日本助産学会誌
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38 巻, 2 号
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巻頭言
総説
  • 古賀 さくら, 疋田 直子
    2024 年 38 巻 2 号 p. 177-187
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    [早期公開] 公開日: 2024/06/08
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究では,不妊治療を受ける日本人女性のQuality of life(QOL)の現状を把握すること,およびQOLに影響する要因について明らかにすることを目的とした。

    対象と方法

    医学中央雑誌web版Ver.6,PubMed,CINAHL,Psycinfoを用いて,「不妊症(治療)」「不妊症–女性(治療)」「生活の質」「Infertility」「Infertility, Female」「Quality of Life」のキーワードを掛け合わせて原著論文に限定し,文献検索を行った。適格基準・除外基準を基に論文のスクリーニングを行い,不妊治療を受ける日本人女性のQOLの現状とQOLに影響する要因についての記述を抽出した。

    結 果

    文献検索の結果,13件の論文が抽出され,不妊治療を受ける日本人女性のQOLに影響する要因を明らかにするために用いられていたQOL尺度は7種類であった。FertiQOLの6つの下位項目では,「感情」「治療環境」において低いスコアを示していた一方,「関係」において高いスコアを示していた。SF-12とSF-36では,「社会生活機能」においてSF-12とSF-36でスコアに大きな差がみられていた。WHO/QOL-26では,「身体領域」のスコアが最も低かった文献があった一方,「身体領域」「心理領域」「社会関係」「環境領域」のスコアに大きな差がみられなかった文献もあった。「不妊治療中のQOL」では「家族関係のQOL」が最も点数が高かった。また,QOLに影響する要因は【個人要因】,【治療に関する要因】,【精神的要因】,【社会的要因】であった。パートナーからの愛情や関わり,不妊治療への信頼がQOL向上に影響を与えていた。

    結 論

    不妊治療を受ける日本人女性のQOLを測定する尺度として,いくつかの健康関連QOL尺度が用いられていた。QOL尺度によってQOLスコアが低い下位項目と高い下位項目は異なっていた。パートナーの愛情や関わり,不妊治療に対する信頼がQOLを向上させることから,パートナーシップ支援や患者に寄り添った丁寧な説明やケアを行うことが必要である。

  • 中村 早希, 増澤 祐子, 岡津 愛子, 山本 真実, 片岡 弥恵子
    2024 年 38 巻 2 号 p. 188-201
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    [早期公開] 公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊産褥婦の多様なニーズへの対応やケアの質向上,産科医不足・偏在に伴うタスク・シフト/シェア等を目的に,2008年頃より院内助産・助産師外来の体制整備と活用が推進されているが,院内助産・助産師外来の安全性や利用満足度を体系的にレビューした文献は少ない。そのため,院内助産・助産師外来のさらなる普及を目指し,国内における院内助産・助産師外来の安全性や利用満足度について文献検討を行った。

    対象と方法

    過去10年の院内助産・助産師外来の安全性や利用満足度に関する文献レビューを行った。医中誌Webで院内助産システム等をキーワードに検索し,院内助産の分娩アウトカムを含む安全性についての記述がある20件,院内助産・助産師外来を利用した妊産婦に対する質的調査・満足度調査を行った15件を分析対象とした。

    結 果

    院内助産の安全性については,院内助産群に比べ非院内助産群の方が医療介入率が高い傾向にあり(52.8% vs. 75.8%等),両群で新生児仮死や弛緩出血など臨床的意義のある分娩アウトカムに有意差は認められなかった。院内助産・助産師外来の利用満足度はいずれも80%超と高く,受診時に気持ちや時間のゆとりがもてることや助産師との信頼関係構築によって安心感が増すことがメリットとして挙げられていた。

    結 論

    院内助産群と医師管理群の分娩アウトカムに違いがあるとはいえず,院内助産・助産師外来いずれも利用満足度が高いことがわかった。今後は,院内助産・助産師外来を担う助産師の質や,利用者への周知方法についてもあわせて情報を集め,安全で満足度の高い院内助産・助産師外来普及のために必要な詳細な条件を検討していくことが課題であると考えられる。

原著
  • 芳賀 亜紀子, 鮫島 敦子, 豊岡 望穗子, 貞岡 美伸, 中込 さと子
    2024 年 38 巻 2 号 p. 202-213
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    [早期公開] 公開日: 2024/06/08
    ジャーナル フリー

    目 的

    日本人のリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(RHR)の普及度と予定外の妊娠をめぐる医療体験の実態を探索する。

    対象と方法

    20代以上の日本人男女を対象とし,2021年12月~2022年1月にWEB調査を行った。調査内容は,対象者の背景,RHRと性に関する知識,RHRに関する対処行動,予定外の妊娠相談と人工妊娠中絶の医療体験とした。量的データは記述統計量を算出し,質的データは内容分析を行った。

    結 果

    有効回答が得られた女性367名,男性368名を分析した。RHRを「内容まで知っている」と答えたのは女性11.4%,男性3.0%であった。性に関する知識の情報源はインターネットであり,女性65.9%,男性79.3%が自身の持つ性に関する情報に正確か自信がない・わからないと回答した。助産師の性と生殖に関する専門職役割を知っているのは女性32.4%,男性14.1%であった。避妊法を女性が決める・女性の意思を尊重すると回答したのは,女性30.0%,男性24.5%であった。女性の産む決め方は,自分(女性)自身が45.2%,パートナーと2人が43.6%と同比だったが,産まない決め方は,パートナーと2人が48.8%に対し,自分(女性)自身が24.0%と低値であった。女性と男性共に6.8%が過去に中絶を体験し,女性14.7%,男性12.8%が予定外の妊娠相談の受診経験があった。男女共に,医療者の対応によって傷つく体験をしていた。医療者には,相談者のことを否定せず話を聴く姿勢,優しく接する態度,正確な情報提供を求めていた。

    結 論

    日本人男女共に,RHRが普及していない実態が明らかとなった。予定外の妊娠における医療者からの対応は,RHRを考えた医療体制ではなかった。RHRの普及が急務であり,対象のRHRを擁護する医療者の認識を高める必要がある。

  • 田所 由利子, 髙畑 香織, 巌 千晶, 園田 希, 古川 恵美
    2024 年 38 巻 2 号 p. 214-226
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    [早期公開] 公開日: 2024/06/27
    ジャーナル フリー

    目 的

    「妊娠出産される女性とご家族のための助産ガイドライン」(解説版)が一般女性とその家族にわかりやすく,活用できる資料であるか評価を行い,次回改訂時の課題を明確にする。

    対象と方法

    評価対象は解説版54項目の質問と回答・解説のうち19項目である。助産師2名が理解しやすさ,および行動しやすさについてThe Patient Education Materials Assessment Tool-Pにて評価した。また,2名の助産師による評価を統一する際のディスカッションおよび評価後に実施した評価理由等についての半構造化面接の逐語録について質的記述的分析を行った。可読性については日本語文章難易度判別システムにて評価した。

    結 果

    理解しやすさのスコア平均は77.7(SD 13.8)であり,理解しやすいとされるカットオフ値70以上だった項目は評価対象19のうち16(84.2%)であった。行動しやすさのスコア平均は39.8(SD 25.9)であり,行動しやすいとされるカットオフ値70以上だった項目は2つ(10.5%)であった。質的データからは想定する読者のレディネスに合わせ,読者がスムーズに理解でき,読者がとれる行動の理解を促すよう提示する情報の出し方を工夫すること,視覚素材を追加・改善すること,読者が行動できる表現をいれることが見出された。可読性のスコア平均は2.3(SD 0.6)であり解説版はむずかしい日本語が使われていると判定された。

    結 論

    解説版は一般の方にとって理解しやすいが,日本語としてはむずかしいレベルであり,行動に移しづらい資料であることが明らかとなった。改訂時には,想定する読者のレディネスに合わせたやさしい日本語を選択し,解説版対象者が解説版を読んだことで実践できる表現を入れていくことが求められる。

  • 西村 悦子, 庄木 里奈, 大田 えりか, 渡邉 洋子, 中村 安秀
    2024 年 38 巻 2 号 p. 227-237
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    [早期公開] 公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    母子保健業務に携わる保健師,助産師,看護師の視点から,2012年改正版の母子健康手帳(以下,母子手帳)の活用における利点や課題,2023年の様式改正に対する要望を明らかにすることである。

    対象と方法

    研究対象者は,母子保健業務で母子手帳を活用している保健師,助産師,看護師とし,機縁法でリクルートした。「病院」,「地域」,「自治体」の職域ごとに,2-5名でフォーカスグループインタビューを実施し,質的記述的に分析した。

    結 果

    研究参加者は,保健師が5名,助産師が5名,看護師が1名の合計11名であり,母子保健業務の経験年数は平均11±6.8年であった。各グループの参加者については,「病院」グループは助産師4名,「地域」グループは助産師1名と看護師1名,「自治体」グループは保健師5名で構成された。フォーカスグループインタビューの内容を質的記述的に分析した結果,《母子手帳の活用における利点》と《母子手帳の様式改正に対する要望》の2つの大カテゴリーに分類された。母子手帳の構成と各ページにおける活用上の課題については,内容をページごとに分類し表を作成した。《母子手帳の活用における利点》と《母子手帳の様式改正に対する要望》については,〈情報収集のしやすさ〉,〈出産後も継続できる記録〉,〈効果的な指導ツール〉,〈電子化とのハイブリッド〉,〈情報を効果的に届けるための工夫〉,〈継続して使用するための連携〉,〈ユニバーサルに使える手帳〉の7つのカテゴリーと21個のサブカテゴリーが抽出された。

    結 論

    母子保健業務において,母子手帳の情報の集約性と継続性が評価されていた。自治体で勤務する保健師からは,母子手帳を用いた継続ケアの実現のために,学校との連携が望まれていた。養育者の多様性や子どもの個別性への対応,母親と父親の子育ての共同化につながる仕組み作り等,母子手帳が社会の変化に対応していくことが期待されていた。

  • 日本助産学会SRHR & Abortion Care ワーキンググループ システムグループ, 五十嵐 ゆかり, 岡 美雪, 園田 希, 坂本 ...
    2024 年 38 巻 2 号 p. 238-249
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,妊娠葛藤状態にある相談者が最初にアクセスする相談窓口(にんしんSOS)における相談活動の実態および助産師の関与の現状と課題を明らかにすることである。

    対象と方法

    全国のにんしんSOSの相談窓口をもつ53施設を対象施設とし,各施設代表者1名,相談員最大5名の合計最大318名に無記名Webあるいは質問紙による調査を行った。調査内容として代表者には,事業形態,相談員の人数,団体の課題などの14項目,相談員には,葛藤や困難,助産師に期待することなどの29項目とした。量的データは記述統計量を算出し,質的データは意味内容ごとにコード化し,抽象度を上げカテゴリーへとまとめた。

    結 果

    代表者33名(62.0%),相談員84名(32.0%)から回答を得た。代表者は50代(36.4%)が最も多く,職種は助産師(39.4%)が最も多かった。団体の活動における課題は,財政面は【安定した財源確保が困難】,人材面は【相談員の資質担保が困難】,【人員不足】など,その他として【支援が途切れる】,【活動周知の難しさ】が得られた。相談員は,年齢の平均は52歳,にんしんSOSでの活動経験は平均3.9年であった。相談員の葛藤や困難は【他機関との連携体制構築における課題】【効果的な支援活動継続の障壁】などが得られ,助産師や産科医療機関へ協力を求めたいことは【密で柔軟な連携体制の確立と拡充】【相談者を理解したかかわりと柔軟な対応】などが得られた。

    結 論

    にんしんSOSの活動継続には財源確保や相談者の人的資源の不足,各相談機関との連携の不透明さなどの課題があった。相談員は,多様な背景をもつ相談者の支援が多岐にわたること,相談者の課題を解決する連携体制の構築の困難さ,効果的な支援提供の障壁,相談対応を評価することの困難さと,相談対応の心理的負担などを抱えていた。また,助産師や産科医療機関に対し,連携や相談者への対応の見直し,相談活動への参加,性教育の推進を求めていた。

  • 松本 莉子, 白石 三恵, 興梠 千智, 堀口 範奈, 堀 菜月, 松田 香
    2024 年 38 巻 2 号 p. 250-259
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    [早期公開] 公開日: 2024/08/08
    ジャーナル フリー

    目 的

    経産婦は妊娠中も上の子の育児をし,過去に妊娠経験を有するという特徴がある。本研究は上の子と同居しながら妊娠期を過ごした経産婦を対象に,妊娠中の身体活動や食生活に関する経験とその背景にある思いを明らかにすることを目的とした。

    方 法

    第2子以降を出産後2–3か月の経産婦17名に対し2021–2022年にオンラインで半構造化面接を行った。研究参加者は全国3地区で行われた周産期の生活に関する前向きコホート研究の対象者から募集した。研究参加者には直近の妊娠中の身体活動・食生活に関する経験を語るよう依頼し,インタビューデータは質的記述的アプローチを用いて帰納的に分析した。本研究は東京大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。

    結 果

    18のコード,10のサブカテゴリー,5のカテゴリーが抽出された。研究参加者は身体活動や食生活に関して【妊娠中も上の子の生活を中心に考え,以前の生活行動を継続】しようと心がけていた。また,【つわりや切迫早産徴候がある中でも上の子の育児や関連する家事は欠かせないと考え,最低限実施】するよう調整していた。さらに【上の子の育児そのものや夫と上の子のサポートにより,受動的に身体活動や食事量が減少】したことも語られていた。上の子の妊娠時に転倒や過剰な体重増加などを経験した者は【今回の妊娠期間は健常に過ごしたいという思いから,上の子の妊娠時の経験やリスクを教訓として生活】していた。また上の子の妊娠時に得た知識や医療者の指導を参考に,【今回の妊娠転帰をより良くするために,上の子の妊娠時に予防のために行っていた生活行動を今回も意識的に実施】することを心がけていた。

    結 論

    経産婦は上の子の妊娠時とは異なる妊娠中の身体活動・食生活への思いや経験を有しており,それらは上の子の年齢や育児状況,過去の妊娠時のリスク等により様々であった。保健指導の際には経産婦特有の経験や思いを考慮した上で,妊婦中の生活行動を調整する必要がある。

  • 山口 真侑, 高橋 由紀, 田辺 圭子
    2024 年 38 巻 2 号 p. 260-271
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊娠末期の胎児への愛着の程度と食生活行動,栄養素摂取量,妊娠経過・分娩転帰との関連を明らかにする。

    対象と方法

    妊婦初期から産後1か月健診までの健診を定期的に受診した163名の二次解析である。調査内容は,妊婦属性,妊婦健康診査記録・分娩記録,Prenatal Attachment Inventory日本語(PAI),簡易型自記式食事歴法質問票,食生活や健康状態自覚である。解析には,PAI得点を3群均等割付し,愛着「低群」「中群」「高群」を作成した。記述統計,一元配置分散分析後,年齢・分娩歴・非妊時BMIを共変量とした共分散分析,多項式の対比によりPAI 3群間の線形傾向を検定した。

    結 果

    解析対象者は123名(有効回答率77.4%),平均調査妊娠週数は32.2±2.0週であった。初産婦は43名(35.0%),末期PAI平均は60.6±11.9点であった。「健康状態が良好」と認識している者の割合は,低群37名(86.0%),中群39名(92.9%),高群38名(100.0%),愛着が高い母親ほど健康である自覚を有する傾向を示した(P=0.06)。共変量を調整後の推定周辺平均エネルギー摂取量は,低群1472.9±51.3 kcal,中群1505.3±51.7 kcal,高群1443.1±54.2 kcalであり,日本人推奨食事摂取基準を満たす群はなかった。推定周辺平均出生体重は,低群3013.0±48.8 g,中群3105.7±49.2 g,高群2940.3±51.5 gであり,愛着の程度3群と出生体重の間に逆U字型の関連を認めた(P=0.04)。

    結 論

    妊婦は,愛着が高くなるほど自分の健康状態が良好である自覚を有する傾向があるが,推奨食事摂取基準を満たしていなかった。助産師は,愛着が高いと思われる妊婦に対しても,栄養素摂取状況は不健康である矛盾が存在することを念頭に,保健指導に関わる必要がある。

  • 百成 香帆
    2024 年 38 巻 2 号 p. 272-283
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目 的

    移行期にある早産児の安定に効果的なswaddlingを明らかにする。

    対象と方法

    対象は,NICU/GCUに入院している移行期の早産児のうち,保護者の同意が得られた12名とした。データ収集は,生理学的指標(心拍数・呼吸数・酸素飽和度)と行動学的指標(眉をひそめる行動)を用いて,安静時と看護ケア後20分までのデータを収集し,安静時と「0~5分未満」「5~10分未満」「10~15分未満」「15~20分未満」で評価した。分析は,反復測定分散分析を使用して,早産児へのswaddling実施の安定への効果を明らかにした。その後,Mann-WhitneyのU検定を行い,定義上のswaddlingへの適合の有無と方法の違いによる差の比較を行った。

    結 果

    看護ケア実施後に,swaddlingが実施されたのは48場面で,swaddling実施時の安定への効果では,心拍数が有意に安静時に近づいていた(p<0.001)。Swaddlingの適合の有無による安定の比較においては,有意差が認められなかった。しかし,swaddlingの方法の比較においては,ケア後0~5分未満(p=0.040),ケア後10~15分未満(p=0.024)で,「上肢制限無し群」よりも,「上肢制限有り群」の方が,有意に「眉をひそめる行動」が多くなっていた。

    結 論

    移行期にある早産児へのswaddlingは,心拍数が有意に安静時に近づくことが認められた。また,swaddlingの方法では,上肢を制限しないswaddlingが児の安定に効果的である可能性が示唆された。

資料
  • 林 薫, 石村 美由紀
    2024 年 38 巻 2 号 p. 284-293
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    [早期公開] 公開日: 2024/06/27
    ジャーナル フリー

    目 的

    2012年の母子健康手帳の改正により拡充された妊婦自身の記録欄において,妊婦が妊娠期に記入しなかった背景やその理由を明らかにし,妊婦自身の記録欄の未記入要因を検討することとした。

    対象と方法

    分娩を取り扱わないA助産院に来院した母親で,母子健康手帳の妊婦自身の記録欄に半分以上の未記入箇所がある産後3~4か月までの母親3名とした。研究参加者には,研究依頼文を用いて研究の説明を行い,書面同意を得た。倫理的配慮に基づき,インタビューガイドに沿って妊婦自身の記録欄への未記入要因について,語っていただいた。時間は1人30分程度で,内容はICレコーダーに録音し,質的記述的に分析した。倫理的配慮として福岡県立大学研究倫理部会の承認を得て,これを遵守し実施した。

    結 果

    分析の結果,妊婦自身の記録欄の未記入要因として,【母子保健従事者の介入不足】,【母子健康手帳の内容の認識不足】,【就労による忙しさ】,【特筆することがない順調な妊娠経過】,【伝承を見据えた記録内容の取捨選択】,【母子健康手帳以外のツールの活用】が抽出された。

    結 論

    母子健康手帳の妊婦自身の記録欄における未記入要因の検討を目的に,母親への半構造化面接を行い,分析した結果6つの未記入要因が抽出された。母子健康手帳の交付時や,妊婦健診での医療従事者の介入の重要性と,記録欄を参照するときの個人情報を重視した配慮が必要であることが示唆された。活用率が向上した場合,その記載内容から,ハイリスク妊婦の早期発見・早期介入に活用できると考える。しかし,妊婦自身の記録欄に記載があっても,十分な情報ではないと捉え,妊婦が助産師へ相談しやすい環境づくりの必要性が示唆された。また我が国では,多様なニーズに対応できる母子健康手帳が求められていることから,母子健康手帳の内容やあり方について,助産師や保健師等の多職種連携により検討する必要性が示唆された。

  • 市川 きみえ, 菅沼 ひろ子, 坂田 智美
    2024 年 38 巻 2 号 p. 294-303
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    [早期公開] 公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究は,日本の助産所の存続・発展のため,助産所が増加しているA県の助産所の運営上の特徴を明らかにすることを目的に行った。

    対象と方法

    A県の助産所の開設者もしくは代表者である助産師6名を対象に,助産所運営の現状と課題について半構造化面接にて聴き取った。インタビュー協力者の語りから,A県の助産所の特徴を見出し,わが国で今後助産所が存続・発展していくための解決策を論議した。

    結 果

    A県の助産所の特徴は,地域によって「運営形態が多様」なことであった。まず,A県には公設の助産所がある。そして,個人経営の助産所には,複数の助産師で多くの分娩を扱う助産所と,一人で開業している助産所が複数で協力し合って地域の分娩を扱うという二つのパターンがある。多様な運営形態で開設された背景に,出産施設の集約化が影響している地域,さらに,集約化に伴い女性たちが産み場所の確保のために声を挙げていた地域がみられた。助産所の「嘱託医・嘱託医療機関との契約は概ね良好」で,契約が困難な地域は限られていた。一つの地域では助産師会が嘱託医療機関と契約していた。助産所の存続・発展に向けた課題には,開業助産師の育成や財政面の問題があることも明らかとなった。

    結 語

    今後,助産所が存続・発展していくためには,母親のニーズを捉え,助産師同士が協力し合い,医療機関・行政と共にその地域の周産期医療体制に応じた助産所をつくり上げていくことが求められる。

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