上咽頭は, 病原微生物の侵入門戸であり, 様々な感染症における起炎菌の感染源 (Carrier focus) である. 健常児においては, 生後3カ月頃より上気道感染症の主な起炎菌である肺炎球菌, インフルエンザ菌, モラクセラ・カタラーリスよりなる上咽頭細菌叢が形成される. これらの細菌は, 鼻咽腔粘膜への定着, 増殖, 消失を繰り返し変化するとともに, 急性中耳炎の発症時には, 健康時と比較して高頻度にコロニーを形成する. 上咽頭において肺炎球菌は, コロニーの形態 (phase) を変化させ, 粘膜表面へ付着し, さらには粘膜内に侵入するとともに, 上咽頭粘膜から嗅神経を介して直接的に脳に侵入する. インフルエンザ菌もまた, 上皮細胞に侵入しアデノイド組織内に生存する. そのため, 上咽頭における細菌の増殖を制御することは, 急性中耳炎をはじめとする上気道感染症の予防に重要となる. しかし, 上咽頭に存在する病原菌が直ちに感染症を引き起こすわけではなく, ウイルスなどの先行感染などにより, 生体の感染防御機能では排除できないほどに細菌が増殖した場合に感染症が引き起こされる. 上咽頭における細菌感染の制御においては, 除菌を目的にするのではなく, 静注抗菌薬により上咽頭細菌叢を宿主の持つ感染防御機能により, 病原菌を排除できるレベルまで菌量を減少させること, すなわち上咽頭細菌叢のリセットが重要となる. また, 上咽頭細菌叢の形成には, 母乳中に含まれる細菌特異的抗体が重要な役割をしており, 母親への免疫により効果的な胎盤移行性抗体および母乳中抗体を誘導する母体免疫による上咽頭細菌叢の制御が期待される.
上咽頭における感染症は, 細菌叢のダイナミズムと局所生体防御による制御のバランスにより成立すると考えられる.
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