ガーナのコメ消費量は急増しており, 増産が急がれる。政府は農業生産性を高めるべく大規模な灌漑開発を進めてきたが, 投資に比べて効果は限られた。これは灌漑開発のための初期投資に加え, 灌漑システムや圃場の管理問題が存在するためであり, 農民組織の未熟さにもその原因がある。
そこで代替的開発手法として, 内陸小低地における農民参加型谷地田水田開発実証プロジェクト (SP) が進められた。これは, 未利用の小低地に生産性の高い水田を低コストで導入し, 農民へ灌漑や圃場管理の技術移転をはかる試みである。SPによって得られた集水域の開発と管理に関する生態工学的知見から, 内陸小低地コメ開発プロジェクト (IVRDP) がデザインされ, アフリカ開銀より20億円の融資を受けて谷地田水田開発が実行に移された。しかし, 農民にとって新規技術である水田システムの開発と管理をどう普及させるかが問題となる。そこでSP参加の農民グループを中心に農村調査を行った。結果は以下の通りであった。
まず, 農村の現金収入手段であるココア栽培や野菜の灌漑栽培よりも水田稲作が経済的に有利であった。しかし, ココア栽培を志向する農民も多く, これはココア栽培初期の圃場で食糧作物を混作できる利点があるからであり, その労働生産性の高さからである。
次に, 水田開発が土地の価値を高め, 地元民にとって有利に働くという先行研究から地主層である地元農民の方が土地をもたない移入農民より, 水田拡大のインセンティブが大きいと予想されたが, 実際は逆に移入農民の方が大きかった。これは, SPの過程で新規に形成された土地賃貸契約によるものであった。この契約は年間の地代を5割増しとする代わりに単年ではなく長期間の使用権を付与するものである。今後, この新たな農地契約は固定化するとみられる。
最後に, 農民グループ内部の労働と分配の公平性が, 水田開発を促進することが明らかになった。これはグループ内のリーダーシップの存在と, 血縁や育成環境で培われた成員の均質性によるものであった。また, 農民グループには水田の比較的大きな投資に耐えうる経済的基盤が必要であることが分かった。
以上の結果からガーナのコメ増産の展望を述べた。ガーナ農村ではこれまで, 換金作物であるココア圃場の開発に比べ, 食糧生産基盤整備への労働や資本の投下が省みられなかった。水田は未利用であった小低地という土地資本を利用しているが, その普及においても現在未利用の金融資本であるススと呼ばれる民間貯金講の活用が期待できる。2005年に始動したIVRDPからもガーナにおける自立的食糧生産基盤確立に向けての知見が得られるであろう。
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