土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
特集号: 土木学会論文集
80 巻, 16 号
特集号(水工学)
選択された号の論文の174件中101~150を表示しています
特集号(水工学)論文
  • 長内 悠真, 豊田 将也, 加藤 茂
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16111
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     愛知県豊橋市を流れる二級河川梅田川では,河道内に植生が繁茂し,河道の断面阻害が発生しており,洪水時に水位が上昇しやすい.本研究は現地観測と数値モデルを組み合わせて,河道内植生が洪水時の水位に及ぼす影響を評価した.また伐採状況を考慮した植生高に関する感度実験を実施し,植生管理手法の検討を行った.感度実験の結果,植生高を2m未満で維持することが重要であり,また右岸堤防表法面上に存在している植生が水位上昇に大きく影響を与えていることが明らかとなった.植生管理手法としては,2回に分けた伐採が有効であり,現地の植生高を考慮して,最も洪水が発生しやすい9月までに右岸側に分布している植生を伐採,またそれに先立って7月下旬に左岸側を伐採することで,氾濫リスクを抑えることが可能になると考えられる.

  • 原田 紹臣, 中谷 加奈, 里深 好文, 水山 高久
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16112
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     近年,全国各地で豪雨災害が頻発化し,道路橋梁等の被災が多く報告されている.これを受け,我が国では信頼性の高い道路ネットワーク構築を目的に,道路リスクアセスメントの考え方が新たに示された.今後,超過洪水時等における河川に隣接する道路橋梁の被災リスクについて明確にしていくことが,急務な課題となっている.本研究では,筆者らの先行研究において示した被災リスクが高いと考えられる橋梁を対象に,基礎的な実験により,流木捕捉に伴う閉塞による橋梁流出や周囲への洪水氾濫防止に向けて提案した.実験の結果より,橋梁桁位置と水位との関係性に関する重要性について示すとともに,橋梁桁や高欄支柱の周辺における流木の閉塞メカニズムについて提案した.最後に,床版下の桁部周辺における流木捕捉に伴う閉塞軽減対策(桁防護工等)を提案し,それらの有効性について示唆された.

  • 若狭谷 昇真, 中津川 誠, 吉崎 昌彦, 飯田 譲, 西島 茉凜
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16113
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,中小河川の整備及び管理を実現するための空間イメージング技術を開発することである.中小河川の整備は,通常時の利用や環境の保全再生及び洪水時の安全確保に加え,地域の意向を反映した整備が求められ,将来像が直感的にイメージ化できる技術が必要である.本研究では,現在河川改修中の北海道室蘭市を流れる知利別川を対象とし,地域住民の意向をワークショップで把握し,VR による河川空間デザインを実施した.また,洪水時の危険性を想起させる活用を見据え,iRICNays2Floodによる増水や氾濫の計算結果をVRでイメージ化した.結果として,①地域の意向を勘案した河川空間デザインの作成手法,②平常時から異常時までのシームレスな画像表示手法,③情報が限定される中小河川への技術展開が可能な手法を提案した.

  • 松井 春樹, 川池 健司, 山野井 一輝, 小柴 孝太
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16114
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     実際の市街地を模した建物配置と建物内への浸水を考慮可能な市街地模型を対象に氾濫実験を行い,氾濫流の全体的な挙動といくつかの点で水深を測定した.このデータをもとに,都市部の洪水氾濫解析モデルにおいて建物への浸水の扱い方が異なる3つのモデルの検証を実施した.建物と格子辺を一致させ,建物のわずかな隙間から浸水すると想定したBuilding Gap(BG)モデル,空隙率と抗力係数を格子ごとに与えて評価する,国交省の定めるBuilding Porosity(BP)モデル,格子内に仮想的な建物を想定するBuilding in Mesh(BM)モデルである.このうちBMモデルは計算負荷がかからず氾濫水の浸水状況を表現できた.また,道路・街区を区別した非構造格子の適用により,計算結果が大きく向上することが示された.

  • 関根 正人, 北村 崚馬, 多屋 友布里
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16115
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     近年,地球規模で進行する気候変動の影響で,これまでに経験のない大規模な集中豪雨に襲われる機会が増加している.本研究で対象とする横浜市金沢処理区においては,2019年の台風15号をはじめとして沿岸部と内陸部の両方で浸水被害が発生してきた.本研究では,第一著者が独自に開発した精緻な都市浸水予測手法であるS-uiPSを用いて,対象エリアに一様に想定最大規模の降雨を与え,その浸水リスクを評価する.対象領域は急傾斜地に開発された住宅街を含んでいるため,S-uiPSに改良を加え,崖などの急斜面を介した水の移動を新たに考慮した.この拡張されたS-uiPSを用いることにより,これまでは計算できなかった住宅街を含むエリアの浸水予測結果が得られた.

  • 岩﨑 慎一郎, 谷口 健司
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16116
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     気候変動に伴う激甚化が懸念される洪水災害に対して,居住地誘導などの都市計画的手法による地域づくりの重要性が高まっている.本研究では,石川県小松市を流れる梯川周辺域を対象として,人口減少下での小学校の移転及び統合と市街化区域面積の変更を想定した複数のシナリオを設定し,応用都市経済モデルを用いて2045年の都市構造変化について推定した.また,擬似温暖化シミュレーションに基づく将来降雨を入力とした氾濫解析による浸水深分布に基づき,都市構造変化前後の洪水氾濫被害額を算定し,想定した施策の水災害リスク軽減効果を評価した.小学校の移転については最大で氾濫被害額が15.1%減少したが,市街化区域面積の変更と組み合わせることでを被害額の減少率は19.9%まで上昇し,施策の組み合わせによる相乗効果がみられた.

  • 和田 光将, 丸谷 靖幸, 渡部 哲史, 矢野 真一郎
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16117
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     河川の計画規模を定める際,長期間の観測データを基に水文量の年超過確率を定めることが重要だが,世界には観測データが乏しい流域も数多く存在する.そのような流域では,観測値として再解析データが利用されるものの,観測値との間にバイアスが存在する.そこで本研究では,河川計画での利用に向けた長期間の疑似観測データの作成を行い,データの作成に適した確率分布,較正期間に関する検討を行った.その結果,3段タンクモデルの適用により算出した疑似観測データに基づく流量は,観測値の流量を高精度に再現可能であり,指数分布型手法は日単位の流量,ガンマ分布型手法は大規模出水の再現精度が高いことが示された.また,15年以上の較正期間を設定した場合,極端な降水現象が大きな影響を与える確率流量を良好に再現出来ることが示唆された.

  • 髙田 亜沙里, 吉田 武郎, 石郷岡 康史, 丸山 篤志, 工藤 亮治
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16118
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究は,気候変動下における水稲の作付時期(田植え日)の変化が,各地域の農業用水の水需給バランスに及ぼす影響を評価した.全国77地点の利水基準点と作柄表示地帯を対象に,田植え日を最大±5週間まで変更し,各田植え日の収量と水需給バランスをプロセスモデルで計算した.収量を増加する田植え日の選択が水需給バランスを改善する「調和型」は38地点,悪化する「競合型」は37地点で見られた.基準田植え日に対して,収量最多となる田植え日の選択が水需給バランスに及ぼす影響は,田植え日の変更に対する収量と水需給バランスの関係性で説明できた.すなわち,調和型の地域では,収量を増加する田植え日が水需給バランスの面からも選択しやすい一方で,競合型の地域では水需給バランスの悪化により,その選択が阻害される可能性を示した.

  • 井上 湧太, 堀 智晴, 山田 真史
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16119
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     日本の水稲栽培について,作物生育と水資源利用可能性の相互関係を考慮した気候変動影響評価や,トレンドの変化に関する分析はこれまでに行われていない.本研究では,水稲生育モデルと農業用ダムモデルを組み合わせた複合モデルと,RCP8.5シナリオに基づく150年連続実験データを用いて,三重県の土地改良区を対象に水稲生育日数と収量,そしてダム貯水率と水ストレスの経年変化を分析した.その結果,収量の増加傾向は2070年ごろから停滞に転じ,年を経るにつれてダムの渇水時期が早まるとともに水ストレスは増大することが推定された.また,適応策として田植日の変更を考えると,平均収量の最大化という観点では田植日を早めることが望ましく,安定した灌漑補給という観点では田植日を遅らせることが望ましいことが分かった.

  • 柳原 駿太, 池本 敦哉, 風間 聡, 呉 修一, 藤下 龍澄
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16121
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     日本全国の一級水系を対象に,河道内植生の伐採順序による洪水被害軽減効果を推定するとともに,河道内植生の伐採が持つ適応策と緩和策の双方のポテンシャルが高い水系を評価した.河道内植生の影響を粗度係数により反映した洪水氾濫解析を行い,浸水深に基づき被害額を計算した.また,バイオマスポテンシャル量として正規化植生指標と植生域面積を乗じた値を求めた.その結果,伐採順序により洪水被害軽減効果が異なることが示された.洪水被害軽減効果が高い伐採順序と流域内の人口分布に関係が見られた.河道内植生の伐採による適応策と緩和策の効果が双方に高い水系は,十勝川水系,湧別川水系,岩木川水系と推定された.

  • 植村 昌一, 鈴木 博人
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16122
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     将来,地球温暖化による気候変動に伴って降水が増加することで,土砂災害のリスクは増大するといわれており,鉄道も影響を受けると考えられる.そこで本研究では,東北・関東地域における主要な線区で土砂崩壊の発生頻度が高い3つの鉄道路線を対象に,気候モデル(NHRCM02)によるRCP8.5シナリオに基づく数値実験の出力データを用いて,土砂崩壊発生数の将来変化の線区による差異を評価した.その結果,21世紀末における土砂崩壊発生数は,現在に対して関東地域の線区で3.4倍,東北地域の線区で平均2.5倍になることがわかった.

  • 平田 智道, 吉川 泰弘, 阿部 孝章, 大串 弘哉
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16123
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,2023年3月に北海道内で発生したアイスジャムの現地調査を行い,アイスジャム現象の定量的な知見を得ることを試みた.現地調査データからアイスジャム発生過程の河氷挙動を時系列で把握し,発生時の水位上昇量∆𝐻を基にアイスジャムの発生規模を評価した.過去の発生事例と2023年3月の事例を水位上昇量∆𝐻を指標に比較し,発生箇所及び発生年によって水位上昇量∆𝐻には差があり,最小で0.57m,最大で4.22mの水位上昇が生じたことを示した.また,アイスジャム発生前の累加降雨量に∆𝐻との正の相関関係(r=0.70)が見られた.既往研究で提案されているアイスジャム発生前の解氷現象を推定する解氷時期推定手法の現地適用を試みた.解氷時期を示す氷板厚の変動加速度𝑃𝐵は,アイスジャム発生日時の前に出現し,解氷時期を精度良く推定できることを確認した.

  • 仲吉 信人, 鈴木 菜々, 井上 奈々子, 須崎 貫太
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16124
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     人体の深部体温,皮膚温度を高精度に算出する数理モデルを開発した.モデルは深部・筋肉・脂肪・皮膚・血液の5ノードからなり,各ノードの熱収支式から温度の時間発展を解くものである.屋外温熱生理の被験者実験データから,性別・年代・体型で10分類した被験者属性に対しモデルパラメータを同定し,深部体温,皮膚温度の算出精度を評価した.マルチセグメントモデルの一つJOS-3と比較した場合,直腸温度の再現においては10属性中8属性で,体表平均皮膚温度の再現においては10属性全てにおいて本モデルの精度が高いことが確認された.加えて,本モデルは運動終了後に見られる直腸温度の位相遅れも精度良く再現できることが確認された.

  • 菅原 快斗, 佐山 敬洋, 山田 真史, 山本 浩大
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16125
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     アンサンブル気候変動データを用いた大規模な洪水解析を行うような場合には,広域で高速に解析できる水文モデルが必要になる.そのため,本研究では1km解像度のマクロスケールで降雨流出と洪水氾濫を一体的に解析する1K-RRIモデルを開発した.1K-RRIモデルは150m解像度の全国版RRIモデルをアップスケーリングすることで構築した.RRIモデルをマクロスケールに適用すると,山地と平野という流出形態の異なる土地利用を同一グリッドセル内で区別できないといった問題が生じる.そのため,山地と平野の平均勾配と面積を計算し,それぞれの流出を考慮できるように改良した.1K-RRIモデルと150m解像度モデルを比較したところ,1K-RRIモデルは150m解像度モデルの流出応答を再現できることが分かった.

  • 佐々木 靖幸, 安田 浩保
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16126
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     流出解析に要求される地形解像度は不明である.本研究では,四分木構造格子を用いた流出解析法により地形解像度ごとの流出特性の比較を行いその影響を分析した.また,RRIモデルとの比較を行い,河道を一次元的に取り扱う手法との比較を行った.その結果,四分木構造格子により河道の地形解像度を向上させることで水位の再現性が向上することが示され,河道の地形解像度は流出量の推定に大きく影響することを示した.さらに,河道のみならず山間部の地形解像度の違いが流出量に影響を及ぼすことが示唆された.

  • 田中 茂信
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16128
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     地球規模の気候変化により,極端豪雨の増加が懸念されている中で,短時間の非常に強い雨による災害を受けているところがある.土壌は植生や地表面の状態等により,固有の浸透能を有しており,降雨強度が十分大きい領域では浸透強度は浸透能にほぼ等しくなり,浸透強度が浸透能で一定となるので,降雨強度と浸透能の差分が直接流出すると考えられている.本研究は,全国複数地点において現地散水試験を行い,安定浸透強度と降雨強度の関係や浸透能の推定精度を調べたものであり,tanh型の安定浸透強度式が試験データにかかわらず浸透能の推定において優れていることを示している.あわせて米国で用いられているカーブナンバー法との関係についても紹介する.

  • 津村 悠虎, 佐々木 織江, 平林 由希子
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16130
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,高解像度の地理空間データセットを分析し,河川堤防を広域で容易に自動抽出する手法を開発した.具体的には,Google Earth Engineに搭載された高解像度DEMをAPIでPythonプログラムと連携して分析するシステムを構築して4つの地形パラメータ(相対標高,傾斜,側面差,曲率)を算出し,それらを組み合わせることで河川堤防を抽出する手法を開発した.鬼怒川とミシシッピ川流域では,本手法で得られた堤防延長は検証データに対して75%以上,かつ堤防高さも平均誤差1m以内での抽出が確認された.また,都市部の連続堤防や霞堤といった特徴的な地形や,解像度10m程度のDEMであれば中規模以上の河川で堤防抽出が可能であった.

  • 松永 葵, 佐々木 織江, 津村 悠虎, 鼎 信次郎, 平林 由希子
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16131
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     詳細で正確な氾濫情報を求められる中で,河川堤防の情報を正確に得ることは重要である.しかし,特に中小河川において,管轄する自治体の河川の維持管理費の不足などから,堤防の高さや位置に関するデータは十分ではない.さらに,河川管理者が認識していない古い堤防や支流における堤防が存在している可能性もある.Sasaki et al. (2023)の提案では高解像度のLiDAR DEMを用いて,一級河川のみで堤防検出を検証しているが,本研究では静岡県静岡市の堤防を自動検出することを試みた.断面が台形の堤防においては,一級河川の本堤のみならず,中小河川の堤防や霞堤,二線堤も検出することができた.一方で,アルゴリズムの定義とは異なる形の堤防が検出できないこと,反対に定義と似た形の構造物を誤検出してしまう点が課題抽出された.

  • 峯田 陽生, 糠澤 桂
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16132
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     標高データと地表水の流下方向を示す表面流向データは,流域水文過程の解析に有益な基礎データである.従来の表面流向は,窪地補正された標高データに基づいた最急勾配によって決定される.しかし,最急勾配では,標高補正手法や標高データの誤差に影響され,現実の河川形状に即した表面流向を構築できない.そこで本研究では,実河道情報を基に,標高補正の最小化と河川形状の再現性向上を目的とした落水線図作成手法を開発した.結果として,30m~1000mの複数空間解像度において,河川位置と流向の再現性が大幅に向上し,標高補正を低減できた.また,従来手法では困難であった小流域や湾曲度の大きな蛇行も再現できた.本研究の落水線図作成手法は,流域治水や広域の河川環境管理,デジタルツインを活用した防災等への貢献が期待できる.

  • 平川 隆一, 山田 百花, 仲本 小次郎
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16133
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     群馬県の多々良沼は,高度成長期前後から沼周辺の開発とそれに伴う汚濁排水の増加によって,水生生物の育成環境の悪化が問題となっている.湖沼での水質汚濁は,様々な要因が影響して生じている場合が多く,湖沼で生じている現象とその要因との因果関係を見極める必要があるが,多々良沼の水質改善を検討するための資料はほとんどない.そこで,本研究では年4回の現地調査に基づき,多々良沼内部における水質の時空間特性について検討した.その結果,水深の大きい多々良沼中央部で,夏季に温度成層が生じていることが分かった.また,夏季のDO,pH,クロロフィル蛍光の鉛直分布は,温度成層との関係がみられた.

  • 古里 栄一, 村田 裕
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16134
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     気泡式循環対策による貯水池における有害藍藻類抑制効果を数値解析モデルを用いて検討した.近年,現地で生じる弱い成層条件における広域水平密度流の流量減少が指摘されている.従前用いられている二重プルームモデルはこの傾向を表現できないことから,これを修正したモデルを用いて複数条件において貯水池二次元モデルによる解析を行った.特に解析結果について二重プルームモデルの修正モデルと従前モデルとの差異を評価した.その結果,従前モデルの修正モデルに対する,1.広域水平密度流(水面収束流およびイントルージョン)の流量の数倍以上の過大評価,2.これに応じた表水層滞留時間の過小評価,3.植物プランクトン抑制の過大評価が認められた.これらに基づき,工学的実務および今後の気泡噴流に関する研究課題の考察を行った.

  • 岡澤 拓矢, 新谷 哲也
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16135
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     水源貯水池の水質管理においては,水温の時空間的な変化の把握が重要である.現地観測は比較的信頼性の高いデータを提供するが,時空間的な変化を予測するためには数値流体力学モデルが不可欠である.本研究ではデータ同化手法の一つであるアンサンブルカルマンフィルタを3次元環境流体モデルFantom-Refinedに実装することで,その予測精度の向上を試みた.その結果,逐次的な同化はモデルの誤差を減らし続け,データ同化システムのロバスト性を確認することができた.3週間の平均MAEとRMSEはそれぞれ48%と74%まで減らすことができた.また夏季の成層した貯水池においては,限られた観測データを用いた場合でも時空間的な水温予測精度を向上させることができた.

  • 服部 啓太, 對馬 育夫, 山下 洋正
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16136
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     近年,気候変動の影響による水環境の変化が顕在化しており,ダム貯水池においては水温上昇や底層DO濃度低下等の水質変化が懸念されるが影響に関する知見は不足している.そこで,本研究では気候変動によるダム貯水池の水温構造及び底層DO濃度に対する影響を評価するため,鉛直2次元モデルによる数値計算をダム貯水池の規模を変化させた仮想ダム貯水池で行った.計算の結果,表層と底層の水温差はRCP_4.5とRCP_8.5の条件において現在気候と比較して上昇する傾向が見られたが,RCP_6.0の条件では7–8月の水温差が低下する傾向が見られた.また,水温勾配の最大値についても将来気候下では3–5月の最大値が増加する傾向が見られ,水温躍層の形成が早期化し,それに伴う底層DO濃度の低下も発生することが示唆された.

  • 東 博紀, 越川 海
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16137
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     東京湾と伊勢・三河湾の貧酸素水塊への気候変動の影響を明らかにするため,陸域淡水・汚濁負荷流出-海域流動・水質・底質モデルを用いた予測シミュレーションを行った.RCP8.5の中でも昇温傾向が強い将来気候では,表層水温が3~4℃程度上昇し,夏~秋の高温化による一次生産の低下は海域の水温に応じて東京湾内湾部,伊勢湾,三河湾の順に大きくなることが示された.貧酸素水塊の増加はその逆の順となり,一次生産の低下が顕著な三河湾では現在気候よりもRCP8.5の方が貧酸素水塊体積は減少した.さらに,陸域負荷管理による貧酸素水塊の抑制効果を評価したところ,DO < 3 mg/Lの水塊には効果が認められたが,DO < 4 mg/Lの水塊については負荷削減のみでは抑制が難しい海域が存在することが示唆された.

  • 田井 明, 速水 祐一, 室山 怜太郎, 許 斐聖, Simon Neill
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16139
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     有明海の潮汐の長期変化特性ならびに本研究グループで実施してきた諫早湾内の流速の多点連続観測の9年分のデータを概観して経年変化に着目した解析を行った.その結果,M2潮汐振幅は2000年代以降も減少し続けており,現在の有明海は過去の干拓による湾面積の減少や潮汐の18.6年周期変動,平均海面の上昇と併せて考えると,入退潮に起因する潮流流速が最も小さい時期となっていることが示された.諫早湾における18.6年周期の約半分にあたる9年間の長期連続潮流観測データを解析した結果,潮汐変化と完全な対応はしていないことが示され,密度成層の影響などが示唆された.

  • 諸岡 良優, 松ヶ平 賢一, 竹下 哲也
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16141
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,全国のダムの上流域を対象に,事前放流ガイドライン準拠の平均降水量ガイダンス予測降雨量と実積降雨量とを比較するため,スレットスコア・見逃し率・空振り率を算出した.また,アンサンブル予測降雨量についても,事前放流への活用可能性検討のため実績降雨量と比較を行った.その結果、平均降水量ガイダンス予測降雨量は,降雨継続時間の短いダムでは過小の予測となる傾向にあることや,アンサンブル予測降雨量GEPSは過小の予測となる傾向があり補正が必要であることが分かった.

  • 野原 大督
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16142
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     現業の数値気象予報モデルの更新が,長時間アンサンブル降水予報を利用したダム事前放流操作判断の精度に及ぼす影響を分析した.予報発表時期が重複する更新前後の二種類の気象庁週間アンサンブル予報モデルを対象に,事前放流に関わる予報誤差特性の分析と,ダム操作の長期シミュレーションを通じた事前放流操作精度の比較を行った.モデルダム貯水池を対象に分析を行った結果,更新後のモデルの予報を考慮する場合では,事前放流量をより大きく算定できる傾向があり,結果として大規模出水時の治水効果が大きくなる可能性が示唆された.一方で,いわゆる事前放流の空振りや見逃しについては抜本的な改善が見られず,利水・発電面ではむしろ更新前のモデルの予報値を考慮する方が優位である傾向が示された.

  • 中村 駿太, 手計 太一
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16143
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,治水目的の具体的な貯水池運用規則が規定されておらず,農業が主要産業であるタイ東北部Chi川流域を対象として,流域の治水と利水の両面に資することを目的に流域内主要2ダムによる貯水池運用手法を提案した.

     まず,上・下流の水位相関関係から,ダム貯水池から氾濫常襲地域である下流部までの洪水到達時間を算出し,貯水池運用のリードタイムを算出した.次に,貯水池操作の説明変数として懸案地点である下流部における水位の増減を与えることで,下流部における水位の低減を試みた.提案した貯水池運用手法をダム流入量と下流における洪水氾濫が最大規模であった2017年洪水に適用した結果,着目した2ダムの両方において乾季の始まりまでに水利用に十分な量の貯水量を確保しつつ下流における最大浸水深を0.4m低減した.

  • 人見 忠良, 向井 章恵, 中矢 哲郎
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16144
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     治水と利水の両者に配慮した低平地小河川の水位調節ゲートの操作が求められる地区において,ゲート操作を支援するための水位予測手法の有効性について検討した.施設管理者への聞き取り調査と現地水位観測から,現状のゲート堰板取外し操作の判断は管理者の水位予想や水位目視に依存しており,遠隔監視データに基づく水位予測が施設管理に対して有用であることが分かった.また,ある降雨イベントでは,水位調節ゲートの堰板を取外すことでピーク水位が約1m上昇することを抑えていたことが推定され,施設管理者によるゲート操作の重要性が示された.また,水位予測手法として,モデル構築が容易であるパターン認識手法の1つであるNearest-Neighbor(NN)法を本調査地区に適用し,リードタイムが4hの場合,RMSEが0.056m~0.13mの精度で水位予測が可能であることが明らかにされた.

  • 吉迫 宏, 小嶋 創, 李 相潤, 眞木 陸
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16145
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     洪水流入量のピーク付近の時間帯において集計した貯水増加量による,農業用ため池の雨水貯留機能に関する評価指標を提案した.提案した評価指標を用いて,流域面積を満水面積で除した流域比でため池の洪水流入と貯留の特性を表し,宮城県内ため池の流域比の分布に基づいて作成した14個のモデルため池を用いて雨水貯留機能を検討した.この結果,雨水貯留機能は従来からため池の洪水調節機能の評価で用いられてきた洪水のピークカットの効果が僅少な,流域比の大きなため池でも認められること,逆にピークカット効果が高い流域比の小さなため池では相対的に小さいこと,両者とも降雨前のため池への空き容量の付与で強化できること,また河川の治水対策でのため池の活用では両者の機能と効果を強化できる空き容量の付与が有効なことを明らかにした.

  • 仲 浩明, 大坪 祐介, 有光 剛, 角 哲也
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16146
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     近年,アンサンブル降雨予測を利水ダム運用に活用し,発電への貯留水の先使いによる「洪水貯留機能の拡大」と「発電電力量の増大」の両立が期待されている.しかし,ダム運用と発電運用の実務的な制約条件まで考慮した活用方法の検討事例や水系全体の利水評価を実施した事例は少なく,実運用への課題である.本研究では,黒部ダムを対象に活用方法を検討し,6, 7月に7日後~13日後の週間流入量予測値から出水を早期に予測し,出水予測時には発電取水により貯留水を先使いする活用方法を提案した.黒部ダム下流2ダムを含め,現状の予測精度で導入した際の利水評価を実施した結果,実際に無効放流が生じなかった2019年では出水予測の空振りにより減電となったが,無効放流が生じた2020年では無効放流量の低減による増電効果を確認できた.

  • 木村 延明, 皆川 裕樹, 福重 雄大, 馬場 大地
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16147
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究は,水文環境等が類似すると考えられる九州の河川洪水を対象に,Artificial neural network(ANN)で構築された2つの事前学習モデルを用いて,洪水イベント数が少ない観測地点で未経験洪水の予測を行い,水位予測精度の向上を試みた.ダム下流域で収集された観測データで構築された洪水予測用の事前学習モデルを利用することで,リードタイム(LT)が短く,予測地点の再学習用のイベント数(Nb)が少ない場合に,従来型ANNの予測精度を最大10%改善した.また,上流域にダムがない河川で観測されたデータも加えて,学習データを水増した拡張版事前学習モデルを用いたANNの予測結果は,洪水予測版事前学習モデルと比較して,限定的な条件(LTが長く, Nbが多い場合)で,平均約6%の精度改善を示した.

  • 東儀 奈樹, 梶山 青春, 鼎 信次郎
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16148
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     ダムの事前放流を行うことで,洪水の被害を抑えることができる.しかしタイ国では雨季と乾季がはっきりと分かれているため,ダムは乾季に備え十分な水を蓄えておく必要があり,事前放流のリスクは高い.そのためダムの事前放流の判断材料として,ダムの月流入量を精度よく予測することが重要となる.本研究では機械学習の中でも注目を集めている,Transformerモデルを用いた.機械学習の精度を上げるためには大量のデータが必要となるが,月流入量データには限りがある.シリキットダムにおけるデータを用いて事前学習を行い,3つの手法を用いてプミポン,スリナカリンダムの月流入量予測を行った.トレーニング期間が29年の場合では改善が見られなかったが,5年とデータ数が少ない場合において,ナッシュ係数を0.17から0.75まで改善させることに成功した.

  • 金子 凌, 芳村 圭
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16149
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     近年,深層学習による短時間降水予測の研究が行われ始めたが,その予測精度の評価は対象降水・期間的に限定されており,また現業のモデルと比較したものも希である.本研究では,日本領域の降水を6時間先まで予測する既存手法を改良し,予測結果を網羅的に評価した.提案手法は50mmh-1を超える降水と5mmh-1を超える降水については,3時間先予測から現業の降水短時間予報よりも精度が良くなることが明らかとなり,降水短時間予報では考慮されていない何らかの物理現象を学習した可能性が示唆された.一方,弱い降水が継続する場合や冬季の降水等では予測性能が低下するが,夏季と共通する低気圧性の降水現象等では予測できる事例も存在し,モデルの改良やデータセットの検討の必要性が示唆された.

  • 吉田 圭介, 潘 是均, 横山 貴洋, 山下 泰司, 上田 勇輝, 杉野 博之, 小島 崇
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16150
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     近年の岡山県の養殖ノリ生産量減少の一因としてクロダイの食害があり,その蝟集状況の効率的な把握に向けて対象種を撮影した水中カメラ画像への深層学習モデルの適用が考えられる.モデルが学習する教師データの質は検出精度を左右するが,自然環境下では不鮮明な画像があり,客観的条件を設けてラベリングすることは困難であった.本研究では不鮮明に写った対象種に対して,近年開発された画像領域分割モデルSAMを活用し,ラベリングの対象基準を設けてクロダイ検出モデルを作成した.また,実海域での計数に際してモデルが検出し難い画像の特徴を分析し,教師データに追加すべき画像を検討した結果,SAMで検出可能なクロダイ画像と,それ以外の不鮮明なクロダイ画像の両方を教師データに含むと精度向上において効果的であることが示唆された.

  • 植村 郁彦, Rongen GUUS , 舛屋 繁和, 吉田 隆年, 山田 朋人
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16154
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究は水害リスクの定量評価に向け,ハザード評価に含まれる堤防決壊条件への破堤確率の導入を目的とし,破堤確率の評価手法及び複数評価地点の破堤確率の統合手法を構築し,北海道東部の帯広市街地を対象に本手法による破堤確率を評価したものである.破堤要因は越水による破堤を対象とし,プロセスに含まれる堤防高,水位,法面の耐侵食性の不確実性を考慮した,モンテカルロ法による破堤確率算定モデルを構築した.実河川の堤防に適用した結果,水位が堤防高を超過した場合でも破堤が発生しない条件設定が可能となることを確認した.また,上下流の破堤点間の従属関係に着目し,これらの関係性を仮定した上で破堤確率の統合手法を提案し,従属関係の考慮の有無,条件設定によって堤防区間全体の破堤確率に大きな違いが生じることを明らかにした.

  • 児玉 真乃介, 平野 大地, 音田 慎一郎, 大竹 雄, 肥後 陽介
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16155
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     河川堤防内部の材料物性は築堤履歴に依存して不確実である.また,近年激甚化する降雨を背景に,越流時の堤防の粘り強さの評価手法の確立が求められている.本研究では,河川堤防の越流侵食解析における材料不確実性の評価手法を提案する.実河川堤防の様々な粒度分布に対する近似多数解析を実現し,材料不確実性による越流侵食の影響評価を実現している.本論文では,耐侵食性への粒度分布の影響を考慮した掃流砂および浮遊砂モデルの拡張による解析法の高度化,主成分分析を用いた次元縮減,ガウス過程回帰による代替解析法を提示し,実河川堤防から収集した粒度分布の散らばりを考慮した解析を通じて,提案法の有効性を示している.

  • 並河 奎伍, 小山 直紀, 草茅 太郎, 鈴木 敬一, 山田 正, 山田 朋人
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16156
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     近年,宇宙線ミュー粒子を用いた探査が注目されており,河川堤防の内部構造可視化への有効性が認められている.一方で,従来の最小二乗法によるトモグラフィ解析手法は解の初期値依存性をもち,堤防内部の密度分布を定量的に評価ができない.そこで本研究では,Moore Penrose逆行列と観測誤差の影響を抑えるTikhonovの正則化法,パラメータを決定するMorozovの相反原理を導入した新たな解析手法を提案する.その結果,実際の地盤密度と解析値は概ね一致し,本手法の有効性が示された.また観測波線間隔が解析格子スケールの1/4以下である時,地盤内部の構造や空洞の位置を推定できることを明らかにした.

  • 窪田 利久, 柏田 仁, 井上 隆, 二瓶 泰雄
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16157
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     令和2年7月豪雨による球磨川洪水では多くの橋梁が洪水流による流体力によって流失した.同時に橋梁の堰上げ効果による急激な水位上昇が,氾濫被害を助長させたことが考えられ,橋梁に働く流体力を適切に評価し,河川水位や流速に及ぼす影響を解明する必要がある.本研究では橋桁の流体力を考慮した三次元河川流・氾濫流一体解析法に基づいて,河川橋梁が洪水流に及ぼす影響について多角的に検討を行った.その結果,本手法は,橋桁高さや形状による河川流の流速鉛直分布の変化を反映できることが確認された.本手法を用いて橋桁無,橋桁有・流木無,橋桁有・流木有の3ケースについて検討したところ,複数橋梁による橋桁・流木抵抗は急激な水位上昇につながり,氾濫域の家屋被害や人的被害を助長することが示された.

  • 三好 学, 田村 隆雄, 安藝 浩資, 中村 栗生
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16159
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,湛水量と洪水到達時間から浸水深分布を評価するリアルタイム内水氾濫予測を提案したものである.この方法は,事前準備フェイズにおいて複数の降雨外力による氾濫解析結果である浸水深分布を予め保存しておき,実時間運用フェイズではそれら浸水深分布を任意降雨波形から算定される湛水量と洪水到達時間に応じて呼び出すことにより,実時間運用フェイズにおいて計算負荷の少なく,計算時間を短縮する方法である.提案方法の検証にあたり,従来の平面二次元不定流計算での氾濫解析結果と,提案方法による結果を比較した.また,水害ハザードマップ作成の手引きに則った配色による提案方法の表示を検討した.提案方法は,湛水量の時間変化,最大浸水深分布,床上浸水発生時刻,および床上浸水発生箇所を評価できると考えられた.

  • 大塚 竜太朗, 伊藤 毅彦, 吉村 亮佑, 柏田 仁, 二瓶 泰雄
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16160
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     一宮川流域では他の二級水系に先駆けて流域治水プロジェクトが実施されているが,水位や流量などの観測データが不足しており,水文・水理特性は不明である.本研究では,一宮川流域において多地点水位連続観測を実施し,水文・水理特性を把握すると共に,ピーク水位と雨量の相関関係に基づいて,HWL・河道満杯雨量の空間分布を把握することを目的とする.その結果,支川を含む早野~旭橋区間では相対的に流下能力が低くなっている一方,調節池付近ではHWL雨量が高く調整池の治水対策効果が寄与していることが示された.今後,流域治水対策を流域全体で評価・把握することが求められており,本研究で提示した水位データ活用法はその一助になることが期待される.

  • 古谷 崚, 吉田 圭介, 岡田 拓巳, 梶川 勇樹, 西山 哲
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16161
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     洪水時の植生の倒伏・流失現象について,植生に働く流体力や掃流力に着目した研究が行われてきたものの,十分解明されたとは言い難い.そこで本研究では,岡山県を流れる旭川分流部を対象に,航空レーザのデータを用いて3次元植生モデルを作成するとともに,3次元洪水流解析により,従来の2次元解析では考慮出来なかった植生に働く流体力の鉛直分布を考慮することで,モーメントによる植生倒伏・流失モデルの構築を行った.まず,洪水前後でのALBデータの差分値より,木本の倒伏・流失の正解データを作成し,解析との比較を行った.その結果,構築したモデルの妥当性が認められた.さらに,分流部では植生による分流量への影響が考えられたものの,本植生倒伏・流失モデルによる計画高水流量での解析より,その影響は軽微となる可能性を示した.

  • 重枝 未玲, 濱田 信吾, 田中 博登, 林 泰史, 中村 亜紀
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16162
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,降雨流出・洪水氾濫解析モデルの地中流および地表面流の再現性とベイズ最滴化によるモデルパラメータ推定の有用性について,実験結果に基づき検討した,本研究から,(1)本モデルは,サクションの小さい条件では,水位や流流量の変動プロセスを再現できること,(2)ベイズ最遼化によるパラメータ推定は,地表面流が発生し,かつサクションの小さい条件では有用であること,(3)(2)の最適パラメータを用いることで,今回の条件においては,本モデルは高い精度で実験結果を再現できること,一方で,(4)実土壌のパラメータ推定は,サクションの小さい条件で地表面流が発生する状況であれば可能と考えられるが,そうでない場合には,士質試験に基づくパラメータの把握が必要となることが確認された.

  • 渡辺 勝利, 宇根 拓孝, 朝位 孝二
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16163
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,滑面開水路乱流における水表面瞬時流速分布特性と内部構造の相互関係を流速計測と流れの可視化法を用いて検討した.その結果,底壁面が滑面の条件においても瞬時流速分布には,並列らせん流が形成されることが明らかとなった.また,瞬時水表面流速と内部流況の同時可視化から,縦渦構造が水表面の遅速分布に直接寄与していることが明らかとなった.さらに,水表面瞬時流速分布から水表面浮子の更正係数を検討した結果,並列らせん流に相当する相対的な高速領域の平均流速と断面平均流速の比は0.77となった.表面浮子の更正係数は現状0.85であり,本研究の値は0.08ほど小さいが,従来の検討成果の傾向に沿っていることが認められた.

  • 金子 峻, 山上 路生, 岡本 隆明
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16164
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     風は河川平均流構造を大きく変化させ,浮子流速から水深平均流速,さらに河川流量を推定する際には,この影響が無視できない.一方,風による平均流構造の変化については十分に理解されていない.河川管理の実務では風を考慮せず,更正係数によって画一的に流量を評価しているのが現状であり,流量推定精度に大きな問題がある.本研究では,風洞付き実験水路において浮子模型の流下実験を実施した.PIVの計測したデータと比較することで,風が浮子観測に与える影響や,風の存在下における更正係数の評価を行った.

  • 柏田 仁, 遊佐 望海, 二瓶 泰雄
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16166
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     河川水表面に作用する風応力は,従来,一時的な水位上昇のみに影響するものと見なされてきた.気候変動の進展に伴い,スーパー台風の襲来が予測される中,河川流計算および河川工学における風の従来の取扱いには自ずと疑問が生じる.本研究では,実河川洪水流における風影響を評価することを目的とし,令和元年東日本台風時における江戸川を対象とした数値実験を実施すると共に,長期の東京湾潮位・河川水位・気象値に関する観測データを分析した.その結果,風速の増大によって潮位だけでなく,河川水位も上昇していることが観測データから示唆された.また,江戸川の数値実験より強い風が河川水表面に作用した場合,流速と水位が応答し,かつ,増水期に作用した風による水位上昇が下流に伝播し,風が止んでいるピーク期にも影響し得ることが示された.

  • 重枝 未玲, 濱田 信吾, 中村 亜紀
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16167
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究は,水面形を与条件とした流量の推定法(解析法①),水位を境界・与条件とした平面2次元解析(解析法②)と準3次元解析(解析法③)を,分流水路の実険結果に適用し,水位・流量の再現性について検討するとともに,その予測精度の比較を行ったものである.その結果,(1)解析法①は,非定常流を除き,本川上流・下流および支川の流量を十分な精度で再現できること,分流部を含めない解析では,(2)解析法②と③では流量を再現可能であること,分流部を含めた解析では,(3)堰上げ背水の場合には3次元性の強い流れが生じるため,解析②と③は流量の再現精度が低下すること,(4)一方で,低下背水の場合には,解析法②と③のいずれも本川流量を再現可能であること,などが確認された,

  • 渡辺 勝利, 北川 貴崇
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16168
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,底壁面に縦桟粗度を設置した開水路において,縦桟粗度の吸込み操作に伴う流れ場の特徴を流速計測,流れの可視化によって検討した.流速計測結果からは,吸込み操作によって顕著な上昇流,対を成す旋回流が消失し,桟粗度上の流速分布が横断方向に一様化することが明らかとなった.また,水平方向のレイノルズ応力(-uw)は吸込み操作によって形成領域が減少し,分布の正負の位相が逆転する.さらに,水平方向の乱れエネルギー生成項(-uw(dU/dy))分布においては,吸い込み操作によって桟粗度上に負値が生成される特徴が明らかになった.以上の流速計測結果の特徴は,吸い込み操作による縦桟粗度上の縦渦構造の形成の間欠性,小スケール化が要因と推察された.

  • 溝口 敦子, 小野 貴裕, 木村 一郎
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16169
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     実河川は川幅が変化しながら洪水流下しているにも関わらず,凹部等川幅変化部における水理特性の研究は局所的な検討が多く縦断方向に与える影響はあまり着目されてこなかった.そこで,本研究では川幅が変化する場を対象に定常および非定常で流量を供給する実験を行い,水面形の変化,流れの特性等を検討した.その結果,一定流量通水時の拡幅域特有の流れ,土砂堆積傾向,あわせて非定常流量通水時における洪水伝播特性を示すことができた.特に,拡幅域の川幅が広くなると,急縮部の水位上昇の影響が広く上流へ伝播し,洪水波の増水時間が短いと拡幅域内での水位上昇が遅れる一方で十分上昇する前に下流へ洪水波が伝播するとともに下流のピーク水位を低減させることなどを示すことができた.

  • 松尾 大地, 内田 龍彦
    2024 年80 巻16 号 論文ID: 23-16170
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     洪水流の数値解析において局所的な影響を取り込んで詳細な計算を行おうとするほど,計算時間を要する問題がある.本研究では,空間解像度に必要な時間間隔と洪水流解析のアウトプットに必要な時間間隔の差に着目し,この部分の省略による計算の高速化を検討した.まず,上流に与える流量ハイドログラフを時間的に縮める影響を検討し,短縮率を大きくするほど洪水到達時間が遅れ,それに伴って徐々にピーク水深が減少することを示した.そして,水深の時間発展について緩やかに変化する平均成分のみを加速させる平均成分加速法を提案し,短縮した流量ハイドログラフにおいても通常の計算と同様の結果が得られ,高速計算ができることを示した.一方,短縮率を大きくするほど平均成分の寄与が顕著になり,それによる振動が発生する課題があることを示した.

feedback
Top