本稿では,長崎県新上五島町を事例に,医療再編による日常生活圏域のケアへの影響を空間的側面から明らかにした。入院や人工透析,訪問看護の機能が集約された結果,上五島病院に対するケア資源の依存度は高まる一方,若松,奈良尾両地区において,人工透析や訪問看護サービスへのアクセシビリティの低下は,周辺性をより高めた。これに対して,社会福祉協議会やNPO法人が,介護タクシーや訪問看護サービスの新規事業を展開することによってアクセスの改善が図られた。
新上五島町では,カトリック信徒が多いという歴史的経緯から,居宅サービスに対する需要は高い。ただし,介護や看護に関わる人員や,周辺地域のボランティアの不足によって,日常生活を送るための周辺性の克服における限界もまた明らかになった。特に,周辺部における見守りによる支援が必要な認知症の独居高齢世帯への対応の困難性が指摘された。
今後,地域包括ケアシステムを考えるにあたって,自治体領域内の地域差のみならず,スケール間の事象の結びつきを考慮に入れた,島内外の資源のネットワーク化とそのマネジメントが求められる。
レブンワースは,カスケード山中に位置する資源依存型の山間小都市であったが,戦後1950年代には,産業基盤の弱化により衰退した。1960年代から市の再活性化が模索され始め,その過程でドイツ(ババリア)風に街並みを改造する「ババリア化」のアイデアが浮かび上った。その後さまざまな紆余曲折を経て,1970年代には建物改装のためのデザイン評価ガイドラインも制定され,2001年のガイドライン厳格化を経て,今日ではダウンタウンの建物のほとんどがババリア的建築要素をもつユニークなエスニックテーマ型のツーリストタウンが実現している。こうした「場所の構築」の文化的本質に関して以下の普遍的な意味が指摘できる。1)レブンワースでは他のテーマ性の強い観光空間と同様,ツーリスト向けの特殊な買い物空間が創出され,ビジュアルに特異な建造環境とともに様々なアイテムが消費されている。2)そこで見られるエスニシティは「発明されたエスニシティ」(Hoelscher, 1998)の性質が強いものであり,そこで謳われた真正性は所与のものではなく交渉され演出されたものであった。3)そこにおけるまちづくりの過程は,「空間的ストレス-シンボル化」モデル(Rowntree and Conkey, 1980)にきわめてよく適合する。