理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
  • 磯谷 隆介, 工藤 賢治, 諸澄 孝宜, 須藤 慶士, 風間 貴文, 吉田 一也
    p. Ab1077
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 キネシオーピングは、キネシオテープ(以下KT)を皮膚に貼り、筋膜と筋の間にわずかな隙間を作ることにより、血液やリンパの環流を改善、過剰に伸張もしくは収縮した筋の緊張を改善させる目的で行われるテーピング法である。また、福井ら(2010)は皮膚の誘導方向の違いで筋出力が変化すると報告しており、皮膚や筋膜への介入は理学療法に有用と考える。しかし、KTの筋機能に及ぼす影響、KT貼付による皮膚の誘導方向の違いが筋機能に及ぼす影響については検証されていない。そこで本研究の目的は、超音波画像診断装置を用いてKTの貼付の有無と皮膚誘導方向の違いによる大腿直筋の筋機能を、筋厚、羽状角、筋束長を比較することによって検証することとした。【方法】 対象は運動器疾患および下肢に障害のない成人男女13名(29.5歳±5.2)の両側大腿26肢とした。計測肢位は足底接地した安静座位で、股関節・膝関節屈曲90°肢位 (以下膝屈曲位)。股関節屈曲90°・膝関節伸展0°肢位(以下膝伸展位)の2肢位とした。KTは「KINESIO Tex +PLUS EDFG」を使用し、予め20cmに採寸したKTを大腿直筋の筋腱移行部より大腿直筋の筋腹の際に沿って貼付した。貼付肢位は、皮膚の最大伸張位である膝関節屈曲位にてKTを軽度伸張した状態で貼付した。貼付条件は貼付なし(以下Non)、遠位から近位方向へ貼付(以下Dis)、近位から遠位方向へ貼付(以下Pro)の3条件とした。なお、被験者により貼付の順はランダム化した。計測部位は皮膚の移動を考慮し、上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線上の各肢位での大腿直筋の筋腱移行部より5cm近位とし、超音波画像診断装置(日立メディコ社製EUB-7500)を用いて3回計測した平均値を求めた。筋厚と羽状角の特定は、プローブを筋走行に水平に当てた縦断画像から計測した。なお、筋束長は筋厚/sin(羽状角)として算出した。統計学的分析方法として、膝屈曲位・膝伸展位におけるNon・Dis・Proの条件間の比較に反復測定による一元配置分散分析と多重比較法(Tukey-Kramer法)を適応した。統計解析はIBM SPSS Statistics Version 19を使用し、有意水準はp<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は人間総合科学大学倫理審査委員会で承認された(第248号)。対象者に研究の趣旨を口頭と書面にて同意を得た上で実施した。【結果】 統計解析の結果は膝屈曲位にて、筋厚はNonと比較しDisに有意な増加(p=0.003)、Nonと比較しProに有意な増加(p=0.041)が認められた。羽状角はNonと比較しDisに有意な増加(p=0.008)、Proと比較してDisに有意な増加(p=0.010)が認められた。筋束長はDisと比較しProに有意な増加が認められた(p=0.026)。なお、膝伸展位の条件間には全て有意差が認められなかった(p>0.05)。【考察】 皮膚誘導方向においては、KTの貼付方向の違いにより、構造学的に異なった効果が得られると考えられる。まずDisでは、Proと比較して筋束長よりも羽状角を増大して筋厚を増大させた。Proでは、Disと比較して羽状角よりも筋束長を増大して筋厚を増大させたものと推察する。先行研究によれば、羽状角は筋肥大により増大し、力発揮特性に影響を及ぼす因子となるとしている。さらに筋束長は筋の収縮速度と関係していると報告されている。したがって、本研究の結果よりDisは羽状角の増大により力発揮特性を向上させ、Proは筋の収縮速度向上により、筋機能が向上したと考えられる。また、大腿直筋に対するKTの貼付は、KTの貼付方向に関わらず、膝屈曲時は貼付なしの状態と比べて筋厚の増大が確認された(p=0.003)。しかし、膝伸展時の筋厚・羽状角・筋束長の変化は見られなかったため、KTは即時的に筋力を増強することはできないが、継続的に貼付することにより、筋機能とともに筋力を向上する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 KTは安静時の筋厚を増大させ、皮膚誘導方向の違いにより、羽状角、筋束長を変化させられることが示唆された。KTの継続的な貼付は、筋力強化の持続、収縮特性を考慮した理学療法評価・治療の一助となると考えられる。なお、羽状筋以外の筋やパフォーマンスに与える影響を今後考慮する必要があると考える。
  • 藤原 賢吾, 松岡 健, 岩本 博行, 江口 淳子, 田代 成美, 江島 智子, 清水 紀恵, 古田 幸一, 中山 彰一
    p. Ab1078
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 筋の発達や萎縮の指標として、臨床では簡便な方法である大腿周径がよく用いられている。近年では、超音波診断装置の進歩により、人体の形態的特徴を観察することが可能になり、筋の発達や萎縮についてより正確で詳細な評価が可能になった。超音波診断装置を用いた筋の形態的特徴の評価としては、筋厚の測定が一般的で多くの報告があるが、他にも羽状筋における筋線維の走行角度、すなわち羽状角の測定がある。羽状角については、トレーニングによって上腕三頭筋羽状角と筋厚の間に正の相関があることや、筋肥大に伴う羽状角の増加が報告されているが、筋厚や羽状角の筋形状は、必ずしも対応して変化するものではないといわれている。また、筋力は筋断面積に比例するため、羽状筋においては羽状角が大きいほど生理学的断面積が大きくなり、筋力に影響を与える因子であることがいえるが、筋力と羽状角の相関関係についての報告は少ない。よって、本研究では、大腿周径と、大腿四頭筋(以下Quad)の中でも報告の多い外側広筋羽状角について、筋力との関連性を検証することを目的とし、さらには体力を表す指数である体重支持指数(Weight Bearing Index:以下WBI)との関係についても検討した。【方法】 対象は下肢機能に問題のない健常人33名(男性27名、女性6名)、平均年齢は24.1±3.6歳、平均身長は168.0±7.1cm、平均体重は64.8±9.2kgであった。筋力測定にはBIODEX社製system3を用い、等尺性収縮の測定は、坐位で膝関節屈曲70度位にてQuadの随意最大筋力を5秒間測定した。等速性収縮の測定は坐位で膝角度0~90度を1往復として、求心性収縮60deg/secおよび180deg/secをそれぞれ最大努力5回連続で行った。得られたデータより、Quadのピークトルク値の体重比を求めた。 WBIはQuadの等尺性収縮ピークトルク値を体重比にて算出した。羽状角の測定は、超音波診断装置(コニカミノルタエムジー株式会社製SONIMAGE513)を用い、Bモード、プローブは10MHzにて長軸走査で安静時右側を測定した。測定肢位は背臥位で、測定部位は大腿骨長軸の50%部位で大腿外側面(大転子と大腿骨外側顆を結んだ線上の中点)とした。測定の際は、プローブを皮膚面に垂直に保持し、筋組織を圧迫しないよう皮膚に軽く接触させて行った。得られた画像から、外側広筋と中間広筋の間の深部筋膜と外側広筋の筋線維の走行方向がなす角度を画像処理ソフトImageJにて測定した。大腿周径は羽状角の測定と同一部位である大腿骨長軸の50%の位置で、メジャーにて測定した。統計学的解析は羽状角とWBI、Quad筋力、大腿周径との関係にはSpearmanの順位相関係数を用いた。また、大腿周径とWBI、Quad筋力の関係にはPearsonの積率相関係数を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に動作を口頭で説明するとともに実演し、同意を得たのちに実験を行った。【結果】 羽状角(平均20.33±3.28度)とWBI(平均112.71±19.73)において正の相関(r=0.62、p<0.01)を認めた。羽状角とQuad筋力の関係は、等尺性収縮(平均3.71±0.66Nm/kg)で正の相関(r=0.56、p<0.01)、等速性180deg/sec(平均1.70±0.31 Nm/kg)で正の相関(r=0.46、p<0.01)、等速性60deg/sec(平均2.65±0.43 Nm/kg)で正の相関(r=0.50、p<0.01)を認めた。大腿周径(平均52.64±5.08cm)と羽状角、WBI、Quad筋力には相関を認めなかった。【考察】 羽状角については、等尺性収縮、等速性収縮のどの収縮様式の筋力でも正の相関が認められ、羽状角と筋力の関係性が示された。さらに、羽状角とWBIに正の相関が認められ、羽状角が体力の指標となり得ることが示唆された。これは、諸家の報告にあるように筋厚との相関があること、生理的断面積との関係が大きな要因であると考える。また、羽状角が増加することで、停止部に向かう走行となり、力の伝達効率がよくなることも要因であると考える。市橋らは、超音波画像解析による大腿四頭筋の筋厚の測定により、超音波法による筋厚の測定では、安静時だけでなく収縮時の筋厚を測定すべきこと、筋力は筋厚よりも筋体積と相関係数が高いと報告している。よって、筋厚においては筋力との相関が低く、羽状角の方が筋力を反映している可能性がある。大腿周径については、筋力、羽状角との相関が無かったため、筋の発達や萎縮の指標として用いられているが、筋力との関係は低いことが明確となった。今後さらに、高齢者や他の羽状筋についても羽状角と筋力の関係を研究する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 大腿周径よりもQuadの羽状角の方が、Quadの筋出力の指標、さらには体力の指標に成り得ることが明確になった。また、羽状角は収縮様式に関わらず筋出力を反映していることが示された。
  • 甲斐 義浩, 後藤 昌史, 竹井 和人, 政所 和也
    p. Ab1079
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 Codman(1934)は,上肢挙上運動時に起こる肩甲骨と上腕骨の連動した動きをScapulohumeral rhythm(SHR)と呼び,さらにInman(1944)は,この上腕骨と肩甲骨の運動は挙上運動全体を通してみると,概ね2:1の割合で起こることを明らかにした。これら上肢挙上時の規則的な肩甲骨運動は,腱板を代表とする肩関節周囲筋の協調的な活動によって成り立っている。従来の報告より,腱板断裂やImpingement症候群に代表される肩筋腱疾患によって筋機能が低下すると,高頻度で肩甲骨の運動異常が生じることが示されている。すなわち,筋活動性(随意収縮力)の変化は,結果的に関節運動の変化を招く可能性がある。そこで本研究では,外部負荷による筋活動性の変化が,上肢挙上時の肩甲上腕関節および肩甲胸郭関節の運動に与える影響について検討した。【対象と方法】 対象は,健常成人37名(平均年齢20.6±1.7歳,平均身長171.9±6.2cm,平均体重65.3±5.9kg)とした。被験者は,無負荷および1kg,2kg,3kg,4kg,5kgの外部負荷(ダンベル)を保持し,約3秒間の肩甲骨面上肢挙上を行った。測定には,磁気センサー式3次元空間計測装置(3SPACE-LIBERTY,Polhemus社製)および解析ソフトMotion Monitor (Innovative Sports Training社製)を用い,上肢挙上時の肩甲上腕関節挙上角(GHE),肩甲骨上方回旋角(SUR),肩甲骨後方傾斜角(SPT)をそれぞれ求めた。磁気センサーは,胸骨柄,肩峰,上腕骨三角筋粗面にそれぞれ工業用両面テープを用いて強固に貼付した。センサー貼付後,上腕骨,肩甲骨および胸郭における骨格ランドマークのデジタライズ処理を行い,解剖学的な座標系を求めた。運動軸は,International Society Biomechanics推奨のISB Shoulder recommendationに従い定義し,上肢挙上角(胸郭と上腕骨のなす角)5°ごとのGHE,SUR,SPTを算出した。算出されたGHEとSURより,上肢挙上角15°ごとのSHRを求めた(SHR=GHE/SUR)。統計処理には,一元配置分散分析およびTukey-Kramerの多重比較検定を採用し,危険率5%未満を有意差ありと判断した。なお,第2種の過誤(TypeII error)に配慮して, 統計学的有意差を90%の確率で検出できるサンプルサイズを,あらかじめ検出力分析(power analysis)によって決定した(α=0.05)。【説明と同意】 対象者には研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,および個人情報の漏洩に注意することについて説明し,同意を得た上で研究を開始した。【結果】 上肢最大挙上時の各測定値の平均は,GHE;90.2±1.5°~88.7±1.5°(無負荷~5kg),SUR;38.2±1.2°~37.8±1.2°,SPT;23.9±1.8°~20.9±1.8°であり,各負荷間に有意な差は認められなかった。また,上肢挙上角5°ごとのGHE,SUR,SPTを各負荷間で比較した結果,すべての挙上角で有意な差は認められなかった。各負荷におけるSHRの平均は,無負荷;1.8±1.7,1kg;2.0±0.6,2kg;2.0±0.9,3kg;1.8±0.8,4kg;1.9±0.8,5kg;1.9±1.1であった。上肢挙上角15°ごとのSHRは,各負荷間に有意な差は認められなかった。【考察】 従来の報告では,外部負荷によって肩甲骨運動が増加することを示した報告(McQuade et al. 1998)や減少することを示した報告(Kon et al. 2008),変化しないことを示した報告(Michiels et al. 1992;Pascoal et al. 2000)など,さまざまな分析結果が報告されてきた。ただし,これら先行研究では,負荷量や測定方法などの実験条件が統一されていないことや,分析結果を担保する検出力とサンプルサイズの統制が不十分であったことから,それぞれの分析結果の積極的な支持には至らなかった。本研究の結果より,上肢挙上時の肩甲上腕関節および肩甲胸郭関節の運動は各負荷間で有意な変化を示さなかった。すなわち,筋機能に異常がなければ5kgまでの外部負荷を加えても至適な関節運動は保たれることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 5kgまでの外部負荷を用いた動的な肩甲骨運動の評価によって,肩甲骨の運動異常が検出される場合,上肢挙上運動に貢献する肩関節周囲筋の筋機能不全が疑われる。
  • 竹井 和人, 甲斐 義浩, 政所 和也
    p. Ab1080
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 上肢挙上運動時の上腕骨と肩甲骨の規則的な運動は,腱板を代表とする肩関節周囲筋の協調的な活動によって成り立っている。従来の報告では,上肢挙上運動に外部負荷を加えることで,肩関節周囲筋の筋活動性を変化させても肩甲上腕関節や肩甲胸郭関節の運動は変化しないことが示されている。すなわち,正常な関節運動は筋活動性の増減に依存せず,筋活動の至適調節によって再現される可能性がある。しかしながら,筋活動の至適調節能の破綻によって肩関節運動が変化するか否かは不明である。そこで本研究では,上肢挙上運動への関与がすでに確認されている肩外旋筋に焦点をあて,肩外旋筋疲労による活動調節能の破綻が肩甲上腕関節および肩甲胸郭関節の運動におよぼす影響について検討した。【対象と方法】 対象は,健常成人男性18名の利き手側18肩(平均年齢20.4±1.9歳)とした。被験者は,体重の約5%に相当するダンベルを用いて,側臥位にて反復外旋運動を可能なかぎり行った。外旋運動後,筋力測定(ハンドヘルドダイナモメーター)によって外旋運動前より70%以上の筋出力低下(筋疲労)を確認したのち,ただちに上肢挙上運動時(肩甲骨面挙上)の肩甲上腕関節および肩甲胸郭関節の運動学的データを計測した。測定には,磁気センサー式3次元空間計測装置(3SPACE-LIBERTY,Polhemus社製)および解析ソフトMotion Monitor(Innovative Sports Training社製)を用い,上肢挙上運動5°ごとの肩甲上腕関節挙上角(GHE),肩甲骨上方回旋角(SUR),肩甲骨後方傾斜角(SPT)を求めた。磁気センサーは,胸骨柄,肩峰,上腕骨三角筋粗面にそれぞれ工業用両面テープを用いて強固に貼付した。センサー貼付後,上腕骨,肩甲骨および胸郭における骨格ランドマークのデジタライズ処理によって,解剖学的な座標系を求めた。運動軸は,International Society Biomechanics推奨のISB Shoulder recommendationに従い定義し,上肢挙上角(胸郭と上腕骨のなす角)5°ごとのGHE,SUR,SPTを算出した。なお,測定は反復外旋運動前後にそれぞれ2回計測し,平均値を代表値として採用した。統計処理は,各測定値の再現性について,2回の測定値から級内相関係数(ICC)を求めた。また,各測定値(GHE,SUR,SPT)の外旋筋群疲労前後の比較には,二元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を採用し,危険率5%未満を有意差ありと判断した。【説明と同意】 対象者には研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,および個人情報の漏洩に注意することについて説明し,同意を得た上で研究を開始した。【結果】 各測定値のICCは0.99(95%CI:0.96-0.99)で,極めて高い再現性が確認された。上肢最大挙上時の各測定値の平均は,GHEが疲労前84.5±8.2°,疲労後82.1±9.8°,SURが疲労前39.8±5.4°,疲労後39.9±5.4°,SPTが疲労前26.2±7.5°,疲労後24.4±6.3°であり,筋疲労前後での有意な差は認められなかった。上肢挙上角5°ごとのGHE,SUR,SPTを外旋筋群疲労前後で比較した結果,SURは挙上10°から60°の間で,疲労前と比べ疲労後で有意に高値を示した(p<0.01)。一方,GHEおよびSPTでは疲労前後で有意な差は認められなかった。【考察】 本研究の結果より,外旋筋疲労によって上肢挙上60°までの肩甲骨上方回旋角が有意に高値を示した。肩関節外旋筋の1つである棘下筋は,肩甲上腕関節の動的安定化に貢献する重要な筋である。また棘下筋の役割は,肩外旋運動や安定化作用のみならず,上肢挙上運動時の動作筋としての作用を合わせもつことが報告されている。さらに,上肢挙上運動における棘下筋の筋活動性を分析した先行研究では,挙上60°から90°の間でピークに達することを述べている。すなわち,肩甲上腕関節に作用する棘下筋の活動調節能の破綻は,上肢挙上運動に伴う肩甲骨運動の変化をまねくこと,また棘下筋が活動性を高める上肢挙上60°まで肩甲骨上方回旋を増加させることが示された。【理学療法学研究としての意義】 肩甲上腕関節に直接作用する外旋筋の筋疲労は,肩甲骨運動の変化を招くことに留意する必要がある。
  • 永田 正夫, 福井 勉
    p. Ab1081
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 3次元動作解析装置による測定の際には、皮膚の動きが計測値に対し影響を与え、誤差を生み出すとされている。こうした皮膚の動きによる干渉はskin movement artifact(以下artifact)と呼ばれ、特に回旋運動への影響が大きいとされている。股関節回旋運動の計測においては、大腿に貼付するマーカーのartifactが計測値に大きな影響を及ぼし、大腿マーカーの貼付位置によって算出される股関節回旋角度が異なることが明らかにされ、大腿マーカー位置は、大腿の近位に置くほど誤差が大きいと報告されている。しかし、基準となる前後あるいは遠位の詳細な貼付部位については検討されていない状態であり、artifactの影響の少ない大腿マーカー位置を規定することが求められている。そのため本研究においては、3次元動作解析装置を用いた股関節回旋運動計測時の誤差の少ない大腿マーカー位置を規定し、従来の方法と比較検討することを目的とした。【方法】 対象は骨・関節および神経疾患の無い健常成人男性10名(年齢;30.8±4.04歳、身長;171.0±5.39cm、体重;66.8±4.08kg、BMI;22.9±1.70)であった。計測機器はvicon-mx(カメラ8台、sampling rate 100Hz)にて行った。身体標点として、直径14mmの赤外線反射標点をvicon社のplug-in-gait下肢モデルにより定められた所定の位置に計15個貼付した。本実験目的である大腿マーカーについては、右側前列として右側上前腸骨棘から右大腿骨外側上顆にかけて直線を引き、下1/4の位置(am)と、そこから上(as)下(ai)4cmの位置に計3点、中列として右側上前腸骨棘と右側上後腸骨棘を結んだ線の中点から右大腿骨外側上顆にかけて直線を引き、同様に上からca、cm、ciの3点、後列として右側上後腸骨棘から右大腿骨外側上顆にかけて直線を引き、同様に上からpa、pm、piの3点、合計9点のマーカーを貼付した。動作課題は立位における右側下肢の長軸回旋とした。対象被験者は、右膝関節伸展位でボールベアリングターンテーブル上に立位姿勢を取り、骨盤が動かないように固定された。この状態で、メトロノームに合わせて1秒の間に、股関節で右側下肢を回旋させ、その際ターンテーブルは、内外旋それぞれ20°と30°回転すると止まるように設定された。また計測中膝関節は伸展位で固定されていることを確認した。被験者は十分な練習を行った後、各角度で3回ずつの測定を行った。9つの大腿マーカーそれぞれを基準とし、plug-in-gaitに定められた他のマーカーとの組み合わせで作られるモデルを用いて、それぞれ算出される股関節回旋角度と、動作時における水平面上の骨盤と足部がなす角度の間に差があるかについて、有意水準5%未満としてBonferroni検定を用いて解析した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には、予め実験の目的および内容を口頭並びに書面にて説明し、実験参加への同意を得た。【結果】 大腿遠位前外側部に貼付したaiのマーカーから算出された股関節回旋角度計測値の誤差が最も少なく、統計学的にも有意に小さかった(p<0.05)。【考察】 本研究においても他の先行研究と同様に、大腿マーカー貼付位置によって、算出される股関節回旋角度の大きさには違いが見られた。先行研究では、大腿のartifactは股関節に近いほど、大腿後方にあるほど大きいという報告があるが、本研究結果でも同様に、as、cs、psという比較的股関節に近い大腿マーカーの誤差が大きく、遠位にあるai、ci、piという大腿マーカーは誤差が少なかった。また、ci、piに比べて前方に位置するaiは、さらに計測誤差が少なかった。以上より、上前腸骨棘から大腿骨外側上顆にかけた直線上の遠位1/4以下の大腿前外側部は、皮膚の動きが比較的少なくartifactの影響を受け難い位置であり、同部位へのマーカー貼付が股関節回旋運動の計測時に信頼性が高いと考えられた。またartifactは、前後位置よりも上下位置における影響が大きいことが示され、大腿周囲径の違い、すなわち骨からマーカーまでの身体内の水平面上の距離が関係しているものと考えられた。また前後位置に関しては、動作課題が膝伸展位で行われたことより、大腿前面の膝伸筋の緊張状態も関係しているのではないかと推察した。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、より明確な大腿マーカー位置決定基準を示唆することができた。また、その際の股関節回旋動作計測時の誤差量を特定できた。こうした誤差を明らかにすることは、股関節回旋動作計測時のデータを用いる上で有益なことであると考える。今後、この位置のartifactの影響が少ない原因を調査するとともに、この大腿マーカー位置を用いた計測を行うことにより、様々な動作での股関節回旋角度を明確にする所存である。
  • ─健常者との比較─
    西田 直弥, 仲保 徹
    p. Ab1082
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 肩関節は骨性支持に乏しい不安定な関節であるため,反復性脱臼を最も頻発する関節であるとされている.反復性肩関節脱臼既往者(以下脱臼既往者)では,上肢挙上時に肩関節の不安定感や疼痛の訴えがあり,理学療法の対象となる.脱臼既往者の肩関節の動態解析はX線画像やMRIなど静的な計測が多い.そこで本研究の目的は,三次元動作解析装置にて肩関節屈曲時の瞬間回転中心(以下ICR)を測定し健常者と脱臼既往者で比較し,脱臼既往者の肩関節の動態を明らかにすることである.【方法】 対象は,肩関節に障害のない健常成人男性9名(平均年齢22.0±0.7歳,平均身長172.5±6.4cm,平均体重61.8±7.1kg)と脱臼既往者1名(年齢21歳,身長168.0cm,体重59.0kg)とした.計測課題は,椅子座位(骨盤前後傾0°,膝関節屈曲90°)で上肢下垂位(肘伸展位)から屈曲最終域までの肩関節屈曲運動とした.健常者は全例右側,脱臼既往者では患側(左側)を測定した.被験者には屈曲動作時に脊柱の動きが極力生じないよう指示し,2秒間で屈曲最終域に達するよう計測前に数回練習を行った.計測は3次元動作解析装置(Vicon MX)を用い,サンプリング周波数は100Hzとした.反射マーカーを,前腕中央の表裏をなす部位と手関節中央部,Th4,Th9,胸骨頸切痕部,肩峰,大腿骨大転子部の8箇所に貼付し,空間座標データを計測した.各座標を大腿骨大転子に貼付したマーカーが原点となるように補正し,前腕部のマーカーの座標から経時的に矢状面でのICRを求めた.また,体幹及び前腕に局所座標系を定義し,その相対角を肩関節屈曲角とした.石田らにより,ICRは動作の始めと終わりで誤差が大きくなると報告されているため,屈曲角30°~120°までデータを採用した.屈曲角30°~60°を前期,60°~90°を中期,90°~120°を後期と相分けを行った.解析にあたりICRの散布図を作成した.【倫理的配慮、説明と同意】 計測を行うにあたり,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た後,計測を実施した.【結果】 健常者の各相のICRの散布図では,前期では後上方と前下方を結ぶ直線に,後期では前上方と後下方を結ぶ直線にICRが分布していた.脱臼既往者は,前期では健常者と変わらない結果となったが,中期,後期になるにつれてばらつきが大きくなり後期では一定の傾向は示されなかった.【考察】 脱臼既往者では健常者と比較すると肩関節屈曲角度が大きくなるにつれてICRのばらつきが大きくなり,後期では一定の傾向が示されない結果となった.三森らは動揺性肩関節の上肢挙上動作時の肩関節瞬間回転中心を測定し軸斜位像の60°以上ではばらつきが大きく一定の傾向を示さないことを報告し,この理由の一つとして関節包の弛緩を挙げている.また,反復性肩関節脱臼の原因として多くのものがあげられているが,現在では関節包の弛緩,臼蓋前下縁の損傷,骨頭後上方の骨欠損が最重要なものと考えられていて,本研究の脱臼既往者は3度の前方脱臼を経験しており,関節包の弛緩が生じていると推測される.そのため,動揺性肩関節と同様の動態が起きていることが考えられ三森らの結果と類似したものと思われる.また,正常肩関節では上肢挙上に伴い肩関節内圧の上昇が生じ不安定性が増加するため,関節安定化機構は腱板筋など筋活動によって補われる.一方,脱臼既往者では関節包の弛緩が生じており,関節内圧は高い状態であると報告されており,これに加え,腱板筋機能の低下が生じていることが推測され上肢挙上に伴い生じる関節内圧の上昇を腱板筋にて補えていないことが考えられる.これらが原因で脱臼既往者では,肩関節屈曲角度が増加するにつれてICRのばらつきが大きくなったと考えられる。 【理学療法学研究としての意義】 本研究は三次元動作解析装置にて計測を行うことでリアルタイムでのICRの計測が可能なため,肩関節の動態解析に非常に有用であると考える.今回,肩関節屈曲動作時では脱臼既往者では健常者とは異なった動態が生じていることが示された.脱臼既往者では関節包の弛緩や腱板筋機能の低下により肩関節屈曲時の瞬間回転中心はばらつきが大きくなることが確認できた.この状態で動作を繰りかえすとメカニカルストレスが生じ二次的障害が起こることが推測される.今後は,脱臼既往者の被験者数を増やし,筋機能を含めた測定を行い,さらに詳細な動態の検証が求められる.
  • 岩城 大介, 出家 正隆, 折田 直哉, 島田 昇, 細 貴幸
    p. Ab1083
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 一般に若い女性は,ファッション性のためハイヒールを履くことが多い.しかし,ハイヒール歩行は荷重中心軌跡の内側偏位,立脚中期での接触面積の減少などの影響があるとされ,このことからハイヒール歩行は非常に不安定であると考えられる.また,近年運動連鎖の観点から一関節の変化による他関節への影響が重要視されている.ハイヒール歩行は足関節の底屈強制により歩行周期を通して底屈位となるため,足関節の剛性が低下した不安定な状態で初期接地を行わなければならない.運動連鎖から考えてこの足関節での変化は,膝関節,股関節の運動へ影響していると考えられる.そのため本研究では,これらのハイヒール着用による足関節の変化が膝関節・股関節に及ぼす影響について検討した.【方法】 対象は健常若年女性8名(年齢22±0.63歳,身長161.1±3.8cm,体重50.3±3.9kg,)の左下肢4肢,右下肢4肢とした.測定には三次元動作解析装置(赤外線カメラ7台,VICON612:Vicon Motion System社,USA)と床反力計4枚(AMTI社,USA)を使用し赤外線カメラはサンプリング周波数120Hzにて,床反力計はサンプリング周波数500Hzにて赤外線カメラと床反力計を同期し,赤外線反射マーカーの動きと床反力を記録した. マーカー貼付位置はPoint Cluster法を参考に,直径14mmの赤外線反射マーカーを骨盤に6 個・下肢に23個,計29個のマーカーを貼付した.測定条件は10mの直線歩行を至適速度で行い,運動靴着用時とハイヒール着用時で5試行ずつ行った.なお,測定順序はランダムとした.また,ハイヒールは5cm高のものを使用した. 得られたデータはVicon Workstation(Vicon Mortion System社,USA),Vicon Bodybuilder(Vicon Mortion Systems 社,USA)を用いて処理した.Point Cluster法を用いて膝関節屈曲角度,内反角度,脛骨回旋角度,脛骨前方移動量を出力し,その後体節基準点の位置座標を用いて,股・足関節中心を算出し股関節角度,足関節角度を算出した.またPoint Cluster法によるデータは,すべて大腿骨に対する脛骨の相対運動として示した. 有意差検定は対応のあるt検定を用い,有意水準5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 実験に先立ち対象に本研究の目的と主旨を十分説明し,文章および口頭による同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 運動靴歩行と比較してハイヒール歩行では,歩行周期を通して足関節底屈角度の増加,立脚終期・遊脚初期~中期での膝関節屈曲角度の減少,立脚初期・中期・遊脚終期での膝関節内反角度の増加がみられた.脛骨回旋角度,脛骨前方移動量,股関節屈曲角度で有意差はみられなかった.【考察】 まず,歩行周期全体を通して足関節底屈角度の増加がみられたことは,ハイヒールによる底屈強制が働いていることを証明している.また,立脚期の終わりから遊脚中期にかけて膝関節屈曲角度が減少したのは,ハイヒール歩行では足関節底屈強制のため立脚後期で前上方への十分な推進力が得られず,足部が床面の近くを通ることで膝関節屈曲角度が減少したのではないかと考えられる.立脚初期・中期・遊脚終期での内反角度の増加に関しては,ハイヒール歩行では踵接地から前足底接地にかけて,足関節内反から外反へ向かう運動を行う時間を稼ぐことができず,脛骨を直立化させる運動連鎖を起こすことができないため,内反角度が増加したのではないかと考えられる.この立脚期における内反角度の増加は膝関節内側のストレスを上昇させ変形性膝関節症のリスクとなるかもしれない. 今回股関節ではハイヒール着用による影響はみられなかった.これは,股関節が膝関節に比べてより体幹近位にあるため,足関節の変化による影響は膝関節で代償したためと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 近年,女性の社会進出に伴いハイヒール着用の機会は増えてきている.ハイヒール歩行による運動学的変化は日常習慣性,反復性に軽微なストレスを蓄積し膝やその他の関節に筋骨格系の障害を及ぼすかもしれない.ハイヒール歩行の運動学的変化を知ることは生活指導や運動連鎖の観点からも重要であると考えられる.
  • ─CKCとOKCの環境下での比較─
    柊 幸伸
    p. Ab1084
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 膝関節屈伸運動時の伸展最終域近くの大腿骨に対する脛骨の回旋運動は、終末強制回旋運動として知られている。また、スポーツリハビリテーションの分野では、前十字靱帯等の靱帯損傷のメカニズムで膝関節伸展時の下腿の内旋が重要視されている。これらの運動はわずかな運動角度であり、またその運動時間も短く、観察による分析では客観的に捉えにくい。三次元動作解析装置等を用いれば、その運動を数値として計測することは可能であるが、臨床環境で頻繁に応用することは難しい。近年、センサ技術の進化とその小型化により、加速度センサと角速度センサを同一筐体に組み込んだ「モーションセンサ」が市販されるようになった。その精度も動作分析への応用に十分なものとなり、わずかな動きを客観的に捉えることが可能となった。下肢関節の運動には、閉鎖性運動連鎖(CKC)の環境と、開放性運動連鎖(OKC)の環境がある。どちらの環境下での運動もADL上使用する動作である。センサ技術を応用し、これら環境下での膝関節伸展時の下腿内外旋運動を計測することは、膝関節障害の評価と障害予防に有益であると考えた。本研究の目的は、小型センサを用いてCKCとOKCの異なる環境下での膝関節伸展時の大腿と下腿の相対的な動きを計測し、それぞれの運動の特徴と膝関節にかかる回旋ストレスを分析する手法を提示することとした。【方法】 被験者は健常成人男女10名(男性5名、女性5名)とした。モーションセンサには加速度センサと角速度センサを内蔵した無線モーションセンサ(MPV-RF8-AC, microstone(株))を2セット使用した。被験者の大腿遠位部外側と下腿腓骨小頭直下にそれぞれ固定した。計測する動作は、(1) 膝関節を90度屈曲した椅座位から完全直立位までの立ち上がり動作、(2) 椅坐位で90度屈曲した膝関節を伸展する動作の2種類とした。下腿のセンサが計測した3軸方向の角速度の値より大腿のセンサが計測した角速度の値を減算し、大腿部に対する相対的な下腿部の運動角速度を算出した。さらに、それらの角速度を積分し、下腿の相対的運動角度を経時的に算出した。CKCとOKCの条件による各運動方向の角度変化の比較は、対応のあるt検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には下肢関節および筋に整形外科的疾患を有さないことを聴取により確認したのち、研究の目的と内容を十分に説明し、研究参加への同意を得た。【結果】 CKC環境下での立ち上がり動作中、下腿の内外旋最大角度は、内旋20.22±12.93度、外旋1.17±1.41度であった。OKC環境下での膝伸展動作中、下腿の内外旋最大角度は、内旋1.33±2.35度、外旋12.03±9.22度であった。内旋最大角度はCKC環境下で有意に大きく、外旋最大角度はOKC環境下で有意に大きい値を示した。大腿に対する下腿の内外反は、CKC環境下の内反1.83±3.08度、外反25.73±14.64度、OKC環境下の内反4.19±9.56度、外反24.30±13.83度であり、両者の間に有意な差は認めなかった。伸展角度はCKC環境下で有意に大きかった。【考察】 本実験によるCKC環境下では、膝関節伸展運動に伴って下腿は大腿に対し内旋方向に運動し、終末の外旋運動は認めなかった。OKC環境下では膝関節伸展に伴って外旋運動が認められ、いわゆる終末に特化した外旋運動は認めなかった。それぞれの環境下での膝関節伸展運動に伴う下腿内外旋運動には、その運動の大きさ(角度)には個人差があるものの、CKC環境下では内旋方向、OKC環境下では外旋方向に運動するものと考えた。それらは、足部の影響や、膝関節より上部のセグメントの位置関係、運動方向の影響を受けるものと考えた。膝関節周囲のスポーツ障害で重要な前十字靱帯はじめ膝関節周囲の靱帯は、下腿内旋位でより緊張する。外部からの外力の影響のない立ち上がり動作でも下腿は内旋運動を呈することより、外力の影響を受ける可能性のあるスポーツ現場では、この自然な内旋運動の上にさらに内旋外力を受け、障害にいたる可能性を考慮する必要があると考えた。【理学療法学研究としての意義】 本研究で用いたセンサは小型、軽量で動作制限がほとんど無く、無線計測も可能なものであった。費用面でも十分に臨床応用可能なものであった。理学療法分野でもEBMが重要視される中、小型センサは動作分析の客観的計測機器として応用可能なものと考えた。より普及させるために、ハード、ソフト両面から更なる基礎研究が必要である。
  • 箱守 正樹, 佐久間 亨, 山本 泰三, 新谷 周三, 石原 正一郎
    p. Ab1085
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 パーキンソン病患者の歩行効率は主に,単位距離当たりの酸素摂取量や,歩行速度と酸素摂取量の比率であるエネルギーの経済性から評価され,健常成人や健常高齢者と比較し,エネルギーの経済性が低いと報告されている(安藤1998,Christiansen2009).パーキンソン病患者の歩行効率を,下肢筋群より出力された力学的エネルギーから検討し,エネルギーの有効性を評価したものは少ない.本研究では下肢関節の力学的仕事や力学的エネルギー利用の有効性指数(Effectiveness index of mechanical energy utilization.以下EI)(阿江と藤井1996)などのバイオメカニクス的観点から,パーキンソン病患者と健常高齢者の歩行動作を比較検討した.【方法】 対象はパーキンソン病患者(以下PD群)6名と健常高齢者(以下健常群)10名とした.PD群の平均年齢は71±6.8歳,健常群の平均年齢は70±8.3歳であった.PD群はHoehn and Yahr StageIが3名,IIが3名で,Unified Parkinson’s Disease Scale(partIII)は平均6.6±2.2点であった.歩行計測は5台のカメラで構成される光学式3次元自動動作解析装置VICON(Oxford Metrics社製)と,2台のフォースプレート(米国AMTI社製)を用いた.歩行は被験者の体表に15個の反射マーカーを貼布し,歩行路を快適歩行(以下快歩)と速歩の2つの歩行速度でそれぞれ2回行った.サンプリング周波数100Hzで記録し,分析範囲は1歩行周期とした.得られたデータをDIFF形式に変換し,歩行速度,歩幅,ケイデンス,EI,1歩行周期の下肢関節の絶対仕事(股関節,膝関節,足関節),快歩から速歩への絶対仕事増加率を求めた.EIは,身体重心の進行方向運動エネルギーと両下肢関節全体の絶対仕事との比から求めた. EIが高いほど下肢筋群による力学的仕事が歩行速度に有効に変換されたことを示す.絶対仕事は,各関節の正負の関節トルクパワーを絶対値として,1歩行周期間で積分することで決めた.統計処理はPD群,健常群で対応のないt検定で比較し,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はJAとりで総合医療センター倫理委員会の承認を得た後,被験者に同意を得て行った.【結果】 EIはPD群(快歩0.25±0.05,速歩0.4±0.05)と健常群(快歩0.27±0.04,速歩0.36±0.06)では差がなかった.歩行速度は快歩でPD群(0.94±0.15m/s)が健常群(1.07±0.12m/s)に比べ遅く,速歩では差がなかった.歩幅は快歩にてPD群(0.33±0.02 m/height)が健常群(0.36±0.03m/height)に比べて小さかった.ケイデンスは快歩で差がなく,速歩でPD群(151.25±13.49 steps/min)が健常群(134.42±10.85steps/min)に比べて大きかった.絶対仕事は,快歩,速歩とも股関節では差がなかった.膝関節は速歩で,PD群(0.98±0.19 J/kg)が健常群(0.84±0.15J/kg)に比べて大きかった.足関節は快歩,速歩ともPD群(快歩0.81±0.17 J/kg、速歩0.88±0.19 J/kg)が健常群(快歩0.98±0.20 J/kg,速歩1.04±0.21 J/kg)に比べ小さかった.快歩から速歩への絶対仕事の増加率は膝関節で,PD群(2.20±0.73 倍)が健常群(1.55±0.27 倍)に比べ大きかった.【考察】 PD群の歩行速度の低下,歩幅の減少,ケイデンスの増加は,Morris(1995)らの先行研究と同一の結果であった.EIにおいては健常群とPD群に差がなく,YahrI,IIのPD群は健常群と同等の力学的エネルギーで歩行速度を維持していたことが示唆された.PD群は健常群に比べ,速歩での膝関節絶対仕事と快歩から速歩への膝関節絶対仕事の増加率が大きく,快歩および速歩での足関節絶対仕事が減少しており,歩行における各関節の貢献度に違いがあった.YahrI,IIのPD患者の膝関節絶対仕事の増加は,足関節絶対仕事の減少の代償と考えられ,貢献度の変化に対応した運動療法を検討する必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 PD患者の歩行効率の低下については,酸素摂取量などの生理学的指標に,力学的仕事やEIなどのバイオメカニクス的指標を組み合わせることでより詳細に評価できると考える.
  • 村松 正文, 臼井 友一, 鈴木 壽彦, 木下 一雄, 伊東 知佳, 保木本 崇弘, 田中 真希, 姉崎 由佳, 桂田 功一, 辰濃 尚, ...
    p. Ab1086
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 松葉杖を用いた片側下肢免荷の段差昇降動作における健側下肢の遊脚期は、松葉杖のみで身体を支持しているため最も不安定な期間である。遊脚期に重心の動揺が増大することは、転倒、転落のリスクを高めるものと考える。この研究の目的は、両側松葉杖を用いた片側下肢免荷の段差昇降動作における遊脚期の体幹の動揺を分析することである。また、得られた知見に基づき患者に対して重心の動揺が少なく、安定した段差昇降動作指導の一助とすることである。【方法】 対象は、健常成人20名である。この20名は、験者の主観的評価によって免荷歩行の熟達者10名A群(男性5名、女性5名、平均年齢27.8±5.0歳、非免荷肢は右5名、左5名)と免荷歩行の未熟者10名B群(男性3名、女性7名、平均年齢31.5±10.5歳、非免荷肢は右7名、左3名)に分類した。方法は、抽選によって非免荷肢を決定し、非免荷側の肩峰と大転子にランドマークを貼付した。次に片側免荷による20cmの段差昇降を2回ずつ行った。この時、非免荷肢側からデジタルカメラにより動画を撮影した。撮影した動画は、PCに取り込み二次元動作解析ソフト(モーション・アドバイザー、アシックス社製)を用いて分析した。データの分析は、1)遊脚期の所要時間の算出:昇段及び降段動作における足尖離地から踵接地までの経過時間を計測し、2回の動作の平均値を遊脚期の所要時間として求めた。2)体幹角度の変化量の算出:昇段及び降段動作における足尖離地時の体幹傾斜角度から踵接地時の傾斜角度を減じた値の絶対値を算出し、2回の動作の平均値を体幹角度の変化量として求めた。なお、本研究では便宜的に肩峰と大転子を結ぶ線を体幹と定義した。3)体幹の角速度の算出:体幹角度の変化量を遊脚期の所要時間で除した値を算出し、2回の動作の平均値を体幹の角速度として求めた。4)統計学的解析:昇段時の所要時間、降段時の所要時間、昇段時の体幹の角度変化量、降段時の体幹の角度変化量、昇段時の体幹の角速度、降段時の体幹の角速度について、それぞれA群とB群の間における平均値の差を対応のないt-検定によって分析した。【説明と同意】 本研究は、当大学倫理委員会の審査を受けて承認を得た。また、参加者に対しては、同意説明書を提示して十分な説明を行ったうえで書面にて同意を得た。【結果】 昇段動作における所要時間は、A群0.7±0.3秒、B群0.7±0.1秒であり有意差が認められなかった。降段動作時の所要時間は、A群0.7±0.2秒、B群0.7±0.2秒であり有意差が認められなかった。昇段動作における体幹角度の変化量は、A群4.1±2.4°、B群14.0±4.2°であり有意差が認められた(p<0.01)。降段動作時の体幹角度の変化量は、A群3.1±1.8°、B群19.3±8.1°であり有意差が認められた(p<0.01)。昇段動作における体幹の角速度は、A群5.6±3.3°/秒、B群19.7±6.6°/秒であり有意差が認められた(p<0.01)。降段動作時の体幹の角速度は、A群5.4±2.8°/秒、B群29.7±8.3°/秒であり有意差が認められた(p<0.01)。【考察】 今回の結果では、段差昇降動作における遊脚期の所要時間に両群間で差がみられなかった。しかし、体幹の角度変化量と角速度については、B群においてA群よりも大きな値を示した。B群のように免荷歩行の未熟な者は、遊脚期という限られた時間内に大きな体幹の動揺を生じており、角速度を増大させる。その結果、段差昇降動作の安定性を低下させ、転倒、転落のリスクを高めるものと考える。B群における角度変化量と角速度の結果を具体的な運動に換言すると、昇段動作では離地から接地へ進行するにつれて体幹は前屈方向へ移行していた。降段動作では体幹が後屈方向へと運動していた。松葉杖を用いた片側下肢免荷における段差昇降の具体的な指導においては、次のことに留意すべきであると考える。昇段動作では、まず、体幹を移動させずに非免荷肢のみを上段へ移動させ、非免荷肢が接地してから体幹を前上方へ移動させる。降段動作では、非免荷肢が上段に接地して安定している期間に、非免荷肢を十分に屈曲させて体幹を前下方へ移動させる。その後、非免荷肢のみを下段に移動させる。上述の通り、不安定な遊脚期には体幹の動揺を最小限に抑えるよう指導することが肝要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究の実施に際して前提としたことは、臨床で直面する日常的な課題をできる限り簡便な方法を用いて検証し、直ちに活用できるようにすることであった。
  • 吉住 浩平, 多々良 大輔, 野崎 壮, 原田 伸哉, 中元寺 聡, 松田 憲亮
    p. Ab1087
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 片脚立位動作は立位バランスや歩行の立脚中期の簡便な評価の1つである。一般に片脚立位の前額面における安定性については股関節外転筋群が主要な役割を果たし、足関節においては長・短腓骨筋や後脛骨筋などの協調的な筋活動が求められる。このため、片脚立位動作は腰部骨盤帯・股関節および足関節・足部の機能評価の1つとしても用いられることが多く、片脚立位動作と機能評価に関する研究報告は多数みられる。臨床において片脚立位の際に足圧の著明な内・外側変位を呈するものでは股関節外転筋力が足関節の肢位によって変化することを多く経験するが、股関節外転筋力と足関節肢位に関する報告は認められない。本研究の目的は片脚立位時の足圧分布特性と足関節の肢位が股関節外転筋力に影響を与えるか否かを明らかにすることである。【方法】 対象は男性15名(平均年齢21.2±0.4歳、平均身長173.4±6.3cm、平均体重64.1±7.1kg)である。対象者には神経学的、整形外科的疾患を有するものは含まれていない。解析対象は片脚立位時の足圧分布と股関節外転筋力である。片脚立位時の足圧分布は足圧分布測定装置Win-Pod(Medicapteurs社製)上にて5秒間の片脚立位保持を行うことで測定した。その際、計測肢の足部長軸の中央である第2趾と踵骨中央の結線がセンサープレート中央と一致するようにし、前方を注視した状態で行った。計測結果より足圧内側分布群(9名、以下 内側群)と足圧外側分布群(6名、以下 外側群)に群分けした。サンプリング周波数は10Hzとした。股関節外転筋力の測定はマイクロFet2(HOGGAN Health Industries社製)を用いた。測定肢位は背臥位であり、ベルトを用いて骨盤をベッドに固定し、マイクロFet2を膝関節裂隙直上の大腿外側面に一致させ、柱に固体した。運動課題は股関節内外転および内外旋中間位での股関節外転の等尺性運動である。測定条件は足関節肢位により内反位、外反位、中間位の3条件とし、被験者ごとにランダムに行った。各条件ともに3回測定し、中間位での股関節外転筋力を100%とし、内反位と外反位での股関節外転筋力の割合を算出した。統計処理は内側群および外側群内において内反位と外反位での股関節外転筋力をt検定およびウィルコクソン符号付順位和検定を用いて比較した。有意水準はそれぞれ5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨にのっとり、本研究の趣旨を事前に書面・口頭にて説明し、書面にて同意を得た。【結果】 内側群においては外反位での外転筋力は99.1±7.5%、内反位での外転筋力は71.7±9.0%と外反位での外転筋力が有意に高値を示した。外側群においては外反位での外転筋力は62.6±9.6%、内反位での外転筋力は91.7±10.1と内反位での外転筋力が有意に高値を示した。【考察】 今回の結果より、足関節肢位によって股関節外転筋力が増減すること、片脚立位での足圧分布特性によって股関節外転筋力に与える影響が異なることが明らかとなった。片脚立位動作は多数の筋・関節が参加するため、高い協調性が求められる動作である。このため活動する筋群の組み合わせや活動のタイミングおよび程度が適切に調節される必要がある。片脚立位は足底面内に重心の投影点を保持することが求められるが、足関節周囲筋群の筋活動と荷重の関係に関して、Seibelらは長腓骨筋は足部の外側を引き上げることで荷重を外側から内側へ移動させる機能を有すると述べている。今回の結果では、片脚立位時に足圧分布が内側に優位な群に関しては長腓骨筋の筋活動が高まった状態であり、長・短腓骨筋と股関節外転筋群の組み合わせで前額面での安定性を高めていると考えられる。このため、内側分布群では足関節外反筋群が収縮した状態での股関節外転筋力が高値を示し、内反筋群が収縮した状態での股関節外転筋力が低値を示したものと考える。反対に外側群に関しては後脛骨筋の筋活動がより高まった状態で前額面での安定性を高めていると考えられ、足関節内反筋群が収縮した状態での股関節外転筋力が高値を、外反筋群が収縮した状態での股関節外転筋力が低値を示したものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 片脚立位動作は身体各部位の機能評価のみならず立位バランスおよび歩行などの評価方法として用いられることが多い。臨床において多関節の関係性のなかで動作遂行能力が低下している症例が多く、そのような症例に関しては単関節ではなく、多関節間の協調性を改善するような介入の重要性が今回の研究によって示唆されたと考える。
  • 田中 智之, 早間 幸恵, 贄田 裕太
    p. Ab1088
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 患者を中心としたチーム医療の中で、理学療法(以下、PT)は患者のADLに直結する大きな役割を担っている。脊椎圧迫骨折は、加齢とともに発生率は上昇し、歩行やADL・QOL低下、疼痛発生の要因となる事は少なくない。臨床では、退院までの支援が円滑にいく場合とそうでない場合があり、しばしば入院日数が長期化する症例を経験する。今回、脊椎圧迫骨折患者の入院日数に影響する要因とPT施行による効果について検討し、PT施行の重要性について知見を得たので報告する。【方法】 2007年1月から2010年12月に脊椎圧迫骨折と診断され、当院に入院し保存療法とPTを施行した患者のカルテ情報の中から無作為に抽出した57例を対象とした。入院日数に影響する要因について、年齢、性別、既往歴の有無、世帯構成、受傷機転、入退院時歩行レベル、入退院時トイレ動作レベル、歩行自立までの日数、退院先とした。既往歴については骨折、脳卒中、リウマチ、心疾患、その他に分類した。世帯構成については独居、2人暮らし、3人以上に分類した。受傷機転については高エネルギー外傷、転倒、エピソードなしに分類した。歩行レベルについては独歩、杖、シルバーカーに分類した。分析方法は、ピアソンの相関係数の検定、t検定を用い有意水準5%未満とした。男女比は男性11例(19.3%)、女性46例(80.7%)であった。平均年齢は76.8±8.6歳(男性77.8歳、女性76.5歳)。世帯構成は独居6人、2人暮らし26人、3人以上25人。平均入院日数23.1±18.5日。平均歩行開始日数4.2±5.0日。平均歩行自立日数9.9±12.1日。入院前歩行レベルは独歩39人、杖15人、シルバーカー3人。退院時歩行レベルは独歩30人、杖22人、シルバーカー5人。認知症者は8人。骨折レベルはTh12が14人、L1が12人、多発骨折が7人、その他24人であった。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、当院臨床倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】 入院日数と各項目の比較では、年齢、性別、世帯構成、認知症、骨折レベル、受傷機転、入院前歩行レベル、退院時トイレ動作レベルの間に相関はなかった。歩行自立までの日数と入院日数(r=0.80)の間に相関関係が認められた。また、全例が退院時自立歩行可能で自宅退院となった。退院時歩行レベルは79%が入院前と同等の歩行レベルとなった。【考察】 本研究では、年齢や性別、世帯構成、受傷機転が入院日数を伸ばす要因とはなり得ない結果となった。また、全例が自立歩行可能で自宅退院となった。このことから、脊椎圧迫骨折患者の転機は比較的良好である事が分かった。歩行自立までの日数が入院日数に影響していた。一般的に早期離床が入院日数の短縮に繋がるという報告もあり、脊椎圧迫骨折においても同様の事が言える。しかし、一方では年齢や既往歴、世帯構成が入院日数の長期化の要因になるといった報告もある。当院では、入院後1日以内で体幹ギブス固定し、同日から起居動作や起立・歩行練習を開始している。脊椎圧迫骨折患者が疼痛を訴える場面の多くは、起居動作や座位保持、起立動作時である。体幹ギブス固定をする事で疼痛を抑制し、早期離床が可能となり、筋力や歩行レベル低下を防ぎ、結果入院日数の短縮に繋がるものと考える。このことから、早期体幹ギブス固定とPT開始が、体幹筋の筋力低下を予防し、椎体圧潰の進行を防ぐ意味でも重要であると考える。また、既往歴の有無が入院日数を左右するのではなく、併存疾患の重症度がPT施行の阻害因子となり、早期離床や歩行自立の妨げになっているのではないかと考える。また、病棟で歩行が自立していても、退院後の生活に不安があり入院が長期化している例も少なくない。当院では入院直後から医師、看護師、医療相談員(以下、MSW)、ケアマネジャー、理学療法士が連携し協議を重ねている。退院後の生活について提案する事や介護保険サービスの説明を早期から行う事で、患者や家族が退院を受け入れ易い環境を創る事が重要であると考える。このことが、世帯構成の違いが入院日数に影響を及ぼさなかった要因の一つであると考える。今後は、疼痛との関連や他疾患の入院日数に影響する因子についても検証を重ねていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、PT施行と社会資源の利用を含めた退院後の具体的な生活指導を入院後早期から行う事と、医師や看護師、MSW、ケアマネジャーと密接な連携を持つ事で独居者や超高齢者など「一般的に入院を長期化させる要因と言われている状況」の患者であっても入院を長期化させる事が少なくなる。また、DPC導入による定額支払い制度においても大きな減算を生ずる事なく適切な入院治療の提供に繋がっていると言える。
  • 大森 圭貢, 熊切 博美, 小野 順也, 立石 真純, 笠原 酉介, 武市 梨絵, 横山 有里, 岩崎 さやか, 多田 実加, 最上谷 拓磨 ...
    p. Ab1089
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 両側松葉杖での一側下肢完全免荷歩行(以下,松葉杖免荷歩行)は,下肢の免荷を必要とする際の有効な移動手段であるが、その獲得に難渋することは少なくない.松葉杖免荷歩行には,肩甲帯下制筋,肘伸展筋,肩内転筋,手指屈筋などの筋が関与し,それぞれ徒手筋力検査法でgood以上の筋力が必要とされている.しかし,徒手筋力検査法による筋力評価は客観性が低いことが指摘されており,臨床での指標としては不十分な面がある.松葉杖免荷歩行の獲得に必要な上肢筋力を客観的な尺度で明らかにすることができれば,トレーニング内容や期間などを考える際の有用な情報になると考えられる.本研究の目的は,松葉杖免荷歩行獲得の可否と等尺性上肢筋力の関連を検討し,松葉杖免荷歩行獲得に必要な上肢筋力を明らかにすることである.【方法】 対象者は松葉杖免荷歩行練習の指示があった者のうち,20歳以上,上肢に骨関節疾患の既往がない,評価に必要な指示に従える,研究に同意が得られる,の全ての条件を満たす者とした.前向きコホートデザインを用い,年齢,身長,Body Mass Index,性別,松葉杖歩行の経験,松葉杖免荷歩行獲得の可否,上下肢筋力を評価,測定した.松葉杖免荷歩行が可能か否かは,200m以上の安全な歩行の可否で判断した.理学療法開始日から毎回の実施日に3名の理学療法士が確認し,2名以上が一致した評価を採用した.そして理学療法開始日に歩行可能な者を歩行自立群,理学療法開始から1週間以内に歩行可能になった者を獲得群,歩行可能にならなかった者を不獲得群に分類した.理学療法開始日に,握力,肘伸展筋力,肩伸展筋力,肩内転筋力,肩甲帯下制筋力,膝伸展筋力を測定した.測定には,油圧式握力計と徒手筋力計を用い,上肢筋力は左右それぞれの最大値の平均,膝伸展筋力は非免荷側の最大値を求め,それぞれ体重比を算出した.松葉杖免荷歩行と上下肢筋力の評価は,それぞれ異なる理学療法士が行い,さらにお互いに得られた結果を伏せるようにし,測定者バイアスを排除した.分析は,松葉杖免荷歩行獲得に関連する変数を検討するために,獲得群と不獲得群間の各変数をχ2乗検定とMann-WhitneyのU検定で比較した.次に有意差のあった筋力の変数が,獲得群と不獲得群を判別できるかをReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線の曲線下面積から検討した.統計的有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院臨床試験委員会の承認を受け(受付番号第244号),対象者には十分な説明を行い,書面による同意を得て実施した.【結果】 対象者32名のうち,歩行自立群13名を除いた19名を分析対象とした.単変量解析の結果,獲得群(6名)/不獲得群(13名)の中央値は,身長168.5/161.0(cm),握力0.64/0.46(kgf/kg),肘伸展筋力0.24/0.19(kgf/kg),肩伸展筋力0.14/0.11(kgf/kg),肩内転筋力0.21/0.13(kgf/kg)であり,いずれも獲得群の方が有意に高値であった.その他の変数は,いずれも有意差がなかった.ROC曲線の曲線下面積は握力が0.95であり,獲得群を判別できる有意な指標であった.さらに握力0.57kgf/kgでは,感度83%,偽陽性度8%の精度で獲得群を判別できた.同様に肘伸展,肩伸展,肩内転のそれぞれの筋力の曲線下面積は,順に0.87,0.85,0.89であり,それぞれの筋力(kgf/kg)が,0.23,0.13,0.17では,感度80%以上,偽陽性度25%以下で獲得群を判別できた.【考察】 理学療法開始日に松葉杖免荷歩行が可能な者は半数以下であり,1週間の訓練後にも松葉杖免荷歩行獲得が困難な者が少なくなかった.獲得群と不獲得群間では身長,握力,肘伸展筋力,肩伸展筋力,肩内転筋力で有意差があったことから,理学療法開始1週程度の間に松葉杖免荷歩行を獲得できるか否かには,これらの因子が関連すると考えられた.さらに握力0.57 kgf/kg,肘伸展筋力0.23 kgf/kg,肩伸展筋力0.13 kgf/kg,肩内転筋力0.17 kgf/kgでは,それぞれ高い精度で獲得群を判別できたことから,これらの上肢筋力を上回った者では,1週間程度の理学療法によって松葉杖免荷歩行獲得が見込まれると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 松葉杖免荷歩行の獲得が容易ではないこと,そして歩行ができない者が1週間内に獲得できるか否かを理学療法開始時の評価によって予測できる可能性を示した研究であり,理学療法評価及び予後予測において有用である.
  • ─虚弱高齢者と脳卒中片麻痺患者における比較─
    中江 秀幸, 相馬 正之, 坂上 尚穂, 山崎 健太郎, 武田 賢二
    p. Ab1090
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 介護保険制度の在宅サービスであるディサービスやディケア利用者に対する身体機能維持のための介入は重要であり、歩行能力や身体活動量の維持や向上がその目標となる。身体活動量の向上には身体機能的限界や動作遂行時の安全性・快適性の限界を向上させる、あるいは身体機能や動作遂行の安全性・快適性に合った身体活動量に近づける方法が考えられる。そこで今回、身体機能の指標を最大歩行速度、至適歩行速度、歩行効率とし、身体活動能力との関連性について虚弱高齢者と脳卒中片麻痺患者を比較し、その特性について検討した。【方法】 ディサービス利用中の虚弱高齢者(以下、虚弱高齢群)15名と、ディケア利用中の脳卒中片麻痺患者(以下、片麻痺群)15名の計30名を対象とした。虚弱高齢群は年齢83.3±4.8歳、片麻痺群は年齢69.1±7.0歳、発症からの期間は35.4±22.5ヶ月、下肢Br stage3が8名、stage4が6名、stage5が1名であった。なお、両群ともに要支援1から要介護3の認定者であった。杖や装具の使用は問わず3分間以上の連続歩行が可能な者で測定に支障を来たす骨関節疾患や循環器疾患を有する者は除外した。10m最大歩行速度(10m最大;m/min)、10m至適歩行速度(10m至適;m/min)、至適速度で3分間歩行した歩行速度(3min至適;m/min)、Physiological Cost Index(PCI値;beats/m)を求めて歩行能力の指標とした。なお、杖や装具使用は通常の歩行形態とした。身体活動能力の指標に機能的自立度評価(FIM;点)、運動強度別に遂行時間を問う国際標準化身体活動質問表short versionによる消費カロリー(IPAQ;kcal)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言を尊重するように企画し、研究内容および公表の有無と形式について書面にて同意を得た上で進めた。また、研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明し、分析は統計的に処理し、個人が特定されないように配慮した。【結果】 測定結果は(虚弱高齢群/片麻痺群)、10m最大63.7±13.1/35.9±6.6m/min、10m至適46.8±7.3/28.4±6.3m/min、3min至適45.4±9.5/26.2±5.4m/min、PCI値0.37±0.24/0.57±0.21beats/m、FIM117.9±6.2/105.9±6.3点、IPAQ 15.5±2.7/16.6±1.8kcalであり、群間差異(non paired t-test) はIPAQ以外の変数間で有意差を認めた。3つの歩行速度変数は、変数間に相関関係を認め(pearson積率相関係数)、一元配置分散分析で有意差を認め、多重比較検定では10m至適と3min至適間以外に有意差を認めた(両群とも同様)。PCI値との関連性は、虚弱高齢群で10m最大、10m至適と相関関係を認めが、片麻痺群では認められなかった。身体活動能力の変数とは、片麻痺群のPCI 値とFIMのみ相関関係(r=-0.581,p<0.05)を認めた。【考察】 虚弱高齢群と片麻痺群の測定結果の比較から最大および至適歩行速度や歩行効率などの歩行能力、およびADL能力が片麻痺群よりも虚弱高齢群の方が高いが、身体活動量(IPAQ)には差がないことが示唆された。10mの短距離的な最大および至適歩行速度と3分間の至適歩行速度は、虚弱高齢群と片麻痺群ともに相関関係を認め、10m最大や10m至適が3分間の連続歩行時の速度を反映することが明らかとなった。PCI値と歩行速度変数との関連性から、虚弱高齢群では10mという短距離的な最大歩行速度や至適歩行速度が歩行効率も反映するが、片麻痺群では歩行速度と歩行効率の関連性が低いことが示された。また、PCI値は片麻痺群のFIMとのみ相関関係を認め、脳卒中患者において歩行効率とADL能力の関連性が示された。しかし、虚弱高齢者は歩行効率とADL能力との関連性はなく、身体活動量との関連性も低いことが示された。10m最大に対する10m至適の百分率を算出したところ、虚弱高齢群ではIPAQと、片麻痺群ではPCI値と相関関係を認めた。【理学療法学研究としての意義】 歩行の距離的、持久力的、効率的指標は重要であるが、評価するには利用者への身体的負担が大きい。10mの距離で測定できる最大や至適歩行速度変数の重要性、脳卒中片麻痺患者の歩行効率はADL能力と関連あるが、虚弱高齢者のADL能力や身体活動量は歩行の速度や効率性以外の要因が関わっている可能性について検討する資料となる。
  • 高橋 温子, 山路 雄彦
    p. Ab1091
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 大腿義足歩行における膝継手制御には、アライメント制御、立脚制御、随意制御があり、重要とされている。私たちは、第45回日本理学療法学術大会にて大腿切断者の断端の体性感覚が健側に比べ鋭敏であることを示し、膝継手制御に断端の体性感覚情報が活用されていると考えた。特にソケット内圧変化などを察知していると考えられるが、下肢切断者に対する体性感覚やソケット内圧変化についての報告は少ないのが現状である。そこで歩行時のソケット内圧変化、筋活動とともに、断端の体性感覚について調べ、膝継手制御との関係について検討した。【方法】 対象は28歳男性、片側大腿切断者1名(切断から14年経過、切断原因は骨肉腫、断端長11cm)。歩行時のソケット内圧変化、筋活動の計測では、対象者に適合させた計測用義足を作製し使用した。吸着式ソケット作製では、圧センサー(TEACひずみゲージTC-FSR 100N)を大腿前面(以下前面)、大腿後面(以下後面)に上部、下部の2ヶ所ずつ計4点に埋め込み、膝継手(LAPOC MO760)、足部(LAPOC J-FOOT)を組み立てた。次に筋電計の電極を患側大殿筋、中殿筋に取り付け、赤外線反射マーカを肩峰、大転子、膝継手、足部(2ヶ所)に取り付けた。筋電計(日本光電WEB-5000 600Hz)、三次元動作解析装置(アニマ社MA-6250 60Hz)を同期させ、任意の快適歩行を5回計測し、ソケット内圧(g)、筋活動(V)ともに歩行周期間で平均値を算出し代表値とした。歩行周期は患側のinitial contact(IC)、foot flat(FF)、mid stance(MS)、heel-off(HO)、push-off(PO)とした。体性感覚は振動覚と二点識別覚の検査を行った。振動覚では健側、患側の上前腸骨棘、坐骨結節の振動感知時間を3回計測し、検者との比率(%)を算出した。二点識別覚は圧センサー埋め込み部位と同部位で各3回計測し、それぞれ中央値を代表値とした。【倫理的配慮、説明と同意】 群馬大学大学院保健学研究科の臨床研究倫理審査委員会で承認を得て実施した。また本研究の主旨を書面にて対象者に説明し、同意書に署名を行った上で実施した。【結果】 ソケット内圧は、とくに後面・上部に圧がかかりやすく、後面・上部の圧はIC~FF168.37±94.69g、FF~MS593.38±339.35gであった。また他の部位においてもICからFF~MSにかけて増加しピークに達した。その後MS~POにかけて圧が減少する傾向がみられた。筋活動では、大殿筋IC~FF 0.351±0.486V、FF~MS0.526±0.575VとFF~MSにかけて増加し、ピークとなった。その後POにかけて活動が減少した。中殿筋では歩行周期間で大きな差はみられなかった。体性感覚検査の振動覚は、上前腸骨棘では健側、患側で差はみられなかった。坐骨結節では健側76.9%、患側100%であり患側の振動感知時間が長かった。二点識別覚は、前面では健側、患側間の差は大きくなく、上部と下部の差も小さかった。後面では、上部健側0.7cm、上部患側0.3cm。下部健側0.4cm、下部患側0.3cmであり、上部に比べ下部の二点識別覚閾値が低い傾向がみられた。また上部では健側に比べ患側の二点識別覚閾値が低い傾向がみられた。【考察】 ソケット内圧変化はFF~MSでピークとなり、さらに後面・上部が最も大きかった。また患側大殿筋の筋活動は、ソケット内圧変化と同様な変化を示した。立脚初期から中期にかけて大殿筋の活動が増加する要因として、立脚初期に股関節伸展モーメントが発生すること、さらにinitial contact直後の衝撃吸収に大腿四頭筋が活用できず、膝折れ制御のために股関節伸展が必要になることが考えられる。そのため随意制御を用いて断端をソケット後壁に押し付けていることから大腿後面の圧が高まったとともに、大殿筋の筋活動が増加したと考えられ、膝継手の安定性が得られるmid stanceまで活動したのではないかと考える。体性感覚では、坐骨結節の振動覚は、健側に比べ患側で23.1%増加しており、これは義足歩行時の荷重部が坐骨結節であることから健側に比べ振動覚閾値が低いと考えられ、また閾値が低いことにより坐骨への荷重量を検出していると考えられる。二点識別覚は、後面において患側の二点識別覚閾値が低い傾向がみられた。大腿部は歩行時常にソケットから圧が加わっており、感覚刺激が繰り返し入力されたことにより感覚機能が賦活されたものと考えられる。これらから大腿後面でソケット後壁への圧迫度合いを感知し、さらに坐骨結節で坐骨への荷重量を検出することで、膝継手制御を行っているのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 大腿義足歩行時の膝継手制御において、体性感覚情報が活用されていると考えられた。そのため切断術後の理学療法において、術直後から感覚入力を促すことも必要であると考える。またソケット内圧の評価が可能になれば、ソケットの形状の工夫やより快適な大腿義足歩行の獲得など、理学療法の発展の一助になると考える。
  • 高木 泰宏, 谷口 博, 小西 勇亮, 森岡 周
    p. Ab1092
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 リハビリテーションにおいて、荷重量の調整課題は多く用いられている。荷重量の調整課題は、教示方法やフィードバックを与えるタイミング、感覚モダリティが運動学習に与える影響などが検討されている。運動学習を促進する方法の一つとして、動作を繰り返し観察する方法があり、動作観察と観察した動作を組み合わせて治療することによって、運動パフォーマンスの向上を認めることが明らかとなっている(Eltert 2007)。しかし、荷重量を調整する課題では、動作観察を利用した治療方法は検討されていない。その上、動作観察において、どのような視覚提示の方法が、荷重調整の特性を再現しているかは明らかとなっていない。そこで、動作観察によって、荷重量の調整が再現できるかを明らかにするため、上肢において、圧情報を用いた視覚提示による動作観察後の荷重量の再現性を比較、検討した。【方法】 被験者は健常成人6名(男性5名、女性1名、平均年齢26.8、±3.7歳)とした。課題は、モニタにて映像を観察した後、その観察した映像の荷重量を再現することとした。観察する映像は、他者が高這い位の姿勢で上肢を透明の板に荷重する動作とした。そして、支持面の圧変化が視覚的に認識できるよう、手掌面の変化が見える透明の板側から、体重の10%、20%、30%荷重している3条件を撮影した。動作観察は、座位にて、あらかじめ撮影した映像を20秒間観察し、その後の荷重量再現時に下肢の荷重量をデジタル体重計にて測定した。再現時の姿勢は高這いにて、上肢を右側のみ机に接地し、体幹が地面と平行になるように机の高さを調整した。なお、観察、再現する条件の順序はランダムに提示し、一度も荷重量のフィードバックは与えなかった。統計学的処理に臨むにあたり、荷重量を正規化する目的で、被検者の体重を測定し、測定した下肢の荷重量から、右側手掌面荷重量を割り出し、手掌面荷重量の体重比を算出した。統計処理は、各観察条件後の再現した右側手掌面荷重量の体重比間で一元配置分散分析し、事後検定として、Bonferroniの多重比較検定を行った。【説明と同意】 本研究は、被検者に対して十分な説明に基づく同意を得て実施した。【結果】 各荷重観察の条件間の比較にて、10%荷重観察条件に対して30%荷重観察条件で、右側手掌面荷重量の体重比に有意な増加が認められた(p<0.05)。10%荷重観察条件に対しての20%荷重観察条件と、20%荷重観察条件に対しての30%荷重観察条件で、右側手掌面荷重量の体重比に有意な増加は認められなかった(p>0.05)【考察】 30%荷重観察後の再現と10%荷重観察後の再現での荷重割合に差が認められ、大きな荷重量の差があれば、動作観察にて荷重量の再現が可能であった。観察した映像の動作を再現するためには、視覚情報から他者の運動を自己の運動レパートリーと照らし合わせ、シミュレートする過程が必要となる(Calvo-merino 2005)。このことから、本実験で観察した圧情報を用いた動作の映像は、荷重調整のシミュレートを促すことが可能であったと考えられる。しかし、10%荷重と20%荷重、20%荷重と30%荷重といった細かい荷重量の差では、再現時に有意差を認めなかった。これは、先行研究の下肢の荷重調整においても、2/3荷重に比較して、1/3荷重は目標荷重量との誤差が大きく、下肢荷重訓練時と同様に細かな調整が難しい傾向にあった(渡邉 2007)。圧情報を用いた動作を観察するのみでも、荷重量の再現が可能であり、口頭指示などで部分荷重訓練を行う場合と同様の傾向を認めることが明らかとなった。これらのことから部分荷重指導時の一つの介入方法として、圧情報を用いた動作観察が利用できるのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より上肢において、視覚情報の観察から圧情報を通した荷重量を想起可能であることが明らかとなった。このことから、新しい荷重訓練の理学療法介入の基礎的な研究として意義があると考えられる。
  • 山口 泰輝, 永井 宏達, 森 周平, 西口 周, 梶原 由布, 薗田 拓也, 吉村 和也, 加山 博規, 行武 大毅, 寺井 芳, 山田 ...
    p. Ab1093
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 歩行においては進行方向の歩行路の確保、障害物の認識などの視覚情報の取得が必須である。これらに加えて対向者がある場合には、対向者との距離、スピード、回避するための避難路などの情報取得も同時に必要になる。情報取得後には視覚→認知→運動が連携し、回避動作を引き起こす。これまでに認知的負荷を与えた際の視線の変化、運動の変化は報告されているが、身体機能と視線の関係性を直接的に述べた報告は少ない。我々は運動機能情報が視覚情報獲得に対して何らかの影響を与えると想定して、本研究においては擬似下肢機能障害モデルによる身体機能の制約が、対向者の回避動作における歩行時の視線へ与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 健常若年男性9名(平均年齢19.8 ± 1.3歳、右利き、以下被験者)を対象とし、歩行路(幅2.8 m、長さ14 m)において、前方より向かってくる対向者を回避する際の視線行動をアイマークレコーダーを用いて計測した。歩行条件は通常歩行、右下肢に長下肢装具負荷歩行、右下肢を障害側と想定した松葉杖歩行の3条件とした。被験者には、いずれの条件においても歩行速度は約1.0m/sで行うように指示し、十分な練習後に実験を行った。また、回避の際は、対向者が被験者を回避することはなく、自身が回避するように説明し、実験中に歩行に困難を感じても、立ち止まることなく歩行を続けるように指示した。対向者の開始位置は被験者の歩行開始地点から5 m地点を先頭とし、9名の対向者を1.5 m毎に1人もしくは2人、6列に亘って配置した。なお、全ての被験者に対し対向者の配置は同じものとし、対向者の服装は統一した。全ての対向者は92回/分のメトロノームにより、歩行速度が約1.0 m/sとなるように十分に訓練を行った。被験者とすれ違う際に、ステップ動作による回避は認めず、体幹回旋による回避のみ許可した。その後、視線解析により、各試行において歩行時間に対する対向者を見ていた割合、床面を見ていた割合をそれぞれ算出した。測定は各条件を2回ずつ、計6試行実施した。統計解析は、歩行時間に対して対向者および床面を見ていた時間の割合を従属変数、歩行条件を要因とした反復測定一元配置分散分析を行った。また、有意差が得られたものに対してBonferroni補正による多重比較検定を行い、5%未満を統計学的有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に本研究の目的、内容を説明し、同意を得た。【結果】 歩行時間に対して対向者を見ていた時間の割合の平均は、通常歩行で53.4 ± 8.5%、長下肢装具歩行で40.9 ± 9.6%、松葉杖歩行で19.7 ± 6.6%であり、各条件間に有意差が認められた(p < 0.001)。また、床を見ていた時間の割合は通常歩行で21.2 ± 3.9%、長下肢装具歩行で46.6 ± 9.8%、松葉杖歩行で71.3 ± 6.3%であり、同様に各条件間に有意差が認められた(p < 0.001)。【考察】 本研究により、身体に不自由があることで、回避動作を伴う歩行中に対向者を見る時間の割合が減少し、床面を見る時間が増加することが示された。松葉杖歩行は、通常歩行の動作とは大きく異なり、上肢を使い松葉杖を正確に地面に付く、松葉杖への荷重を増やし下肢を振り出す、安全に着地することが要求される。よって、自身の歩行に大きく注意を払わなければならず、歩行する進路の情報も多くを認識することは困難となる。そのため、歩行路のうち自身により近いもののみを認識するために、視線が足元付近に集中し、結果として床面を見ていた時間が大きく増大したと考えられる。このため、対向者を見ていた時間が相対的に大きく減少したと考えられる。一方で、長下肢装具は身体に不自由は与えるものの、歩行動作自体は通常歩行と大きく変わることはない。しかし、装具による不自由・制限があることで、通常歩行時よりも歩行に注意を割かなければならない。よって、松葉杖歩行ほど極端ではないが、床面を見ていた時間の割合は増加し、対向者を見ていた時間の割合は減少したと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、装具などにより身体機能が制限されることや歩行補助具の使用が、対向者回避を伴う歩行時の視線を下方変位させることが明らかになった。疾患や手術、外傷などによって、身体機能の急速な制限や、装具・歩行補助具の使用が必要となることは多々ある。このような症例が、以前と同じように歩行しようとすると視線が下方を向き、対向者との接触やそれによる転倒を招きやすいと考えられる。しかし、事前にその視線変化の特性を周知することで、転倒リスクを軽減できる可能性がある。本研究の結果は、急速な身体制限が生じた症例、装具初心者の転倒予防の一助となると考えられる。
  • ─青年期の男女差について─
    浅海 靖恵, 田崎 秀一郎, 平野 功成, 平野 哲郎, 深川 真嵩, 福田 晋, 松下 卓矢, 森田 喜一郎
    p. Ab1094
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに】 情報処理過程の中で認知機能を反映すると考えられている事象関連電位(event-related potentials:ERPs)のP300成分は,精神生理学的研究の有用な客観的指標として多くの研究がなされている.感情すなわち情動という意思発動が認知機能に及ぼす影響は重大であると考えられるが,精神生理学的研究は少ない.今回われわれは,未婚の青年層を対象に視覚誘発P300成分に対する「泣き」「笑い」という表情画注視による影響を,男女差について比較検討したので報告する.【方法】 P300測定には日本光電NeuroFaxを使用した.事象関連電位は,視覚誘発のオドボール課題を用い,標的刺激(30%の出現確率)として,赤ん坊の「泣き」または「笑い」写真を,非標的刺激(70%の出現確率)として,赤ん坊の「中性」写真を用いた.すべての被験者に,「標的刺激に対してできるだけ早くボタンを押して,数えるように」「非標的刺激に対してできるだけリラックスして画面を眺めるように」指示した.「泣き」写真,「笑い」写真は,被験者ごと順序を変更した.脳波は,国際10-20法に基づき,両耳朶を基準電極として18チャンネルから記録し,P300成分は,Fz,Cz,Pz,Ozから最大振幅,潜時を解析した.P300振幅は,時間枠350-500 msの最大陽性電位とし,P300潜時は,P300最大振幅の時点とした.統計学的処理は,一元配置分散分析を用い,いずれも危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 青年期の男性11名(21.8±1.1歳),女性11名(21.6±1.1歳).年齢に有意差はなく,全員未婚である.本研究に先立ち,すべての被験者に本研究の趣旨を書面にて説明し同意を得て実施した.【結果】 1)P300振幅は「泣き」Cz,Pzにおいて「女性」が「男性」より,有意に増大していた(Cz:p=0.009,Pz:p=0.01).2)P300潜時は「泣き」Cz,Pz,Ozにおいて「女性」が「男性」がより有意に短縮していた(Cz:p=0.003,Pz:p=0.001,Oz:p=0.01).3)「女性」は,「泣き」が「笑い」よりP300振幅がPzで有意に増大し(Pz:p=0.04),P300潜時がCz,Pzで有意に短縮した(Cz:p=0.02,Pz:p=0.01).4)「男性」のP300振幅は表情間で差はなく,P300潜時は「笑い」が「泣き」より短縮した.【考察】 これまでにP300振幅は女性の方が大きいと報告されており,今回の結果においても女性は男性よりP300振幅が大きく,またP300潜時が短縮していた.このような差が生じた理由として,女性は男性より,頭蓋骨が薄いため電位が増強すること,女性の振幅が増大するという夏季に実施したこと,母性本能を発現させるという赤ん坊の顔写真を使用したことなどが考えられる.次に,「泣き」・「笑い」という表情刺激の相違では,これまでに健常者では,「笑い」に比べ「泣き」においてP300振幅が増大しP300潜時が短縮すること,「笑い」・「泣き」という表情刺激間で性差は認められないことが報告されている.今回の研究でも「女性」は,「泣き」が「笑い」よりP300振幅が有意に増大し,P300潜時が有意に短縮した.しかし「男性」では表情間で有意差は認められず,振幅においては,「笑い」の方が「泣き」より増大するという逆の結果になったこれまでに「泣き」「笑い」表情認知課題におけるERPs測定時に,帯状回・前頭葉・頭頂葉・側頭葉が有意に賦活することが報告されており,今回の相違の大きな要因として,女性の帯状回が男性より活発であることが関係していると考える.つまり帯状回は,記憶の抽出や協調感情,情感的情報の発見と識別に関与するため,他者への協調感情や過去において「泣き」という情動体験が豊富な女性は,赤ん坊の泣き顔により強くより早く反応したと思われる.では,子供を持つ父親ならどうなるのか.表情変化を間近で見ながら子供を育てることで,その経験が記憶として蓄積され,「赤ん坊の泣き顔」にも女性同様の反応を示すのか,非常に興味深いところである.今後さらに症例を増やし,刺激の種類や環境の変化が認知機能におよぼす影響を検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】 相貌や表情の識別は,我々が社会生活において周囲とのコミュニケーションを保つために重要な機能であり, P300を用いて表情認知に関する脳内情報処理機能を生理学的に検討することは,臨床の場面でも精神疾患や認知症などの高次脳機能疾患を中心に幅広く応用できると考える.
  • 滝本 幸治, 竹林 秀晃, 宮本 謙三, 宅間 豊, 井上 佳和, 宮本 祥子, 岡部 孝生, 椛 秀人
    p. Ab1095
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに】 聴覚リズム刺激(rhythmic auditory stimulation:RAS)は、リハビリテーション治療における運動コントロールを改善するために、聴覚リズムが運動系に及ぼす生理学的効果を応用した神経学的技法である(Thaut, 2005)。これまでRASを用いた運動介入効果が報告されているが、治療に用いられるテンポは対象者の能力に合わせて調節されているのが現状で、明確な基準は存在しない。手指タッピング課題を用いた先行研究では、テンポによりタッピング精度や異なる神経回路の関与が報告されているが、下肢においてはそのような知見は不十分である。また、周期運動時の力の制御能力がテンポ速度の影響を受けるか否かについての知見も見当たらない。そこで今回は、下肢の周期的な等尺性筋収縮課題を行い、異なるテンポによる筋出力調節の特性について検討したので報告する。【方法】 対象は本学在籍の学生6名(平均年齢22.3±5.2歳、男女各3名)であり、全対象者の利き足は右であった。対象者は、膝関節90°屈曲、足関節中間位の端坐位をとり、利き足の前足部直下の床面に設置された筋力測定装置(フロンティアメディック社製)上に右足部を置いた。対象者は実験に先立ち、同肢位にて最大等尺性足底屈力(maximum voluntary contraction:MVC)を測定した。筋力測定装置により得られたデータは、A/D変換しサンプリング周波数1kHzでPCに取り込んだ。実験課題は、練習試行と再生試行で構成された。両試行の共通事項は、異なる3つのテンポ(2.0Hz、1.0Hz、0.5Hz)下で、20%MVCを目標筋出力値とした周期的な等尺性足底屈力発揮(以下、足タッピング)を行うことである。練習試行では、各テンポと同期した足タッピングができるようにRASを聴取し、PCモニターに表示される目標ラインと自身の筋出力値を視覚的に確認しながら20%MVCの筋出力調整を行った。RASには電子メトロノーム(SEIKO社製)を用いた。各テンポにつき50回の足タッピングを3セット行い、目標テンポ間隔と目標筋力を習得するよう教示した。再生試行では、RASとPCモニターを取り除き、練習試行で行った目標テンポ間隔で目標筋力の再現を要求した。再生試行は50回の足タッピングを1セットのみ実施した。データ解析は、50回のうち中間30回(11~40回目)の足タッピングを対象に行った。練習試行のデータは3セット目のものを用いた。各足タッピングの筋出力ピーク値を抽出し、目標テンポ間隔と2つの連続するピーク値より求めた足タッピング間隔との誤差を求め、タッピング間隔誤差の絶対平均、恒常平均、タッピング間隔の変動係数(CV)を求めた。また、各対象者の20%MVC値とピーク値との誤差である筋出力誤差の絶対平均、恒常平均、筋出力ピーク値のCVを求めた。統計学的分析として、異なる試行とテンポが足タッピング間隔や筋出力誤差に及ぼす影響を検討するため、2(練習・再生試行)×3(2.0Hz、1.0Hz、0.5Hz)の二要因分散分析を行った。主効果を認めた場合には、Tukey法を用いて多重比較を行った。いずれも有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 対象者には事前に本研究の目的と方法を紙面にて説明し、同意を得た後に測定を実施した。また、実験プロトコルは学内倫理委員会の承認を得た。【結果】 タッピング間隔誤差の絶対平均は、両試行ともに2.0Hz<1.0Hz<0.5Hzの順でテンポが遅いほど有意に誤差が大きくなり、恒常平均でも同様の傾向を認めた。練習試行と再生試行間では、テンポが遅いほど再生試行の誤差が大きい傾向であった。タッピング間隔のCVは、異なるテンポおよび試行間で有意差を認めなかった。筋出力誤差の絶対平均では、再生試行のみ1.0Hzと0.5Hz間で有意差を認め、0.5Hzでより誤差が大きかった。絶対平均と恒常平均ともに、0.5Hzでの誤差が練習試行より再生試行で大きい傾向を示したが、統計学的有意差は認めなかった。筋出力誤差のCVは、異なるテンポおよび試行間で有意差を認めなかった。【考察】 遅いテンポほどタッピング間隔誤差が大きくなることは、手指タッピング課題を用いた先行知見の結果に合致するものである。0.5Hzの遅いテンポは速いテンポとは異なり、周期運動の遂行に認知的な制御が求められ課題難易度が高いことが知られている。結果、特に再生試行において修正の手掛かりとなるRASがなかったことが、再生試行でのタッピング間隔誤差を大きくしたと考えられる。筋出力誤差については、遅いテンポでの周期運動保持には認知的負荷がかかり、二重課題条件下では周期運動間隔の誤差が拡大することが報告されている(Miyake, 2004)。つまり、足タッピング間隔保持に注意資源が投入されたことが筋出力調整誤差に影響したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 異なるテンポによる筋出力調節能力の特性を知ることは、歩行をはじめとした周期運動の機能的向上を目的とした介入時の刺激条件設定の根拠になる。
  • ─シングルケースデザインによる検討─
    木島 隆, 伊藤 貴史
    p. Ab1096
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 ある一定の異常な動作を繰り返し行っていると、機能障害が改善された後もその異常な動作を修正することが困難であることを臨床場面では多く経験する。我々は、健常人において、一定期間片松葉杖で歩行した後に下肢荷重率が松葉杖側へ偏倚することを昨年の本学会で報告した。近年、能動的な感覚入力は大脳皮質運動野の神経活動を修飾し、その結果、運動パフォーマンスを向上させる効果があることが示されている。今回、交通事故により多発骨折した症例で、全荷重を許可された後でも立位・歩行時に前足部への荷重が行えず、右第1趾を背屈させ動作してしまう症例を担当した。本症例に対して、運動を伴う感覚の学習が立位・歩行のパフォーマンスを改善するかについてシングルケースデザインを用い検討したので以下に報告する。【方法】 シングルケースデザインとして、反復法ABAデザインを用いた。対象は、バイク走行中に転倒、両肘・膝打撲挫創、右鎖骨・左橈骨遠位端・右第5指基節骨・左第4指中手骨・右第1趾基節骨を骨折、手術後退院し外来にて通院されている46歳男性である。効果指標は立位のパラメータとして、重心動揺計(アニマ社GP-5000)で開眼閉脚位にて静止立位を1分間保持してもらい、前後方向動揺中心変位(以下、動揺中心Y)と左右方向動揺中心変位(以下、動揺中心X)を測定。歩行のパラメータは、Timed Up and Go Test(以下、TUG)とし、裸足で3回実施した最速回を測定値とした。観察期間(A期、Á期)、介入期間(B期)はそれぞれ5日間とし、それぞれの期間前と終了後、計4回の測定を行なった。介入は、観察期間は、関節可動域運動、足部の筋力強化運動、バランス練習を、週5回、1回約40分実施した。介入期間は、感覚学習による足部筋収縮を求める(足部や第1趾で物品の判別・再分化など感覚学習の際に能動的な筋収縮を求める)課題を週5回、1回約40分実施した。ABA終了後、C期としA+Bの要素を盛り込んだ介入を30日間行い、その間3回パラメータを測定した。測定結果の分析は、それぞれの期間パラメータの変化量を求め、横軸を期間、縦軸をパラメータとしたグラフを描き目視法で判定した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、事前に本研究の主旨を十分に説明し、書面にて本研究に参加することの同意を得た。【結果】 立位のパラメータである動揺中心Yは、A期前-3.32cm、B期前-3.39cm、Á期前-2.46cm、Á期後-2.5cmで、各期の変化量はA期で-0.07cm、B期0.93cm、Á期-0.04cmであった。A期、Á期の変化量に対してB期で中央へ変化する傾向にあった。同様に動揺中心XはA期前0.35cm、B期前0.87cm、Á期前0.67cm、Á期後0.47cmで、各期の変化量はA期で0.52cm、B期0.2cm、Á期0.2cmであった。A期、B期、Á期の変化量はほとんど変わらなかった。歩行のパラメータであるTUGは、A期前8.12秒、B期前5.88秒、Á期前5.74秒、Á期4.90秒で、各期の変化量はA期で2.24秒、B期0.14秒、Á期0.87秒であった。A期、Á期の変化量に対してB期の変化量は少なかった。また、観察ではB期から立位・歩行とも第1趾を接床するようになった。【考察】 動揺中心Y はA期、Á期に対してB期で中央へ変化する傾向にあったことから、B期の治療がA期に比べより足趾を使用し立位保持する効果が高かったものと思われる。Á期に動揺中心Yの変化がないことからB期治療効果は保持されていたと考えられる。また、C期にもより中央へ変化する傾向にあったことからも、足趾への能動的な運動による感覚学習の課題は立位のパフォーマンスを改善する一要因であると考えられる。動揺中心Xの変化がないのはA期前より動揺中心の片寄りは無く観察期間・介入期間の課題で動揺中心は維持できたと考える。TUGにおいては介入による明らかな傾向は得られなかった。B期終了後から大幅な変化がないのは天井効果と考えられ、Á期前までの改善は足趾への感覚学習のみでなく筋力やバランス練習による効果が主要因と思われる。しかしながら、観察において立位・歩行時に明らかに右第1趾を接床するようになっていたため、歩行は足圧計などをパラメータとして用いるとより効果を判定できたと思われる。本症例は右第1趾に荷重許可されても第1趾を背屈させた特異的動作を行っていた。介入は足趾のみに行い立位パフォーマンスの改善と歩行速度の保持が確認され、右第1趾を接床し動作を行えたことから特異的動作の改善に寄与したと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、介入手続きの工夫で固定化された動作も変容することが示唆された。本症例は運動器疾患であるが、能動的な感覚の学習など中枢神経系も含めた手続きを踏まえることで即時的効果ではなく介入による学習効果の可能性があると思われる。今後も症例を重ねて検討していく必要がある。
  • 粟生田 晋哉, 小宮 桂治, 髙村 浩司
    p. Ab1097
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 臨床では、対象者の姿勢の安定や動作修正のために、セラピストが徒手的に介入する事が多い。しかし、過度な介入は対象者の運動制御の機会を逆に損なわせる事になりかねない。また運動制御において、感覚情報としてフィードバックに利用できる物は、自身が運動を遂行する事によって変化する体性感覚であり、特に筋・骨格系から入力される手足の動きや位置の情報は重要である。先行研究に、身体位置関係の認識が立位姿勢バランスと関連するという報告があるが、それを用いた運動学習や歩行に言及した報告は少ない。そこで目的として、健常者を通じ、下肢を中心とした身体認識を促す運動学習が立位及び歩行における運動制御に及ぼす影響について検証する事とした。【方法】 対象は下肢・腰椎に整形外科疾患の既往のない健常成人20名(平均年齢25.7±1.7歳)とした。研究デザインは2群間のパラレル比較に基づくランダム化比較試験とし、対象者を乱数表により無作為に介入群と対照群に割り付けた。群の割り付け情報は対象者にのみ盲検化を行った。下肢の空間での身体認識能力の評価として、立位で一側下肢を挙上し母趾にて目標物へのポインティング(以下PTG)を行いその位置を学習させた。その後、閉眼で再試行し認識誤差距離を測定した。これを左右斜め前方と後方の3方向行い誤差距離の合計を計算した(以下PTG誤差)。また、立位バランスの指標として開・閉眼静止立位(30秒)と開・閉眼での両側片脚立位(10秒)の重心動揺検査による総軌跡長(以下LNG)、及び開・閉眼での左右・前後への最大重心移動幅を測定した。測定機器は、任天堂社製Wiiバランスボードを用い、富家千葉病院作成のプログラムを使用しデータ化した。また歩行能力の評価は、10m歩行(最大速度)と応用歩行の評価指標に用いられている障害物歩行テストと方向転換歩行テストを組み合わせた応用歩行テスト(以下応用歩行テスト)を独自の評価指標をとして用い、快適・最大速度で行い歩行速度を測定した。上記評価を課題前後に測定した。介入群には、身体感覚を積極的に認識させる運動学習として、閉眼立位にて片側下肢での目標物へのPTGを自身で探索しながら3方向に各3回ずつ実施した。一方対照群では、介入群と同様の関節運動をセラピストが対象者の足部を徒手誘導することにより同回数実施した。その際、被検者自身に身体認識は一切求めずに行った。そして同群間の課題前後の検定にはWilcoxon符号付き順位和検定を、2群間の検定にはMann-WhitneyのU検定を用いた。なお統計解析には「改変Rコマンダー」を使用し、有意水準5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、被験者全員に研究の目的・方法の説明を行い、書面にて同意を得た。【結果】 介入群では、PTG誤差、開眼静止立位、PTGした下肢を支持側とした開眼片脚立位でのLNG、開・閉眼での左右への最大重心移動幅、及び応用歩行テストでの快適・最大歩行速度において有意差が認められた。また対照群では、PTG時と同じ片脚立位でのLNGのみ有意差が認められた。2群間の比較では、PTG誤差、応用歩行テストでの快適・最大歩行速度で有意差が認められた。【考察】 介入群では、先行研究と同様に立位バランスに一定の効果が認められた。理由として、揺らぎの修正や自身の重心位置や下肢の角度・方向などの身体情報を正確に認識しようとする事により、動的立位での体性感覚フィードバックが活性化した事が考えられる。また対照群においても、意識していなくても下肢を空間制御する中で自律的な姿勢反応による効果が生じていたと考えられる。そして、対照群と比して純粋に身体認識を促す学習を行った効果としては、PTG誤差と応用歩行テストにおいて有意差を認めた。受動的な接触や静的立位、片脚立位では、高次運動野領域には活性化が認められなかったが、識別を要求した認知的課題やより動的な制御や意図的かつ予測的な運動制御が要求される場面では、頭頂葉や前頭前野、補足運動野を中心とした高次運動野等の活動増加が認められたとの報告がある。今回の結果は、身体認識を促す学習を、より動的な制御下で行った事で、高次運動野等に働きかけ応用歩行における予測的な運動制御につながったと推測される。しかし、立位と歩行での制御システムの違いや他の環境・身体要因の影響に対しての配慮が十分ではなく、今後その課題も踏まえ検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 身体認識を促す知覚学習は、皮質等高次脳機能による予測的な運動制御を要する、環境に適応するための跨ぎ動作や方向転換等の応用歩行における治療の一助となる可能性が示唆された。
  • 大友 伸太郎, 岩坂 憂児, 山崎 瞬
    p. Ab1098
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 これまでの研究において、心的回転課題における運動イメージが自際の運動能力に反映する可能性があることが示唆されている(Vingerhoets et al.,2002)。またこの心的回転課題は実際の身体の状態を反映することが認められており(de Lange et al. ,2006)、このことは運動イメージが身体図式に依存することを示唆している。安田ら(2009)は身体状況の顕在化が立位姿勢に影響を与えることを報告しているが、これは実運動を伴っており筋活動の変化による改善の可能性が考えられる。そこで今回、心的回転課題を用いた身体状況の顕在化が立位姿勢に影響を及ぼすかを検討するために実施した。【方法】 対象は過去に下肢に整形外科的・神経学的な疾患を有していないもの10名(男性:5名、女性: 5名、年齢21.6±6歳)とし、対象を介入群・対照群にランダムに振り分けた。また2群に年齢、性別の差はないように配慮した。両群ともに介入前後で重心動揺計(ANIMA社製GRAVICODER G-620)を用いて30秒間の開眼・閉眼立位および右足・左足での片脚立位の総軌跡長を3回合計6回測定した(プレテスト)。課題の提示はカウンターバランスを取るためにランダムに実施した。また片脚立位の姿勢は股関節中間位、膝関節屈曲90度の状態とした。介入群に対しては下肢(足部)の心的回転課題を課した。足部の心的回転課題は実験参加者に安静座位を取ってもらい両手とも机の上におくように指示した。机にはPCを置きその画面を見るように指示した。PC画面でランダムに提示した足部の写真が5秒間提示され、それが右か左かを可能な限り早く正確に判断し、反応してもらうことを指示した。施行回数は72施行、5分間であった。対照群へは介入群と同様に安静座位を取ってもらい両手とも机の上におき、机の上のPCの画面を見るように指示した。画像は回転が一切行われない下肢の画像を提示し、右か左かを判断することを72施行、5分間実施した。両群とも介入終了後に再度、重心動揺計での測定を行った。測定には姿勢の改善率として介入前の総軌跡長/介入後の総軌跡長を用い、各項目(開眼両脚立位・閉眼両脚立位・片脚立位)で対応のないt検定を実施した。検定にはSPSS 11.0を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験参加者に対してヘルシンキ宣言に基づき説明と同意を得た上で実験を行った。【結果】 開眼両脚立位・閉眼両足立位においては介入あり・介入なしの群間において有意差は認められなかったが、片足立位においては2群間に有意差が認められた( p <0.05)。【考察】 今回の研究において両脚立位姿勢において有意差は認められなかったが片脚立位においては有意差が認められた。これは両脚立位という立位姿勢保持が健常成人者に対する課題としてそれほど難易度が高くなかったことが考えられる。しかしながら片脚立位姿勢においては介入の有無により有意差が認められた。運動イメージ想起のためには身体状態を認識しなければならないと考えられている。本研究における心的回転課題は運動イメージを操作するものとされ、この課題を通して身体状態の認識を行う必要があり、この認識が立位姿勢を改善することが示唆されたと考えられる。しかしながら、本研究での対象はわずか10名であり、さらに対象を増やす必要があると考えられる。また、心的回転課題を行うことで立位姿勢の改善は得られたものの、運動イメージが想起されたかの確認や、身体状態の認識についての確認はなされていない。今後も目に見えざる運動イメージをどのように測定していくかを考えていくことも必要ではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究では心的回転課題という運動イメージ想起を促す課題によって立位姿勢の安定性が図れることが示唆された。これは立位が不安定な患者に対して心的回転課題を課すことで安全に立位姿勢への介入ができることを示唆しており、理学療法の新しい介入方法となることが期待される。
  • 後藤 亜由美, 生田 旭洋, 大野 善隆, 後藤 勝正
    p. Ab1099
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 高脂肪食やエネルギー過剰摂取および運動不足などの生活習慣は、内臓脂肪の蓄積を招き、インスリン抵抗性や糖尿病をはじめ、高血圧症や脂質異常症を引き起こす。こうした内臓脂肪蓄積による肥満、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧などが合併した病態をメタボリックシンドロームと呼ぶ。メタボリックシンドローム発症の共通基盤には脂肪細胞由来のアディポカインの分泌異常があると考えられている。アディポカインの1つであるadiponectinは、末梢組織におけるインスリン感受性の維持や骨格筋および肝臓における脂肪燃焼ならびに糖利用促進作用を持つが、運動に伴うadiponectin分泌調節機構の全貌は明らかでない。我々は骨格筋肥大に伴い骨格筋組織内adiponectinの発現が増加することを報告した。しかし、骨格筋組織内adiponectin増加の分子機序は不明である。また、運動が循環血液中のadiponectin濃度に及ぼす影響について統一した見解はない。一方、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(以下PPARγ)は脂肪細胞をはじめ多くの組織に存在し、インスリン感受性に関与することが知られている。近年、インスリン抵抗性を改善するチアゾリジン受容体は、PPARγを活性化させてadiponectinの発現を増加することが報告されている。しかしながら骨格筋量の変化に伴うPPARγ発現は明らかでない。そこで本研究では、骨格筋量の増大に伴う骨格筋組織中のPPARγおよびadiponectinの発現、ならびに血中adiponectin濃度について、マウス代償性筋肥大モデルを用いて評価・検討することを目的とした。【方法】 実験には生後11週齢の雄性マウス(C57BL/6J)のヒラメ筋を用い、全てのマウスの左後肢の腓腹筋腱を切除しヒラメ筋を代償性に肥大させた。対照には、右後肢ヒラメ筋を用いた。全てのマウスは気温23±1℃、明暗サイクル12時間の環境下で飼育された。なお、餌および水は自由摂取とした。腓腹筋腱切除後経時的に血液ならびに両後肢のヒラメ筋を摘出し、即座に結合組織を除去した後、筋湿重量を測定した。筋湿重量測定後、液体窒素を用いて急速凍結し、-80℃で保存した。その後、リアルタイムRT-PCR法によりadiponectinのmRNA発現量を、Western blot法によりadiponectin及びPPARγのタンパク発現量を測定した。また、ELISA法により血中adiponectin濃度を測定した。【倫理的配慮】 本研究は、豊橋創造大学が定める動物実験規定に基づき、豊橋創造大学生命倫理委員会の審査・承認を経て実施された。【結果】 代償性筋肥大モデルによる検討の結果、同筋腱切除によりヒラメ筋の筋湿重量の増加が認められた。共同筋腱切除により、骨格筋組織内のadiponectin mRNA及びタンパクの発現量は増加した。また、PPARγのタンパク発現量も共同筋腱切除により有意に増加した。しかし、共同筋腱切除による血中adiponectin濃度の変化は認められなかった。【考察】 共同筋腱切除による筋肥大において、adiponectin mRNA及びタンパク発現量の増加が確認された。また、同様にPPARγのタンパク発現量も増加した。したがって、PPARγを介してadiponectin発現量が制御される可能性が示唆された。しかしながら共同筋腱切除による血中adiponectin濃度に変化は認められず、骨格筋量増大によるadiponectinへの影響は局所的であることが示唆された。骨格筋量の増加をもたらす刺激は骨格筋のインスリン感受性の維持や改善、ならびに糖・脂質代謝亢進に十分に寄与すると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 骨格筋の増量は、骨格筋組織におけるadiponectin及びPPARγの発現を増大させることが明らかとなった。臨床場面でメタボリックシンドロームや糖脂質代謝異常などの疾患に対する理学療法では、骨格筋量を維持あるいは増大させる運動や刺激を積極的に取り入れるべきであると考えられた。本研究の一部は、文部省科学研究費(B, 20300218; A, 22240071; S, 19100009)ならびに日本私立学校振興・共済事業団による学術振興資金を受けて実施された。
  • ─遺伝的2型糖尿病モデル動物(KK-Ayマウス)における特性─
    髙木 聖, 山下 剛範, 安藤 直樹, 三浦 俊宏
    p. Ab1100
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに】 近年、糖尿病(以下、DM)患者において骨折リスクが高くなることが多くの研究で示されており、DMと骨減少症との関係が注目されている。一般に1型DMでは非DMと比べて骨密度が減少し、それが骨折リスクの原因と考えられている。しかし、2型DMにおいては骨折リスクが高いにもかかわらず骨密度は正常あるいは高値であることが報告されている。また、その一方で骨密度が減少するとの報告もみられ、未だ一致した見解は得られていない。そこで今回われわれは、遺伝的2型DMモデル動物を用いて週齢に伴う大腿骨の骨密度変化を調べるとともに血糖値ならびに骨代謝マーカーとの関係について検討した。【方法】 遺伝的2型DMモデル動物(KK-Ayマウス)雄7匹を使用した。コントロールとして正常モデル動物(ddYマウス)雄5匹を使用した。骨密度の測定;右大腿骨近位部ならびに骨幹中央部の骨密度を小動物用に改良したDXA(dual energy X-ray absorption;DICHROMA SCAN DCS-600, ALOKA)を用いて8週齢から23週齢まで5週間隔で測定した。測定は抱水クロラール麻酔下にて、両股・膝関節伸展位にて行った。全ての測定は同じ放射線技師が施行した。血糖値の測定;血液サンプルは非絶食状態にてキャピラリーにて眼窩静脈洞より採取した。測定は8週齢から23週齢まで5週間隔でGlucose C2-test(Wako純薬工業)を用いて行った。血中オステオカルシン(以下、OC)値の測定:8週齢および18週齢においてmouse osteocalcin EIA kit BT-470 (Biomedical technologies)を用いて行った。統計学的分析;データは標準±標準誤差にて示した。KK-Ayマウスの各週齢における骨密度および血糖値については一元配置分散分析ならびに多重比較としてTukey’s HSD testを用いた。KK-AyマウスとddYマウスの比較は対応のないt検定を用いた。KK-Ayマウスにおける骨密度と血糖値の関係はPearson’s correlation testを用いた。いずれの場合も危険率5%未満を有意な差と判断した。【倫理的配慮】 実験は動物実験施設の実験動物の飼養及び保管等に関する基準(2006年、環境省告示第88号)にしたがって行った。【結果】 KK-Ayマウスの大腿骨近位部の骨密度は8週齢43.6±3.2 mg/cm2、13週齢41.1±2.3 mg/cm2、18週齢35.8±1.6 mg/cm2、23週齢35.1±1.9 mg/cm2であった。8週齢と比較して18週齢ならびに23週齢において有意な減少が認められた。18週齢と23週齢との間に差はなかった。ddYマウスの骨密度は8週齢47.6±1.2 mg/cm2、18週齢57±3.1 mg/cm2であった。KK-AyマウスとddYマウスとの比較では8週齢においては差がなかったが、18週齢においてはKK-Ayマウスの値が有意に低かった。KK-Ayマウスの骨幹中央部の骨密度は8週齢から順に42.7±1.7 mg/cm2、41.4±1.1 mg/cm2、44.8±1.8 mg/cm2、42.9±1.9 mg/cm2であり、週齢による有意な差はみられなかった。ddYマウスにおいては8週齢41.5±0.7 mg/cm2、18週齢51.5±3.1 mg/cm2で、KK-Ayマウスとの比較では両週齢ともに差はみられなかった。KK-Ayマウスの血糖値は8週齢から順に374±21.2mg/dl、457±33.7 mg/dl、506±19.5 mg/dl、528±25.0 mg/dlであり、8週齢と比較して18週齢および23週齢において有意な上昇がみられた。また、大腿骨近位部の骨密度と有意な負の相関(r=-0.96)が認められた。OC値はKK-Ayマウスにおいて8週齢2.8±0.1 ng/ml、18週齢1.7±0.04 ng/mlで有意な減少が認められた。ddYマウスにおいては8週齢、18週齢ともに2.9±0.2 ng/mlであった。KK-AyマウスとddYマウスとの比較では8週齢においては差がなかったが、18週齢ではKK-Ayマウスの値が有意に低かった。【考察】 骨幹中央部においては骨密度の変化はみられなかったが、近位部においては週齢に伴う減少がみられたことからDMは海綿骨に影響をおよぼすことが示唆された。また、その減少は週齢に伴う血糖値の上昇と相関がみられたことからDMの進展や罹病期間と関連すると考えられた。さらに、近位部の骨密度が低下する時期において同様に骨形成マーカーであるOC値の低下がみられたことから血糖値の上昇によって骨形成機能が障害されることが示唆された。したがって2型DMの骨折予防には早期からの血糖値のコントロールが重要であると考えられる。今後、骨密度減少のメカニズムを解明するために多因子との関連についてさらなる検討が必要であろう。【理学療法学研究としての意義】 年々増加するDM患者の骨折を予防することは重要な課題である。そのためにDM性骨減少症の病態について解明する必要があると考えられ、本研究はモデル動物を用いてそれを検証したものである。
  • 福留 千弥, 田中 雅侑, 藤田 直人, 藤野 英己
    p. Ab1101
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 心不全患者の特徴の一つに運動耐容能の低下が挙げられる。運動耐容能が低下する原因には心機能の低下だけでなく、骨格筋における退行性変化も関与しているとされている。心不全患者における骨格筋の退行性変化の一つに、骨格筋線維周囲における毛細血管数の減少がある。心不全患者は活性酸素種(ROS)の過剰発現によって酸化ストレスが亢進しているとされており、血管内皮細胞の機能不全や毛細血管の退行性変化をきたす。多くの栄養素は酸化ストレスを除去する能力を持つが、心不全患者は食欲不振による低栄養を伴うことが報告されており、心不全患者では酸化ストレスを除去する栄養素が欠乏していると考えられる。本研究では、心不全における骨格筋と心不全を伴わない低栄養のみの骨格筋を比較することで、心不全と低栄養が骨格筋内毛細血管の退行性変化に及ぼす影響の差異を検証した。また、心不全患者では速筋よりも遅筋において筋萎縮が起きやすいという報告から筋線維タイプによる違いも存在すると考え、速筋と遅筋の比較も併せて実施した。【方法】 4週齢のWistar系雄ラットにモノクロタリン(30mg/kg)を投与することで心不全を惹起した(CHF群)。また、同一週齢のWistar系雄ラットを用い、給餌量を自由にした対照群(Con群)と、給餌量をHF群と一致させた群(PF群)を設定した。4週間の実験期間終了後、ペントバルビタール(50mg/kg, i.p.)による深麻酔下で心臓、肺、足底筋およびヒラメ筋を摘出し、急速凍結した。組織切片のエラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色所見を用いて、心臓の線維化と肺動脈壁の厚さを観察した。足底筋とヒラメ筋はアルカリホスファターゼ染色にて毛細血管を可視化し、筋線維あたりの毛細血管比率(C/F比)を算出した。さらに、足底筋とヒラメ筋はジヒドロエチジウム染色にてROSを可視化し、その発現量を測定した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 心臓と肺のEVG染色所見では、CHF群にのみ心筋線維の肥大と膠原線維の増殖、および肺動脈における中膜の肥厚を認めた。足底筋のC/F比は、CHF群ではCon群とPF群に比べて有意に低値を示したが、PF群とCon群間には有意差を認めなかった。一方、ヒラメ筋のC/F比は、PF群ではCon群に比べて有意に低値を示したが、CHF群とPF群の間には有意差を認めなかった。足底筋とヒラメ筋のROS発現量は、PF群ではCon群に比べて有意に高値を示し、CHF群はPF群に比べて有意に高値を示した。【考察】 速筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化は主として心不全に起因するが、遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化は、心不全だけでなく低栄養の影響を受けることが明らかになった。足底筋では低栄養によるROSの過剰発現を認めたものの、低栄養による骨格筋内毛細血管の退行性変化は生じていなかった。一方、ヒラメ筋では心不全によって低栄養以上にROSが発現していたにも関わらず、骨格筋内毛細血管の退行性変化は心不全を伴わない低栄養のみの状態と変わらなかった。このことから、心不全や低栄養によるROSの過剰発現だけで骨格筋内毛細血管の退行性変化が誘導されるわけではないということが示唆された。一方、心不全では血清中にTNF-αが過剰発現するとされている。TNF-αは血管内皮細胞の機能不全を誘発し、血管内腔の狭小化を引き起こすことで骨格筋への血液供給を減少させる。このことから、CHF群の速筋と遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化にはTNF-αが関与していたのではないかと考えられる。また、PF群の遅筋における骨格筋内毛細血管の退行性変化には、低栄養に由来するROS以外の経路が関与していたと考える。しかし、足底筋とヒラメ筋における低栄養由来のROSの過剰発現に対する両筋の反応はそれぞれ異なっていた。この点については不明であるため、低栄養に由来するROSの発現に対する筋線維タイプによる反応については今後検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 心不全患者における骨格筋内毛細血管の退行性変化には、心不全による因子だけではなく、栄養状態も関係していることが明らかになった。本結果より心不全患者における骨格筋の退行性変化を予防するには栄養状態のコントロールも重要であると考える。
  • 岩田 晃, 野中 紘士
    p. Ab1102
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 筋損傷は最も頻度の高い外傷の一つで,スポーツ活動に関連する外傷の90%以上は打撲か肉離れと言われている.これらは医学的な治療を必要とせず,自然治癒にまかせることが多いが,筋萎縮や疼痛,関節可動域制限などの構造的,機能的な問題が残存することも少なくない.肉離れは遠心性収縮によって誘発され,打撲と比較して,競技復帰に時間を要し,パフォーマンスの低下や再発の頻度が高いことが知られている.しかし,動物実験において,筋損傷を誘発する刺激(挫傷,遠心性収縮,薬物など)の種類が何であるかに関わらず,損傷した筋線維は同じメカニズムで再生するとされていることから,再生過程において,打撲と肉離れに差が生じることは考えられない.そこで,我々は損傷部位が異なることによって再生速度や再発率に差が生じているという仮説を立てた.打撲はストレスが筋に対して横断的に加えられるのに対して,肉離れは牽引される方向から縦断的にストレスが加わる.この損傷方向の違いによって,肉離れでは,筋の張力を発揮する筋実質部ではなく,筋の張力を伝える結合組織により多くの損傷が起こっている可能性がある.筋線維は結合組織である筋形質膜と基底膜に包まれている.打撲ではこの筋形質膜は完全に破壊され,基底膜は残存することが明らかにされているが,肉離れの場合はストレスが縦断的に加わることから,結合組織の損傷がより大きく,基底膜の損傷まで起こると考えた. そこで,我々の仮説を検証するため,本研究では打撲,および肉離れという異なる方法によって損傷を誘発した場合に,筋形成膜,基底膜の損傷に差があるかについて明らかにすることを目的とした.【方法】 実験動物として,12週齢のWistar系雄ラット12匹を用いた.打撲群は,ペントバルビタールによる麻酔下で,640gの錘を25cmの高さから落下させるドロップマス法を用いて,下腿三頭筋に損傷を起こした.また,肉離れは,打撲同様の麻酔下で,ステージ上に側臥位で股関節90°,膝関節完全伸展位に固定し,電気刺激によって底屈を起こし,同時に足関節背屈35°位まで徒手にて強制的に背屈させ,遠心性収縮による肉離れを起こした.電気刺激は剃毛した下腿後面皮膚上から,刺激強度100V,周波数100Hzで行い,収縮回数によって,5回行った群(5回群)と50回行った群(50回群)の2群に分けた. 打撲群,5回群,50回群,コントロール群(各群6肢)の全てにおいて,損傷2日経過後に,被験筋である下腿三頭筋を摘出後,液体窒素にて急速凍結し,組織化学的分析のために連続切片を作成した.組織化学染色は,筋損傷の全体像を観察するためのヘマトキシリン・エオジン染色(以下HE染色)と,筋形質膜,基底膜の損傷を観察するためにジストロフィン抗体,ラミニン抗体,そして核をDAPIで標識した3重蛍光免疫組織染色を行った.【倫理的配慮】 本研究は大阪府立大学動物実験委員会の承認を受け実施した.【結果】 HE染色で,打撲モデルでは損傷部位全体の激しい壊死が認められ,肉離れモデルでは,散在性に損傷筋が認められた.5回群と50回群の比較では,50回群において損傷筋が多く観察された.蛍光免疫組織染色の結果から,打撲によって筋形質膜は破壊され,基底膜は残存し,損傷筋線維内には多くの浸潤細胞の核が観察された.その傾向は肉離れモデルの2群ともに共通の特徴であった.【考察】 肉離れモデルによって損傷筋が散在性に観察されることは,先行研究で明らかにされている特徴であるため,本研究の実験モデルによって,肉離れ損傷が起こっていることが確認された.また,回数を増やした50回群において,損傷筋が多く観察されたこと,損傷筋線維に多くの核が観察されたことからも,肉離れ損傷が起こっていたことが確認できる.このような状況において,仮説に反して,肉離れ損傷によって,基底膜が破壊されないことが明らかとなった.これは,1.肉離れにおいても,打撲同様に基底膜は残存する,2.刺激の強度が不足して,基底膜が損傷するレベルに達しなかった,3.組織を観察する時期が膜の損傷を観察することに適していなかった,などの原因が考えられる.筋再生において大きな役割を果たすサテライト細胞が筋形質膜と基底膜の間に位置し,損傷後に基底膜内で活躍することを考慮すると,肉離れによって基底膜が損傷し,再生する足場を失うことによって,再生が遅延することや,線維化することにつながる可能性は十分に考えられる.これらのことから,強度や時期などの条件を変えて実験を継続する必要がある.【理学療法学研究としての意義】 肉離れ後の筋再生の遅延や,再発率の高さの要因を検討し,治癒促進,再発予防に貢献するため.
  • ─ラットを用いた実験的研究─
    相原 一貴, 小野 武也, 沖 貞明, 梅井 凡子, 大田尾 浩, 田坂 厚志, 林 一宏, 石倉 英樹, 松下 和太郎, 大塚 彰
    p. Ab1103
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 国内で行われる外科的手術において、手術野の確保や出血量の抑制を目的としてターニケットを使用することが多い。ターニケットは、使用中の血流低下や、使用後の急激な血流再開により障害を引き起こす可能性がある。具体的には、毛細血管透過性や筋内タンパク質の分解を亢進させ、浮腫や筋萎縮が生じるといわれており、これらを虚血再灌流障害と呼ぶ。先行研究では、ラット後肢の駆血再灌流後に、駆血部位よりも末梢で、細胞の変化や浮腫、筋萎縮が生じていたと報告されている。また、ターニケット使用による各細胞の変化は、駆血圧と駆血時間の影響を受け、圧が高く時間が長いほど重篤な変化を及ぼすとの報告もある。一般的な駆血条件は、連続駆血時間90分以内を上限としていることが多く、手術内容により長時間の駆血を行う場合は、10~15分程度再灌流し、再度駆血を行う方法が用いられている。しかし、駆血を数回行うことが、筋線維に与える影響についての報告は少ない。そこで本研究の目的は、駆血を2回実施することが、筋線維に与える影響を観察することである。【方法】 対象は8週齢Wistar系雌ラット12匹(体重217.17±5.4kg)とした。これを無作為に、60分駆血を行う1セット群6匹、60分駆血-10分間再灌流-60分駆血を行う2セット群6匹に振り分けた。また、全てのラットの駆血未実施の後肢をコントロール群とした。実験期間は4日間とし、毎日全てのラットの歩行を観察した。駆血には指用ターニケットカフDC1.1.6、加圧装置にはラピッドカフインフレータ、カフインフレータエアソースAG101(D.E.Hokanoson社製、USA)を使用し、駆血圧300mmHgで1セット60分の駆血を行った。駆血はペントバルビタールナトリウム(40mg/kgb.wt)麻酔下で右後肢大腿に対し行った。実験最終日にラットを屠殺し、両後肢からヒラメ筋を摘出、電子天秤にて筋湿重量を測定した。そして、ラットの体重(g)に対するヒラメ筋湿重量(mg)の比であるヒラメ筋相対体重比を求めた。摘出したヒラメ筋は中央で2分割しトラガカントゴムに包埋、液体窒素で急速冷凍させ、凍結したヒラメ筋筋組織の標本を作製した。その後クリオスタットにて10μm厚のヒラメ筋横断切片を作成し、HE染色を施した。筋線維横断面の計測は顕微鏡デジタルカメラにて横断切片を撮影し、画像解析ソフト(Image ProPlus6.2J,USA)を用いて標本毎に200本以上の筋線維横断短径を計測し、その平均値を求めた。統計処理はKruskal-Wallis検定を実施し、その結果で有意差を認めた場合は多重比較検定Scheffeを行った。なお、全ての統計手法は危険率5%未満をもって有意差を判定した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、県立広島大学研究倫理委員会の承認を受け実施した。(承認番号第19号)【結果】 ヒラメ筋相対体重比の平均と標準偏差は、コントロール群0.671±0.07mg/g、1セット群0.626±0.09mg/g、2セット群0.527±0.03 mg/gであり、2セット群がやや小さい値であった。統計処理の結果、コントロール群と1セット群の間では差が認められず、1セット群と2セット群、コントロール群と2セット群の間に差が認められた(p<0.05)。ヒラメ筋線維横断短径の平均と標準偏差は、コントロール群43.35±1.19μm、1セット群39.13±1.04μm、2セット群33.89±0.61μmと駆血回数の多い群が小さい値を示す傾向にあった。統計処理の結果、1セット群に対し2セット群が有意に小さい値となった(p<0.05)。歩行観察では、1日目、全てのラットの右後肢で下垂足がみられた。その後、1セット群では、2日目より改善がみられ、最終日までに全てのラットの下垂足が改善された。一方、2セット群では、3日目より改善がみられ、最終日までに4匹のラットの下垂足が改善され、残り2匹の下垂足は改善しなかった。【考察】 本研究は、虚血再灌流後の骨格筋の状態を把握するため、ヒラメ筋相対体重比とヒラメ筋線維横断面短径を測定した。虚血再灌流後の組織の状態について、ラット後肢に90分駆血を行った先行研究では、駆血後96時間から浮腫の改善がみられ、ヒラメ筋相対体重比の減少が生じるとの報告がある。本研究の2セット群も同様の結果を示しており、一度浮腫が発生し、その後軽減したと推測できる。一方、筋萎縮に関してラットを用いた先行研究では、筋萎縮の程度は駆血時間に依存すると報告しており、本研究でも、ヒラメ筋線維横断短径は2セット群が有意に小さい値を示した。これらの結果より、2回駆血は、1回駆血よりも筋への損傷が強く、浮腫や筋萎縮を引き起こす可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、臨床現場で術後の整形疾患に対する理学療法を行うにあたり、手術時のターニケット使用の有無や使用方法、駆血時間に関する情報は、筋の状態を把握するための指標になる可能性を示唆している。
  • 福田 祐子, 松田 史代, 榊間 春利, 吉田 義弘, 米 和徳, 三宅 智
    p. Ab1104
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 脳血管障害に対する理学療法は、リハビリテーション医学において重要な位置を占めている。理学療法を行っていく上で、理学療法介入が脳卒中患者の梗塞巣、その周辺部および脳全体にどのような影響を与えているのか解明することは、重要なことでありそのためにも脳血管障害後の病理的変化を知ることは必要である。しかし、脳梗塞巣の変化は、一般的に血流再開通モデルがほとんどで血流再開の有無による組織病変の変化を多方面から観察した報告は少ない。そこで今回、一般的な脳梗塞モデルとして作製されている中大脳動脈再開通モデルと中大脳動脈を再開通させない永久閉塞モデルを作製し、その組織学変化と運動機能評価・神経学的評価について検討した。【方法】 実験動物は9週齢のWister系雄ラット5匹を用いた。中大脳動脈閉塞を30分間閉塞し、その後再開通させる再開通モデル群4匹と、中大脳動脈永久閉塞する永久閉塞モデル群1匹に無作為に分けた。脳梗塞モデル作製は、Longa法にて行い、左中大脳動脈分岐部を塞栓糸で閉塞させ、塞栓糸抜去により再開通を行い、再開通モデルを作成した。永久閉塞モデルは、塞栓糸抜去を行わずそのまま留置した。術中は低体温による脳保護作用の影響を避けるために体温を37度に保った。また、中大脳動脈領域の脳血流を閉塞前・再開通直前・再開通直後で計測し、脳血流量の低下と再開を確認した。梗塞作成24時間経過後、運動機能評価・神経学的評価を行った。その後、脱血・潅流固定を行い、脳を摘出し、固定液で一晩浸漬固定した。その後、パラフィン包埋して5μmで連続横断切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、ビルショウスキー染色、クリューバー・バレラ(KB)染色を行い、組織学変化を光学顕微鏡にて観察した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、鹿児島大学動物実験倫理委員会の承認を得て行った実験である。【結果】 運動機能評価・神経学的評価において、再開通モデル群に比べて永久閉塞モデル群では、著しく重度の運動機能障害と神経学的異常が観察された。特に、神経学評価では再開通モデル群と永久閉塞群の評価スケールは大きな差があり、永久閉塞モデル群は一番重度なスコアを示した。梗塞巣の組織学的変化では、再開通モデル群、永久閉塞モデル群ともにHE染色では脱核、核の凝縮、細胞の変性が顕著にみられた。また、梗塞部で非梗塞部と比較し、ビルショウスキー染色像では、軸索、神経原線維の脱落が観察され、KB染色像では、梗塞部で脱髄が顕著にみられ、神経細胞も萎縮している細胞が多く観察された。再開通モデル群と永久閉塞モデル群における梗塞巣範囲は、再開通モデル群が主に線状体領域であったのに対し、永久閉塞モデル群では、大脳皮質まで広範囲の梗塞巣が確認され、梗塞領域に大きな違いがみられた。梗塞巣では、両群に大きな差はみられなかったが、梗塞巣周辺領域では再開通モデル群にくらべ永久閉塞モデル群で、細胞体の脱落や神経原繊維も粗密性、脱髄および神経細胞の変性が強く観察された。【考察】 今回、中大脳動脈閉塞後の血流再開の有無の違いにより、梗塞巣や梗塞巣周辺部の組織学変化と運動機能評価・神経学的評価について検討した。再開通モデルに比べ、永久閉塞モデルでは運動機能障害や神経学異常の程度が大きかった。また、運動面と神経学面では神経学のほうがより属性の差が大きかった。このことから中大脳動脈閉塞領域では、運動機能面よりも神経学的面のほうがより大きなダメージを受けることがわかった。また、梗塞巣では大きな差はみられなかったが、梗塞巣周辺部では再開通モデルに比べ、永久閉塞モデルがより梗塞巣領域が大きく、神経脱落や変性、神経原繊維の粗密性、脱髄の程度も大きかった。血流の再開の有無により、組織損傷も大きく異なることがわかった。しかし、本研究では対象数が少なかったために、今後は数を増やし更なる研究が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 脳梗塞は、理学療法士が接する機会の多い疾患のひとつである。これまで、脳梗塞後の基礎的研究では、再開通モデルでのみ検討がなされており、再開通の有無による組織学的変化については論議されることはなかった。また、脳梗塞後の理学療法介入効果について、梗塞病変部に着目した研究はほとんどなく、早急なエビデンスの確立が求められている。今回、再開通の有無を比較検討することで、運動・神経学的障害の差や梗塞巣周辺の組織変化の違いについて明らかになった。この違いは、今後の脳梗塞後の理学療法介入効果について、さまざまな方面から検討する上で重要な情報であり、理学療法のエビデンス確立につながると考える。
  • 河田 真之介, 山崎 文香, 吉田 安奈, 高位 篤史, 山上 拓, 宮田 浩文, 今北 英高
    p. Ab1105
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、気管支の炎症や肺の弾性収縮力低下により気道閉塞を起こし、呼吸困難に至る不可逆的な疾患である。しかしながら、本病態の発症メカニズムは未だ解明されていない。これまでのCOPDモデルの作製は、タバコ煙をモルモットやラットなどに長期間曝露させる方法が一般的であったが、COPDの症状である肺気腫を発現するまでに、3ヶ月以上必要であり、さらにその症状も弱いものであると報告されている。そこで今回、タバコ煙を溶液とし、ラットの気管内へ噴霧投与することで、短期間での肺気腫モデルの作製を行うことを目的とした。【方法】 当初、雌雄合わせて14匹で実験を開始したが、週齢の経過とともに体重に性差が生じたため、対象を11週齢Wistar系雄性ラット8匹とし、生理食塩水投与群(以下、CTL群)、タバコ煙(CSS)溶液およびリポポリサッカライド(LPS)溶液の投与群(以下、PE群)の2群に各4匹ずつ無作為に振り分けた。タバコ煙溶液は、生理食塩水30mlに40本分のタバコ煙を溶かすことで作製し、ラット口腔より挿入した液体噴霧器(ペン・センチュリー社製)により噴霧投与を行った。また、CTL群で19日間生理食塩水を、PE群ではCSS溶液およびLPS溶液を19日間定期的に噴霧投与した。なお、投与量は各50μl、投与回数は1日1回とした。投与実験終了後、頸静脈より採血を行い、炎症所見である白血球数(以下、WBC)を測定した。また、腹腔麻酔下にてラットの頚部腹側にパルスオキシメーター(Mouse Ox STARR Life SciencesTM社製)を装着し、末梢血酸素飽和度(以下、SpO2)を、気管内挿管したシリコンチューブおよび気流抵抗管(日本光電工業株式会社製)にて呼気流速を測定し、安静時の1回換気量・換気時間をそれぞれ算出した。体重は飼育開始時点の10週齢から14週齢にかけて各週1回測定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は畿央大学動物実験倫理委員会の承認を得て、畿央大学動物実験管理規定に従い実験を行った(承認番号 23-5-I-230818)。【結果】 PE群、CTL群ともに体重の経時的増加がみられたが両群間に有意差は認められなかった。WBCにおいても、両群間に有意差は認められなかった。1回換気量はCTL群(1.7±0.3ml)に比べ、PE群(1.2±0.1ml)で有意に低値を示し(p<0.05)、呼気流速においても、CTL群(4.9±1.2ml/sec)に比してPE群(3.0±0.6ml/sec)で有意な低下(p<0.05)が認められた。SpO2においては両群間で有意差は認められなかったが、PE群で約5%の低下傾向がみられた。また、病態を組織学的に評価するため、摘出した肺を肉眼観察した結果、PE群の肺は、CTL群と比較して明らかに肥大しており肺の過膨張が認められた。また、肺組織凍結切片をHematoxilin-Eosin染色法にて染色し、顕微鏡下で観察したところ、肺胞壁破壊による肺胞の拡張が認められた。【考察】 肺の組織学的評価により、一部で肺の過膨脹や肺胞壁破壊による肺胞の拡張を認めた。これは、タバコ煙溶液に含まれるニコチンやカドミウムといった有害物質が気管支を経て肺胞領域へ到達、肺胞の上皮細胞に作用し傷害を与えた結果であると考えられる。この肺胞拡張は末梢気道の弾性収縮力低下や肺コンプライアンス値の増大をもたらし、このことが1回換気量、呼気流速の有意な減少に繋がったと考えられる。また、PE群においてSpO2が約5%の低下傾向を示していることから、肺胞が破壊されたことで拡散面積が減少し、肺胞でのガス交換を妨げる拡散障害の可能性も示唆された。一方で、全個体において炎症所見であるWBCや体重で変化を認めなかったこと、肺組織での変化に個体差がみられたことを踏まえると、今回作製したモデルでは肺気腫症状が弱いものであったと考える。その原因として、投与期間内にラットが死亡する可能性を考慮し、タバコ煙溶液の濃度や投与量を低く設定したことが考えられる。今後はさらに調整を加え、より確立したモデルを作製し、介入実験へと展開していく予定である。【理学療法学研究としての意義】 今回作成を試みたモデルは、20日間という短期間でのCOPD様症状、特に肺気腫症状を示す新しい動物モデルである。これは短期間でこの分野への基礎的知見を提供できるため、大きな意義を持つと思われる。今後は、呼吸の主動作筋である横隔膜の詳細なミオシン重鎖アイソフォームの分析や、それらを支配する神経線維、神経筋接合部の形態学的変化、毛細血管支配率など本モデルのさらなる解析を通して、COPDの病態メカニズムの解明および新たな運動療法の開発の一助として役立つと考える。
  • 蜷川 菜々, 小林 麻美, 磯部 恵里, 川端 佑果, 平山 由梨, 鳥橋 茂子
    p. Ab1106
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 骨髄や脂肪組織中には間葉系幹細胞(MSCs)が存在し、様々な間葉系組織へ分化することが知られている。また、MSCsが分泌する様々なサイトカインや成長因子は損傷治癒促進効果を持つことも報告されており、再生医療の分野では非常に有益な細胞として注目されている。しかし、それらの細胞は量的にごく少なく、骨髄や脂肪組織からMSCsを高純度で分離することは困難であり、細胞採取時のドナーに対する侵襲性やドナーの個体差によって生じる細胞の性質の違い等、問題点も多く挙げられている。さらに、これまでにMSCsの骨格筋分化を報告した例はほとんどない。我々は、ES細胞の脂肪分化誘導過程でMSCsを獲得する方法を確立し、それらの細胞が生体外において骨格筋を含む様々な種類の間葉系細胞へ分化可能であることも確認した。 そこで、ES細胞由来のMSCsをマウスの損傷骨格筋へ移植し、移植一、二、三週間と経過を追うことでES細胞由来MSCsの生体内における骨格筋分化能を確認した上で、 ES細胞由来のMSCsが骨格筋再生過程にどのように関与するのか、さらに損傷骨格筋の機能回復を促進するかどうか検証することを目的とした。【方法】 損傷部位へ移植する細胞は、EGFPでラベルされたマウスES細胞(G4-2)の脂肪分化誘導過程にCD105を指標として磁気ビーズ(Magnetic Cell Sorting(MACS))法で分離収集され、マウスの前脛骨筋に挫滅損傷を起こした骨格筋損傷モデルマウスの損傷部位へ損傷24時間後に直接注入した。1・2・3週間後凍結切片を作成し、HE染色、EGFP、MHC、M-cadherin、SMI31、α-Bungarotoxin免疫蛍光染色を行い移植細胞の動態と末梢神経と損傷骨格筋の再生過程を観察した。また、片方の前脛骨筋を挫滅損傷させたモデルマウスに細胞を移植した群と細胞移植しない群とに分け、それぞれについてCatWalk(Noldus社)による歩行分析を行い、損傷筋の機能回復を比較した。【倫理的配慮】 本研究は名古屋大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】 細胞の移植の1週間後、免疫蛍光染色による観察の結果、移植細胞由来であることを示すEGFP陽性の細胞が骨格筋中に観察され、さらに骨格筋へ分化していることが確認された。2週間後・3週間後でも同様に移植細胞の生着が認められ、骨格筋の再生過程に沿ってES細胞由来MSCsの分化し成熟していく過程が確認できた。同様に免疫蛍光染色による観察の結果、骨格筋の損傷領域の末梢神経と神経筋接合部の数が、MSCsを移植することで増加していることが示された。さらにHE染色の結果、MSCsの移植を行った一週間後から中心核を有する再生骨格筋が出現し始め、移植二週間後には損傷骨格筋の修復が観察された。MSCsの移植を行うことで、MSCs移植を行わず損傷骨格筋の治癒過程を観察した非移植群と比較して骨格筋再生過程が一週間短縮されていた。また、歩行分析では、移植を行わない群より行った群の方で機能改善する傾向が明らかとなった。【考察】 ES細胞から作製したMSCsは損傷骨格筋に移植すると、生体内で骨格筋細胞へ分化して筋再生に関与し、さらに損傷骨格筋組織内の末梢神経再生を促進することで損傷骨格筋の運動機能回復を促進することが示唆された。MSCsは様々な種類のサイトカインを分泌しており、それらによる損傷治癒促進効果や神経機能改善効果も報告されている。よって、我々が作製したE-MSCsも生体内におけるサイトカイン分泌によって、末梢神経再生と骨格筋組織再生が促進し、それらが改善された結果、運動機能回復が促進されたのではないかと考えられる。我々が作製したES細胞由来間葉系幹細胞がこれらのサイトカインを分泌しているということが証明されれば、この細胞が再生医療に貢献する可能性はより高まるといえる。【理学療法学研究としての意義】 このES細胞由来間葉系幹細胞による損傷治癒促進効果がさらに詳細に解明されれば、将来骨格筋・骨・軟骨の損傷や疾患に対する非常に優れた治療法となり得る。さらに、それらの移植を行った組織に対する理学療法学的アプローチを導入することで、再生医療分野における、理学療法学が果たす役割は大きい。
  • 平山 由梨, 蜷川 菜々, 小林 麻美, 川端 佑果, 木全 弘治, 鳥橋 茂子
    p. Ab1107
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 間葉系幹細胞(MSCs)は、筋・骨・脂肪細胞などの間葉系細胞へと分化する能力を持ち、MSCsを損傷骨格筋へ移植すると骨格筋に分化するとされている。当研究室ではES細胞からMSCsを作製する方法を確立した(Ninagawa et al. 2011)。さらに、このMSCsをマウスの損傷骨格筋へ移植すると移植1,2,3週間後に骨格筋の再生過程でMSCsが骨格筋に分化していくことを確認し、細胞移植により組織学的および機能的に治癒が促進されることが明らかとなった(磯部ら、2010)。しかし、このMSCsをマウスの正常骨格筋へ移植したところ、移植1週間後にES細胞由来MSCsは骨格筋には分化せず未分化な状態でとどまっていた。従って、損傷骨格筋と正常骨格筋の生体内微小環境の違いにより移植されたMSCsの分化傾向が異なることが考えられる。本研究では、損傷骨格筋と正常骨格筋における生体内環境の違いを明らかにし、MSCsが骨格筋へ分化するために必須である微小環境について解析することを目的とする。また、細胞外マトリクス(ECM)には、基底膜に代表されるような一定の構造を呈し組織の骨格となるものと、細胞を囲みダイナミックに変化するものがある。後者は細胞の増殖や移動、分化の制御に深く関与していると報告されている。そこで、いくつかのECMに着目してマウスの損傷骨格筋と正常骨格筋における発現の相違を観察した。【方法】 SCIDマウス(8週齢、雌)の前脛骨筋を鉗子により1分間一定の力で圧迫することで挫滅損傷モデルを作成した。正常なマウスおよび挫滅損傷後24・48時間,4日,1・3・5週間後のマウスを4%パラフォルムアルデヒド(PFA)で環流固定した後、それぞれの前脛骨筋を採取した。その後、厚さ6µmの凍結切片を作成し、HE染色と、抗ECM抗体の免疫蛍光染色により組織学的に骨格筋再生過程におけるECMを中心とした微小環境の変化を観察した。【倫理的配慮】 名古屋大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】 正常骨格筋にES細胞由来のMSCsを移植したところ、先行研究と同様に、骨格筋に分化せず未分化な状態でとどまっていることが確認できた。ECMは、損傷骨格筋と正常骨格筋において発現量に相違がみられた。基底膜を形成するlamininは損傷後早期に発現量が減少し、骨格筋の再生とともに発現量が回復していった。また、白血球・リンパ球のマーカーであるCD44は損傷後早期に発現量が増加し、その後、炎症反応が減弱していくに従って発現量の低下が観察された。またこの他のECMは種類によって発現パターンがそれぞれ異なっていた。【考察】 正常骨格筋と損傷骨格筋において細胞外マトリクスの発現量と発現パターンに違いが見られた。従ってこれらが骨格筋損傷と再生、さらには移植細胞の分化に関与している可能性が高い。今後、ECM発現量の推移を定量化し、in vitroでこれらのECMがMSCsの分化や増殖に及ぼす影響を解析する。また、ECMのノックアウトマウスを用いてin vivoでの研究も進める。【理学療法学研究としての意義】 将来、骨格筋の再生医療が普及すればこれに対する理学療法的アプローチが必要になる。
  • 松本 愛香, 藤田 直人, 荒川 高光, 三木 明徳
    p. Ab1108
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 筋萎縮はタンパク質の分解が亢進し、相対的に合成が抑制された結果として生じる。骨格筋の代表的なタンパク質分解系にはカルパイン系やユビキチン・プロテアソーム系がある。タンパク質分解の亢進は除神経や非荷重などで起こり、いずれも骨格筋に萎縮を生じさせる。電気刺激は筋萎縮の予防手段の1つとして用いられるが、筋萎縮を引き起こす原因が異なれば主となるタンパク質分解経路も異なり、その予防効果に違いが生じると予想される。そこで今回、除神経と非荷重の筋萎縮モデルを用い、電気刺激による筋萎縮予防効果の違いを検討した。【方法】 12週齢のWistar系雄性ラットを対照群(Con群)、坐骨神経を除神経した群(Den群)、除神経+電気刺激群(Den+ES群)、後肢非荷重群(HU群)、後肢非荷重+電気刺激群(HU+ES群)に区分した(各群n=6)。電気刺激は前脛骨筋の筋腹を経皮的に刺激することで実施し、刺激条件は周波数を100Hz、パルス幅は1msとした。刺激強度はDen+ES群及びHU+ES群ともに、同じ収縮張力が発生する値とした。電気刺激は1秒間の刺激と2秒間の休息を20回繰り返し、午前と午後に5セットずつ、一日合計200秒実施した。なお、セット間には5分間のインターバルを設けた。2週間の実験期間終了後、前脛骨筋を摘出して湿重量を測定した後に急速凍結した。得られた筋試料から、横断切片を作製し、ATPase染色(pH 4.5)所見にて筋線維をタイプI、IIA、IIBに分け、筋線維タイプごとに横断面積を算出した。また、筋試料の一部はWestern blot法によるカルパイン-1、カルパイン-2、及びユビキチン化タンパク質の解析に用いた。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用い、有意水準は1%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 筋湿重量と全てのタイプにおける筋線維横断面積は、Con群に比べて他の全ての群で有意に低値を示した。また、筋湿重量とタイプIIB線維の横断面積に関して、Den群はHU群に比べて有意に低値を示し、Den+ES群はDen群よりも有意に高値を示したが、HU群とHU+ES群の間に有意差を認めなかった。Den群におけるカルパイン-1 、カルパイン-2、及びユビキチン化タンパク質の発現量はCon群とHU群に比べて高値を示した。HU群におけるカルパイン-1とユビキチン化タンパク質の発現量はCon群との間に有意差は無かったが、カルパイン-2のみ増加傾向を示した。カルパイン-1 、カルパイン-2、ユビキチン化タンパク質に関して、Den+ES群はDen群よりも低値を示した。【考察】 筋萎縮の程度は非荷重よりも除神経でより大きく、電気刺激による筋萎縮予防効果も非荷重に比べて除神経で高かった。また、除神経による筋線維横断面積の減少と萎縮予防効果は前脛骨筋に多く含まれるタイプIIB線維において顕著であった。本研究では、除神経と非荷重の両方においてカルパイン系の発現が増加したため、カルパイン系は除神経と非荷重における筋萎縮に影響を及ぼしたと考えられる。しかし、ユビキチン化タンパク質の発現は除神経でのみ増加しており、除神経において筋萎縮の程度が大きくなったことにはユビキチン・プロテアソーム系の関与があると考えられる。ユビキチン・プロテアソーム系は骨格筋の筋萎縮において主な作用をするとされているため(Stewart,1999)、カルパイン系よりも筋萎縮を強く引き起こしたと考えられる。また電気刺激によって除神経群の筋萎縮を抑制できたのは、除神経でのみ増加したユビキチン化タンパク質の発現を電気刺激が抑制できたためであろう。【理学療法学研究としての意義】 筋萎縮が生じる原因によって影響を受けやすい筋線維とタンパク質分解系が異なるため、最適な刺激条件を選択する必要性が示唆された。
  • 稲元 健太, 金指 美帆, 金澤 佑治, 前川 健一郎, 藤田 直人, 藤野 英巳
    p. Ab1109
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 廃用により骨格筋は量的な減少である萎縮と質的な変化である速筋化を生じる。筋萎縮の回復には長期間のリハビリテーションが必要となるため、筋萎縮の予防が重要である。また、リハビリテーションと併用した栄養管理の重要性も論じられている。栄養管理の役割は、栄養障害の改善や予防であり、生体維持に重要である。骨格筋が萎縮すると筋量の減少、アルブミンの低下、ミトコンドリアの機能不全や減少、免疫能の障害をもたらし、窒素死に至る。これらを予防するために適切な栄養管理が必要となる。そこで栄養補助食品を使用することで骨格筋の廃用性筋萎縮を予防できるかどうかについて検証するために、アルギニンの含有量が多く、プロタミンを主成分とするヌクレオプロテインに着目した。アルギニンは一酸化窒素合成酵素の基質となり、一酸化窒素の産生量を増加させ、骨格筋におけるミトコンドリア新生に関与すると報告されている。そこで本研究では、ヌクレオプロテイン摂取による廃用性筋萎縮の予防、特に質的な変化に対する効果について検証した。【方法】 8週齢の雄性SDラット27匹をコントロール群(CO:n=7)、ヌクレオプロテインのみを投与した群(CN:n=6)、後肢非荷重群(HU:n=7)、後肢非荷重+ヌクレオプロテイン投与群(HN:n=7)の4群に分けた。CN群とHN群には150mg/kgのヌクレオプロテインを1日2回に分けて経口投与した。2週間の実験期間終了後、ペントバルビタールによる深麻酔下で長指伸筋を摘出し、湿重量を測定した後に急速凍結した。得られた筋試料から12μm厚の横断切片を作製し、ミオシンATPase染色(pH4.5)にて筋線維をタイプI線維、タイプIIA線維、タイプIIB線維に分別し、筋線維タイプ別の横断面積と筋線維タイプ構成比率を算出した。得られた結果は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】 筋湿重量は、CO群と比較してHU群とHN群では有意に低値を示した。また、HU群とHN群の間には有意差を認めなかった。筋線維のタイプI線維とタイプIIB線維の横断面積は、CO群と比較してHU群とHN群では有意に低値を示したが、HU群とHN群の間には有意差を認めなかった。また、タイプIIA線維の筋横断面積は4群間に差が認められなかった。一方、筋線維タイプの構成比率を観察すると、HU群でタイプI線維の比率がCO群より有意に減少し、速筋化していたのに対して、ヌクレオプロテインを投与したHN群ではCO群と差が認められなかった。また、タイプIIA線維の比率も同様に、HU群では有意に減少したのに対しHN群は減少を示さなかった。これらの結果より、ヌクレオプロテイン摂取で廃用性筋萎縮による筋線維の速筋化を予防できた。【考察】 ヌクレオプロテイン摂取は非荷重に伴う筋萎縮の予防には効果を示さなかったが、速筋化を予防した。後肢非荷重ラットに対するアルギニン投与により遅筋の一酸化窒素が誘導され、筋湿重量、筋線維横断面積の減少を予防し、ミトコンドリア新生を促したとの報告がみられる。本研究においても、ヌクレオプロテインに含まれるアルギニンにより一酸化窒素が誘導された結果、長指伸筋における速筋化を予防した可能性がある。一方、ヌクレオプロテイン摂取により、筋湿重量や筋線維横断面積の減少を予防することはできなかった。アルギニンを500mg/kg投与することで、タンパク質分解系の酵素を減衰し、筋萎縮を予防したという報告もみられることから、本研究におけるヌクレオプロテイン投与量が不足していた可能性も考えられる。今後は、ヌクレオプロテインの効果が、摂取量依存性に異なるかどうかについて検証する必要性があると考えられる。しかし、本研究の結果から少なくとも、ヌクレオプロテインを栄養補助食品として摂取することで、廃用による栄養障害を改善し、質的な変化である速筋化を予防する効果があることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 ヌクレオプロテインを栄養補助食品として摂取することで、廃用性筋萎縮に伴う速筋化を予防することが明らかとなった。長期安静時の栄養管理として栄養補助食品を使用することで、不活動による運動耐容能の低下を予防することができ、その後のリハビリテーションによる早期の機能回復、および日常生活への早期復帰につながる補助として有益であると考えられる。
  • 後藤 響, 坂本 淳哉, 佐々部 陵, 本田 祐一郎, 近藤 康隆, 片岡 英樹, 中野 治郎, 沖田 実
    p. Ab1110
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 われわれは関節不動によって惹起される拘縮の発生メカニズムについて多面的に検索を進め,これまでに骨格筋,関節包,関節軟骨といった結合組織の組織学的変化が拘縮の要因であることを明らかにしてきた.ただ,われわれの先行研究において上記以外に皮膚の変化が関与しているという可能性を見出していたものの,その詳細については明らかにできておらず,課題となっていた.一方,強皮症モデルマウスの皮膚を組織学的に解析した報告によれば,主に線維性結合組織で構成される真皮ならびに脂肪細胞で構成される皮下組織に線維化が生じ,これが皮膚性拘縮の発生に関与しているとされている.この報告を参考にすると,不動によって惹起される拘縮においても皮膚の線維化がその一因になっている可能性が考えられるが,この点について検討した報告は見当たらない.そこで本研究では,膝関節屈曲拘縮モデルラットを用い,皮膚の線維化の発生状況について組織学的手法により検討した.【方法】 実験動物には12週齢のWistar系雄性ラット36匹を用い,両側後肢を股・膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位にて1・2・4週間ギプス包帯で不動化する不動群(各6匹,計18匹)と無処置の対照群に振り分け,対照群は不動群と週齢を合わせるため13・14・16週齢まで通常飼育した(各6匹,計18匹).不動を開始する前は,各群すべてのラットを麻酔し,0.3Nの張力で膝関節を伸展させた際の可動域(ROM)を測定した.また,各不動期間終了時は上記の方法でROMを測定し,その後,膝関節後面の皮膚を縦切開して再度ROMを測定した.そして,ROM制限に対する皮膚の関与率を算出するため,皮膚切開前後のROMの差を求め,これを各不動期間終了時のROMで除し,百分率で表した.なお,対照群は皮膚の切開を行わず,麻酔下でROMを測定した.ROM測定後は両側膝関節後面の皮膚を採取し,組織固定,凍結包埋処理を行った.その後,各試料から20μm厚の横断切片を作製し,Hematoxilin & Eosin(H&E)染色を施し,検鏡した後に各試料の染色像をコンピューターに取り込んだ.そして,画像解析ソフトを用いて視野内に確認できる脂肪細胞と線維性結合組織それぞれの面積を計測し,これらを真皮から皮下組織の総面積で除して百分率で表したものを脂肪細胞,線維性結合組織それぞれの占める割合とした.なお,統計処理として,各不動期間における対照群と不動群の比較にはMann-WhitneyのU検定を,各群における不動期間の比較にはKruskal-Wallis検定とsheffe法による事後検定を適用した.有意水準はすべて5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は,長崎大学動物実験指針に基づき長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】 不動群のROMは各不動期間とも対照群に比べ有意に低値で,しかも不動期間の延長に伴い有意な低下が認められた.また,ROM制限に対する皮膚の関与率は各不動期間とも10%前後であり,有意差は認められなかった.両群の染色像を観察すると,対照群では線維性結合組織からなる真皮と脂肪細胞からなる皮下組織が観察されるのに対し,不動群では皮下組織の脂肪細胞が減少し線維性結合組織が増加しており,特に不動2・4週では脂肪細胞が消失し線維性結合組織に置換されている染色像も観察された.次に画像解析の結果として,真皮から皮下組織における脂肪細胞が占める割合は各不動期間とも不動群は対照群に比べ有意に低値を示し,不動期間で比較すると不動1週に比べ2・4週は有意に低値で,不動2週と4週の間には有意差を認めなかった.一方,線維性結合組織の占める割合は各不動期間とも不動群は対照群に比べ有意に高値を示し,不動期間で比較すると不動1週に比べ4週は高値を示した.【考察】 今回の結果から,不動期間に関係なくROM制限の10%前後は皮膚に由来しており,これはラット尖足拘縮モデルを用いて検索した岡本ら(2004)の先行研究と一致していた.つまり,皮膚も拘縮の責任病巣の一つといえる.そして,不動群において真皮から皮下組織の脂肪細胞が減少し,線維性結合組織が増加していた結果は,不動によって皮膚の線維化が発生していることを示唆しており,このことが皮膚に由来した拘縮の病態の一つと考えられる.ただ,線維化の発生メカニズムについては明らかにできておらず,この点については今後の検討課題と考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,不動による皮膚の線維化が拘縮発生の一因となる可能性を示唆しており,理学療法の主要ターゲットである拘縮の病態解明,治療方法確立の一助になる成果と考える.
  • 南 智恵, 藤田 直人, 荒川 高光, 三木 明徳
    p. Ab1111
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 坐骨神経を切断されたラットには、踵骨隆起後面部など有毛型皮膚に末梢神経損傷患者と類似した褥瘡様組織が観察される(小形ら,2007)。長井ら(2010)は、その実験動物の片側下肢に錘負荷を加えさらに姿勢調節を行う実験モデルを考案し、その全例で褥瘡様皮膚損傷を観察した。さらに宮川ら(2011)は、長井ら(2010)の実験動物モデルにおける皮膚損傷の形成過程を経時的に観察し、皮膚の肉眼観察の変化よりも先に内部形態において炎症反応がすでに起こっているという所見を得た。宮川ら(2011)の観察で得られた皮膚損傷所見はヒトの褥瘡形成過程における初期段階の炎症反応と類似している。炎症反応の初期においてマクロファージはアポトーシスを起こした細胞や壊死組織を貪食するために損傷部位に集積する(Rodero and Khosrotehrani,2010)。また、損傷部に集積したマクロファージはTGF-βなどの成長因子を分泌することで創傷治癒に関与すると報告されている(Mahdavian et al,2011)。すなわち、TGF-βは線維芽細胞の活性化に働き(Rodero and Khosrotehrani,2010)、線維芽細胞のコラーゲン線維合成を強く促進する(Mahdavian et al,2011)。よって、損傷部位におけるマクロファージの動態とTGF-βの組織内での発現分布を検索することで炎症の開始時期と創傷治癒のきっかけとなる時期を検討できる。本研究ではマクロファージの動態とTGF-βの発現分布を指標として、除神経後の踵骨隆起部に生じる褥瘡様組織の形成過程における炎症の開始時期と線維合成の潜在能力を検討した。【方法】 12週齢のWistar系雄ラット16匹を用いた。先行研究(長井ら,2010)に倣い、両坐骨神経を切断した後、右後肢に体重の5%にあたる錘を負荷し、踵部の接地を確実にするために姿勢調節を行った。圧負荷の加わった足底部の有毛型皮膚を肉眼で観察し、先行研究(宮川ら,2011)に倣い5ステージ(発赤腫脹期、肥厚期、白色化前期、白色化後期、開放創)に区分した。各ステージにおいて、圧負荷の加わった有毛型皮膚を切り出し、10%ホルマリンで固定した。得られた皮膚をパラフィン包埋し、3μm厚の縦断切片を作製した。その後、H-E染色にて形態学的変化を観察した。免疫組織化学染色では、集積したマクロファージのマーカーとしてED1を用いた。さらに、線維芽細胞の活性化を検討するためTGF-β1の動態も免疫組織化学染色にて観察した。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は所属組織における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得た上で実施した。【結果】 圧負荷の加わった皮膚に肥厚が肉眼的に観察された時期(肥厚期)に、圧迫部周囲の真皮に好中球やED1陽性マクロファージなどの炎症性細胞を確認した。また同時期から、圧迫部及び圧迫部周囲の真皮の線維芽細胞においてTGF-β1の発現を認めた。これらの所見は肥厚期以降も圧迫部周囲の真皮で継続した。肉眼的所見にて表皮表面の角質層が白色から黄色に変化する時期(白色化後期)に至ると、炎症性細胞と、TGF-β1発現の見られる線維芽細胞が圧迫部直下に顕著に確認されるようになった。同時期においてTGF-β1発現の見られる線維芽細胞とED1陽性マクロファージはともに比較的表層に観察され、ED1陽性マクロファージは深層でも観察された。開放創の時期になると、圧迫部で顕著に見られたED1陽性マクロファージとTGF-β1発現の見られる線維芽細胞は真皮全体に広がった。【考察】 圧迫部周囲における好中球やED1陽性マクロファージなどの炎症性細胞の浸潤は肥厚期から認められた。さらに同時期に圧迫部及び圧迫部周囲の真皮の線維芽細胞においてTGF-β1の発現を認めた。線維芽細胞のTGF-β1発現は、貪食するために集積したマクロファージの関与によるものと考えられる。TGF-β1が線維芽細胞に発現していることは、線維芽細胞がコラーゲン線維の合成を行っている可能性を示すものと考えられる。すなわち、肥厚期には組織の壊死が始まり、同時に組織の修復反応も起こっていることを示唆している。白色化後期に至るとED1陽性マクロファージとTGF-β1発現の見られる線維芽細胞は圧迫部直下に顕著に確認されるようになった。その後、開放創の時期になると、圧迫部で顕著に見られたED1陽性マクロファージとTGF-β1発現の見られる線維芽細胞は真皮全体に広がる。これは、局所の圧迫が持続することにより組織の壊死やそれに伴う修復反応が深部に拡大し、開放創の時期には其は全体に及んでいることを示唆している。【理学療法学研究としての意義】 ヒトでは困難である褥瘡形成過程および炎症反応や線維合成の潜在能力を観察することができた。今後の褥瘡予防および治療の介入実験の基礎データとして重要である。
  • 榊間 春利
    p. Ab1112
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 脳梗塞後の早期理学療法は機能回復を促進する。動物実験において、脳梗塞後の運動は神経保護機能を高め、神経修復を刺激し機能回復を促進することが報告されている。また、脳梗塞後の薬物治療による神経保護効果も数多く報告されている。しかしながら、その併用効果に関する報告は少ない。今回、S-ニトロソグルタチオン(GSNO)の投与と運動トレーニングを併用することにより神経保護の相乗効果が認められるのかどうか検討した。GSNOはグルタチオンとNOの生理学的な代謝産物であり、生体内に広く分布し、血管弛緩性などNO類似の生理活性を有する。また、炎症や酸化ストレスによる損傷から血管内皮機能を保護する。GSNOの投与はNFkBを介してiNOSの発現を減少させる。さらに、Caspase 3の発現を減少させアポトーシス抑制に働く。本研究の目的は、(1)脳梗塞ラットにおけるGSNOと運動の併用が神経栄養因子の発現増加や機能回復促進に影響するかどうか、(2)そのメカニズムとしてPI3/AKT経路を介して神経保護、機能回復が行われているのかを調べることである。【方法】 実験動物には9週齢の雄性SDラットを使用した。脳梗塞作製後ラットは無作為にGSNO投与群、GSNO投与+運動群(併用群)、運動群、コントロール群(各8匹)に分けた。脳梗塞は左内頸動脈から糸を挿入して60分間の虚血再潅流により作製した。GSNO投与は初回のみ再潅流後1時間以内に尾静脈より投与(0.25mg/kg 体重)し、2回目以降は経口投与とした。運動群はロータロッド運動を脳梗塞後3日から12日間行った。運動負荷は徐々に増加していった(5-20min、2.4-4.8 m/min )。脳梗塞作製14日後まで観察した。機能評価には神経学的所見、棒上歩行テスト、ロータロッド運動テストを行い、脳梗塞1,7,14日後に評価した。さらに、GSNO投与群、運動群(各7匹)にPI3/AKT 経路抑制剤(LY294002)を投与し、7日後に運動機能評価を行い、比較検討した。脳梗塞巣の大きさ、Brain derived neurotrophic factor (BDNF)とその受容体であるTrkB、caspase3抗体による免疫組織学的染色、TUNEL染色を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は鹿児島大学動物実験委員会の承認を得た。【結果】 脳梗塞巣の大きさは運動群、GSNO投与群、併用群ともに減少していたが、GSNO投与群と併用群のみ有意に減少していた。機能評価は治療群すべてにおいて、コントロール群と比べて有意な改善を認めた。特にロータロッド運動テストにおいて、併用群はGSNO投与群や運動群と比べて早期に有意な改善が認められた。BDNFやTrkB陽性細胞は治療群で有意に増加していた。しかしながら、治療群間において有意な違いはなかった。また、治療群のTUNEL陽性細胞やCaspase3陽性細胞数は減少していた。LY294002投与ラットはコンロトロール群と比較して機能改善が認められなかった。【考察】 脳保護にはGlia Neurovascular Unit が相互に影響し合っており、そのメカニズムの一つは神経栄養因子やサイトカインなどの分子によって機能されている。神経保護だけを標的とした薬物治療はほとんど効果がなく、炎症や酸化ストレスによる二次的な損傷に対して治療を行うことが重要になる。今回の結果より、薬物を投与することにより脳梗塞巣の縮小効果、BDNFの発現増加、アポトーシス抑制や機能回復が認められた。また、運動負荷のみにおいても脳梗塞14日後においては有意な脳梗塞縮小効果、BDNFの発現増加、アポトーシス抑制が観察された。薬物と運動療法を併用することにより運動機能の改善が早期より観察された。PI3/AKT経路抑制剤の投与により機能回復が認められなかったことは、運動やGSNO投与による治療がPI3/AKT経路を介して神経保護や神経栄養因子の発現、機能回復に関与していることを示唆する。【理学療法学研究としての意義】 本研究は脳梗塞後の運動や薬物治療、その併用による機能回復促進効果について調べた。脳梗塞後の運動療法の有用性や作用機序を解明することで脳卒中早期理学療法の科学的根拠となる有用な知見であると考える。
  • 大渡 昭彦, 池田 聡, 吉田 輝, 原田 雄大, 上川 百合恵, 根路銘 周子, 川平 和美
    p. Ab1113
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 我々は機能回復のプロセスに関わる脳内物質を明らかにし,その発現と運動刺激の関連を調べることにより,運動療法の効果を明らかにすることを目指して研究を行っている。今回の研究では,線条体と海馬において神経伝達物質であるモノアミンの細胞外濃度が,運動を行うことによりどのように変化するかを明らかにする目的で実験を行った。【方法】 マイクロダイアリシス法は,自由行動下の動物の行動観察と同時に組織の生体内物質の変動を経時的かつ連続的に検討できる唯一の方法である。今回の研究ではこのマイクロダイアリシス法を使用してモノアミン(NE:ノルエピネフリン,DA:ドーパミン,5-HT:セロトニン)の細胞外濃度変化を測定した。実験には9週令のWistar系ラットの雄17匹(線条体10匹,海馬7匹)体重306±17gを使用し,イソフルランの吸入麻酔下でラットを脳定位固定装置(SR-8N Narishige)で固定し,線条体,海馬にガイドカニューレを挿入した。挿入位置はブレグマを基準に線条体は(anterior:+0.2mm,lateral:3.0mm,ventral:3.5 mm),海馬は(anterior:-3.8mm,lateral:2.0mm,ventral:1.6 mm)とし,2個のアンカービスと歯科用セメントで固定した。計測は術後3日目に微量生体試料分析システム(HTEC-500,エイコム社製)を使用し,全体で約6時間にわたり15分間隔でモノアミンの細胞外濃度を測定した。運動はラット用トレッドミルを使用し,傾斜角度0°,18m/minの速さで行った。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の実験は鹿児島大学動物実験指針に従い,鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】 マイクロダイアリシスのデータは,測定開始時が不安定になることからプローブ挿入後3時間以降の1時間を運動前,運動中は30分間,運動後1時間を運動後のデータとして採用した。線条体ではNEを同定できなかったが,DAは運動前60分間の平均をとると1.8±0.8mVで,運動中30分間の平均は2.1±1.0mV,運動後60分間の平均は2.4±1.2mVであった。5-HTの運動前60分間の平均は0.17±0.11mVで,運動中30分間の平均は0.23±0.15mV,運動後60分間の平均は0.15±0.11mVであった。海馬でのNEは運動前60分間の平均が0.08±0.07mVで,運動中30分間の平均は0.25±0.14mV,運動後60分間の平均は0.14±0.11mVであった。DAは運動前60分間の平均をとると0.02±0.03mVで,運動中30分間の平均は0.08±0.06mV,運動後60分間の平均は0.07±0.06mVであった。5-HTの運動前60分間の平均は0.20±0.26mVで,運動中30分間の平均は0.39±0.43mV,運動後60分間の平均は0.17±0.09mVであった。【考察】 今回の結果から線条体,海馬における運動によるモノアミン細胞外濃度変化を確認することができた。線条体では5-HTが走行中に濃度が上昇し,走行後に速やかに低下する傾向を示した。海馬でも5-HTは同様の傾向を示した。5-HTはリズム運動で上昇することが知られており,今回のトレッドミル運動も繰り返し動作なので,これまでの結果を支持するものと考えられる。NE濃度は海馬で運動中に上昇して,運動後に低下する傾向を示した。NEは不安や意欲,学習と関係があり,脳梗塞後遺症患者で低下するとされている。今回の結果から,運動によりNE濃度が上昇して意欲が向上する可能性も考えられる。また,DA細胞外濃度はトレッドミル走行中に上昇し,走行後も高濃度が維持される傾向がみられた。DAは報酬に関与しており運動学習との関係が考えられる。運動により全てのモノアミン細胞外濃度が上昇するという今回の結果であるが,特に注目されるのは濃度上昇の変化である。DAだけは運動後も濃度上昇が維持される傾向がみられた。今後,DAと機能回復の関係も含めて更なる検討を行いたい。【理学療法学研究としての意義】 今回の実験では対象数が少なく傾向しか示せていないが,モノアミンは運動や学習,機能回復に大きく関与しており,運動や行動との関係を明らかにすることは理学療法のエビデンスを示す基礎データをとなり,理学療法の発展に大きく貢献できると考えられる。
  • 渡邊 晶規, 細 正博, 松崎 太郎, 小島 聖
    p. Ab1114
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 関節拘縮の治療としてストレッチや種々のモビライゼーション手技が用いられている。これらに対する臨床報告は多数みられるものの、基礎研究によりその効果を検証した報告は少なく、ストレッチやモビライゼーションによる関節構成体への影響は明らかにされていない。そこで、本研究では骨運動を促す単純な伸長運動をストレッチ、関節包内運動を促す関節包の伸長運動をモビライゼーションと定義し、これらの関節構成体に与える影響を、実験動物ラットによる膝関節拘縮モデルを用いて、病理組織学的に検討することを目的とした。【方法】 対象として9週齢のWistar系雄ラット21匹を用いた。対照群(C群、n=4)と実験群(n=17)にわけ、実験群は右後肢を股関節最大伸展、膝関節最大屈曲、足関節最大底屈位で8週間ギプス固定を行った。その後無作為に、直ちに膝関節を採取する不動化群(I群、n=4)、8週間の通常飼育を行うF群(n=3)、8週間のストレッチを行うS群(n=5)、8週間のモビライゼーションを行うM群(n=5)の4群に振り分けた。ストレッチは下腿部を体幹長軸方向に牽引し、モビライゼーションは膝関節関節面が平行移動するように、脛骨近位部を後方から前方にかけて力を加えた。共に用いた負荷量は体重と同程度とし、1日5分、週5回行った。対照群は全期間中、通常飼育を行った。ギプス固定前後および以降毎週1回の膝関節可動域測定を実施した。飼育終了後、4%パラフォルムアルデヒドにより灌流固定を行い、右後肢を股関節より採取した。72時間の浸透固定後、プランクリュクロ溶液にて脱灰し、矢状面が観察できるよう膝関節を切り出し、中和、脱脂操作を経てパラフィン包埋した。3~5μmで薄切した後、HE染色を実施し光学顕微鏡下にて観察を行った。加えて画像処理ソフトを用い、染色像から後部関節包の厚さを計測した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は名古屋学院大学動物実験規定に準拠し、同大学が定める倫理委員会の承認のもとに飼育・実験を行った。【結果】 8週間のギプス固定により約60度の伸展制限が得られた。その後の実験期間中、各群ともに制限角度は減少したが、8週後も約20度が残存し3群間で有意な差を認めなかった。膝蓋靭帯下の滑膜所見について、C群では脂肪細胞の萎縮及び線維芽細胞の増生を認め、増生した滑膜組織と軟骨表層の癒着を認めた。S群、M群、F群においては、ともに軟骨表層との癒着は認められなかったものの、同様に脂肪細胞の萎縮及び線維芽細胞の増生を認め、軟骨表層の一部が線維組織に置換されていた。3群間において明らかな差は認められなかった。後部関節包ではC群で膠原線維束の肥厚と間隙の狭小化を認めた。S群、M群、F群の3群では、C群に比べ膠原線維束間の間隙が拡大する傾向にあったが、3群間での差を認めなかった。またC群と比較して膠原線維が密な部分と疎な部分が不均一に観察された。観察した全ての標本、部位において、炎症細胞の浸潤は認められなかった。後部関節包の厚さも各群間で有意な差を認めなかった。【考察】 ストレッチおよびモビライゼーション介入の有無による著明な違いを認めることが出来なかった。先行研究(武村ら,2002,渡邊ら,2009)においては、本研究と治療介入の方法が異なるものの、頻度・時間はおよそ同程度で、その介入による組織学的な相異が報告されている。これらの報告より長期間で検討した本実験においては、介入を行ったわずかな時間以外の自動運動による改善の影響は大きく、その差を認めなかったものと考えられた。拘縮に対する理学療法として、ストレッチやモビライゼーションは頻繁に用いられているが、拘縮に対するストレッチの効果を検証した先行研究(Mosely,2005)では、明らかな効果が認められていないのが現状である。これらから、拘縮に対するストレッチやモビライゼーションの効果は一定の見解が得られておらず、種々のバイアスが存在しているものと考えられる。今後は対象を増やすとともに、介入方法を再考し、継続検討が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 理学療法を実施する上で、関節拘縮が対象となることは多いにも関わらず、その介入効果を病理組織学的に検討した報告はほとんどない。本研究での試みはこれに一石を投じるものであり、理学療法学を構築する上で足掛かりとなる重要なものであると考える。
  • ─ラットモデルによる実験的検討─
    森山 英樹, 阿閉 瞳, 高橋 由妃, 渡邉 良平, 島田 昇, 折田 直哉, 金村 尚彦, 小澤 淳也, 木藤 伸宏, 出家 正隆
    p. Ab1115
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【目的】 理学療法領域におけるストレッチは,身体諸機能を正常に保つうえで重要な治療手段である。脊髄損傷患者に対しても日常頻繁に実施されるが,その目的は関節可動域制限,特に筋機能の改善に置かれてきた。メカニカルストレスは,関節軟骨の整合性に大きな影響を及ぼす。関節軟骨は荷重に対する感受性が高く,無荷重では生物学的特性が急激に変性し,さらに運動制限はその変性を助長する。同様に,脊髄損傷患者の下肢関節には,長期間荷重が加わらず,運動も制限される。ストレッチによるメカニカルストレスは,脊髄損傷後の関節軟骨にも影響を及ぼすことが推測される。本研究では,ストレッチに対する脊髄損傷後の膝関節軟骨の反応を,組織形態計測的,免疫組織化学的に分析することを目的とした。【方法】 32匹の10週齢のWistar系雄性ラットを用いた。ラットを無介入で通常飼育する対照群,脊髄損傷後に無介入の脊髄損傷群,そして脊髄損傷後に6種類のストレッチを実施する群に均等に分けた。ストレッチの種類は,持続的ストレッチを,高トルクあるいは低トルクで長時間行う群,高トルクあるいは低トルクで短時間行う群,間欠的ストレッチを,高トルクあるいは低トルクで行う群とした。持続的ストレッチの長時間が30分間,短時間が15分間とし,間欠的ストレッチは60秒間伸張と30秒間休息を30分間繰り返した。強度はUsubaら(Clin Orthop Relat Res 2007)の方法に準じて,理学療法士が関節を最大限にストレッチする力と同等を高トルク(0.045N)とし,中等度の力と同等を低トルク(0.02N)とした。脊髄損傷後翌日から10日間毎日1回,麻酔下で膝関節伸展方向にストレッチを実施した。実験期間終了後,膝関節を採取し,Kawamoto(Arch Histol Cytol 2003)の方法に従い,内顆中央部矢状面での非脱灰凍結切片を作製した。健常での優位な荷重部位である大腿骨後方と脛骨後方,劣位の大腿骨前方と脛骨前方を分析部位とした。トルイジン青で染色した組織切片で,非石灰化軟骨の厚さと,それに石灰化軟骨を合わせた軟骨全層の厚さを測定した。群間比較は,一元配置分散分析とその後のTukey's HSD検定による多重比較で行った。免疫組織化学的分析は,抗II型コラーゲン,抗VEGF,抗MMP-13を一次抗体とし,ABC法にて行った。【倫理的配慮】 本研究計画は,広島大学動物実験施設の承認を受けた(承認番号A10-112)。【結果】 軟骨全層の厚さはいずれの部位でも異なっていなかった(P > 0.05)が,非石灰化軟骨の厚さは,ストレッチの影響は認められなかったものの,大腿骨後方でのみ脊髄損傷後に有意に減少した(P < 0.001)。脊髄損傷群の大腿骨軟骨では,II型コラーゲンの染色性が低下していた。ストレッチにより,非石灰化軟骨での染色性が増加した。間欠的・高トルク群と短時間群で最も強く,次いで間欠的・低トルク群,長時間群の順であった。脊髄損傷群の脛骨軟骨では,浅層から中間層での染色性が低下していたが,深層で増加し,この傾向は短時間群でより顕著であった。長時間と間欠的の低トルク群では,染色性が低下したが,高トルク群では明瞭に染色されていた。脊髄損傷群のMMP-13は,大腿骨,脛骨ともに特に中間層の細胞領域が染色されていた。高トルク群では大腿骨軟骨でのみ,長時間と短時間の低トルク群では脛骨でのみ,間欠的・低トルク群ではその両方で染色されていた。脊髄損傷群のVEGFは,対照群よりも増加した。間欠的・高トルク群は対照群と同程度であった。低トルク群では,脊髄損傷群よりも強く染色されていた。さらに長時間と短時間の高トルク群では,最も染色性が増加した。これらの免疫染色の結果は,大腿骨後方と脛骨後方で顕著であった。【考察】 II型コラーゲンは軟骨の主要なコラーゲンであり,MMP-13はその最も強い分解酵素である。本研究での両者の染色性は一貫していなかったことから,ストレッチが軟骨代謝の恒常性に影響を及ぼすことが示唆された。関節の荷重によるメカニカルストレスでVEGFの発現が誘導されるが,ストレッチによるメカニカルストレスでも誘導されることが示された。VEGFの発現増加により,軟骨下骨から血管の侵入が生じる。本研究での非石灰化軟骨の菲薄化とVEGFの発現は,我々が報告した脊髄損傷後4週での軟骨全層の厚さの減少と軟骨下骨からの血管侵入(Osteoarthritis Cartilage 2008)に先行することが示唆された。また荷重部では,メカニカルストレスに対する感受性が高いことを反映するように,ストレッチによる軟骨特性の変化は,荷重部で顕著であった。【理学療法学研究としての意義】 ストレッチにより,軟骨の形態よりも,特性が大きく変化する。本研究では,その功罪を断定できないが,脊髄損傷後の軟骨に変化を引き起こすことを目的とする場合,関節を最大限に伸張することが推奨される。
  • 山口 将希, 黒木 裕士, 伊藤 明良, 張 項凱
    p. Ab1116
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 変形性関節症(OA)は、関節軟骨の変性を伴う変性疾患であり、メカニカルストレスをはじめ様々な要因によって発症することが知られている。動物実験ではGaloisなどにより運動が関節軟骨に及ぼす影響として、長期的、あるいは高強度の運動ではOAが進行する一方で、軽度または中等度の運動で関節軟骨の修復があるという相反する運動効果について報告がなされている。しかし、運動強度に関する比較検討はそれほどなされていない。実験動物では、現在、前十字靱帯切除(ACLT)を行なって、OAを誘起させるモデルが世界中で広く用いられている。そこで本実験ではラットにACLTを行なって、OAモデルを作成し、このモデルに対する運動が関節軟骨に及ぼす影響を運動強度、時間経過別に評価することを目的とした。【方法】 対象は8週齢のWistar系雄ラット18匹を対象とし、3日間の通常飼育を行ない、4日目から1週目までトレッドミル走行に慣れさせる運動適応を行なった。その後、16匹には麻酔下にて右後肢に対し、ACLTを行い、OAモデルとした。9週齢ラット(平均体重226.8g)を無作為に4群(2週無負荷群 n=3、2週中等度負荷群 n=4、2週高強度負荷群 n=4、4週負荷群 n=4)に分類した。無処置の2匹をcontrol群として、中等度負荷のみ行った。運動負荷はラット用トレッドミルにて負荷を与えた。負荷強度は中等度速度とされる18m/minとし、2週中等度負荷群にはこの負荷を30分間、週3回、2週間与えた。2週高強度負荷群には同じ速度の負荷を60分間、週3回、2週間与えた。2週無負荷群には負荷を与えず2週間ケージ内飼育のみとした。Control群(ACLT無処置群)には同じ速度の負荷を30分間、週3回、2週間与えた。4週負荷群には2匹には同じ速度の負荷を30分間、週3回、4週間与えた。残り2匹には同じ速度の負荷を60分間、週3回、4週間与えた。運動はすべて1日以上の間隔をあけて与えた。飼育後、ラットを安楽死させ、膝関節標本を摘出し、4%パラホルムアルデヒドにて組織固定を行なった。固定後、PBSにて置換した後、EDTA中性脱灰処理した。脱灰後、パラフィン包埋処置を行い、包埋したサンプルをミクロトームにて6㎛切片に薄切した。組織観察は薄切した切片をトルイジンブルーおよびHE染色にて染色し、OARSI(Osteoarthritis Research Society International)のGrade、StageおよびScoreスコアおよびステージを用いて顕微鏡下で膝関節軟骨の組織評価を行った。統計処理は2週無負荷群、2週中等度負荷群、2週高強度負荷群はクラスカルワリス検定を行い、Scheffe法で多重比較し、有意水準を5%とした。Control群および4週負荷群は統計処理せずに観察のみ行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属大学動物実験委員会の規定に準じて行なった。【結果】 2週無負荷群、2週中等度負荷群、2週高強度負荷群OARSI Gradeはそれぞれ0.7±0.5、1.3±1.1、3.3±0.8で無負荷群と中等度負荷群のあいだには有意差を認めなかったが、無負荷群と高強度負荷群のあいだに有意差を認めた(P<0.05)。Stageはそれぞれ1.3±1.3、1.5±1.1、2.5±0.9であった。Scoreはそれぞれ1.3±1.2 、3±3.5 、8.5±4.6であった。StageおよびScoreにおいては各群に有意差を認めなかった。またcontrolのGrade、Stage、Scoreはいずれも0であった。【考察】 OAモデルラットにおける運動負荷では中等度の負荷により、2週という短期間では関節軟骨のOA進行に対して著明な悪影響を及ぼさないことが示唆された。しかし高強度の運動負荷では2週という短期間でもOAの進行を促進させることが示唆された。この高強度で4週間の運動負荷が与えられるとOAは明らかに進行することがわかった。【理学療法学研究としての意義】 最近の報告では、ヒトOAに対する荷重状態での運動負荷はOA進行の抑制、進行両面の効果を持つことが示唆されている。今回の研究結果は、ラットにおいてもOAが進行しない負荷と、進行する負荷とがあることを示している。これらの負荷が及ぼす長期的影響の検討は今後の課題であるが、理学療法の臨床においても軟骨変性への影響を考慮した運動強度を意識する必要があると考える。
  • Al-Nassan Saad, 藤田 直人, 近藤 浩代, 村上 慎一郎, 藤野 英己
    p. Ab1117
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 ユビキチン-プロテアソーム系は主要なタンパク質分解系の1つであり,廃用性筋萎縮では,本系の活性が上昇することが知られている.TNF-αはユビキチン-プロテアソーム系の上流に位置する因子であり,その発現量の増加は筋線維におけるタンパク質の分解を促進するとされている.高強度のレジスタンス運動は萎縮筋におけるTNF-αの発現を軽減し,廃用性筋萎縮の予防に有効である.一方,低強度の持久運動が廃用性筋萎縮の予防に有効であるかどうかは不明であり,筋萎縮予防に対する運動療法プロトコルとしての根拠は未だ得られていない.また,低強度の持久運動がユビキチン-プロテアソーム系におけるシグナル伝達因子に及ぼす影響も明らかではない.本研究では,TNF-α,及び筋特異的ユビキチンリガーゼE3の1つであるatrogin-1/MAFbxを指標にして,長期間の持久運動による筋萎縮予防効果を検証した.【方法】 ICR系雄マウスを6週間の後肢非荷重群(HU),後肢非荷重期間中に持久運動を実施した群(HU+Ex),及び対照群に区分した.HU+Ex群における持久運動にはトレッドミルを用い,分速18mの走行運動を1日1時間,週に6回の頻度で,6週間の実験期間を通じて実施した.最後の持久運動終了24時間後に腓腹筋を摘出し,筋湿重量を測定後に凍結保存した腓腹筋外側頭の凍結切片を作製し,SDH染色を施し,遅筋線維,及び速筋線維における筋線維横断面積とSDH活性を測定した.腓腹筋内側頭は,ELISA法によるTNF-αタンパク質発現量の測定と,定量リアルタイムPCR法によるTNF-α,及びatrogin-1/MAFbxのmRNA発現量の測定に用いた.得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得た上で実施した.【結果】 HU群の筋湿重量と筋線維横断面積は対照群に比べて有意に減少したが,HU+Ex群はHU群より有意に高値を示した.また,HU群の筋線維におけるSDH活性は,遅筋線維および速筋線維ともに,対照群に比べて有意に低値を示したが,HU+Ex群はHU群より有意に高値を示した.TNF-αタンパク質発現量に関して,HU群では対照群に比べて有意に増加したが,HU+Ex群ではその過剰発現が抑制された.TNF-αとatrogin-1/MAFbxのmRNA発現量に関して,HU群では対照群に比べて有意に増加したが,HU+Ex群ではHU群より有意に減少した.【考察】 長期的な持久運動は非荷重に伴う筋萎縮の予防に有効であり,萎縮筋におけるTNF-αとatrogin-1/MAFbxの過剰発現を抑制し,ユビキチン-プロテアソーム系を介して筋萎縮の軽減が得られることを明らかにした.TNF-αはp38MAPK経路を介してatrogin-1/MAFbxやMuRF1などの筋特異的ユビキチンリガーゼE3の発現を誘導しているとされており,ユビキチン-プロテアソーム系におけるシグナル伝達経路の上流因子である.本研究で行った持久運動の強度は,先行研究で筋萎縮が軽減したと報告されている運動に比べて軽度であったにもかかわらず,同程度の筋萎縮予防効果が得られた.低強度の持久運動でも筋萎縮予防効果が得られたのは,廃用性筋萎縮に最も関与するタンパク質分解系の経路であるユビキチン-プロテアソーム系の上流因子を抑制したことに起因すると考えられる.また,持久運動は廃用性筋萎縮に伴う筋線維におけるSDH活性の低下を軽減したことから,ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を維持し,ATP合成の機能維持や活性酸素種の軽減にも有効である可能性が示唆された.活性酸素種は炎症性サイトカインであるTNF-αと同様に,筋線維におけるミトコンドリア由来のアポトーシスを誘導する因子であるとされている.長期的な持久運動はミトコンドリアに局在するSDH活性を維持したことから,ミトコンドリア機能を維持したことで,廃用に伴って増加する活性酸素種の発現を軽減し,筋線維のアポトーシス抑制にも影響を及ぼした可能性が示唆される.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は廃用性筋萎縮予防に対する持久運動の有効性を示した.また,長期間の安静が予想されるにもかかわらず,高強度のレジスタンス運動が禁忌である場合等における運動療法プロトコルの作成に貢献すると考える.
  • 立川 都美, 矢田 順治, 知花 尚徳, 大橋 浩太郎
    p. Ab1297
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 高齢者大腿骨近位部骨折において、歩行能力の再獲得が重要とされており、歩行能力の予後予測に関した研究が多い中、階段昇降能力についての研究が少ない。高齢者の階段昇降においては、下肢筋力の関連性が指摘されているが、身体能力以外に着目した研究がみられない。そこで、本研究の目的として、回復期リハビリテーション病院の大腿骨近位部骨折患者における退院時階段昇降能力に関係する予測因子を調査することである。【方法】 期間は2008年4月から2011年7月であった。対象者は65歳以上の大腿骨近位部骨折受傷者で、急性期病院にて手術を施行し、リハビリテーション目的にてリハビリテーションセンター熊本回生会病院転院した者であった。カルテより情報収集を行い、退院時歩行が不可能であった者は除外した140例であった。調査項目は、性別、年齢、骨折部位、在院日数、受傷前・退院時歩行能力、受傷前・退院時歩行自立度、両側骨折の有無、認知症の有無、疼痛の有無、片麻痺の有無、膝伸展の簡易徒手筋力(以下、MMT)、股関節屈曲可動域、 Functional Independence Measure(以下、FIM)入院時・退院時合計、FIM下位項目の歩行・階段点数、改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)を挙げた。退院時FIM階段項目の6~7点を自立群(以下、自立群)、1~5点を非自立群(以下、非自立群)と定義づけした上で分類した。上記項目の自立群と非自立群の比較を単変量解析(χ2検定、t検定、Mann-WhitneyのU検定)にて行った。また、自立群と非自立群を目的変数としたロジスティック回帰分析を実施し、有意差が認められた項目を説明変数として、多変量解析を行った。統計ソフトはStatFlex Ver.4.1を用い、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき実施した。対象者においては個人情報保護に対する同意を得て個人が特定されないよう配慮し、また、当院の倫理委員会による承諾を得て実施した。【結果】 140例中、階段昇降動作が自立したのは41例で全体の29%であった。自立群と非自立群間では、性別、年齢、退院先、在院日数、受傷前歩行能力、退院時歩行能力、退院時歩行自立度、入院時FIM、退院時FIM、HDS-R、認知症、退院時歩行FIM、膝伸展MMTに有意差が認められた(13項目の全てにおいてp<0.01)。骨折部位、受傷前歩行自立度、股関節屈曲可動域、両側骨折・疼痛・片麻痺の有無に関しては、有意差は認められなかった。上記項目より退院先、在院日数、退院時FIM、退院時歩行自立度、FIM歩行の6項目は、退院時の階段昇降能力に直接関わる因子のため除去し、ロジスティック回帰分析を実施した。変数減少法にて入院時FIM(オッズ比;1.085 p<0.01)、年齢(オッズ比;0.916 p<0.01)であった。実測値と予測値の計算より信頼性は、78.6%であった。【考察】 今回の調査結果から、歩行可能者の中でも階段昇降動作が自立したのは全体の29%であり、階段昇降能力は高度な動作といえる。単変量解析より、自立群と非自立群では13項目に有意差が認められた。退院時歩行可能者の中でも有意差が認められたことにより、階段昇降動作にはより高度なレベルでの運動機能面に加え、認知面、ADLの自立度といった複数の因子が関与していると考えられる。ロジスティック回帰分析では入院時FIMと年齢に有意差が認められた。年齢が予測因子として含まれることにより、入院時FIMが高くても、高齢であれば自立困難となることがわかった。また、高齢になるほど手術後の歩行が遅延するとの報告があり、階段昇降にも同様に年齢が深く関与していることが示唆された。そして、認知症の有無及び入院時の身体状況が回復経過に影響しているとの報告もあり、入院時FIMは重要な着目点といえる。しかしながら、歩行能力の高い者の動作であるため、FIMの下位項目などより詳細な情報・評価が必要である。今回は退院時歩行不可能であった者を除外して検討したが、今後これらについても分析・検討を行う必要がある。今後の展望として、階段昇降能力は要介護高齢者の外出実行にも関与しているという報告もあり、研究に加え、併せて階段昇降能力の向上についても臨床の場で活かしていきたい。【理学療法学研究としての意義】 階段昇降能力という歩行能力の高い者のみの動作であるが、回復期病院から自宅退院へ移行する中で、患者のQOL拡大に繋がるため今後着目していく必要がある。
  • ─頸部運動制限による体幹筋活動の比較─
    渡邉 さやか, 金子 純一朗, 丸山 仁司
    p. Ab1298
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 起き上がり動作は日常生活動作の中で最も基本的な動作であり,近年の起き上がり動作の研究では,体幹機能に着目した研究・報告が多く,筋力・可動域・柔軟性などの身体機能が及ぼす影響について述べられている.臨床場面において,起き上がり動作に介助を要する方は枕から頭部を離すことや,動作中において頸部屈曲が困難なことが多いと感じる.しかし起き上がり動作における頸部の関係性について述べた報告は少ない.本研究の目的は,頸部屈曲運動制限を加えることにより,起き上がり動作において頸部の運動は体幹へどのような影響を与えるかについて検討を行った.【方法】 対象者は健常男性10名(年齢21.9±0.6歳,身長170.1±4.7cm,体重65.0±8.7Kg)とした.測定は表面筋電図(DKH社製),標準的な診療寝台,ビデオカメラ2台を用いた.また,被験者の左肩甲帯がベッドから離れるタイミングを筋電図と同期させるため,診療寝台にスイッチを設置した.表面筋電図の測定筋は左右の胸鎖乳突筋,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋とした.ビデオカメラはベッド上の被験者右側方および被験者の足下に設置し動作パターンの確認するため撮影を行った.課題は上肢を使用せずにベッド上背臥位から右側へ起き上がり,端坐位になるまでの動作とし,至適速度で行ってもらった.起き上がり動作の方法は右側の坐骨に体重を乗せながら起き上がる片側坐骨パターンと,両側坐骨に体重を乗せながら起き上がる両坐骨パターンの2パターンに限定し,計測前に十分練習を行った.また,頸部に対する条件として頸椎カラーの装着の有無2種類とし,合計4通りの起き上がり動作を各5施行実施した.なお被験者毎の計測間の休憩は任意とした.計測したデータは,各条件における5試行中,動作パターンの類似している3試行を抽出し,背臥位から左肩甲帯がベッドから離れるまでの各筋の%MVCの最大値を各条件間で比較した.なお,統計的手法は一元配置分散分析を用い,統計的有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 計測の実施に先立ち,国際医療福祉大学倫理審査委員会にて承認を得,被験者には本研究の目的と内容を説明し文書による同意を得た.【結果】 被験者は若年成人であり,起き上がり動作時の筋活動は瞬間的に生じ,各筋%MVCの最大値は左肩甲帯が挙上する直前に出現する傾向がみられた.動作開始から左肩甲帯がベッドから離れるまでの各筋%MVCの最大値において,外腹斜筋・内腹斜筋はばらつきがあり,条件間において有意な差は認められなかった.右胸鎖乳突筋では,頸椎カラーあり両坐骨パターン0.44±0.16,頸椎カラーなし片側坐骨パターン0.24±0.11を示し,統計的に有意な差が認められた.また,右腹直筋においては頸椎カラーあり両坐骨パターン0.52±0.21,頸椎カラーなし片側坐骨パターン0.28±0.16を示し,左腹直筋においても頸椎カラーあり両坐骨パターン0.58±0.25,頸椎カラーなし片側坐骨パターン0.28±0.20を示し,右胸鎖乳突筋と同様,頸椎カラーあり両坐骨パターンにおいて統計的に有意な筋活動の増加が認められた.【考察】 頸部・体幹屈曲は起き上がり動作において体重心を殿部へ集約させるための推進力として作用し,骨盤帯や下肢は身体の固定作用,回旋作用としてはたらくと考えられる.今回,頸椎カラーの装着により,頸部屈曲運動が制限され,さらに起き上がり動作のパターンを限定した.その結果,骨盤帯・下肢の回旋運動を制限する両坐骨パターンにおいて頸部運動制限により腹直筋の筋活動が増加し,腹直筋優位の体幹屈曲運動に頼る動作となる傾向が示唆された.また,頸部屈曲運動制限の有無にかかわらず,内・外腹斜筋の筋活動に有意な差は認められなかった.よって,頸部屈曲運動が制限されても体幹固定作用,回旋作用への影響は少ないと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 頸部屈曲運動は起き上がり動作を円滑に行うための一助となる可能性が示唆された.さらに,身体回旋運動が有効に作用することで頸部・体幹筋は大きく変化しないことも明らかとなり,変形性脊椎症等によって頸部運動制限がある方の起き上がり動作の指導として骨盤帯・下肢の回旋運動を誘導することで頸部・体幹筋の負担を減らすことができる可能性が示唆された.今回は若年成人の結果であり,他の年齢層では異なる結果が生じる可能性もある.今後は高齢者を対象としての検討も行いたい.
  • 小林 佳雄, 渡辺 はま, 多賀 厳太郎
    p. Ab1299
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 寝返り運動は、自発的な姿勢変換運動として乳児期に出現し、成人期まで続く全身運動の1つである。重力に逆らい身体を持ち上げ、頭部・体幹・両腕・両脚など複数の部位から成る身体を特定の姿勢に変換する運動は、各身体部位の複雑な制御を必要とする。このような寝返り運動の獲得と成熟の変化の機構を明らかにする事は、乳児の発達の原理を理解する上で極めて重要な課題である。成人を対象とした寝返り運動の先行研究としては、観察による定性的分類 (Richter et al., 1989)や生体力学的検討 (Sekiya et al., 2004)がある。一方、乳児を対象とした報告に関しては、寝返り運動の獲得過程を示したMcGraw(1941)による古典的な報告があるものの、動作解析装置を用いた定量的な検討はほとんど行われていない。そこで本研究は、3次元動作解析装置を用い、乳児の寝返り時における全身運動のパターンを定量的に分類する手法を確立することを目的とした。【方法】 健常乳児10名(日齢275.6±32.8日 男児3名、女児7名)を対象とした。計測前に、反射マーカー(半径1.5cm)33点を予めセットしたユニフォームを着用させた。6台の赤外線カメラを配置し、背臥位から寝返りを完了する(腹臥位になる)までのマーカーの位置の変化を、3次元動作解析装置(モーションアナリシス社製EvaRT)を用いてリアルタイム計測した(サンプリング周波数60Hz)。各乳児において、左右方向への寝返り運動を複数回計測した。本報告では、背臥位から側臥位に達するまでのマーカーの位置の変化を解析対象とした。寝返りの方向と同側の上肢(Ipsilateral Arm: IA)、下肢(Ipsilateral Leg: IL)、寝返りの方向と反対側の上肢(Contralateral Arm: CA)、下肢(Contralateral Leg: CL)、および体幹のそれぞれに装着した5つのマーカーの前額面における左右方向の変位から、乳児の寝返り運動の特徴を抽出した。定量的分類の手順として、まず体幹の前額面における左右方向の時間的変位をシグモイド曲線に回帰後、50%変位すなわち体幹の速度が最大となる時刻(Ttr)を決定した。次に、支持肢(運動中に身体の支持を担う肢)を同定するため、Ttrの0.5秒前の時刻からTtrまでの区間で、同側上下肢(IA,IL)それぞれについて、前額面における左右方向の速度の平均値が基準値を下回った場合、その身体部位を支持肢とした。続いて、遊肢(支持肢以外の自由に運動する肢)の時間的変位をシグモイド曲線に回帰後、四肢(TIA, TIL, TCA, TCL)それぞれについて、50%変位となる時刻を決定した。それらの時刻から、体幹と遊肢の運動のタイミングを検討する事で寝返り運動のパターンを分類した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は東京大学大学院教育学研究科倫理審査委員会より承認を得て実施した。代諾者である対象児の保護者に、研究目的および内容を書面および口頭にて説明し、書面にて同意を得た。【結果】 10名の乳児から得られた、述べ49回分の寝返り運動のデータを解析対象とした。寝返り運動における支持肢を同定した所、(A)支持肢なしの場合、(B)IAを支持肢とする場合、(C)IAおよびILを支持肢とする場合の3パターンが得られた。支持肢のパターンごとに、体幹と遊肢の運動のタイミングを検討した所、以下のパターンに細分化された。支持肢なしの場合:A-1)同時型(IA,IL,CA,CL)、A-2)同側先行型(IA,IL)→(CA,CL)、A-3)対側下肢遅延型(IA,IL,CA)→(CL)。IAを支持肢とする場合:B-1)同時型(IL,CA,CL)、B-2)対側下肢遅延型(IL,CA)→(CL)。IAおよびILを支持肢とする場合:C-1)同時型(CA,CL)、C-2)対側下肢遅延型(CA)→(CL)。また、上記の7パターンにあてはまらない寝返り運動が少数存在した。【考察】 本研究で確立した手法によって、8‐9ヶ月児の寝返り運動のパターンを定量的に分類する事に成功した。また本研究より、乳児の寝返り運動時の体幹および四肢の時間的変位の関係性に、多様なパターンが存在する事が示された。今後、他のマーカーを解析対象に含める事で、今回注目した解析対象以外の部位について検討し、より詳細な特徴を抽出する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 乳児の身体運動の定量化は、ヒトの運動発達の原理を理解し、発達支援に生かす上で重要である。今後、生後1年間に見られる寝返り運動の出現とその遷移過程を縦断的に分類し、個人ごとの発達的特性を明らかにする事で、乳児の運動発達における普遍的な機構と個人差の機構を解明することが期待される。
  • 本間 彩夏, 遠藤 瑞希, 戸谷 泰秀, 高橋 俊章
    p. Ab1300
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 足底は感覚情報を得るために,無意識であるが積極的かつ能動的に外界を探索している感覚器官であると言われている。足底での探索運動は降段動作など活動が困難になる程より必要になると考える。先行研究において足底感覚と階段動作の関係についての研究は少なく,探索が具体的にどの部位でどのような運動を行っているのか検討されてはいない。そこで本研究の目的は,降段動作における足部の感覚探索運動を明らかにし,各感覚情報を制限した時に起こる運動や身体への影響を検討することである。【方法】 対象は健常青年12名(男女各6名,年齢21.5±0.9歳,身長163.8±6.2cm,体重56.4±6.8kg)とし,段鼻に滑り止めを設置した3段の階段(踏面30cm,蹴上げ20cm)を用い,通常通り・最高速度・視覚情報を遮断した状態・探索運動を制限した状態の4課題で各3回ずつ降段した。視覚遮断にはアイマスクを使用し,探索運動の制限ではテーピングを用いた。降段は左下肢より開始し,開始側以外は被験者の自由とした。機器は三次元動作解析装置(VICON370)を使用し関節角度(頸部屈曲,体幹前後傾と側屈,股・膝・足関節屈伸)と外果-段鼻間距離を測定した。身体標点として,頭頂・C7・Th12・両側の肩峰・ASIS・股関節・膝関節裂隙・外果・第5中足骨頭・上腕骨外側上顆・左尺骨茎状突起の計18点に,さらに階段の2段目の端に反射マーカーを貼付した。また,ビデオカメラ2台を用い足底および足指の探索運動を観察した。統計解析は,関節角度と外果-段鼻間距離について各課題間の差を比較するため一元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定を用い,頸部最大屈曲の時期および探索運動の出現回数の偏りを分析するためχ2検定を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には口頭と書面にて本研究の内容を説明し同意を得た。【結果】 接地時の足指の運動(足指屈曲,足指伸展)と足部の運動(回内外,アーチが上昇し足底面が床面を捉えようとする動き)は視覚遮断で他課題よりも増加する傾向があった。下降側足関節は底屈し足指は伸展位であり,接地が足指から母指球部で開始されていることは全課題で共通していた。全課題において有意に足指が滑り止めにかかっていた(p<0.01)。頸部屈曲角度は視覚遮断で他課題より有意に小さくなった(p<0.01)。頸部の最大屈曲が起こる時期は,最高速度において,他課題と比較してより動作の前期となる傾向がみられた。膝関節屈曲角度は最高速度に比べ視覚遮断で有意に大きかった(p<0.05)。足関節底屈角度は最高速度で他3課題より有意に小さかった(p<0.01)。体幹の前後傾幅は最高速度で有意に大きく(p<0.01),側屈幅は視覚遮断で有意に大きかった(p<0.01)。股関節屈曲角度と外果-段鼻間距離は各課題で有意な差はなかった。【考察】 本研究では足部の感覚探索運動として,足底接地が足指から母指球部で開始され,その後足指の屈伸,足部の回内外とアーチ上昇の運動が観察された。また,各課題の70%以上において足指が滑り止めにかかっていたことから,滑り止めを有効に利用し段鼻を探索したと考えられる。足底では足指に感覚受容器の分布密度が高いことから,接地に先行して見られた足関節の底屈と足指伸展傾向となる特徴は,より鋭敏な部分で探索しようとする予測的な構えであると考える。接地後にも足部の運動を行うことで,接地面を探索し続けている。頸部最大屈曲が最高速度では動作前・動作初期で最も起こっており,視覚遮断では屈曲角度が有意に減少していた。このことは,頸部屈曲は視覚情報を得るための動きであり,素早い動作を行おうとする時には,バランス制御のため動作前に視覚情報をより必要とするためと思われる。また,足底の運動が最高速度では減少し,視覚遮断で増加したという結果から,最高速度課題のように視覚情報を動作初期に多く得られた場合では体性感覚の必要性が低下し,視覚情報が得られなかった場合では体性感覚がより重要となるので,視覚遮断において探索運動が増加したと考える。先行文献では体性感覚情報が崩壊すると,その体性感覚の情報源としての重要性は減少し,相対的に他の感覚情報を活用し始めると言われており,今回の動作中でも視覚と体性感覚は協調的に利用されていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 降段動作における足底および足指の探索運動の構成と,足底感覚と他の身体部位との関係を明らかにすることは,感覚運動障害のある対象者の降段動作において有効なアプローチを行うために役立てられると考えられる。
  • 松村 亮, 大口 拓也, 財田 征典, 西村 由香
    p. Ab1301
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 現在,脳卒中片麻痺患者における短下肢装具(以下,AFO)は様々な種類が開発されている.私たちは各 AFOの特性を理解し,多様化したAFOの中から患者の機能障害や機能回復の目標に適したものを選択していく必要がある.底屈制動付きAFOやゲートソリューション(以下GS)付きAFOは正常に近い歩容が得られるといわれているが,階段昇降に関する検討は少ない.これらは足関節背屈方向への可動を可能にするため,歩行のみならず,日常的に行われる階段昇降や段差昇降においても利点があると考えられる.その場合,底屈制限と底屈制動の違いや利点を明確にする必要がある.本研究の目的は,階段昇降において底屈制限に対するGS付きAFO装着による底屈制動の利点を明らかにすることとした.【方法】 対象は過去に下肢整形疾患の既往のない健常男性20名(平均年齢21.4才,身長:170.2±5.7cm,転子果長:81.4±4.4cm,下腿長:39.0±3.5cm)とした.対象者は,左足部を装具なし,底屈制限(背屈フリー・底屈0°で固定),底屈制動(背屈フリー・底屈0°から制動)の3条件下で一足一段の階段昇降を行った.装具はGS+ダブルクレンザック継手付きAFO(Pacific Supply社製)を使用した.階段昇降時の各相における股関節,膝関節,足関節の角度を計測した.各関節の動きは階段昇降を側方からビデオ撮影した後,各相の静止画上にて標点を結ぶ各角度を画像ソフトImage Jを用いて計測した.対象者に貼付した標点は左側の腸骨稜,大転子,膝関節裂隙,外果,第五中足骨頭,第五中足骨底とした.対象者は,標点のずれをできる限り排除するために上半身は裸とし,下肢はスパッツを着用した.階段昇降における底屈制動の利点を検討するため,足関節底屈可動域を必要とする昇段足先離地,降段遊脚終期,足先接地,足底接地の下肢関節角度を3条件間で比較した.統計処理はt検定及び繰り返しのない二元配置分散分析・Turkey-Kramer検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者には研究の趣旨,方法,リスクを説明し書面にて研究協力の同意を得た.【結果】 各相における下肢関節角度は,装具なし,底屈制動,底屈制限の条件順に,昇段・足先離地では股関節:12.4度,7.8度,11.5度,膝関節:29.4度,24.1度,27.8度,足関節:-19.4度,-0.9度,-8.5度であった.降段・遊脚終期は,同順に股関節12.7度,18.6度,17.4度,膝関節:12.0度,23.5度,22.2度,足関節:-31.4度,1.3度,-7.1度であった.降段・足先接地は,底屈制限時では認められず,装具なし,底屈制動の順に股関節:9.1度,10.9度,膝関節:7.6度,15.1度,足関節:-29.0度,-13.3度であった.降段・足底接地は,同順に股関節:7.9度,10.4度,10.3,膝関節:15.9度,17.4度,17.5度,足関節:4.2度,1.8度,2.0度であった.足部3条件間における各関節の比較結果,昇段・足先離地では,股関節,膝関節,足関節ともに装具なしと底屈制限(p<0.05),装具なしと底屈制動では足関節(p<0.05)に,底屈制限と底屈制動では股関節,膝関節,足関節ともに有意差があった.降段・遊脚終期では,装具なしと底屈制限および底屈制動において股,膝,足関節すべてに有意差があった(p<0.05).また,足関節は底屈制限と底屈制動に有意差があった(p<0.05).降段・足先接地は,装具なしと底屈制動において各関節ともに有意差があった(p<0.05).足底接地は,装具なしと底屈制限および底屈制動間に股関節と足関節の角度の有意差があった(p<0.05)が,膝関節には違いはなく,制限と制動間にも有意差はみられなかった.【考察】 昇段の足先離地において,底屈制限では足部の蹴り上げが行えないため,代償的に股・膝関節を伸展させて昇段するための推進力を生み出したことにより,昇段を可能にしていたと考えられた.GSの構造上,底屈制動はやや底屈を制限されるものの底屈制限では各関節角度に有意差があり,底屈制動付きの方が通常に近い蹴りあげを可能にした利点があった.降段の遊脚終期と足底接地では,底屈制限と底屈制動における股関節と膝関節は足関節の動きを代償する歩容で,両者とも下肢関節角度の大きな違いは認められなかった.しかし,足先接地では,底屈制動では,制限ではみられなかった足先接地を可能にしていた利点があった.但し,底屈制動機能付きAFOによる足先接地は健常者では可能であったが,脳卒中後の機能障害の状態によっては困難である場合もあると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 継ぎ手に可動性を持たせたGS付きAFOは,一足一段の階段昇降を可能にし,昇段時の蹴り上げ動作を可能とする利点があることを明らかにした.本研究結果は,脳卒中患者の階段昇降における歩容改善や運動機能の再学習方法の一助となった.
  • 安川 洵, 今野 太陽, 真壁 寿
    p. Ab1302
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 Gibsonniによると転倒は,「自分の意志からではなく,地面またはより低い場所に,膝や手などが接触すること」と定義されている.またその転倒の原因の約20%が障害物を跨ぐ際のつまずきであると,真野らが述べている.相馬らによるとつまずきの要因は,外的要因と内的要因とに分類されている.外的要因とは住環境要などの環境要因であり,内的要因とは平地歩行中の足尖部の挙上低下などの身体要因をいう.そこで今回は,跨ぎ動作時のつまずきに関わる身体要因に着目し,障害物の高さの違いによる跨ぎ動作の違いを検討することである.【方法】 神経学的,整形外科的疾患を有さない健常成人男子学生10名(平均年齢23.6歳)を対象とした.測定課題は,平地歩行3回と高さの違う障害物の跨ぎ動作を3試行,各3回ずつ実施した.全施行はランダムに実施し,障害物の高さは棘果長の10・20・30%に規定した. 跨ぎ動作中に初めに跨ぐ脚を先行肢,後から跨ぐ脚を後行肢とした.先行肢及び後行肢の母趾が,障害物直上に来た時点において,質量中心(Center of Mass:COM)と足圧中心(Center of Pressure:COP)の成す角(Inclination Angle:IA),その角速度(Angular Velocity;AV),母趾-障害物間距離(Toe-obstacle clearance:TOC)を計測した.また同期して遊脚肢の下肢関節角度,支持脚中殿筋(Glu Med)・前脛骨筋(TA)・腓腹筋(GAS)の筋活動を測定した.以上の項目を,三次元動作解析装置(plug-in-gait modelを使用.100Hz),床反力計(1000Hz),筋電計(1000Hz)を用いて測定データを収集した.測定データはShapiro-Wilk検定にて正規性を確認し,正規分布データでは反復測定分散分析後に多重比較検定を実施した.また非正規分布データにはFriedman検定を実施後に多重比較検定を実施した.有意水準はp<0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者に対して,研究の趣旨と安全性を十分に説明し,同意を得た上で行った.【結果】 先行肢でIAは高さの増加に伴い減少し,10%と比較して20%および30%間で有意差がみられた.AVでは有意差は無かったが,高さの増加に伴い減少傾向が見られた.後行肢ではIAは高さの増加に伴い,有意な増加が見られた.また,10%と比較して20%および30%で有意差がみられた.AVでは高さの増加に伴い,減少が見られ,10%に比較して20%および30%で有意差がみられた.遊脚肢関節角度では先行肢と後行肢でともに,高さの増加に伴い股関節および膝関節屈曲,足関節背屈角度が有意に増加した.先行肢および後行肢の跨ぎ同時時の支持脚筋活動は,平地歩行時と比較して全筋で統計学的有意差はなかった。先行肢および後行肢の跨ぎ動作時のTOCは,障害物の高さの増加に伴って増加した.先行肢のTOCは10%と30%間で,後行肢のTOCは10%と比較して20%および30%間で有意差が見られた.【考察】 先行肢の跨ぎでは,障害物の高さが増すにつれ,下肢関節の屈曲を強め,バランス維持のためにCOMの前方移動を極力抑え、COMをCOPの直上に近づける戦略をとっていた.一方,後行肢の跨ぎでは,下肢関節屈曲を緩徐に増大させることで,COMを前方移動させ,IAの過大な前方拡大を抑制する戦略をとっていた.この戦略は後行肢の跨ぎ動作時のAVの減少にも繋がっていた.先行肢と後行肢とでTOCの増加に違いが見られたことは,視覚的な情報が関係している可能性が考えられた.後行肢では障害物を視認することが出来ないため,過剰なTOCを生み出すことで,つまずきへの危険性をあらかじめ回避していたと考えられた.今回の研究により,先行肢および後行肢の跨ぎ動作において,障害物の高さの増加に合わせて,下肢関節屈曲と重心移動において跨ぎ動作の戦略の違いが存在することが明らかになった.【理学療法学研究としての意義】 今回の研究から若年健康成人において、先行肢および後行肢の跨ぎ動作において戦略の違いが存在することが明らかになった。今後,対象を高齢者に広げ,このような跨ぎ動作の戦略の違いが存在するかを明らかにする必要がある。また、矢状面と前額面のどちらが,跨ぎ動作の転倒リスクの判断について有益であるかも検討する必要がある。以上の点が明らかになれば,日常生活での環境設定や転倒の危険が少ない動作方法の提案につなげることができると考えられる.
  • 牛山 直子, 長崎 明日香, 百瀬 公人
    p. Ab1303
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 筋力測定時に最大筋力を測定するためには被験者の体の固定が必要と思われる。膝伸展筋力測定時の被験者の体の固定については、上肢把持や背もたれの使用、大腿、骨盤、体幹固定の有無などによる比較研究が行われている。Mendlerは上肢把持と背もたれ及び大腿カフの固定を最大固定とした時の筋力を100%とすると、固定なしの場合は70%、上肢把持のみでは90%の発揮となり、固定なしと最大固定時の間には有意差が認められたが、上肢把持のみと最大固定の間では有意差が認められなかったと報告した。Richardは上肢把持に背もたれを使用すると上肢把持のみより有意に筋力が5%ほど高いと報告した。HartとHantenは背もたれに被験者の骨盤・体幹を固定した場合としない場合の比較を行ったが両者の研究結果は異なっている。このように、先行研究からはどの程度被験者を固定すれば最大筋力が測定できるのか不明である。そこでこの研究では、固定なし、大腿固定のみ(以下大腿のみ)、上肢把持のみ(以下上肢のみ)、上肢把持と大腿固定(以下上肢大腿)、上肢把持と大腿固定と背もたれに骨盤・体幹固定(以下最大固定)の5条件の固定方法で比較し、固定による最大等尺性膝伸展筋力発揮の違いを明らかにすることを目的とする。【方法】 対象者は20~40歳の健常成人27名、除外基準として現在測定下肢または腰に痛みのあるもの、1年以内に測定下肢の膝関節、大腿部の外傷既往があるものとした。検者は経験17年目の理学療法士1名、全ての測定を同一検者が行った。測定器機は 等尺性筋力測定器GT-330(OG技研)を使用。測定項目は効き脚の最大等尺性膝伸展筋力、測定条件は固定なし、大腿のみ、上肢のみ、上肢大腿、最大固定の5条件とした。測定姿勢は股関節屈曲90度座位、膝関節屈曲60度、センサは下腿遠位前面に下腿軸に垂直にあて、各条件で位置が同一になるようレバーアームを設定。最大固定以外の条件では背もたれは使用せず行い、測定中は体幹を正中位に保ち、殿部が挙上しないよう指示。上肢は上肢把持の場合椅子横のバーを把持、把持なしでは胸に組むよう指示した。測定手順は練習セッションとして測定日前に最大収縮の事前練習を行った。同一被験者の測定は1日で行い、1条件につき5秒間の最大収縮を2回、30秒の休憩を挟んで実施。条件間の休憩は10分、測定順はランダムとした。測定中激励のかけ声をかけた。測定中は被験者、検者とも筋力値をみないよう盲検化した。また測定中痛みがあったら中止するよう説明した。データ分析には2回測定の最大値を使用し、統計処理として反復測定の分散分析、事後検定にTukey検定を行った(p<0.05)。また最大固定に対しての各条件の筋力値の割合を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究の目的及び測定内容を説明し、参加の同意を得た。また、本研究は富士見高原医療福祉センター倫理審査委員会の承認を得た。【結果】 対象者は27名(男性12名、女性15名)、年齢は27.6±4.8歳、身長164.4±8.1cm、体重60.4±10.1kg、握力右43±9kg、左38.7±9.1kgであった。各条件の筋力値と最大固定に対する各条件の筋力値の割合は、固定なし371.7±119.7N 、54%、大腿のみ465.2±147N、68%、上肢のみ647.0±211.8N、94%、上肢と大腿647.1±222.3N、94%、最大685.9±231.8Nであった。反復測定の分散分析とTukeyの事後検定の結果、固定なしと大腿のみは有意に他3条件より筋力値が低かった(p<0.01)。固定なしと大腿のみの間では有意に固定なしが低かった(p<0.01)。上肢のみ、上肢大腿、最大固定の3条件間には有意差はなかった。【考察】 固定なし、大腿固定のみの場合は他条件と比べ有意に筋力が低く、最大固定時の68%以下の筋力発揮となっており固定が不十分であることが明らかとなった。上肢のみ、上肢大腿の場合は最大固定と比べ有意差がなかったため、上肢把持すれば最大固定とほぼ同等の筋力が測定できるといえる。背もたれや体幹、大腿を固定するバンドがなくても上肢で椅子またはベッドを把持すれば最大筋力の94%程度の測定が可能であることがわかった。固定なしや大腿のみの固定で測定を行った場合は最大筋力が測定できず、筋力測定の妥当性に問題があると思われる。筋力がある程度強い対象者の測定では、簡易的だが妥当な方法として最低でも上肢把持の必要性が明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 客観的な筋力測定の方法として、等尺性筋力測定器を使用して被験者を椅子に固定して測定する方法や、徒手保持型筋力測定器を使用してベッド端坐位で被験者の固定なしで行う方法などが提示されている。今回の研究結果から、筋力がある程度強い対象者においては、膝関節屈曲60度での測定では最低でも上肢把持をしないと最大筋力を測定できず、妥当な筋力測定が行えないことが明らかとなった。
  • 柴田 賢一, 森嶋 直人
    p. Ab1304
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 臨床で運動能の評価や効果判定などで実施頻度が高い評価項目の一つに筋力測定がある。理学療法士が測定機器を用いて行う場合の多くは膝伸展筋力の測定であり、測定方法についても信頼性の検討も含めて多くの報告がある。近年レジスタンストレーニングの有効性が認知されてきており、特に循環器領域では有酸素運動とともに治療に取り入れられている。このため膝伸展筋力以外の筋力測定が必要となる場合があるが、測定肢位や信頼性についての報告があるものは少ない。特にレジスタンストレーニングが推奨されている下腿三頭筋の筋力測定は方法論も確立しておらず、本邦ではあまり検討されていない。その理由として膝に比べて足部は固定が難しく代償が入りやすいことが考えられる。本研究は異なる肢位にて下腿三頭筋筋力測定を行い、肢位別日内(同一日の測定)・日間(異なる日の測定)の信頼性について調査することを目的とした。【方法】 対象は23歳~35歳までの健常男性10名(平均年齢28.7±3.9歳)の右下肢とし、測定機器はBiodex System4を用いた。測定は全て同一検者が行った。収縮様式は等尺性収縮とし、測定肢位は座位にて足関節底背屈0°とし、膝屈曲0°と70°の2種類で測定した。膝屈曲0°では体幹、大腿部をベルトにて固定し、70°では大腿後面をリムサポートパッドでサポートし、ベルトで固定した。シート位置などはBiodexの参考位置に準じて設定した。各肢位の測定順序は無作為に選んだ。測定は5秒休憩をはさんで3秒収縮を計5収縮行い、十分な休憩をはさんでもう一方の肢位で測定した。日間での変動を調べるため2日以上空けて各3回ずつ計測した。信頼性は級内相関係数(ICC)を用いて検討した。日内信頼性は5収縮における筋力値のICC(以下日内ICC)、日間信頼性は5収縮の平均筋力値におけるICC(以下日間ICC)にて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 各被験者には測定方法と測定の趣旨について説明し、同意を得た。【結果】 膝屈曲0°における日内ICCは1回目0.858、2回目0.886、3回目0.859であり、膝屈曲70°における日内ICCは1回目0.938、2回目0.924、3回目0.947であった。日間ICCは膝屈曲0°で0.552、膝屈曲70°で0.652であった。【考察】 今回の結果から2つの肢位いずれも日内での測定は高い信頼性が得られた。その一方で日間では同一肢位にも関わらずICCは低い値を示した。また肢位別にみると膝屈曲70°の方が信頼性は高かった。日内信頼性についてはWebberらが同じ測定器具を用いて高齢女性で検討しており、等尺性収縮でのICCは0.90と報告している。測定肢位は右膝屈曲45-55°とされているが、今回の結果とほぼ同様の結果であった。日間でICC低値の理由としては同一肢位で測定してもわずかに遊びがあったり、力点のずれといった固定性の問題が最も大きいと考えられた。膝屈曲位の方が高値であったのも大腿部が固定され、代償が入りにくいためと考えられた。Sleivertらは仰臥位で膝屈曲100°の肢位にて下腿三頭筋筋力を日を改めて2回測定し、ICCを報告しているが結果は0.72と信頼性は高いとは言えなかった。この結果について足関節は3つの連結があり複雑ということ、回旋軸や面が動くため膝に比べて固定が難しいことを原因として考察している。今回の結果と過去の報告より下腿三頭筋の筋力測定は日内での連続した評価であれば肢位は膝伸展位でも屈曲位でも信頼性は高いが、日間ではいずれの肢位でも信頼性は低くなり、肢位別では膝屈曲位の方が膝伸展位と比べて信頼性は高いということがわかった。下腿三頭筋筋力測定の信頼性についての報告はほとんどが日内での検討であるが、臨床においては治療効果判定などで経時的に筋力を測定することが多く、むしろ日間での信頼性が重要である。いかに厳密に固定性を高めることが出来るか、またさらに信頼性を高めるために測定肢位の検討も必要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】 日常臨床で我々理学療法士が頻用している筋力測定は、結果を基に治療・効果判定を行っている割に信頼性が乏しいとの報告もある。特に対象筋によってはほとんど検討されておらず測定法が確立していないこともある。今回の研究により筋力測定における測定肢位や関節固定の重要性が改めて認識され、日常の評価における客観性・妥当性を考える上で重要な知見が得られた。
  • ─イメージ能力の差がメンタルプラクティスの効果に及ぼす影響について─
    谷出 康士, 金井 秀作, 城野 靖朋, 後藤 拓也, 島谷 康司, 長谷川 正哉, 大塚 彰
    p. Ab1305
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
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    【はじめに、目的】 メンタルプラクティス(以下MP)による筋力増強効果が先行研究により示されているが,その効果には諸研究間で差を認める。このような差を生じる要因の一つに被験者のイメージ能力が挙げられるが,MPを用いた筋力増強訓練と,イメージ能力評価を同時に行った研究はほとんどない。また,Positron emission tomography(PET)などでの研究で,運動イメージにより実際の運動時と同様の脳活動を認めるとされてきたことから,MPによる脳活動の賦活とその反復が,筋力増強を引き起こすと先行研究では考察されている。しかし,MPを用いた筋力増強効果とMP中の脳活動を同時に観察した研究は,我々の知る限りこれまでにない。以上より,本研究ではMPによる大腿四頭筋筋力増強訓練効果と各被験者のイメージ能力との関連を検討することと,MP実施中の脳活動を近赤外分光法(Near infrared spectroscopy;NIRS)により観察することを目的とした。【方法】 対象は健常成人17名。初期評価として,筋力測定,イメージ能力評価,脳血流量測定を行い,その後2週間MPを行わせた。筋力測定はBiodex System3.0(Biodex社製)を使用し等尺性膝伸展筋力を膝関節屈曲60°で測定した。イメージ能力評価には,日本版運動心像質問紙改訂版(以下JMIQ-R)とMental Chronometry(以下MC)の2つを用いた。脳血流量測定には近赤外光脳機能イメージング装置(FOIRE‐3000,島津製作所製)を使用し,前頭葉を計測対象とした。4×7プローブを国際10-20法のCz点を基準に設置して測定した。MPは筋力測定時のごとく等尺性膝伸展筋力を最大努力で発揮している様子を繰り返しイメージさせた。また,各被験者が実際に課題運動を行っている様子を録画した動画と音声を利用し,毎日実施を原則として自主練習を行わせた。最終評価は,初期評価と同様の評価・計測を行った。統計は初期評価と最終評価の筋力差,課題前後の血流変化にt検定を,筋力増強率とイメージ能力評価得点の関係はピアソンの相関分析により解析した。統計学的有意水準は全て5%未満に設定した。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には,計測前に実験の目的及び内容について説明し同意を得た。なお本研究は,県立広島大学研究倫理委員会(第M11-015号)の承認を得ている。【結果】 MPは平均12.05±1.39日実施された。筋力は,初期評価時に比べ最終評価時で有意に上昇した(p<0.01)。各被験者の筋力増強率とJMIQ-R得点,MC得点についてはともに相関関係は認められなかった。脳血流量測定では,イメージ課題実施に対応した前頭葉領域の有意な脳血流上昇(p<0.05)が全被験者で認められた。【考察】 筋力測定の結果,有意な筋力増強効果が認められた。この結果はこれまでの研究報告の知見と同様,MPを行うことで筋収縮を起こすためのプログラムが改善されたためと考える。また,本研究では,先行研究よりも短い訓練期間2週間で筋力増強効果を得ることができた。今後,訓練期間と訓練頻度についてのさらなる検討が必要と考える。次に,筋力上昇率とイメージ能力の関連について,本研究ではJMIQ-R,MCともに評価得点と筋力上昇率の間に相関は認められなかった。この理由として,今回の評価がイメージ能力と運動パフォーマンスの関連を明らかにするテストであり,それらで得られたイメージ能力は,筋力という身体機能向上をターゲットにしたMP介入効果との関連性が低かったためと考えられる。しかし,本研究でも被験者の筋力増強率にばらつきがあり,MP効果に影響を及ぼす何らかの因子の存在を示していると考える。よって,イメージ能力評価法の検討やイメージ能力以外の因子に関するさらなる検討が必要と考える。最後に,NIRSの結果,イメージ課題実施に伴う前頭葉領域における脳活動の賦活が全被験者で確認された。これは,MPの実施が脳活動を賦活し,この繰り返しにより神経性要因による筋力増強効果を得ることができるとする仮説を支持する結果と言える。【理学療法学研究としての意義】 MPによる筋力増強訓練は身体運動を伴わないこと,身体的苦痛を伴わないことにより急性期からの介入が可能と考える。また,本研究では先行研究とは異なる自主練習課題を用いて筋力増強効果を確認できたことから,臨床においてもベッドサイドなどから自主練習としてMPを行うことでもその効果が得られると考える。以上より,MPによる筋力増強訓練は,特に整形外科疾患等における受傷・術後早期の運動療法介入において有用な導入法の一つとなり得ると考える。
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