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山里 明弘, 岩崎(葉田野) 郁, 松本 雅好, 小川 健一
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0051
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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光合成の二酸化炭素固定反応は、葉緑体ストロマに存在するカルビン回路で行われ、その活性はフェレドキシン-チオレドキシンを介して酸化還元で制御される。これまでに我々は、グルタチオンによる光合成活性の制御機構が存在することを示し、さらに、カルビン回路の葉緑体型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(FBA)のアイソザイムの一つ(FBA1)が、グルタチオン化を受けることを報告した。葉緑体型FBAは四量体(約150kDa)を形成して、カルビン回路において二反応過程を触媒するが、葉緑体型FBAがカルビン回路の活性制御に関与する機構など不明な点が多い。ここでは、葉緑体型FBAについて最新の結果を報告する。シロイヌナズナにはFBA1 (At2g01140)、FBA2 (At2g21330)、FBA3 (At4g38970)という三種類の葉緑体型FBAのアイソザイムが存在するが、様々な植物の葉緑体型FBAのアミノ酸配列の比較から、FBA1型とFBA2/3型の二つのグループに分けられることが明らかになった。一方、シロイヌナズナの葉緑体型FBA複合体を解析した結果、FBA2とFBA3によって形成される四量体にFBA1も組み込まれることが明らかとなった。これらをもとに、葉緑体型FBAヘテロ複合体におけるFBA1の役割について考察する。
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中林 香, 鈴木 雄二, 吉澤 隆一, 前 忠彦, 牧野 周
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0052
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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Rubiscoの小サブユニットをコードする
RBCS遺伝子は核ゲノムにmultigene familyを形成することが知られている。イネにおいては5分子種(
OsRBCS1から
5 )の存在がデータベース上の情報から確認されているが、それらの発現特性は知られていない。そこで、ここでは、器官別に5分子種のmRNA量を調べた。サンプルとして、幼植物期、栄養生長期、生殖生長期の個体における葉身と葉鞘および根、さらに登熟過程にある種子を用いた。Rubisco量が多い葉身では全
RBCS mRNA量も多く、生育ステージの違いによらず
OsRBCS2、
3、
4、
5が主要に蓄積していた。したがって、これらの4分子種が葉身におけるRubiscoの生合成を担っていると考えられた。一方、Rubisco量が少ない他の器官、または検出されない根では、全
RBCS mRNA量も葉身の20%以下と少なかった。主要な分子種は、葉鞘では
OsRBCS3、
4、
5、種子では
OsRBCS3、
4、根ではわずかに
OsRBCS1が蓄積していた。このように、これらの器官では葉身より
RBCS mRNA量が少ないだけでなく、発現する分子種にも違いがあることがわかった。以上のように、イネの
RBCS multigene familyは器官ごとのRubiscoの必要量に応じて、分子種ごとに発現量が異なることがわかった。
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永松 裕章, 河西 宏昭, 泉井 桂
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0053
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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Eleocharis viviparaはカヤツリグサ科の植物で、陸生条件下ではC
4光合成を行ない、水生条件下ではクランツ構造を持たずC
3光合成を行う。この植物はC
4光合成の成立に不可欠な遺伝子やタンパク質を探索するのには恰好の研究材料である。この酵素の性状解析は未だ行われておらず、我々はAgarieら (2002) の情報に従いcDNAをクローニングし、
E. coliを宿主として組換え体PEPC (EvPEPC) を調製した。精製酵素を用いて以下の知見を得た。(1)単子葉植物のC
4型PEPCと同様にグルコース-6-リン酸とグリシンにより活性化され、リンゴ酸とアスパラギン酸により阻害される。(2)昼間にリン酸化され、夜間に脱リン酸化される。そしてリン酸化されるとトウモロコシPEPCと比べるとその程度は弱いが、アスパラギン酸に対する感受性が低下する。(3)これまで調べられたC
4型PEPCよりもPEPに対して10倍小さい
Km値を示す。
C
4型PEPCに特徴的な775番目付近のセリン残基はPEPに対する
Km値に関わる部位であると期待され、この残基をC
3型PEPCのようにアラニンに置換すると
Km値はさらに低くなった。つまり、
Km値は775番目のセリン残基よりも他の残基または領域が関わっていると考えられる。他の部位特異的変異による解析の結果についても報告する。
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辻 敬典, 鈴木 石根, 白岩 善博
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0054
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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円石藻(ハプト植物)は,二次共生により葉緑体を獲得した単細胞藻類である.そのため,四重の葉緑体包膜を持ち,Rubisco遺伝子はL/S両サブユニットが葉緑体ゲノムにコードされているなど,緑色植物とは異なる特徴を有する.我々は,既に円石藻
Emiliania huxleyiがC
3植物型の光合成CO
2固定経路を有するが,同時にβ-carboxylationによりC
4化合物を生成することを示した.さらに,β-carboxylationを触媒するピルビン酸カルボキシラーゼ(PYC)の転写産物が,明条件下で顕著に増加することを示し,光合成時のC
4化合物生成にPYCが関与する可能性を示唆した.本研究では,PYCが光合成時にCO
2固定酵素として機能しているか否かを調べるため,PYC活性の測定と,PYCタンパク質の検出を試みた.その結果,単離葉緑体画分で,低いながらもPYC活性を検出した.次に,
E. huxleyi PYCのリコンビナントタンパク質に対して作製した抗PYC抗体で,PYCタンパク質を検出したところ,明・暗条件で同程度蓄積していた.転写産物の発現パターンを考慮すると,明条件で合成されたPYCタンパク質が暗条件下では分解されずに残っていると推測した. PYCが葉緑体に局在し,光合成時にCO
2固定酵素として機能するとの結果は新規の知見である.
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山野 隆志, 辻川 友紀, 中野 博文, 福澤 秀哉
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0055
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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水生光合成生物であるクラミドモナスは環境中のCO
2濃度が低下すると無機炭素濃縮機構(CCM)を誘導し、低CO
2ストレスに順化する。これまでに
LciB遺伝子がCCM誘導時に強く発現誘導され(Yamano et al., Plant Physiol.2008)、
LciB欠失変異株では無機炭素輸送能が減少する事が報告されているが (Wang and Spalding, PNAS 2006)、膜貫通構造や既知の輸送体と相同性を持たないLCIBタンパク質がどのように無機炭素輸送に関わるのかについては明らかでない。我々は前年会において、LCIBがピレノイド構造の周囲に局在することを報告した。水生光合成生物の葉緑体内に観察されるピレノイドは、Rubiscoが集合した炭酸固定の場であることから、LCIBは無機炭素のRubiscoへの輸送過程に関わると推測されている。本発表では,このLCIBが環境中のCO
2濃度と光に依存して局在が変化することを見出したので報告する。低CO
2条件においてLCIBはピレノイド周囲に局在するが、CCMが抑制される高CO
2条件下や暗黒下では葉緑体内に拡散した。またLCIBは、アミノ酸配列が類似するLCICと
in vivoで相互作用し、分子質量が約350 kDaの高分子複合体を形成した。細胞内局在性からLCIB/LCIC複合体の機能について議論したい。
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佐藤 順通, 大石 拓実, 前田 真一, 小俣 達男, 愛知 真木子
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0056
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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ラン藻は窒素含有量が高く,その獲得と同化に多くのエネルギーを使用している.窒素源の変動に対する遺伝子発現の応答は,ラン藻の環境適応の中でも主要な位置を占めており,窒素の獲得や代謝に関与する数多くの遺伝子が転写制御因子NtcAによって窒素栄養条件に応答して制御される.ラン藻
Synechococcus elongatus PCC 7942では,グループ2シグマ因子として6遺伝子の存在が確認されているが,われわれは,このうちRpoD4が窒素欠乏により誘導されることを見いだした.また,窒素欠乏に応答した
rpoD4の誘導量は,野生株に比べて
ntcA欠失株で半分程度に減少していたため,RpoD4の誘導にはNtcAが一部関与していると判断した.次に,RpoD4の機能を解析するため,欠失株の表現型を調べたところ,フィコビリソームの分解に関与する
nblAの発現量が,
rpoD4変異株では野生株の50%以下に低下していた.その結果,野生株で観察されるような窒素欠乏に応答した細胞の黄化が見られなかった.また窒素栄養に関わらず,細胞分裂関連遺伝子の発現量に異常が見られ,細胞長が野生株に比べて10倍程度長くなった.RpoD4は,窒素応答における役割と,細胞分裂のように恒常的な機能の制御との両面で機能している.
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前田 真一, 小俣 達男
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0057
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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淡水性のラン藻には、
nrtABCD遺伝子群によってコードされ、硝酸イオンおよび亜硝酸イオンに対して高い親和性(
Km値がそれぞれ約1μM)を示すABC型の輸送体が存在する。
Synechococcus elongatusは、この硝酸イオン/亜硝酸イオン輸送体の他に、
Km(NO
2-)値が20μMの亜硝酸イオン能動輸送活性を持つ。我々はこの亜硝酸イオン輸送活性が
cynABD遺伝子群によってコードされているABC型の輸送体に依存していることを見いだした。
cynABD遺伝子群の下流にはシアン酸イオン分解酵素遺伝子
cynSが存在し、CynABD輸送体はシアン酸イオン(NCO
-)を輸送することが予想されていた。実際CynABD輸送体による亜硝酸イオンの輸送活性はシアン酸イオンにより競合的に阻害され、その
Ki(NCO
-)値は0.025μMと算出された。CynABD輸送体は窒素欠乏条件下で強く発現し、その最大輸送活性はシアン酸イオン及び亜硝酸イオンに対しそれぞれ13および12μmol mg
-1Chl h
-1であり、これらの値は
S. elongatusが良好に生育するために必要な窒素量の約30%であった。CynABD輸送体の基質特異性およびその発現様式は、この輸送体の生理的役割が外界の非常に低い濃度のシアン酸イオンを窒素飢餓の細胞に供給することであることを示唆している。
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吉田 圭吾, Bohner Anne, 早川 俊彦, 山谷 知行, von Wiren Nicolaus, 小島 創一
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0058
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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窒素は植物の生産性を規定する最も重要な多量必須元素の一つであり、窒素肥料として尿素態窒素が世界中で最も多く利用される。尿素は、土壌中で極めて安定性の高い尿素分解酵素により分解され、アンモニウムイオンとして植物に吸収される (Marschner 1995) とされてきた。近年、環境中の尿素態窒素が、植物の根より直接植物体内に輸送されることが明らかになってきた。
我々は出芽酵母の尿素輸送担体 (DUR3) のシロイヌナズナにおける相同遺伝子AtDUR3に着目し、その植物個体内における生理機能を明らかとするために、AtDUR3が破壊された変異体の重窒素標識尿素の吸収速度と、植物個体内におけるAtDUR3の分布を解析した。その結果、AtDUR3はシロイヌナズナ根において、窒素欠乏に強く応答して根表層細胞群の細胞膜に誘導的に集積し、高親和型尿素輸送の約90%を担うことを明らかとした。Hem et al., 2007の細胞膜タンパク質の網羅的な解析によれば、AtDUR3の細胞質側に露出するループに存在するチロシン残基とセリン残基はリン酸化による修飾を受ける。我々はAtDUR3に部位特異的変異を導入し、酵母の尿素輸送担体欠損変異株へ形質転換した。様々な濃度の尿素を単一の窒素源として与えて成育させたところ、尿素濃度が低いときに成育に差がみられることが明らかとなった。
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佐々木 直文, 佐藤 直樹
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0059
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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近縁種ゲノムを比較するとゲノムが構造的に安定的な領域(core domain)と流動的な領域(flexible domain)が見いだされる。このうち流動的な領域はゲノムの安定的な構造の間にパッチ状に存在しており、遺伝子の水平移動(HGT)に関連した遺伝子が存在していることが知られている。一方、安定的な領域は遺伝子の並びが比較的保存され、機能的、構造的にゲノムのコアになっていることから、ゲノム再編成の解析に有効であると考えられる。本研究では、進化的に近縁である海洋性シアノバクテリア14種についてゲノム比較を行い、ゲノムの安定的な領域における遺伝子間の距離関係の情報を解析した。その結果、これらの安定的な領域が7つの仮想的な連鎖グループ(VLG)から構成されていることが明らかになった。さらに、これらのVLG間の位置関係を解析した結果、それぞれのVLGが複製開始領域(ori)を基準として決まった位置関係を持っていることが分かった。これらの結果は、ゲノムコア領域がゲノム再編成の情報を持っていることを示唆している。
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宮尾 安藝雄, 大沼 貴子, 高橋 章, 廣近 洋彦
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0060
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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イネの培養細胞から再分化した植物で、様々な表現型の変異、いわゆるソマクローナルバリエーションが観察されることが知られている。これまでに、日本晴培養細胞でレトロトランスポゾン
Tos17が特異的に活性化され転移することを利用して、5万系統の変異系統を作出し、圃場での表現型調査を行ってきた。半数の系統で、何らかの表現型が観察された。この頻度は、
Tos17の転移頻度から予想される頻度よりも多く、
Tos17以外の何らかの因子が存在すると予想された。今回、2系統の再分化系統の後代を、次世代シーケンサーを用いて、それぞれゲノムの5倍相当の塩基配列を解析した。その結果、再分化個体ごとに独立に、多くの点突然変異や挿入・欠失が起こっていることがわかった。これらの塩基配列の変化が培養細胞におけるソマクローナルバリエーションの原因の一つであると考えられる。
また、今回開発した変異検出法は植物のみならず、動物の培養細胞の突然変異解析にも応用できると考えている。また、次世代シーケンサーから得られた塩基配列情報から直接確度の高い変異検出ができるので、マッピング、遺伝子単離、診断等の様々な分野の応用可能である。
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樋口 美栄子, 花田 耕介, 近藤 陽一, 堀井 陽子, 川島 美香, 松井 南
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0061
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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近年、酵母や線虫において、短いコード領域を持つshort open reading frame (sORF)と呼ばれる領域が遺伝子として機能することが報告されている。我々は30-100アミノ酸をコードするsORFが、シロイヌナズナゲノム中に約7,000存在することを報告した。これらのsORFの機能解明を目指し、マイクロアレイを作成しsORFの発現解析を行った。マイクロアレイはアジレントのシステムで作成し、シロイヌナズナで同定されている約26,192の既知遺伝子 (TAIR7)、5,921のsORFを含んだプローブセットで構成されている。ロゼット葉から抽出したRNAを用いて解析した結果、70%の既知遺伝子と56%の遺伝子間転写産物の発現が確認された。一方、約9%のsORFがロゼット葉において発現が確認された。マイクロアレイの結果を確認するため、sORFの全長を増幅するプライマーを用いてRT-PCRを行ったところ、様々な組織(花・さや・根)において発現が見られるものが存在し、一部のsORFは組織特異的な発現パターンを示した。これら発現が確認されたsORFは植物において機能することが期待され、新規の遺伝子群となると思われる。現在、光で発現が制御されるsORFを同定するため光照射時のsORFの発現変化を解析中であり、その結果もあわせて報告する予定である。
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花田 耕介, 松井 章浩, 岡本 昌憲, 関 原明, 豊田 哲郎, 篠崎 一雄
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0062
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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短い遺伝子の中には、植物の生理活性にかかわるホルモン様の機能を持つものが含まれていると知られている。しかし、既知の遺伝子予測プログラムでは、短い遺伝子を同定することが困難である。そこで我々は、ベイズ法を用いて遺伝子の塩基組成をもつsORF(30-100aa)を同定し、自然選択圧の推定とRNAの発現を調べることで遺伝子としての機能性を検証する方法を開発してきた。しかし実際には、ゲノムレベルでの発現解析が行われていない植物種がほとんどである。そこで、本研究では比較ゲノム解析で推定される自然選択圧のみを用いて遺伝子の機能性を検証することを可能とするために、自然選択圧とTiling Arrayから推定されるRNAの転写量の関係を比較した。その結果、シロイヌナズナで同定されたsORFでは、遠い系統の植物種で負の選択圧を受けているほうが、近い系統の植物種で負の選択圧を受けているよりもRNA発現量が高くなることを明らかにした。この結果は、比較ゲノム解析のみでも、効率良く機能性があるsORFの探索が可能であることを示唆していた。この現象を利用し、イネゲノムで新規の短い遺伝子を同定しているため、その結果も報告する。
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Tanaka Tsuyoshi, Koyanagi O. Kanako, Itoh Takeshi
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0063
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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Alternative usage of transcription start sites (TSSs) is one of the key mechanisms to generate gene variation. Here we show diversified evolution of TSSs in Oryza sativa and Arabidopsis thaliana by comprehensive analyses of full-length cDNAs and genome sequences. We determined 45,917 representative TSSs within 23,445 loci of O. sativa and 35,313 TSSs within 16,964 loci of A. thaliana. The nucleotide features around TSSs displayed distinct patterns when the most upstream TSSs were compared to downstream TSSs. In addition, this difference was commonly observed in the two species. Relative entropy analysis revealed that the most upstream TSSs had retained canonical cis-elements, whereas downstream TSSs showed atypical nucleotide features. These results indicate that plant TSSs were generally diversified in downstream regions, which resulted in the development of new gene expression patterns. We discuss the possibility that O. sativa and A. thaliana might have evolved novel TSSs in an independent manner.
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圓山 恭之進, 溝井 順哉, 城所 聡, 高崎 寛則, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
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0064
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
陸上植物は、自立的な移動手段を持たないため、様々な自然環境に瞬時応答して適応するメカニズムを持っている。低温及び乾燥環境下では、多くの遺伝子の発現が誘導され、ストレス耐性に関与すると考えられている。モデル植物であるシロイヌナズナとイネは、全ゲノム配列が完全解読され、多くの完全長cDNAが単離されているため、転写開始点を推定してプロモーター領域を解析することができる。さらに、シロイヌナズナとイネは、44Kのオリゴアレイを用いて、網羅的に遺伝子発現解析を行うことができる。
本研究では、シロイヌナズナとイネにおける低温及び乾燥誘導性遺伝子を同定して、プロモーター領域を比較解析することにより、低温及び乾燥誘導性遺伝子の発現調節に関与すると考えられる特徴的な配列を同定した。具体的な方法は、1. 低温及び乾燥処理したシロイヌナズナとイネ植物体地上部からRNAを抽出して、44Kオリゴアレイを用いて低温及び乾燥誘導性遺伝子を同定した。2. 同定した低温及び乾燥誘導性遺伝子の転写開始点から上流の1000 bp(プロモーター領域)を選抜した。3. 選抜したプロモーター領域と無作為に選抜したプロモーター領域を比較解析して、低温及び乾燥誘導性遺伝子のプロモーター領域に特徴的な配列を同定した。この解析によって選抜された配列は、低温及び乾燥誘導性遺伝子の発現調節に関与する既知のシス配列と新規の配列であった。
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山本 義治, 小保方 潤一
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0065
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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コアプロモーターは転写開始点の-50~+50bpの領域に存在し、基本転写因子により認識され転写が生じる位置や向きを決定する。私達はこれまでシロイヌナズナを用いて、転写開始点の大量同定、ゲノム配列の統計解析を行い新規の植物特異的なコアプロモーター因子を同定してきた。哺乳類では非TATA型プロモーターとしてCpGアイランドを持つタイプが知られているが、植物ではCpG型のプロモーターは存在せず、代わりにGA型がそのニッチを埋めていることを見いだしている。今回はコアプロモーターのタイプと遺伝子機能や構造との関連を解析したのでその結果について報告したい。得られた結果から、コアプロモーターの違いは発現上の違いにとどまらず、遺伝子構造などにも影響を与えていることが示唆された。
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川口 修治, 花田 耕介, 関 原明, 松井 章浩, 篠崎 一雄, 豊田 哲郎
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0066
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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タイリングアレイは、遺伝子をゲノムワイドに解析でき、また各遺伝子の発現を定量的に比較できる。そこでToyoda and Sinozaki は、タイリングアレイによるゲノムワイドな遺伝子構造予測プログラムであるARTADE法を開発した。この手法を基にシロイヌナズナの大量の新規ノンコーディングRNAの同定に成功した。しかし、ARTADEは塩基配列の推移にマルコフモデルを仮定するがプローブ間のタイリングアレイは独立とするため、ノイズを含むプローブによる精度低下を除去できない。また、タイリングアレイデータをそのまま長大な1次元配列データとするため、密集する複数の遺伝子の分離が困難である。これらの問題の克服には、プローブ間の関係性を考慮する必要がある。そこで様々なコンディション下(18種)でのタイリングアレイ実験データ(計55実験)を重ね合わせて多重次元データを構成し、そこから導き出されるプローブ間の相関スコアを基にした遺伝子構造の確率モデルを提案する。提案手法(ARTADE2.0)によりプローブのノイズ問題を克服し、終端予測において前手法を大きく上回る精度を示した。またARTADE2.0における、シロイヌナズナの新規遺伝子発見結果・オルタナティブスプライシング解析についても述べる。
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松井 章浩, 石田 順子, 諸沢 妙子, 神沼 英里, 遠藤 高帆, 岡本 昌憲, 南原 英司, 川嶋 真紀子, 金 鍾明, 望月 芳樹, ...
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0067
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
植物には移動の自由がないため、乾燥・低温・塩などの環境ストレスに対して適応する能力を持っている。私たちは新規RNAの探索・機能解析を目指して、タイリングアレイを用いてシロイヌナズナの全ゲノムトランスクリプトーム解析を行った。
乾燥、低温、塩などのストレスやABA処理したサンプルを用いて発現解析を行い、AGIコードを持つ遺伝子以外に新規の転写単位を7,719個同定した。この内、発現誘導されるものは1,275個、また発現抑制されるものは181個存在した。これらの新規RNAの大半は既知のタンパク質をコードしないものであり、約9割はAGIコード遺伝子の反対鎖にマップされていた。興味深い事に新規転写単位とアンチセンス鎖に存在するAGIコード遺伝子の発現応答性の間に高い相関性が存在する事が明らかになった。更にABA誘導性の
CYP707A1遺伝子領域に存在するアンチセンスRNAについて解析を行い、1)アンチセンスRNAは上流に存在するプロモーターに依存して生成したものでない事、2)アンチセンスRNAの発現にセンスRNAの発現が必要な事、3)アンチセンスRNAの塩基配列がセンスRNAと相補的である事を明らかにした。現在、ストレス誘導性アンチセンスRNAの生成メカニズムと機能の解析を進めている。
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鳥居 英人, 尾堂 順一, 猪口 雅彦
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0068
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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セイタカアワダチソウ(
Solidago altissima L.)は、根及び地下茎においてポリアセチレン化合物の
cis-dehydromatricaria ester(
cis-DME)を生産し、他の植物の生長を抑制するアレロパシー作用を示す。これまでに我々は、セイタカアワダチソウ毛状根を用いて
cis-DME生産について研究を行い、
cis-DME生産が光によって抑制される事を明らかにした。また高等植物におけるFAD2様脂肪酸アセチレン化酵素(ACET)と類似した遺伝子断片
SaFAD2-A及びBをセイタカアワダチソウから単離した。ACETはリノール酸からのアセチレン化合物生合成の初発酵素であるため、
cis-DME生合成に両配列は深く関与していると推測された。そこで今回我々は、セイタカアワダチソウ組織内における両配列の発現量と
cis-DME生産との相関を定量的RT-PCRによって調査した。まず、毛状根培養における経時変化を調査した結果、Aが常時Bの100倍程度高い発現を示し、またAのみ光による若干の発現抑制を示したが、両配列ともに
cis-DME生産の経時変化とは明確な相関を示さなかった。次に、根、茎、葉の器官別に発現量を調査したところ、Aの発現量が
cis-DME生産と同様に地下部に限定されていた。以上の結果及び分子系統樹解析の結果から、
SaFAD2-AがACETであると示唆された。
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佐々木 佳菜子, 山本 浩文, 矢崎 一史
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0069
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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プレニルフラボノイドは様々な生理活性を有し、植物の感染応答以外に医薬及び食品・醸造産業でも注目を集める化合物群となっている。特にイソフラボンのプレニル体には強い抗菌活性をもつものが多く、ファイトアレキシンとしての研究例も多い。これら生理活性に対して、プレニル側鎖の存在が重要であることが多くの例で指摘されており、プレニル化反応はこれら植物二次代謝産物の構造や生理活性の多様性に大きく貢献している。
植物におけるフラボノイドのプレニル化酵素遺伝子は長年未知とされてきたが、当研究室で最近、マメ科のクララ (
Sophora flavescens) 培養細胞から、最初のフラボノイド特異的プレニル化酵素遺伝子を単離した。本酵素 naringenin-8-dimethylallyltransferase (SfN8DT-1) は一部のフラバノンにのみ高い特異性を示すことは昨年度の本大会で報告した。今回は、フラバノン以外のフラボノイドをプレニル化する酵素遺伝子を単離し、本酵素ファミリーの全体像の理解に資することを目的とした。クララ培養細胞ESTデータから、SfN8DT-1の塩基情報を利用して数種類のフラボノイドプレニル化酵素候補遺伝子を単離し、機能解析を行った。今回その中に、イソフラボン特異的プレニル化酵素遺伝子
SfG6DT を見出したので、その酵素機能及び発現特性について報告する。
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政田 さやか, 岡崎 誠司, 寺坂 和祥, 水島 恒弘, 水上 元
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0070
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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高等植物は二次代謝経路の最終段階において、低分子化合物を糖修飾することにより二次代謝産物の構造的多様性を増大させると同時に、代謝物の生理活性にも多様性を付与している。Nucleotide activated sugarから低分子化合物への糖転移反応を触媒する糖転移酵素について、一般に、フェノール性水酸基やカルボキシ基に糖を転移して配糖体を生成する酵素については、それらをコードする遺伝子が多数クローニングされ、酵素機能の解析が活発に進められているが、配糖体の糖鎖に糖を転移して特異的に糖鎖伸長のみを触媒する酵素についての報告は極めて少ない。
我々がニチニチソウよりクローニングした糖転移酵素CaUGT3は、フラボノイド配糖体のglucose糖鎖にβ1,6結合によってもう一分子のglucoseを付加する触媒活性を有しており、フラボノイド代謝経路においてその構造多様性に寄与している可能性が示唆されている。本研究では、糖鎖伸長酵素の基質特異性および触媒機構について鍵となるアミノ酸残基を特定することを目的として、CaUGT3のホモロジーモデルを構築し、ドナー、アクセプター両基質とのドッキングシュミレーションを行った。今後、得られた複合体モデルをもとにsite-directed mutagenesisによる変異酵素を作製する予定であり、その結果も合わせて報告したい。
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小川 剛史, 舟戸 菜々, 村上 由規子, 丹羽 康夫, 清水 正則, 榊原 啓之, 閔 俊哲, 豊岡 利正, 中西 幹育, 小林 裕和
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0071
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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機能性成分は特定の植物種あるいは品種に高濃度に蓄積されているが、それらの前駆体は高等植物に共通の代謝経路より供給される。近年、発光ダイオード (LED) の植物工場への利用が進められているが、各種代謝経路に介在する酵素の遺伝子発現および成分の蓄積に対してLEDの効果に関する情報は乏しい。110-240μmol m
-2s
-1の青色LED (470 nm)、赤色LED (660 nm)、青色LED+赤色LED、および青色LED (パルス光) をシロイヌナズナに照射し、DNAアレイ解析 (Affymetrix GeneChip Arabidopsis ATH1) およびメタボローム解析 (Agilent 6510 Accurate-Mass Q-TOF LC-MS/MS他) を行った。メタボローム解析においては、ブロッコリーおよびレッドキャベツも使用した。その結果、青色LED照射で遺伝子発現が増大する酵素としては、リグナン・フラボノイド類の生合成系に介在するものが顕著であり、ケンフェロール配糖体および複数種のアントシアニンの含量が増大した。一方、赤色LED照射で遺伝子発現が増大する酵素としては、サポニン類の生合成系に介在するものが顕著であった。さらに、カルコン合成酵素遺伝子 (
AtCHS) を強制発現したシロイヌナズナにおいてはケンフェロール配糖体の増大が認められた。
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山本 富夫, 西山 泰孝, 尹 忠銖, 野澤 彰, 戸澤 譲
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0072
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物は様々な芳香族二次代謝化合物を蓄積しており、これらの物質の多くが生理活性を持つことが報告されている。芳香族二次代謝化合物の生合成経路はフェニルプロパノイド経路で合成されたクマル酸を分岐点としてリグニンやフラボノイド等、様々な化合物の生合成へ分岐する。
我々は、外来遺伝子の導入によりシロイヌナズナにおける芳香族二次代謝経路を改変することを目的として研究を行っている。これまでに、光合成細菌由来チロシンアンモニアリアーゼ(TAL)を導入することにより、特定のフェニルプロパノイド化合物やケルセチン配糖体が高蓄積することを見出した。また、シロイヌナズナに通常蓄積しないフラボン型のフラボノイドを蓄積させることを目的としてパセリ由来フラボンシンターゼ(FNS)を導入したところ、通常の条件ではフラボン型フラボノイドの蓄積が見られないものの、基質であるナリンゲニンを培地に添加することで生成物であるアピゲニンの蓄積が見られ、導入した
FNS遺伝子が機能的に発現していることを確認した。
今回、
TAL過剰発現体についてフラボノイドをターゲットとした分析を行い、導入遺伝子の効果について更に詳細に解析した。また、シロイヌナズナにおけるフラボン型フラボノイドの蓄積を実現するために
TAL、
FNS両遺伝子を保持した変異株を取得し、代謝物の分析を行った。
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澤田 有司, 坂田 あかね, 桑原 亜由子, 斉藤 和季, 平井 優美
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0073
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物の多様な代謝産物の多くは、アミノ酸を出発物質として多段階の生合成反応、細胞内および細胞間移行を経て効率的に生合成されると想定されている。近年、transcriptomics databaseを用いた共発現解析で各生合成を特徴的な転写因子による特異的な転写制御が予測可能になった。本研究では、共発現解析で明らかになったシロイヌナズナのメチオニン由来のグルコシノレート (MET-GSL) 生合成を正に制御する転写因子 (
PMG1,
PMG2,
PMG3) およびその制御下遺伝子をモデルとしてこの代謝システムの解明を試みた。
PMG1および
PMG2の二重変異体 (
pmg1pmg2) は、MET-GSL蓄積が完全に消失した。また、
pmg1pmg2のDNA array解析の結果、既知のMET-GSL生合成遺伝子およびその候補遺伝子の発現量が野生型と比較して顕著に減少した。この際、
PMG3も顕著に減少することから、
pmg1pmg2は実質的にはPMG遺伝子のトリプルノックアウトに相当する。さらに、
PMG転写制御下の機能未同定遺伝子 (生合成遺伝子および新規トランスポーター遺伝子) のT-DNA 挿入シロイヌナズナは、いずれも MET-GSL の顕著な減少を示した。すなわち、これらは転写制御遺伝子、生合成遺伝子、トランスポーター遺伝子が解明されたアミノ酸由来化合物の生産の制御モデルである。
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肥塚 崇男, Orlova Irina, Dudareva Natalia, Pichersky Eran
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0074
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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南米原産のペチュニアは、香気成分の研究に広く用いられている。野生種Petunia axillaris subspecies axillarisの香気成分は、主にイソオイゲノール(IG)、オイゲノール(EG)を含むフェニルプロパノイドとベンゼノイドから成る。野生種P. axillarisとP. integrifoliaを交配させて得られた園芸品種P. hybridaは、P. a. subsp. axillarisと同様の香気成分を発散する。我々はP. hybridaにおいてIG合成酵素、EG合成酵素によりコニフェリルアセテートからIG, EGが生成されることを解析してきた。他方、野生種P. a. subsp. parodiiにおいては、IG, EGが生成されず、代わりにジヒドロコニフェリルアセテート(DCA)が蓄積する。本研究では、P. a. subsp. parodiiは正常なEG生成活性を持つものの、IG合成遺伝子に変異があるため、IG生成活性を欠失していることがわかった。その一方で、P. hybrida IG合成遺伝子発現を抑制したRNAiペチュニアでは、IG量が減少したものの、DCAの蓄積はなく、代わりにEG量が増加した。これらの結果は、P. a. subsp. parodiiのDCA生合成経路がP. hybridaに比べ、活性化されていることを示唆している。
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松井 健二, 松木 敦
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0075
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物オキシリピン生成経路はリノレン酸13-ヒドロペルオキシドから生成物特異性の異なるシトクロームP450酵素によって分岐している。みどりの香り関連化合物は脂肪酸ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)が、またジャスモン酸はアレンオキシド合成酵素(AOS)がその分岐点に位置している。みどりの香り関連化合物は植物の病虫害に対する直接防衛と間接防衛に、またジャスモン酸はシグナル物質として病虫害抵抗性や花芽の成熟を担っている。HPL、AOSともに花芽で多く発現し、また機械傷やジャスモン酸処理によって強く誘導される。また、両酵素とも色素体に局在している。共通の基質から分岐する状態で各生成物量がどのように制御されているのかは明らかでない。我々はGUS遺伝子をレポーターとしてHPL、AOS発現の組織特異性について検討した。その結果、花芽でHPLは柱頭、花糸、がく片で強く発現していたがAOSは葯で強く発現していた。HPLの花芽での発現はcoi1では抑制された。葉に機械傷を与えるとHPLは葉の周縁部で、AOSは主脈で強く誘導された。また、ジャスモン酸処理によってもHPLは葉の全体で均一に誘導されたが、AOSは維管束系で強く発現された。こうした結果から、HPLとAOSは発現部位を棲み分けることで基質の競合を避け、最終生成物量を適切に制御していることが示唆された。
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吉田 勝久, 大西 美輪, 深尾 陽一朗, 濱地 康平, 林 文夫, 深城 英弘, 前島 正義, 三村 徹郎
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0076
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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動物細胞の細胞膜には特定の脂質やタンパク質が集合して形成されるマイクロドメイン(脂質ラフト)と呼ばれる構造が存在していることが知られており、マイクロドメインはシグナル伝達や膜輸送などにおいて重要な役割を果たしていることが報告されている。近年、植物細胞においても細胞膜マイクロドメインの存在が示されつつあり、その機能解析が少しずつ進もうとしている。
液胞は植物細胞における最も大きなオルガネラであり、様々な物質の貯蔵や分解などに寄与している。液胞への物質輸送には多様な輸送体タンパク質が関与していることが知られているが、液胞膜上における輸送体の分布は明らかになっていない。我々は液胞膜上の輸送タンパク質の分布と生理機能の関連を明らかにすることを目的に研究を始めた。
シロイヌナズナ培養細胞よりインタクト液胞を単離し、v-ATPaseとv-PPaseの液胞膜上の分布を抗体を用いて解析したところ、v-PPaseが液胞膜全体に分散しているのに対し、v-ATPaseは局所的に偏った分布を示した。液胞膜から界面活性剤不溶膜画分(DRM: Detergent Resistant Membrane)を調整し、そこに含まれるタンパク質のプロテオーム解析を行ったところ、DRMにはv-ATPaseが豊富に含まれていた。液胞膜上にマイクロドメインが存在する可能性とその機能について考察する。
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四十九 俊彰, 飯塚 龍, 松本 秀之, 新井 史人, 魚住 信之
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0077
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
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<研究背景>生物は外環境の変化に対して様々な適応機構を有している。高浸透圧環境では細胞は脱水を起こし、それに対する適応が起こらなければ細胞は死に至る。微生物の高浸透圧ストレス適応は2相性であることが知られている。私たちはラン藻
Synechocystis sp. PCC6803の第1相で機能するKtr系K輸送体を明らかにした。しかし、この適応機構の全容は不明な点が多い。これまでラン藻の高浸透圧ストレス適応機構の研究では細胞の増殖速度・生存率や間接的な細胞容積測定が行れてきた。これらは細胞を集団として捉えるマクロな解析である。本研究ではマイクロ流路を用いて細胞を直接観察する測定系を構築し、ミクロな解析を行った。
<結果・考察>シリコン樹脂で作製したマイクロ流路にグラス上にパタニングした水溶性感光樹脂の囲いを組み合わせ、ラン藻を長時間囲いの中に保持しつつ細胞外溶液を速やかに置換できるマイクロ流路を構築した。
Synechocystis野生株に浸透圧ストレスを与え細胞の収縮・回復を観察した。結果、高浸透圧条件にさらされた直後から細胞の収縮が起こった。その後、すばやい細胞容積の回復とその後の緩やかな回復の2相性の回復が見られた。更にこのマイクロ流路を用いて高浸透圧適応への関与が示されているK輸送体の遺伝子破壊株で同様の観察を行い細胞容積の回復とK輸送体の機能について詳細に検討した。
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中村 諒, 菊山 宗弘
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0078
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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オオシャジクモ
Chara corallina に機械刺激によって受容器電位を発生する。これは伸展活性化(stretch-activated; SA) channelの活性化による。
多くの植物種では機械刺激感受に細胞骨格系の関与が示されている。本研究ではサイトカラシンDとオリザリンで節間細胞を処理したが、共に受容器電位に影響を認めなかった。さらに、液胞をEGTAを含む溶液で置換して作製した液胞膜除去細胞において、正常細胞と同様な受容器電位の発生を観察した。これらから、受容器電位は刺激にともなう原形質膜の変形・伸展によって起こる現象であり、細胞骨格系の関与はないと考えた。さらに我々は、受容器電位の発生は刺激部位に限定されると考えた。しかし、節間細胞の特定部位に与えた機械刺激は細胞の内圧変化を介して細胞全体に伝わるはずである。そこで、受容器電位が刺激部位に限定されるか否かを調べた。
予想に反して、非刺激部位においても時間遅れ無しに膜電位応答が見られ、それぞれの部位での電位応答の最大値は、非刺激部位の方で有意に大きかった。さらに、応答のパターンにも有意な差が見られた。
これらのことからシャジクモ節間細胞の受容器電位は、機械刺激による細胞内圧の上昇により原形質膜が細胞全体で伸展するために起こっていることを示唆した。
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山中 拓哉, 瀧口 彬子, 中野 正貴, 三木 悠意, 林 晃之, 飯田 秀利, 来須 孝光, 朽津 和幸
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0079
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物が機械刺激を感知し応答する過程で、Ca
2+動員の関与が想定されている。しかしその分子機構は殆ど不明である。シロイヌナズナにおいて同定された細胞膜貫通型膜タンパク質Mca1とMca2は機械刺激受容に関与すると考えられている。Mca (
mid1-
complementing
activity)ファミリーは広範な植物種に存在する。我々はタバコBY-2細胞で発現している2種の
Mca遺伝子を単離した。NtMca1/2-GFP融合タンパク質発現BY-2細胞のGFP蛍光は、細胞表層に観察され、液胞膜マーカー染色像と一致しなかったことから、NtMca1/2は主に細胞膜に局在することが示唆された。また酵母において機械刺激受容に関与すると考えられる遺伝子の欠損株(
mid1欠損株)に
NtMCA1/2を導入したところ、その致死性を部分的に相補したことから、NtMca1/2が酵母において細胞外からのCa
2+の取込みに関与することが示唆された。次に
NtMCA1/2過剰発現形質転換株を作出し、培地中のCa
2+濃度の細胞増殖速度への影響を比較解析した。その結果、低濃度のCa
2+を含む培地における野生株の細胞増殖能の低下は、これらの過剰発現株では緩和されていた。
45Ca
2+の取込み実験の結果も合わせて、NtMca1/2が細胞外から細胞内へのCa
2+の取込みに関与する可能性や、その生理機能について議論する。
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Ardie Sintho Wahyuning, Xie Lina, Takahashi Ryuichi, Liu Shenkui, Taka ...
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0080
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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Puccinellia tenuiflora (alkali grass) is a halophyte which is suggested as a good contrast to study salt tolerance mechanisms in monocotyledonous crops. It was shown that alkali grass can maintain its shoots potassium content remains unchanged during salt stress suggesting the involvement of ion transporter or channel in regulating ion homeostasis of the plant.
We isolated an HKT type transporter homologue from alkali grass and named it as
PutHKT1. RT-PCR experiment showed that the expression level of
PutHKT1 gene were induced by both salt stress and potassium starvation in roots, but only slightly regulated by those stresses in shoots. To characterize
PutHKT1 functionally,
PutHKT1 cDNA was expressed in yeast strain
9.3. The overall result of functional characterization in yeast suggested that PutHKT1 functions as a high affinity K
+/Na
+ co-transporter. Interestingly, the expression of
PutHKT1 in Arabidopsis under the control
CaMV35S promoter leads to salt sensitivity of the transgenic plants.
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古市 卓也, 佐々木 孝行, 土屋 善幸, 山本 洋子
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0081
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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酸性土壌に於ける化学ストレス物質であるアルミニウムイオン(Al
3+)は、細胞伸長阻害や細胞死の誘発を通じて根の伸長を阻害する。一方、Al
3+耐性植物に於いてAl
3+は根からの有機酸の放出を誘因し、リンゴ酸に代表されるこれら有機酸は錯体の形成によりAl
3+を無毒化する。
これまでの研究に於いて我々は、コムギからAl
3+によって活性化されるリンゴ酸輸送体、ALMT1(Al-activated Malate Transporter 1)を単離同定した。ALMT1は細胞膜に局在する膜蛋白質で根端からのリンゴ酸放出を行う分子であり、Al
3+耐性、酸性土壌耐性に寄与する中心因子であることを明らかにしてきた。本研究では、Al
3+によるALMT1活性化に関与する分子機構を明らかにする目的で、種々の点変異を導入したALMT1をアフリカツメガエル卵毋細胞に発現させた後、二電極膜電位固定法及びパッチクランプ法を用いた電気生理学的機能解析を行った。これらの成果と共にAl
3+によるALMT1活性化の分子機構について報告する。
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中西 洋一, 佐古 建志, 幡谷 恵莉子, 今井 悠, 前島 正義
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0082
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
植物の液胞は、その内部に様々な物質を貯めることで細胞内での物質貯蔵、有害物質隔離、イオン濃度・水素イオン濃度(pH)の調節、空間の充填などの機能を担う。このため、液胞膜には様々な物質の膜輸送システムが備わっている。しかし、それら膜輸送の多くの分子実体はいまだ不明である。
そこで、植物の主要な色素の一つであるアントシアニンに着目した。アントシアニンは液胞に蓄積して、赤色から青色の発色をするが、色調はそれ自体の分子構造の違いだけでなく、色素の電離状態を変化させるpHや、アントシアニンと複合体を形成する低分子化合物(助色素)、発色団に配位する鉄イオンやアルミニウムイオンなどの金属イオン、液胞内のアントシアニン結合タンパク質などの影響を受ける。これを逆の視点で考えると、アントシアニンの色調から液胞内のpHやイオン濃度など液胞内環境を知ることができる。本研究では、アントシアニンを天然の指示薬に見立て、発色に関わる植物の膜輸送体を探索した。
先に我々が開発した膜輸送体遺伝子限定の遺伝子コレクション(Amethyst)を改良し、植物過剰発現用ライブラリを作製した。これを、アントシアニンを蓄積して赤くなるシロイヌナズナの変異株(
pap1-D)を親株として、アグロバクテリウム法で形質転換した。形質転換体集団の中から、色調が変化した植物を選抜した。
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柴坂 三根夫, 堀江 智明, 且原 真木
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0083
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
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高等植物の原形質膜局在型アクアポリンはPIP1とPIP2の2種類に分類できる。これらPIP2とPIP1はアフリカツメガエル卵母細胞の機能発現系で同時に発現させるとそれぞれ単独で発現させた場合より大きな活性を示すことが知られていて、この現象はアクアポリンの活性調節機構の一つである可能性が指摘されている。この活性のメカニズムには、protein trafficとヘテロ四量体形成が関与していると考えられていている。先行してX線構造解析されたPIP2のデータから四量体形成に関わると推定される構造を見ると、隣り合ったモノマー間には20数アミノ酸残基が接着に関与しているが、そのほとんどが膜貫通ドメインにあった。PIPタンパク質の膜貫通ドメインはアミノ酸配列の保存性が非常に高いので、PIPタンパク質分子同士なら1型2型に関わらず複合体形成が可能であると推定された。これは我々の実験でオオムギのPIP1とPIP2のほとんどの組み合わせで共発現による活性化がみられることによって裏づけられた。一方、protein trafficに関しては、N末配列を交換したキメラタンパク質の実験から、N末配列に原形質膜へターゲットするための配列が含まれていることを示す結果が得られたので、現在そのモチーフを確定する解析を行っている。この研究は生研センター基盤研究推進事業によって実施された。
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榊原 里恵, 宮本 恭輔, 玉置 雅紀, 西川 周一, 前島 正義
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0084
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
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シロイヌナズナアクアポリンの1つのグループであるSIPに関して、ERに局在し、3つの分子種は組織特異性をもち、SIP1;1とSIP1;2は水透過能をもつが、SIP2;1は水透過能をもたない等の知見が得られている。しかし輸送基質も含めて生理学的機能は不明である。そこでSIP遺伝子の発現誘導条件を検討することから機能解析を試みた。データベースでは、エチレン作用阻害効果のある硝酸銀で処理するとSIP1;2の発現量は約6倍に増大する。また、エチレン受容体がER膜に局在していることも考慮した。また、人為的なERストレスや他のストレスがSIP遺伝子の発現レベルにどのように影響するかを検討した。
エチレン作用阻害剤効果のある硝酸銀あるいはチオ硫酸銀で処理した植物ではSIP1;2のmRNA量はそれぞれ1.5倍、3倍に増大した。しかし、エチレン前駆体であるACCを与えても顕著な応答見られず、エチレン非感受性変異株あるいはエチレン過剰生産株におけるSIPの転写量は野生株と大きな差が見られない。SIPはエチレン作用に直接リンクしないと推測した。糖鎖付加阻害剤ツニカマイシン処理ではSIP1;2のmRNA量はわずかに減少し、パラコートや銅、亜鉛などに対して各種SIP転写量は不変であった。したがって、SIPは組織特異性があるが構成的であり、銀イオンなど特殊な刺激にのみ応答すると判断した。
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金井 要樹, 圓山 恭之進, 山田 晃嗣, 城所 聡, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
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0085
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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陸上植物は固着性であるため、環境ストレスに直接さらされており、種々の遺伝子発現や代謝を調節して様々な環境に適応していると考えられている。低温ストレス環境下においても、多くの低温誘導性遺伝子が発現していることや糖・アミノ酸の蓄積量が増加していることが報告されている。シロイヌナズナにおいては、低温誘導性転写因子DREB1Aの研究報告が数多くあり、DREB1Aを恒常的に過剰発現させた形質転換植物は、低温ストレスに対する耐性能が向上することから、DREB1Aが制御する下流遺伝子は、低温耐性の獲得において重要な役割を果たしていると考えられた。この下流遺伝子がコードするタンパク質には、LEAタンパク質、解毒酵素、シャペロン、プロテインキナーゼ、転写因子、葉緑体膜タンパク質などが存在する。
我々は、DREB1Aが制御する葉緑体膜タンパク質遺伝子に注目して研究を行った。この遺伝子は、6遺伝子で構成されるファミリーに属している。この遺伝子がコードするタンパク質の組織特異性を、GFP融合タンパク質を作製して調べた結果、常温条件下では孔辺細胞の葉緑体に局在し、低温ストレス条件下では、孔辺細胞に加えて葉肉細胞の葉緑体にも局在していることが明らかになった。さらに、この遺伝子を恒常的に過剰発現させた形質転換植物を作製して、葉緑体の代謝産物をGC/MSで測定して比較解析を行った。
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杉本 貢一, 松井 健二, 小澤 理香, 藏滿 保宏, 田中 寿幸, 中村 和行, Muck Alexander, Kley Jeannet ...
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0086
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物は様々な環境ストレスに応答して量的・質的に異なる揮発性化合物を放散する。このような誘導性揮発性物質(Induced Plant Vlatiles:IPV)放散する生理学的・生態学的意味の解明は、植物の生存戦略における新たな視点を提供すると考えられる。これまで、病・傷・食害をうけた植物の周囲に生育している健全植物が抵抗性を誘導する例が報告されており、IPV介した植物間相互作用であると考えられている。本研究ではハダニ食害を受けたリママメが多量のIPVを放出し、そのIPVに暴露された健全リママメが様々な防衛関連応答を示す現象に注目する。IPVの生理的役割を明らかにするため、揮発性化合物曝露装置を作製した。このシステムを用いてIPVを健全リママメに曝露した結果、曝露植物は防御関連遺伝子の一つであるキチナーゼ遺伝子を誘導した。続いて雌ダニの産卵数を指標としてハダニ食害抵抗性を評価したところ、曝露植物では対照植物と比較して有意な産卵数の低下が観察された。続いて植物のIPV応答を調べるため、タンパク質プロファイルを健全植物と比較したところ、PsbOやATPaseのような光合成関連タンパク質が減少する傾向にあった。これらの結果から、健全リママメは、IPV認識することでハダニ食害応答を模倣し、ハダニ抵抗性を誘導することが示された。今後はIPVによる抵抗誘導性のメカニズムを明らかにする。
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小澤 理香, 植田 浩一, 松田 一彦, 高林 純示
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0087
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物には食害に対して特異的な揮発性物質(Herbivore Induced Plant Volatiles: HIPVs)を放出し、植食者の天敵を誘引することにより、間接的に防衛するものが知られている。我々はこれまでにリママメ葉を用いて、ナミハダニによる食害では、チョウ目幼虫による食害では見られないサリチル酸(SA)の蓄積やSA誘導性の防御遺伝子の発現が認められ、異なるブレンドのHIPVが放出されることを見出した。このナミハダニ被害植物におけるHIPVの特異性は、ハダニ由来の微生物が食害時に植物内に注入されることによるSA経路の活性化に起因すると考えられる。このことを検証するために、卵を殺菌し無菌環境で飼育したハダニ(無菌ハダニ)を調整し、これによる食害リママメと、無菌化処理を行っていないハダニの被害リママメとの比較を行った。その結果、両被害株ではHIPVのパターンが異なり、予想に反して無菌ハダニ被害植物でSA量が多く、それに伴うSA誘導性遺伝子の発現量の促進も認められた。これらの結果から、ハダニ由来の微生物により食害される植物の応答が変化し、HIPVの違いを導いていると考えられた。さらにナミハダニの捕食性天敵が、無菌ハダニ被害株のHIPVに対してより誘引される傾向が観察されることから、ハダニ由来の微生物が、食害された植物の天敵誘引という間接防衛を抑制している可能性が示唆された。
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Nagamangala Kanchiswamy Chidananda, 高橋 宏隆, Maffei Massimo, Boland Wilh ...
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0088
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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カルシウムシグナルは生物の細胞内外の情報伝達に欠かせない因子である。最近の研究により、昆虫―植物間の相互作用においては植物細胞内のカルシウムのダイナミックスが食害応答シグナル伝達系の初期シグナルとして重要な役割を担うことが示唆されつつある。本研究では、昆虫の食害によって活性されるカルシウム依存性タンパク質リン酸化酵素(Calcium-Dependent Protein Kinase: CDPK)とCDPKと相互作用するタンパク質ユビキチン化制御系に着目し、それらのシグナル伝達系を介した遺伝子転写制御機構の解明を試みた。
シロイヌナズナCDPK遺伝子のT-DNA挿入変異体を取得し、ヨトウガ幼虫に被食された変異体における防御遺伝子の発現誘導を解析した。19系統の変異体の中でCPK3とCPK13の変異体は、野生株と比べ、防御遺伝子PDF1.2の発現誘導が著しく抑制されていた。コムギ無細胞タンパク質合成系を用いて作成された植物転写因子ライブラリーから、CDPKによりリン酸化される基質ターゲットに探索した結果、CPK3がERF1などの転写制御因子とタンパク質のユビキチン化に関与する酵素ATL2をリン酸化することを明らかにした。これらの結果より、食害ストレス応答に関与するCDPKは、転写制御因子ならびにユビキチン化酵素に作用し、防御遺伝子の発現を制御することが考察される。
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安部 洋, 下田 武志, 大西 純, 釘宮 聡一, 鳴坂 真理, 瀬尾 茂美, 鳴坂 義弘, 津田 新哉, 小林 正智
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0089
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
昆虫による食害は、干ばつなどの環境要因、病原菌などによって引き起こされる病害と並び、植物の生育を脅かす重大な要因の一つである。近年、植物のストレス応答に植物ホルモンが深く関わっていることが分子レベルで明らかになり、その重要性が再認識されるに至っている。我々はシロイヌナズナとミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)を用いて、植物の虫害応答に植物ホルモンがどのように関わっているのか解析を行なっている。ミカンキイロアザミウマは野菜や果物、そして花等を加害するだけではなくウイルス媒介虫としても知られている。世界的に施設栽培で特に問題となっている難防除害虫であり、その防除法の開発が切望されている。
ミカンキイロアザミウマの食害を受けたシロイヌナズナにおいてはジャスモン酸、エチレン、サリチル酸応答のマーカー遺伝子であるVSP2、PDF1.2、PR1等の発現が顕著に誘導された。しかし実際の抵抗性においてはジャスモン酸が中心的な働きをしており、エチレンはむしろ阻害的に機能していること等をこれまで明らかにしてきた。今回、我々はジャスモン酸によって制御されている防御応答がどのようにミカンキイロアザミウマに対する抵抗性に関わっているのか解析を行ったので報告する。
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東 克也, 朝比奈 雅志, 山崎 貴司, 光田 展隆, 高木 優, 森田 美代, 田坂 昌生, 山口 信次郎, 神谷 勇治, 佐藤 忍
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0090
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
以前の我々の研究から、マイクロナイフによって水平方向に直径の約半分まで切断されたシロイヌナズナの花茎では、主として髄組織の細胞が切断3日後から細胞分裂を開始し、約7日間で組織を癒合させること、また、マイクロアレイ法を用いた解析から、癒合過程で特異的に発現が上昇する遺伝子群が明らかとなった。切断部ではオーキシン応答性遺伝子(IAA)の発現が切断1日後に上昇していたことから、IAA遺伝子の機能を抑制したmIAA形質転換体を用いて同様の解析を行ったところ、切断直後の細胞分裂は通常通り観察されるが、その後の細胞分裂・伸長が生じず、組織癒合の進行に異常が見られた。次に1-アミノシクロプロパンカルボン酸(ACC)合成酵素と、エチレン誘導性と予想されるAP2型転写因子の一種に注目して解析を行なったところ、2つの遺伝子が癒合過程で類似した発現パターンを示すことが明らかになった。エチレンのシグナル伝達欠損変異体では癒合過程に異常が生じ、さらにCRES-T法によりAP2型転写因子の機能を抑制した形質転換体においても、癒合過程の阻害が認められた。また、NAC型転写因子の一種の機能を抑制した個体においても癒合過程に異常が見られた。以上の結果から、花茎切断によって生じたオーキシン・エチレンのシグナリングが、組織癒合過程に関与する転写因子の発現を制御している可能性が示唆された。
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安田 美智子, 丸山 明子, 篠崎 聰, 仲下 英雄
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0091
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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アブシジン酸(ABA)を介する環境ストレス応答とサリチル酸(SA)を介する病害ストレス応答の間には相互抑制的なクロストークが存在し、ホルモン生合成及び下流のシグナル伝達が制御を受けている。本研究では、作用点の異なる2つのSAR誘導化合物(benzisothiazole, BITおよびbenzothiadiazole, BTH)を用いて、このクロストークにおける各々のホルモン応答性遺伝子の制御について詳細に解析した。SARシグナルにより抑制されるABA応答性遺伝子には、その制御がSAR誘導に必須の因子であるNPR1に依存的なものと非依存的なものが存在することが明らかとなった。一方、SAR誘導においてNPR1依存的に発現するWRKY転写因子に対するABAの影響を解析した結果、
WRKY18,
WRKY38,
WRKY53,
WRKY54,
WRKY58および
WRKY70は、サリチル酸シグナルの上流を活性化するBITによる誘導ではABA処理により抑制された。しかし、サリチル酸シグナルの下流を活性化するBTHによる誘導では、
WRKY18と
WRKY53のみがABAにより発現が抑制された。これらの結果から、SAシグナルとABAシグナルのクロストークにおいて各ホルモンの下流で複雑な制御機構が働いていることが示された。
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津田 賢一, 佐藤 昌直, Stoddard Thomas, Glazebrook Jane, 片桐 文章
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0092
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物は病原体のMAMP(microbe-associated molecular patterns)を認識し、防御応答を誘導する。最近我々は、MAMPによって誘導される病原細菌
Pseudomonas syringae pv.
tomato DC3000 (
PstDC3000)に対する抵抗性は、サリチル酸 (SA) シグナリングに部分的に依存していることを報告した。ジャスモン酸 (JA) やエチレン (ET) を介したシグナリングは一般的に、SAシグナリングを抑制し、この病原体に対する抵抗性に負の影響をもつと考えられている。我々は、JA, ET, SAシグナリングを司る遺伝子(
DDE2,
EIN2,
PAD4,
SID2)に変異を持つシロイヌナズナ変異体から四重変異体を作製し、これらのシグナリングが、防御応答シグナルネットワークにおいて協調的に働く可能性を調べた。驚くべきことに、MAMPの一種であるflg22によって誘導される
PstDC3000への抵抗性の80%が、この四重変異体において消失した。この結果は、次のことを示唆している。1)flg22が誘導する抵抗性に寄与するシグナルネットワークの大部分がこれらの4つの遺伝子によって制御される。2)JA/ETシグナリングはMAMPによって誘導される
PstDC3000への抵抗性に正に寄与する。
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嵯峨 寛久, 甲斐 光輔, 露口 恵太郎, 芹生 友希, 鈴木 秀幸, 柴田 大輔, 太田 大策
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0093
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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シロイヌナズナの主要なファイトアレキシンであるカマレキシンの生合成は細菌や菌類などの病原体感染,硝酸銀処理やUV-B照射などの非生物的な刺激といった多様な外的要因によって誘導される.近年,カマレキシン生合成に関与するいくつかのシトクロムP450が同定され,生合成経路が明らかとなってきたが,カマレキシン生合成経路の全貌とその制御機構は未解明である.
本研究では,カマレキシン生合成の制御に関与する新規転写調節因子の探索を目的とし,代謝プロファイリングによってNAC型転写調節因子遺伝子のT-DNA挿入変異系統を対象としてカマレキシン生合成欠損株のスクリーニングを実施した.新規に取得したカマレキシン生合成欠損株においてT-DNA挿入のある転写因子遺伝子は,野生株では病原体感染や硝酸銀等によりその発現が顕著に誘導された.またその転写因子遺伝子のT-DNA挿入変異系統では野生株と比較して硝酸銀処理によるカマレキシン蓄積量が3分の1程度に低下していた.さらに活性酸素の発生を引き起こす除草剤acifluorfen処理によってもカマレキシン蓄積量の減少が認められたことから,この転写調節因子は活性酸素によるカマレキシン生合成の誘導に関与することが示唆された.本発表では,各病原体感染時における転写因子の機能解析やT-DNA挿入変異株でのマイクロアレイ解析の結果についても報告する.
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石橋 奈々子, 上野 宜久, 町田 千代子, 町田 泰則
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0094
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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asymmetric leaves1 (
as1) 変異体および
as2変異体では、葉身に左右非対称に切れ込みが形成され、
as2変異体では葉柄から小葉様の構造が観察される。これら変異体では、葉、特に葉柄が基部先端部軸方向に短くなる。また特定の条件下で生育した場合には棒状やはす状の葉の形成が観察され、葉の向背軸性異常も示す。今回我々は葉の向背軸性の確立にAS1、AS2と遺伝学的に協調して機能する新規因子の同定を目的として、
as1変異体の葉の向背軸性異常を亢進する変異体の探索を行った。スクリーニングの指標として用いた棒状やはす状の葉の形成頻度が最も高かった1系統の解析を進めている。この系統には1遺伝子座に変異が生じていた。この変異を
enhancer of asymmetric leaves1 and asymmetric leaves2 (
eal)と名付け解析を進めている。
eal変異は
as2変異体の葉の向背軸性異常も亢進した。
as1 eal二重変異体および
as2 eal二重変異体では葉の背軸側化因子の転写レベルが上昇していた。今回はEALの細胞内局在を調べた結果を報告しEALの機能と単独変異体および各二重変異体の表現型について考察したい。
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松村 葉子, 安川 沙織, 小島 晶子, 町田 千代子, 町田 泰則
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0095
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物の葉は向背軸、中央側方軸、基部先端部軸の3つの軸に沿って形成される。
ASYMMETRIC LEAVES2 (
AS2) は植物に特異的な保存領域( AS2ドメイン)をもつタンパク質をコードしており、その機能欠損型変異体
as2 は、葉の形成の3つの軸全てに異常が現れる。これまでの研究から、
AS2 は扁平で左右対称な器官の形成に必要であると考えられているが、その分子機能はまだ明らかにされていない。我々は
AS2 と遺伝的相互作用をする因子を得るため、
as2 変異体のエンハンサー及びサプレッサーのスクリーニングを行った。その結果、エンハンサー候補の1つとして
#16 変異体が得られた。
as2 変異体背景の
#16 変異体は、向背軸形成が不全の場合に観察される棒状やはす状の葉を形成した。野生型背景の
#16 変異体では向背軸性の異常は観察されず、
#16 変異体は、
as2 変異体の向背軸形成の異常を亢進すると考えられる。また、
#16 変異体は温度感受性を示し、高温条件下でより重篤な異常を示した。高温条件下の
#16変異体では、葉だけでなく、花序にも異常が観察された。マップベースクローニングにより、
#16変異は、第5染色体下腕に座上することが分かった。
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中川 彩美, 高橋 広夫, 鈴木 辰朗, 佐藤 信雄, 市原 玄崇, 車 炳允, 禹 済泰, 永井 和夫, 小島 晶子, 小林 猛, 町田 ...
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0096
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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グアニン残基を豊富に持つDNA配列の一部では、1価カチオン(K
+, Na
+など)の存在下で4分子のグアニン残基が、G-quartetという平面構造を形成し、それがさらに相互作用により重なった、G-quadruplex(グアニン四重鎖)構造を形成する。染色体のテロメア領域にはグアニン四重鎖配列(TTTAGGGの繰り返し配列)が、グアニン四重鎖構造を形成し、テロメラーゼによるテロメア伸張反応を阻害する。最近、動物や原核生物のゲノムを用いたバイオインフォマティクス的解析により、グアニン四重鎖構造をとりうる配列は、ゲノム上に遍在し、遺伝子の上流や、翻訳開始点に密集していることが明らかとなった。さらに、グアニン四重鎖リガンドを投与すると、グアニン四重鎖配列の下流にある転写因子遺伝子の発現が抑制される。これらの知見から、グアニン四重鎖配列は、生物に普遍的なDNAモチーフの一つと予想される。本研究ではシロイヌナズナにおけるグアニン四重鎖立体構造による遺伝子発現制御を調べることを目的としている。まず、シロイヌナズナゲノムにおけるグアニン四重鎖配列を調べた結果、グアニン四重鎖配列は、約1000カ所(約700遺伝子)存在することがわかった。抽出されたグアニン四重鎖配列の類似性と、グアニン四重鎖安定化リガンドを加えたときの、近傍遺伝子における発現変化についても報告する。
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山田 昌史, エステル マーク
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0097
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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植物ホルモンであるオーキシンは、主に若い葉で合成され、様々な組織に運ばれ、細胞非自律的に機能すると考えられている。近年の研究から、オーキシンの輸送と情報伝達の両方が植物の発生調節に重要である事が明らかになっている。しかし、植物ではオーキン合成に関わる遺伝子が、未だほとんど単離されておらず、オーキシン合成による植物発生調節機構は謎のままである。我々のグループでは、これまでに
TRANSPORT INHIBITOR RESPONSE2 (TIR2)遺伝子が植物で初めてインドール-3-ピルビン酸経路に関わる事を明らかにしている。本学会では
TIR2遺伝子が、異なる植物組織で異なる発生現象を制御する事を報告する。まず、我々は
TIR2遺伝子が根端分裂組織の発生に必要であることを示した。その根端分裂組織周辺では、オーキシンとエチレンによって
TIR2遺伝子の発現が促進される。しかし、主要なオーキシンの合成場所と考えられる若い葉などでは
TIR2遺伝子の発現はオーキシンにより抑制される。一方、高温によりオーキシン合成が促進される場合、
TIR2遺伝子の発現は、オーキシン受容体を介さない経路で誘導される。これらの結果は、様々な植物ホルモンや環境シグナルが、
TIR2遺伝子の発現制御を介してオーキシン量を調節し、様々な植物の発生制御に関わる事を示唆している。
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宮島 俊介, 橋本 隆, 中島 敬二
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0098
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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維管束植物の根、茎などの軸性器官では、中央-周辺部軸に沿って放射状に組織パターンが形成される。シロイヌナズナの根では、中央部に維管束組織と内鞘細胞層からなる中心柱が存在し、それを取り囲むように、内側から内皮と皮層からなる基本組織、表皮、側部根冠が同心円状に形成される。このような放射パターンはまず胚発生過程において形成され、発芽後には根端分裂組織における一定の細胞分裂と細胞分化によって維持される。根の放射パターン形成の分子機構に関しては、これまでに植物特有のGRAS型転写因子であるSHORT-ROOT (SHR)とSCARECROW (SCR)が中心柱-基本組織の間のコミュニケーションを介して内皮と皮層細胞層の形成を制御していることが示されているが、それ以外の知見は乏しい。
本研究では、内皮特異的に発現するSCRが、miRNA165/166の発現制御を介して維管束組織におけるClass III HD-ZIP型転写因子PHABULOSA (PHB)の発現領域を限定化する事を報告する。さらに、内皮に由来するmiR165/166が細胞非自律的に中心柱の細胞分化を制御する機能についても報告する。
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池山 芳史, 廣田 敦子, 加藤 壮英, 田坂 昌生
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0099
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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高等植物の根系構築には胚発生以降の側根形成が重要な役割を果たす。個々の側根形成に関わる因子は数多く解析されてきたが、側根の分布に関わる因子はほとんど解っていない。最近我々が解析した側根基部が形態異常を示す
puchi変異体は野生型より多くの側根を形成する。側根の分布の調節機構を明らかにする目的でこの変異株を用いた研究を行った。
PUCHIの発現パターンを
pPUCHI::GFPを用いて解析したところ、GFPを発現した領域の多くは側根を形成したが、一部は発現したシグナルが消失し側根形成が見られなかった。側根形成にはオーキシンが必要であり、
PUCHIもオーキシンによって発現誘導される。また、
PUCHIは側根形成初期の細胞分裂に先立って発現する。そこで、オーキシン応答性マーカー
DR5::GFPと、細胞周期のG2/M期マーカー
pCycllinB1;1::GFPを用いて、側根開始部位とこれらのマーカーの発現部位を対応して調べた。その結果、
DR5と
pPUCHIでは約50%、
pCyclinB1では約10%の発現領域で側根が形成されずシグナルが消失した。一方、
puchi変異体における
pPUCHI::GFPの発現部位のほとんどは側根を形成した。以上より、オーキシン局在領域のすべてが細胞分裂を開始して側根を形成する訳ではなく、
PUCHIがこの発生の進行過程を負に制御していることが示唆された。
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大塚 蔵嵩, 杉山 宗隆
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0100
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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rrd1、
rrd2、
rid4は、不定根形成を指標に単離したシロイヌナズナ温度感受性変異体の1 グループで、カルスの成長など、基本的な細胞増殖に関わる現象全般に不完全な温度感受性を示す点と、制限温度下で帯化した側根を形成する点に特徴がある。この帯化根形成については、半同調的側根形成誘導系を用いた温度シフト実験から、側根原基形成の初発段階に対する変異の影響によることが示唆されていたが、原基を構成する細胞数などを詳細に調べた結果、原基形成開始時の分裂域の拡大が確認され、これが帯化の原因となっていることが示された。
また、各変異体の責任遺伝子のうち、未同定であった
RRD2は、精密染色体マッピングにより、第1染色体のおよそ54 cMの位置、140 kbの範囲に存在することが判明した。
rrd2変異体ゲノムのこの領域について塩基配列を解析したところ、pentatricopeptide repeat(PPR)タンパク質の一種をコードする遺伝子に、温度依存的な帯化根形成の原因と思われるナンセンス突然変異が見出された。
RID4がやはりPPRタンパク質をコードしており、
RRD1がpoly(A)特異的リボヌクレアーゼ様タンパク質をコードしていることを考え合わせると、この結果はきわめて示唆的である。
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