趾」を足部形態の異常としてとらえてきたが、足部形態の多様性が多く明らかになり、今後は機能面との検討が重要である。【理学療法学研究としての意義】 足部・足趾は歩行時に重要な役割をもち、足部形態は痛みや機能障害を呈する病的変形を除いても多様である。形態の多様性を把握することで健康増進やパフォーマンスの向上などに寄与できる。幼児期の健やかな成長を促すためにこれらを把握し、検討することは理学療法学研究として意義がある。
  • 山本 洋司, 木下 利喜生, 橋崎 孝賢, 森木 貴司, 藤田 恭久, 櫻井 雄太, 山城 麻未, 児嶋 大介, 中村 健
    p. Ab1334
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 全身浴は,リハビリテーションの分野で広く行われている物理療法の一つであり,生理学の分野でも頸下浸水として広く研究されている.若年健常者においては,頸下浸水の影響で静脈環流量が増加し,一回心拍出量および心拍出量が増加するが,総末梢血管抵抗の低下により平均血圧が維持される.一方,高齢者では,平均血圧が上昇するとの報告もある.脳血管障害者は,肩手症候群・上室性期外収縮・多汗症などの交感神経障害を疑わせる症状がしばしば観察される.さらに,脳血管障害者の安静時筋交感神経活動は,同年代の健常者より有意に高く,静的運動負荷で筋交感神経活動上昇が抑制される事が報告されている.また,脳血管障害者は健常者に比べ動脈硬化が高度で,血管コンプライアンスの低下が推察される. そこで我々は,35℃の中性温で頚下浸水を行い,脳血管障害者の循環動態を検討した.【方法】 対象は,発症から6か月以上経過したテント上病変を持つ脳血管障害者男性6名(以下CVA)と,健常高齢者男性6名(以下AB)とした.除外基準は,糖尿病・心疾患を有しない者とした.降圧薬を実験開始24時間前より中止した.被験者は,中性温の室内で10分間の安静座位の後(安静期),35℃の中性水に頚まで10分間浸かり,その後再び中性温の室内で10分間の安静座位をとった(回復期).測定項目は,心拍数,血圧,心拍出量,食道温とした.心拍出量はインピーダンス法を用いた.これらの測定項目は実験期間を通して1分毎に計測した.さらに,血圧と心拍出量から総末梢血管抵抗を算出した.結果の解析は,安静期と浸水1・3・5・7・9分,回復1・3・5・7・9分の値についてANOVAを行い,post hocはFisher's LSD testを使用した.CVAとABの2群間についてはStudent's t-testを使用した.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮】 本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会で承認され.実験に先立って被験者には研究の主旨と方法を書面で十分に説明し,同意を得た上で研究を行った.【結果】 測定を通じて,食道温と心拍数は両群で変化しなかった.一回心拍出量は,両群で浸水中に安静期より上昇し(P<0.05),浸水10分でCVAの値はABより低値であった(P<0.05).心拍出量は,両群で浸水中に安静期より上昇し(P<0.05),浸水中でCVAの値はABより低値であった(P<0.05).平均血圧は,CVAで浸水中と回復期1・3分に安静期より上昇し(P<0.05),ABで浸水3・5・7・9分と回復期1分に安静期より上昇したが(P<0.05),両群間で差は認めなかった.総末梢血管抵抗は,CVAで浸水1・3・5・7分に安静期より低下し(P<0.05),ABで浸水中に低下した(P<0.05).また,CVAの総末梢血管抵抗は,浸水中および回復1・3分でABと比較し,高値であった(P<0.05).【考察】 頚下浸水は,静脈環流量を増加し,血圧を上昇させるが,総末梢血管抵抗を低下させることで血圧を一定に保持するとされている.今回,CVAおよびABにおいて頚下浸水時に平均血圧の上昇を認めた.その原因には,総末梢血管抵抗の低下が不十分であったと考えられ,動脈硬化による血管コンプライアンスの低下および交感神経機能障害などの要因が考えられる.また,CVAはABに比べ心拍出量の上昇が抑制されていた.これは,CVAで循環血液量の減少および静脈コンプライアンスの低下に伴う静脈還流量の減少が存在する可能性が考えられた.さらに,CVAはABに比べ総末梢血管抵抗が高値であり,交感神経機能障害がより重度である可能性を示唆した.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果において,CVAの頸下浸水時の血圧上昇はABと同等であり,心拍出量増加の程度はむしろABと比較し抑制されていた.このことより,CVAに頸下浸水を行う場合,循環反応において過度な危険は及ぼさないことが示唆される.
  • 國吉 光, 奥島 佑樹, 小野 くみ子
    p. Ab1335
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 車椅子使用者の多くは十分な運動量をとることが困難である。そのため、生活習慣病を容易に誘発すると報告もある。近年、健康予防や予防医学の面から水中運動が注目されている。本研究は水中における座位ハンドエルゴメータ運動が生体に与える影響について明らかにすることを目的とした。【方法】 被験者は若年成人男性10名(年齢21.3±1.7歳、身長171.3±7.2cm、体重59.2±3.8kg(平均値±標準偏差))であった。水中にてハンドエルゴメータ運動を行う水中(W)条件(室温27.4±0.1℃、湿度81.4±11.3%、水温30.4±0.3℃ 、水位は被験者の腸骨稜の3指上方)、陸上にてハンドエルゴメータ運動を行う陸上(L)条件(室温26.8±1.5℃、湿度74.5±11.7%)の2条件を設定した。調節呼吸(15回/分)による5分間の座位安静を実施後、1分間で浴槽へ移動し、浴槽内で座位安静を10分間(前半5分間:自然呼吸、後半5分間:調節呼吸)実施した。その後浴槽内でハンドエルゴメータ運動(最大酸素摂取量の40%)を10分間実施し、運動終了後30秒間の回復を行った。酸素摂取量(VO2) は測定中マスクを装着し、ダグラスバック法を用いて浴槽内安静5分間、運動開始後8-10分の2分間呼気を採取し、呼気ガス分析装置を用いて分析を行った。心拍数(HR)はパルスウォッチを、直腸温(RT)は直腸温計を用いて経時的に測定した。上肢および心肺の自覚的運動強度(RPE)はBorg scaleを用いて運動中1分毎に測定した。副交感神経系活動の指標とされる高周波成分(HF)は、心拍計を用いて経時的に測定した心拍変動からMemCalc法による周波数解析を行い算出した。HFは調節呼吸による浴槽内安静の5分間、運動開始後8-10分間の2分間、運動終了後30秒の各平均値を自然対数化して条件間で比較を行った。運動終了後30秒間の心拍数から心拍減衰時定数(T30)を算出した。統計学的解析はJMPを用いた。HRおよびT30は繰り返しのある一元配置分散分析、HFおよびVO2は一元配置分散分析、RTおよびRPEはKruskal-wallisの検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は神戸大学保健学倫理委員会により承認を得た。対象者には事前に説明し書面にて同意を得た。【結果】 安静時VO2はW条件3.4±0.5ml/kg/min、L条件3.6±0.7ml/kg/min、運動開始後8-10分のVO2はW条件14.6±1.8ml/kg/min、L条件13.4±1.8と、いずれも有意差を認めなかった。安静時HRはW条件62.6±9.1bpm、L条件74.3±8.6bpmであり、L条件に比べW条件で有意に低値を示した(p<0.05)。運動時HRは、条件間に有意差を認めなかったが、常にL条件に比べW条件で低値を示す傾向がみられた。RTは運動終了時W条件36.6±0.5℃、L条件36.6±0.4℃と有意差を認めなかった。上肢RPEは運動終了時W条件14.8±1.0、L条件15.4±2.2、心肺RPEはW条件10.6±3.0、L条件12.1±3.3と、いずれも条件間に有意差を認めなかった。lnHFは安静時W条件7.4±7.2、L条件7.0±7.2、運動開始後8-10分W条件4.7±4.9、L条件4.1±4.1、運動終了後30秒W条件4.8±1.9、L条件4.5±1.4といずれも条件間に有意差は認めなかったが、L条件と比べW条件が高値を示す傾向がみられた。T30はW条件172.6±72.6、L条件250.8±93.6とL条件に比べW条件が有意に低値を示した(p<0.05)。【考察】 VO2は運動開始後8-10分において条件間に有意差は認められなかった。このことは運動環境によらず同一のエネルギー代謝量が負荷されたものと考えられる。HRがL条件と比べW条件で安静時において有意に低下したのは、水の物理的特性である水圧の影響で静脈還流量が促進されたものと考えられる。T30は副交感神経系の再興奮化の程度を反映するとされている。また運動終了直後、仰臥位姿勢に伴う一回拍出量の高値持続による血圧の上昇は動脈圧受容器反射を引き起こし、副交感神経系の再興奮化の一層の促進に関与した可能性を示唆する報告もある。W条件におけるT30が有意に低値を示したことは、水圧によって静脈還流量が増し、動脈圧受容器反射を一層促進させたことが、HRの回復を早めたものと考えられる。 これらのことから、水中におけるハンドエルゴメータ運動は、静脈還流量の増加および副交感神経系活動の亢進が生じ、運動終了後HRの回復を一層早める可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究は運動肢が両条件ともに浸水していないことから、水中において陸上と同一運動負荷を課すことができる。水中座位姿勢でのハンドエルゴメータ運動は運動後のHR回復が促進されることから心臓に負担が少なく、車椅子使用者など立位で運動が困難な患者に対して導入しやすく、これらを対象とした生活習慣病予防に有効な運動であると言える。
  • ─股関節屈曲・伸展,膝関節屈曲・伸展での検討─
    宇佐 英幸, 竹井 仁, 松村 将司, 市川 和奈, 宇佐 桃子, 畠 昌史, 見供 翔, 遠藤 敦士, 小川 大輔
    p. Ab1336
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに】 臨床で広く用いられている徒手筋力検査(Manual Muscle Testing:以下MMT)は定量的でなく客観性に乏しいということが指摘されている。そのため,徒手筋力測定器(Hand-held Dynamometer:以下HDD)を用いた筋力評価の有用性が諸家により報告されている。しかし,HDDでの筋力評価では,患者個々の特性を考慮した最大筋力値を予測して,得られた筋力値を相対的に評価する必要がある。本研究は,理論式から算出可能なMMT grade 3の筋力値(以下Mf)を用いて最大筋力値(以下Mm)を予測するために,下肢の関節運動におけるMfとMmの関係を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健常者21名(男性12名,女性9名)のボールの蹴り脚21肢とした。平均年齢は23.3(20-29)歳,身長と体重の平均値(標準偏差)はそれぞれ167.6(7.8)cm,60.1(9.2)kgであった。実験課題は,股関節屈曲・伸展と膝関節屈曲・伸展運動における最大努力での等尺性筋収縮とし,それぞれの抵抗力(以下F)をHDD(アニマ社製μTas MT-1)で測定した。股関節屈曲,膝関節屈曲・伸展課題時の測定肢位は,股・膝関節90°屈曲位,骨盤中間位での端座位とし,両上肢は体幹前方で組ませた。股関節伸展課題時の測定肢位は膝関節90°屈曲位での腹臥位とし,両上肢は体側にて脱力させた。HDDの圧力センサーは,股関節屈曲・伸展課題時には大腿の遠位1/3,膝関節屈曲・伸展課題時には下腿の遠位1/3の部分に配置し,自作の木製器具と非伸縮性のベルトでベッドに固定した。Fの測定はそれぞれ2回行い,その平均値を代表値とした。また,大腿長・下腿長とモーメント・アーム長(l1:大転子-測定部間距離,l2:膝関節裂隙-測定部間距離)と体重も測定した。MfとMmは以下の式にて算出した。MfはDanielsらの定義に基づき,股関節課題時:M=m・g・L1(k1・K1+k2),膝関節課題時:M=m・k2・g・K2・L2とした。Mmは,股関節課題時:Mm=Mf+F・l1,膝関節課題時:Mm=F・l2とした。ただし,m:体重,g:重力加速度=9.8,L1:大腿長,k1:大腿の重量係数(男性0.1,女性0.1115),K1:大腿の重心位置距離比=0.42, k2:下腿の重量係数(男性0.0725,女性0.0685),K2:下腿の重心位置距離比=0.51,L2:下腿長。統計ソフトIBM SPSS 19を用いて,実験課題ごとに,MfとMmについて無相関の検定と回帰分析を行った。また,MmについてMfを共変量とする共分散分析の平行性の検定を行った。【説明と同意】 本研究は首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号11032)を受け,被験者に研究趣旨と方法を十分に説明し,書面にて承諾を得た上で実施した。【結果】 各実験課題におけるMfとMmの相関係数は0.761-0.882であり,両者の間にはそれぞれ強い正の相関があった(p<0.001)。回帰分析の結果,各実験課題における回帰式は順に,Mm=2.987Mf-10.153,Mm=2.239Mf+4.427,Mm=8.322Mf-32.260,Mm=13.004Mf-40.461,決定係数は0.579-0.779であり,すべて予測に役立つことが確認された(p<0.001)。また,共分散分析の平行性の検定の結果,4つの回帰直線の平行性は棄却された(p<0.001)。【考察】 体重と大腿長・下腿長を測定することにより,4種類の実験課題におけるMfは前述の式から算出される。結果より,4つの回帰直線の平行性が棄却されたため,それぞれ異なる回帰式ではあるが,算出したMfを代入することによりMmは容易に予測される。また,結果より4つの回帰式はあてはまりが良いことから,本研究結果を用いたMmの予測は精度が高いと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果を用いて予測した最大筋力値は,体重や大腿長・下腿長といった身体特性を反映している。そのため,患者個々の特性を考慮した,定量的かつ客観的な筋力評価や筋力トレーニング時の目標値の設定において有用であると考える。
  • ─生活様式の違いについての検討─
    小幡 健, 宍戸 綾香, 阿部 誠也, 内藤 将幸, 平塚 富早衣, 星 裕章, 高橋 一揮
    p. Ab1337
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 理学療法プログラムにて在宅状況を仮定したADLトレーニングはその後の自宅復帰を円滑に進めるためにも重要である。家屋状況には大きくは和式家屋(以下,和式)と洋式家屋(以下,洋式)に2分され,それぞれにフィットした機能改善および能力補正を行なう。しかし,現状では身体機能としての評価は実施しているが,エネルギー消費の観点から家屋評価を実施していることは少ない。実際に心疾患患者を中心に代謝当量(以下,METs)を参考としてリスク管理を行なっているが,和式と洋式の観点からエネルギー消費の相違を明らかにした報告はない。和式はバリアフリーの促進から減少してきているものの,日本古来の伝統的様式であり,根強く残存している。よって本研究では選択様式によって動作が異なる食事動作,起居動作,トイレ動作に着眼し,各々の呼吸循環応答を検討することとした。【方法】 健常若年男性30名(年齢21.3±0.7歳,身長171.3±4.6cm,体重65.0±8.1kg)をランダムに3グループ(食事動作群,起居動作群,トイレ動作群),各10名に割り当てた。各群間の基本属性および可動域等には有意な差は見られなかった。研究プロトコールは,安静時の測定の後に3分間の洋式・和式どちらかの動作を行い,バイタルサインズが安静時と同程度となったのを確認してから3分間先の選択動作以外を行った。なお,洋式と和式の順序はランダムに決定した。各動作区分では食事動作は1動作6区分・6秒とし,和式は正座位にて,洋式は椅子座位にて実施した。起居動作は1動作12区分・24秒とし,和式は床から,洋式はベッドから実施した。トイレ動作は1動作9区分・9秒とし,和式は和式トイレにて,洋式は洋式トイレにて実施した。対象者はメトロノームでリズムをコントロールされた上記課題を十分に練習したのちに測定を実施した。測定項目は呼気ガス分析装置(ミナト医科学株式会社製AE-280)にてbreath-by-breath法を用いてMETs,酸素摂取量,分時換気量を測定し,連続血圧測定装置(株式会社ケーアンドエス社製RBP-100)を用いて心拍数,二重積を測定,算出した。また,安静時と終了時にはBorg scaleを聴取した。測定環境は生理学的反応に影響をきたさない室温18-27度,湿度30-60%とし,無風で静穏な室内とした。統計処理は様式間の比較を対応のあるT検定を用いて行い,有意水準は5%以下とした。【倫理的配慮、説明と同意】 参加の同意に関しては,ヘルシンキ宣言に則って事前に十分な説明を実施し,書面にて同意を得た。【結果】 各動作とも開始120秒以内で呼吸循環動態の定常性が得られたため,動作終了前60秒間の平均値を代表値とした。統計解析の結果,食事動作では酸素摂取量のみが和式にて有意に高値を示したが,他の項目では有意差は見られなかった。起居動作では測定項目全てにおいて和式が有意に高値を示した。トイレ動作では心拍数を除く項目で和式が有意に高値を示した。特にMETsでは起居動作(和式4.0vs洋式2.5),トイレ動作(和式4.1vs洋式3.1)とも和式は階段降段時の参考値(ACSMのエネルギーコスト表)と同程度となっていた。【考察】 食事動作では動作課題は同様としているため,姿勢のみが様式にて異なっていたことが,酸素摂取量の違いとなったと考えられた。しかし,METsには有意差が無いことからも様式による身体負荷の相違はほぼ同等であったと考えられた。一方,起居動作やトイレ動作では多くの項目にて有意差が示されたが,これは鉛直方向への重心移動距離の差異が筋活動の違いを生じたため,結果として呼吸循環応答に影響を及ぼしたと考えられた。高齢者や心疾患患者の場合,同一動作においても身体負荷は高値となることが先行研究から示されていることから,洋式と和式を意識することはリスク管理の観点からも重要であることが示唆された。しかし,本研究では様式間の差異を抽出することが目的であったため,本来一度で完結する起居・トイレ動作を反復動作による定常値にて扱った。そのため,本研究の結果を他の参考値と比較することには限界があるため,今後研究を重ねていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 理学療法の際に動作は遂行状況の可否のみで評価するのではなく,動作に必要なエネルギー消費を考慮しながらゴール設定を決定する必要性が示唆された。動作によっては和式動作は高いエネルギー消費が必要とされ心負荷も増大していることから,単一動作として扱うのではなく,動作ごとの呼吸循環応答の特性をリスク管理として捉えることが重要である。
  • ─立位バランスに作用する実用的な認知トレーニングの考案を目指して (第2報)─
    川崎 翼, 安田 和弘, 渡邉 観世子, 樋口 貴広
    p. Ab1338
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 本研究の目的は,立位バランス能力を向上させうる認知トレーニング方法として,身体のメンタルローテーション(以下,MR)課題の有用性を検討することである.身体のMRとは,回転呈示された手や足の刺激が右手(足)か左手(足)かを判断する認知活動である.先行研究では,手に慢性疼痛を患い,運動制限が生じると手のMR反応時間が特異的に遅延するなど(Moseley,2004),身体機能・動作とMR反応時間の対応が報告されている.昨年度本学術大会では第1報として,MR課題が手などの単一部位の機能との関連だけでなく,全身制御である立位バランスとの関連があるかを検討した.その結果,足MR反応時間のみ身体動揺量と相関性があった.そこで本研究では第2報として,足のMRと身体動揺の関連性の再検証とその関連因子について二点識別距離(TPD)を用いて検討を行った.TPDは,刺激間の空間的な認識距離であるため,単なる触刺激の知覚ではなく,頭頂連合野で空間的に処理される複合知覚である(Akatsuka,2008).このような頭頂連合野での空間処理は,身体のMRでも行われるため(Zacks,2008),TPDは身体のMR反応時間や立位バランス能力を反映する可能性がある.本研究では,MR課題が手などの単一部位の機能との関連だけでなく,全身制御である立位バランスとの関わりとその因子を検討するため以下の実験を行った.【方法】 参加者は運動器・感覚器,イメージ想起に障害を有さない若年者24名(18-33歳,平均22.0±3.7歳)であった.身体のMR能力測定は,パソコンに回転提示(0度,R90度,180度,L90度)された足と手の刺激が,右か左かを素早く正確に指定キーで回答させて行った( EXPLAB,ver.1,3使用).測定値は,4角度の反応時間の平均値とした.身体動揺測定はForce Plate(Kistler製.)を用い,60秒(sampling rate 50ミリ秒)の測定時間とした.片脚立位の総軌跡長(LNG)の3回平均を測定値とした.TPDは踵中央にノギスの先端を接触させ,二点が識別できる距離を測定した.統計解析はMR反応時間とLNG,TPDとLNG,MR反応時間とTPDの間の相関係数を算出した.LNGと有意な相関がみられた項目については上位33%,下位33%に分け,LNGの比較を対応のないt検定を用いて検証した.なお,有意水準は5%未満とした. 【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に則り,実験の目的,方法,参加者の権利,プライバシーの保護について説明を行ない,書面にて自由意思による同意を得た.【結果】 LNGとMR反応時間は足で有意な相関がみられたが(r=0.49,p<0.05),手ではみられなかった(r=0.31,n.s).また,LNGとTPDの間には有意な相関がみられ(r=0.55,p<0.01),MR反応時間とTPDは足で有意な相関がみられたが(r=0.45,p<0.05),手ではみられなかった(r=0.27,n.s).足のMRの上位33%は下位33%に比べて有意にLNGが長かった(p<0.05).また,TPD覚の上位33%は下位33%に比べて有意にLNGが長かった(p<0.01).【考察】 足MR反応時間とLNGおよびTPDの間に関連性が認められた.足MRが低下している者は立位バランス能力の低下,TPDが延長することを示している.この結果の解釈として,足MRの遅延は足の想起と運動イメージが低下を意味し,立位保持に重要な足の認識能力(Thompson.2007)が相関係数に反映した可能性が示唆される.足MRと身体機能の関連性は足の慢性疼痛者を対象にした研究と類似する(Coslett,2010).本研究対象者は若年者で立位バランス障がい者はいなかった.しかし,若年者でも運動パフォーマンスの優劣がMRに影響すると報告されている(Steggemann,2010).この先行研究は若年者の立位パフォーマンスに足MR反応時間に関連したという本研究結果が支持される.また,足MRと立位バランスには空間的な処理を行う過程が存在しているため(Zacks,2008,Marianne,2001),この空間処理能力も相関性が得られた要因と考えられる.最後に,末梢知覚における空間処理能を表すTPDも足MR反応時間,LNGと相関がみられたことからも空間処理能力という点で共通しており,三者の関連がみられたと推察される.【理学療法学研究としての意義】 足のMRが身体運動のない認知活動であるにもかかわらず,立位バランス能力との間に有意な関連がみられたという結果は,足のMR介入が立位バランスに変化させる可能性が示唆される.足のMRの効果の背景は,立位バランス制御における足の認識能力,運動のイメージ想起能力,空間処理能力の向上が挙げられる.通常の運動イメージ想起では,対象者のイメージ能力に効果が影響すること,対象者が確かにイメージを想起しているかを客観的に測定できないという指摘がある.これに対してMRの場合,課題が簡便なので,イメージ能力の個人差の影響を受けにくい.また,反応時間の測定によって客観性が確保されることから幅広く実用的な応用が期待される.
  • 浅海 岩生, 松林 義人, 佐々木 理恵子, 小川 洋介, 林 克樹, 高野 美智子, 武末 和彦, 井林 雪郎
    p. Ab1339
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 臨床で使用される反応時間測定は、多くがコンピュータ・ディスプレーよりの視覚刺激に対する動作開始時間(以下、視覚RT)を測定するものであるが、振動刺激に対する反応時間(以下、振動RT)を測定した例は少ない。そこでパソコンより振動刺激をコントロールできるWiiリモコン(任天堂社製)を使用し振動RTと従来型の視覚RTが測定可能なシステムを開発しその信頼性を検証すると共に視覚RTとの関連性について検討した。【方法】 今回開発した振動RT測定装置は、振動子と反応応答スイッチはWiiリモコン内のものを利用し作成した。このリモコンはパソコンより独自に開発した制御プログラムで反応時間を測定した。また測定プログラムはコンピュータ・ディスプレー上に表示される直径2cmの白色光点の表示後、素早く応答スイッチを押すまでの時間(視覚RT)も測定可能とした。このプログラムの精度はリモコンのスイッチおよび振動子より電気的変化を導出しA/Dコンバーターを通し別コンピュータで測定し実際の反応時間を導いた。この値と反応時間測定プログラムの算出値との誤差を出し精度を検証した。また振動子の振動特性はデジタル表示式振動計(昭和計測製MODEL1332B)を使用し測定した。さらに振動RTの正常域を調査するため健常者34名(平均28.7±SD7.5歳)により足底の反応時間を測定した。また視覚RT測定も合わせて実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は新潟リハビリテーション大学倫理審査委員会および誠愛リハビリテーション病院倫理審査委員会の承認を得て行った。被験者に実験内容を十分説明した上で研究参加同意書に署名を頂き実験を実施した。【結果】 (1)振動RT測定機の特性と精度;振動子の特性測定は振動板上に振動計のセンサーを固定し測定した。加速度振動量は10.3m/sec、速度振動量は6.2mm/sec、変位振動量は0.02mmまた周波数は191.4Hzであった。また反応時間の精度は電気的信号より得たものとプログラムにより算出した値との誤差で相関係数を求めると振動刺激で誤差0.38±5.5msec(n=94)、相関係数r=0.996(p<0.01)、視覚刺激で誤差0.39±6.5msec(n=98)、r=0.995(p<0.01)であった。(2)反応時間の正常域と特性;利き足振動RTは317±37msec、非利き足は314±32msec、視覚RTは278±24msecであった。また利き足と非利き足の振動RT間に有意差は認められなかったが(p=0.334)、視覚RTは振動RTに比較し小さかった(p<0.01)。また各変量の相関を分析すると年齢と両反応時間とも相関を示さなかった。また利き足・非利き足間ではr=0.83(p<0.01)と強い相関を示した。視覚刺激と非利き足の振動RTではr=0.34(p<0.05)とごく弱い相関を認めたが利き足では相関はなかった。【考察】 今回開発した振動刺激による反応時間測定装置は、安定した出力が得られ測定精度も誤差0.38±5.5msecと過去我々が研究してきた視覚RTと殆ど変りない誤差を示したことより充分使用できるものと思われる。また健常被験者の振動RTでは利き足と非利き足では差は認められなかった。これは反応の求心路と処理系に左右差がないことを示す。また今回は反応スイッチを利き手のみで操作したのでさらに差が出にくかったと考えられる。視覚RTが振動RTより小さかった理由に関しては、一般的には体性感覚刺激の反応速度の方が視覚刺激より速いと言われているが、本実験では振動RTの求心路は足底より脳までと長いため視覚RTと差が出たものと考えられた。相関分析で年齢とRTとの間に相関を示さなかったのは本測定では年齢層が20~30歳代が中心であり年齢層の偏りがあったためと思われた。振動RTが利き足・非利き足間で強い相関を示したものの、視覚RTと振動RTでは相関が少なかったことは、前者については両足の反応時間に差がなかったことより個々の被験者の情報処理速度が反映したもので、後者については刺激の種類により個体内でも処理時間にばらつきがあることを示すものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究は振動RTを測定する装置を開発し、その信頼性を機械面と従来用いてきた視覚RTとの間で比較検討した。立位歩行においては、視覚よりのフィードバク制御と共に体性感覚よりの情報も重要となってくる。その中で皮膚からの情報の変化を捉え運動に至る速度を評価することも重要と考え本装置の開発に至った。本研究では装置の信頼性を検証し視覚RTと同様に使用できることが確認できた。
  • 藤井 智, 松葉 貴司, 桑村 和子, 田中 好実, 中須 千尋
    p. Ab1340
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 当診療所は1987年に市内の乳幼児から高齢者に至る「障害者に対する地域リハビリテーションの中核機関」として設置された。その中で診療所は、入院患者や外来患者、生活支援施設の入所者に対して理学療法(以下、PT)を提供している。今回、長期間、継続的に外来でのPTを実施している者の現状を調査し、障害者支援におけるPTの内容や長期にわたるフォローアップの意義について検討したので報告する。【方法】 調査対象は、2011年4月から10月(6ヶ月間)にPT処方があったもの215件のうち、過去2年以上前にPTを実施している者を「長期フォロー群」とし、カルテより後方視的に年齢、性別、疾患・障害の内訳、障害の経過期間、実施内容・頻度・期間、理学療法士以外の依頼職種の有無を調査した。「長期フォロー群」の特徴を把握するため、同期間において始めて外来PTの対象となった者を「新患群」とし、調査内容を比較した。また、B.I.得点や継続期間における当センターの在宅サービスや補装具作製のためのクリニックなど、他のサービスの実施状況も調査した。【倫理的配慮、説明と同意】 当センター倫理委員会に倫理審査を申請し了承を得た。【結果】 「新患群」は74人(35%)、「長期フォロー群」は66人(31%)であった。平均年齢及び性別は、「新患群」48.9±19.7歳、男50人、女24人、「長期フォロー群」32.7±16.8歳、男33人、女33人であった。疾患の内訳は、「新患群」は、脳疾患・脳外傷が39人(53%)と約半数を占め、次いで神経・筋疾患9人、脊椎・脊髄疾患8人、脳性麻痺などの小児疾患が8人、骨関節疾患5人、切断2人、他3人であった。「長期フォロー群」は、神経・筋疾患21人、小児疾患が18人、脳疾患・脳外傷は17人の順で多く、脊椎・脊髄疾患4人、骨関節疾患1人、切断1人、他4人であった。障害発生からの経過年数は、「新患群」9.1±13.7年、「長期フォロー群」22.3±13.9年であった。PTの主な内容をみると、「新患群」では、生活状況を含めた機能評価が71人、改善に向けた訓練が48人、補装具検討が13人、ホームプログラムの検討が45人で、何らかの改善・獲得を図る内容が9割であった。頻度は「週1回」45人と「2週に1回」17人で8割以上を占めていた。「長期フォロー群」は、生活状況を含めた機能評価が65人、改善に向けた訓練が5人、維持に向けた訓練が41人、介助者への確認・指導が13人、補装具確認が16人、ADLの確認が21人、ホームプログラムの確認が24人などで、ほとんどが維持目的であった。頻度は「月1回」20人が多く、次に「3ヶ月に1回」が10人であった。他の職種が合わせて依頼されている場合は、11人で、8割以上はPTのみでのフォローであった。「長期フォロー群」の平均B.I.は40.2点で、継続期間中の在宅サービスの利用は26人、装具・補装具作製のためのクリニックの利用は58人であった。【考察】 今回、2年以上継続的に外来PTの対象者の現状を調査し、新患者と比較した。「長期フォロー群」は全体の約3割を占めており、「新患群」に比べ年齢が若く、重度障害の脳性麻痺といった小児疾患や、筋ジストロフィー症などの進行性疾患が多かった。実施内容は、月1~2回の頻度で、身体機能チェックとともに、機能維持に向けたホームプログラムの指導・確認を、理学療法士のみで実施していた。「新患群」に多くみられるような、脳卒中等の急性発症疾患の回復期から生活期への対応と異なり、「長期フォロー群」にみられる小児疾患や進行性疾患は、成長や病状の進行に伴い身体機能の低下や体力の低下、また、就学・就労といった社会生活上の参加の変化により生活上の障害が生じるため、現状の身体機能や生活機能の維持および身体機能や生活機能が低下した場合の機能等の改善がリハビリテーションの主な目的となる。このため、長期フォロー対象者に対する外来PTは、単に訓練を行うだけでなく、第一に長期間意欲を持って継続実施可能な個々の状況に合わせたホームプログラムの設定・確認とともに、変化に合わせて生活上で実践できる具体的な過ごし方をアドバイスすること、次に身体機能の変化を利用者自身がモニタリングできるように指導すること、さらに生活上の課題を解決するために補装具の利用や居宅での環境調整など、サービスと連携してPTを提供することが重要と思われた。本調査により長期フォロー対象者の現状が確認できた。今後はその効果について検証したい。【理学療法学研究としての意義】 地域リハビリテーションにおける医療機関の役割のうち、とくにPTによる長期的なフォローアップシステムの対象とすべき疾患やサービスにあり方の検討材料となる。
  • 武村 政徳, 石田 哲士, 藤竹 俊輔, 秋山 隆一, 出原 千寛, 辻田 大, 辻田 純三
    p. Ab1341
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 “収縮-弛緩”タイプのストレッチは、筋収縮による腱受容器刺激がIb抑制を促通し収縮後の弛緩が得られると説明されることが多い。しかしながら、反応時間などから最大収縮後の弛緩は腱受容器/Ib求心性線維の関与のみとは考えにくいうえ、Ib抑制の関与を想起させる最大の要因であった「折りたたみナイフ現象」は、既にIb求心性線維の関与なしで生じることが報告され、またIb求心性線維の伸筋群に対する興奮性制御の存在も明らかになり、“収縮-弛緩”タイプのストレッチ効果をIb抑制だけで説明することは困難である。ストレッチの効果に関しては、神経生理学的効果にとどまらず、結合組織の構造的変化にも着目されている。そこで本研究は、収縮-弛緩タイプのストレッチ効果を、超音波画像診断装置で捉えた構造的変化とH反射を用いた神経生理学的変化の両面で評価可能か検討することを目的とした。【方法】 健康な男性5名(18~20歳)を対象とし、次の2種類の測定を行った。最初に、足関節背屈に対する収縮-弛緩タイプのストレッチを多用途筋機能評価運動装置(Biodex system 3, Biodex Medical Systems製)のpassive modeを用いて模擬的に行い、腓腹筋の構造的変化を筋線維束の滑走距離として超音波画像診断装置(SSD900, ALOKA製)を用いて測定した。Passive modeは、足底屈20度から他動的背屈運動として角速度5度/秒、上限トルク20Nmに設定して行った。足関節の受動張力が20Nmを超えると背屈運動が停止するので、この停止を確認後対象者に最大努力で底屈運動を行わせ(下腿三頭筋の等尺性随意収縮)、その後口頭でリラクゼーションを指示した。この収縮-弛緩で受動張力の低下が見られるため、自動的にpassive modeの背屈運動が再開し“発展的”ストレッチが行われ、再び受動張力が20Nmを超えるまで下腿三頭筋が伸張される。受動張力が20Nmを超えpassive modeの背屈運動が停止した後は、上記手順を“発展的”ストレッチが見られなくなるまで繰り返した。腓腹筋筋線維束の滑走距離は、線維束が中間腱に付着するところを基準に、腓腹筋の伸展時、および収縮時の移動距離を計測した。H反射の測定は、上記測定では足関節の角度変化に伴い連続したH波の比較ができにくくなるため、足関節底背屈0度に固定した条件で行った。測定条件は(1)安静(安静: 10秒)、(2)足底屈・最大随意等尺性収縮(主動筋収縮: 5秒)、(3)安静(収縮後弛緩: 5秒)、(4)足背屈・最大随意等尺性収縮(拮抗筋収縮: 5秒)とし、事前に確認したM波閾値の1.2倍の刺激強度で膝窩部脛骨神経に誘発筋電計(ニューロパックΣ, 日本光電製)を用いて電気刺激し(頻度1Hz)、腓腹筋M波・H波を導出し、H/M比を計測した。H波、H/M比はKruskal-wallis検定を用いて比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には実験に先立ち、本研究の目的、方法および実験参加により起こりうるリスクについて口頭で十分な説明を行い、研究参加の同意を得た。【結果】 Passive modeを利用した模擬収縮-弛緩ストレッチにより、最初の制限(停止)角度から平均7.8±5.6度の背屈角度の改善が全員に見られた(収縮弛緩の繰り返しは2.6±0.8回)。このとき腓腹筋筋線維束の最終的な滑走距離は停止腱方向に平均31±0.8mmであったが、足底屈の等尺性随意収縮時には平均10±5.7mmの起始腱方向への滑走が全員に確認された。また、H波(μV)は安静1393±706、主動筋収縮3227±2375、収縮後弛緩937±313、拮抗筋収縮470±396であった。また、H/M比は、それぞれ11.4±11.1、26.4±22.2、5.2±5.7、0.6±0.6であった(有意差なし)。【考察】 対象数が少なく統計的に有意な変化として示すことができなかったが、最大収縮後弛緩で腓腹筋脊髄運動ニューロンの興奮性が低下すること、拮抗筋収縮に対する相反抑制と比較してその効果は小さいことが示唆された。一方、等尺性収縮により筋-腱ユニットの結合組織で伸張が生じていることは全員に確認ができた。収縮-弛緩タイプのストレッチでは、神経-筋の抑制効果は必ずしも大きいとは言えず、結合組織の伸張など構造的変化についての効果が重要であることを示すことができた。【理学療法学研究としての意義】 関節可動閾の改善や筋の伸張など運動療法で日常的に行われるストレッチであるが、その効果・作用機序について再確認することでより効果的な利用が可能となると考える。
  • 永田 一範, 藤庭 由香里, 森藤 武
    p. Ab1342
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 骨格筋を構成する筋線維は遅筋線維と速筋線維に大別される。多くのヒトにおける研究では、骨格筋に対するスタティックストレッチングは、Ib抑制により伸張反射を抑制させ、最大筋力を低下させるといわれており、スポーツ競技のパフォーマンス直前には推奨されていない。しかし、動物モデルにおいて、遅筋線維では速筋線維と比較して、骨格筋の持続伸張によりCaイオン濃度が上昇し、筋張力は増大すると報告されており、筋線維タイプの違いによりストレッチング後の筋張力発揮に違いがあることが示唆されている。スタティックストレッチングは臨床場面、及びスポーツ現場で頻繁に使用される手技であり、遅筋線維と速筋線維に分けて、その影響を検証することは重要である。そこで、我々は、ヒトにおいて、遅筋線維優位のヒラメ筋と速筋線維優位の前脛骨筋に対してスタティックストレッチングを実施し、それぞれのストレッチング前後におけるピークトルクを体重で除したピークトルク値(%BW)とピークトルク値が検出されるまでのピーク時間(sec)の変化を検証した。【方法】 対象は、健常男性31名(年齢25.6±3.5歳)とし、除外基準は、下肢に整形外科疾患を有する者や腰部・下肢に痛みのある者とした。測定には、CYBEX NORM(Computer Sport Medicine社製)を使用した。測定肢位は背臥位とし、ヒラメ筋と前脛骨筋が主動作筋として関与する膝関節屈曲位での足関節底屈と背屈運動を、最大筋力にて3回反復させた。角速度は毎秒15°に設定し、ピークトルク値とピーク時間を測定し、3回中の最大値を採用した。そして、10分間の安静をとらした後、スタティックストレッチングを30秒行い、その直後に再び足関節底屈と背屈のピークトルク値とピーク時間を測定した。統計処理にはt検定を使用した。(p<0.05)【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の主旨および手順を説明し、参加の同意を得て実施した。【結果】 ストレッチング後の足関節底屈のピークトルク値は、ストレッチング前と比較して7%増大し有意に高い値を示した(p>0.05)。一方、足関節背屈のピークトルク値は、ストレッチ前後において有意差を示さなかった。また、足関節底屈と背屈のピーク時間においては、ストレッチング前と後の値では有意差を認めなかった。【考察】 本研究において、スタティックストレッチングは、ストレッチング前と比較して、足関節底屈のピークトルクを有意に増加させ、ヒラメ筋の様な遅筋線維の割合が多い骨格筋では、スタティックストレッチングは筋出力を増加させる可能性が示唆された。これは、ストレッチングにより遅筋線維の筋張力が増大したことによるものと考える。筋収縮は、筋小胞体から放出されたCaイオンが、トロポニンと結合するとアクチンフィラメントが活性化され、ミオシンフィラメント頭部と連結橋を形成し、筋張力の大きさは活動する連結橋の数に比例すると報告されている。また、遅筋線維は速筋線維に比べてCaイオンに対する感受性が高いと言われている。これらのことから、遅筋線維では、速筋線維と比べ、持続的筋伸張によりCaイオン濃度が上昇し、アクチンとミオシンの連結橋が増加した結果、筋張力が有意に増大したと予測される。本研究では、ストレッチングにおける効果をピークトルクにて評価したが、そのメカニズムを明らかにするため筋張力などの更なる検証が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 ヒトにおいても、ヒラメ筋の様な遅筋線維優位である骨格筋に対するスタティックストレッチングでは筋張力を増大させる可能性があると示唆された。このことはストレッチングを治療手技として用いる理学療法士にとって意義のあるもとと考える。
  • 大塚 翔太, 中嶋 翔吾, 柏木 彩矢菜, 南 頼康, 森沢 知之, 高橋 哲也
    p. Ab1343
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 理学療法手技の一つとして筋のストレッチは日常臨床で広く使用されている。近年,ストレッチによるさまざまな効果が報告され,ストレッチによる筋血流減少による筋量維持の効果や,ストレッチ後の反応性充血による血行改善効果は,ストレッチの新しい可能性として注目されている。しかし,どの程度の強度でどの程度の時間ストレッチすることが,局所の血流を変化させ,同時に筋酸素動態をどの程度変化させるのかは十分に検討されているとは言い難い。そこで我々はストレッチの強度を定量化し,異なるストレッチ強度,異なるストレッチ時間で,ストレッチが筋血流量や筋酸素動態に及ぼす影響について検討することとした。 本研究の目的は,どの程度の強度でどの程度の時間ストレッチすることが局所の血流を変化させ,同時に筋酸素動態にどのような変化を与えるのかを検討することである。【方法】 対象は,健常大学生20名のうち,すべての測定プロトコルを完遂した17名(平均年齢21.7±1.4 歳)とした。対象は仰臥位,膝関節完全伸展位,足関節底背屈0度でハンドヘルドダイナモメータ(日本メディックス(株),マイクロFET2)を用いて強度を確かめながらストレッチを行った。5ニュートンメートル(N・m)で60秒のストレッチ,5N・mで120秒のストレッチ,10N・mで60秒のストレッチ,10N・mで120秒のストレッチの4パターンを無作為に合計4回行った。ストレッチ間の休憩は基本的に2分とし,その後,基線の安定を確認したのちに再試行した。その際の測定指標として近赤外線分光計(オメガウェーブ(株),BOM-L1TR SF)を用い,酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb),脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb),組織酸素飽和度(StO2)を採用した。ストレッチによる各指標の変化は,ストレッチ前に設けた安静期にて基線が安定している約10秒間の平均値を安静基準値とし,ストレッチによる各指標の変化を変化率(%oxy-Hb,% deoxy-Hb,%StO2)で求めた。測定対象部位は利き足の最大膨隆部の腓腹筋内側頭とした。測定部位には表面筋電図(EMG)を装着し,EMGで筋収縮が起こっていないかをモニタリングしながら行った。統計処理は,各条件間の比較にて対応のないt-検定を用い,条件内の変化率は対応のあるt‐検定を用いて解析した。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究について事前に書面および口頭にて充分な説明を行い,書面にて本人の同意を得た。【結果】 ストレッチによる筋酸素動態は,10N・mでのストレッチを120秒加えたほうが有意な変化を示した。5N・mのストレッチでは各指標に大きな変化がみられるのは開始から60秒までであり,それ以降は有意な変化は認めなかった(StO2の基準値を100とした変化率は60秒後93.3%、120秒後93.9%)。10N・mでは60秒後も筋酸素動態の変化がみられ,特に60秒~90秒間で,5N・mと比べて有意な差が認められた(StO2の基準値を100とした変化率では60秒後90.7%、120秒後87.6%)。同じくストレッチ終了後の末梢循環応答の1つである反応性充血(reactive hyperemia)が関与していると思われるoxy-Hb,StO2のストレッチ後の変化率は,各強度ともに60秒に比べて120秒にて変化量が大きかった。【考察】 ストレッチによる筋酸素動態は,10N・mでのストレッチを120秒加えたほうが他の条件に比べて有意な変化を示した。これは筋束長の伸張が大きいほど筋血流量の減少が大きいこと,ストレッチにより筋の形態学的変化を得るには2分間で十分であるといった先行研究の結果とも合致する。5N・mと10N・mの差はストレッチ時間が延長するほど顕著となった。60秒以降では5N・mのストレッチでは10N・mに比べて血流の減少程度が少ないことが考えられ,ストレッチにより筋酸素動態に変化を与えるには,一定以上の強度と,時間が不可欠であることが示唆された。 今回はストレッチの強度とストレッチ時間による筋酸素動態の変化を検討し,一定の傾向を認めたが,この変化量がどれほどの臨床的意味を持つかは不明である。そのため,今後は筋構造が変化している高齢者や長期臥床による拘縮・筋萎縮を伴う患者を対象とした検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究より,一定以上の時間・強度を用いないストレッチでは,ストレッチ中の筋血流制限やストレッチ後の反応性充血に乏しく,十分な代謝性の変化をもたらすことができないことが確認された。これらの結果は,理学療法の代表的な技術であるストレッチがより科学的根拠を用いて行われることに対し,示唆を与える研究であったと考える。
  • 渡邉 博史, 松岡 潤, 梨本 智史, 古賀 良生, 大森 豪, 遠藤 和男, 田中 正栄, 縄田 厚, 佐々木 理恵子
    p. Ab1344
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 静的ストレッチング(以下ストレッチ)の効果的な持続時間については、10~30秒や最低20秒以上必要、または長時間の方が有効で60秒程度の効果が大きい等、諸家により異なっている。今回、ストレッチの持続時間とその効果について検討したので報告する。【対象】 膝疾患の既往がない健常成人20名、女性10名(21-54歳、平均30.3±8.7歳)、男性10名(22-35歳、平均28.8±3.8歳)を対象とした。【方法】 右下肢を対象側とし、膝屈曲90°の等尺性最大膝伸展筋力(MVC)を下肢筋力測定・訓練器(アルケア社製、以下QTM)で測定した。ストレッチ前の運動負荷として60%MVCの等尺性膝伸展運動(膝屈曲90°、収縮時間6秒、10回)をQTMで行った。運動後、大腿四頭筋の他動的ストレッチを行い、ストレッチ前後の大腿四頭筋緊張度(以下Q-tension)を測定した。Q-tensionは対象を左側臥位にて体幹・骨盤を壁面に押し付け固定し、右下肢を股関節伸展0°、膝関節屈曲135°で保持し、他動的膝関節屈曲時の下腿に生じる膝伸展反発力を足関節近位部でQTMにて測定した。ストレッチ持続時間は10秒、20秒、60秒(以下10S、20S、60S)の3種類で、日を変えて行い順番はランダムに選択した。そして3種類のストレッチについて、運動負荷後におけるストレッチ前後のQ-tensionの変化を性別に比較した。統計的解析は対応のあるt検定を用い、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得て行った。【結果】 女性のストレッチ前後のQ-tensionの変化は、10Sではストレッチ前2.3±1.3kg、後2.1±0.7kgで、ストレッチ後統計的に有意な低下を認めなかった。20Sと60Sでは、20Sのストレッチ前2.4±0.8kg、後2.0±0.7kg、60Sのストレッチ前2.3±1.0kg、後2.0±0.8kgで、20Sおよび60Sともストレッチ後統計的に有意な低下を認めた。男性のストレッチ前後のQ-tensionの変化も、10Sではストレッチ前3.7±1.9kg、後3.3±1.7kgで、ストレッチ後統計的に有意な低下を認めなかった。20Sと60Sでは、20Sのストレッチ前3.7±2.0kg、後3.2±1.7kg、60Sのストレッチ前3.9±2.3kg、後3.2±1.8kgで、20Sおよび60Sともストレッチ後統計的に有意な低下を認め、女性と同様の結果であった。【考察】 我々は先行研究において、床反力計を用いたQ-tensionの定量的評価で、ストレッチによってQ-tensionが低下することを報告している。本研究においても、男女ともストレッチ後Q-tensionが低下しており、一致した結果であった。しかし、10Sでは、男女とも統計的に有意な低下を認めなかった。このことから、ストレッチの持続時間として10秒では、不十分であることが示唆された。20S、60Sでは、男女とも統計的に有意な低下を認め、ストレッチの持続時間として、20秒~60秒は有効であることが考えられた。今回、20Sと60Sとの効果の差については、男女とも明確にすることはできなかった。これについては、対象者の変更等をして、今後検討が必要と考える。スポーツ現場等でのコンディショニングにおけるストレッチでは、多数の筋肉をストレッチする必要があるため、効果的でかつ短時間であることが望まれる。そのため60秒では長すぎると思われ、一般的に20秒程度を適当としていることは妥当と考える。【理学療法学研究としての意義】 理学療法においてストレッチは、臨床的によく行われている治療法であり、その効果的な持続時間を検討することは、ホームエクササイズとしてストレッチを指導していく上で、とても重要である。そして今後は、ストレッチの反復回数等の影響や、ストレッチ効果の持続性について検討していく必要がある。
  • ─複数関節の観察による検証─
    井上 隆之, 橋本 龍樹, 松本 暁洋, 堀江 哲史, 安井 幸彦, 大谷 浩
    p. Ab1345
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 関節拘縮には関節構成体内外の要素が複雑に関与している。関節包は滑膜関節の連結部全体を覆う線維性の被膜であり,拘縮モデルを用いた動物実験において,関節包および滑膜の組織学的変化による拘縮への影響が示唆されている。拘縮の評価・治療においては,関節包の病態変化の把握は重要であるが,ヒト関節拘縮における関節包の組織学変化についての情報は少なく,実際のヒト関節拘縮の病態については詳細に報告されていない。我々は先行研究において,膝屈曲拘縮を呈したヒト解剖学実習体を用いた組織学的観察により,関節包の弾性線維の減少が関節拘縮要因の一つであることを示唆した。本研究では,肩関節および膝関節が拘縮した解剖学実習体の関節包を組織学的に観察することにより,関節拘縮における関節包の組織学的変化による影響をさらに詳しく検討することを目的とした。【方法】 四肢に重度拘縮を呈した解剖学実習体1例(以下重度拘縮例)の右肩関節(肩甲骨挙上35°,伸展20°,肩関節屈曲・伸展0°,外転20°,内旋80°)および膝関節(右145°:左155°)の関節包を組織学的に観察した。また膝関節に屈曲拘縮を呈した解剖学実習体2例((1)右70°:左90°,(2)右110°:左90°;以下膝屈曲群)を用い,屈曲角度の違いによる関節包への影響を重度拘縮例の膝関節と併せて観察した。肩甲上腕関節・結節間滑液鞘・肩鎖関節および膝関節の関節包を標本として切り出し,再固定して凍結切片を作製した。連続切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色およびエラスチカ染色による組織学的観察を行った。また,現病・既往に肩および膝の関節疾患等のないご遺体3例を対照群として同様に観察した。【説明と同意】 本研究は,島根大学医の倫理委員会の承認(承認番号第420号)を受けた。使用したご遺体は,ご遺族に同意をいただいた後に採材した。【結果】 重度拘縮例の肩関節において,対照群と比べて特に小円筋に隣接する関節包では,滑膜細胞の減少および隣接する密な結合組織が観察された。肩甲下筋の関節包においては滑膜細胞が均等に減少して分布していた。結節間滑液鞘の滑液包は狭小し,滑膜細胞が顕著に減少していた。また肩鎖関節包では,弾性線維の減少や密な結合組織が観察され,滑膜細胞が疎に分布していた。さらに肩鎖関節包の骨付着部では,軟骨細胞層の増殖が観察された。重度拘縮例の膝関節関節包では,滑膜細胞の減少が観察され,特に内側関節包において減少が顕著であった。膝屈曲群の膝関節においては,対照群と比べると重度拘縮例ほどではないが滑膜細胞は減少していた。エラスチカ染色による観察では,重度拘縮例で肩甲上腕関節および肩鎖関節の関節包の弾性線維が顕著に減少していた。肩甲上腕関節包の弾性線維は,特に小円筋に隣接する部位で顕著に減少していた。重度拘縮例の膝関節関節包では,弾性線維が顕著に減少しており,特に内側関節包において弾性線維が減少していた。膝屈曲群においても程度は様々であるが,弾性線維は対照群に比べると減少傾向にあった。【考察】 重度拘縮例の組織学的観察結果より,肩甲上腕関節および肩鎖関節の関節包の弾性線維の顕著な減少や滑膜細胞の減少が,重度拘縮例の肩関節拘縮要因として示唆される。また結節間滑液鞘における滑液包の狭小および滑膜細胞の減少は不活動の影響による不可逆的変化と考えられる。膝関節の関節包においても,重度拘縮例で弾性線維の顕著な減少や滑膜細胞の減少が観察され,重度拘縮例の膝関節拘縮要因として示唆される。また,膝屈曲群においては,重度拘縮例ほどではないが滑膜細胞や弾性線維が対照群と比べ減少傾向にあったことから,これらの組織学的変化は膝屈曲群の拘縮要因の1つとして考えられる。今回の解剖学実習体を用いて観察された弾性線維および滑膜細胞の減少は,拘縮動物モデルを用いた関節包の組織学的変化と近似している。したがって,ヒト関節拘縮の要因として関節包の組織学的変化が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究では,動物実験のような経時的変化の観察は行えないが,今回の解剖学実習体を用いて観察された組織学的変化は,拘縮動物モデルを用いた関節包の組織学的変化と大きな差異はなく,実際のヒトにおける拘縮要因の一つと考えられる。この度の関節包の組織学的観察結果から弾性線維や滑膜細胞の減少が拘縮の要因として示唆され,それは重度拘縮例ほど顕著であり,関節拘縮に対する治療においては,これらの組織学的変化を念頭に入れ,関節破壊に繋がらないよう安全性に配慮することが必要である。
  • 峯 耕太郎, 大住 倫弘, 森岡 周
    p. Ab1346
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 最近の脳機能イメージング技術の開発・発展に伴い,ヒトの身体の痛みや心の痛みに関連した脳活動を記録することが可能となった.また,痛みは3つの側面に分類され,そのうち「認知‐評価」的側面には注意機能が大きく関与するとされている.痛覚と注意機能に関する研究(山崎 他,2001/Baliki et al ,2008)では,注意課題によって主観的にも脳機能的側面においても痛覚を減少させることが報告されている.また,痛覚と運動に関する研究(Nakata et al,2004)においても,注意機能と同様の報告がされている.しかし,これらの報告においては,注意・運動それぞれが痛覚認知に関与することは報告されているが,運動に対する注意が痛覚認知に及ぼす影響は明らかになっていない.そこで本研究においては,運動に対する注意を喚起する課題設定を行い,主観的な痛覚程度の変化とその変化をもたらす脳領域についてEEGを用いて検討することで,運動に対する注意が痛覚認知に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は右利きの健常大学生15名(年齢21.4±0.6歳)であり,事前の刺激強度の決定において刺激強度が45~47℃の範囲内になった者を選出した.刺激装置としてはPAIN THERMOMETER UDH-105(UNIQUE MEDICAL社製)を用い,刺激強度は痛み知覚閾値および痛み耐性閾値から算出し,中等度の刺激強度となるように設定した.課題状況として,被験者が利き手上肢を90°挙上時に肘関節軽度屈曲位となる位置にESERCIZIO TERAPEUTICO CONOSCITIVO A2-1シリーズ/タブレット(fumagalli社製)を設置した.課題中は閉眼とし非利き手前腕に各被験者で得られた温度の熱刺激を加えた.安静(control),運動(known),運動(unknown)の3条件を設定し各6回試行した.運動課題は細部が異なる3種類のパネルTを使用し,ランダムに選ばれた1つのパネルの外枠を利き手示指にて一周なぞるものである.運動の速さは一周約15secとした.knownではパネルを課題前に視覚提示した.unknownではその提示はなく,終了後に3種類のパネルのうちどれを触ったかを回答させた.痛みの強さ,課題の集中度を試行終了時にVASで調べた.痛みの強さは一元配置分散分析‐多重比較試験(Fisher),課題集中度はt検定を用いて統計処理した.脳波計測には高機能デジタル脳波計Active twoシステム(BIOSEMI社製)を用い,64ch,サンプリング周波数512Hzとした.解析はEMSE Suiteを使用し,Common average reference, IIR Band pass(0.15Hz-100Hz)を適応し波形処理した.各試行の課題開始から3-5sec/5-7sec/7-9sec/9-11sec/11-13secの波形を抽出し,パワースペクトラム解析を実施した.各波形から8~13Hz(α周波数帯域)の範囲のパワー値を算出し,全64chにおいて全3群間にてchごとに一元配置分散分析‐多重比較試験(Fisher)を実施した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究への参加に際して,全ての被験者に研究手法についての十分な説明を口頭で行い,同意を得た.【結果】 痛みの強さのVASにおいてcontrolに比べunknownで有意に減少した(p<0.05).課題集中度のVASでは,knownに比べunknownで有意に増大した(p<0.01).脳波は,controlに比べknownで左頭頂部・左中‐後側頭部領域にあたるchで有意にα周波数帯域の減少がみられた(p<0.05).また,controlに比べunknownで,左頭頂部・左中‐後側頭部・右前側頭部・右頭頂部領域にあたる多くのchで有意にα周波数帯域の減少がみられた(p<0.05).【考察】 痛みの強さと課題集中度のVASの結果より,痛みの知覚には運動そのものよりも,運動に対する注意の程度が関与すると考えられた.一方,脳活動におけるα周波数帯域の変化については,Feigeらは,体性感覚刺激や随意運動によって,それに対応する皮質領域においてα周波数帯域が減少すると報告しており,α周波数帯域の減少が脳における神経活動と仮定することができる.今回,controlに比べknown/unknownで左頭頂部・左中‐後側頭部領域,そしてunknownではこれらの領域に加え,右頭頂部・右前側頭部領域のα周波数帯域の減少が認められた.unknownで痛み知覚の軽減が認められたことから,課題の集中度に伴う右頭頂部・右前側頭部領域の活性化が痛みの情報を修飾する可能性が示唆された.しかしながら,痛みに関連する島皮質や前帯状回の変化をとらえることができておらず,今後の課題が残された. 【理学療法学研究としての意義】 本結果から,痛みの軽減に対して運動に対する注意機能が明らかになった.理学療法において痛みを軽減させるために,運動への注意を高める介入の展望が本研究によって開けた.
  • 嶋 祥理, 坂野 裕洋, 小笠原 巧, 服部 光秀, 松原 貴子, 遠藤 城太郎
    p. Ab1347
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 疼痛は患者個人の内的経験に基づく感覚であり,客観的に定量化することが困難である.そのため,関連する研究の多くは,疼痛によって起こる生体反応について,血液や唾液,尿といった検体を用いて,化学物質の濃度変化を数値化・定量化している.その中で我々は,検体採取自体が簡便で非侵襲的なため,比較的臨床応用が容易な唾液に着目し実験を行った.唾液中には,自律神経活動によって分泌が調節される消化酵素である唾液αアミラーゼ(sAA)や糖タンパク質であるChromogranin A(CgA)などが含まれており,sAA活性は疼痛関連ストレスを反映する痛みのバイオマーカーとして近年注目されている.一方,CgAは騒音や悪臭などといった精神的ストレスを反映するバイオマーカーとして知られている.このことからCgAは,不快を伴う情動体験である痛みによって強く影響を受けることが予測される.しかし,痛みとCgAの関係について検討している報告は我々の知る限りない.そこで,本研究では骨格筋の駆血に伴う収縮痛とCgAの関係性について検討した.【方法】 健常若年男性17名(平均年齢20.9±1.5歳,平均身長172.9±9.5cm,平均体重66.9±10.5kg)を対象に以下の実験を行った.すなわち,各対象者は30分間の安静後に,上腕部へ装着したマンシェットによって収縮期血圧と同等まで加圧された状態で6分間のグリップ動作を行った.その後は,マンシェットを減圧し12分間の安静をとった.なお,実験中は前腕部に感じられる「痛み」と「不快感(ストレス)」の程度を4段階(0:なし,1:わずかにあり,2:あり,3:強くあり)の数値的評価スケール(VRS)を用いて30秒毎に聴取した.また,加圧前6分間(Pre),加圧中6分間(Ex),加圧後の前半6分間(PostA),後半6分間(PostB)の唾液をサリベットにて採取した.採取した同一の唾液を,CgAはHuman Chromogranin A キットを用いて酵素免疫測定法で測定し,唾液アミラーゼは20μlをアミラーゼチップにアプライし,唾液アミラーゼモニターを用いて測定した.また,Preの値を100%とした変化率を算出し比較検討した.統計学的分析は,群間および群内比較は一元配置分散分析にて行い,有意差を認めた場合は事後検定にてFisherのPLSD法を行った.相関は,スピアマンの順位相関係数を用いて行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本実験のすべての手順は,世界医師会の定めたヘルシンキ宣言(ヒトを対象とした医学研究倫理)に準じて実施した.全ての被験者には,本研究の主旨を文書及び口頭にて説明し、研究の参加に対する同意を書面にて得た.【結果】 「痛み」と「不快感」のVRSは,同様の傾向を示しながら加圧開始より増加し,2分で「痛み」0.9±0.7,「不快感」1.0±0.7,4分で「痛み」2.1±0.7,「不快感」2.0±0.9,6分(終了時)で「痛み」2.5±0.6,「不快感」2.4±0.8であった.また,「痛み」と「不快感」は有意な相関関係を認めた(r = 0.817).sAAは,Ex 106.6±37.8%,PostA 105.2±37.6%,PostB 103.4±40.0%であり,有意な変化を認めなかった.一方,CgAは,Ex 161.6±110.4%,PostA 199.3±154.0%,PostB 225.3±192.8%であり,PostA,PostBがPreに比べて有意に高値を認めた.また,sAAとCgAにはどのような相関関係も認めなかった.【考察】 本研究では,前腕部を虚血状態とし6分間のグリップ動作を行った.その結果,前腕部へ感じる「痛み」と「ストレス」は,時間経過と共に増加し,有意な相関関係を認めた.また,唾液中のsAA活性は前腕部に感じる収縮痛では変化を認めなかったが,CgA活性については,前腕部に感じる収縮痛によって増加し,加圧終了から0-6分,6-12分に有意な増加を認めた.このことから,ストレス指標として用いられている唾液中のCgA活性は,痛みを反映する客観的なバイオマーカーとして有用である可能性が考えられた.【理学療法学研究としての意義】 痛みは日常生活活動を制限することから,理学療法の対象患者の中にも疼痛を訴える人は多い.疼痛を簡便に採取が可能な唾液によって客観的に評価することは,患者間や治療前後の比較を可能とし,治療効果の判定などに有益である.今回の結果は,ストレス指標であるCgAを用いて疼痛の有無を判別できる可能性を示唆する.これは,疼痛を客観的に定量化する手法を確立するための基礎的資料を提供することができると考える.
  • 水野 智仁, 阿志賀 大和, 山村 千絵
    p. Ab1348
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 頸髄損傷者において、嚥下障害を合併し問題となる場合がある。頸髄損傷に対する手術や骨棘などの骨の形態異常に起因する嚥下障害も見られるが、手術や骨の形態異常に問題はなくとも頸椎装具による頭頸部の固定が嚥下機能に影響を与えていることも報告されている。Stambolisらは、健常成人を対象に3種類の装具を使用し、嚥下機能を評価しており、装具を使用することにより、82%の人に嚥下機能への影響(咽頭残留、喉頭侵入)がみられ、47%の人で嚥下反射の開始時期が変化したと報告している。先行研究より、頸椎装具を使用することが、嚥下機能に悪影響を及ぼすことが示唆されている。一方で、有嶋らは、ハローベストを装着した嚥下機能障害を有する外傷性脊髄損傷の1症例に対し、頸椎の伸展角度を軽減したことで、嚥下障害が改善したと報告している。そこで、今回の研究では、健常者を対象に頸椎装具使用時に、頭部の角度のみを変化させることで、嚥下のしやすさも変化するのか否かを検証する。頸椎装具の使用が嚥下を行いにくくするが、頭部角度のみを調節し、頭部を中間位にすることで嚥下のしやすさを改善することができると仮説を立て、反復唾液嚥下テスト(以下、RSST)とRSSTの初回から3回までの時間、1回嚥下量を検査し嚥下機能に与える影響の有無について、装具非使用時(頭部中間位:以下中間位)、装具使用時(頭部伸展位)、装具使用時(中間位)と比較し検証することとした。【方法】 頸部脊椎、脊髄疾患、脳血管障害、口腔疾患など嚥下障害を伴う疾患を有しない若年健常者のうち研究内容を書面、口頭にて説明し同意を得られた男子学生10人(21.9±4.5歳)を対象とした。被検者姿勢は、壁に頭を付け、股関節、膝関節が90°で足底全面接地した端座位で行った。頸椎装具はオルソカラー(有薗製作所)を使用し、頭部姿勢は、装具非使用時(中間位)、装具使用時(頭部伸展位)、装具使用時(中間位)の3条件で比較した。中間位は、フランクフルト平面が外耳孔と肩峰を結ぶ線に対してなす角度が90°になる姿勢とした。頭部伸展位は、フランクフルト平面が外耳孔と肩峰を結ぶ線に対してなす角度が100°になる姿勢とした。装具使用時の中間位は、装具と後頭部の間に1cm厚のパッドを入れ頭部を中間位とした。検査項目は30秒間のRSSTの回数、健口くん(竹井機器工業株式会社)を使用してRSST初回から3回までの時間、1回嚥下量の3項目とした。1回嚥下量は100ccの水を紙コップに入れ、紙コップから一口水を飲み、残った水の量から、口腔内に取り込んだ量を計測した。3種類の姿勢は検査による疲労度を考慮し別々の日で行った。また、姿勢の3条件はランダムに実施した。統計学的検討は反復計測一元配置分散分析およびTukeyによる多重比較検定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 被検者への説明は書面及び口頭にて行い、書面にて同意を得た。なお、実験を遂行するにあたり、新潟リハビリテーション大学倫理委員会の承認を得た。【結果】 RSSTの回数は装具非使用時では8.1±2.2回、装具使用時(頭部伸展位)では、7.7±2.0回、装具使用時(中間位)では、7.6±1.6回であり、有意な差はみられなかった。RSST初回から3回までの時間は、装具非使用時では6.0±1.3秒、装具使用時(頭部伸展位)では、7.2±2.6秒、装具使用時(中間位)では、6.6±2.0秒であり、装具非使用時と装具使用時(頭部伸展位)との比較で装具使用時(頭部伸展位)の方が有意に延長していた。1回嚥下量は装具非使用時では、23.8±10.2 ml、装具使用時(頭部伸展位)では、22.2±9.7 ml、装具使用時(中間位)では、15.8±6.6 mlであり、装具非使用時および装具使用時(頭部伸展位)と比べて装具使用時(中間位)の方が有意に少なかった。【考察】 装具使用時での頭部伸展位でRSSTの初回から3回までの時間が延長した原因としては、顎下部の軟部組織が伸長し開口方向へ牽引力を生じるために顎の固定および喉頭挙上に対して抵抗力が生じ喉頭運動が阻害されたためと考えられる。装具使用時の頭部中間位で一回嚥下量が軽減した原因としては、頭部を中間位にすることで、頸椎装具の顎受け部分に下顎が抑えつけられ開口量が減少し、口腔内に取り込む量も減少したと考えられる。頸椎装具使用により嚥下機能が低下している場合、頭部の角度を変化させることで機能が向上する場合もあることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 頸髄損傷者などで頸椎装具を使用し、嚥下機能が低下している場合、リクライニング角度や座位姿勢などの様々な姿勢の評価を行うが、体幹や頸部だけでなく頭部の角度も評価の対象となることが考えられた。
  • 辻田 純三, 武村 政徳, 古田 高征, 玉木 彰, 越久 仁敬
    p. Ab1349
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 嚥下障害はしばしば高齢者において発症する症例である。脳卒中後遺症などによる中枢性疾患による摂食・嚥下障害や誤嚥性肺炎を起こしやすい高齢の在宅療養者は今後ますます増加すると考えられる。古くから嚥下障害に対しては体位変換、下顎や喉頭や舌骨の運動指導や嚥下食の導入等がなされてきた。また嚥下性肺炎患者では嚥下誘発閾値が上昇していることが観察されている。嚥下閾値を低下させる事は誤嚥性肺炎等を予防するための有効な手段であると考えられる。近年、頚部における経皮的電気刺激が咽頭嚥下障害者における嚥下閾値を低下させるという報告が見られるが、それらは1-120Hzが利用されており、キロヘルツを用いた干渉波刺激による嚥下閾値に関する研究報告は見られない。我々は今回、キャリア周波数2000Hz、治療周波数50Hzの干渉波刺激を経皮的に頚部に与える事により嚥下閾値が低下するか否かを検討することを目的とした。【方法】 被験者は健常成人男子10名で、実験は被験者を45度の傾斜をつけたリクライニング付き車椅子にて座位姿勢をとらせて行った。直径2mm、長さ12cmのシリコンチューブを鼻空より挿入し、先端が下咽頭部にくるように固定し、自動点滴装置により飲用水を注入速度3ml/分で注入した。嚥下運動は舌骨上筋群における表面筋電図および甲状軟骨上での心音計による嚥下音を測定し、表面筋電図と嚥下音が同期することにより診断基準とした。被験者の甲状軟骨をはさんだ部位に経皮電極を一対装着し、キャリア周波数2000Hz、治療周波数50Hzの干渉波刺激装置(ジェイクラフト社製)を用いて干渉波刺激を行った。比較として2000Hzの交流刺激も行った。刺激頻度は被験者が刺激痛を感じずにわずかに振動を感じるような刺激頻度を用いた。刺激パターンは無刺激(5分間)、刺激(5分間)、無刺激(5分間)と無刺激(5分間)、無刺激(5分間)、刺激(5分間)をランダムに割り付け、各被験者に連続して15分間の測定をダブルブラインドテストとして行った。統計処理はANOVAおよびpost-hoc Bonferroni/Dunnテストにより行い、5%の危険率をもって有意差とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には実験に先立ち、兵庫医科大学倫理規定に基づき、本研究の目的、方法および実験参加により起こりうるリスクについて十分な説明を行い、研究参加の同意をえて行った。【結果】 2000Hzの干渉波刺激による5分間の嚥下回数(24.1±2.6)は2000Hzの交流波刺激による嚥下回数(21.0±2.8)より有意に高い値を示した。また、干渉波刺激後の嚥下回数(24.1±2.6)は刺激前値(20.6±2.3)および刺激終了後(20.6±1.4)より有意に高い値をしめした。刺激前置と刺激終了後の値には差は見られなかった。【考察】 我々は健常被験者において頚部におけるキャリア周波数2000Hz、治療周波数50Hzの経皮的干渉波刺激が嚥下閾値を低下させる事を観察した。後期高齢者社会を迎えるわが国では今後、ますます嚥下障害患者やそれにともなう誤嚥性肺炎患者の増加が考えられる。これらの患者の治療補助や誤嚥性肺炎を発症する可能性のある高齢者の予防のためにも嚥下性閾値を低下させる事は非常に有効な手段と考えられる。今後は更に臨床研究を重ねる事により効果を実証していくつもりである。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士にとって脳卒中後遺症などによる中枢性疾患による摂食・嚥下障害や誤嚥性肺炎を起こしやすい高齢の在宅療養者を対象とする機会は今後ますます増加すると考えられる。様々な理学療法手技をとりおこなう上で、今回我々が開発研究した干渉波を利用した嚥下閾値に及ぼす好影響は、理学療法をとりおこなう上での補助手段として非常に有用であると考えられる。また、高齢者の嚥下障害予防の観点からも利用価値が高いと考えられる。刺激装置がコンパクトなタイプであるため、ベッドサイドや在宅での指導も可能である。
  • 美崎 定也, 古谷 英孝, 廣幡 健二, 田中 友也, 佐和田 桂一, 杉本 和隆
    p. Ab1350
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 人工膝関節全置換術(TKA)後または単顆置換術(UKA)後患者の身体機能を評価する尺度として,Western Ontario and McMaster University Osteoarthritis Index (WOMAC)に代表される疾患特異的尺度が開発されている.しかし,術後一定期間を経過した患者や若年で身体活動量の高い患者においては,WOMACでは十分に評価できないことが報告されている.Simonら(2010)は,若年で身体活動量の高い術後患者に対する疾患特異的尺度である,High-Activity Arthroplasty Score(HAAS)を開発し,豪州における高い妥当性を報告した.今回,HAASを日本語に翻訳して日本語版HAAS(JHAAS)を作成し,本邦での再現性および妥当性を調査した. 【方法】 まず,HAASを日本語に翻訳し,理学療法士および医師により,本邦において妥当な内容に修正して質問票を作成した.作成した質問票を英語に精通した者が再度英語に翻訳し,パイロット版JHAASとして原作者の了承を得た.HAASは身体活動を歩行,走行,階段昇降,余暇活動の4つのドメインに分け,自身が達成できる最も高いレベルの身体活動を回答させる自記式の質問票である.合計得点は0-18点を取り,点数が高いほど身体活動量が高いことを示す.次いで,当院で初回TKAまたは初回UKAを受けた患者15名を対象として,予備調査を行った.質問票に回答するにあたり,文章表現,回答の負担についてコメントを記入させた.加えて,回答にかかる時間を測定した.JHAASの再現性について,2週間以内に同一患者15名に再調査を行った.各ドメインの重み付けカッパ係数,合計得点の信頼性係数を算出し,Bland-Altman plotを用いて誤差を視覚的に判断した.JHAASの妥当性について,55歳から80歳までの術後患者87名を対象として,20011年9月から10月までの期間において横断的に調査を行った.重篤な合併症(心疾患,中枢神経疾患)を有する者,膝関節以外の骨,関節の手術既往を有する者,認知障害を有する者は除外した.外的基準として,1)等尺性膝伸展筋トルク(膝伸展筋トルク),2)日本語版WOMAC身体機能項目,3)日本語版Physical Activity Scale for the Elderly(日本語版PASE)を用いた.調査方法は,外来受診時に膝伸展筋トルク,日本語版WOMACを測定した後,JHAASおよび日本語版PASEを手渡し,2週間以内に返送させた.膝伸展筋トルクはハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社,μTas-F1)を用いて測定した.データ解析は項目分析を行い,ヒストグラムを描画してデータの分布を確認した.さらに膝伸展筋トルク,日本語版WOMACおよび日本語版PASEとJHAASとの相関係数を算出した.【説明と同意】 対象には事前に研究の趣旨を説明し,同意を得た.【結果】 質問票を60名から回収した(回収率70%).対象者の基本属性は,男性6名,女性54名,年齢[平均値±標準偏差,(範囲)]70.7±6.4(55-80)歳,BMI 26.0±3.9(18.8-35.6)kg/m2,TKA 31名,UKA 29名,片側25名,両側35名であった.術後経過月数は2-67ヶ月であった.JHAASの再現性について,各ドメインの重み付けカッパ係数は0.611-0.706であり,合計得点の信頼性係数は0.825であった.Bland-Altman plotによる誤差は概ね±2標準偏差以内であった.JHAASの無回答者は1名であり,回答に要する時間は1-8分であった.天井効果または床効果を認めず,ヒストグラムから正規分布を確認できた.日本語版WOMACでは天井効果を認めた.JHAASと膝伸展筋トルク(r=0.445),日本語版WOMAC(r=0.449),および日本語版PASE(r=0.410)において相関を認めた.【考察】 本調査において,人工膝関節置換術後患者における身体活動量の評価について,JHAASの再現性および妥当性が確認された.加えて,JHAASは短時間で実施できること,無回答者が少ないこと,また日本語版WOMACでは十分に評価できなかった対象にも適用できることから,実用性が高い疾患特異的尺度であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 身体活動量の高い患者に対する詳細な評価は,適切な問題点の抽出,治療プログラム立案,および治療効果の判定において不可欠である.そのため,再現性,妥当性を備えた,実用性の高い疾患特異的尺度を作成する意義は深いと考えられる.
  • 生田 旭洋, 後藤 亜由美, 大野 善隆, 後藤 勝正
    p. Ab1351
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 骨格筋に対する負荷の増大は、筋肉量の増加すなわち筋肥大を引き起こす。こうした骨格筋の肥大において、骨格筋組織幹細胞である筋衛星細胞が必須ではないものの重要な役割を演じていることはよく知られている。筋衛星細胞とは、筋細胞の基底膜と形質膜の間に存在する紡錘形をした単核の細胞で、未分化な骨格筋細胞(筋芽細胞)と考えられている。筋衛星細胞は自己増殖能も持ち、トレーニングや損傷などにより生じた種々のストレスに応答して増殖し、損傷した筋細胞の修復や筋細胞への融合による筋肥大、あるいは新たな筋細胞を形成すると考えられる。一方、骨格筋における毛細血管ネットワークは骨格筋細胞への酸素供給や糖・代謝産物輸送として重要である。したがって、骨格筋量の変化と骨格筋細胞を栄養する毛細血管構築には、相互の情報を交換し合うネットワーク機構の存在が示唆される。毛細血管の構築に関しては、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)および血管内皮周囲細胞由来の血管内皮新生因子であるangiopoietinが知られている。Angiopoietin は、血管内皮細胞と壁細胞の接着を促進することにより新生血管の安定化に寄与する因子であるが、活性化した筋衛星細胞を休止期へ移行させる作用を持つことが報告された。したがって、angiopoietinは骨格筋量の制御に関与していることが示唆されるが、骨格筋肥大に伴うangiopoietinの発現に関しての報告はない。そこで本研究では、骨格筋肥大に伴う骨格筋組織内angiopoietinの発現を検討することを目的とした。【方法】 実験には生後11週齢の雄性マウス(C57BL/6J)のヒラメ筋を用いた。全てのマウスの右後肢を対照群、左後肢を代償性肥大群として設定した。左後肢は、ヒラメ筋の共同筋である腓腹筋腱を切除した。この処置により、ヒラメ筋に対する負荷が増大し、骨格筋肥大がもたらされる。マウスは気温23±1℃、明暗サイクル12時間の環境下で飼育された。なお、餌および水は自由摂取とした。処置後経時的にマウス両後肢よりヒラメ筋を摘出し、即座に結合組織を除去した後、筋湿重量を測定した。筋湿重量測定後、液体窒素を用いて急速凍結し、-80℃で保存した。得られたサンプルを用いて、ウエスタンブロット法にてangiopoietin 2タンパクの発現を定量評価した。【倫理的配慮】 本研究は、豊橋創造大学が定める動物実験規定に基づき、豊橋創造大学生命倫理委員会の審査・承認を経て実施された。【結果】 共同筋腱切除により、ヒラメ筋の筋湿重量ならびに筋タンパク量の増加が認められた。したがって、本研究で用いた処置法によりヒラメ筋に筋肥大を引き起こすことができたと判定した。共同筋腱切除により、切除後2週間で骨格筋組織内のangiopoietin 2の発現量の著しい低下が認められた(p<0.05)。このangiopoietin 2 の発現量は、切除後4週間経過しても対照群に比して有意に低値を示した(p<0.05)。【考察】 骨格筋肥大に伴うangiopoietin 2タンパクの発現の減少が確認された。angiopoietin 2は血管新生因子であるが、細胞周期にある筋衛星細胞のG1期(休止期)への移行を抑制する作用を持つことが報告されている。機能的過負荷はangiopoietin 2タンパクの発現を低下させることで、筋衛星細胞の活性を維持するように機能しているものと考えられた。したがって、骨格筋可塑性に関与する筋衛星細胞と毛細血管の可塑性に関与する血管内皮細胞はangiopoietin 2を介してお互いにクロストークすることで、組織としての骨格筋機能の維持あるいは向上を制御していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 骨格筋組織を構成する筋細胞、筋衛星細胞そして血管系細胞による異種細胞間のクロストークの解明は、骨格筋機能発現の分子機構の解明へとつながると考えられる。骨格筋機能発現の分子機構が明らかになることで、安全かつ効率的な筋力増強法の開発につながり、中高齢者の健康維持及びリハビリテーションへ大きく貢献できると考えている。本研究の一部は、文部省科学研究費(B, 20300218; A, 22240071; S, 19100009)ならびに日本私立学校振興・共済事業団による学術振興資金を受けて実施された。
  • 前川 健一郎, 金澤 佑治, 藤田 直人, 藤野 英己
    p. Ab1352
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 骨格筋は30歳代を過ぎると徐々に減少し、中高年を過ぎると加齢性の筋減少が著明になってくる。また、健康を維持増進し、生活習慣病等を予防するという観点から骨格筋のメンテナンスを行うことは重要である。また、筋肥大を促すためにタンパク質を摂取して運動することが広く用いられている。一方、運動は筋代謝の向上や毛細血管の新生を促すことが知られ、酸素の需要供給バランスやミトコンドリア新生代謝向上によるものと報告されている。また、ミトコンドリア新生には一酸化窒素が関与すると報告されている。そこで、核酸と塩基性タンパク質を多く含むヌクレオプロテインに着目し、研究を行った。ヌクレオプロテインの主成分の一つであるアルギニンは一酸化窒素合成酵素の基質となり、一酸化窒素の生成に関与している。本研究では、タンパク質及びミトコンドリア新生の両方の基質になり得るヌクレオプロテインを運動と併用して摂取することで、運動の効果を増強させることができるかの検証を行った。【方法】 8週齢の雄性SDラット26匹を、対照群(CO群、n=6)、ヌクレオプロテイン摂取群(CN群、n=6)、運動群(Ex群、n=7)、運動とヌクレオプロテイン摂取群(Ex+NP、n=7)の4群に分けた。CN群とEx+NP群には、1日あたり体重の1~2%のヌクレオプロテインを週5回の頻度で経口投与した。Ex群とEx+NP群は、1日2回、週5回の頻度でトレッドミルを用いたランニングを実施した。7週間の実験期間終了後、ヒラメ筋を摘出し、湿重量を測定した後に急速凍結した。得られた筋試料から10μm厚の横断切片を作製し、アルカリフォスファターゼ染色、コハク酸脱水素酵素(SDH)染色、ATPase染色(pH4.5)を行い、筋線維横断面積、筋線維あたりのSDH活性、筋線維周囲の毛細血管数を測定した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析を用い、多重比較にはTukey法を用い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究は所属施設における動物実験に関する指針に従って行い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 筋湿重量は、CO群に対してEx+NP群のみが有意に高値であった。また、筋線維横断面積も、CO群と比較してEx+NP群が有意に高値であり、筋肥大がみられた。次にタイプI線維のSDH活性は、CO群に比較してEx群とEx+NP群では有意に高値を示し、さらにEx+NP群はEx群よりも有意に高値を示した。筋線維周囲の毛細血管数は、CO群に比較してEx群とEx+NP群は有意に高値を示し、さらにEx+NP群はEx群よりも有意に高値を示した。【考察】 本研究の結果から7週間のトレッドミル走行運動は骨格筋代謝の促進や筋内毛細血管の新生を生じさせた。一方、運動のみではヒラメ筋の肥大は生じなかったが、運動にヌクレオプロテインの摂取を行うことにより筋肥大を誘導し、骨格筋の代謝や毛細血管新生は更に促進することを明らかにした。骨格筋はタンパク質を主成分とし,その基質の摂取により肥大が促進されることが知られている。また、核酸はアルギニンを含有し、ミトコンドリア新生に関与すると考えられている。本研究の結果から、運動後にヌクレオプロテインを摂取することで、運動による骨格筋内のタンパク質合成の基質になり、効果的な筋肥大が促され、ヒラメ筋のタイプI線維横断面積が増加したものと考えられる。また、骨格筋内の酸化的リン酸化反応を確認するためにSDH活性を測定し、運動単独よりも運動後にヌクレオプロテインを摂取する方がSDHの活性が上昇した。SDHはミトコンドリア内の酵素であり、そのSDH活性とミトコンドリア数には正の相関があることから、運動後にヌクレオプロテインを摂取することで,ミトコンドリア新生が促されたものと考えられる。さらに酸化的リン酸化反応が高まることにより骨格筋の酸素需要が高まった結果、毛細血管が増加したものと考えられる。これらの結果から運動後のヌクレオプロテインの摂取は、筋肥大やミトコンドリア新生を促し、毛細血管を増加させることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 運動にヌクレオプロテイン摂取を併用することで,効果的な骨格筋のメンテナンスが可能であることが明らかとなり、理学療法における健康維持・増進を目的とした指導等に寄与できると考えられる。
  • 田中 雅侑, 福留 千弥, 藤田 直人, 藤野 英己
    p. Ab1353
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 肺高血圧症は進行性の肺動脈リモデリングを特徴とし,右心室の後負荷を増加させ,右心不全を惹起する.また,肺高血圧症の進行により顕著な運動制限を来す.その原因として骨格筋の運動耐容能の低下が指摘されており,運動耐容能の低下による身体活動量の減少は骨格筋の萎縮をさらに進めるとされている.近年,肺高血圧症に対する運動療法は運動耐容能の低下を改善させるとの報告がみられる.一方で,肺高血圧症における運動は肺動脈圧を上昇させ,右心室への負荷を高くするとされており,心筋への過剰な負荷は筋萎縮を誘発する炎症性サイトカインを発現させるという報告もある.このような報告から重度な肺高血圧症への運動療法は右心室に過負荷を与え,骨格筋の萎縮を助長する可能性も考えられる.本研究では,増悪期の肺高血圧症に対する運動が骨格筋の萎縮に及ぼす影響を遅筋と速筋で検証した.【方法】 4週齢のWistar系雄ラットを対照群(Con群),肺高血圧症群(PH群),肺高血圧症に運動を行った群(PHEx群)の3群に区分した.肺高血圧症はモノクロタリンの腹腔内投与(30mg/kg)によって惹起した.運動はトレッドミルを用いたランニング(速度;13.3m/min,30分間/日)を実施した.運動はモノクロタリンを投与した翌日から開始し,週5回の頻度で,4週間継続した.実験期間中は1週間毎に体重を測定した.4週間の実験期間終了後,ヒラメ筋及び前脛骨筋,並びに心臓を摘出し,湿重量を測定した.得られた骨格筋試料は急速凍結し,10µm厚の横断切片を作製した後にATPase染色(pH 4.5)を行った.ATPase染色の光学顕微鏡所見を用いて筋線維をタイプI線維,タイプIIA線維,及びタイプIIB線維に分別し,筋線維タイプ別の横断面積を測定した.また,体重に対する心重量比率を算出し,心肥大の指標とした.測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5 %未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は,所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得たうえで実施した.【結果】 モノクロタリン投与4週目にPH群とPHEx群は体重減少を認めた.体重に対する心重量比率は,PH群及びPHEx群がCon群に比べて有意に高値を示し,PHEx群はPH群に比べて高値を示した.ヒラメ筋の湿重量及び全ての筋線維タイプにおける筋線維横断面積で,PH群とPHEx群はCon群に比べて有意に低値を示したが,PH群とPHEx群の間には有意差を認めなかった.前脛骨筋の湿重量はPH群とPHEx群はCon群に比べて有意に低値を示した.さらにPHEx群における前脛骨筋の湿重量はPH群に比べて有意に低値を示した.前脛骨筋の筋線維横断面積はタイプI線維では3群間に有意差を認めなかった.一方,速筋線維であるタイプIIA及びIIB線維では,PH群とPHEx群がCon群に比べて有意に低値を示した.さらにタイプIIB線維はPHEx群ではPH群に比べて有意に低値を示した.【考察】 肺高血圧症に対する運動は,遅筋であるヒラメ筋の萎縮には影響を及ぼさなかったにもかかわらず,速筋である前脛骨筋に対しては萎縮を進行させた.先行研究では,モノクロタリン投与後4週間で右心不全が惹起され,心臓悪液質によって骨格筋の萎縮を誘発するとされている.本研究でもモノクロタリン投与4週目に体重の減少を認めたため,ヒラメ筋と前脛骨筋の萎縮は肺高血圧症モデル動物が心臓悪液質に陥った事が原因であると考えられる.また,肺高血圧症の増悪期における運動は右心室への負荷を増大することで炎症を惹起するとされ,その炎症は腫瘍壊死因子などのサイトカインを過剰発現するとされている.本研究では運動に伴う心肥大を認めたため,運動によって心臓への負荷が増大し,右心室で炎症性サイトカインが過剰発現していた可能性がある.炎症性サイトカインは心臓悪液質に関与するとされ,悪液質による骨格筋異化作用は,遅筋線維に比べて速筋線維で大きいとされる.その理由の一つとして,遅筋と比較して速筋では,悪液質による骨格筋異化作用の抑制に関わっているとされるNO産生が少ないことが報告されている.本研究では肺高血圧症の増悪期においても運動療法を実施したことで,心臓悪液質による影響が増し,速筋である前脛骨筋の萎縮を助長した可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 増悪期の肺高血圧症に対する運動は,心臓に過度な負荷を与えるだけでなく,主として速筋の萎縮を助長することが明らかになった.このことから肺高血圧症に対する理学療法は,介入時期,及び心臓への負荷を考慮し,運動療法等の介入は慎重に行うべきであると考えられる.
  • 森 友洋, 縣 信秀, 柴田 篤志, 宮津 真寿美, 河上 敬介
    p. Ab1354
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに・目的】 筋損傷に対する理学療法の効果には不明な点が多い.その理由には,治療効果を調べるための再現性のある筋損傷モデルがない事,筋損傷からの組織学的な回復過程が定量的に評価されていない事が挙げられる.さらに,組織学的側面からだけでなく,理学療法の効果を検討するには,日常生活動作に大きな影響を及ぼす,筋力という機能的側面の変化を明らかにすることも重要である.これまでに我々は,小動物用足関節運動装置を用いて,他動的な足関節の運動範囲,回数,角速度を設定し,前脛骨筋の遠心性収縮を行わせ,遠心性収縮48 時間後の足関節の最大等尺性背屈トルクが 10 mN・m 以下の筋のみを抽出すると,組織学的に再現性の高い損傷モデルが作製できることを報告した.そこで,本研究の目的は,この遠心性収縮による筋損傷モデルを用いて,組織学的側面と,機能的側面の両方から、筋損傷の回復過程を定量的に明らかにすることである. 【方法】 対象は,8 週齢 Wistar 系雄性ラット 95 匹とした.この内,59 匹には遠心性収縮を行った.遠心性収縮は,前頚骨筋に対して電気刺激(5 mA,100 Hz,duration 1 ms)を与えた0.2 秒後に,角速度を 200度/秒,運動範囲を脛骨と第 5 中足骨の成す角度が 60 度から 150 度までの 90 度とした足関節の他動的な底屈運動を,10 回,5 セット行った.そして、遠心性収縮48時間後の足関節の最大等尺性背屈トルクが 10 mN・m 以下であった 39 匹を,遠心性収縮 3,5,7,10,14,28 日後 (n= 6,6,6,7,7,6) に筋採取する 5 群に分けた.また,Control 群(n= 36) は,遠心性収縮実施群と同経過日数を経た 3,5,7,10,14, 28 日後 (n= 各 6) に筋を採取した.筋損傷からの回復過程の組織学的評価として,筋横断切片のDystrophin (筋細胞膜) と Developmental myosin heavy chain (D-MHC) の二重免疫染色を行った.そして,筋腹横断面積を測定するとともに,前脛骨筋の筋腹横断面における浅層部,中間部,深層部から,それぞれ一辺が0.5 mm の正方形の範囲を抽出して(計 0.75 mm2),各染色像における筋線維横断面積と筋線維数を測定した。また,測定した筋腹横断面積から筋腹横断面全体における筋線維数を算出した.機能的評価として,筋採取を行う直前に,電気刺激による足関節の最大等尺性背屈トルクを測定した.【倫理的配慮・説明と同意】 本研究は当大学動物実験委員会の承認を得て行った.【結果】 損傷からの回復過程における足関節の最大等尺性背屈トルクは,遠心性収縮2日目に急激に減少した後,徐々に増加し,28 日後では Control 群と有意な差がなかった.平均筋線維横断面積は,損傷 3 日後に Control 群に比べて有意に減少し,その後徐々に増加し,損傷 28 日後では Control と比べ有意な差がなかった.損傷 3 日後の筋線維数は Control 群に比べ2338本少なかった.この差には,大径(>3000 µm2)の筋線維の割合の減少が関与していた.一方,損傷 7 日後には筋線維数が Control に近づいた.この増加には,小径(<800 µm2)の筋線維の割合の増加が関与していた。また,損傷 5 日後で観察された小径の筋線維のうち84 %が D-MHC 陽性(筋腹横断面中に 2607本)であった. 【考察】 本研究では,我々の開発した再現性のある筋損傷モデルの回復過程を定量的に評価した。本モデルでは,損傷5日後に観察された新生した筋線維が,徐々に成長し,28日後に正常に戻ることが,組織学的にも機能的にも分かった.さらに,D-MHC 陽性筋線維の出現する時期も明らかになった。一般に,遅筋に比べ速筋の筋線維横断面積は大きいといわれている。損傷初期に大径の筋線維が減少したことは,一般的にいわれている遠心性収縮によって速筋筋線維が損傷するという事を反映していると考える。また,算出値ではあるが,回復過程における筋線維数の増減は,D-MHC 陽性筋線維の増減と照らし合わせて考えると,損傷した筋線維が新生した筋線維に置き換わり,成長し,機能的にも回復した現象を捉えていると考える。【理学療法学研究としての意義】 本モデルと評価方法を用いることで,今後,筋損傷に対する適切な理学療法刺激の種類の解明,さらには適切な時間や時期などの解明が可能になる.
  • 入江 駿, 碇 友子, 高原 優子, 金村 尚彦
    p. Ab1355
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 神経成長因子(Nerve growth factor:NGF)は、交感神経や感覚神経の生存に関わる神経栄養因子の1つであり、末梢神経損傷時には周辺の結合組織で発現され、末梢神経修復機構の一端を担うと考えられている。NGFは骨格筋においても発現されるが、同じタンパクファミリーに属するNT-3, NT-5、脳由来神経栄養因子と異なり、運動神経や神経筋接合部における可塑性、骨格筋の神経支配についての作用が確認されなかったとの先行研究が存在する(Braun et al. 1996)。そのため、骨格筋におけるNGFの発現機序は明らかでない。我々は、骨格筋におけるNGF、TrkAの発現について身体活動量に着目して解析するために、尾部懸垂ラット、尾部懸垂後に定期的な後肢荷重運動を実施したラット、通常に飼育したラットにおいて、抗重力筋であるヒラメ筋におけるNGF, TrkAのmRNAの発現量を測定した。【方法】 10週齢のWistar系雄性ラットを10匹使用し、尾部懸垂群(TS群=4)、荷重群(WB群=3)、対照群(CTL群=3)に分けた。TS群、WB群はそれぞれ4週間の尾部懸垂により後肢を免荷とした。WB群は懸垂3週目より1日1時間の後肢への荷重を、週5回、2週間実施した。4週目の運動最終日の運動直後に、ヒラメ筋を採取し、急速凍結し、-80℃で保存した。その後、凍結した組織をホモジナイズし、total RNAを抽出、逆転写酵素によりcDNAを合成し、リアルタイムPCRにてNGF、TrkAのmRNA発現量を計測した。mRNA発現量の相対定量は、比較CT法にて実施した。内部標準にはβアクチンを用いた。統計学的検索には、Kruskal-Wallis検定を使用し、有意水準は5%水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、本学動物実験倫理委員会の承認のもとに実施した。【結果】 ヒラメ筋内のNGF mRNA発現量は、CTL群に対し、TS群は92%、WB群は119%となったが、群間の有意差を認めなかった。ヒラメ筋内のTrkA mRNA発現量は、CTL群に対し、TS群は112%、WB群は59%であったが、群間の有意差を認めなかった。また、TrkAの平均mRNA発現量はNGFの12%で、CTL群の1サンプルについては検出閾値に達しなかった。【考察】 本研究の結果は、活動量が著しく低下した筋においても、NGF, TrkAの生成が維持される可能性を示している。NGFは、高親和性受容体であるチロシンキナーゼ受容体(TrkA)を介し、筋芽細胞の増殖因子として働き、筋細胞への分化を抑制することが培養細胞での研究で報告されている(武藤ら 2001、Rende et al. 2000)。また、NGFは侵害受容器形成にも重要な役割を果たしている。身体活動量減少時のヒラメ筋のNGF, TrkA mRNA発現の維持は、筋細胞への分化の制御、求心性神経線維の機能維持を行うことで、萎縮筋の機能維持に貢献している可能性が示唆された。今後は,詳細な、低活動下でのヒラメ筋におけるNGFの動態を解析するには本実験のサンプル数の確保、タンパク量とその局在について解析を行う必要性があるものと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、廃用性萎縮を来した筋においても神経機能や筋機能を調節する物質が正常筋と同様に生成される可能性を示した研究である。神経生存維持や筋分化機能システムの側面から廃用性筋萎縮に対する運動療法の影響について解析できる可能性がある。
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