総合病院精神医学
Online ISSN : 2186-4810
Print ISSN : 0915-5872
ISSN-L : 0915-5872
32 巻, 3 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集:総合病院におけるアルコール連携医療の可能性
総説
  • 小松 知己
    原稿種別: 総説
    2020 年32 巻3 号 p. 238-245
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    日本のアルコール医療における大きな課題は,巨大なtreatment gap(推定未治療率95.4%)であり,その克服には,アルコール専門医療機関以外でのアルコール依存症などアルコール使用障害(AUD)患者への初期診療が切に望まれる。しかし,多くの精神科医はAUD患者に苦手意識を感じており,総合病院勤務の精神科医も例外ではない。実は,総合病院(多くは基幹型臨床研修病院でもある)入院中のAUD患者に介入して断酒・減酒を志向した治療へ導入することは,いくつかtipsを押さえれば非常に効果的・効率的である。また,精神科やそれ以外の科に進む研修医や若いコメディカル・スタッフへの教育効果も高い。

    本稿では,筆者が中規模総合病院で入院中のAUD患者に介入した治療成績(平均治療期間663日の男性147名・女性34名:断酒36.5%,減酒22.1%,飲酒13.3%,不明28.1%など)を紹介するとともに,軽装備で介入を効果的に行うための院内システムの構築について,経験と考察を述べた。

経験
  • ―専門外来設置前後10 年間にわたる比較と検証―
    白坂 知彦, 松居 剛志, 常田 深雪, 相澤 加奈, 木村 永一, 齋藤 利和
    原稿種別: 経験
    2020 年32 巻3 号 p. 246-253
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    アルコール依存症患者数は109万人とされる一方,精神科依存症の專門治療を受けている患者はわずか4万人と推定されている。一般診療科では依存症自体への治療が必要であると理解しながらも,連携が十分に機能せず専門治療へとつながらないことが課題とされていた。当院では総合病院内に2015年から「お酒のもんだい相談外来」を設置し,アルコール問題の早期介入を行ってきた。本論文ではこれまでの取り組みの内容を紹介し,専門外来設置前後の5年間の患者転帰の経過を後方視的に評価する。専門外来設置以前は年8件弱の新患紹介数であったが,設置後5年で漸増し約10倍程度の紹介数となった。また転帰に関しても不介入のまま飲酒を続けていた割合が65%から6%に減少し,断酒,節酒,精神科病院と依存症治療につながった割合も15%から68%に増加した。この論文では,われわれが行ってきた総合病院における精神科の早期介入の方法とその10年にわたる成果の検討から,今後の依存症早期介入の一つのモデルケースとなり得る可能性が示唆された。

原著
  • 角南 隆史
    原稿種別: 原著
    2020 年32 巻3 号 p. 254-261
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    アルコール依存症者や多量飲酒者は,当院のような総合病院に多く受診していることが明らかになっているが,その対策は当院においてもほとんど進んでいない。

    当院では入院患者に対するリエゾン活動を行っているが,その約6割がせん妄に関するコンサルトであった。このことを踏まえ,せん妄発症リスクの一つとして多量飲酒・アルコール依存症にフォーカスを当てた,せん妄のアセスメントシートを作成した。またアルコール離脱症候群のマネジメントおよびその後のアルコール関連問題への心理社会的な介入の仕方を示したアセスメントシートも作成し,院内で学習会を開催している。このような取り組みにより,入院,外来においてコンサルト事例の増加を認めた。

    本稿では,上記の取り組みの詳細や今後の課題,そして総合病院においてアルコール問題へ介入する際のポイントについて考察を行った。

原著
  • ―単科専門病院の精神科医によるリエゾン出張診察および治療導入―
    手塚 幸雄, 村上 優
    原稿種別: 原著
    2020 年32 巻3 号 p. 262-267
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    アルコール依存症専門医療機関である単科精神科病院の精神科医が,総合病院でのアルコールリエゾン診療を開始した。1カ月に2日,外来患者および入院患者のうちコンサルトを受けた患者を診察し,アルコール依存症と診断した患者には専門医療機関への紹介を念頭に動機づけ面接を行う。本研究はリエゾン診療開始後1年間の症例集積研究である。47名の外来患者,30名の入院患者を診察した。診察した入院患者のAUDITの平均点は22.5点,依存症に至る患者は21人(70%),そのうち専門医療機関へ紹介となった患者は14人(67%)であった。リエゾン診療開始により専門医療機関へのアルコール依存症患者の紹介受診数は12人から25人と2倍以上に増加した。アルコール依存症専門医療機関から総合病院への出張リエゾン診療により,治療につながるアルコール依存症患者が増加する可能性があり,アルコール依存症治療のトリートメントギャップを小さくするための1つの手段になり得る。

経験
  • ―精神科リエゾンチームの看護師としての立場から―
    佐藤 寧子
    原稿種別: 経験
    2020 年32 巻3 号 p. 268-276
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    東京医療センターでは,一般的なアルコール医療につなげることが難しいアルコール使用障害(AUD)患者のために,2017年11月から,短期入院治療プログラム(Tokyo Medical Center Alcoholic Program with Physicians=TAPPY)を行っている。精神科病棟に2週間入院し,多職種が講師となって行う勉強会,精神科医による精神療法,自助グループにつなぐことを柱としている。2年間で,すべての患者が何らかの継続治療につながることができた。精神科リエゾンチーム介入によって,身体科病棟からTAPPYを受講する患者も増えている。急性期総合病院において,早期に患者が専門医療を受けるよう動機づけるには,多職種で関わることが重要である。精神科リエゾンチームは,医療者が依存症を理解し,回復の一歩への支援ができるよう,身体科とのより良い連携・協働を促進することが必要である。

一般投稿
原著
  • 福榮 太郎, 福榮 みか, 京野 穂集
    原稿種別: 原著
    2020 年32 巻3 号 p. 277-286
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    本研究では,性別,年齢,認知機能の状態を統制したマッチドケースコントロール法を用い,Mini-Mental State Examination(MMSE),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),Neurobehavioral Cognitive Status Examination(COGNISTAT)の3つの認知機能検査から,うつとアルツハイマー型認知症(AD),せん妄とADの比較を行った。その結果,せん妄とADにおける明確な差異は認められなかったが,うつとADとの比較においては,うつのほうがADよりも見当識,記憶などの認知機能が保たれており,一方ADのほうがうつより,注意,理解,復唱,計算,判断などの認知機能が保たれていた。これらの結果より,認知機能検査の結果を精査することが,うつとADの鑑別の一助になることが示唆された。

  • 沖野 和麿, 野崎 伸次, 富岡 大, 山田 浩樹, 岩波 明, 稲本 淳子
    原稿種別: 原著
    2020 年32 巻3 号 p. 287-294
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    わが国の自殺者数は,他の先進諸国と比べ非常に高い水準にあり,自殺企図患者に精神科医が関わることの重要性が増している。今回,救急受診した自殺企図患者を比較,調査することによって,緊急度・重症度の異なる自殺企図患者の社会的背景,ストレス因子,心理学的側面の違いから,介入方法などについて検討を行った。結果は,三次救急病院に搬送された者が,二次救急病院に搬送された者と比べ,自殺企図の既往をもつ者が有意に多く,同居人がいない例が有意に多かった。両施設とも約半数は,自殺企図の契機となったエピソードが家族もしくはパートナーとの関係性に関連しており,衝動性もしくは自己顕示性を心理的特徴とした者が多かった。自殺企図行為を繰り返すうちに,身体的な重症度の高い自殺企図となる可能性があり,軽症のうちに予防対策を講じ,周囲の支援が得られるような地域と連携したシステムを構築することが重要と考えられた。

経験
  • 大内 雄太, 鈴木 舞
    原稿種別: 経験
    2020 年32 巻3 号 p. 295-303
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    2014年,日本透析医学会は「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」を公表した。プロセスのはじめに患者の意思決定能力の有無が問われるため精神科医への意思決定能力評価依頼が増えている。われわれは臨床現場で本提言を運用した経験をふまえ,次のような課題を認識した;(1)患者の意思決定能力評価の具体的な手法や記録方法が記載されていない,(2)意思決定能力の判定困難な患者の処遇が未定である,(3)意思決定能力があり透析継続中止を希望する患者には精神科医等の第三者が介入できる余地がほとんどない,(4)透析非導入や継続中止を選択した後の患者・家族・医療従事者へのサポート体制が不足している。われわれは,本報告内で症例を基に4 つの課題への解決案を提示した。2020年に公表予定の新提言が,透析医のみならず精神科医にとって臨床現場ですぐに活用できるような提言となることを願う。

症例
  • 安藤 悠哉, 久保 徹, 西山 潔, 坂本 直子, 宇都宮 勝之, 村山 道典, 竹村 洋典, 緒方 克彦
    原稿種別: 症例
    2020 年32 巻3 号 p. 304-308
    発行日: 2020/07/15
    公開日: 2024/11/22
    ジャーナル フリー

    カタトニアはしばしば認知機能障害や感情鈍麻などによる人格低下を惹き起こし,その結果,患者や家族にQOL低下をもたらすため,寛解に至った後でも再燃に注意が必要である。今回われわれは,大外科手術の後に緊張病症状を呈した71歳男性の症例を経験したので報告する。本症例は20歳代においてカタトニアにより2度の入院歴があったにも関わらず,その後67歳まで会社員を全うしたが,今回,直腸がん術後に昏迷や精神運動興奮と沈滞などが認められ,カタトニア再燃の診断に至った。臨床経過としては発症から6週間で完全寛解に至り,短期間の経過であった。

    再燃の背景として,大外科手術という身体ストレスを背景に家族に遺言を残すべきかどうかを悩み,心的ストレスが重なった複合的葛藤状況が誘因となったと考えられる。カタトニアを既往歴にもつ患者が手術を経験する場合においては,術前から精神科専門医による評価を受け,適格な診断につなぐことが重要と思われる。

feedback
Top