海水面上昇により水没する地域が被る社会経済的な影響を定量的に把握する手法の開発を目的とし, 熊本平野を例に土地利用情報と統計資料から単位面積当たりの社会経済的資産価値 (資産の原単位) を把握し, 任意の範囲での影響予測ができる原単位法を開発した。社会経済的資産は地価, 生産性, 居住・就業人口, 償却・在庫資産, 構造物資産の諸量 (円, 人) でまとめ, 原単位は土地利用毎に社会経済的資産の単位面積 (km
2やm
2) 当たりの各量でまとめた。
原単位法を用いた海水面上昇による影響予測を行った結果, 熊本平野では, 1mの海水面上昇によって, 約10km
2の土地が海水面下になることで, 約4,000億円分の土地と約200億円分の構造物が水没し, 1年間に約18億円の生産物が産み出せなくなる。また, 約1万人が居住地を, 約1千人が職場を失い, それに伴って約160億円分の家庭用品や約10億円分の償却資産, 約1億円分の在庫資産が内陸へ移動しなければならなくなることが分かった。
原単位法では, 地理的事象の最小単位である土地利用情報を社会経済的資産価値に読みかえることとなるため, 土地利用を単位とした面積の積算集計により, 社会経済的資産の簡便かつ迅速な評価ができる。この手法は, 地震, 洪水等の自然災害被害状況の把握にも利用できる可能性がある。
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