校内に生育する雌雄異株のハリガネゴケ(Bryum capillare Hedw.)を14ヵ月間定期的に採集し,配偶子のうの発達,受精の時期,胞子体の発達,減数分裂の時期,および胞子分散の時期に留意して生活環の全容を分析した.あわせて,群落内の微気象(気温と湿度)の測定も行った.その結果,ハリガネゴケは,一つの花序あたり形成される配偶子のうの数が多く,配偶子のうや配偶子の観察に適していること,および胞子体の初期発達過程において長期間の休止状態が存在していることが明らかとなった.したがって,ハリガネゴケを生徒の観察教材として活用することで,生命の連続性や環境に対する植物の巧みな適応戦略を同時に学びとることができると考えられる.
高校の授業の課題に,生徒たちが住む地域社会の課題を取り入れることにより,生徒達に大きな興味関心を抱かせることを期待した.本研究では,我々の農業高校において,STS教育を試みた.そこで生物工学の課題として植物組織培養を取り上げ,材料として遠野地方特産の「暮坪カブ」を用いた.植物組織培養を応用した本課題は,この植物の無菌苗の作出を目的とした.まず,Hyponex培地に,無菌播種を行った.種子から発芽した植物体から,成長点を取り出し,植物ホルモンのα-ナフタレン酢酸(NAA)およびカイネチン(KIN)を添加したMurashige and Skoog培地(MS)(Murashige, and Skoog 1962)で培養した.その結果,MSおよびHyponex培地にNAA0.5mgl−1ぉよびKIN2.0mgl−1添加したものが,成長点培養に適していた.生育した植物体は,発根のためバーミキュライトを入れた試験管内へ移植し,そしてこれを畑に植え,植物を成長させた.成長した植物体の辛味成分を分析したところ,通常の栽培による植物体と組成および量にほとんど違いはなかった.この研究課題に生徒達は,大変積極的に取り組んだ.また,この研究は「暮坪カブ」の苗を地域農家に供給できる可能性を示した.
維管束の立体的な観察実験は,維管束が光合成や呼吸などの生化学反応に関係する水や養分が植物体内を移動する管であることを,学習者に理解させるうえで重要と考える.そこで,近年普及してきた低真空走査電子顕微鏡(低真空SEM)の維管束の観察実験への活用を,大学の生物学の授業において試みた.双子葉草本植物数種を候補として観察材料を検討した結果,センニンソウの茎が,典型的な双子葉草本植物の維管束の配列を低真空SEMで明瞭に観察でき,カミソリの刃による横断面,縦断面試料の作製も容易であることから,観察材料として適当であることが明らかとなった.そこで,センニンソウの茎を材料として,観察実験の授業実践を行ったところ,学生達は短時間で低真空SEMの基本的な操作方法を習得し,維管束を構成する細胞どうしの立体構造を観察できた.本研究によって,低真空SEMが維管束の観察実験の授業において有効に活用できることが示された.