血液透析患者では, 月経の不順等により妊娠の機会が少なく, また, 妊娠しても母体の危険性の増大, 胎児の発育不全, 出血傾向の増大, 母児ともの栄養障害等の理由から妊娠分娩は禁忌とされてきた. しかし近年, 透析技術の進歩に伴い, 1971年Confortiniの世界最初の透析患者における妊娠, 分娩の成功例の報告以来, 本邦でも, 我々が文献的に検索しえたものだけで12例の報告がみられた. 今回我々も, 透析歴約7年, 32歳, の妊娠分娩に成功したので報告する.
当院では, 14週より透析及び妊娠の管理を行い, BUN 60mg/d
l以下, Cr 6mg/d
l以下を目標に減ヘパリン透析を行った. ドライウェイトは収縮期血圧が100mmHg以下にならないことを最低条件とし, 羊水量及び胎児体重の推定により決定した. 妊娠32週2日, 帝王切開により無事女児を分娩した. Apgar score 9点, 全身状態良好で, 体重1454gであった. 発育は順調で, 生後60日3360gで退院, 現在4か月, 体重5450gで異常は見られていない. 本例の分娩成功の原因は, 1. 患者本人が透析を十分理解し, 非妊時より自己管理が良く, 2. 家族の協力が得られ, 3. 産婦人科, 小児科医の協力が得られたことなどが考えられる. また, 妊娠継続のためには, BUN 60mg/d
l以下, Cr 6mg/d
l以下, Ht 30%以上の状態の確保が必要とされているが, 本邦の報告例13例を検討すると, 生児を得るためには, 妊娠30週以上, 胎児体重1000gまで妊娠を継続する必要があると考えられた.
今後, 妊娠分娩を希望する透析患者が増加すると考えられるが, 安易に妊娠を継続するのではなく, 決して安全ではないことを本人及び家族と十分話し合い, 産婦人科及び小児科医の協力を得ることが必要であると思われた.
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