日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
選択された号の論文の276件中251~276を表示しています
  • 逸見 優一
    p. 251
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    1、 はじめに 南海・東南海地震等今後予測されている到達予測津波高の最悪パターンのシュミュレーションに合致する範囲等の中で、ここ数年の科学的な調査等を踏まえて国の中央防災会議等では、全国の各自治体に対して早急なる防災対応が法律に基づき求められている。岡山県内の国の防災会議により指定された対象海岸域では現在昨年末から年明けにかけて海岸護岸設備等、防潮防災設備等の改修・更新、新規設備設置等の工事施行等が実施されている。津波等の予測される不測の突発的自然現象のもたらすであろう被災に伴っての避難等の防災マニュアル立案、日常生活での避難訓練等の成果と課題等の取り組み結果の活かされ方、その定着等が十分に市民生活に活かされてこその取り組みがのぞまれている。本報告では被災弱者になり、またボランティア活動を自発化して取り組むと予測される高校生の世代にもとめられるスキル・生活力の育成の動向を展望してみたい。2、設定学習項目案から1)新教育課程地歴・公民科「現代社会」による立案学習項目「現代に生きる私達の課題」_丸1_ 地球温暖化を考える_丸2_ 資源エネルギー問題を考える_丸3_ 科学技術の発達と生命の問題_丸4_ 豊かな生活と福祉社会・・・防災学習を通じた課題追究的な学習。_丸5_ 日常生活と宗教や芸術とのかかわり 以上の5項目のテーマの内2たつ程度を選択して学習する。本案では、この内の「_丸4_豊かな生活と福祉社会」についての学習案を検討してみた。 1995年阪神・淡路大震災、1995年オウム真理教地下鉄サリン事件などで、私達は危機管理の大切さを学ぶとともに積極的にボランティアに参加する意義などを学んだ。今後、ますます進展が予測される高齢化社会にむけてボランティア活動の参加も含めた福祉活動の意義などを考えること等が学校・地域社会には差し迫った課題としてもとめられているといえよう。これらを一つの窓口に、今求められる共生社会の入り口へとむけた、従来のコミュニティーの崩壊を乗り越えた、未来的・現代的な、人に優しい防災・防犯にすぐれたコミュニティーの再構築の方向をめぐって議論し、深化させる方向をめざしてゆけるものになれば、今時代的にもとめられる「防災学習」は、内容的には教材的に成功するものになると、評価できよう。また総合的な学習の重要な構成内容にも時代的には十分にすぐれて対応できかつ個の自発性を促し問題・課題追究の精神を深化してゆくことになってゆくと展望できよう。メンタルマップの形成も達成されてゆくことになる。2)本学習項目の授業展開案に先行する学習例等 本学習小項目・小単元については3時間構成で検討した。本部分は2003年度2学期新教育課程実施中の1年次生「地理A」で既に学習し,通学経路ヒヤリマップ作成、岡山県作製防災ハザードマップの読図作業などをすでに実施している。かなりの生徒が前向きに,防災対応に取り組み生活したいという意気込みを示して,意欲的に学習の取り組みができたと答えてくれている。また,AU携帯電話サービスにより日常的に使用できるようになったGIS・GPSのサービス利用も日常的に行っている生徒が多くいる。携帯電話端末の多くにデジカメの搭載もなされて久しい。IT社会の中での高校生などの子どもたちを取り巻く社会状況については時代的に用意された機器の利用・運用スキルつまり,新教育課程の観点別の求める学習者の技能・表現項目に該当しようが、この点ではきわめて多様性に富かつある意味では無限の可能性を内包しているといえる。私たちはこの点のことを深く考え子どもたち学習者をバックアップしながら世代間の連携をうまく行って先行する世代との間での相互学習に務めて来るべき不測の事態に対処したいものである。臨機応変の市民生活の維持のための展開と人間性の確保につとめることに、私たちの尊厳性の学習のすべてはかかっているといえないだろうか。ここに人間をも含むいわゆるガイア世界観の総合的な探求学習の真髄と普遍性が存在しているといえるであろう。3、まとめ 昨今の我が国では、子どもたちを取り囲む安全性の確保の日常生活上での保持が、日増しに困難化してきている。本報告では、日常のリアルタイムな中での個人生活の姿の中に突発的に発生することになってゆくこともありえる実際にありえる危機に遭遇してゆくことになる中で、個々の個々人が、いかに減災を確保してゆくことができるのだろうかという可能性と危機の回避行動対応能を高等学校中心の教育課程の中で、どのようにして学習してゆけるのだろうかという観点から展望した。カリキュラム的安全性の日常生活への組み込みの許容性の現状はやはり日常的に積み重ねてゆく以外にもとめられる答えはないようである。2004年度も見事に子どもたちは、岡山でも答えを模索対処してくれた。
  • 西部 均
    p. 252
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    今日の急激な経済発展の道を驀進する巨大な中国社会を牽引する上海という場所は,世界中の資本主義諸国からますます熱い眼差しを注がれている。それは何も経済ばかりの話ではない。この上海という都市は,かつて世界でも特異な性格をもつ場所として世界史にその名を刻み,欧米人や日本人にとっても因縁深い係わりがあった。その記憶が今,発掘され整理されようとしている。1980年代以降,近代上海を題材とする文芸作品は急激にその数を増し,また近代上海史研究もさまざまな分野から貢献が相次ぐようになった。この近代上海ブームは中国や欧米でもますます加熱し,止まるところを知らない勢いだ。こうした近代上海史研究の中から,近代上海の世界的な特異性と魅力の一端が明かにされた。つまり,上海は他の場所では受容されがたい極端な異質性,つまり東洋と西洋,支配者と抵抗者,富者と貧者,生と死などが同時に包みこまれてしまう。ここでは,世界50国からまた中国各地からやってきた人々のアイデンティティが見事にすれ違い,それでいて彼らを一所に共在させる磁力が働いていた。彼らは,その磁力の赴くままに身を任せながら自らのアイデンティティを浮遊させ,近代上海の限りない可能性を謳歌した反面,無政府状態の闇社会の中に転落していった。しかし,これは都市を都市たらしめている要素であり,その要素の極端な表出の見られた近代上海は,都市を考えるうえで絶好の事例を用意してくれる。
    先行研究において,上海に作られた日本人社会は,常に流民と言える人々からエネルギーを送り続けられて成立した社会だったことが明らかにされている。零細貿易商や「からゆきさん」に代表される彼らは,日本社会で食い詰め,ろくな元でももたずに渡来し,上海で成功することに賭けた人たちである。彼らの存在は,忠孝の封建遺制的な倫理や家父長的規範に堅固に守られた本国社会になじめなかった人たちにとって,絶好のアジールを与える自由さを醸し出すことになった。しかし,先行研究において注目を集めてきたのは,こうした土着派居留民ではなく,上海に関する文芸作品をものし同時代の日本社会に上海の魅力を印象づけた芥川龍之介,村松梢風,横光利一のような,「遊滬派」の人たちである。彼らの表象分析において,「魔都」イメージのなかで日本人にとっての上海像がとらえられることが多かった。「魔都」イメージにおいてエログロナンセンスに酔う本国のモダニストたちに,西洋と東洋の混じり合う異国のエキセントリックな魅力は危険と隣り合わせで,虎穴に入らずんば…,という冒険心をかき立てる。しかし,これは近代上海に対する日本人の係わり方の片面でしかなく,いまだそのバランスの取れた日本人にとっての上海の認識像を描き出せてはいない。そこで,日本人の遺した各種表象の中から当時の日本人の上海への係わり方を探り出していく必要がある。
    近代期に日本人の書き残した上海の表象は,膨大な数に上るが,上海で刊行されたものなどの散逸が激しく,閲覧が容易でないものも多い。しかし,仮にこれらをジャンル分けすれば,以下のようなものが得られる。すなわち,日本国政府機関による調査報告,渡航者向けガイドブック,居留民のエッセイ・ルポルタージュ,作家の文芸作品,紀行文,郷土史などである。この中で,本研究の課題に最も有用なのはガイドブックである。ガイドブックは,上海ものの文芸作品と同じく,種類も多く,版を重ね続け,多くの日本人読者を得たことが分かる。そこで,1900-1930年代のガイドブックの内容を検討すると,以下のようなことが言える。すなわち,中国語の上海ガイドには上海で生活するためのプラグマチックな情報が満載されているのに対し,日本語のガイドには上海で事業をおこすための情報に偏りが見られる。さらに,日本語ガイドには上海の地政学的位置や行政機構について概説が充実している。上海での社交術の紹介もある中国語ガイドには,中国社会に張りめぐらされた人脈ネットワークを推測させるが,日本人にとっての上海はまず自分の足で立たなければならない異国の地であった。しかし,1920年代,1930年代に進むとともに,日本人社会の拡大,組織化が進み,日本人社会の紹介記事が幅を利かすようになる。また,上海自体の発展とともに,上海を楽しもうとするゆとりが示されるようになる。さらに,その他の表象のなかで紹介された中国人の習慣・風俗,中国人社会への関心の広がりが示されるようになった。上海の日本人にとって,中国人は優越感を感じる差別対象であるとともに,同時に欧米人に対して同じ劣等者であるという同種意識の対象でもあり得た。中国人との関係を遮断する傾向にあった欧米人に比べ,日本人の中国社会への関心の広がりは注目すべき事象である。また,ガイドブックと文芸作品との関係も検討すべき課題である。
  • 栗下 勝臣, 目代 邦康, 池田 宏
    p. 253
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    海岸に面した丘陵地における,海水準変動にともなう開析過程を,三次元地形実験を行い,推定した.
  • _-_金融機関機能に注目して_-_
    三條 和博, 高橋 朋一
    p. 254
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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     郵便局のネットワークは、国内におけるその密度の高さから、多くの国民にとって必要不可欠な存在となっている。しかしながら、郵便局の配置(置局配置)状態を利用者の空間分布の観点から実態的なデータを用いて定量的に分析した例は多くない。そこで本研究では、GISを用いることにより置局配置の空間特性を定量的に把握することを試みた。
     郵便局は「郵便」「貯金」「保険」の三事業の窓口として機能しているが、事実上郵便事業は寡占状態である。一方、他の二事業は民業と競合しており、特に貯金事業は民間金融機関との競争関係が明確である。この観点から、郵便局の置局配置と銀行等の民間金融機関の店舗配置との比較分析は意味があると考えられる。この点に注目し、本研究では郵便局の金融機関としての側面から置局配置の空間分布特性について分析していくことにした。また、過疎地や高齢者においては郵便局への依存度が高いという一般的傾向に基づき、本研究では分析対象地域として、過疎地が多く、都道府県別で高齢化率の最も高い島根県とした。なお郵便局は現在、「普通郵便局」「特定郵便局(集配・無集配)」「簡易郵便局」の三種類に区分されているが、利用者にとってはこのような区分は意識されていないと思われるため、分析にあたってはこれらの差異については考慮しないものとした。また、比較対象として分析する民間金融機関は、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、漁業協同組合とした。
     本研究ではまず、郵便局の置局配置の空間分布を民間金融機関各店舗の地理的分布状況と比較した。その結果、置局配置が集中した地域も部分的には認められたが、郵便局は総じて島根県全域にわたって分布していることがわかった。それに対し民間金融機関は松江市、出雲市、浜田市、益田市などの相対的に大きな都市に集中して配置されており、都市域での供給が高いことが理解された一方、内陸部においては空白域も存在していた。
     次に、島根県内の人口の年齢構成データを利用して、各郵便局および民間金融機関店舗からの一定距離圏(バッファ)内をカバーエリアすなわち集客域とみなし、その中に含まれる人口を利用者人口として、バッファの大きさ(半径)とカバーされる人口との関係を、郵便局と民間金融機関店舗について年齢階級別にそれぞれ調べた。バッファ半径を1km、2km、3km、4kmと変化させ、各バッファ半径における年齢階級別カバー率(島根県の人口に占めるバッファ内に分布する人口の割合を、各年齢階級別に示したもの)を求めたところ、郵便局ではバッファ半径3kmで全年齢階級において90%の人口をカバーすることが判明した。これに対し民間金融機関店舗によるカバー率は、いずれのバッファ半径においても郵便局のそれに比べて低いことが明らかとなった。この事実に対しては、民間金融機関では店舗の配置が集中していることが影響していると考えられた。また郵便局では高齢者のカバー率が高かったが、民間金融機関ではその傾向はあまりみられなかった。
     続いて、バッファ半径3kmにおいて郵便局と民間金融機関店舗のバッファエリアの差分をとり、郵便局のみがカバーしている地域(図1)を求めた。その作業過程において、郵便局はほぼ県全域をカバーしているのに対して民間金融機関ではカバーしていない地域が広く存在することがわかった。両者のバッファエリアの、島根県の全体面積に対する割合をそれぞれみると、郵便局のカバーエリアは全県の70% 以上を占めているのに対して、民間金融機関ではその半分にも満たなかった。また郵便局のみがカバーするエリア内の人口が県全体の人口に占める割合を、バッファ半径を変えて比較したところ、半径を2kmとしたときにカバーされる人口が全ての年齢階級で最大となった。このことから、バッファ半径を2kmとしたとき郵便局の優位性が高くなることが推測された。
     最後に、郵便局および民間金融機関店舗の配置と過疎地域の関係を検討したところ、民間金融機関店舗では過疎地域での配置が粗いため、カバーされていないエリアが広範囲に存在することが明らかとなった。それに対し郵便局は過疎地域もよくカバーしていることが確認できた。また過疎地域の年齢構成をみると高齢者層の占める割合が高いことから、郵便局は高齢者の分布によく対応した配置となっていることが判明した。
  • 池田 誠, 野上 道男
    p. 255
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.研究の目的
     本研究の目的は,流域に1つのタンクモデルを置く集中型流出モデルを構築し,レーダーアメダス解析雨量データと多摩川上流域に位置する小河内ダムの実測データ(放流量・水位・蒸発量)を用いてそのモデルを検証することである.モデルの出力である流出量は,小河内ダムの実測データである放流量と水位から計算されるダムへの流入量に等しいとして検証される.また,計算した流入量から流入の多い期間をEventとして3つ選択し,研究対象期間とした.レーダーアメダス解析雨量データによって降水量を高い精度で把握することができ,小河内ダムが実際に測定しているデータ(放流量・水位・蒸発量)を用いることで精度の高い流出解析とその検証を行うことが出来る.
    2.研究対象流域
     本研究での対象流域は,多摩川上流域に位置する小河内ダムより上流域の小河内ダム集水域である.流域面積は,262.9km2で,そのうち奥多摩湖の面積は,245haである.
    3.研究対象期間
    Event1:2002年7月8日_から_7月17日
    Event2:2002年8月16日_から_8月25日
    Event3:2002年9月29日_から_10月8日
    4.使用データ
    (1)小河内ダムデータ(東京都水道局)
      小河内放流量トータル(㎥/h)・ダム水位(mm)・ダム蒸発量(mm)
    (2)レーダーアメダス解析雨量データ(気象庁)
     2002年版CD-ROM
    (3)1Km-DEM(国土地理院)
    5.解析方法
     まず,レーダーアメダス解析雨量データを1kmメッシュのデータに展開し,毎時間ごとに解凍した.小河内ダムデータ(放流量・ダム水位)から流入量を計算し,流入の多い期間をEventとして研究対象期間とした.1km-DEMからC言語プログラミングを用いてDDM図を作成し,小河内ダムより上流域の流域ラベル図を作成した.また,このラベル図から奥多摩湖と流域を分ける処理を行った.奥多摩湖への降水は直接入力となるため,奥多摩湖への降水量だけの集計を行った.次に,流域に1つのタンクモデルを置く,集中型流出モデルを構築した.このタンクモデルの上部には,初期損失を表すタンクを設置しており,降水はまずこの初期損失のタンクへ入る.初期損失のタンクから飽和したものを地表面滴下雨量とし,次のタンクへの入力値とした.モデルは,C言語プログラミングで記述し,各Eventの5日前から実行することにした.モデルには,タンクの深さ,流出率,上部タンクから下部タンクへの流出率の各パラメータがあり,モデルの出力値が最適になるように手動で探索を行った.計算した流入量を検定値,タンクモデルからの出力値と奥多摩湖への降水量を合わせたものをモデル値として適合性の考察を行った.
    6.まとめ
     本研究で構築した集中型流出モデルは,流域流出をある程度良好にシミュレートとすることができた.Event1,Event3では,ピークの後から平水時までのモデル値が多少過大となってしまったが全体的に良くシミュレートすることが出来た.Event2は,ピーク時での差やその前後でのモデル値が過大となってしまい基底流出のみシミュレートすることが出来た.また,各Eventとも基底流出に関しては,良好にシミュレートすることが出来た.
  • 高野 誠二
    p. 256
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに
     近年増加しつつある、駅を中心とした都市整備を行う「駅と街づくり」事業において、都市と鉄道との間の交渉は重要な意味を持つ。両者が共同して事業にあたる必要があるだけでなく、公共の利益を確保する目的を持つ自治体と、自社の利益の確保を目指す鉄道事業者の利害が、鋭く交錯するからである。本研究では、どのような形で都市と鉄道が利害を調整しながら、駅の整備を進めてきたのかを明らかにする。
    2. 都市と鉄道との間の問題の推移と利害の調整
     まず、駅や鉄道の整備をめぐる、都市と鉄道との間の問題の変遷を、新聞記事数の集計から概観した。時代が下るにつれて、踏切の改良や駅裏改札口の設置といった小規模な事業から、鉄道連続立体交差事業や駅ビル建設のように、より高度で複雑な事業へと、関心が推移したことがここから分かる。また近年では、自由通路の設置や駐輪場建設等の問題が増加した。これらの場合では、都市と鉄道の間の立場や費用分担等が、現行の法制度によって十分に規定されておらず、交渉が紛糾しやすいことも、記事の数が多くなった一因である。記事の内容を見ても、たとえば駅前広場整備のように、都市と鉄道の利害を調整する法制度や、設計や費用分担の基準等が充実している事業では、両者の交渉が紛糾することは少なかった。このように、都市と鉄道の利害を法制度が十分に調整できていない問題では、都市と鉄道会社との交渉の成否が、駅やその周辺地区での整備事業の帰趨にとって重要である。そこで、都市と鉄道は具体的にどのような交渉を展開しながら、駅の整備を行ってきたのか、駅を中心とする都市整備事業が多く行われてきた、八王子市を事例にして調査を行った。
    3. 八王子市における都市と鉄道の交渉
     八王子市と国鉄の間で特に大きな問題となったのは、八王子駅において1949年に開設された駅裏改札口や、1983年に完成した自由通路と駅ビルの建設であった。駅裏改札口や自由通路の設置は、都市と鉄道の間での費用分担や設置基準等を定めた法制度が無いだけでなく、これらの建設が収入の増加に直結する訳ではない、鉄道側の姿勢が消極的だったことも大きな障害であった。また、八王子のライバル都市での駅ビル推進運動もあったので、必ずしも八王子駅での駅ビル建設を進める必然性が無い国鉄は、八王子市に対して厳しい条件で臨んでいた。これに対して八王子市は、元国鉄職員の市議会議員を中心とするコネを活用して交渉を進めた。また、市内の住民の反対運動に遭って頓挫しかけていた、国鉄のオイルターミナル建設やパイプライン敷設の計画に対して、八王子市が反対運動を鎮めたり用地を斡旋したりする等、国鉄にとって有利となる条件を示して取引することで、自由通路と駅ビルの建設への国鉄の協力を取り付けることができた。
     京王電鉄の駅をめぐっては、京王八王子駅の地下化にあたり、市が構想を持っていた京王線の延伸計画に対応可能なように、設計の変更を働きかけた他、市内各駅の整備を進める必要があった。また京王グループは、市内のバス路線のほとんどを傘下に収めるので、バスターミナルの整備や、山間部への不採算バス路線の維持についても、市は京王グループの協力を得る必要があった。これらの交渉における鍵の一つが、宅地開発への対応であった。市内での宅地開発や様々な開発事業を進める、多角経営の京王グループの収益にとって、市の態度は重要である。八王子市では、担当官の裁量の幅が大きい、宅地開発要綱の運用において便宜を図ること等の条件の代わりに、駅の整備やバスの運行等に関する市の要求が実現されるように、京王グループと取引を行っていた。
    4. まとめ
     このようにみてみると、都市と鉄道との間に介在する諸問題のうちで、法制度によって調整が行われる範囲外の問題では、両者の間で様々な条件の政治的取引を絡めた交渉を行うことで解決を図らざるを得ず、事業は滞りがちであった。たとえば近年も、法制度による利害の調整が十分に機能していない、駐輪場の設置をめぐる問題が各地で大きくなっているように、両者を調整する法制度の有無が、今後の駅と周辺地区の整備の進展に大きな影響を及ぼすであろう。また、八王子市の場合では、国鉄と京王グループの性格の特徴が、それぞれの市との交渉の中に表出していた。鉄道事業者としての性格を十分に読み解くことで、駅と周辺地区における都市整備事業の進展の様子も、より明らかになると考えられる。
  • 水文地理学の視点から
    小寺 浩二, 住野 静香, 後藤 武正, 清水 裕太, 徳原 智靖
    p. 257
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    様々な分野で「人間と自然の共生」や、「都市域での自然環境の再生」などが議論されているが、「環境デザイン」や「地域マネジメント」などの視点から景観や空間環境の面で論じられることが多く、「水」や「水環境の再生」そのものに対する議論が十分でない。 そこで、「水循環」を中心とした水文地理学的視点から、「都市の水環境再生」という問題を整理し、今後の研究の方向性を探る。
  • 大上 隆史, 須貝 俊彦, 藤原 治
    p. 258
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに

    濃尾平野は内湾に位置するため外的な擾乱を受けにくく,沈降速度と堆積速度が高いレベルでバランスする.そのため,濃尾平野は湿潤変動帯に発達する典型的な臨海平野として地形発達・堆積モデルを研究するのに適したフィールドといえる.一方、本地域では学術的なオールコアボーリングがあまり行われておらず、基準ボーリングとなるオールコアボーリング試料を採取し,それらをもとに既往の研究を検証・補強していくことが求められる.近年はAMSによる高精度14C年代測定が可能となり,絶対年代をいれたダイナミックな堆積シーケンスを明らかにすることも可能になっている.演者らは濃尾平野において沖積層を貫く複数のオールコアボーリングを掘削し14C年代測定および各種分析を行い,相対的海水準変動をはじめとする古環境復元を行っている.2003年には2本のオールコアボーリングを掘削し,これらのコアの分析により濃尾平野の相対的海水準変動曲線は濃尾傾動運動の影響を受け,養老・桑名断層からの距離に応じて変化ことが示唆された(大上ほか,2004).2004年秋には新たに3地点でオールコアボーリングが掘削された.これらのボーリングコアの解析結果をもとに濃尾平野の沖積層のユニット区分などについて考察したのでここに報告する.

    2. 方法
    掘削された5本のボーリングコア(合計長182m)について記載・スケッチを行い,水反応グラウト剤を用いた剥ぎ取りにより詳細な岩相解析を行った.また,レーザー回折散乱式粒度分析装置を用い5cm毎に粒度分析を行った.シルト中の有機物の起源を明らかにするため,ガスクロマトグラフィーを用いて有機炭素・有機窒素含有量を測定した.小型帯磁率計を用いて帯磁率を測定した.さらにプラスチックキューブ試料の湿重量をもとにEnvelope密度を2cm毎に求めた.現地生の二枚貝を中心に,AMSにより合計74試料の14C年代を測定し,CALIB rev4.4(Stuiver et al, 1993)を用いて暦年補正を行った(一部分析途中).

    3. 結果・考察
    結果の一部をFig.2に示す.各コアについて一般的な濃尾平野の地下層序および山口ほか(2003)の分類に倣い,下位よりBG(沖積基底礫層),LS(下部砂層),MM(中部泥層),US(上部砂層),TM・TS(最上部砂泥層)のようにユニット区分・対比を行った.各ユニットの分布パターンはデルタの前進時のシーケンスで説明される.加えて,中部泥層MM中の同時面の形状は堆積体が濃尾傾動運動の影響を受けていることを示唆する.また,下部砂層LSはKZN,KZ-1,KM-1でよく似たサクセッションを示しており,これは後氷期の環境変動に対応する可能性がある.
  • 寺園 淳子
    p. 259
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    はじめに
     雨水から湧水にいたる間の水質は,水_-_地質相互作用等による水質の変化過程(自然過程)と人間活動による直接的・間接的化学物質の負荷による変化過程(人為過程)との二過程によって負荷,形成されると大別されるが,その両過程の負荷特性によって,逆に実水質の時間変動がある程度特徴付けられると考えられる.本研究では,台地の湧水の主要無機イオンの季節変動の全体像について,上記の視点から実態を検討してみた.
    研究対象地域
     研究対象地域は首都圏東部に位置する下総台地の北西部である.地形は台地面とこれを樹枝状に刻む開析谷の沖積低地からなり,両者は急斜面で接する.湧水地点の標高は多様であり,したがって湧水地点と台地面との間の比高も多様である.湧水の涵養域は台地面の高度分布から判断される集水域とほぼ一致していると考えられ,土地利用構成は集水域ごとに大きく異なる.
    方法
     台地上の土地利用が多様かつ空間的に均質になるように湧水地点を採水し(60地点),年間のなかでの季節的な時期が網羅されるように,43地点で計5回採水した(2002年6-8月,2003年10-11月,2003年12月,2004年2-3月,2004年7-9月).採水時に水温・EC・pHとアルカリ度を,実験室でNa+・K+・Ca2+・Mg2+・Cl-・NO3-・SO42-の主要無機イオン濃度およびSiO2濃度を測定した.湧水地点の標高,台地面との比高を,都市計画基本図と地形図から計測した.
    季節変動の大きさと比高との関係
     各地点における季節変動の大きさは,比高が大きくなるにつれて小さくなる(図1).また,比高の増加にともない各無機イオン濃度が基底部において単調に増加する傾向は,採水時期によらず見られ,中~上辺部における季節変化は,底辺部に見られる変動よりも若干大きく見受けられる.
    季節変動と空間的差異の対応関係と大きさの違い
     季節変動係数と実水質の変動係数(空間的差異)の関係(図2)から,季節変動は空間的差異よりも小さい一方,イオンによって異なる負荷特性により特徴付けられているといえる.
    湧水水質の付加率と実水質の季節変動の関係
     比高の一次式である“基底水質線”によって与えられる基底水質を実水質から除して得られた付加水質(人為過程によって与えられると考えられる)が実水質に占める割合を“付加率”と呼ぶ.付加率と実水質の季節変動係数の関係に見られる傾向はイオンによって異なることから,季節変動は人為過程によって特性が変化しやすいと考えられる.
    図1 季節変動係数と比高との関係.
    図2 季節変動係数と空間的変動係数の関係.
  • 安田 正次
    p. 260
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    はじめに 群馬・新潟県境にまたがる山岳地帯は奥只見・奥利根と呼ばれ日本でも有数の豪雪地帯である。この地域に成育する植物はこの積雪の影響を強く受けており、山地上部に湿原が多数存在するなど独特の植生が発達している。 しかし、近年湿原の乾燥化や他地域からのニホンジカの流入などが報告されている。これらは、近年認められている積雪量の減少や気温の上昇によるものではないかと指摘されているものの、具体的な関連性は明らかにされていない。 そこで、この地域における積雪量の減少などが植物へどのような影響を与えているかを明らかにするために、この地域に成育している樹木の年輪の調査を行い、気候の変動が樹木の成長に対し影響を及ぼしているかどうかを検討した。調査方法 調査はこの地域のほぼ中央に位置する平ヶ岳において行った。平ヶ岳頂上部に成育しているハイマツ10本を地際部で切断・採取して持ち帰り、年輪幅の読み取りを行った。 気候資料に関しては、平ヶ岳において長期的に観測された積雪深記録が無いため、近年観測されている平ヶ岳の積雪深記録と近隣の観測記録を比較して、平ヶ岳に積雪の傾向が近いと考えられる近隣の観測点を選び出し、その観測点における観測記録を用いた。結果と考察 平ヶ岳の積雪深変動と近隣の積雪深観測点の積雪深変動を比較検討したところ、平ヶ岳に積雪深変動傾向が近いのは新潟県十日町にある森林総合研究所十日町試験地であった。その十日町試験地の年最大積雪深と気温の変動を図1に示す。 調査によって採集されたハイマツの平均樹齢は63.2で最も高いものは100、最も低いものは40だった。ハイマツの年輪幅の平均値の推移を図2(棒グラフ)に示した。これより、1970年代後半から1980年代終わりにかけて年輪成長が著しい事が判った。山岳地におけるハイマツの成長には気温などが関連している事が知られている。そこで、各月の気温とハイマツの成長量に関して相関をとったところ、5月・6月の気温とある程度相関がある事が判った(図2実線)。しかし、これだけでは1970年代後半から1980年代終わりにかけての急激な成長量の増加を説明する事はできなかった。その他の要因、すなわち、積雪量や根雪日数なども比較検討してみたが、ある程度の関連性はあるものの、この急激な成長量の変動を説明する事はできなかった。このハイマツの急激な成長量増加の要因を明らかにするためには、平ヶ岳におけるハイマツの成育環境とその変化について更に詳しい調査を行う必要があるだろう。
  • 平林 明
    p. 261
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.はじめに 河川水の水質は流域の特性を反映している。流域の特性には、流域内の物質代謝(岩石の風化・溶出、植物による吸収・排出、微生物による分解、人間活動など)が深く関係し、その物質代謝に作用する環境要因(地形、地質、気候、植生、土地利用)が流域内の河川水の水質を規定しているものと考えられる。 現在、住宅地開発や新たな土地開発によって、地域規模での人間活動の拡大が進行しており、河川水を涵養する流域内の土地利用変化が河川水質及び水循環に影響を与えることが予想される。こうした状況から、河川の水収支・物質収支を理解し、空間的に水環境を把握・評価することが必要である。2.研究対象地域と方法 対象地域は、本州中央に位置する長野県の松本盆地東縁である。複合扇状地である松本盆地東縁には松本市街地が立地し、その東側には標高約2000mに達する山々を連ねる筑摩山地が広がる。地方都市である松本市が立地する松本盆地東縁において、現在、土地利用形態の変化などの人間活動の拡大が陸水環境にどのような影響を与えているのか。対象河川は筑摩山地から流れ出る田川とその支流であり、日本で最も流程が長い信濃川の最上流の一つである。田川は奈良井川水系に含まれ、流域面積はおよそ260km2、流域の土地利用構成は、森林・荒地64.6%、建物用地11.3%、農用地10.1%、水田9.6%、その他4.4%となっている。 調査内容は、2004年7月30・31日に田川とその主要な5支流との合流地点と田川が奈良井川に合流する地点の計6地点において河川溶存物質フラックス測定のための流量観測・簡易水質測定・採水を行い、また、2003年9月_から_2004年12月にかけて対象流域内の地下水195地点と河川水83地点において採水を行い、流域内の水質環境を調査した。 現地における水質調査項目は、pH、EC(電気伝導度)、水温(℃)、アルカリ度(pH4.8アルカリ度硫酸滴定法)であり、採水した試水はイオンクロマトグラフ法により主要溶存無機イオン(Na,K, Ca2+, Mg2+, Cl-, NO-, SO2-)濃度を測定した。アルカリ度からはHCO3-濃度を算出した。なお、河川溶存物質フラックスは大森(2002)による高精度測定法を用いて測定した。さらに、細密数値情報(100mメッシュ土地利用,国土交通省発行)の1994年版をGISソフト(TNTmips MicroImages社)を用いて解析し、流域内の土地利用情報を得た。3.結果と考察 大沢川-塩沢川区間では、流量増加率121.5%、EC増加率89.1%であり、Fig.1に示した「溶存物質フラックス増加率から流量増加率を差し引いた値」の増減が小さいことから、性格の似た水塊の流入が考えられる。塩沢川-和泉川区間では、EC増加率115.5%、流量増加率19.4%、Fig.1から、当区間においては河川水の約8割が地下へと伏流し、異質な水塊の流入はほとんどないと考えることができる。和泉川合流後から奈良井川合流までの3区間においての流量増加率は366.9%、282.6%、265%であるが、これらの区間に大きな流入河川はなく、湧水が集まった水路や河床からの湧出水が見られることから浅層地下水の大規模な流入が考えられ、それぞれの区間で性格の異なった地下水が流入している可能性が示唆された。4.参考文献大森博雄(2002):高精度測定法による多摩川水系の水収支・物質収支の動態把握と河川水質形成機構の解明.(財)とうきゅう環境浄化財団研究助成No.227.
  • 佐野 充
    p. 262
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    日本地理学会所属の””によるシンポジウムテーマ:地方都市債背の指針目的:地理学の立場から、地方都市の“まちづくり・都市再生研究グループ”について問題提案と政策提言を行う。
  • -慶州市江東面の事例-
    山元 貴継
    p. 263
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
    調査の背景と目的 1997年の通貨危機がアジア各国に与えた影響は大きく,とくに韓国では,「IMF(経済)危機」と呼ばれる国家的な経済混乱が発生したことが知られる.そして,危機的な状況を克服するため,1998年頃から韓国は,金大中政権のもとで四大構造改革を推進した.その中で,相次ぐ企業統廃合や,雇用の急激な変化といった動きがみられた.しかし,これらの一連の動きが,韓国の都市部以外の地域にどのような影響を与えたのかについての研究は,管見の限り多いとはいえない.
     そこで今回,報告者が1993年度より調査に入っている事例地域を対象として,具体的に「IMF危機」以降となる1997年以後,韓国の非都市地域においていかなる変化がみられたのかを調査した.今回の現地調査は2004年9月に行い,とくに新規立地がみられた企業などの関係者への聞き取りを行った.そのほか,地籍資料を用いて,企業などの立地と土地所有関係との関わりについての検討も加えた.
    対象地域の概要 具体的に対象とした範囲は,韓国東南部・慶尚南道慶州市江東面仁洞Indong里)の南側に相当する.同地区は,慶州市の中心街と同市に隣接する港湾工業都市・浦項Pohang市の中心街とを結ぶ国道7号線の沿線に位置し,とくに1990年代に入り国道バイパスが整備されて以降,交通の面では比較的有利な位置となっていた.しかしながら江東面自体は,1995年の広域行政化の中でようやく慶州市に組み入れられた地域であり,近年まで明確な都市化は進行していなかった.
     北西側に隣接する良洞里が集落保存地区「民俗マウル」に指定され,補助金を受けながらの観光地整備が進められる一方で,仁洞里は,「民俗マウル」指定を受けることはなかった.その代わりに仁洞里は近年,規制を受けずに畜舎や農園の立地が進み,人口も微増をみせてきた.ただし,1997年前後の対象範囲は,仁洞里への入り口となる小さな踏切の周囲に,粗放的な農耕地が展開しているのみであった.しかしながら,今回現地調査を行った2004年の時点では,対象範囲の中でも道路沿いに多くの企業,工場などが建ち並び,「工業団地」のような景観をみせるようになっていた.
    調査の結果から 現地調査では,1997年以降に大きく土地利用が変化した箇所について,その関係者に対する聞き取り調査と,地籍資料をもとに,それらの箇所の土地所有関係の変化についての確認を行った.それらを検討した結果は,以下の通りとなった.
    各企業の立地 1997年の時点で対象範囲に立地していたのは,J社(鉄板加工業),S社(家庭用ビニールシート製造)などの個人経営企業兼工場のほか,慶尚北道酪農畜産共同組合の集荷場(1996年設立)のみであった.その後同組合は隣接地に「牧牛場牛乳ブランド」のための加工工場を立ち上げ,規模を拡大した.ただし,同工場は数年前に,産地直送に押されて営業を停止した.しかし一方で,その周囲には2001から02年とその前後に,H・M社の自動車部品流通センター,H・A社の住宅用パネル配送センター,H・C社の鉄板加工工場,S社の発泡スチロール工場などが次々と立地した.幹線道路から離れるほど,個人経営の企業兼工場が目立つようになる.
    立地の事情 対象範囲において新規に立地した企業に共通した立地の事情としては,IMF危機が間接的に関わっていた.具体的には,IMF危機に伴う企業自体の統廃合や営業所の整理が行われた際に,隣接した中小都市のそれぞれに営業所を置くよりも両都市の中間に拠点を置くことが得策とされた結果,幹線道路に近接する対象範囲への立地が検討されたとのことであった.かつ,慶州市は他市とは異なり,IMF危機を契機とした中小企業誘致策を実施しており,企業立地時の税金が抑えられることも,同市への企業立地を後押ししていた.
    立地と土地所有関係 対象範囲においてこれらの企業の新規立地がみられた箇所は,いずれも共通して,地域外の居住者の所有地や,それ以前から土地所有権が移動を繰り返していた地筆に限定される傾向があった.対象範囲の中でもやや幹線道路から離れた地筆は,範囲内の居住者でかつ氏族集団の構成員による土地所有関係の比較的安定した地筆となっており,こうした地筆には,企業などの新規立地はほとんどみられなかった.
     以上見てきたように,IMF危機に伴い,韓国の非都市地域において,間接的ではあるが企業などの立地が促されるといった変化がもたらされた可能性が示された.ただし,それらの変化は,幹線道路沿いや,強い土地所有関係のみられない範囲に限定されたものであったことも指摘される.IMF危機による影響は長期間にわたって緩やかにもたらされると想定されるため,今後,対象範囲以外の様々な事例地域についても注視していきたい.
  • 阿子島 功
    p. 264
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
    会議録・要旨集 フリー
     ナスカ地上絵の考古学調査にかかわる地形分類を試みた。使用できる地形図・空中写真類は、1:250,000地勢図、1:50,000地形図、一部1:10,000地形図、ペルー空軍1949年撮影1:15,000空中写真(モノクローム)、2002撮影Quick Bird画像(最小分解能0.7m)、地上絵をねらった数多くの斜め空中写真である。
     基図の縮尺にあわせて、3種の縮尺精度の地形分類を例示できる。Quick Bird画像を画像処理して地形分類の指標とすることが、今回の研究の中心であり、さらにこれらをナスカの地上絵の調査にどのように関連させることができるかを述べる。
    〔地形概況1 ペルーの海岸山脈とアンデス山麓台地〕ナスカ台地はリマから約400km南の海岸台地の一部である。海岸台地は、海岸からアンデス山脈の山麓まで約50kmの幅で、海岸付近での高度が500m程の台地となっている。これを分断する河川の沖積低地はあまり幅がないから、“台地がちの海岸平野”である。 さらに海岸側では高度700から1700m程の山脈となっている部分がある。 海岸側から内陸にむかって、山脈・台地を覆って砂丘地が発達している。台地上面は乾燥して裸地となっている。沖積低地にのみ緑が濃い。
    〔地形概況2 ナスカ台地〕ナスカ台地は、その北側をリオ・グランデの支流であるインヘニオ川の谷、南側を同じくリオ・グランデの支流であるナスカ川の谷に縁取られている部分であり、東西幅15から20km、南北の幅が約15km程、高度は山麓の扇頂で約500m、末端で約400m、台地の開析谷の深さは末端で最大100m、扇央では50m程度、みかけは“いわゆる高位段丘”である。 ナスカ台地は、海岸から40から60kmほど内陸側にあり、山麓扇状地起源で、厚さ100m以上の厚い砂礫層に構成される堆積段丘である。北側のパルパ台地の扇頂に連なるパルパ谷上流ではごく粗大な礫層が観察できる。背後山地では4500m前後に氷河地形を残す山地である。
     海岸沙漠の降水量は夏1・2月にあり、0から25mmとされ、ごく乾燥のために、台地上面では、ほとんど植生がない。台地上面を流れる涸れ河のなかに、脈状・点線状に潅木が点在している部分がある。 台地上面は礫原であり、地表下数10cmから数mは暗褐色に風化している。この風化帯を人為的に取りのけると灰白色の未風化の礫・砂が露出することから、その色の違いを利用して線・帯・図像が描かれている(地上絵の主体は線と帯である)。山麓に点在する基盤岩(堆積岩)丘陵の表面も同様に風化部分は暗褐色であり、これを削って地上絵(線・帯・図像)が描かれている。
     低地は間歇流_から_恒常流となっており、氾濫原は緑が濃い。みかけ高位段丘と氾濫原の間に幅狭い段丘面があり、地下水井戸くみ上げもしくは導水によって綿花などの耕地化が図られているが、水路の損傷などにより現在は放棄されている部分がある。ナスカ川の谷底低地にマイマイ井戸と地下水道がナスカ期以降につくられているが、地下水脈の検出には脈状に点在ししている潅木が目印になったのではないであろうか。
    〔地形分類の精度と目的〕
    1) 1:250,000程度の地形分類(地形地域区分)

      //は地形境界が山麓線であることを示す。山地*と丘陵地 // 台地(15×20km)/ 台地縁辺の開析区(幅0.5_から_3km)**//低地(幅0.5_から_4km)
    *山地と台地の付加記号として、大規模吹き上げ砂丘(高度2000m台に及んでいる)を描くことができる。 **台地区は、Congana Majuelosを境として、上面に河川の多い(1)東側区と、河川の少ない(2)西側区の2区分ができる。(1)は山地・丘陵地を後背地としており、(2)は河川が台地上面から発しているためである。地上絵・線の分布密度に明瞭な差が認められ、(2)では地上絵が多いが(1)では少ない。その理由は(1)において地上絵・線が描かれた後に河川の侵食によって消し去られたのではなく、絵や線を描く時点で土地が選ばれていた可能性がある。(2)では風化した地表が広い部分ために地上絵を描くのに適している。
    2) 1:50,000程度の地形分類
    山地斜面と丘陵地斜面の安定斜面と開析谷斜面の2区分(人工衛星画像の色調による2区分である***)// 台地面 (人工衛星画像の色調による3区分が可能/ 台地縁辺の開析谷斜面区(人工衛星画像の色調による2区分***)//沖積低地面
    *** 2区分に〔日陰・山影斜面〕の色調がノイズとなっている。
    3) 1:500程度の地形分類の可能性
      最小分解能0.7mとされ、地上1mのものは図上2mmとなる。台地上面の色調の違い3区分程度をこの精度で図示できると線(帯)・図像と台地上面の河川との切りあい関係を検討できる。しかし情報量が多いため今回は部分的に例示できるに過ぎない。
  • 根本 学, 篠田 雅人
    p. 265
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに
    モンゴルでは近年,夏季の気温上昇と降水量減少がみられ,モンゴルの遊牧を支える草原生態系に与える影響が懸念されるている.発表者らは気候変動が草原生態系に及ぼす影響のみならず,草原生態系の変化が気候に与える影響についても調査を行うために,大気‐植生・土壌相互作用を捉える総合的な観測を開始した.
    植生活動が大気に及ぼすプロセスの一つとして蒸散流がある.現在では,蒸散量を測定する技術は様々なものが利用できるようになり小型化も進んだが,木本植物に対して利用される場合がほとんどで(Hanan, 2004),これまでに草本植物に対する研究例はみあたらない.
    発表者らは,小型の蒸散流測定センサーを用いてモンゴル草原の代表的な多年生草本植物の一つであるStipa kryloviiの蒸散速度の観測を行ない,本研究で新しく定義した地表面放射温度を用いた地表面飽差との関係を調べて,半乾燥気候における草本植生の蒸散抑制効果について明らかにした.

    2. 観測地点・方法
    モンゴルの首都ウランバートルから南西へ約150km離れたBayan-Unjuul村の側に,家畜による採食の影響をフェンスで排除した300m×300mの圃場内にて,気象観測と茎流観測を行なった.気象観測は2004年6月後半に開始し,顕熱・潜熱フラックス(渦相関法),気温,相対湿度,風向,風速,大気圧,放射6要素(短波・長波・PAR 上・下向き),土壌水分,地温鉛直プロファイルなどを連続的に観測を続けている.植生の茎内を通る水分量の測定には,Phytech社製のSF-4Mセンサーを用いた.茎流の観測は2004年7月16日12時_から_7月24日夕方にかけて,Stipa kryloviiの3固体に対して行った.

    3. 解析と結果
    SF-4Mセンサーの出力値は茎流に対して相対的な値であることと,各センサーの出力範囲が異なることから,各センサー別に出力を標準化したものを茎流指数(sapflow index)として解析に用いた. 茎流指数の時系列からは日中において蒸散流の抑制が生じていることが分かる(図省略).この日中の蒸散流抑制引き起こす環境要因として飽差との関係を調べた.但し,本研究では放射地表面温度(地表面からの赤外放射量から推定)の飽和水蒸気量に対する大気(1.5m)の水蒸気圧の差を地表面飽差(VPDS: VPD at surface)と定義して用いた.午前中,日射量の増加とともに茎流は増加し始めるが,地表面飽差が1.5kPaを超えたあたりで茎流の抑制が生じ始める(図1).日中は茎流の抑制が続くが,午後遅く日射が減少し地表面飽差が低下すると茎流は若干増加する.
    午前中の地表面飽差の増大に対して線形の関係となっている茎流指数の値に着目し,この部分のデータに対して線形回帰して求められる傾きが最大気孔コンダクタンスに対応していると仮定した.そこで,この最大気孔コンダクタンス(gv max)に対する各観測時刻の気孔コンダクタンス(gv)の比を気孔コンダクタンス比として計算した(図1のBのデータに対して,gv maxは直線DCの傾き,gvはDBを結ぶ直線の傾きにそれぞれ対応する.).無降水日について気孔コンダクタンス比の平均的な時間変化を見ると,日中には20_から_40%程度まで気孔コンダクタンスの低下が生じていることが分かった(図2,a).
    Stipa krylovii の蒸散流反応に見られた日中の蒸散流低下に対応して,群落レベルの蒸発散量にも日中の抑制が生じている様子が見られた(図2,b).乾燥条件下における草本植生が気孔開閉を通じて大気に影響を及ぼしている可能性が示唆される.
    本研究で新たに構築した手法は,草原植生上での蒸発散量に対する蒸散量を独立して評価する手法として有用と考えられる.

    引用文献
    Hanan Niall 2004. Vegetation Structure, Dynamics and Physiology. In Vegetation, Water, Humans and the Climate, ed. P. Kabat et al. 199-205. Springer-Verlag Berlin Heidelberg New York.
  • 佐藤 壮紀, 須貝 俊彦
    p. 266
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに
     従来にも河床に分布する礫径と河川掃流力との関係を論じた研究は数多くあるが、調査対象が扇状地区間や(Inoue 1992)土石流が卓越する区間に(島津 1991)限られていて、河川の礫径を上流部から下流部まで検討した例はほとんどない。また、礫を流動させる要因の一つである水位を基に丁寧に吟味した例は少数である。そこで本研究では、日本を代表する河川水系である木曽川水系の木曽川、長良川、揖斐川、根尾川を調査対象とし、各河川を上流域から下流域まで追って礫径を計測した。さらに、2002年6月より国土交通省が測定を開始したリアルタイム水位データを使用し、礫径とそれを規定する要因の関係を空間的に大きなスケールで丁寧に論じる。

    2. 方法
    2.1 礫径計測  礫径d (cm)は、河川と平行に測線を張り、一定間隔で礫を抽出する線格子法により26個の礫の中径を計測した。本研究では、中径最大10個の平均値をもって礫径d (cm)を代表させた(図1)。なお、礫径計測地点は47箇所である。
    2.2 礫径計測地点における勾配の算出  国土地理院2万5000分の1地形図と国土交通省木曽川上流河川事務所、美濃建設事務所より入手した河床標高データを基に調査対象河川の縦断面形を作成した(図1)。そして、河川縦断面形を扇頂を境にして上流側と下流側とに分け、それぞれについて、近似曲線を当てはめ、その近似曲線を基に礫径計測地点の上流側500mの平均勾配Iを算出した。
    図1 河川縦断面形と礫径 (矢印は扇頂の位置を示す)
    2.3 水位データと流域面積  水位H (m)は、国土交通省「川の防災情報」の一時間毎の水位データのうち、2002年6月_から_2004年12月の最高水位を使用した。なお、解析の対象とした水位観測所は16箇所である。
     流域面積S (km2)は、水位観測所における流域面積を国土地理院数値地図50mメッシュ標高のデータを基に、TNTmips ver6.9を使い求めた。
     HSのべき関数で回帰すると次の式(1)が得られる。
     H = 0.507S 0.87 … (1) (r2 = 0.7046)
    以下では(1)式によって各礫径計測地点における水位を代用する。

    3. 結果と考察
    3.1 掃流力と限界掃流力  掃流力は次の式(2)で与えられる。
     τ =ρgHI … (2) ただし、ρ:水の密度(g/cm3) g:重力加速度(cm/s2)
    また、限界掃流力は次の式(3)で与えられる(岩垣 1956)。
     τc = 0.809d … (3)
    ここでτ =τcとして、
     H = 0.809d /ρgI … (4)が得られる。
    3.2 各礫径計測地点において(1)、(4)から得られる水位の比較
    縦軸に(1)を横軸に(4)をとって図2に表した。これを見るとほぼ切片0、傾き1の直線上に並んでいることが分かる。
    図2 水位 - 流域面積の関係と掃流力理論より求めた水位比較

    図2は河川による違いや、侵食域(上流)と堆積域(下流)の差は無視でき、礫径が選択運搬によって決まることを意味する。使用した水位は木曽川では雪解け時の低気圧、その他の河川では梅雨期の台風による洪水イベント時のものであり、これらの出水時に河床礫が河川の全区間で更新されたことを強く示唆する。さらにこれを応用し、地層中の礫径から、礫堆積当時のIもしくはSを推定することで、古水文環境やオリジナルな河床縦断面形の復元が可能になるものと考える。
    参考文献
    Inoue, K 1992. Geogra. Rev. Japan, 65B,75-89.
    岩垣雄一 1956. 土木学会論文集, 41,1-21.
    島津弘 1991. 地理評, 64A, 569-580.
  • 勝俣 尚哉, 須貝 俊彦, 八戸 昭一, 水野 清秀
    p. 267
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.はじめに
    酸素同位体ステージ(MIS)5の海水準変動が関東平野の台地群の形成に与えた影響が解明されつつあるなかで、大宮台地のの成に与えた影響の復元は不明な点が多い。また、大宮台地北東縁に伏在するとされる綾瀬川断層の活動度や断層長を評価するうえで、台地面の地形的な性格を明らかにする必要が生じている。
    2.大宮台地の地下層序と地形概観
    大宮台地は荒川の沖積面との間には明瞭な高低差が確認されるが、台地北東部においては台地面が相対的に沈降しているため沖積面との境界が不明瞭である。台地上には多くの開析谷が形成されている。(杉山ほか,1999)。本地域は台地面が2面に分類され、大半が低位の大宮面に分類されて台地北部の標高20 mないし30m以高は高位の木下面とされてきたが、木下面の分布域は曖昧であり、地形面と地下層序との対応関係も不明である。
    3.結果と考察
    高位面と低位面の境界域を横切る地形地質断面図を作成し、地形面と地下層序との対応関係を調べた。代表的な断面の位置を図1に示す。図1に貝化石の記載等によって確認された木下層の分布範囲も示す。横断面(図2)をみると、木下層の基底は顕著な埋没谷をなす。木下層は上方粗粒化し、上部で貝化石混じりの砂層となり、測方に堆積域を拡大する。大宮層は大きく2枚の砂礫層に分かれ、下部砂礫層は連続性がよく、木下層を整合的に覆う。この断面のすぐ北の南北断面では、両者の指交関係をみてとれる。大宮層の上部の砂礫層は側方変化がやや激しく、礫質部はチャネル状に掘込んでいる。常総粘土層が大宮層の微起伏を埋析し、1〜5mの厚さで堆積する。図2の東西断面は東落ちの傾動運動を示す。木下層頂面の高度差は約11m、常総粘土層頂面の高度差は約9mある。断面の位置が木下層の分布北限付近であることから(図1)、木下層頂面の年代は約12.5万年前と推定され、断面区間での東側の相対沈降速度は約0.09m/kaとなる。この値が一定とすると、常総粘土層の堆積頂面すなわち、大宮面の離水年代は約10万年前となる。木下面は存在するとしても、標高30m前後以高のごく狭い地域に限定される。また、台地北部に堆積する大宮層の下部は木下層と同時異相の扇状地堆積物の可能性が高い。
    4.大宮台地の地形発達
    大宮台地ではMIS 5eの海進時に、MIS 6に刻まれた急勾配な谷沿いに海が侵入した。海岸線は桶川付近にとどまり、荒川水系の扇状地が海に突っ込んでいた。MIS 5dの海退に伴い出現した延長川は、その上流部(桶川以北)と比べて、縦断勾配が緩かったためにMIS 5eの離水海成面は堆積場となり、整合的に大宮層が堆積した。海退が進むと主流路は若干下刻して砂礫を堆積させた。この時の流路跡が現在の大宮面の主要な開析谷の起源となる。その後、大宮層の微起伏を常総粘土層が埋めるように堆積し、10万年前ころに離水した。大宮台地がMIS 5e と5cの面に分化しなかった理由として、関東平野の内陸側の沈降中心付近に位置していることと、荒川や利根川からの活発な土砂供給の影響が指摘できる。
  • 村山 良之, 増田 聡, 梅津 洋輔
    p. 268
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. 指針策定の経緯
     ニュージーランドでは、防災と都市計画等を含む環境行政全般について規定する資源管理法に基づき、活断層上(沿い)の土地利用を規制している自治体がある。しかしその取り組みは、権限を有する自治体間に大きなバラツキがあり、環境政策評価の議会コミッショナーは、2001年、活断層破壊によるリスクを回避・軽減するための実際的なガイドラインを求める報告書を提出した。これを受けて、2003年、環境省は、Planning for Development of Land on or close to Active Faults (活断層上と近傍の土地開発計画)のための暫定的ガイドラインを公表した(馬場ほか,2004, 都市計画論文集,39)。そして2004年、その最終版 (以下、指針)が発表された。

    2. 指針の概要と意義
     本指針は、都市計画権限を有する自治体の都市計画や防災担当者らを支援し、断層破壊による被害の回避・軽減を目的とする。(ここでは、強震、液状化、地すべり、津波等は考慮外。)
     指針は、都市計画に以下の4原則を提案している。
    1) 正確な活断層ハザード情報の収集と都市計画図への記載:最低縮尺1/1万の都市計画図に活断層の地図化が必要。
    2) 新規開発・分譲に先立つ断層破壊ハザード回避策の計画:例えば断層破壊地区での建築制限。
    3) 既成開発・分譲地でのリスク・ベースト・アプローチの採用:リスク管理規格AS/NZS4360:1999による。建物被災回避を完全には保証しないが、一般に受容可能な低リスクに抑える。
    4) 既成市街地内の断層破壊地区におけるリスク・コミュニケーションの促進:現状を容認しつつ、次期開発や建物利用をリスクレベルに見合ったものにする。教育プログラムや移転奨励策等の非規制的アプローチを含む。
    指針は、2)および3)に関連して、新開発地と既成分譲地のそれぞれについて、活断層活動度(発生周期)×断層トレースの複雑性complexity×建物重要度building importance categoryと、資源同意resource consentとを対応づけた試案を提示している(表)。その内容をみると、実質的な規制はかなり限定的である。
     指針は、資源同意という比較的柔軟な制度をいかして、これにリスク・ベースト・アプローチを組合せ、実現可能な政策を目指す意欲的なものと評価できよう。この指針が公表されたことにより、より多くの自治体で、活断層上(沿い)に関して、都市計画での位置づけや、資源同意の標準化が期待される。ニュージーランドは、都市計画権限が自治体にあること、資源管理法による防災と都市計画の連携強化など、わが国と比較して、防災型土地利用規制を導入しやすい状況にあると思われる。しかし、この指針で提示された内容は、都市計画図への活断層の正確な記載をはじめ、わが国でも検討すべき現実的な政策を示していると考えられる。NZ核地質調査所への聞き取りによると、本指針の自治体の実施可能性調査を予定しており、さらに他の災害(地すべり、液状化等)へも展開する計画があるとしている。
     2004年11月、発表者のうち増田と梅津は、太田陽子先生のご指導の下、現地調査を実施した。また先生のご指導を得て本指針の日本語訳の公開に向けて準備中である。
  • 橋本 亜希子, 小口 高, 早川 裕一, 林 舟, 斉藤 享治
    p. 269
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1.はじめに

    扇状地に関する研究は19世紀から活発に研究が行われており,1980年代以降には堆積学と関連した論文が多く出版されたが,その中でBlair and McPherson(1994)は扇状地に対して厳格な定義を与えた.それは,『扇状地とは主として土石流や布状洪水により谷口に形成された急勾配(1.5_-_25°)の半円錐地形であり,それよりも緩勾配の地形は扇状地ではない』というものである.これは,傾斜が0.1°未満のきわめて緩勾配な地形を扇状地と呼ぶ立場(たとえばStanistreet and McCarthy, 1993)とは大きく異なる.日本でも,平野の大河川などで,扇端部の勾配が0.1°を下回る例が多数報告されている.
    Saito and Oguchi(in press)によると,日本,台湾,およびフィリピンでは,扇状地の勾配は多様な堆積環境を反映してさまざまな値をとるが,デスバレーでは1.5° 以下の勾配をもつ扇状地がほとんど存在しない.したがって,Blair and McPherson(1994)による扇状地の定義は,乾燥地域での知見に偏っている可能性がある.しかし,乾燥地域と湿潤地域における扇状地と非扇状地の堆積勾配を詳細に検討した研究は少ない.そこで本研究では,DEM(デジタル標高モデル)の解析に基づき,扇端よりも上流側の扇状地の勾配(上方勾配)と,下流側の非扇状地の勾配(下方勾配)を湿潤地域と乾燥気候について調査し,結果を比較した.

    2. 対象地域と方法

    湿潤地域の事例として日本の214の完新世扇状地を取り上げた.また,乾燥地域の事例として合衆国南西部のDeath Valley,Owens Valleyおよびその周辺域(約2万km2)に分布する217の完新世扇状地を取り上げた.解析の際には,日本については北海道地図(株)発行の50-m DEMを使用し,合衆国南西部についてはUSGSのSRTM(Shuttle Radar Topography Mission)-DEM を使用した.それぞれの扇状地について,扇端を地形図・陰影図・水系図等に基づいて認定した後,そこから上流方向と下流方向に各250 mの幅を持つバッファーを発生させた.次に,バッファーの末端から上方と下方に,それぞれ1,000 m の幅を持つ領域を設定し,各領域の平均勾配をDEM から計算して上方勾配と下方勾配を得た.バッファーの導入は,扇端の認定に含まれる誤差を考慮したためである.また,上方勾配と下方勾配との比(勾配比)を計算した.

    3. 湿潤地域と乾燥地域における扇端での勾配変化

    日本・合衆国南西部のいずれにおいても,勾配比が1_から_2 となる扇状地が最も多かったが,日本では勾配比が1 に近い扇状地が合衆国よりもかなり多かった.また,日本では4 以上の勾配比を持つ扇状地がほとんどないのに対し,合衆国南西部では大きな勾配比をもつ扇状地が多くみられた(図 1).さらに,勾配比が1 未満,すなわち扇状地よりもその下方側が急となる事例が,日本においては19 % (41 個)みられたのに対し,合衆国南西部では平野部に1.3 % (3 個)のみであった.したがって,合衆国南西部の扇状地では,土石流などによって運ばれた土砂が扇状地で急速に堆積するために下流側とは明瞭に異なる堆積勾配が形成されるのに対し,日本の扇状地では扇端を境とする堆積プロセスの変化がより不明瞭かつ多様なために,扇端を境とする勾配の変化が小さいと考えられる.したがって,乾燥地域では勾配と土砂移動プロセスに基づいて扇状地を比較的容易に定義できるが,湿潤地域では場所による堆積環境の相違を十分に考慮して扇状地の認定と研究を進める必要がある.

    文献

    [1] Blair, T.C., McPherson, J.G. (1994): Alluvial fans and their natural distinction from rivers based on morphology, hydraulic processes, sedimentary processes, and facies assemblages. Journal of Sedimentary Research, Section A: Sedimentary Petrology and Processes, 64, 450-489.
    [2] Stanistreet, I.G., McCarthy, T.S. (1993):The Okavango fan and the classification of subaerial fan systems. Sedimentary Geology 85,115-133.
    [3] Saito, K. and Oguchi, Y. (in press): Slope of alluvial fans in humid regions of Japan, Taiwan and the Philippines. Geomorphology.
  • 早川 裕一, 小口 高
    p. 270
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    I はじめに

     急速な地殻変動と多量の降水により,日本の山地は第四紀をとおして活発な河川侵食を受けている.そうした山地河川の基盤岩上には,多数の遷急点や遷急区間(knickzone)がみられ(e.g., Hayakawa, 2004),河川の侵食プロセスにおいて重要な役割をもつ可能性がある.しかし,遷急区間の広域的な分布に関する研究は少ない.本研究では,DEM(数値標高モデル)を用いた河川勾配の定量的解析に基づき遷急区間を抽出し,その分布特性を検討する.

    II 山地河川における河床勾配の解析

     本研究では,解像度50 m のDEMを用いて,関東・中部地域における85の主要な山地河川を対象に解析を行った.まずDEM から発生させた流路上に80 m 間隔で連続する計測地点を設定し,各計測地点を中心とするd m の区間の勾配を計算した.この計測区間d を100 – 10,000 m の間で変化させたときの区間勾配を河川ごとに分析すると,(1)d が100 m では勾配がDEM のデータが離散的に採取されていること等に起因するエラーを反映する,(2)d が200 – 1,800 m では勾配が局所的な地形に依存した変化を示す,(3)d が3,000 – 6,000 m では比較的長い流路全体の傾向的な勾配が得られる,(4)d が6,000 m 以上では勾配が河川全体のconcavity の影響を受けることが示された(Hayakawa and Oguchi, 2004).

    III 遷急区間の抽出と分布特性

     計測区間d が 200 – 1,800 m の範囲におけるd の増加にともなう区間勾配の減少率は,傾向的な勾配に対する局所勾配の相対的な大きさと対応する.そこで,勾配の減少率がある閾値以上となる区間を抽出し,それを遷急区間と判定した(図1).
     得られた遷急区間は,高さ,長さ,勾配の平均値がそれぞれ40 m,230 m,9.4° であり,全河床の4.1% を占め,0.18 km-1 の頻度で出現した.また,山地流域の出口から距離5-10 km の位置,すなわち山地河川の下流部に最多頻度で分布することが示された.一方,遷急区間の分布に対する地質の影響は小さかった.したがって,遷急区間の分布は局所的な岩質の相違ではなく,盆地に対する山地の隆起といった,山地流域全体の発達過程に強く規定されると考えられる.こうした遷急区間の分布特性について,より多くの河川で解析を行い,また活断層や段丘面の分布等との関連を詳細に検討する必要がある.
  • 香川 雄一, 小口 高
    p. 271
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    _I_.はじめに 前回の発表(日本地理学会2004年度春季学術大会「川崎臨海部における公害病患者死亡者の分布」東京経済大学)では、地方新聞を資料として公害病患者死亡者の分布図を作成するとともに、町目別の統計データとの比較により地域環境問題と都市社会地理の関係をGISによって分析した。対象者の居住地を細かく特定することによって、地域社会の人口変動や産業構造との関係が明らかになった。ただし1975年5月以降は資料上の問題で居住地が判明しないため、数多くの公害病死亡者のうち約100人程度しか分析対象にできなかった。そこで本発表では公害病患者のデータを新たに取得する方法として「川崎公害裁判記録」を用いて、公害裁判における原告の居住地の分布を明らかにする。_II_.研究方法 川崎公害裁判記録には485巻に及ぶ膨大な言説資料が収録されている。Progress in Human Geography誌に掲載された都市地理学の展望論文において、Lees(2002;2003;2004)は研究方法として言説分析の必要性を説いた。言説は文化的側面だけでなく都市政治や政策にも影響を及ぼす。川崎公害裁判は「判例時報」によって判決が紹介され、原告側の弁護士によって裁判の経過が綴られているが、裁判記録の内容に踏み込んだ分析は見当たらない。そこで裁判原告のデータを収集するにあたって、川崎公害裁判記録の全貌をまず把握した。原告側の主張編および証拠編さらには証人調書に記載されている約400人の原告の地理情報から分布図を作成し、前回の発表と同じく町目別統計データと比較検討した。さらに原告の居住歴を確認することで公害被害者の特徴と公害問題発生地域との関係を解明した。_III_.川崎公害裁判 1982年3月、第一次川崎公害訴訟が、加害企業と国、首都高速道路公団を被告として提訴された。汚染物質の規制緩和や公害健康被害補償制度の整理縮小への動きが、公害病患者を裁判へと導いたとされる。1983年9月には第二次、1985年3月には第三次、そして1988年12月には第四次の川崎公害裁判が提訴された。10年以上に及ぶ審理の結果、1994年1月に第一訴訟が加害企業に対しての勝利判決となり、1996年12月に原告と加害企業との間で和解が成立した。1998年8月に第二次_から_第四次訴訟で道路公害に関して原告側の勝利判決となり、1999年5月には原告と国・公団と間で和解が成立した。川崎公害裁判記録には原告と被告に分かれて、判決に至るまでのそれぞれの主張および証拠が収録されており、それらから地理情報を抽出した。_IV_.公害裁判原告の分布 裁判提訴時には川崎市川崎区および幸区(旧公害指定地域)から転居している原告もいるため、約八割が分布図作成の対象となった。工場地帯に近い臨海部には公害病死亡者と同じように原告の多くが居住している。一方で二割程度は幸区の居住者である。工場公害だけでなく道路公害による影響も大きい。裁判では原告の健康被害と工場からの汚染排出との因果関係や、被害と道路から居住地への距離との関係などが争点となった。本発表では司法判断とは別に、地域環境問題による被害者と統計データによる都市の内部構造との対応を照合してみた。結果として、これまでの研究におけるデータの不備をある程度、補うことができた。川崎公害裁判記録の残りの資料を分析することで、地域環境問題の実態解明の可能性が広がっていくだろう。
  • 青木 賢人, 澤柿 教伸, 松元 高峰, 佐藤 軌文, 岩崎 正吾, 安仁屋 政武
    p. 272
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1. はじめに 近年の環境変動に伴う海面上昇の実態解明は緊喫の課題となっている.南半球においては南極氷床に次ぐ17,200 km2: (Aniya et al., 1996)を占めるパタゴニア氷原からの排水量は1944 年以降の海水準上昇の 3.6 % に相当すると見積もられており (Aniya, 1999),氷河面積に比して寄与率が高い.しかし,パタゴニア氷原の氷河変動に関する知見は十分に蓄積されていない. 演者らは,2003年12月からパタゴニア北氷原の北東縁に位置するエクスプロラドーレス氷河において氷河環境の実態解明の一環として,流動速度の観測を行っている(澤柿ほか,2004).本発表では 2004 年 12 月に行った現地調査の成果を報告し,流動特性の規定要因を検討する.エクスプロラドーレス氷河は雪崩涵養型の溢流氷河であり,SanValentin山 (3,910 m) の北斜面から北北東方向に流下し,高度約 200 m 付近に達する.全長は約 30 km,氷河末端付近の約 2 kmは起伏に富むデブリ域となる.2. 観測2003年12月に氷河上のデブリに設置した流動観測点(G1_から_G6)のうち,2004年12月にはG1を除く5点が確認された.G1は拡大した池に水没したものと思われる.また,G4は横転しており,岩の側面に改めて測点を設置した.G2_から_G6については2003/04の年間流動速度を算出した.位置の測定は一周波(L1)のGPS干渉測位により,Fix解を得た.ただし,2003年と2004年の測量基点は異なり独立に単独測位を行っている.また,2004年にはこの他に7カ所の短期流動観測点を氷河上に設置するとともに,流動観測点における表面融解量の測定,氷河上および氷河末端における気象観測を同期して行っている.3. 流動速度G2_から_G6のそれぞれについて複数回の測位を行い,短期流動速度を算出した.2003年の観測期間とほぼ同じ時期であり,気温観測結果(未公表)から,融解進行期であることが確認された.04年では03年の短期流動速度(表:澤柿ほか,2004を改訂)と比べ,G4を除き速度が増加している.短期流動速度の差の規定要因については,融解量,気象観測結果と合わせ検討を進め,当日報告する.さらに年間流動を算出した.消耗域末端付近のデブリ域(G2,G3)においては50_から_60m,中流部の裸氷域(G4_から_G6)では100_から_150mの流動が確認された(表).デブリ域と裸氷域の流動速度には差があり(図),デブリ域の起伏の形成に寄与していると推定される.
  • 李 賢郁
    p. 273
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    1はじめに現代の人々のライフコースは以前よりも多様化している.特に,女性の場合は、結婚に対する価値観も変化し,晩婚化が進む中で,少子化傾向も強まり,これらによっても,以前まではみられなかったライフコースが形成されている. 多様なライフコースが今後,地理的空間といかに関係していくのかについて,特に人の移動パターンに関連させて研究を深めることは,将来の人口分布を予測することも可能にする.また,地域によって主なライフコースがどのように形成されるのかを分析することによって,地域社会の変化を予測することもできると考えられる.2分析方法ライフコースの変化を研究するためには,ライフコースの比較することが重要であり,そのためにはまず,時代ごとに見られる主なライフコースを探るというステップが必要である.つまり,各ライフコースの位置づけを行うことによってはじめて,最近の多様なライフコースが正確に捉えられるという考え方である. ここでは,韓国社会の急激な変化の中で,特に女性がいかなるライフコースを形成してきたかを,地理的空間の中での移動とともに明らかにする.ライフコースの変化の比較を行うために,特に女性の就職というライフイベントの発生時の空間的移動を分析する.そのために,韓国における労働パネル・個人データを用い,個人移動の始まりである進学と初就職時の移動を出生コーホート別に分析した.出生コーホートは,韓国戦争という出来事の発生後に生まれたベビーブーマーを基準に3区分した上で,各コーホートの学歴から時代ごとの主な労働供給集団を取り上げる. ここでは,労働パネル調査の一次から四次までに連続的に調査対象となった者8510人から地方出身女性を取り上げる.      分析では,コーホートごとに人生カレンダーを作成し,結婚と就職というライフイベントの関係がコーホートによってどのように変化してきたかを考慮し,ライフコースの変化を描きながら,結婚前に就職している女性たちに焦点を当てた.3分析結果の概要 1960-1970年代までの首都圏の軽工業は政府の地域開発政策によって集中的な資本投資のよって成長した結果,首都圏への移動は女性の方が男性より多かった.しかし,この時代には女性が結婚前に就職経験を持つということは普遍的なライフコースではなかったが,地方の小・中卒者である若い女性の一部は首都圏へ移動して繊維産業で働いた後,結婚して,そのまま首都圏に定着する者も相当数みられた. 1980年代には,重化学工業の開発政策により釜山や大邱,大田,光州などの広域市の人口が急増し,地方若年層の広域都市への移動は大きく増加した.この時代の特徴は男女とも結婚前に就職経験を持つライフコースが普通になり,男性は高校や大学卒業後に広域都市の製造業部門の管理職や技術者として就職し,女性は高校卒業後に製造業の事務職やサービス業に就く者が多くなった. しかし1990年以降になると,地方圏出身の男女が広域都市へ就職で転入することは非常に減少,地元に残留する割合が増加する一方,首都圏へ就職のため移動する傾向が再び強まる.この時期に,広域都市での製造業が衰退するのは韓国製造業の企業間関係と密接に関係している.1994年以降の経済不況の中,大企業の分工場の海外へ移転が進み,その結果,下請けの中小企業が主であった広域都市の産業は大きい危機を迎えた.さらに,1997年後半に起きた通貨危機は地方経済に最も大きい打撃を与えたことが,地方の若年層の就職移動に色濃く反映されているのである.
  • 桶谷 政一郎, 春山 成子
    p. 274
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    はじめに メコンデルタでは、近年、雨期の洪水氾濫時間が長期化する傾向が指摘できる。その要因のひとつとしてはベトナム側メコンデルタで1996年洪水以降に建設されている堤防、カンボジアとの国境付近の水利構造物が下流側への通水能力を大きく変化させたことがあげられている。しかしながら、雨期の洪水時におけるメコン川及び氾濫原ないでの流下特性が理解されているわけではないために、洪水氾濫プロセスを考えるためには氾濫原の地形特性を理解することが必要である。そこで、今回はメコン川の一支流、トンレサップ川を取り上げてこの流域の氾濫原の地形特性を調査することにした。本研究ではメコン川の洪水に着目しながら、支流河川としてのトンレサップ川の河川地形についてリモートセンシングデータを用いて河道形状を明らかにしようとした。研究方法広域にわたるメコンデルタ氾濫原の地形特性を把握するのが目的であるために、本研究ではオルソ化されたSPOTデータ、SRTM-3データを分析に用いることにした。研究地域はトンレサップ本流とバッサク川流域までを含む北緯10°40′_から_12°40′、東経104°20′_から_105°40′の範囲として、地形分類図を作成し、河道特性の抽出を行うこととした。結果研究対象地域はトンレサップ川右岸が標高20m程の段丘にはさまれて氾濫原を広げている。河川流路長は140kmであり、河床勾配は小さいが、雨期のメコン川増水時にはその流量の10分の1がトンレサップ湖側へと逆流するために、この河川の氾濫原は洪水時に重要な役割を果たしている。台地で囲まれた河川氾濫原の地盤標高は10m程であるが、湖尻近くの河道景観をみるとアナストモージング的であり、氾濫原の旧河道にも特色がある。それはトンレサップ川上流側に位置するトンレサップ湖がメコン川の洪水流量のバッファーとなるために雨季・乾季で順流逆流の2方向の流れ方向が変移するためである。河川水位は年間を通して7m前後変化するため、本道河道のみならず雨季の氾濫原に残る河道形態にも特異性が見いだせた。氾濫原の地形は大きく、湖尻付近の逆デルタ、アナストモージング河道、自然堤防、後背湿地、旧河道を示しているが、低位段丘が一部に認められる。北緯12°20′付近では残丘に囲まれた狭さく部を流下するが、この地点では河道が固定化されているものの、これより下流側では河道は分派し、12°10′付近ではメコン川本川の旧河道がトンレサップ川低地部に流入し、トンレサップ川及びメコン川の流入によりメアンダンリングが顕著になる。12°10′_から_11°50′付近では、右岸が標高20mの段丘崖が現われ、左岸側は標高10mの段丘に囲まれるために、再度、河道は狭さく部を直線的に流下する。この付近はメコン川本流と連続する凹地が存在するために、増水時の河道として機能しており洪水挙動に影響を与えていることがわかる。 
  • 安田 正次
    p. 275
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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    はじめに 群馬・新潟県境にまたがる山岳地帯は日本でも有数の豪雪地帯で、この地域に成育する植物はこの積雪の影響を強く受けた植生が発達している。しかし、近年この地域では積雪量の減少や気温の上昇が認められていおり、植生への影響が懸念されている。 そこで、この地域における気候の変動が植物へ影響を及ぼしているかどうかを明らかにするために、平ヶ岳においてハイマツの年輪による生長量調査を行った。その結果、1970年代後半から急激な生長量の増加が見られた(図1)。しかし、どのような環境の変動によって発生したものかは明らかにならなかった。 そこで、ハイマツの急激な生長量の増加の要因を明らかにするために、年枝生長痕による生長量調査を行い、平ヶ岳におけるハイマツの生長要因について更に詳細な検討を行った。調査方法および気候資料 調査はこの地域のほぼ中央に位置する平ヶ岳において行った。平ヶ岳頂上部に成育しているハイマツの主幹先端部の年枝生長痕について読み取りを行った。 気候資料に関しては、近年観測されている平ヶ岳の積雪深記録および平ヶ岳から10km程の南に位置する山の鼻で観測されている気温・日射量などの記録を用いた。結果と考察 ハイマツの伸長量データを図2に示す。ここからも年輪生長量と同様に1970年後半から1980年終わりにかけて生長量が大きかった事が判る。また、サンプルによっては1990年代に旺盛な生長を見せたものもあった。 これらの生長量変動に対して積雪記録との比較を行ったところ、当年枝の生長には、前年からの積雪日数・初雪日など・当年の消雪日・前年の積雪の無かった日数が関連している事が明らかになった。 気温に関しては一般的に知られているように前年と今年の比が関連していることが確認された。また、7月8月の最高気温に関して当年枝の生長量には負に働く事も明らかとなった。 日射量に関しては6月日射量が多いと生長量に対して負に働く事、7?10月は緩い相関が、10月は次年生長する枝の生長量に強い相関が見られた。 これらの結果より、 ハイマツの生長量は、消雪日が早いなど成育期間が長いこと、とある程度の気温がの上昇が正に働き、気温が低い時の日射や夏期の過多な高温などが生長を阻害する事が明らかとなった。 今回調査を行ったハイマツは平ヶ岳頂上部湿原周辺に成育しているものであった。そのために、湿原の乾燥などが生長量の変動に影響を及ぼしていると考えられる。今後は湿原環境の変化も考慮に入れて変動の要因を明らかにする必要があるだろう。
  • 新潟県中越地震ほかの事例
    中村 広幸, 太田 陽子, 鈴木 郁夫, 天笠 咲子
    p. 276
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/27
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