日本透析療法学会雑誌
Online ISSN : 1884-6211
Print ISSN : 0911-5889
ISSN-L : 0911-5889
18 巻, 4 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
  • 樋口 順三, 小沢 喜久夫, 酒井 清孝
    1985 年 18 巻 4 号 p. 355-363
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    透析治療の進歩はめざましいものがあり, アセテート透析から重曹透析の転換によって透析の副作用は著しく改善された. 重曹透析では従来よりも除水量は有意に増加するが, 除水量とNa除去量とは極めて有意に相関し, 除水量の増加に伴って過剰なNa除去による透析愁訴が再び出現するようになった. これを改善し無症状透析を行うには食塩摂取量にみあったNa除去を行うことが重要で, プールモデルを応用して, 目的とするNa除去を行い, さらに細胞内からも除水するような透析液Na濃度を設定することが重要である. この数年重曹透析にさらにNaインフユーザーを用いることにより, 透析液Na濃度をそれぞれの患者の条件に適合するように変化させた処方透析が可能となり, 高性能で大面積のダイアライザーを使用して, 従来よりもはるかに高い効率の透析が無症状で行えるようになった. 500透析での重回帰分析から適正な透析液Na濃度の決定には除水量の因子が極めて大きいことがわかり, 除水量を因子とする簡易式を提示した.
    こうした処方重曹透析では従来の低い透析効率での食事管理とは異なる考え方が必要であり, 処方透析を行いやすいように日常生活での水と食塩との摂取を指導すべきで, 平均除水量1lあたり食塩6g以下になるように, 水と食塩との摂り方のバランスを考慮して1日の食塩摂取量を指導することが望ましい.
    蛋白摂取についてはurea kineticsによる尿素産生量を臨床検査データから計算し, Gotchの式でのPCRで蛋白摂取量を推測するとともにに, 透析前後のBUNなどから透析での尿素除去量を計算して, 尿素の産生と除去とのバランスがとれるような蛋白摂取量とダイアライザー性能の検討が必要である.
  • 安藤 義孝, 安藤 公子, 土屋 智, 菅原 健太郎, 尾形 真光, 吉田 智, 関口 博行, 田野 由子, 霞 利夫
    1985 年 18 巻 4 号 p. 365-370
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    昭和53年から59年6月30日までの7年間に経験したパラコート中毒症例53例に対して, 胃洗浄, 腸洗浄, DHP, メチルプレドニゾロンによるパルス療法, 強制利尿の治療法が, 生存や延命にどの程度寄与しているかを種々の服毒量に分けて検討した.
    治療内容から昭和53年から57年12月31日までをI期, 58年の1年間をII期, 59年1月より6月30日までをIII期として分析した. I期の治療内容は胃洗浄, DHP, メチルプレドニゾロンによるパルス療法, 強制利尿を施行した. II期は上記に加えて, ケイキサレートを胃洗浄液に加えた. III期はさらに腸洗浄法を採用した. I期では服毒量10ml未満のもの1例を救命したにすぎなかったが, II期では10ml以上30ml未満の症例も救命できた. III期ては30ml以上50ml未満のものは, すべて救命することができるが50ml以上の服毒例は致命し得ていない. 生存例数はI期, II期, III期の順で増加している. 全症例に対する生存例の割合もI期5%, II期16%, III27%と上昇した. 生存例, 1週間以上生存例, 1週間以内死亡例数には服毒から胃洗浄までの時間に差がなかった. 腸洗浄を行い, 下痢が起こったものは生存例, 1週間以上生存が多く, 1週間以内死亡例は少なかった. 下痢が起こっても生存するとは限らないが, 生存あるいは1週間以上延命する可能性が高かった. このことより腸洗浄法がパラコート中毒の治療法として有効であると考えられた.
  • 遠山 純子
    1985 年 18 巻 4 号 p. 371-383
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    慢性血液透析患者のリポ蛋白代謝の病態を血清脂質濃度, リポ蛋白脂質構成, PHLA, アポ蛋白の所見より検討し, その発生機序について多少の考察を試みた. さらに長期透析の影響および血清脂質に影響するとされる環境因子のいくつかについて検討し, 以下の結果を得た. 1) 慢性腎不全の血清脂質の最も著明な変化はHDL-コレステロールの低下であり, 高トリグリセライド血症は比較的軽度であった. 総コレステロールの軽度の低下も認めた. 2) PHLAは著明な低下を認めた. 男女ともにPHLAとTGは負の相関を示したが, PHALとHDL-Cの相関は男性のみに認めた. 3) LCAT活性も著明な低下を示し, HDL-Cと相関した. 4) 1)-3) より, 透析患者の高TG血症はPHLA (LPL) の低下にもとづくものと思われるが, 低HDL-C血症は必ずしもそうではなく, LCAT活性の低下およびその他複数の因子に規定されているものと思われる. 5) 血清アポAI, AII, B, Eは正常範囲を中心に分布した. アポCIIは血清TG濃度と平行して増加していた. したがってLCAT, PHLA (LPL) 両活性の低下はアポ蛋白の量的不足によるものではないと思われる. 6) 腎不全の血清脂質異常は長期透析により改善する傾向にあった. 7) 透析液の組成, 体重は血清脂質レベルと無関係であった. ただし急速な体重の増減が脂質に影響する症例もあった. 栄養摂取量についても少数例での検討ではあるが無関係のように思われた. 8) 一部の症例では長期透析期間中に誘因の有無にかかわらず脂質レベルの大きな変動を示した.
  • 平方 秀樹, 中本 雅彦, 下山 節子, 許斐 真弓, 藤見 惺
    1985 年 18 巻 4 号 p. 385-391
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    昭和49年から昭和59年4月までに我々が経験した糖尿病性腎症 (DM), 61名 (男45名, 女16名, 平均年齢56.3歳) を対象とし, 透析導入時の問題について検討した. 慢性透析患者のうちDMの占める比率は昭和56年より急速に増加した. 導入総数381名の16.0%を占め第2位であった.
    導入時の症候では, 肺水腫・心不全を示すものが50.0%で最も多かった. 導入時の血清クレアチニンは, DM 12.1mg/dl, 非糖尿病群 (non DM) 14.1mg/dlで, DMが有意に低かった (p<0.05). また, 心胸比はDMで大きく, 貧血はDMで強い傾向がみられた. 導入方法としては間歇的腹膜透析が75.4%で最も多かった. 導入時の血圧は, DM 184/87mmHg, nonDM 190/99mmHgでDMの拡張期圧が有意に低かった (p<0.02). しかし, 同程度の体重減少操作による降圧度は, 収縮期圧でDM 9.5%, nonDM 20.2%, 拡張期圧でDM 4.6%, nonDM 18.7%で, いずれもDMが有意に低値であった (p<0.005). 降圧薬としてβ-blockerを使用した例では, valsalva比の低下, 起立試験による脈拍の増加が欠如していた. また, 急性心停止で死亡した1例では心電図上のR-R間隔の変動が低下していたため, β-blockerは禁忌と考えている.
    非導入例は8例で, 3例は治療拒否であったが, 1例は重症の起立性低血圧により技術的に不可能と判断された. 透析療法開始後の死亡は8例 (HD 6, CAPD 2) であった. 12ヵ月以内の死亡は4例で, 死因は脳・心血管障害と感染症が多い傾向であった. 生存率は1, 3, 5年で, それぞれ91.5, 84.3, 68.3%であった.
    慢性透析患者に占めるDMの増加は今後も続くと考えられる. 我々の成績は諸家の報告よりも良好であったが, 体液量過剰の是正, 早期離床による外来通院の達成が予後向上に深く関与しているものと考えられた.
  • 春田 直樹, 山根 修治, 林 加野子, 春田 るみ, 東井 俊二, 永井 賢一, 土谷 太郎
    1985 年 18 巻 4 号 p. 393-397
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    慢性血液透析患者49名を透析期間5年未満群, 5年以上10年未満群, 10年以上群の3群に分け腎CTを施行し, 督容積, ACDK (aquired cystic disease of the kidney) 等の腎変化を調べた. その結果, 1) 腎容積は透析期間が長期化するほど増大し, この腎容積の増大はACDKによるものである. 2) ACDKは49例中31例 (63.3%) にみられ, 透析期間の長期化にともないACDK発生頻度は高率となる. 3) ACDK症例31例中13例にCT値の高い部と低い部の混在したモザイク様腎CT像を示す症例がある. この型のACDK発生頻度は透析期間が長期化するほど有意に高く, かつ同じ透析年数における他のACDK症例に比べ有意に腎容積は大きい. 4) 透析腎に腎癌合併をみた3例中2例, および腎被膜下出血1例は, このモザイク様腎CT像を示した. 5) モザイク様腎CT像を示すACDK症例は, 後天性嚢胞化の進行した状態と思われ, 悪性腫瘍, 腎周囲出血などの透析腎合併症をおこす可能性があり, 定期的腎CT, 血管造影による検索が必要であろう. 6) 腎石灰化頻度は透析期間が長期化するほど高くなる傾向にある. 7) 肉眼的血尿, 腰痛を訴える症例では, 積極的に腎CTを行い, 腎の状態を把握する必要がある.
  • 大橋 宏重, 安江 隆夫, 琴尾 泰典, 鎌倉 充夫, 上野 勝己, 渡辺 佐知郎, 杉下 総吉, 森田 則彦, 澤田 重樹, 阿部 親司
    1985 年 18 巻 4 号 p. 399-403
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    慢性血液透析患者では, 脂質代謝異常の認められることが報告され, 健常者に対して心血管系合併症の発生頻度の高いことがしられている. 今回, これら慢性血液透析患者の主として血清アポリポタンパクA-I, A-II, C-II, E値の変動につき検討を加え, 本症における脂質代謝異常をアポリポタンパク亜分画の面から解析を試みた.
    対象は平均年齢41.3歳の健常者59名と週3回血液透析治療を受けている平均年齢47.7歳の慢性血液透析患者65名である. 健常者の採血は早朝空腹時に, 慢性血液透析患者は前回透析から48時間以上経過した次回透析前の空腹時に行った. 総コレステロール (TC), トリグリセリド (TG) は酵素法, HDL-コレステロール (HDL-C) はデキストラン硫酸-Mg法, アポA-I, A-II, C-IIおよびEは一元放射状免疫拡散法で測定した.
    健常者に対して慢性血液透析患者では, 血清TC, HDL-C, アポA-I, A-IIは低値を示した. しかしながら, 血清アポC-II, E値は健常者と慢性血液透析患者で有意差は認められなかった. 慢性血液透析患者のHDL-C/A-I比およびHDL-C/A-II比は, 健常者に比べて, いずれも有意に低下した. また血清HDL-C値は, 慢性血液透析患者においてのみ, 血清アポA-I, A-II値と有意の正相関を示した. 以上より慢性血液透析患者ではそのHDLに質的異常のあることが示唆された.
  • 山本 義久, 高橋 計行, 板垣 信生, 農野 正幸, 長谷川 廣文, 今田 聡雄, 堀内 篤
    1985 年 18 巻 4 号 p. 405-410
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    continuous ambulatory peritoneal dialysis (CAPD) における腹膜クリアランス (PC) の測定について検討し, 従来の報告と対比した. 腹膜透析の貯液時間を0.5-9時間としてPCを算出した. 尿素窒素 (UN) およびcreatinine (Cr) のPCを含有糖濃度別 (1.5, 2.5および4.25%) に求めた.
    PCは含有糖濃度とは関係なく, 時間の経過とともに急速に低下し, 4時間で平衡値に近くなっていた. 4時間以内の場合はPCに貯液時間が大きな影響を与えるため, 腹膜の機能は正確に反映されていない. 短時間のPCを求める場合でも貯液時間は4-9時間とする方が正しいと思われた.
    一方, CAPDは1.5%あるいは4.25%の糖を含有する透析液を毎日ほぼ一定した時間帯で交換する治療法である6したがって, 1日のPCによる腹膜の機能評価が短時間のPCによる評価よりも適切であると考えられた. そこで24時間の排液をすべて集液した. CAPDを12ヵ月間継続しても1日のPCには変動が認められなかった. 高脂血症の進行程度, 糖尿病と非糖尿病および腹膜炎の既往の有無で1日のPCを比較検討した. 非糖尿病groupよりも糖尿病groupでCrの高値を示した以外, 有意の変化は認められなかった.
    短時間のPCが低下していることから, CAPD患者の腹膜機能が低下するという報告が過去になされている. しかし, 今回の検討からCAPDを12ヵ月間継続しても腹膜機能は低下しないことを確認した.
  • 椿原 美治, 飯田 喜俊, 河島 利広, 中西 功, 横川 朋子, 友渕 基, 三宅 丈夫, 西岡 敬介, 竹中 良則, 梅香家 鎮, 福味 ...
    1985 年 18 巻 4 号 p. 411-416
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    無抗凝固剤血液透析 (NAHD) 用dialyzerを開発する目的で, dialyzer moduleの性状, 特に至適fiber内径 (φ) および剪断速度 (SR), およびdialyzer headerの形状について, 基礎的および臨床的検討を行った.
    血流がdialyzer中央部に集中しやすい偏平型headerでは周辺部fiberに残血が多い. そこで, 周辺部fiberにも血流が均一に分布することを設計思想として紡鍾縦入れ型および横入れ型headerを作製し一定のmoduleに装着してin vitroおよび臨床比較を行った. この結果, 紡鍾型および横入れ型headerを用いることによりheader内凝血および残血fiber本数の著明な減少を認めた.
    イヌを対象にφ(μ)/SR(sec-1) がそれぞれ200/400, 300/400, 400/400, 200/674と異なるmoduleを用いNAHDを行い出入口部の圧差からfiber内凝血をモニターした. SRが400sec-1ではφが大な程凝血の開始が遅れ, しかも進展速度も緩徐となる. φが200μでもSRが大なmoduleでは凝血開始は遅延するが進展速度は早い. この成績を基に形状および性能的に臨床応用の可能な4種 (φ/SR=300/220, 230/440, 200/314, 300/314) のmoduleを用い臨床比較を行った. この際, 透析性能などからφが300μ以上のfiberの使用は困難で, φが300μであればSRが約300sec-1が限度と考えられる. 4種の中ではφ300, SR 314とともに大なmoduleが残血fiber本数, β-thromboglobulinの増加量共に最も少なく, NAHD用として最適であると考えられた.
    そこでこのmoduleに先の紡鍾型headerを動静脈側に装着したdialyzerを試作し, 従来の偏平型headerを装着したdialyserと比較すると残血fiber本数およびβ-thromboglobulinの増加量はさらに著明に減少した.
  • 越川 昭三, 小暮 美津子, 前川 正信, 三村 信英, 中林 宣男, 太田 和夫
    1985 年 18 巻 4 号 p. 417-423
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    昭和56年12月から翌57年2月にかけて, 透析患者に眼の充血・疼痛を主体とする眼障害が多発し, これがNACシリーズの中空系型ダイアライザーに起因することが明らかになった. このダイアライザー副作用の実態を正確に把握し, かつ原因物質解明のための資料を得る目的で, 透析担当医および患者に調査表を送付して, 調査研究を行った. 回収率は73.4%, 発症患者数は167名であり, 推定発症患者総数173名の96.5%を捕捉していることになる. 発症率は推定使用患者の約40%であり, 昭和57年2月上旬のピーク時には70%に達した. 副作用は強膜炎が主体で眼の充血・疼痛・流涙・羞明を訴えるが, 同時に耳鳴・耳痛・めまいを合併している患者が多く, 本副作用は強膜と第8神経を同時に障害するものであると推定される. 発症は比較的短時間におこり, 透析中に発症するもの27.6%, 同日中に発症するもの70%であった. 症状のピークは発症2-3日後で, 約70%は3週内に治癒する. 視力障害は16.8%に発生したが, 1例を除き改善している. この1例は緑内障の診断のもとに手術をうけた症例である. 発症後にもNACダイアライザーによる透析を継続した症例は, 治癒までの期間が長くなる傾向がみられたが, いずれも完全に治癒している. ダイアライザー洗浄に1,000ml以上の液を使用する施設では発症が少なく, 原因物質は洗浄によって溶出する性質のものであることが推測された.
  • 土居 春美, 野々山 八重子, 菅野 孝子, 宮本 保江, 早川 千賀子, 両角 國男, 大田黒 和生, 吉田 篤博, 新村 育夫, 阪上 ...
    1985 年 18 巻 4 号 p. 425-428
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    成長期にある児童の透析導入および維持透析に至るまてには, 成人とは異なる様々な問題がある. 我々が経験した症例は, 著しい成長遅延を伴った8歳女児の腎不全例て, これは透析方法の工夫と, 透析を通しての患児との交流についての報告てある. 12kgという低体重児て, 体外循環血液量も多くてきないため緩和な透析条件から徐々に効率をあげ, 患児の負担を少なくする透析方法をとった. そして, 患児に見合った暖かい環境づくりに努め, 患児, 母親とともにケーキサレート加クッキーを作製する中て, 望ましい人間関係の構成をめざした. さらに十分患児に説明を行い, 納得した後に治療を行うという看護計画を実施した結果, 患児, 家族より十分な協力を得ることがてきた. 高K血症に対しては, ケーキサレート加クッキーにより良好な結果を得た. 現在は安定した維持透析を行っており, 透析・学校. 日常生活と楽しく円滑に過ごしていることは, 看護側の我々にとって嬉しいことてある.
    小児腎不全の場合, 腎移植術が望ましいが患児は下部尿路障害を有するため, 適応が困難てある. また患児自ら手術そのものに対しての不安・恐怖心が強く, 「もうこのままて良い」と, 手術を拒んているなど問題点が残されており今後の課題としたい.
  • 和泉 栄理子, 高槻 景子, 松田 悦子, 斉藤 弘子, 若生 実千代, 藤倉 良裕, 宍戸 洋, 吉田 太一, 関野 宏
    1985 年 18 巻 4 号 p. 429-435
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    抗凝固剤は透析療法に欠く事のてきないものてあるが, その投与量決定は個々の循環血液量, 代謝速度の違いにより画一的に決定する事は難しい. その指標として従来用いられてきたL-W法 (Lee White coagulation time) には種々の問題があり理想的な検査法とは言えない. そこてL-W法に代わる検査法としてWBAPTT (whole blood activated partial thromboplastin time) について検討し臨床的応用を試みた.
    WBAPTTは安定した試薬が市販され検体量が0.2mlと微量てあり検査に要する時間も短い. L-W法との間には良い相関が認められ (y=0.104x-0.89, r=0.96), 血中ヘパリン濃度との間にも直線性が認められた (y=296.4x+82.5). またin vitroにおけるWBAPTTによるヘパリン感受性試験を実施しその結果より求めた理論値とin vivoにおけるWBAPTT実測値に相関が認められた事により (y=0.95x+20.7, r=0.88), ヘパリン初回投与量決定にはin vitroにおけるヘパリン感受性試験の実施が有用てあると思われた.
    最近出血傾向を持つ患者に対しGM (gabexate mesilate) が使用されている. GMは半減期が短く, 透析性も良く厳密な局所抗凝固剤として用いられている. GM透析において, L-W法とWBAPTTを測定すると, L-W法はGMの抗凝固性を反映てきず, 一方WBAPTTはその特徴を良く反映した. それはL-W法ては接触因子が緩かに活性化されるのに対し, WBAPTTは試薬中にカオリン粒子を含むため接触因子を十分に活性化てき, GMのような血中における失活速度の速い抗凝固剤の指標となりえると考えられた.
    以上よりWBAPTTは血液透析における抗凝固剤の指標として十分に活用てきる結果を得た.
  • 浅野 澄子, 若松 由実子, 黒沢 睦子, 岩崎 和代, 伊藤 京子, 西田 真澄, 野島 町子
    1985 年 18 巻 4 号 p. 437-441
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    日本のCAPD患者の入浴の状況は, 腹膜炎やトンネル感染を恐れ, 満足できる現状とはいえない. 我々は細菌汚染の面から浴槽内の湯と皮膚の状態を調査し, カテーテル出口部の状態による入浴の可否と方法を判定する基準を設定し, 患者指導に役立てたいと考え検討した.
    昭和55年6月より59年5月までにCAPD導入した15例を調査対象とした. カテーテル出口部良好患者6例における入浴 (院内浴場-番湯) 前後の皮膚の3部位の, 細菌培養を施行した. その結果を参考にして, カテーテル出口部の状態による入浴基準を3段階に作製した. 大衆浴場4件と一般家庭風呂5件の入浴前後の湯の細菌培養を施行した.
    当院で導入した15例中8例で計21回の腹膜炎が発生した. この起因菌は黄色ブドウ球菌4例, グラム陰性桿菌2例, 他カンジタ, グラム陽性球菌, セラシア属, ナイセリア, アシネトバクタアニトリウス各1例ずつ, 陰性10例であった. 腹膜炎発症直前の浴槽内入浴は2例であったが, 出口部の状態も良好であり, 起因菌培養は陰性であった. 一般家庭風呂の入浴前の細菌培養ではグラム陽性桿菌2件, 緑膿菌以外のシュードモナス属3件, 菌検出陰性1件を認め, 入浴後では1件にアエロモナスハイドロフィアが検出され, また1件が菌検出陰性へ変化した. 大衆浴場4件中1件のみグラム陽性桿菌を検出したが, 一般家庭風呂とに菌種類に著変はなかった. 6例の出口部良好患者の入浴前後の皮膚の3部位において, 検出された菌種には, 入浴前後で変化なくグラム陽性球菌を高頻度に検出した.
    CAPD導入患者15例中8例計21回の腹膜炎がみられた. 入浴後に発症した腹膜炎は2回あったが, 出口部状態も良好で起因菌陰性の結果から, 入浴が原因となる腹膜炎と断定する根拠はなかった. また腹膜炎患者6例計8回カテーテル出口部の異常を認めた. 以上から, カテーテル出口部の状態による入浴基準を作製し入浴の可否を決定しているが現在までに入浴によるトンネル感染および腹膜炎の発生をみていない.
  • 出井 秀勇, 矢野 栄二, 大坪 公子
    1985 年 18 巻 4 号 p. 443-447
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    血液透析において透析液原液の希釈に使用する水道水には, 次亜塩素酸が含まれており, 透析患者の合併症の1つの貧血の原因となっていると考えられている. そこで, 透析液処理により貧血が改善するか否かを検討した.
    透析液処理は, 1) 透析液原液10lにアスコルビン酸を5gの割合で添加し水道水を希釈水として作成, 2) 透析液原液を軟水・活性炭濾過処理した水道水で希釈して作成, の2種の方法によった. 貧血改善の指標としては, ヘマトクリット (Ht) 値の変化を観察した. 変化を追うにあたっては, 季節変動を考慮してなるべく年間の同時期を選んで比較し, 尿素窒素 (BUN), クレアチニン, 総蛋白 (TP) 値についても検討を行った. また, 残留塩素量を測定し透析液処理による変化を比較した.
    対象は, 昭和56年11月より昭和59年9月まで継続して透析療法を受けている男性12名, 女性8名の計20名. 年齢は, 昭和56年11月の時点で男性28-62歳 (平均42.6歳), 女性29-54歳 (平均41.1歳). 透析導入後の経験期間は, 男性0-88ヵ月 (平均30.7ヵ月), 女性4-119ヵ月 (平均53.9ヵ月) である. 未処理の透析液を使用する透析に比べて, 1), 2) の処理を行う透析においてHt値は有意 (P<0.05) に上昇し, おのおのの処理を比較した場合, 2) の透析で透析経験年数3年未満そして女性の患者にHt値の顕著な上昇を認めた. BUN, クレアチニン, TP値はHt値の変化とは関係せず, 尿毒素や栄養状態改善によるHt値の変化ではないことを示した. 残留塩素量を測定すると, 水道水では0.5±0.1ppm, 未処理の透析液では0.3±0.1ppmであったが, 1), 2) の処理透析液では検出限界以下であった. 以上のことから, 1), 2) の処理透析液を使用することにより貧血が改善され, そのうちでも, 2) の軟水・活性炭濾過処理透析液の使用が特に貧血改善に有効であると考えられた. またこれらの処理で, 溶血の原因と考えられている残留塩素が除去されることも確認された.
  • 斎藤 博, 樋口 直仁, 中島 健一
    1985 年 18 巻 4 号 p. 449-454
    発行日: 1985/08/31
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    現在, 透析液のアルカリ化剤として, acetate, bicarbonateが主に使用されている. Acetate透析液では代謝性アシドーシスの改善が不十分な症例もあり, bicarbonate透析液では血中bicarbonateの急激な上昇を来すが, 透析液中bicarbonate濃度以上の上昇が望めない. 我々はこれらの点を解決する方法として, acetate, bicarbonateを混合した透析液を作製し使用してきた. 今回は最適なacetateおよびbicarbonateの混合比について検討したので報告する.
    対象は当院に外来通院中の慢性透析患者6名 (男性3名, 女性3名) 平均年齢61歳である. Acetate透析前後での血中bicarbonate濃度の上昇が不良 (3.1±0.7mEq/l, mean±SD) なA群3例と良好 (5.7±1.2mEq/l) なB群3例に分けて検討した. 使用した透析液のacetate, bicarbonateの混合比は, 35:0, 25:10, 20:15, 15:20, 8:27である. 各透析液を用いて各患者それぞれ3回の血液透析を施行した. 検討項目は, 動脈血pH, 血中bicarbonate, acetate, TP, Na, K, BUN, creatinine, total-Caとした.
    A群では各透析液において血中bicarbonate濃度の上昇は8:27混合液で最も高値を示し, 以下15:20, 25:10, 35:0, 20:15混合液の順であった. 血中acetate濃度は, 透析液中に含まれるacetate濃度に比例し, 35:0混合液が他の4法に比し有意に高値を示した. B群では, 血中bicarbonate濃度は血液透析終了時で, 35:0, 20:15混合液に比し15:20混合液が高値であった. 血中acetate濃度はA群と同様の結果を示した.
    8:27混合液では, A, B両群, 15:20混合液でB群が透析中に急激な血中bicarbonate濃度の上昇をみた. この時, 急激な代謝性アシドーシスの改善によると思われる頭痛等の症状を認めた. 血中acetate濃度は35:0混合液が最も高値を示し, A群においては血中acetate濃度の上昇に伴い頻回の血圧低下を認めた. A群では, 15:20混合液が血中bicarbonate濃度の急激な上昇もなく平均的な変動を示した. 以上によりacetate透析時, 代謝性アシドーシスの改善が不良な症例では, acetate: bicarbonate比が15:20の混合液が代謝性アシドーシスの改善も十分であり, acetateの体内での代謝能に適合した至適処方であると考える.
feedback
Top