日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
選択された号の論文の841件中751~800を表示しています
  • 内田 和歌奈, 松永 幸大, 杉山 立志, 風間 裕介, 河野 重行
    p. 739
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    雌雄異株植物ヒロハノマンテマは性染色体をもちXY型の性決定を行う.クロボ菌に感染したヒロハノマンテマの葯にはクロボ胞子が形成される.興味深いことに,雄性決定因子がなく雄蕊が未発達な雌花(XX)にも,感染によって雄蕊が誘導される.本研究では,発芽後10日目の茎頂分裂組織にクロボ菌を感染させ,湿度100%,16度,長日条件でヒロハノマンテマを栽培した.栄養生長期に形態的変化はなかったが,花成は通常より約1ヶ月遅れて感染後3ヶ月目に開始した.花序の数と位置に変化はなかった.花の外部形態を低真空SEMと実体顕微鏡を用いて比較した.感染個体の花の基部は丈夫で花持ちがよく,偏平な葯室と太い花糸が発達し,クロボ胞子を長く保持していた.花原器の内部構造の変化とクロボ菌の局在の関係を調べるために,テクノビット切片を微分干渉顕微鏡法と蛍光染色法で観察した.未発達な非感染雌花の雄蕊原器では,胞原細胞は分化するが花粉母細胞には発達しない.また葯の側壁細胞が分化しない.感染雌花では,雄花と同様に,側壁細胞から内被・中間層・タペート組織が分化した.花の初期原器で均一に分布していたクロボ菌は,胞原細胞の間隙で数を増し胞子形成を開始した.その際,胞原細胞は花粉母細胞に分化せず,タペート組織も未成熟のまま退化した.一方,表皮・内被・中間層は形態的に正常に発達し,花糸が伸張し,花粉の代わりにクロボ菌の胞子を内包した雄蕊が発達した.
  • Kawakami Shigeki, Yuichiro Watanabe, Roger N. Beachy
    p. 740
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    We examined the behavior of movement protein (MP) of tobacco mosaic virus in epidermal cells infected with mutant viruses expressing the MP:GFP fusion protein or free GFP, using time-lapse micrography. These studies revealed that intercellular movement of infection from initially infected cells to adjacent cell occurred 18 to 20 hpi. However, movement from the first to secondarily infected cells occurred in less than 4 hrs, in striking contrast to the first movement. We also observed the behavior of the viral replication complexes that contain MP:GFP at different times post infection using a confocal microscope. At early stages of infection the complexes exhibited rapid intracellular movement, while at mid-stage of infection the complexes were located at or near plasmodesmata, and intracellular movement of complexes were halted. We suggest that these events are preconditions of cell-cell spread of infection, and propose a modified model of virus movement based on these studies.
  • Shigeyuki Tajima, Suphawat Sinsuwongwat, Achara Nuntagij, Arawan Shuts ...
    p. 741
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    NAD-malic enzyme (DME) and NADP-malic enzyme (TME) have been believed to play a key role in energy metabolism for nitrogenase reaction in bacteroids. To elucidate the physiological role of the malic enzymes in Bradyrhizobium japonicum bacteroids, a putative malic enzyme gene Bjtme1 was cloned by PCR using draft sequence data of the Bradyrhizobium japonicum USDA110 genome sequence project. To confirm the characteristics of the Bjtme1 gene, the protein encoded by this gene was over-expressed using a pET32a(+). Using twenty-six isolates which were obtained from nodules of various legume plants in Thailand, the distribution of the activities of both DME and TME was surveyed. The malic enzyme activities were present in all the isolated rhizobia and in 17 other local Bradyrhizobium strains in Thailand. In almost all the rhizobia, the DME activity predominated whereas the TME activity predominated only in the Rhizobium gallicum strains that were major symbionts of Sesbania rostrata.
  • 藤原 伸介, 寺門 純子, 山本 昭洋, 竹原 利明, 堀田 博
    p. 742
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    窒素過剰条件下で栽培された植物は一般に病原菌に対する抵抗力が弱く、病気にかかりやすいことが古くより知られているが、そのメカニズムについては明らかではない。そこで本研究では、植物の窒素栄養条件と病原ストレス抵抗性の関係を解明する端緒として、アンモニア過剰ストレスがシクラメンの体内代謝ならびに萎凋病菌に対する罹病性に及ぼす影響について解析を行った。
    播種後約10ヶ月を経た鉢植えのシクラメン(品種:バーバーク)に2段階の濃度でアンモニア処理(50ppm, 400ppm)を行い、その2日後にシクラメン萎凋病菌(Fusarium oxysporum f.sp. cyclaminis)の胞子を接種した。接種後1週間では、いずれの区においても病徴は認められなかったが、3~4週間を経ると明らかに高アンモニア区で萎凋病が発生し、根の切片からは接種した萎凋病菌が培地上に再分離された。アンモニア処理5日後の体内成分について調べたところ、高アンモニア処理区ではストレス応答成分のサリチル酸やプトレシン濃度が上昇しており、フラボノイド系色素のアントシアニン含量は逆に著しく低下していた。また、高アンモニア処理は根および塊茎部のグルタミン含有量の上昇をもたらしたが、その集積量は菌の接種によりさらに促進されていた。
  • 大和田 琢二, 南澤 究, プラモッド ダワディ, 三井 久幸, 板倉 学, 金子 貴一, 田畑 哲, 横山 正, 手島 光平, 佐伯 和彦 ...
    p. 743
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    ミヤコグサ根粒菌Mesorhizobium loti MAFF303099株の全ゲノム塩基配列情報(7.6 Mb, 7281 ORFs)に基づいて、M13リソースから3832クローンを選択し、ほぼ全ゲノムをカバーするマクロアレイを作成した。ミヤコグサ根粒菌の培養菌体、炭素飢餓状態の菌体、嫌気条件下の菌体、及び、根粒中のバクテロイドから抽出したRNAを鋳型として33P標識cDNAを合成しターゲットとして使用した。ハイブリダイゼーション後、各アレイスポットのシグナル強度をデジタル化し、それぞれの状態での遺伝子発現を染色体地図上に示した。その結果、全遺伝子の発現状況を俯瞰することが可能となり、また、これまでの分子遺伝学的手法では捉えることのできなかった遺伝子を、重要遺伝子の候補として挙げることができた。これらの候補遺伝子については、real time RT-PCRにて発現量の変化を再確認したうえで、遺伝子破壊株の作出とその表現型の解析に取り組んでいる。
  • 寺門 純子, 藤原 伸介
    p. 744
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    高等植物においてポリアミンは細胞の増殖、分化、器官形成といった生長にかかわる機能物質として重要な役割を担うだけではなく、養分欠乏をはじめとする様々な環境変化に対して著しい濃度変化を示すことが知られている。マメ科植物の根には根粒菌が共生し、根粒という特殊な器官を形成しているが、根粒中には他の器官と比較して非常に高い濃度のポリアミンが存在していることが知られている。しかしながらこれらの根粒形成にかかわる機能についてはほとんど明らかにされていない。本研究では、ポリアミンが根粒形成とどのように関連しているかを調べる目的で、根粒菌感染初期におけるダイズ ( Glycine max cv. Enrei)の各器官内のポリアミン濃度の変動を調べた。
    ダイズ(エンレイ)のいずれの器官からも主要ポリアミンであるプトレシン、スペルミジン、スペルミンおよびカダベリンが検出され、ポリアミン含有率は各器官により異なる値を示した。これらのポリアミン濃度は根粒菌の接種により変動を示し、なかでも根や葉において根粒菌接種一日目に、非接種区と比較してプトレシンおよびカダベリン濃度の上昇が確認された。また、これらの植物体の地上部あるいは地下部にポリアミンを処理した結果、根の発達および根粒着生数に変動がみられたことから、ポリアミンが根粒着生の制御にかかわっている可能性が示唆された。
  • 羽生 真樹, 服部 嘉行, 佐伯 和彦
    p. 745
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    インゲン根粒菌Rhizobium etli CE3は本来の宿主ではないミヤコグサLotus japonicusに感染し、根粒形成を行わせることが知られている。しかし、インゲン根粒菌による根粒は早期老化型であり、植物の生長補助をほとんど行わない。我々はミヤコグサの根粒形成において、ミヤコグサ根粒菌Mesorhizobium lotiは保有するがインゲン根粒菌は保有しない未同定の共生遺伝子があるものと考え、異種間相補実験によってクローニングを試みた。
    ミヤコグサ根粒菌整列化コスミドライブラリーのクローンをそれぞれインゲン根粒菌に導入し、ミヤコグサに感染させて植物の生長を評価している。現在、全480クローンのうち約半数を評価した段階で、標的とする遺伝子は同定できていない。しかし興味深いことに、ミヤコグサ根粒菌における2つのゲノム領域がそれぞれインゲン根粒菌による根粒形成に負の影響を与えることが明らかになった。これらのうち一方の領域を含むインゲン根粒菌は黒点様の超早期老化型根粒を多数作り、もう一方は根粒を全く作らない。該当クローンの派生物や周辺クローンを用いて、これらの存在位置を6.7kbpおよび7.6kbp以内に限定した。それぞれの領域は7個と11個のORFを含むが、既知の共生遺伝子を含んでいないことが分かった。現在これらの形質を与える遺伝子を同定し、根粒形成における機能について検討を行っている。
  • 梅原 洋佐, 陳 文莉, 河内 宏
    p. 746
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     マメ科植物は根粒という特別な器官を形成して、根粒菌と共生窒素固定を行う。根粒形成に関わる植物側因子の解明は、マメ科のモデル植物ミヤコグサやタルウマゴヤシ等を用いた近年の分子遺伝学的研究の進展により可能となったが、依然としてそのほとんどは未解明であり、百以上あると推定されている根粒形成に関与する変異体の遺伝子座も網羅されてはいない。そこで我々は、イネで行われた様な内生レトロトランスポゾンを利用した遺伝子タギング系の作成を視野に入れつつ、植物側因子解明の新たな材料を作出することを目的として、ミヤコグサ培養細胞由来の再生植物個体群から共生変異体を単離した。
    胚軸由来カルスと、Gifu培養細胞から、Gifu889系統、Miyakojima446系統の再生個体を得た。このうち種の取れたGifu 700系統、Miyakojima 224系統に関し、無窒素条件下での根粒形成試験を行い、根粒菌M.loti Tono接種の1ヶ月後、窒素欠乏を呈する個体を選抜した。得られた変異体候補を野生型の植物と交配し、F2遺伝子分析を行ったところ、12系統について3:1の分離が確認された。現在、他の変異体候補に関する遺伝子分析を進めると共に、変異遺伝子のゲノム上への位置づけ等を行っている。       Hirochika H et al. (1996)Proc Natl Acad Sci U S A. 93(15):7783-8.
  • 熊谷 浩高, 下村 憲司朗, 田島 茂行, 河内 宏
    p. 747
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     RNAi(RNA interference)は細胞内に二本鎖RNAを導入することによって配列特異的にmRNAの減少を引き起こさせる手法であり、生物が持つ防御機構の一つであるRNA silencingを利用している。マメ科植物-根粒菌共生系の遺伝子機能解析にRNAiを応用することを目指し、ミヤコグサを用いたモデル実験を行った。
     あらかじめβ-glucuronidase(GUS)遺伝子で形質転換したミヤコグサ株に毛状根形質転換法を用いてGUS遺伝子の部分配列を含む二本鎖RNA発現遺伝子を導入した。X-Glucuronideを用いて活性染色した結果、形質転換根は染色されず、対照としてベクターのみで形質転換した根は青く染色された。根粒菌感染後約一週間の根粒でも同様の結果であった。GUSの活性量を測定した結果、70%の形質転換根でGUS活性は検出されなかった。形質転換根を持つ個体の葉のGUS活性は平均25-30%に低下していた。根粒の感染細胞特異的に強いGUS活性を持つ株から形質転換根を誘導し、根粒菌接種後2週間の根粒を採取してGUS活性を測定した。その結果、形質転換根のうちそれぞれ70%からの根粒でGUS活性は検出されなかった。
     以上の結果から、毛状根形質転換法を用いた系においてミヤコグサの根及び根粒でRNAiが有効に機能することが示された。
  • 古屋 史恵, 内海 俊樹, 鈴木 章弘, 阿部 美紀子
    p. 748
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    マメ科植物の根粒細胞内で特異的に生産されるレグヘモグロビン(Lb)は,根粒菌とマメ科植物の共生窒素固定系において特徴的な機能を有するタンパク質の一つである。本研究では,マメ科のモデル植物であるミヤコグサ(Lotus japonicus)のLb遺伝子の発現調節機構を解明するために,Lb遺伝子のnodulin motifを含むプロモーター領域とGFP構造遺伝子との融合遺伝子(Lbpro-GFP)を構築し,Agrobacterium rhizogenesを介したミヤコグサの形質転換を試みた。A. rhizogenesの感染により毛状根を誘導し,融合遺伝子の導入をPCRで確認した。形質転換された毛状根には,ミヤコグサ根粒菌(Mesorhizobium loti MAFF303099株)の接種により根粒が形成され,その根粒組織は,通常根に形成されたものと違いはなかった。また,毛状根に形成された根粒よりmRNAを抽出し,LbとGFPの発現をRT-PCRで確認した。次に,毛状根に根粒菌を接種し,蛍光顕微鏡にてGFP発現観察を経時的に観察した。その結果,感染の初期から根粒の発達過程で,根の維管束付近でGFP由来と考えられる蛍光を検出した。このことは,Lbが共生領域以外の組織で発現し,機能している可能性を示すものである。
  • 林 誠, Myra Tansengco, 前川 隆紀, 矢野 幸司, 川口 正代司, 室岡 義勝
    p. 749
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     陸上植物の大部分は土壌微生物との共生に依存している。その8割は内生菌根菌と細胞内共生するが、根粒菌などの窒素固定細菌と細胞内共生するのはマメ科を含むRosid Iに属する植物に限られる。内生菌根菌は菌糸を伸ばして細胞内に侵入するが、窒素固定細菌は植物由来の感染糸を経由して侵入する。共生体の認識機構として、感染糸経由の共生はより洗練されたメカニズムだと考えられている。感染糸形成には植物と微生物の両者の因子が重要であることが明らかになっている。
     この高度に発達した共生メカニズムを解明するために、マメ科モデル植物ミヤコグサを用い感染糸形成に異常を起こした変異体の表現型を解析した。ミヤコグサの根粒形成変異体であるcrinkleの感染糸は皮層細胞に侵入して分岐する前にその発達が停止し、不完全根粒の内部には根粒菌の凝集した構造が観察された。またalb1の感染糸は未発達の根毛に形成され、膨張した形を示した。根粒形成を阻害する要因である硝酸態窒素あるいはエチレンで処理した場合、あるいは通常の感染領域における感染糸形成での停止部位にもそれぞれの変異体で観察された表現型がある割合で存在し、また、他の変異体でもそれに相当する停止部位が野生型で観察されることから、感染糸形成の様々な表現型は感染糸形成変異体におけるそれぞれの原因遺伝子によって司られていると考えられる。
  • Ken-ichiro Shimazaki
    p. S10
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    Stomata open in response to blue light (BL). Recent progresses of BL signaling in stomatal guard cells will be presented. BL activates the plasma membrane H+-ATPase and induces H+ pumping, which provides driving force for the uptake of K+. The H+-ATPase was activated by phosphorylation of penultimate Thr in the C-terminus with concomitant binding of 14-3-3 protein. The activation required the binding of 14-3-3 protein to the C-terminus. Involvement of phototropin (phot) in the perception of BL in guard cells was demonstrated using the phot1 phot2 double mutant. In the mutant, stomata neither open nor pump out H+ from guard cells in response to BL. When the double mutant was transformed with wild-type phot1, BL-induced stomatal opening was restored. Biochemical analysis indicated that phot was involved in the perception of BL. phot was phosphorylated in response to BL, and the phosphorylation preceded the activation of the plasma membrane H+-ATPase.
  • 長谷 あきら
    p. S11
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    青色光受容体として最近見いだされたフォトトロピン(phot)は、光屈性や葉緑体定位運動、気孔の開口など様々な光応答に関わる。photは、フラビンを発色団として結合する分子量約11万の色素タンパク質で、N末端側の発色団領域とC末端側のキナーゼ領域からなり、細胞膜と結合して存在すると言われているが、その作用機構は不明である。我々は、photが単細胞緑藻のクラミドモナスにも存在することを見出した。そこで、クラミドモナスのphot(Crphot)が、系統的に大きく離れたシロイヌナズナでも機能するかどうかを調べた。Crphotを35Sプロモーターの制御下で、シロイヌナズナのphot1 phot2二重変異体で発現させたところ、発現量が高い系統においては、様々なphot欠損表現型の回復が認められた。従って、系統的に大きく離れた植物種間においても共通のCrphot情報伝達経路が存在することが示唆された。次に我々は、photのキナーゼ領域の役割について検討を加えた。全長photあるいはそのキナーゼ領域をタンパク質間相互作用を調べるための酵母Cytotrap系で発現させたところ、photのキナーゼ領域が自発的に細胞膜に移行することが示唆された。現在我々は、この酵母反応系を用いて、1)どのような構造が細胞膜への移行に必要か、2)膜への移行と生理活性の間にどのような関係があるか、について調べている。
  • 伊関 峰生, 渡辺 正勝
    p. S12
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     単細胞鞭毛藻ミドリムシ(Euglena gracilis)は周囲の光環境の変化に敏感に応答することから、古くより光感覚のモデル生物として扱われてきた。ミドリムシの光運動反応の作用スペクトルは紫外~青色域にピークを持ち,フラビンの吸収スペクトルによく対応する.また,ミドリムシの鞭毛基部にはフラビン特有の自家蛍光を発するPFB (paraflagellar body)と呼ばれる構造が存在し、これが光受容器官であると考えられてきた。そこで我々はPFBを単離し、その中に含まれるフラビンタンパク質を新しい青色光センサーとして同定することに成功した。
     精製されたフラビンタンパク質は分子量約40万で、発色団としてFADを結合した大小2種類のサブユニットからなるヘテロ四量体であると推測された。それぞれのサブユニットのアミノ酸配列は互いによく似ており、既知のFAD結合領域に類似性のある領域と、アデニル酸シクラーゼの触媒領域に類似性のある領域が各サブユニットに交互に2箇所ずつ含まれていた。このフラビンタンパク質のアデニル酸シクラーゼ活性を測定したところ、顕著な活性がみとめられ、さらにこの活性は青色光照射により劇的に上昇した。すなわち、このフラビンタンパク質は、受容した光信号をGタンパク質等を介さず直接cAMPの産生という形で伝達可能な全く新しいタイプの光センサーであることが明らかになった。
  • Satoru Tokutomi
    p. S13
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    Phototropin acts as a blue-light receptor for tropic responses, reorientation of chloroplasts, and stomata opening in plants, that are deeply concerned in the regulation of the efficiency of photosynthesis. Phototropin has two chromophoric domains named LOV (light, oxygen, voltage) 1 and 2, each of which bears a FMN, in its N-terminal half. C-terminal half is a serine/threonine kinase. Absorption of photon initiates photochemical reactions of FMN that may induce conformational changes in the protein moieties responsible for the regulation of kinase activity. Neither its molecular mechanism, nor the substrates for this kinase activity, except for phototropin itself, is known. We have started biophysical and biochemical analyses to clear them. The molecular mechanism by which the blue-photon energy induces conformational changes in the remote domain and the possibility of kinase activities on the other substrates than phototopin will be discussed.
  • 小泉 望
    p. S14
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    小胞体で合成されるタンパク質は、小胞輸送により、液胞や細胞外へ輸送される。小胞体内でタンパク質の高次構造形成に異常が生ずると、小胞体分子シャペロン、タンパク質分解系、小胞輸送系などの遺伝子が誘導される。この現象は小胞体ストレス応答と呼ばれる。植物における小胞体ストレス応答の分子機構に関して、以下の知見を得た。1)酵母、動物の小胞体ストレスセンサーである受容体型タンパク質キナーゼ/リボヌクレアーゼIRE1のホモログがシロイヌナズナに2コピー存在する。両ホモログは小胞体に局在し、N末領域は酵母でセンサーとして機能する。2)シロイヌナズナBiPプロモーター上の小胞体ストレス応答に必要なシス配列(P-UPRE)を決定した。P-UPRE は動物のシス配列と保存性が高く、同様の配列は他の小胞体シャペロン遺伝子のプロモーター上にも認められた。3)酵母のHAC1、動物のXBP1はIRE1依存的mRNAのスプライシングにより、動物のATF6はタンパク質の切断により機能発現し、小胞体ストレス応答に関わる。それぞれの間にホモロジーは無いが、いずれもbZIP型転写因子である。ゲノム情報をもとにシロイヌナズナから小胞体ストレス特異的に転写が誘導されるbZIP型転写因子AtERZIPを単離した。現在、IRE1ホモログとAtERZIPの植物体における機能解析を進めている。
  • 熊丸 敏博, 竹本 陽子, 小川 雅広, 佐藤 光
    p. S15
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     イネ種子貯蔵タンパク質はプロラミンとグルテリンから構成され、それぞれ小胞体由来のプロテインボディ(PB)-Iと液胞由来のPB-IIに集積している。小胞体で合成されたグルテリン前駆体は液胞由来のPB-IIに輸送され、成熟型として集積する。本研究の目的はグルテリンの集積過程の制御機構を明らかにすることである。
     材料にはグルテリン前駆体を多量に蓄積する変異体(57H変異体)を用いた。
     57H変異体の一つesp2変異体では、グルテリン前駆体がプロラミンと共に小胞体由来の変異型PBに蓄積していた。この変異体の胚乳では、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)がタンパク質レベル、RNAレベルで欠損していた。これらの結果はPDIが小胞体でのグルテリン前駆体とプロラミンの選別に作用することを示している。
     他の57H変異体、glup3変異体では、グルテリン前駆体が成熟型グルテリンと共に液胞由来のPBIIに集積していた。Glup3候補遺伝子は液胞内でタンパク質を成熟型に変える酵素(VPE)とアミノ酸レベルで高い相同性を示した。glup3変異体では当該候補遺伝子においてアミノ酸置換を伴う1塩基置換を検出した。glup3変異体の胚乳ではVPE活性の顕著な減少が認められた。これらの結果は、VPEが液胞内においてグルテリンの前駆体型から成熟型への限定分解に作用することを示している。
  • 嶋田 知生, 冨士 健太郎, 片岡 未裕希, 山田 健志, 近藤 真紀, 西村 幹夫, 西村 いくこ
    p. S16
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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    種子細胞に見られる特殊化した液胞であるプロテインボディには大量の貯蔵タンパク質が蓄えられている.これらのタンパク質は種子の登熟期に小胞体で前駆体として合成され,液胞に輸送された後にプロセシングを受けて成熟型になり蓄積する.私達は貯蔵タンパク質の細胞内輸送及び液胞内プロセシング機構について解析を進めてきた.登熟カボチャ子葉を用いた実験から貯蔵タンパク質の新規の細胞内輸送ルートが明かとなった.このルートは小胞体から直接形成されるPAC小胞と名付けたコンパートメントを経由するもので,短期間に大量の貯蔵タンパク質を効率よく液胞に輸送するために植物が獲得してきたシステムと考えられる.単離したPAC小胞のプロテオーム解析から,貯蔵タンパク質にアフィニティのある選別輸送レセプターPV72を同定した.PV72はゴルジ体を通過した貯蔵タンパク質の液胞への選別に関わると考えられる.PV72のシロイヌナズナホモログであるAtVSR1(AtELP)の遺伝子破壊株では大量の貯蔵タンパク質が細胞外に分泌されているのが観察された.しかし,この変異体の細胞内には正しく輸送された貯蔵タンパク質を含むプロテインボディも存在していた.このことから貯蔵タンパク質の細胞内輸送にはAtVSR1依存的と非依存的な2つの輸送機構が考えられる.現在,貯蔵タンパク質の生合成過程に関わる遺伝子群を明らかにするために,シロイヌナズナ変異体の同定及び解析を進めている.
  • 松岡 健
    p. S17
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
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     我々は、タバコ培養細胞BY-2株をモデルとして用いて、蛋白質の液胞への輸送機構を解析している。対数増殖期のBY-2細胞には、液胞への蛋白質輸送機構として、シグナルに依存した少なくとも2種の輸送機構が存在する。そこで、定常期の細胞においてこれら以外の液胞への輸送系が存在するかを、蛍光蛋白質を用いて検討した。BY-2で発現させた液胞輸送シグナル破壊スポラミン前駆体N-末端側41アミノ酸残基とGFPの融合蛋白質は、対数増殖期においては細胞外へ分泌されたが、定常期には多く細胞の液胞内にGFPの蛍光が観察された。また、小胞体膜タンパク質であるCyt b5とRFPの融合蛋白質(Cyt b5-RFP)を発現させた場合に、対数増殖期の細胞においてRFPの蛍光は細胞内に点状の構造体として観察され、定常期には一部の蛍光が液胞内に観察されるようになった。そこで、定常期において細胞分裂が停止する要因の一つである栄養飢餓において、これらの液胞への輸送が誘導されるかを検討し、Cyt b5-RFPの場合においてのみ液胞へ蛍光が観察されることを見い出した。このことは定常期においては、少なくとも2種の液胞への蛋白質輸送機構が新たに誘導されることを示唆している。現在、細胞飢餓による液胞への蛋白質移行について解析を進めており、この移行機構発現に至るまでの細胞飢餓情報の細胞内伝達機構に関しても議論したい。
  • 上田 貴志, 庄田 恵子, 中野 明彦
    p. S18
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     細胞外や細胞膜上の物質を細胞内へと輸送する機構はエンドサイトーシスと呼ばれ,動物細胞においては古くからシグナル伝達をはじめとする様々な現象に関与することが知られている.その一方で,植物細胞におけるエンドサイトーシスに関する知見は,これまで非常に限られたものであった.しかし近年,オーキシン輸送体の細胞内局在化の調節を介した成長制御,活性化レセプターキナーゼの取り込みを介したシグナル伝達調節等へのエンドサイトーシスの関与が示唆され,植物細胞におけるエンドサイトーシスに関心が集まっている.我々は,このエンドサイトーシスの機構,動態,及び機能を解明することを目的とし,シロイヌナズナにおいてエンドサイトーシスを制御しているRab GTPaseを中心に研究を行っている.
     シロイヌナズナゲノム中には,植物特異的なRab GTPaseであるAra6をはじめとし,多くのエンドサイトーシスに関与すると思われるRab GTPaseがコードされている.我々は,それらの細胞内局在,及び機能について解析を行うとともに,それらをオルガネラマーカーとして用い,高時間分解能,高精細顕微鏡システムを用いて,エンドサイトーシスを担うオルガネラの動態を詳細に観察することを試みている.本講演では,新たに得られたエンドソームの動態に関する知見を中心に,植物細胞内におけるオルガネラのダイナミックな動きを紹介したい.
  • 佐藤 雅彦, 植村 知博
    p. S19
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の細胞内小胞輸送系は、形態学的研究、生化学的な研究などから他の真核生物の細胞内小胞輸送系に比較しても非常に複雑であることが示唆されてきた。特に動物のリソソームなどと相同な細胞内酸性小器官である液胞は、加水分解型液胞、タンパク質貯蔵型液胞など複数の機能を持ったもの存在し、それぞれの液胞へ固有の経路があることが示唆されている。しかしながら、現時点において植物では細胞内輸送を司る分子群の解析が十分に行われていないために、実際、どのような分子が各々の細胞内輸送経路に関与しているかは不明であった。我々は、シロイヌナズナゲノムよりv-SNAREをコードすると推定される遺伝子を24種類同定し、それらの発現をRT-PCR法で確認の後、発現しているものについて全てGFP融合タンパク質を用いて全ての細胞内局在を明らかにした。更に、これらの分子の類似性と細胞内局在を元に他の真核生物のv-SNAREとの系統関係を解析すると、小胞体、ゴルジ体に局在するv-SNAREについては種間で高い相同性が見られたが、ゴルジ体以降、エンドソーム、液胞などの局在するものについては種間で有意な相同性が見られなかった。このことから、植物細胞ではゴルジ体以降の小胞輸送系は独自に進化し、植物特有の複雑な輸送系を構築したことが示唆された。また、併せてt-SNARE分子の局在についても議論する。
  • 齊藤 知恵子, 森田(寺尾) 美代, 田坂 昌生
    p. S20
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    多くの高等植物のシュートは重力に抗って成長する.シロイヌナズナの花茎も負の重力屈性を示し,横倒しにすると約90分で垂直に立ち上がる.その分子機構を理解するため,我々は多くの変異体 sgrshoot gravitoropism mutants)を単離し研究を行ってきた.これまでの一連の解析から,花茎の内皮細胞層が重力感受部位であることが強く示唆されている.内皮細胞ではアミロプラストが細胞の底面付近に分布しており,これが平衡石として機能すると考えられる.電子顕微鏡観察から,底面付近に分布するアミロプラストは,薄い細胞質領域と液胞膜に取り囲まれた状態で中心液胞の内側に存在することが判明した.一方原因遺伝子が液胞関連因子であるsgr変異体においては,アミロプラストが中心液胞の内側に取り込まれず重力方向に沈降しないことが明らかとなった.このことから,アミロプラストと液胞の相互作用が,重力感受の最も初期の段階に重要であることが示唆される.そこで,重力刺激感受前後のイベントを生きた細胞内で捉えるために,横倒し顕微鏡システムを構築した.本シンポジウムでは,重力刺激を与える前後でのアミロプラストの挙動を野生型と変異体で比較した観察結果と,その時の内皮細胞の液胞のダイナミクスについて紹介したい.
  • 藤井 義晴
    p. S21
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物には,二次代謝物質と総称され,個体の生命維持には必ずしも必須ではない成分を,特異的に,また時には大量に含んでいることがある.このような物質は従来,貯蔵物質または老廃物であるとされてきたが,動植物や微生物・昆虫等に生理活性のある複雑な構造の物質も数多く見つかっており,その機能が,他の生物個体との生物間相互作用を媒介する生理活性物質であるとする「アレロパシー仮説」が提唱されている.このような物質は,自然生態系においては,植生の遷移や特定種の優占・排除といった現象に関与している.また,このような物質が,絶滅危惧種や化石植物とされる古い植物で,一属一種的な珍しい植物に多く含まれていることは,進化の過程でそのような性質を持つ植物が生き残ってきた可能性がある.農業面では,合成農薬や殺虫剤を減らした環境保全型の農業に役立つ実用的な研究が進められている.
     演者は農業環境技術研究所で,約20年にわたりアレロパシーの探索と作用物質の同定,および利用に関する研究を行ってきた.そこで,本シンポジウムでは,強い活性を示す植物,とくにムクナ,ヘアリーベッチ,ナタマメ,ヤムビーンなどの事例を紹介し,同定された生理活性の強い成分の構造と機能について簡単に紹介する.また,最近研究を開始した,侵入・導入植物に含まれる作用成分の同定とその化学生態的な意義,およびアレロパシーを応用した農業とその展望について紹介する.
  • Francisco A. Macias, Raul F. Velasco, Juan C. G. Galindo, Jose M.G. Mo ...
    p. S22
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Continuing with our ongoing project of chemical transformations of sesquiterpene lactones(SL) searching for new herbicide models, here in we present the results of an structure-activity relationship(SAR) with guaianolides.Chemical transformations have been introduced in the molecule aiming to analyse two main factors:a) In order to test the influence of an increasing lipophylicity in the activity we have get access to isozaluzanin C derivatives with linear or branched ester side chains of different lengths at the C-3 hydroxyl group.b) The second objective is to test the importance of chemical transformations into the lactone ring nearby positions.Consequently, changes in the double bond of the lactone ring were introduced in the course of a synthetic design to get access to an oxetane group attached to these positions preparing masked Michael acceptors.Compounds were tested using the wheat coleoptiles and the germination and growth Petri dish bioassays, and the results statistically analysed by cluster analysis.
  • 岩科 司
    p. S23
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    フラボノイドは陸上植物のコケ類、シダ類、裸子および被子植物に広く分布する化合物群で、これまでに5,000種類近くの物質が報告されている。しかしながら、植物におけるこれらの成分の機能についてはほとんどわからないままであった。唯一古くから知られていた機能は色素として花に含まれるアントシアニン系フラボノイドの花粉媒介のための昆虫や鳥の誘引作用であった。これらの昆虫誘引についてはその後、アントシアニンばかりでなく、フラボンやフラボノールのような、ほとんど可視域に吸収をもたないフラボノイドも昆虫の誘引に役立っていることが判明している。しかし、花以外の葉や根などに存在するフラボノイドの機能については長い間あまり知られていなかった。近年、やっとこれらの機能に関する研究が本格的になり、フラボノイドがそれを合成する植物と他の生物との間に重要な機能を果たしていることがわかってきた。例えば、カンアオイ類やミカン科植物に含まれるフラボノイドのチョウに対する産卵刺激作用、クワの葉などのフラボノイドの昆虫に対する摂食刺激作用、マメ科植物の根などのフラボノイドの根粒菌誘引作用、またその逆の抗菌作用などである。さらには最近、生物間の作用ではないが、葉に含まれるフラボノイドについて、生物に有害な紫外線から植物を保護する機能も実証された。本講演では、これまでに判明しているフラボノイドの植物における機能について紹介する。
  • 中村 輝子
    p. S24
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    高尾山麓の森林総合研究所多摩森林科学園のサクラのジーンバンク(桜保存林)および新たに開かれた農場を利用してシダレザクラのしだれ性のメカニズムに関する植物生理学的研究をおこなってきた。それまでの制御された実験室環境における幼植物を用いた実験とは異なり、フィールドの実験は、予期せぬ様々な困難を伴う一方、自然環境の中で樹木サクラを育てることにより、そのライフサイクルの進行に伴う動物すなわち、哺乳類、鳥類、および昆虫との様々な関係があり、またこれに関わるアレロパシー物質(クマリンなど)の関与もあることを学ぶことができた。この体験に基づいて「フィールドで植物生理学の実験をおこなうこと」および「フィールドにおけるサクラとそれをとりまく生物間の相互作用」につき論じたい。
     フィールドにおけるしだれ性に係わるジベレリン等の植物ホルモンの研究は、さらにサクラの重力生物学の研究へと発展し、近年は、三次元クライノスタットを用いたサクラの形態形成とその重力センサーの研究がおこなわるようになった。ここでえられた宇宙環境の植物におよぼす影響をも合わせて論じたい。
  • 本間 環
    p. S25
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    現在、スギ花粉は日本の春先における代表的なアレルギー疾患となっている。これはまさに植物が他生物(動物)に対して影響を与えている例である。スギ花粉症を解決するためには医学的あるいは植物生理学的な対策が必要とされている。しかし、現在でもスギ花粉症の有効な治療や発生源の対策は実用化されていない。スギの材は建築材や家具材として価値が高い。そのために、スギは日本の有用樹木として盛んに植林されてきた。この際に必要となったのは、安定した種子の供給であった。種子生産の技術として植物ホルモンの一種であるジベレリン(GAs)を処理することで花芽形成の誘導が行われていた。しかし、植物ホルモンとスギの花芽形成のメカニズムとの関連は不明であった。そこで、スギに含まれる内生植物ホルモンの分析を行った。その結果、花芽形成の直前にGA3の含有量が著しく増加することが明らかとなった。このことから、GAsはスギの花芽形成に関与していることを示唆している可能性が示された。このことは、スギ花粉の発生源の対策としてGAsを制御すればスギの花芽形成を抑制できる可能性をも示唆していた。そこで、GAsの生合成阻害剤の処理を行った。その結果、スギの花芽形成は顕著に抑制された。ここでは、植物の成長調節を用いてスギ花粉の飛散防止を目的とした研究について、実験室レベルからフィールドレベルへの応用および実用化について紹介する。
  • 山下 雅道
    p. S26
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    人類の宇宙進出はさまざまな技術と科学を動員して進められてきた。その成果は宇宙活動の拡大にとどまらず、「宇宙船-地球号」という語に表されるように、地球の資源の有限であることを広く意識させ、また生態系それ自身の運動が生命活動を可能にするよう地球環境を維持していることを顕示している。宇宙での閉鎖生態系のエンジニアリングは、エネルギと物質と情報を生態系のサブユニットの間で受け渡し、各ユニットや生態系に内在する恒常性機能などにより安定した生命活動を実現する。生物体間の相互作用はこのエンジニアリングにとり重要な要素のひとつである。情報をコードして生成される化学種は、物質循環の回廊である大気や水の流れにより生態系内に輸送・拡散し、また化学・生物学的な過程により消滅していく。このような過程は、物質分布の境界条件が異なる閉鎖生態系ではより強調されるであろうし、閉鎖生態系を構成するにはよく検討しておく必要がある。すでに、地表の生物圏のエネルギ流や物質循環流のなかで人類の活動による部分は大きな割合を占めている。宇宙での閉鎖生態系では、地球にある膨大なシンクやストックのサブシステムを欠く上に、人間活動のプレゼンスとその制御はきわめて大きい。地球規模の生態系や環境にかかわるエンジニアリングが要請されるなかで、宇宙での閉鎖生態系の構築は、植物生理機能の解明をはじめ、そのよきテストベッドとして期待される。
  • Galina S. Nechitailo
    p. S27
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Systematic research on plants and other biological objects at orbital science stations has been conducted in the USSR since 1971,in two major directions:fundamental research which seeks to improve our understanding of natural evolution and the role of gravity in it;applied research aimed to improve life support systems,including bioregenerative plant systems,to be used at spacecrafts; These studies fall into the following steps:planning evaluation of experimental conditions; design of equipment;selection of objects and methodologies;training of cosmonauts;in-fling studies;ground control and primary material processing at the landing site;data evaluation and interpretation. Most of biological experiments were conducted at the "Mir" orbital station.The investigations were carried out with plants in different morphological forms:seeds,tubers,bulbs, seedlings,vegetating plants.The results have demonstrated a real feasibility of creating biotechnical life support system including subsystems of higher plants in prolonged space flights.Practical recommendations were used to design flight devices for cultivating plants that are now employed in cosmonautics.
  • 村田 隆, 堀 孝一, 渡辺 雄一郎, 長谷部 光泰
    p. S28
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    微小管はα、β-チューブリンのヘテロダイマーが重合してつくられる。細胞内での微小管重合には微小管の重合核が必要であり、動物では中心体に存在するγ-チューブリン複合体が重合核の役割をしている。一方、高等植物細胞においては、中心体は存在せず、間期の微小管は表層微小管として細胞膜に沿って存在する。演者らはγ-チューブリンが表層微小管の端に存在することを示したが、表層微小管形成に働いていることの証明はできていない。また、植物細胞においてはγ-チューブリンが細胞分裂、細胞伸長に働く実験的証拠はない。本研究では、virus-induced gene silencing によりγ-チューブリンの発現を抑制し、細胞分裂、細胞伸長と微小管構築に対する影響を調べたので報告する。
    Nicotiana benthamiana γ-チューブリンmRNA部分配列を持つトマトモザイクウイルスを作成し、N. benthamiana植物体に感染させた。ウイルスは茎頂分裂組織に入れないため植物体は成長を続けたが、新たに展開する葉の表皮細胞の形態異常、気孔の形成阻害、柵状組織の細胞分裂阻害などさまざまな異常が見られた。ウイルスが感染した葉ではγ-チューブリン量は数分の1以下に減少していた。γ-チューブリンmRNA部分配列を持たないウイルスは影響を与えなかった。微小管の観察結果もあわせて報告する予定である。
  • 橋本 隆, 中島 敬二, 庄司 翼, チタマデー シリポン, 古谷 育代, 阿部 竜也, 河村 知見, 成田 典之, 林 和典, 金子 弥生
    p. S29
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    右巻き及び左巻きのアラビドプシス変異株の大規模スクリーニングを行った結果、右巻き変異株が4遺伝子座以上、左巻き変異株は5遺伝子座得られた。右巻き変異株では根、胚軸、葉柄、花弁などの伸長器官の表皮細胞が右巻きにねじれて伸長しており、これら軸器官の内部組織(皮層、内皮など)は横方向に肥大していた。一方、左巻き変異株では表皮細胞が左巻きにねじれて伸長していた。従って、伸長している軸器官の内部組織の細胞が縦方向に伸長せず肥大するのにも関わらず、表皮細胞はほぼ縦方向に伸長するため、内部と外部の細胞層の縦方向の長さの差が生じ、この伸長差を補正するために表皮細胞がねじれると考えられる。
    植物細胞が縦方向に伸長する場合、細胞の縦軸に対して直角方向に配向する表層微小管に沿ってセルロース微繊維が配向し、細胞の伸長方向を決定するとされる。右巻き変異株では表皮細胞の表層微小管の配向が左巻きになっており、左巻き変異株では逆に右巻きになっていたことから、ねじれ遺伝子は表層微小管の配向制御に係わると考えられる。
    左巻き変異株はα又はβチューブリンのdominant negative型のアミノ酸置換型変異であり、右巻き変異株のspiral1spiral2は植物特異的な新規遺伝子ファミリーの劣性変異であった。また、SPR1とSPR2は表層微小管に局在した。ねじれ遺伝子の機能解析により、微小管の配向制御機構が明らかになると期待される。
  • 吉良 拡, 福田 裕穂
    p. S30
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    管状要素の分化過程では、アクチン繊維と微小管が協調的に、細胞長軸に対して垂直な二次細胞壁のパターン形成を制御している。マウスtalinのアクチン結合サイトや、マウスMAP4の微小管結合サイトをGFPにつないだ融合遺伝子 (GFP-talin・GFP-MAP4)を金粒子にコーティングし、ヒャクニチソウ管状要素分化系の細胞にパーティクルボンバードメントにより導入することで、管状要素二次壁形成前後の細胞骨格系の三次元的な動態が明らかになってきた。しかし、刻々とその配向を変化させるアクチン繊維と微小管の具体的な相互作用の機構を知るためには、二つの細胞骨格を二重標識する必要があった。そこでGFPの蛍光色の異なるバリアントであるCFPとYFPに、マウスtalinとマウスMAP4をつないだ融合遺伝子を作成した。二種類のプラスミドを同時に金粒子にコーティングし、ヒャクニチソウ葉肉細胞に導入したところ、生細胞でのアクチン繊維と微小管の二重標識に成功した。我々はまた、蛍光標識したWGAレクチンを用い、肉眼ではとらえることのできないごく初期の二次壁成分の沈着についても観察をおこなっている。このような多重蛍光標識により明らかになりつつある、管状要素二次壁のパターン形成における細胞骨格の役割について紹介する。
  • 峰雪 芳宣, 唐原 一郎, L. Andrew Staehelin
    p. S31
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    分裂準備帯(preprophase band)は、高等植物のG2から前期に出現する、微小管が帯状に配向した構造で、将来細胞板が親の細胞壁と接続する細胞表層の領域(分裂面挿入予定位置division site)を分裂前に予言する。この微小管帯は前中期には消失してしまうが、細胞分裂の最後で細胞板は確実に分裂準備帯のいた位置を認識し、そこで親の細胞壁と接続する。そのため、分裂準備帯の微小管が将来の分裂面を予言する位置に並ぶ機構と、分裂準備帯での分裂面挿入予定位置の情報保持機構の解明が、細胞分裂面の挿入位置の制御機構の解明には必須と考えられている。我々は、高圧下で瞬時に組織の凍結が可能な加圧凍結法と、高分解能での3次元的解析の可能な2軸超高圧電子顕微鏡トモグラフィー法を組み合わせることにより、重合中、または脱重合中の微小管端の構造の定量的観察が可能になり、分裂準備帯内での微小管の動態の解析ができるところまで来た。また、従来分裂準備帯の領域には存在しないと思われていたクラスリン被覆小胞やピットが多数観察できるようになり、これらの小胞を含む成熟した分裂準備帯の小胞の定量的解析から、他の時期や場所にくらべて、活発にエンドサイトーシスが起こっていることが分かった。これらの結果は、本研究で示した新しい電子顕微鏡技術が、分裂準備帯の発達と機能の解析に有効な技術であることを示している。
  • 町田 泰則, 征矢野 敬, 石川 雅樹, 荒木 智史, 伊藤 正樹, 伊藤 真弓, 北村 さおり, 高橋 裕治, 西浜 竜一
    p. S32
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物の細胞質分裂の制御に関わるMAPキナーゼカスケードと微小管の構築
    タバコの NPK1 は、細胞質分裂を制御する MAP キナーゼ・キナーゼ・キナーゼである。本研究では、NPK1 の下流に存在する NQK1 MAP キナーゼ・キナーゼと NRK1 MAP キナーゼを同定・単離した。これら3つのプロテインキナーゼは、細胞周期のM 期の後期に活性化される。さらに、フラグモプラスト微小管の重合を阻害すると、それらの活性は急速に低下した。また、種々の手法によりNQK1 の働きを抑制すると、細胞質分裂の停止や植物の成長阻害が見られた。したがって、NQK1 は、NPK1 と同様に、植物細胞の細胞質分裂を制御する因子であると考えられる。また、これらの因子の活性化は、フラグモプラスト微小管の構築と深く関わっていると考えられる。
    参考文献
    1. Nishihama et al., Genes & Development 15: 352 (2001)
    2. Nishihama et al., Cell 109: 87 (2002)
  • 園部 誠司
    p. S33
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞において一般的見られるに微小管構造は、表層微小管、原形質糸微小管、分裂準備期微小管束、紡錘体、膈膜形成体がある。このような多様でダイナミックな構造を作り上げるためには制御タンパク質、いわゆる微小管付随タンパク質が不可欠である。我々はタバコ培養細胞BYQを材料として、微小管付随タンパク質(MAPs)の生化学的同定を行い、これまでに、65 kDa MAP (Jiang and Sonobe 1993, Smertenko et al 2000)、190 kDa protein (Igarashi et al 2000), 210 kDa protein (Yasuhara et al 2002; tobacco MOR1 ホモログ)を同定した。65 kDa MAPは微小管の束化を引き起こす。蛍光抗体染色では細胞周期を通じて、ほぼすべての微小管構造に存在することが示されており、免疫電顕による観察から表層微小管を架橋していることが示唆された。190 kDa proteinは間期には核内に存在し、分裂期には紡錘体、膈膜形成体に存在する。微小管、アクチン両者に親和性を持っているが、その機能は不明である。210 kDa proteinは微小管の重合を促進する性質を示した。これらの微小管付随タンパク質の構造、機能に関する最近の知見を述べる。
  • GO Wasteneys, DA Collings, R Himmelspach, E Kawamura, MC Rashbrooke, K ...
    p. S34
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    MICROTUBULE ORGANIZATION 1 (MOR1) is a plant member of the TOGp-Dis1-XMAP215 class of microtubule-associated proteins. Single amino acid substitutions in an N-terminal HEAT repeat of this 217 kDa Arabidopsis protein generate short, misaligned cortical microtubules at 29*C. The N-terminal HEAT repeat is strongly conserved in all known eukaryotic homologues of MOR1.
    The mor1-1 and mor1-2 mutations impair growth anisotropy and directional handedness in all organs. Within hours of microtubule disorganization, we detect left-handed twisting and, later, radial swelling. Although tip growth continues, root hairs develop an antler-like appearance, demonstrating that microtubules help to stabilize tip growth. The gemini1 pollen-defective mutants are allelic to MOR1 and a tobacco homologue has recently been isolated from phragmoplasts, demonstrating a role for MOR1 in the cytokinetic apparatus and cytoplasmic polarization. An amino-terminus-specific antibody labels microtubules in all arrays throughout the cell cycle, strongly supporting a ubiquitous association of MOR1 with all microtubule arrays.
  • 和田 正三, 河合 博子, 鐘ヶ江 健
    p. S35
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    ホウライシダにはフィトクロム3(phy3)と呼ばれる光受容体がある。N末端側はフィトクロムと高い相同性を持ち、C末端側は青色光受容体であるフォトトロピンのほぼ全長の相同性の高い配列を持つキメラ光受容体である。フィトクロムの発色団結合部位とフォトトロピンのLOVドメインには、それぞれフィコシアノビリン、FMNが結合することが示され、赤色光、青色光の両波長を吸収しうることが分かった。我々はホウライシダ原糸体における赤色光依存の光屈性および葉緑体運動の欠損した突然変異体を多数選抜し、その原因遺伝子を解析した結果、phy3が欠損していることが分かった。この突然変異体の解析により、phy3は赤色光によって誘導される原糸体及び若い胞子体の光屈性、並びに配偶体と胞子体の赤色光依存の葉緑体運動の光受容体として働いていることが明らかになった。phy3はシロイヌナズナには存在せず、現在までのところシダ以外の植物からの報告はない。そこでシダ植物におけるphy3の分布をシダの系統にそって調べた結果、より進化した広義のウラボシ科のシダにはその存在が確認されたが、カニクサ、ゼンマイなど古い形質をもつシダには確認できなかった。phy3の欠損したホウライシダの幼葉では弱光の白色光に対する光屈性の感受性が野生型に比べて非常に弱いことから、シダの進化に果たしたphy3の役割を考察する。
  • 長谷部 光泰
    p. S36
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    陸上植物は1倍体世代と2倍体世代の両方に多細胞植物体を形成する。系統解析の結果、陸上植物にもっとも近縁なのはシャジクモ藻類であることがあきらかになった。このことから、陸上植物の祖先はシャジクモのように多細胞性1倍体を持ち、2倍体になるのは受精卵だけだった可能性が高い。すなわち、陸上植物の多細胞性2倍体は、陸上植物がシャジクモ藻類と分岐した約10から5億年前以降に新規に獲得されたのである。では、多細胞性2倍体発生の分子機構は多細胞性1倍体のそれとどのような関係があるのだろうか。元来多細胞性1倍体で使っていた遺伝子系をどのくらい改変して多細胞性2倍体を作り上げたのだろうか。(1)被子植物多細胞性2倍体の花器官形成遺伝子であるMADS-box遺伝子が元来は1倍体世代の卵、精子形成に関わっていたこと、(2)シロイヌナズナ全MADS-box遺伝子の2倍体と1倍体における役割と進化、(3)ヒメツリガネゴケ1倍体世代ESTとシロイヌナズナゲノムの比較による1倍体優占植物と2倍体優占植物での遺伝子構成の相違点、(4)シロイヌナズナのシュート形成維持に重要なSHOOT MERISTEMLESS遺伝子機能、オーキシンの極性輸送のシロイヌナズナ2倍体シュートとヒメツリガネゴケ1倍体シュートでの違いから植物の多細胞性2倍体の進化がどのようなゲノムの変化とそれに伴う発生様式の変化によって起きたかを議論する。
  • 桑原 明日香, 長田 敏行
    p. S37
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    葉形が、葉原基の成熟過程の中でいつ、どのように決定されるかを解明するのは重要な問題であり、それには葉形が変化する条件での解析が必須である。水生植物の異型葉は水没により同一個体で可逆的な葉形変化が起こるため、この目的に適している。アカバナ科のLudwigia arcuataを陸生から水没へ移すと、水没後新たに生じた新生葉は典型的な水中葉の形態を示すが、水没処理前から存在していた成熟途上の葉原基は水没条件下で成熟して気中葉と水中葉の中間体の形態を示した。形態学的には、この移行的な葉は先端は気中葉の性質、基部は水中葉の性質というモザイク状の性質を持っていた。この現象から、成熟途上の葉原基の先端部では気中葉に分化するという運命が既に決定されていたが、基部ではその運命がまだ決定されていない状態であり、水没の感知後に分化が決定されるというスキームが考えられる。つまり、一枚の葉原基の中には分化運命が既に決定された領域と、まだ決定されていない未分化な領域があり、未分化な領域は可塑性を持っていると言える。ごく若い葉原基では気中葉と水中葉の形態的な差がないことを考えると、異型葉では葉形は葉原基形成後、葉の先端から順に基部へ向かって決定されていくと言える。L. arcuataの葉形変化は横軸方向に配列する細胞数の変化によるものであり、それはエチレンとABAの相互作用により制御されることを踏まえ、可塑性の実体について議論したい。
  • 塚谷 裕一
    p. S38
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
     種子植物の形の多様性の多くは、葉形態の多様性に起因している。近年、シロイヌナズナをモデル系として、葉形態の遺伝制御系が明らかになってきた結果、葉形態の多様性の遺伝的背景を解明する地盤が整いつつある。例えば葉の長さや幅、葉柄の有無や単葉・複葉の違い等を制御する遺伝子は、すでに単離されている。私たちが単離したROT3, AN, AN3 などはその実例である。
     ところで野生植物の多様性に詳しい研究者の間では、シロイヌナズナだけを解析しても、種子植物の形態の多様性を理解するには不十分だ、と思われてきた。しかし、奇妙な形態形成を示す種の葉を解析してみても、本質的な発生プログラムは意外にシロイヌナズナと変わらないようである。例えばイワタバコ科の中には、葉ともシュートともつかない器官、phyllomorphを形成する種があるが、その発生プログラムは、シロイヌナズナで知られているシュート形成プログラムと、葉原基発生プログラムとの組み合わせとして理解できる。しかもシロイヌナズナから、phyllomorphと似た特徴を数多く示す変異体bopが単離されてきた(Ha et al. 2003)。本シンポジウムでは、これら研究の現状(Tsukaya 2002)を背景として、葉の形態の多様性をシロイヌナズナ研究からどのように解明できるか、今後の展望を議論してみたい。
    Ha et al. (2003). Development 130: 161
    Tsukaya (2002). http://www.aspb.org/downloads/arabidopsis/tsukaya.pdf
  • 荒木 崇
    p. S39
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    PEBP/RKIP族の蛋白質は真核生物に広く存在する蛋白質である。哺乳動物から、まず、フォスファチジルエタノールアミン結合蛋白質(PEBP)として報告され、その後、海馬の神経ペプチドHCNPの前駆体蛋白質、Raf-1キナーゼ阻害蛋白質(RKIP)、トロンビン(セリンプロテアーゼ)の阻害蛋白質がPEBPと同一の蛋白質であることが明らかになった。高等植物では、成長相転換に関わると考えられるキンギョソウのCEN、シロイヌナズナのTFL1とFT、トマトのSPが早くから知られていた。これまでに、哺乳動物2種のPEBPとCENがよく似た立体構造をもつことが明らかになっている。このことは、この族の蛋白質が共通した生化学的機能をもつことを示唆するが、その機能の実体には不明の部分が多い。ことに植物の蛋白質については生化学的な機能に関する報告がない。PEBP/RKIP族の蛋白質は、いずれの種においても複数の分子種からなる小さなファミリーを形成する。シロイヌナズナには、既出のTFL1、FTのほかに、TSF(FTと高い相同性をもつ)、ATC(TFL1と高い相同性をもつ)、BFT、MFTを含む6種が存在する。このうち、TFL1、FT、TSF、ATCについては、機能喪失変異株・過剰発現株が得られており、同族蛋白質・遺伝子間の役割分化に関する興味深い事例を提供している。この点を中心に話題提供をおこないたい。
  • 島本 功, 石川 亮, 阿部 誠, 玉置 祥二郎, 早間 良輔, 井澤 毅, 横井 修司
    p. S40
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    日長による開花の制御の分子生物学的研究は、主に長日植物のシロイヌナズナを用いて行われている。シロイヌナズナにおいては、開花時期に変異を持つ突然変異とその原因遺伝子の単離により、概日時計と、その下流で機能する開花誘導に関与する遺伝子群が開花制御の中心的な役割を担っていることが最近明らかになってきている。しかし、概日時計の実体や、概日時計による花成に関与する遺伝子の発現制御、あるいは光による影響については、まだあまり分かっていない。一方、短日植物においては、長年の生理学的な研究の蓄積は多いが、日長による開花制御に関する分子生物学的知見はまだ少ない。
    我々のグループは最近、イネのGI相同遺伝子をディファレンシャルディスプレイ法により単離した。さらに、このGI相同遺伝子をイネで過剰発現させたところ、短日および長日いずれの条件下でも開花が遅くなることを見いだした。さらに、これらの植物体ではイネFT相同遺伝子の発現が強く抑制されており、一方CO相同遺伝子の発現は上昇していた。このことから、短日植物イネにおいては、GIおよびCO遺伝子の発現制御は長日植物シロイヌナズナと同じであるが、COによるFTの制御がシロイヌナズナとは逆に働いており、長日条件下でFTの発現を抑制することが示された。本シンポジウムではこうした結果に基づいた考察を行う予定である。
  • Nicholas DICKINSON
    p. S41
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    The aims of this presentation are (i) to investigate the opportunity to manipulate metal mobility and enhance the natural attenuation of organic pollutants using plants and, (ii) to evaluate progress made in Europe towards development of methodologies for cost-effective in situ reclamation of contaminated soils and sediments. Field experiments and supporting laboratory studies will be described comparing two approaches: exploiting either the extraordinary uptake characteristics of hyperaccumulator plants, or else using fast-growing biomass plants with lesser (but enhanced) uptake ability. Soil metal profiles and bioavailability of metals are quantified to evaluate the potential for either removal or stabilisation using the two approaches. Biotechnological options are also briefly considered. Ecosystem models, showing mass balance and fluxes of the contaminants under different management scenarios are considered. Whilst short-term experiments have provided encouraging results, the emphasis in this paper is given to the question of the longer*term effectiveness of phytoremediation.
  • Yongming Luo
    p. S42
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Recently much interest has been increasingly paid to bioremediation technologies for polluted land and waters in China. Phytoremediation by using native hyperaccumulator plants has been particularly focused on as a new and potential green environmental biotechnology. The academic institutions and foundations in China such as The Ministry of Science and Technology of China (MOST), The National Natural Science Foundation of China (NSFC) and The Chinese Academy of Sciences (CAS) have been recently sponsoring the research and practical projects on phytoremediation. It is expecting that more phyto- and/or microbial-remediation programmes in China will be initiated
    Using green natural resources to remedy polluted habitats should be encouraged. Phytoremediation and its hybrid technologies are emerging as a green environmental remediation technology with a huge profitable but heavily competitive market in China. However, phytoremediation of polluted land and water should also be emphasized for sustainable agriculture and environmental and public health.
  • Lee Newman, M.P. Gordon, P. Heilman, A. Muiznieks, M. Sharp, M. Loftfi ...
    p. S43
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    It has been found that plants are capable of dehalogenating and metabolizing various solvents, but the full extend of the potential for this process is still being explored. Poplars have long been utilized due to their high water uptake rates, but the usage of native vegetation is just starting to be explored. Many native plants such as loblolly pine, sycamore and sweet gum may be excellent alternative plants to use in areas where poplar does not thrive and annual plants such as pokeweed and commercial tobacco may be useful for sites where trees would not thrive. Genetic engineering gives the potential of transferring plant genes from high-rate degraders into plants that may not have the same degradation potential, but will prosper in geographic areas where the high-rate degraders would fail. Work is ongoing to transition this technology into the field, starting with controlled field trials.
  • 西山 りゑ, 佐野 浩
    p. S44
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    クラミドモナスは有性生殖する時、雌株由来の葉緑体DNAのみが遺伝する(母性遺伝)。その時、雌株葉緑体DNAのみがシトシンのメチル化を受けることを、私達はメチレーションマッピングとメチルシトシン抗体を用いた間接蛍光抗体法により示した。遊走子(栄養細胞)や雄株の配偶子(生殖細胞)ではほとんどのシトシンがメチル化されない。このことから、葉緑体DNAのメチル化は核のメチル化とは異なり、DNA分解の阻害に働いていることが推測された。この雌特有のメチル化機構を探るためにDNAメチルトランスフェラーゼ (CrMET1)遺伝子を単離しその解析を行った。昆虫細胞系で発現させたCrMET1タンパク質は、de novoメチル化活性を示した。GFP融合タンパク質を用いた実験から、CrMET1は葉緑体に局在することが分かった。CrMET1遺伝子は雌株の配偶子形成時に特異的に発現し、遊走子や雄株の配偶子ではほとんど発現しない。これらの結果から、CrMET1は雌株の配偶子形成時に発現し、葉緑体に移行して葉緑体DNAをメチル化すると考えられた。さらに、メチル化が葉緑体DNAの母性遺伝を引き起こすのかを明らかにするため、CrMET1遺伝子を雄株で強制発現させ、雄株の葉緑体DNAが遺伝するかどうか調べている。以上の実験結果から、葉緑体DNAのメチル化と母性遺伝の関係について考察する。
  • Koji Goto, Kenji Nakahigashi, Shinobu Takada
    p. S45
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    Arabidopsis tfl2 mutants show an early-flowering and several other pleiotropic phenotypes. Molecular cloning of TFL2 shows that it encodes a protein with homology to HP1, which functions heterochromatin formation in animals. TFL2 protein localizes subnuclear in spot and TFL2 gene complements yeast swi6- mutant. These results suggest that TFL2 may function as HP1 in Arabidopsis. Global expression analyses using microarray, however, did not show the activation of genes in centromeric region nor in heterochromatic knob. Unexpectedly, we found the upregulation of several euchromatin genes; flowering gene, FT and floral homeotic genes, APETALA3, PISTILLATA, AGAMOUS, and SEPALLATA3. Ectopic expression of these genes are linked to the tfl2 phenotype and these genes regulate the critical aspects of Arabidopsis development. Our results demonstrate that TFL2 involves in the repression of specific euchromatin genes important for plant development rather than heterochromatin gene silencing in Arabidopsis.
  • 賀屋 秀隆, 李 鐘煥, 白 靜熹, 久保 知大, 加藤 友彦, 田畑 哲之, 白野 由美子, 林 浩昭, 柴田 大輔, 関 原明, 小林 ...
    p. S46
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    細胞分裂時、DNAは忠実に複製され親細胞から娘細胞に伝えられる。同時にDNAとヒストンをコアとするクロマチンの構造情報も複製され娘細胞に伝えられる。近年、個体発生はDNAの配列情報だけで制御されるのではなく、エピジェネティックなクロマチンの修飾状態とも密接に関連していると考えられるようになった。生化学的解析よりASF1とCAF-1は、DNA複製依存的ヌクレオソーム形成にかかわるヒストン結合因子として同定・解析されている。しかし、これら因子群の生体内における機能、特に多細胞生物の器官・組織形成における機能解析は始まったばかりである。
    今回、シロイヌナズナ変異体の遺伝学的解析を通じて、植物個体内におけるASF1の機能を解析したので報告する。シロイヌナズナには2つのASF1 ホモログ遺伝子が存在する。それぞれのT-DNA 挿入変異体を単離し解析したところ、表現型は野生型によく似ていた(昨年度本大会報告)。ところが、二重突然変異体では、葉の鋸歯化、側根の減少、RAMの細胞配列の乱れなどが観察された。これらの表現型は、ASF1遺伝子がSAMおよびRAMの構造や機能に関わることを示唆するものである。また、CAF-1の機能欠損変異体であるfas突然変異体との表現型の共通性も認められた。このことは、CAF-1とASF1がin vitroにおいて協調的に機能する事と良く一致している。
    以上の解析結果をもとに形態形成におけるヌクレオソーム形成の生物学的意義について討論したい。
  • 土生 芳樹
    p. S47
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのmom1変異体では、転写型ジーンサイレンシングを受けている外来性多コピー導入遺伝子やセントロメア近傍に存在する反復配列からの転写活性化が見られるが、ddm1met1変異体とは異なり、ゲノム全体のDNAメチレーションの低下は見られず、形態的異常も観察されない。しかし、マイクロアレイを用いた発現解析の結果から、機能的なタンパク質をコードしている複数の内在性遺伝子領域由来の転写産物がmom1変異体で過剰に蓄積していることが示された。これらの中には植物体の正常な生長に必須の遺伝子も含まれており、現在これらの遺伝子の一つに関してその遺伝子領域のDNAメチレーションの状態や転写産物の解析を進めている。
    MOM1遺伝子がコードする約220kDの核タンパク質は酵母や動物のSWI2/SNF2型クロマチンリモデリングタンパク質のATPase領域と低い相同性を示すが、構造的にそれ自体がクロマチンリモデリング活性を持っているとは考えにくい。最近発表されたイネゲノム配列の解析結果から、イネにはMOM1様タンパク質をコードする2つの遺伝子が存在することが示された。2つのイネMOM1様タンパク質にはシロイヌナズナのMOM1には見られないクロモドメインが存在し、この領域を介した他の因子との相互作用によってサイレンシングの維持に関わっている可能性が考えられる。
  • 三木 大介, 森藤 暁, 島本 功
    p. S48
    発行日: 2003/03/27
    公開日: 2004/02/24
    会議録・要旨集 フリー
    RNAiは、導入したdsRNAと相同な mRNAが分解・発現抑制される現象である。現在では様々な生物種において用いられており、ポストゲノムの非常に有効な遺伝子発現抑制の手法である。
     線虫のRNAiではRdRPが、導入したトリガーdsRNAより上流に新たなdsRNAを形成する。この新たなdsRNA領域と相同な配列を持つmRNAもまたRNAiの新たなターゲットとなる。この現象を「二次的なRNAi」という。植物におけるRNAiと類似した現象PTGSにもRdRPは必要であり、二次的なRNAi様の現象も報告されている。よって遺伝子ファミリーに属する遺伝子をターゲットにRNAiを起こすと、二次的なRNAiにより遺伝子ファミリーすべての遺伝子が影響を受けると推測される。
     我々は耐病性シグナリングなどの重要な生理機能を持つOsRac遺伝子ファミリーを用い、遺伝子ファミリーに対するRNAiについて研究を行った。OsRac遺伝子は低分子量Gタンパク質をコードしており、高く保存されたコーディング領域と、各遺伝子特異的な3' UTRからなる。この特異的な領域をトリガーdsRNAとして発現する形質転換イネでは、ファミリーに属する7遺伝子がそれぞれ特異的に抑制されていた。
     以上より、遺伝子特異的な配列をdsRNAとして発現する形質転換体では、高度に保存された遺伝子ファミリー中の一遺伝子であっても、その遺伝子特異的な抑制が可能であるということが示唆された。
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