岩手県八幡平市を流れる松川支流湯ノ沢に建設された治山堰堤後背地 (堰堤上流側; 北緯39°52′21″, 東経140°54′37″付近, 標高約900m) における23年間の地形と植生の変化を調査した。調査方法は, 空中写真判読と地形測量・植生調査による。その結果, 堰堤建設後の調査地内における氾濫原の最大幅が, 堰堤建設前の10mから60mに拡大したことがわかった。また, 堰堤建設前は流路との比高も大きく, 60年生以上の樹木が生育する比較的安定していた場が, 堰堤建設後は生起確率2年程度の降雨に伴う土砂移動の影響を受ける不安定な立地環境に変化したことが明らかとなった。このため, この地形上に堰堤建設前より生育していたダケカンバ, ブナ, アオモリトドマツといった高木には現在, 衰弱・枯死する個体が認められた。一方, 堰堤建設後に新たに形成された地形上には, 比較的寿命の短いヤナギ類の侵入はあるものの, ダケカンバが優占して侵入・成立していた。これらの樹木が現在の環境に適応できれば, 将来的にはダケカンバと比較的寿命の短い樹種で構成される林分が堰堤後背地に成立していくものと予想された。
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