生物教育
Online ISSN : 2434-1916
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62 巻, 3 号
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研究論文
  • 奥村 雄暉, 長嶋 志帆, 畑野 健, 川端 あづさ, 澤 友美, 中松 豊
    2021 年 62 巻 3 号 p. 122-127
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    高等学校の生物基礎における血球による食作用の観察は,チョウ目昆虫を材料として使用すれば,澤と中松(2014)の方法にしたがい容易に観察・実験が可能である.しかし授業実践において生徒にアンケートを実施したところ自分で食作用を示した血球を見つけることができなかったと回答した生徒が複数いた.そこで今回は生徒が自分自身で見つけ観察することのできる材料と方法を提供することを目的に,身の回りにある蛍光を発する物質に着目して適した異物の種類及び実験条件の検討を行った.その結果,販売会社は問わないが,生理食塩水で500倍に希釈した黄の蛍光インクを使用し,反応時間を15分で行う実験条件が最も教材として適していると考えられた.また,蛍光インクに対して食作用を示した血球は懐中電灯型のUVライトを正立顕微鏡に設置することで,簡易に蛍光観察が可能となった.UVライトのみを用いる暗視野で蛍光発色する異物を見つけ,その後ハロゲンライトとUVライトの両方を用いる明暗視野によって血球の輪郭を認識することで,生徒自らが容易に食作用を示した血球を観察できると考えられる.

  • ―次世代科学教育スタンダード(NGSS)によるSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育改革に注目して―
    小坂 那緒子, 熊野 善介
    2021 年 62 巻 3 号 p. 128-139
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    新学習指導要領では,先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられる超スマート社会であるSociety5.0を担う子供たに必要となる資質・能力を育むため,主体的・対話的な深い学びの実現が重要視され,これまで以上に探究活動を充実させることとなった.また,新しい教科として理数を創設し,数学と理科という教科等横断的な学習を行おうとしている.一方,STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育法が成立し,STEM教育改革が行われている米国では,次世代科学スタンダードNGSS(Next Generation Science Standards)が公表され,理科の各科目の中で科学(理学)と工学を統合した教科等横断的な学習を実現しようとしている.本研究では,NGSSがもたらした米国高等学校生物教科書の記載変化を明かにし,今後の日本の科学教育に役立つ知見を得ることを目的とした.米国の高等学校理科教育において市場占有率の高い3社の教科書会社(Pearson, Houghton Mifflin Harcourt, Graw Hill Education)の高等学校生物教科書を整理した上で,NGSS提唱前から出版される教科書(Miller & Levine Biology, HMH Biology, Glencoe Biology)について,最新版と一つ前の版の内容を比較した.NGSSによって教科書の記載内容に起こった変化を調べた結果,NGSSの影響を強く受けて大幅に内容が変化したものと既存の枠組みを維持するものとに分かれることが明らかになった.さらに新版に取り入れられた内容について,NGSSで重視される領域コア概念,科学的・工学的プラクティス,領域横断的概念がどのように取り込まれたかを分析した.今後日本において,学習内容のSTEM化や教科等横断的学習,課題解決型学習といった独自の新しい科学教育を行うにあたり,参考にできる点や課題などを把握できた.具体的には,米国の2社の教科書において神経系,筋肉・骨格系,循環器系,呼吸器系,内分泌系,免疫系の学習内容が削除され,領域コア概念として工学的デザインと関連する活動が増加していることが明らかとなった.

研究報告
  • 荻原 彰, 森 ひなの, 小西 伴尚
    2021 年 62 巻 3 号 p. 140-149
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    高等学校生物の免疫分野における発展的な教材としてがんと免疫系の相互作用を扱う教材を開発し,授業実践でその効果を検証した.まず免疫系によるがん細胞の認識などがん細胞と免疫系の相互作用の各段階の鍵となると思われる内容に絞って学習内容を選択した.次いでその内容を扱った副読本を作成した.副読本の特徴は,がん細胞や免疫に関与する細胞(キラーT細胞)などを人物で表現し,細胞間相互作用を人物どうしのやりとりに置き換えたイラストを作成し,それを説明の補助に使用したことである.副読本の内容を劇の形にした人形劇も作成した.授業は,冒頭に人形劇を上演し,その後,副読本を各自で読み込み,グループで副読本の内容を再構成する課題を行うという形で行った.評価は理解度と興味度の自己評価で行い,理解の促進,興味の喚起に効果的だったと評価できる結果を得たが課題も残されている.

  • ―小・中学校理科の教材化を目指して―
    川畑 龍史, 藤倉 憲一, 細川 克寿, 岡本 記明, 阪本 典子, 西野 友子
    2021 年 62 巻 3 号 p. 150-159
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    本研究は,動物の体のつくりやはたらきを知るための身近な生物の骨格標本を用いた学習方法の実践とその効果を報告するものである.

    大阪市立東田辺学校の6年生児童40名(男子20名,女子20名)の協力を得て授業実践を行った.よく煮込むことのみによって作製した豚足の骨格標本および市販のニワトリの手羽元,さらに,イラスト付きスライドを参考資材として授業で用いた.骨を直に観察すること,骨の成長過を実感すること,造血器としての骨の役割,骨の中の細胞(骨をつくる細胞・骨をこわす細胞)の存在など,一般には視覚的に捉えることが困難な内容を,人と他の動物の標本やスライドを用いることで児童達に“見て”もらい,実感させた.また,観察のみならず骨の成長が全身にどのような影響をもたらすのかなど,より発展的な内容についても追加解説し,体のつくりと働きを捉えることを理解しやすい内容とした.

    アンケートは授業前と授業後に行った.授業の前と後を比較すると,特に骨への知識や着眼点に著しい違いが見て取れた.さらに,骨病変や加齢性変化など,正常の骨の成長のみならず疾患までへも興味の幅を広げ,探究心・好奇心を涵養できた様子が窺えた.

    結語として,身近な生き物を用いた実習形式の授業は,机上で得た知識を実感と納得に基づく“見識”へと知識の階層を昇華させ,新たな疑問を抱ける児童へと成長できるなど,教育効果が高い取り組みであることが示唆された.

研究資料
  • 山田 靖子, 藤本 智萌, 森 章
    2021 年 62 巻 3 号 p. 160-166
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    本稿では,2018年12月に実施した神奈川県内の高等学校の生物教員へのアンケート調査および2016年から2018年に検定された生物基礎および生物の教科書の観察実験及び探究項目の記載内容の分類に基づき,現在の高等学校における生態学教育における課題を整理した.質問項目は以下の4項目に大別される.教科書の内容への所感,授業で用いる教材への所感,体験型学習の実施状況,自身が受けた生態学教育の経験と生態学分野への印象.アンケート調査の結果から,教科書の内容の偏りを指摘する意見があったほか,野外での体験型学習を授業で実施したくてもなかなか実施できない現状,実際に教員が生態学を学ぶ機会の中でも体験型学習の機会が必ずしもあるとは言えない現状などが示唆された.博物館やオンライン教材についても,高校生物の教育現場の要望に適合した教材があまり多くない現状が浮き彫りとなった.また,教科書解析から,観察実験や探究の項目はのうち,授業で実施されている項目は限定的である傾向が見られ,実習内容については教員が自身の技量や経験に基づき独自に実施している例も見られた.以上より本稿から示唆される高等学校での生態学教育における今後の課題は,高校の教育現場の要望を反映した教材の開発と,教員が独自に考案した個別の教材を地域や学校を超えて他の教員が広く参照できる体制の強化である.

  • ―なぜ,保育者は動物に「さん」を付けて呼ぶのか?―
    岩本 夏実, 田川 一希
    2021 年 62 巻 3 号 p. 167-172
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    保育者が,幼児と動物との関わりを支援する際の特徴的な言葉かけとして,動物に対して「さん」「くん」「ちゃん」といった敬称を付けて呼ぶ表現(敬称表現)が挙げられる.保育者83名に対する質問紙調査の結果,幼児と8種類の動物との3種類の関わりの場面について,敬称表現が用いられる場合は60.5%であった.幼児が動物と仲良く遊んでいる場面,動物をいじめている場面では,幼児が動物の生態に興味を持っている場面と比較して,敬称表現が用いられる頻度が高かった.敬称表現の使用のねらいについて,保育者は,幼児の生命尊重や親しみの感情,思いやりの気持ちの育ちを意識していた.

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