日本助産学会誌
Online ISSN : 1882-4307
Print ISSN : 0917-6357
ISSN-L : 0917-6357
最新号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
巻頭言
原著
  • 原田 梨央, 白石 三恵, 倉嶋 優希, 千葉 貴子, 松﨑 政代
    2024 年 38 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/09/29
    ジャーナル フリー

    目 的

    体型満足度は食行動に影響する可能性が指摘されているが,妊娠中の栄養素摂取量との関連は明らかではない。そこで本研究は,日本人妊婦を対象に体型満足度と栄養素摂取量との関連を明らかにすることを目的とした。

    対象と方法

    大阪府内のA総合病院の妊婦健康診査を受診する妊娠中期以降の単胎妊娠の女性を対象に,2020年3–11月に横断研究を実施した。質問票を用いて,基本属性,体型満足度,胎児への愛着や抑うつなどの情報を収集し,体型満足度の回答を基に,対象者を体型満足群,どちらでもない群,体型不満足群の3群に分類した。栄養素摂取量は自記式食事歴法質問票を用いて評価し,分析には密度法によるエネルギー調整値を用いた。各栄養素のエネルギー調整済摂取量を従属変数に,体型満足度を独立変数に投入した共分散分析を行った。これらの分析は,妊娠期間による栄養素摂取推奨量の違いを考慮し,妊娠中期,妊娠後期に分けて実施した。

    結 果

    妊娠中期99名,妊娠後期101名を分析対象とした。妊娠中期では,体型満足群18名(18.2%),どちらでもない群42名(42.5%),体型不満足群39名(39.4%)であり,体型満足度と栄養素摂取量の有意な関連は見られなかった。妊娠後期では,体型満足群26名(25.7%),どちらでもない群32名(31.7%),体型不満足群43名(42.6%)であった。体型満足度と栄養素摂取量に有意な関連が見られ,体型不満足群の摂取量が最も少なかった栄養素は,脂質,総食物繊維,カリウム,カルシウム,鉄,マグネシウム,α-トコフェロール,ビタミンB1,ビタミンB6,葉酸であった。

    結 論

    妊娠後期では,体型不満を有する場合,妊娠期に必要とされる栄養素のエネルギー調整済摂取量が少ない可能性が示唆された。栄養指導を実施する際には,体型不満の有無を考慮した上で,介入内容と方法を検討することが重要である。

  • 伴 裕貴, 米澤 かおり, 春名 めぐみ, 臼井 由利子, 笹川 恵美
    2024 年 38 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    目 的

    産後ケア事業の利用者の特徴について,特に産後の心身の不調や育児不安,最も身近な支援者になりうるパートナーの特徴や育児手技の指導の有無に注目し,利用者と非利用者の比較から検討する。

    対象と方法

    2019年5月~2020年2月に妊娠中から産後1か月にかけて,Web自記式質問調査を利用した縦断調査を行った。一回目調査は妊娠35週以降,二回目調査を産後1か月時点で行った。妊婦健診の際に研究説明書を渡された2,402名のうち一回目の自記式Web調査には667名(27.8%)が回答し,二回目のWeb調査に回答したのは448名(18.7%)であった。二時点とも回答があり,産後ケア事業利用の有無を回答した448名(18.7%)を解析対象とした。産後ケア事業について利用があったと回答した群と利用がなかったと回答した群の2群に分け,χ2検定,Mann-Whitney U検定及び独立したt検定を行った。

    結 果

    産後ケア事業の利用者に有意に関連する特徴として,家庭の世帯年収が900万円以上であること,有職者であること,妊娠を望んでいたこと,妊娠した時のパートナーの反応が肯定的ではなかったこと,初回授乳時期が出産翌日以降であったこと,産後1か月時点でのパートナーとの関係に緊張感があること,産後1か月時点でのSF-8日本語版の身体的サマリースコアの得点が低いことが明らかになった。

    結 論

    産後ケア事業の利用と出産後1か月時点での身体的なQoL(Quality of Life)の低さは関連しており,休息が求められている他に,パートナーとの関係性を検討する必要性が示唆された。また,現行の産後ケア事業の利用には経済的なハードルが存在している可能性が考えられた。産後ケア事業を必要とする人が利用できるよう,身体的なQoLやパートナーとの関係への配慮及び経済面への支援を今後検討する必要があると考えられた。

  • 佐田 早苗, 堤 千代, 龍 聖子, 伊東 貴美代
    2024 年 38 巻 1 号 p. 25-35
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/11/22
    ジャーナル フリー

    目 的

    総合周産期母子医療センターで出産したじょく婦を対象に,抑うつ状態およびボンディングと育児環境および周産期ハイリスク要因との関連について検証した。

    対象と方法

    2019年4月~2020年3月に,当該施設で出産した妊産婦625名を対象に実施した,退院時,2週間健診時,1か月健診時の保健指導で得られた「育児支援チェックリスト」「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」「赤ちゃんへの気持ち質問票(ボンディング)」の回答を分析対象とした。EPDSとボンディングは,3時点で経時的に記述し,それぞれに育児環境リスク11項目および周産期ハイリスク12項目との関連をみた。また,それぞれの退院時と1か月後の変化に関連する要因を検討するため,ベースライン退院時の値と出産経験数を共変量として調整した重回帰分析を行った。

    結 果

    EPDSとボンディングはいずれも経時的に有意に改善していた(p for trend<0.0001)。しかしながら,多因子解析の結果,退院時と比較して1か月後のEPDSが有意に悪化した因子は「心理相談の経験や精神科既往がある」(β=0.77,p=0.006),「夫に相談できない」(β=1.68,p<0.0001),「実母に相談できない」(β=1.25,p=0.0007)であった。一方で,「若年出産」(β=−1.66,p=0.019)は有意に改善していた。また,退院時と比較して1か月後のボンディングが有意に悪化した因子は,「緊急帝王切開」(β=0.38,p=0.002),「夫に相談できない」(β=0.47,p=0.017)であった。

    結 論

    総合周産期母子医療センターで出産したじょく婦において,EPDS,ボンディングともに退院時から1か月後にかけては自然に改善する者が多いが,元来のメンタルヘルスに課題を持つ者や,身近な相談相手がいないことはこれらの改善を阻害していた。一方,「若年出産」した母親の抑うつは改善を示し,ハイリスク妊産婦を対象とする医療機関ならではの支援が奏功していると考えられた。

  • 能島 朱未, 太田 良子, 中田 みどり, 岩村 友恵
    2024 年 38 巻 1 号 p. 36-47
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2024/01/23
    ジャーナル フリー

    目 的

    COVID-19の感染拡大による家族との面会制限中にMFICUに緊急入院となった危機における妊婦の心理を明らかにする。

    方 法

    研究デザインは質的記述的研究とした。研究協力者は,面会制限中にMFICUに緊急入院した後,産科一般病棟に転棟して転棟後1カ月以内の入院中の妊婦4名であった。データ収集は,半構造化面接法を用いて実施した。

    結 果

    妊婦の心理をアギュララの問題解決型危機モデルに沿って分析した結果,8のカテゴリーに集約できた。妊婦は,【コロナ禍でも妊娠したことを喜ぶ】中で,集中治療室を連想する【MFICUに緊急入院となり重症感を抱く】不均衡状態に陥っていた。また【家族と会って児の成長を共有したいと感じる】均衡の回復への切実なニードを常に抱いていた。しかし徐々に,【児を守るために必要な入院だと捉える】現実的な知覚に至っていた。さらに【面会制限中も入院前の家族関係を保つ】ことができ,【家族以外との交流を入院生活の励みとする】社会的サポートを得ていた。そして【家族と面会したい気持ちに折り合いをつける】適切な対処機制をとり,【特殊な療養環境に柔軟に適応する】均衡回復状態に至った。

    結 論

    COVID-19の感染拡大による家族との面会制限中にMFICUに緊急入院となった妊婦は,面会制限中も実際に家族と児の成長を共有したいという思いを常に抱きながらも,児を守るために必要な入院であったと前向きに捉えていた。また,妊婦はICTを活用してタイムリーに家族と妊娠経過や児の成長を分かち合い,自分の気持ちに折り合いをつけて特殊な療養環境に柔軟に適応して入院生活を送っていた。

  • 木村 百合, 篠原 枝里子, 竹内 翔子, 飯田 真理子, 中村 幸代
    2024 年 38 巻 1 号 p. 48-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2024/03/02
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,助産所における妊婦の冷え症セルフケア継続に関する助産ケアの構成因子を明らかにすることである。

    対象と方法

    全国の分娩を取り扱う助産所に勤務する助産師129名を対象とし,無記名自記式質問紙調査を実施した。対象者の選択基準は,妊婦健康診査における冷え症のセルフケア支援を実施している,助産所での勤務年数が5年以上の助産師とした。主な分析方法は,妊婦の冷え症セルフケア継続に関する助産ケアについての探索的因子分析とした。本研究は,横浜市立大学の倫理審査委員会での承認を得て,倫理的配慮を十分に確保して実施した(承認番号:F221000004)。

    結 果

    質問紙調査の有効回答数は95名(有効回答率92.2%)であった。妊婦の冷え症セルフケア継続に関する助産ケアとして,「いつも実施している」と回答した割合が95%以上だった項目は,「妊婦が胎児の存在を意識できるように関わる」,「自分自身の力で産みたいという気持ちを妊婦が持てるように関わる」であった。妊婦の冷え症セルフケア継続に関する助産ケアの構成因子は,【冷え症のセルフケア継続に対する妊婦の思いを理解しながら気付きを促す】,【できそうな冷え症のセルフケアから始めようとする意欲を引き出す】,【妊婦自らが冷え症のセルフケアに関する情報に触れる機会をつくる】,【個別性を尊重した冷え症のセルフケア促進に繋がる助産師間での情報共有】の4つで構成された。

    結 論

    妊婦の冷え症セルフケア継続に関する助産ケアとしては,妊婦のセルフケアに対する内発的動機付けを高めるケアが重要視されており,高頻度で実施されていた。また,今回抽出された助産ケアの4因子は,妊婦が行動変容を起こすための意欲を引き出し,セルフケアに対する自己効力感を高め,積極的に冷え症のセルフケアに関する情報に触れる機会をつくり,個別性を尊重したケアを実施することで,冷え症のセルフケアを継続して実践することを促す因子であった。

  • 牛木 沙保, 竹内 翔子, 篠原 枝里子, 飯田 真理子, 中村 幸代
    2024 年 38 巻 1 号 p. 59-69
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    病院に勤務する助産師を対象に会陰裂傷予防に関する分娩期における助産ケアの実態および分娩介助経験数による違いを明らかにすること。

    対象と方法

    首都圏の分娩を取り扱う病院の産科病棟に勤務し分娩介助経験のある助産師202名を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した。主な質問内容は会陰裂傷予防に関する分娩期における情報収集内容や支援内容の実践頻度についてであった。分析では,記述統計の算出および分娩介助経験数における比較では中央値を基に200件で2水準に分類しMann-WhitneyのU検定を行った。本研究は横浜市立大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号F221000005)。

    結 果

    有効回答が得られた100名を分析対象とした(回収率50.5%,有効回答率98.0%)。情報収集の実践頻度が高かった項目は「初産か経産か」,「児の推定体重」であり,90%以上の助産師が「いつもしている」または「時々している」と回答した。支援内容では「いつもしている」の回答が最も多かった項目は「会陰保護」で88.0%である一方,実践頻度が低かった支援内容は「会陰の温罨法」,「分娩第1期での入浴」などであった。さらに分娩介助経験数における比較では,分娩介助経験数が200件以上の助産師は200件未満の助産師よりも有意に会陰切開・裂傷既往の有無など会陰の伸展の阻害要因を情報収集し,「過度な努責がかからないような声かけ」,「会陰を触りすぎない」など自然な会陰の伸展を妨げないような支援を実践していた。

    結 論

    本研究から,経験がより豊富な助産師は分娩介助の経験を活かした支援を実践していると考えられ,助産師全体の助産ケア実践力向上のためには経験の豊富な助産師のアセスメントや支援内容を共有する機会を設けることの必要性が示唆された。

  • 三浦 恭子, 古山 美穂, 渡邊 香織
    2024 年 38 巻 1 号 p. 70-80
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    研究目的

    本研究の目的は,周閉経期女性における,1)避妊の意思決定と妊孕性の低下の認識の関連及び妊孕性の低下の認識の関連因子,2)避妊の意思決定と避妊行動の関連を明らかにすることである。

    対象と方法

    対象は研究協力が得られた40歳から50歳までの女性とした。方法は2021年7月~11月に無記名自記式質問紙調査を実施した。避妊の意思決定,妊孕性の低下の認識の測定にはVisual Analogue Scaleを用いた。また,避妊行動は避妊頻度,使用している避妊法を調査した。避妊の意思決定と妊孕性の低下の認識の関連及び妊孕性の低下の認識の関連因子,避妊の意思決定と避妊行動の関連について,ロジスティック回帰分析を行った。

    結 果

    質問紙を354名に配布し,分析対象は123名であった(回収率47.2%,有効解答率73.7%)。妊娠を望まない女性において,妊孕性の低下の認識が高い女性は,認識が低い女性に比べて避妊をする意思が弱く(OR: 0.30, 95%CI: 0.14-0.66),妊孕性の低下の認識には加齢による妊孕性の変化に関する知識が有意に関連していた(OR: 2.85, 95%CI: 1.16-7.02)。妊娠を望んでおらず,1年以内に性交があった女性において,避妊する意思が強い女性は性交の度に毎回避妊し(OR: 21.57, 95%CI: 5.30-87.83),効果の高い避妊法を使用している(OR: 4.20, 95%CI: 1.49-11.82)ことが明らかとなった。

    結 論

    妊娠を望まない周閉経期女性は,加齢による妊孕性の変化に関する知識を持っている方が,自らの妊孕性の低下を認識しており,避妊をする意思が弱かった。また,避妊をする意思を明確に持つことが毎回の避妊と効果の高い避妊法の選択につながっていた。このことから,望まない妊娠を避けるためには,周閉経期の特徴を捉えた妊孕性に関する知識を提供するとともに,避妊の必要性の理解を促し,避妊の意思決定を支援していく必要がある。

  • 内村 真由美, 小泉 仁子, 藤井 仁, 堀内 成子
    2024 年 38 巻 1 号 p. 81-91
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    緒 言

    本研究は,COVID-19流行下における周産期母子医療センターに勤務する助産師のワーク・エンゲージメント(Work Engagement,以下WE)に影響する個人の資源であるレジリエンスと個人の背景について明らかにすることを目的とした。

    方 法

    研究デザインは量的関連探索型研究であり,調査期間は2021年9月~2022年1月である。全国の周産期母子医療センター総計408施設のうち,研究協力を得られた127施設,2,515名の助産師に質問紙を配布した。WE,レジリエンス,個人の背景を調査した。WEを目的変数とし,相関やt検定で関連のみられた説明変数を投入し重回帰分析を行った。

    結 果

    1,033名(回収率41.1%)より回答を得て,有効回答数984名(有効回答率95.3%)を分析した。対象者の平均年齢は36.7(SD 10.0)歳,平均臨床経験年数は12.1(SD 8.94)年であった。対象者の61.1%がCOVID-19患者受け入れ病棟で勤務していた。WEの項目あたりの平均得点は2.95(SD 1.04)であり,年齢が36歳以上,婚姻あり,同居家族あり,職位主任以上,アドバンス助産師認証取得者が,そうでない者より得点が有意に高かった。資質的レジリエンス要因の合計得点は41.35(SD 6.73)で,職位主任以上,アドバンス助産師認証取得者がそうでない者より有意に高かった。獲得的レジリエンス要因の合計得点は32.49(SD 4.19)であり,年齢36歳以上,職位主任以上,アドバンス助産師認証取得者,COVID-19患者受け入れ病棟の勤務者がそうでない者より得点が有意に高かった。WEに関連したのは,年齢,婚姻,資質的レジリエンス要因の[楽観性],[社交性],[行動力],獲得的レジリエンス要因の[問題解決志向]の6項目であった。

    結 論

    COVID-19流行下における周産期母子医療センターに勤務する助産師のWEに関連していた獲得的レジリエンス要因は[問題解決志向]であった。

資料
  • 五味 麻美, 大田 えりか
    2024 年 38 巻 1 号 p. 92-102
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    目 的

    日本に在住するムスリム外国人女性(以下,ムスリム女性)に対する助産ケアの特徴を明らかにすることである。

    対象と方法

    国内の産科外来および病棟でムスリム女性に対する助産ケアを担当した経験を有する助産師5名を研究対象者として,質的記述的研究を行った。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。

    結 果

    分析の結果,ムスリム女性に対する助産ケアの特徴として34サブカテゴリー,14カテゴリーと3つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム女性に対してケアを行う助産師は,通常外国人を担当する際に着目する出身国や言語的コミュニケーションレベルといった対象者の背景よりも宗教的な背景に着目し,ケア対象者が【ムスリムであることを意識した関わり】を行っていた。そして,早い段階から本人や家族,医療スタッフとの間で【宗教的配慮に関するインフォームド・コンセントと情報共有】を行いながら専門職としての【看護観に基づき手探りで宗教的配慮を実践】していた。

    結 論

    ムスリム女性に対する助産ケアの特徴として,宗教的配慮が大きく影響していることが明らかになった。助産師はムスリム女性や家族に対して早い段階から宗教的配慮に関するインフォームド・コンセントを行い,自らの看護観に基づき手探りで宗教的配慮を実践していた。しかし,宗教はセンシティブな事柄であることから,助産師はムスリム女性たちのニーズや価値観の多様性や個別性を認識しながらも個別的なニーズに踏み込むことを躊躇し,その結果として画一的な配慮に留まる傾向がみられた。ムスリム女性に対する助産ケア向上のためには対象者一人ひとりの多様なニーズを考慮し,より文化的に適切なケアに繋げることの必要性が示された。

  • 森田 千穂, 渡邊 典子
    2024 年 38 巻 1 号 p. 103-111
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/09/29
    ジャーナル フリー

    目 的

    育児期における夫婦間のコミュニケーション態度が夫婦関係満足度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

    対象と方法

    1歳6か月ならびに3歳児健診を受診した児の両親を対象として質問紙による横断的調査を行った。調査内容は,夫婦間コミュニケーション態度尺度,夫婦関係満足度,基本属性とした。コミュニケーション態度が夫婦関係満足度に与える影響を検討するために,夫婦関係満足度を従属変数,夫婦間コミュニケーション態度の3態度得点(「接近・共感」「威圧」「回避」)を独立変数とする重回帰分析(強制投入法)を行った。なお,夫婦の態度得点をもとにTwo Stepクラスター分析により,コミュニケーション態度パターンの類型化を行い,夫婦関係満足度に違いがあるかを対応のないt検定により検討した。

    結 果

    936組の夫婦に配布し,回収した夫婦ペアデータ116組(回収率12.4%)を全て対象とした。重回帰分析(調整済みR2 夫0.46 妻0.5,いずれもp<0.01)の結果,夫婦関係満足度に最も強い影響力を示したコミュニケーション態度は,夫では「接近・共感」(β=0.522),次いで「威圧」(β=−0.172),「回避」(β=−0.149)であった。妻では「接近・共感」(β=0.557),次いで「回避」(β=−0.223)であり,「威圧」については有意ではなかった。クラスター分析により,接近共感的態度得点が高い「接近共感夫婦群」と威圧・回避的態度得点が高い「威圧回避夫婦群」に分類された。t検定の結果,夫・妻ともに「接近共感夫婦群」で夫婦関係満足度が有意に高かった。

    結 論

    育児期における夫婦間のコミュニケーション態度が夫婦関係満足度に及ぼす影響は大きい。特に,夫婦関係満足度を高めるためには,接近共感的コミュニケーション態度と相手と向き合う姿勢が重要であることが示唆された。

  • 神崎 真姫, 酒井 ひろ子
    2024 年 38 巻 1 号 p. 112-125
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    双子の父親が,妊娠判明時より出生後3ヵ月から約1年の経験をもとに,父親役割を獲得し発展するプロセスを捉え類型化し,共通性を見出すことである。

    方 法

    双子の父親10名を対象に,インタビューガイドを用いてオンラインによる半構造化面接を行った。面接内容を逐語録にし,コード化したデータをカテゴリに分類し,複線径路・等至性モデルによる分析を行った。

    結 果

    調査には,初めて父親になる7名と上に子どもがいる3名が参加した。分析の結果,9つの必須通過点と分岐点が示された。父親らは,妊娠が判明すると喜びを上回る驚きを経験する一方で,感情を抑制した者もいた。父親らは,妻が多胎妊娠の判明後から妊娠期間を通して【母児のリスクへの心配・不安】を持ちながら【不調の妻をサポート】していたが,【双子の父親になるイメージが持てなかった】まま過ごしていた。【児が出生し双子の父親になる】と児の入院中は【写真や動画で児の様子を確認した】。【児の退院】から【夫婦で育児を実践】し,【過酷な育児の現実に直面する】中で,【育児負担】を感じながら工夫し,【父親としての役割を模索】していた。そして,時間の経過とともに自己の内面と向き合い双子の父親役割を発展させていた。

    結 論

    双子の父親について,既存の研究では育児経験やメンタルヘルスの現状までが明らかになっていた。本研究で,妊娠期から現在までのプロセスを明らかとしたことで,これらに加え,発展していく父親役割獲得プロセスの構造化ができた。父親が妊娠期から「多胎」の特性を理解し育児の心構えを持つことは,早期からの親役割発展に重要であり,父親が育児期に抱く葛藤に対応する力となる可能性がある。また,夫婦で育児を検討し決定することは,育児期の家族発達につながる重要なプロセスである。支援者は,夫婦でパートナーシップが発揮できるよう,父親の個々が持つ背景を捉えて理解し支援する必要がある。

  • 後藤 千恵, 柳生田 紀子, 有森 直子
    2024 年 38 巻 1 号 p. 126-134
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊娠糖尿病(GDM)を再発しなかった女性が,かつてGDMと診断されてからどのような日常生活を過ごしたのかを明らかにする。

    対象と方法

    研究デザインは質的記述的研究である。GDMを再発しなかった女性5名を対象に半構造化インタビューを行った。得られたデータから逐語録を作成し,かつてGDMと診断されてからの日常生活に関連する内容が語られている部分を抽出し,コード化し,サブカテゴリ・カテゴリを形成した。

    結 果

    GDMを再発しなかった女性は,かつてGDMの【診断に驚き,これまでの生活をふりかえる】と同時に【高血糖が胎児に及ぼす影響を心配する】経験をしていた。そして,診断と共に開始される【医療者から求められた生活の制限が面倒で苦痛と感じる】ことで,心と体に負担となっていた実態が語られた。一方で,【家族の存在に支えられる】ことで,【食事を制限して血糖を管理するコツをつかむ】前向きな経験も語られた。また,GDM治療後も【再発や胎児への影響を心配してGDM時の生活を続ける】ことでGDMの再発を防ぎ,【再発しなかった日常生活を続けようと思う】ことに繋がっていた。そして,【GDM時に得られた家族の協力を継続する】ことは,その日常生活の維持に必要な事柄として語られており,【自分が将来糖尿病を発症することを心配する】思いを現在も持ち続けていることが語られた。

    結 論

    GDMを再発しなかった女性は,GDM中もGDM治療後も家族の協力を支えとしながらGDMのときに取得した日常生活を継続していた。また,妊娠後は,胎児への影響を考え,子どもを守るためにGDMが再発しないことを常に意識しており,その生活はGDMの再発予防となっていた。GDMを再発しなかったことを支えとする一方で,将来の糖尿病発症を懸念することが,GDM中の日常生活を継続することに繋がったと推測された。

  • 田口 水唯, 脇本 寛子
    2024 年 38 巻 1 号 p. 135-144
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2024/03/16
    ジャーナル フリー

    目 的

    父親支援の実態として,助産師が行う父親支援の実施状況と重要性の認識,それらに関連する要因,今後の支援実施に対する認識,抱える困難感を明らかにすること。

    対象と方法

    A県内の周産期母子医療センターの助産師を対象に,無記名自記式質問紙調査を行い記述統計と内容分析を行った。また,父親支援の実施状況,重要性の認識と対象特性の関連をクリスカル・ウォリス検定またはマンホイットニーのU検定で調査した。

    結 果

    承諾を得た施設は7施設(承諾率35.0%)であった。有効回答数は,量的データ78名(有効回答率35.6%),質的データ68名(有効回答率31.1%)であった。37項目の実施状況では,「常に実施している/ほとんど実施している」の回答割合が最も低い項目は3項目あり,ピアサポートや母乳育児に関する項目であった。重要性の認識では,「非常に重要である/やや重要である」の回答割合が最も低い項目は,「母乳栄養の経験のある父親に母乳育児中の父親の心理を語ってもらう」であった。父親支援の実施得点では,父親支援の学習経験において有意な差がみられた。今後の支援実施に対する認識では,父親支援をより積極的に行う必要があると回答した者は74名(94.9%)であり,今後必要な支援として《ICTを活用した支援》等の14コードが抽出された。支援実施に困難感がある者は68名(87.2%)であり,内容として《父親支援の実施機会や実施時間が十分にない》等の13コードが抽出された。

    結 論

    実施の割合と重要性の認識の割合が低い項目は,ピアサポートや母乳育児に関する項目であり,重要性の周知や実施率の向上に向けて特に検討が必要であることが示唆された。父親支援の実施状況と支援の学習経験に有意な関連がみられ,質の高い支援の実施に向けて助産師教育の検討の必要性が示唆された。父親支援の必要性の認識は高いと考えられたが,87.2%の助産師が支援実施に困難を感じており,支援の実施機会を増やすために,ICTを活用した支援の拡充の必要性が示唆された。

  • 谷口 千絵, 渡邊 浩子, 渡邊 典子, 和泉 美枝, 宮川 幸代, 眞鍋 えみ子, 江藤 宏美, 高田 昌代, 北村 聖, 村上 明美
    2024 年 38 巻 1 号 p. 145-154
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,実習前の助産学生(以下,学生)の質保証に関する取り組みと課題,助産学共用試験に対する助産師養成校の専任教員の認識を教育年限別に明らかにすることである。

    対象と方法

    2020年10月~2021年1月に,全国の助産師養成校218課程の教務主任/教育の責任者1人および専任教員1人の436人を対象にWEB調査を実施した。調査内容は,実習前の学生の質を保証するための取り組みおよびその課題,助産学共用試験に対する認識である。教育年限1年課程,教育年限2年課程,学士課程(選択コース)の3群に分けて分析した。

    結 果

    149人から回答を得た(有効回答率34.2%)。実習前に学生の質を保証するための取り組みをしていると回答した者は143人(96.0%)であり,140人(94.0%)が現在の取り組みに課題があると回答した。課題としてもっとも回答が多かったのは「時間が足りない」で,教育年限1年課程および学士課程(選択コース)では,教育年限2年課程に比較して有意に回答者の割合が高かった(p=0.010)。助産学共用試験を94.6%が「必要/やや必要」と回答して教育年限による差はなかったが,実習前に学生の質を保証する試験については,教育年限1年課程および2年課程と比較して学士課程(選択コース)では「あまり必要ではない/必要ではない」と回答した割合が有意に高かった(p=0.047)。

    結 論

    実習生の質を保証する取り組みはすでに多くの教育機関で行われていたが,カリキュラム上の時間が足りないことが課題となっていた。助産学共用試験は実習前の学生の質保証に必要なシステムであると認識されていた。

  • 佐山 理絵, 安達 久美子, 岡本 美和子, 島田 真理恵
    2024 年 38 巻 1 号 p. 155-163
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    助産所における業務継続計画(Business Continuity Plan;以下BCP)作成の目的は,災害時に管理者および職員の安全を確保しつつ,その地域の妊産婦および母子の生命および健康を守るために助産業務を継続させ存続させることであり,各助産所でのBCP策定を推進し災害等の非常時に備える必要がある。本研究は,助産所のBCP策定推進に向けた課題について検討するために,助産所のBCP策定状況や平常時の準備を含む災害対応についての実態について明らかにすることを目的とした。

    方 法

    研究デザインは横断研究であり,助産所の管理者を対象とし無記名自記式質問票を用いたオンライン調査を実施した。調査内容は,助産所の属性,BCPに対する認知と策定状況,助産所の災害発生に備えた準備や災害発生時の対応,新型コロナウイルス感染症等の感染症発生時の準備や対応についてであった。

    結 果

    292件の助産所管理者から回答があった。BCPについての認知については,知らないが76.0%,BCPが策定されている助産所は2.4%,準備・検討中は18.5%で,策定されていない助産所は79.1%であった。災害対策に関する基本方針が策定されている助産所は18.2%であり,BCPとしていないものの災害対策に関する検討を行っている助産所があることが分かった。新型コロナウイルス等感染症発生時の準備や対応についてはほとんどの助産所が対応を行っている。

    結 論

    BCPについて知らないとした助産所が多く,BCPが策定されている助産所も少数であった。助産所の自然災害等の災害発生に備えた準備は行われている部分もあるものの,体系的で十分な実施・対応には至っていないことが明らかになった。助産所が災害発生といった非常時において母子のニーズに応えるケアを継続的に提供できるように,BCP策定を推進していくことが求められる。

  • 佐々木 綾香, 石村 美由紀, 林 薫
    2024 年 38 巻 1 号 p. 164-174
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,ピアサポートを利用する双子を育てる母親の妊娠期から育児期における体験を明らかにし,双子を育てる母親へのピアサポートの効果的な利用を検討することを目的とした。

    対象と方法

    生後3歳未満の双子を養育中で,ピアサポートを利用する母親3名を対象に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した。また,すべての研究過程において,質的研究者のスーパーバイズを受けた。

    結 果

    双子を育てる母親の体験として9のカテゴリーが抽出され,双子を育てる母親の双子ならではの体験と,双子を育てる母親のピアサポート利用の体験の2つのコアカテゴリーに分類された。双子を育てる母親の双子ならではの体験として,妊娠期に【双胎妊娠特有の心身】を抱え,【双子についての不十分な情報】に悩まされてきた。そして,出産後には【子どもと別々の退院がもたらす母親のアンビバレントな感情】を抱いていた。育児期に入ると【双子をもつ母親が抱く育児負担感】は壮絶なものであり,特に【双子育児中の母親にとって外出が困難な状況】は双子を育てる母親を孤独な状況へと追いやっていた。双子を育てる母親のピアサポート利用の体験として,【ピアサポート利用までの道のり】が長かった者もいたが,【双子育児の助けとなり安心できるピアサポート団体の支援】があった。【ピアサポート利用による心理的効果】は,他の何にも変わることのできない非常に大きなものであり,ピアサポーターは双子を育てる母親たちにとって心強い存在となっていた。そして,そこには【ピアサポーターとしての新しい役割の獲得】があった。

    考 察

    ピアサポート利用は双子を育てる母親にとって,精神的に大きな役割を果たしているため,母親が社会的に孤立することを予防するためにも,双子を育てる母親に対し,妊娠早期からのピアサポートによる支援介入を行うことが重要であることが示唆された。

feedback
Top