土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
特集号: 土木学会論文集
80 巻, 16 号
特集号(水工学)
選択された号の論文の174件中51~100を表示しています
特集号(水工学)論文
  • 後藤 勝洋, 瀬尾 敬介, 後藤 岳久, 福岡 捷二
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16059
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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     多摩川中流部河道は,経年的な河川改修により低水路河床高が維持され洪水流量に応じて低水路幅が拡大することで,自然河川に見られる動的に安定な河道形状である船底形河道へ変化している.本稿では,多摩川中流部に形成された船底形河道について,洪水流・河床変動解析結果を用いた水理的・環境的評価を行った.船底形河道では,砂州の比高差に応じて適度な洪水攪乱が生じることで,草本植物の生育場が保たれ,樹木管理のし易い河道となっている.また,船底形河道では,流量の増加に応じて水面幅が広がるため,底面流速の増加が緩やかであり,洪水時の魚類の避難場所となり得る低流速域が連続的に形成され易い.このように船底形河道は多様な生物のハビタットの保全に寄与し,その河道検討にあたり高精度の解析結果は重要な情報を与える.

  • 石川 忠晴, 河内 敦
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16060
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     ダムによる洪水調節は河道の掃流力を減少させる.そのため下流河道において砂州の固定化と樹林の繁茂により礫河原が消失しつつある.本研究では,礫河原の樹林化が著しい北上川右支川の和賀川について,上流の湯田ダムの洪水調節方法を変更することによる河床礫移動の促進可能性を検討した.まず出水時の湯田ダム流入量と和賀川流量の統計解析からダム調節容量に十分な余裕のあることを確認し,和賀川河道の洪水流下能力の範囲内での洪水時ダム放流量の増加可能量を検討した.その結果,生起確率1/5の河道流量を約1100m3/sから1800m3/sに増加できることがわかった.続いて浅水流モデルを用いて流量増に伴う掃流力の変化を計算し,和賀川河道で支配的な10cm径の礫の移動性を改善できることを示した.

  • 小山 直紀, 大淵 雄矢, 山田 正, 山田 朋人
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16061
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,都市域における内水氾濫による被害軽減のための内水氾濫危険情報の発令を効果的に運用することで早期避難実現を目指すべく,下水道水位の流出特性とその予測可能性について検証した.その結果,降雨強度と下水道水位のピーク時間の差は僅か5-10分程度しかないことがわかった.そして,下水道内水位は満管状態になると水位は急激に上昇し溢水に至る可能性があり,各下水道の満管時間を予測することが重要であることを示した.このように都市域で小さな集水域では避難時間が非常に短いことから,予測降雨を用いることでこの避難時間を確保することを検討し,10分先予測迄の予測降雨は活用できることを示した.これらの結果より,上述の時間と組み合わせれば約20分程度の避難時間を確保でき,下水道水位の観測が早期避難に有用であることを結論付けた.

  • 平川 隆一, 齋川 晏慈, 仲本 小次郎, 根岸 智和, 星野 裕也
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16062
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     近年,記録的な豪雨や都市化の進展により,全国各地で内水氾濫が発生している.浸水時の避難にハザードマップが用いられることがあるが,従来のハザードマップでは一般的に浸水深だけが掲載されている.水中歩行を伴う避難行動では,流速や避難距離の影響も受けることが考えられる.本研究では,浸水深以外も含めた指標で内水氾濫時の避難困難度を定義した.さらに,避難困難度を対象地区に適用して可視化し評価することを目的とした.そして,浸水シミュレーションを複数の確率年を対象として行った.避難困難度は水中歩行と避難距離と道路に関するパラメータを用いて算出した.その結果,避難場所付近で避難困難度が小さく,避難場所から離れた箇所で避難困難度が大きくなった.また,新たな避難困難箇所の可視化の可能性が示唆された.

  • 加藤 拓磨, 國谷 岳, 手計 太一, 向山 公人, 近藤 建斗
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16063
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     令和4年12月より改正航空法が施行され,都市部でのドローンの目視外飛行,いわゆる「レベル4飛行」が可能となった.しかし第三者の土地の上空を無許可で飛行できず,許可を得た場合にも地域住民の社会受容性が求められるため,都市部でのドローン物流の実現には,リスクが少ない河川空間を活用すべきと考える.一方,ドローン物流を行うには,自動・自律飛行が必須条件となるため,空間情報が必要となる.本稿では実証実験においてドローンで撮影した画像から生成された3次元点群データと,河川に関する各種空間情報の比較を行った.3次元点群データは他の空間情報よりも有用であることが示された.

  • 篠原 裕幸, 中村 恭志
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16064
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     高所から水面への落水事故について人体と流動の連成数値解析による傷害リスク評価を行った.上方10mから静水面への転落を想定し落水時の人体姿勢と水深が異なる複数の解析を実施した.自動車事故の傷害リスク評価指標を援用し,人体に加わる流体抗力と水底面への衝突による衝撃力から傷害の種類と生存率を算出した.足先や頭から垂直に着水する立位姿勢と倒立姿勢では,水面への着水時の傷害リスクは小さいこと,一方,水深1m以浅の場合には水底面への衝突による傷害リスクが生じ,特に倒立姿勢では致命的な傷害を受ける可能性があること,さらに,伏臥姿勢で体前面で水面へ着水する場合には,着水時に肺破裂など深刻な傷害を受ける可能性があることなど,高所からの落水時の傷害リスクは落水姿勢と水深とに大きく影響を受けることが示唆された.

  • 藤本 寛生, 手計 太一
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16065
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     開発途上国などの気象観測網が十分に配備されていない地域において,衛星プロダクトによる精度の良い衛星雨量の提供は防災のみならず,観測雨量を必要とする技術や研究の適用範囲を拡大できる期待がある.そこで本研究では静止気象衛星ひまわりに深層学習である完全畳み込みニューラルネットワークを用いることにより,新たな衛星雨量推定アルゴリズムHiDREDv2の提案を目的とする.本研究では既存のモデルのそれぞれの特徴を組み合わせることにより,気象現象に適したモデルを構築した.本モデルの6時間積算雨量の精度は,RMSEは13.26,FSSは0.69であった.そして,平成30年7月豪雨による強雨期間4日間積算雨量ではGSMaPを大きく上回る精度向上が認められた.

  • 会田 健太郎, 久保田 啓二朗, 浅沼 順, 開發 一郎, 小池 俊雄
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16066
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,著者らがALOS/PALSARの使用を前提に開発した既往土壌水分推定アルゴリズムの汎用性向上のための検討を実施した.まず,これまで一定であると仮定していた入射角の変化に対応させることで,ALOS2/PALSAR2データに適用した.また,既往アルゴリズムでは地表面粗度を推定するために多偏波データを用いていたが観測頻度が非常に低いことが課題であった.もしSAR観測とそれによって推定される土壌水分マップが複数あれば,マイクロ波散乱モデルを用いた逆推定により地表面粗度を推定することが理論的には可能である.そこで,そのデータセット作成を念頭に,機械学習の手法(ランダムフォレスト法)を用いて,どの程度の精度でSentinel-1/C-SARデータから土壌水分推定が可能であるか検討した.

  • 津田 守正, 栗原 悠太
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16067
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     時系列的な人工衛星画像と河川の観測水位を組み合わせて,緩勾配河川の水位変動域における標高を推計し,砂州の移動や構造物周辺の洗堀のモニタリングに適用した.人工衛星画像により水域として抽出されるときと抽出されないときの間に,当該地点の標高が含まれると仮定して標高を推計するものとした.この際,複数の水位観測所を用いて推計した標高を,各観測所からの距離に応じて内挿することで水面勾配を考慮した.天候の影響を受けず高水位時の観測に適したレーダ衛星と,天候の影響は受けるもののノイズの少ない光学衛星を用いてブラマプトラ川中流域の河川構造物周辺地形を推計した.いずれの衛星も砂州の変遷や河川構造物周辺の洗堀の進展を把握できるものの,解析対象とする標高範囲や水平規模に応じて適用性が異なることを示した.

  • 小林 健一郎, 矢野 真一郎, 伊島 実咲, 角 哲也, Le Duc , 川畑 拓矢
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16068
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本稿では,ダム治水効果をできるだけ簡潔に推定して表示する方法論について検討した事例を示す.対象は,九州の球磨川流域に建設予定の川辺川ダムで,大規模洪水時のこのダムの治水効果を推定した.対象降雨は令和2年7月豪雨で,まず解析雨量を用いて市房ダム及び建設予定の川辺川ダム位置での流出計算を貯留関数法により実施した.川辺川ダム位置ではダムが無い場合の流入流量及び今回設定したゲートによる洪水防御操作を想定した放流量を計算することにより,それより下流での河道水位,浸水範囲のダムの有無による差異を検討した.ダム下流での浸水計算は浅水流方程式でスパコンも用いた大規模計算を実施した.解析雨量での検討の後,同令和2年7月豪雨の1000アンサンブル降雨計算の最大規模2メンバを抽出し,これを用いた川辺川ダムの最大クラス洪水に対する治水効果を推定した.結果として,川辺川ダムの治水効果が一定程度あることを示した.

  • 津田 拓海, 皆川 朋子
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16069
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,人吉市街地の堤内地に貯留・浸透及び氾濫流制御対策を講じた場合の支川のピーク流量及び浸水域の低減効果をシミュレーションにより評価した.田んぼダム(対象流域面積の1.4%),学校グラウンドと公園(対象流域面積の0.04%)を活用し雨水貯留を導入した場合,50年確率までの降雨に対して,山田川,西川内川,御溝川のピーク流量は現況より約1~8%低減し,福川ではさらに道路嵩上げ(総延長1.3km)を導入することで約51%低減した.氾濫域は,田んぼダム導入により30年確率までの降雨に対して低減し,さらにグラウンドや公園における雨水貯留及び道路嵩上げを局所的に導入することによって,50 年確率までの降雨に対して低減することができると推定された.

  • 松井 大地, 池内 幸司, 南出 将志
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16070
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     世界規模で進む地球温暖化に加え,日本では深刻な人口減少と高齢化が進行している.将来の気候変動による洪水規模の拡大が想定される一方で,高齢者は災害に対して脆弱であるため,高齢者の割合の増加は洪水による犠牲者数の増加につながると考えられる.こうした気候変動と高齢化による人的被害を増加させる効果と人口減少による人的被害を減少させる効果をすべて考慮したときに,人的被害の規模は現在と比べてどのように変化するか調査した.秋田県の雄物川流域を対象として,将来洪水による人的被害を推計した.その結果,将来の予測では人口が著しく減少するにもかかわらず,洪水規模の拡大や高齢化の進行によって犠牲者数は現在よりむしろ増加する可能性が高いと予測された.

  • 原 裕喜, 谷口 健司
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16071
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     石川県の一級水系手取川を対象に5箇所の霞堤を整備することを想定し,氾濫解析を行い,破堤発生時の氾濫制御及び経済損失軽減効果について評価を行った.計画規模降雨を想定した氾濫解析結果では,破堤発生断面によっては潜在的な洪水氾濫被害額は800億円以上(約87%)減少した.一方,霞堤整備箇所には開口部が形成されるため,霞堤を設定した断面によっては締め切り時には流下されていた程度の洪水時にも氾濫が生じ,破堤しない場合にも浸水が生じることとなった.計画規模と想定最大規模の中間の降雨を想定した氾濫解析においても浸水軽減効果を発揮し,1,000億円程度(約82%)の被害額軽減が期待できるケースも生じた.想定最大規模降雨に対しては破堤しない際にも広範囲で浸水が生じ,霞堤を整備した場合には浸水の拡大が生じた.

  • 藤井 智之, 丸井 健, 吉岡 佐, 藤森 祥文, 内山 雄介, 森脇 亮
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16072
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     流域治水の一環として田んぼダムの取り組みが注目されている.本研究では宇和盆地を含む肱川上流域(野村ダム流域)を対象に,田んぼダム導入による流出抑制効果をダム流域スケールで定量的に評価した.調整板のあり・なしに関する貯留関数法を用いた流出解析では,字スケールのレベルまで流域を広げれば,従来の貯留関数とほぼ同様の方法(モデルパラメータ k=2.4)が適用できることが確認できた.また,ダム流域の土地利用面積率などを考慮した流出解析では,野村ダム実績流入量を再現することができた.ダム流域スケールにおいて,いくつかの確率降雨,降雨波形による流出解析を行うことで,田んぼダムの導入が流出ピーク量を効果的にカットする条件を明らかにすることができた.

  • 赤穗 良輔, 宅野 智紀, 松井 大生, 前野 詩朗
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16073
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化を踏まえ,流域治水対策の一つである「田んぼダム」の治水効果について,効率的かつ精度良く評価することが可能な手法の構築が求められる.本研究では,田んぼからの排水操作を簡便に考慮できる新たな手法を提案し,包括型洪水氾濫解析モデルへの導入を行った.さらに,高梁川水系軽部川流域へ本手法を適用し,令和3年8月豪雨を対象として通常排水及び田んぼダム運用を想定した数値解析を実施した.氾濫状況や田んぼの湛水深の変化を明らかにするとともに,田んぼごとの営農への影響についても検討可能であること示し,田んぼを活用した流域治水対策を検討する際に有用な手法であることを示した.

  • 石塚 正秀, 溝渕 佳希, 渡辺 悠斗, 藤澤 一仁, 三好 正明, 岡崎 慎一郎, 吉田 秀典, 金田 義行
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16074
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     内水氾濫と外水氾濫(溢水氾濫)が同時に発生する重畳氾濫を考慮した複合水害を対象として,複合水害解析モデルを用いて浸水シミュレーションを実施し,単位幅比力Mを指標として,重畳氾濫が避難に与える影響を調べた.その結果,重畳氾濫時に,1) 高齢者女性,成人女性・高齢者男性,成人男性の安全避難の判断基準となる限界値を超える範囲が広がる,2) 避難できなくなる避難所が生じうる,3)より早く避難を開始する必要性がある,4) 避難所での避難継続時間が長くなる,ことが分かった.以上より,重畳氾濫は避難のリスクを高めることから,豪雨時の避難をより安全に行うためには,重畳氾濫(複合水害)を考慮することの重要性が示唆された.

  • 梶田 颯斗, 小林 拓矢, 川越 清樹
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16075
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     流域治水の実践や安全かつレジリエントで持続可能な社会環境の創出への長期的対策を講じるため,若齢就学者の実情把握と防災課題抽出を目的としたアンケートによる調査,分析に取り組んだ.研究対象地として,令和元年東日本台風から3年を経過した夏井川流域を設定した.アンケートの単純集計からの実態を把握した.また,ディシジョンツリーによる実態に基づく課題の系統化による分析を進めた.主な結果として,甚大な被害の差の認められた上流側―下流側と,中学生―小学生に防災意識に差のある実態が明らかにされた.また,ディシジョンツリーの結果として,校内で行える防災教育の他に共通認識のための協議を進めることが水害リスク認知に効果的になりえる結果を得た.

  • 大屋 祐太, 山田 朋人
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16076
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,高解像度レーダー(XRAIN)を用いた線状降水帯の降水セル追跡手法を開発した.同手法を2015年9月に発生した線状降水帯に適用した.その結果,20分以上の寿命を持つ降水セルは約10分ごとに発生していることがわかった.また約10km程度の間隔で存在し,15から25m/sの速度で移動する特徴が示され,この結果は変分原理を用いた三次元解析とも整合的である.さらにほとんどの降水セルは,検出されてから10分間は降水強度が増加し続けており,降水強度のピークは雨域の北部に集中する特徴を定量化することが可能になった.線状降水帯の抽出から事例選定を経て同手法を適用する解析スキームによって,多くの線状降水帯を対象とした分析が進み,降水セルの時空間特性を統計的に示すことが可能となる.

  • 平川 隆一, 渡辺 裕太, 大本 照憲
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16077
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     令和2年7月豪雨で被害の大きかった熊本県球磨川の,蛇行部の内岸側に位置する球磨村渡地区の今村・地下集落や茶屋集落では,流下型氾濫が生じて洪水流が湾曲部上流側の堤防を乗り越えて堤内地を流れ,堤防側の家屋は流失を免れたが堤内地の越流箇所下流では家屋倒壊が発生した.本研究では,複断面蛇行水路の堤内地と低水路の境界に堤防を設置し,定常流および非定常流における堤内地の流れ構造と乱れ特性を明らかにした.室内実験の結果,堤防がない場合とある場合の水位と流速の変化や,高水敷上の堤内地でも流速が早くなる箇所が見られた.また,乱れ特性では減水期に大きな値が示された.

  • 宅和 佑悟, 福島 千乃, 福岡 捷二
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16078
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     山地河川は急流河道に巨岩・巨石等の激しい混合を伴う三次元的な流れ場である.逆流域を伴うこうした複雑な流れ場では非静水圧準三次元解析法(Q3D-FEBS)が用いられるが,流速・圧力分布の与え方に課題が残されていた.そこで,河床近傍の複雑な流れ場をより適切に説明するために粗度の影響の大きい下層とそれより上の層に分け,流速・圧力分布形の検討を行った.具体的に,2層4次関数流速分布式と流れの境界条件の与え方を検討し,流速・圧力分布の提案を行う.粗度周りの三次元解析データより粗度の大きい流れの流速分布の変曲点がレイノルズ応力分布の極大位置と概ね一致することから,この位置を2層の境界面と設定した.解析結果は逆流域や複雑な二次流場のある複雑な開水路粗面乱流場に対し適合性の高い分布形を与えることを示した.

  • 横嶋 哲
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16079
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     Maxey–Riley方程式中の履歴力の表現が等方乱流中の粒子挙動に与える影響を,粒子比重を[0, 10000]間で変化させて調べた.履歴力カーネルとして,古典的Bassetカーネルと,有限Re数と長時間遅れの効果を反映したMei–Adrianカーネルを比較した.Bassetカーネルは履歴力の影響を過大評価するものの,本研究条件下ではその程度は小さい.履歴力は非常に重い粒子では無視できる反面,やや重い粒子や軽い粒子では一般に無視できず,軽い粒子には影響がより強く表れる.軽い粒子では圧力勾配が,重い粒子ではストークス抗力がクラスタを形成するのに対し,履歴力を考慮することで,軽い粒子では圧力勾配の寄与の一部が打ち消され,やや重い粒子ではストークス抗力が弱められ,偏分布が緩和されることが示された.

  • 松本 知将, 岡本 隆明, 山上 路生, 髙田 真志
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16080
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では水路片側に水没剛体植生群落が遍在する開水路流れの運動量輸送過程の解明を目的とし,水路実験を通じて群落近傍の乱流・二次流構造について考察する.植生群落の幅を系統的に変化させた4通りの流れ場を対象に鉛直面PIV・水平面PIVを実施し,鉛直渦・水平渦構造とそれらの運動量輸送への寄与について調べる.また,計測断面を細かく設定してPIV計測を行い,片側水没群落近傍における二次流の発達過程についても考察する.流速計測結果より,群落幅が中程度のケースにおいて水平渦および二次流が最も顕著に発達することが示された.さらに,二次流計測によって得られた乱流統計量の横断面コンターから,流れが発達する群落下流端付近では水平渦よりも鉛直渦が広範囲に卓越し,二次流の発達に影響を及ぼすことが示唆された.

  • 小林 大祐, 内田 龍彦
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16081
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     透過性抵抗体によって発生する流体力の適切な評価は,Froude数(Fr)の異なる段波の抵抗と減衰に大きく影響するため,河川遡上津波の適切な予測計算にとって重要である.本研究では,円柱群を通過するFrの異なる砕波段波の波高を測定する基礎実験を行い,開水路非平衡流中の流体力評価法に基づく 1次元計算結果と比較することで,Frによる段波の減衰・反射特性とその再現性を検討した.Frが大きいほど,透過性抵抗体による砕波段波の波高・波速の減衰率は大きい結果となった.これは,抵抗体の存在による反射率の違いによると考えられる.本研究で用いた流体力評価手法によって,Frの違いによらずに減衰波高の縦断分布は概ね再現される.一方,従来の抗力係数を一様に分布させる評価手法では,Frによらず波高・波速の減衰率を評価できないことを示した.

  • 呉 許剣, 山上 路生, 岡本 隆明, 角 哲也
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16083
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     洪水時に河床の沈木が流下すると、ゲートや堰などの河川構造物が閉塞等の重大な事故を引き起こすことがある.そのため,沈木の正確な動態予測を考慮した河川管理が必要となる.しかしながら,沈木は一般的な河床構成材料の砂礫よりも比重が小さく指向性がある形状をもつため,その掃流特性は従来の土砂水理学の知見のみではカバーできない.そこで,流下特性の基礎的知見を得るために水路試験を行った.実験水路の路床に設置した円柱型の沈木模型の流下特性を,カラートラッキング法によって画像解析した.主流軸に対する沈木の姿勢角(ヨー角)と沈木の軌道や,側壁に接触するまでの移動距離を実測した.特に沈木は長いほど軌道安定性が高いことや,根や初期ヨー角によって運動形態や流下距離が変化することを示した.

  • 太田 一行, 佐藤 隆宏
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16084
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では非構造格子に対応可能なオープンソースライブラリOpenFOAMに既往の流木計算手法を導入し,橋脚および堰における流木捕捉実験の再現解析により妥当性を検証した.解析結果は,橋脚における流木捕捉の確率および特徴を概ね良好に再現し,堰における流木挙動についても一定程度の説明が可能であることを示した.一方,堰の流木捕捉確率の解析精度向上に向けて,堰周辺での流木回転を表現するために流体・流木の相互作用の精緻化が重要であることが示唆された.本研究における解析技術は,複雑な形状を持つ橋梁・堰付近の流れを含めた流木解析が可能であり,流木に対するリスク評価または対策設計の際に有用なツールになり得る.

  • 山本 悠賀, 久加 朋子, 藤田 正治
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16085
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     常願寺川河川区間における近年の河道物理特性の把握を目的とし,経年的な現地データの整理と非定常二次元河床変動解析を行った.結果,現地データより2000年代前半以降も10kより上流域では河床の侵食傾向が,10kより下流域では堆積傾向が続いていた.一方,粒度分布は大きな変化がなく,2000年前半と同じく6k付近を境に代表粒径が大きく粗粒化していた.数値解析によると,常願寺川では平均年最大流量の700m3/s規模ではみお筋が移動し難く,上流域では河床低下と粗粒化が進むことが示された.一方,下流域では流量規模に応じた掃流砂の移動限界が大きく異なった.常願寺川の河床材料構成を支配する流量は,平均年最大出水ではなく1500m3/s規模であると推察された.

  • 森本 晃樹, 角 哲也
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16086
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     水力発電は安定した出力を長期的に維持することが可能な脱炭素電源として重要である.一方で,水力発電の持続性を確保していく上で,貯水池土砂管理は大きな課題である.水力発電ダムの土砂管理手法として通砂運用の導入が一部のダムで進められているが,運用を最適化するための十分な知見が得られていない.本検討では,段階的に通砂運用を進めてきた瀬戸石ダムにおいて,これまでに得られた通砂効果を総括するとともに,運用中に発生した大規模洪水である令和2年7月豪雨がもたらした影響について考察する.ここでは,通砂効果を簡易に推定する指標であるクレスト/河床水深比について検討するとともに,令和2年7月豪雨を含む通砂運用に伴う調整池内の土砂動態について,数値解析および現地データを用いて明らかにした.

  • 影山 雄哉, 萬矢 敦啓
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16087
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,流域微細土砂動態を把握することを目的に,衛星画像(Sentinel-2)を用いて本支川を含んだ流域全体の濁度分布と流砂量の縦断的な把握を行った.対象としたー級水系岩木川流域では2022年8月豪雨後,断続的ながらも数か月という長期間に渡って高濁水が継続した.衛星画像を用いて異なる降雨イベントにおける流域全体の濁度分布を把握した結果,濁度の強弱や高濁度の継続期間といった観点で支川ごとに異なる特徴がみられたが,それは降雨分布や地質構造から見ても妥当なものであることを確認した,また,降雨流出モデルを用いて濁度分布から流砂量へと換算することができるが,支川の合流前後においても流砂量の連続性が保たれていることを確認した,

  • 秦 梦露, 原田 大輔, 江頭 進治
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16088
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,分布型降雨流出モデルと単位河道の土砂輸送モデルを骨格とした流域土砂流出モデルに,表面流による斜面侵食モデルを組み込んで,その適用性を検討したものである.斜面侵食モデルは土粒子の侵食・堆積項を有する浮遊砂の輸送方程式を斜面に適用し,ガリ侵食に伴う斜面から単位河道への土砂供給現象を定式化して構築されたものである.モデルを北海道の安平川における降雨・土砂流出現象に適用した結果,河床材料の粒度分布,浮遊砂の濃度およびその粒度分布の経時変化は観測に近いものを得られた.そして,斜面からの供給土砂が出水の経過に伴って,徐々に下流域の流砂条件を変化させていく過程がみられた.これは,斜面からの土砂供給の影響と長期的な土砂流出現象との関係を検討する上で重要な役割を担っていることを示唆するものである.

  • 山口 栄治, 福田 朝生
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16089
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,2粒径の混合粒径土砂流の水路実験を実施し,大粒子径に対する流動深の比を表す無次元流動深を定義し,この指標が混合粒径土砂流の特徴的な現象である先頭部大粒子集積に及ぼす効果を考察した.無次元流動深の変化に関係する水路への供給流量,水路勾配,粒子の粒径を個別に変化させた条件で実験を行った結果,無次元流動深が概ね1以下の範囲で,先頭部の大粒子の集積が生じなかった.PIV解析による粒子速度の分析より,無次元流動深が1以下の場合,大粒子は水面上への突出に伴う浮力の減少により,移動が抑制されていることが示唆された.また,無次元流動深が概ね1以上の範囲では,供給流量が大きいほど,水路勾配が小さいほど,水路勾配低減時に粒径比が大きい条件ほど先頭部大粒子集積が顕著になる傾向が確認された.

  • 和田 孝志, 虫明 寛人, 三輪 浩
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16090
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     土石流流動深の0.01倍程度(実験スケールで粒径0.1mmオーダー)の砂成分に着目し,当該成分の混合が土石流先頭部の大礫集積に及ぼす影響を水路実験により把握した.実験では,平均粒径0.1mmオーダーの砂成分を含む3粒径階から成る土石流(相対水深20未満の石礫型土石流)を対象とし,当該成分の初期含有割合を変化させた条件で3粒径階成分の先頭部含有割合の変化を比較した.実験結果より,当該成分も他の粒径成分と同様に,土石流流下時の「動的ふるい効果(流動層内で砂礫間隙を通り抜けて下層に落ち込むこと)」による粒度偏析機構の対象成分となることが推察された.また,当該成分の含有割合に係わらず,土石流の相対水深,無次元掃流力,土石流構成材料の均等係数を指標とすることで先頭部大礫集積の傾向が整理可能であることも明らかにした.

  • 江口 翔紀, 赤松 良久
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16091
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,土石流流下距離を簡便に予測する統計的手法を検討した.まず,山口県内の99地点の危険渓流における,土石流シミュレーションから得た土石流の到達有無を目的変数,周辺の地形特性を説明変数とした決定木は,土石流の到達有無を正解率0.850で推定できた.また,本モデルを用いた最適な流下距離推定方法を適用することで,土石流シミュレーションにおける流下距離を高精度に再現できた.同様に,山口県内の67地点の災害履歴における土石流の到達有無を目的変数とした場合も,災害履歴における土石流の到達有無を正解率0.808で分類可能であり,流下距離を良好に再現できた.また,本手法では土石流シミュレーション結果や土石流警戒区域と比較して,危険性が特に高い領域までの流下距離を推定していると考えられる.

  • 山野井 一輝, 篠原 滉志, 川池 健司, 小柴 孝太
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16092
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     平成30年胆振東部地震によって厚真川流域に形成された崩壊起源の裸地斜面では,降雨時に表層土砂が流出して河道に供給されることで,厚真川流域の土砂動態に長期的な影響を与えることが想定される.一方,当流域の裸地斜面表層は砂・粘土が混在する複雑な状態にある.これを反映した土砂動態シミュレーションを実現するため,砂・粘土混在斜面を対象にした降雨供給実験,二次元河床変動解析に基づく実験の再現計算,および実斜面スケールでの計算結果を用いた砂・粘土供給量の推定式構築を行い,この推定式を導入した流域全体の長期的な土砂動態シミュレーション方法を構築した.適用の結果,流域末端での浮遊砂観測量が説明できる結果が得られただけでなく,早期の土砂供給低減対策が数年スケールでの流出土砂量の低減に効果的であることを示した.

  • 辻本 久美子, 太田 哲
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16094
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,土壌の誘電特性が土壌水分特性の影響を受けることに着目し,陸面放射伝達モデル内の誘電率モデルと植生水分量推定手法を変更した新たな土壌水分量推定アルゴリズムを提案した.推定した土壌水分量は,モンゴル,スペイン,オーストラリアの現地計測値と比較して精度検証した.

     本研究の提案アルゴリズムは,ある程度湿潤な条件下のみで土壌水分量推定値を得ることができ,その条件下では,スペインとオーストラリアの検証サイトにおいてJAXA標準アルゴリズムよりも高精度を与えていた.特に植生量が多い条件下でJAXA標準アルゴリズムよりも高精度を得ることができていた.提案アルゴリズムは乾燥条件下に対する精度向上が課題であり,これには,地温の鉛直プロファイルを考慮して土壌水分指数を計算することが有効であると示された.

  • 川崎 公輝, 井手 淨, 山室 直斗, 小田 貴大, 松村 明子, 乃田 啓吾, 花崎 直太, 平林 由希子
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16095
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     将来の気候変動による水リスクの変化を定量化するためには,人間活動による水循環への影響を適切に反映した水資源モデルが必要である.特に,高解像度で水リスクを推計するためには,流域外からの導水による水利用を考慮することが重要である.そこで本研究では,日本全国の灌漑目的の導水路網の整備を行い,水資源モデルに導入することによって,流域外からの導水による水不足の緩和効果を定量的に評価した.灌漑目的の導水路は,日本の陸域グリッド数の約16%に存在していた.日本全域での導水路起源の灌漑水は灌漑水全体の28%に相当し,モデル上の供給不足量も1994年平均で255億m3/年から169億m3/年に向上した.また,日本海側の沿岸部の水田地域では,流域外からの灌漑水による水不足の顕著な緩和効果が確認された.

  • 小田 貴大, 松村 明子, 花崎 直太, 小川田 大吉, 沖 大幹
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16096
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     全球水資源モデルを高解像度化し,1分空間解像度で領域へ適用する研究が発表されている.しかし,先行研究においては,低解像度の全球水資源モデルの取水の仮定に従いグリッド毎に表流水を取水する方法で水需給評価が行われている.本研究では,全球水資源モデルH08を高解像度化したモデルを構築し,東京都の配水系統を明示的に考慮した水供給システムと従来型の配水の概念を持たずグリッド毎に河川から取水する水供給システムによって水需給の評価を行った.その結果,従来モデルでは実際とは異なる取水源から水が供給され,都市部の水需給を適切に評価できないことを示した.本研究成果により,従来モデルの水供給システムの課題が示され,高解像度モデルにおいて適切に水供給システムを表現することの重要性が強調された.

  • 竹島 滉, 芳村 圭
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16097
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     大気海洋モデルと陸域モデルを結合する際, 陸域モデルは大気格子と同じ格子系を用いるのが一般的だが, この場合陸域の格子系はその地形や植生分布などとは独立に定義されることになる. 一方, 陸域モデルに適した単位集水域格子系等の格子系は形状が複雑なため扱いが難しく, また結合システムの内挿変換における保存性に課題がある. 本研究では, 単位集水域格子系に代表されるラスター格子系を含む, 任意の球面格子系間におけるスカラー量保存内挿変換アルゴリズムを開発する. さらにこれを応用して, 結合システムの陸域モデルに単位集水域格子系を導入し, かつ内挿変換における保存性と単調性を担保する手法を提案する.

  • 川浦 朝日, 仲吉 信人
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16098
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     メソ気象モデルを用いた都市気象シミュレーションの精度向上を目的として詳細建物データが国土の全土に整備されている日本とアメリカを対象に最新版の高解像度都市幾何パラメータデータベースを構築した.また,都市キャノピーモデルを用いた1次元オフライン計算により,都市・大気間の熱交換に及ぼす都市幾何パラメータの感度分析を行った.天空率や運動量粗度などの熱・空気力学的パラメータだけでなく建蔽率や平均建物高などの建物幾何パラメータ自体も気象計算に大きな影響を及ぼすことが明らかになった.精度の高いデータベース構築の必要性が示された.

  • 渡邉 悠太, 仲吉 信人, 小野村 史穂, 川浦 朝日, 金子 凌, 髙根 雄也, 中野 満寿男
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16099
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     高精度な気象シミュレーションには,建物屋根面アルベドデータが必要である.本研究ではアルベド測定の不確実性を理解するため,東京都の合計11棟の建物屋上で行った現地測定,リモートセンシング含め,考えられる全てのアルベド測定手法にて実建物の屋根面アルベドを評価した.その結果,手法毎に算出されるアルベド値は異なり,特に現地測定手法の一つであるハイパースペクトルメータの算定値は他の手法との乖離が大きかった.これはアルベド測定における指向性による影響が確認された.衛星・空撮画像によるリモートセンシング手法では,画像解像度の影響により現地観測で対象とする建材以外のアルベド値も含まれてしまうことで,他の手法が測定したアルベド値との差に繋がることが確認された.

  • 稲垣 厚至, 野村 希良々, 神田 学
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16100
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究は都市乱流境界層シミュレーション結果に基づく,街区内乱流統計量のデータベース構築を目的とする.流入風の乱流特性は境界層の発達に伴い地表面抵抗により修正され,街区内の平均流の空間分布が建物幾何形状のみで概ね決定される.その特性を活用し,計算領域を分割して実行された計算結果を再合成することで,広範かつ高解像度の都市街区乱流統計量の空間分布データベースを作成する.東京23区を対象としたシミュレーションを実施し,流れ方向及びスパン方向に計算領域を分割することの妥当性を検証し,摩擦速度で規格化することで補正を加えることなく合成できることを示した.一方,個々の建物幾何では説明できない,強い大規模乱流構造が発達する場合に領域細分化の影響が顕著になることが分かった.

  • 厳島 怜, 丸岡 慶祐, 木内 豪
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16101
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究は環境劣化が著しく,生物相の情報が不足する鶴見川流域の支川域を中心に,魚種の生息状況および魚類群集構造と環境要因との関係を解明したものである.調査対象とした71地点は,魚類相の類似度から感潮域,非感潮域および種多様性が低い地点の3群に分類された.非感潮域では国内外来種が指標種として選択され,また,種多様性が低い群では,大陸系統のドジョウ属が多く確認された地点がみられ,在来魚種への影響が懸念される.一方,魚食性の外来魚は極めて少なく,都市化による河道物理環境の劣化が,種多様性低下の最も大きな要因と考えられる.また,種多様性が低い場所は,流速や水深の多様度が小さく,都市率や河床のコンクリート被覆度が環境を劣化させる主要因であることが明らかとなった.

  • 宮園 誠二, 滝山 路人, 宮平 秀明, 中尾 遼平, 赤松 良久
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16102
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     流域における魚類の保全を効率的に行うため,広域における河川環境健全度を効率的に評価する手法が必要となる.本研究では,江の川の土師ダム下流の自然度の異なる支流を対象とし,環境DNA定量メタバーコーディングを用いて推定した魚類の種数と環境DNA濃度を基に,対象支流の河川環境健全度を評価することを目的とした.結果として,種数および環境DNA濃度を基に算出した生物的指数で,対象河川の支流の河川環境健全度を評価することが可能となった.また,種数を基に作成した河川環境健全度指標は,生息場のサイズに影響され得るが,環境DNA濃度を基に作成した河川環境健全度指標を組み合わせることで,種数のみでは把握できなかった魚類の生息場利用を明らかにできることが示された.

  • 滝山 路人, 赤松 良久, 宮園 誠二, 福丸 大智, 中尾 遼平
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16103
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,中国地方一級水系の高津川水系を対象に流域網羅的にすべての魚類の環境DNA濃度を明らかにし,魚類多様性指標を算出した.さらに,魚種数・Simpson多様度指数と生息場の環境要因との関係から,高精度のGLMモデルを作成した.それぞれの多様度に影響しうる環境要因として,魚種数においては水温・河床勾配,Simpson多様度指数においては水深・流量・水温・水田割合に相関があった.魚種数は水温と強い正の相関,Simpson多様度指数は流量と強い負の相関が確認され,河川下流で相対的に魚種数が多く,Simpson多様度指数は河川上流でも高くなることが示唆された.さらに,GLMの結果を基に流域網羅的な魚類多様性のポテンシャルマップを作成し,流域スケールでの魚類多様性の分布を可視化した.

  • 丸山 啓太, 花岡 拓身, 齋藤 稔, 赤松 良久
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16104
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     江の川水系下流域の本川と,支川の八戸川において,河床環境調査,および環境DNAを用いたアユの降下・産卵動態調査を行い,アユ産卵場としての支川の評価を行った.支川では本川に比べて小粒径の河床材料の割合が高く,かつ,河床貫入度も高いことから,アユの産卵に適した河床環境であった.降下動態の調査からは,アユが夏に支川を生息場として利用し,秋に短期間で降下したことが明らかになった.産卵動態の調査からは,アユが本川と同様に支川で産卵を行っていることが明らかになった.また,環境DNA濃度に流量を乗算した環境DNAフラックスは,特に産卵期後半には本川と支川で同等であったことから,特定の支川は,江の川水系におけるアユの重要な産卵場として機能していることが明らかになった.

  • 原田 守啓, 塩澤 翔平, 鈴木 崇史, 永山 滋也
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16105
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,アユの産卵適地を抽出可能な適地条件を提示すること,出水攪乱によって形成されるアユ産卵適地を平面二次元河床変動解析モデルを用いて抽出する汎用的な手法を構築することを目的とする.木曽川水系長良川の扇状地区間に手法を適用し,その有効性と課題を検討した.石礫床河川の幅広い流況に対応した流水抵抗評価を実装した数値計算モデルに,アユ産卵期に河床攪乱を生じる出水を一定時間与え,その後,平水流量下における適地条件に基づく適地抽出を行った.適地条件は,河床表層材料の粒度分布と掃流力の2つを条件とし,小礫を主体とした浮き石河床を抽出するものである.結果として,アユの産卵場として好適な河床環境が形成されている瀬を,既存手法よりも限定して抽出することができた.

  • 鬼束 幸樹, 廣中 雄太
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16106
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     魚の遡上が困難なダムや堰には魚道を設置することが望ましい.魚が魚道を遡上する条件として,魚道入り口への集魚および魚道内で滞留あるいは降下せずに速やかに通過することが求められる.一般に,魚は気泡を忌避するが,本研究ではこの特性を利用して魚道に侵入した魚を遡上に誘発させる条件を模索した.階段式魚道内で気泡の発生位置を変化させるとともに,気泡発生量を0~10×10-3m3/(m2s)に変化させた結果,切り欠きの筋向かいのプール底面に気泡を発生させると遡上を誘発すること,および気泡混入量の増加に伴いその効果が顕著になることが解明された.本研究結果を現地魚道に適用することで,魚の遡上率の向上が期待される.

  • 鬼束 幸樹, 渡邊 杏咲, 徳井 雄一郎, 山田 琉生
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16107
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     ウナギが海洋から河川に遡上する際に,ダムや堰が移動阻害となり種の存続に負の影響を与えている.ウナギが遡上する際,粘膜に覆われたウナギと底面との間に大きな摩擦力の発生は期待できない.そのため,鬼束らは遡上力を支持できる,横断方向に間隙を有さない長方形桟粗度の設置を考案した.ただし,上流側隅角部ではニホンウナギの腹部と底面に隙間が生じてしまい摩擦力が低下する.これを回避する方法として三角形桟粗度の採用が挙げられる.本研究では,三角形桟粗度間隔をニホンウナギの全長の0.5倍とし,三角形桟粗度および魚道の勾配を変化させ,遡上に適した幾何学条件を模索した.その結果,全長200mmのニホンウナギの場合,本実験の条件下では桟粗度勾配16.7°,魚道勾配10°が最も遡上に適していると判明した.

  • 鬼束 幸樹, 原田 大輔, 飯隈 公大
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16108
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     ニホンウナギの個体数減少の一因としてダムや堰の取水口への迷入が挙げられ,防止策として音からの忌避行動を用いた手法がある.音がヨーロッパウナギの忌避特性に及ぼす影響は若干検討されているものの,ニホンウナギを対象とした研究は皆無である.本研究では静止流体中に発生させる音の水中音圧レベルを91~126dB re 1μPa,周波数を20~300Hzに変化させ,ニホンウナギの忌避特性に及ぼす影響を調査した.その結果,ニホンウナギはいずれの水中音圧レベルにおいても周波数150~200Hzの音を忌避した.また,上記の周波数帯では全長倍遊泳速度が高くなる傾向が観察された.以上の結果より,取水口付近に周波数150~200Hzの音を発生させるとニホンウナギが忌避し,迷入防止になる可能性を示せた.

  • 松本 晋太朗, 呉 修一
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16109
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     本研究は地域住民の居住地における危険度の認知,洪水災害の頻発化による住民避難の促進に向けて,急流河川における堤防の侵食リスクを考慮した氾濫各地点の浸水ハザード情報(地先のリスクマップ)の提示を行うことを目的としている.富山県を流れる一級河川である小矢部川,庄川,神通川,常願寺川,黒部川を対象に洪水氾濫解析を行うとともに,堤防の侵食危険度評価を考慮した浸水確率,床上浸水確率,水平避難確率の算定を行った.結果として,堤防の侵食危険度が変化すると堤内地での浸水確率,床上浸水確率,水平避難確率が変化することを示した.また,全体のハザード比較により神通川右岸側では他の河川よりも優先的に侵食被害への対策を行っていく必要性があることを明らかにした.

  • 山口 里実, 矢部 健一郎, 高橋 賢司, 古溝 幸永, 森田 大詞, 廣瀬 秀樹
    2024 年 80 巻 16 号 論文ID: 23-16110
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル 認証あり

     河川の急流区間では,越流によらない堤防侵食の被災が頻発している.特に河道湾曲部では,低水護岸背面の侵食が堤防侵食に至る被災事例がみられる.本研究では,堤防侵食の危険性が高い河道湾曲部外岸側の被災現象を対象とし,低水護岸背面の高水敷洗掘から堤防侵食に至るまでの現象の把握と対策案の効果検証を目的として大型水理実験を用いた検討を行った.実験の再現結果より,低水路の流れが乗り上げる箇所で低水護岸背面が洗掘されると,低水路の速い流れが高水敷に向かいやすくなり,堤防に向かう速い流れが発達しやすくなる被災過程を明らかにするとともに,それを踏まえた対策案の効果を検証した.

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