日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
選択された号の論文の255件中251~255を表示しています
  • 日本の奥多摩とポーランドのカルパチア地域の事例から
    中台 由佳里
    p. 251
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1. 研究目的 森林を生活の場とする山地の住民はどのような生活維持構造を持っているのか。どのような要因によってその生活維持構造が形成されているのかを解明することが本論の目的である。研究事例として、日本の奥多摩とポーランドのカルパチア地域を取り上げる。2.山地の生活維持構造1) 日本の奥多摩、日原の事例 日原は東京の西端にあり、大正期まで焼畑を利用し複合的な生業によって自給自足的な生活を維持させていた。近世に幕府直轄林があり、その後は東京都の水源林として管理されてきた経緯により、山の天然資源を享受することができた。他地域より移住してきたと言われる住民は血縁による結びつきが強く、保勝会を組織し日原鍾乳洞を中心とした観光に関連した地域内の現金収入となる仕事を分け合うシステムを作った。 生業と地域の文化とは相互に影響し合いながら成立し,この生業と文化との関わりを基盤として住民の空間認識が形成された。「ブラク」「ミノト」「サワ」「ウエノヤマ」「ムコウヤマ」という土地分類呼称に表れる住民の空間認識を形成したのは、複合化された生業と年中行事や自然崇拝などの地域文化との関係であった。2)ポーランドのカルパチア地域、バランツォーバの事例 狭小な農牧地と冷涼な気候により、カルパチア地域のバランツォーバでは現在でもほぼ自給自足的な生活が継続している。1989年以降急速な経済変化が起こっているが、経済の中心から離れた山地地域はなかなか経済発展の恩恵に与れない。そのため住民の生活は,厳しく不確定な自然条件の元で森林におけるエコ・システムを充分に理解しなければならない。また、利用法を民俗知識として蓄積し,主たる生業に加えて林産物(樹木、木の実、キノコ、ハーブティーなど)を利用することにより生業を複合化することで生活を維持している。 しかし近年では、国内外への出稼ぎが日常化し、生活必需品が直接持ち込まれたり、現金がもたらされたりはしているが、集落内には店舗がなく金銭の流通は見られない。その代わり、拡大家族関係を中心に馬の労働力や人力による労働力を相互扶助しあい、農牧業を支え生活を維持している。3.生活維持構造の正四面体モデル 以上の二つの事例から、生活維持構造の要因を解明してみる。山地住民の生活維持構造をその要因に着目してみると、天然資源、家族形態、文化、経済の4つの要因が見出せる。そして、この4つの要因を頂点とする生活維持構造は正四面体としてモデル化することができる(図1)。つまり、自然環境に基づく天然資源を土台として利用し、家族形態を通して労働力を相互扶助し、山地特有の厳しい自然環境に対しては生業を複合化し、地域独特の自然神崇拝を生み出す伝統的な文化を維持していく、という山地の生活を正四面体のモデルとして提示することが可能である。 この正四面体の重心に紐を通すと仮定するならば、この4つの要因は互いに影響し合っているため、辺の長さと頂点の重さが等しい場合正四面体はバランスを保ち、不均等であれば四面体はバランスを崩す。つまり、正四面体の理論によって山村の未来を予測することが可能になる。 今後の研究課題として、正四面体の理論を農村や漁村に拡大できるかどうか事例研究により研修する必要があると考える。
  • KOMATSU Tetsuya
    p. 252
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    Introduction
     Intensive surface lowering in the ablation area of Debris-covered glaciers (D-type glaciers) debuttresses bedrock slopes and lateral moraines adjacent to the glaciers, and causes landslides, slope failures and their related phenomena. These deformations at inner slopes of lateral moraines or bedrock slopes adjacent to glaciers are important to understand glacial dynamics. This study presents the features of landslides, slope failures and their related phenomena in the Sagarmatha (Everest) region, Khumbu Himal, by field survey and geomorphological mapping, to know the aerial extent and the timing of the landslides.

    Methods
    1. Field survey
     Field observations were carried out around the Khumbu, Nuptse, Chhukung, and Imja Glaciers in the Sagarmatha (Everest) region between October 9 and November 2, 2004. Among these glaciers, the Khumbu Glacier was chosen for an extensive survey, which includes:
    ・Mapping of landslides and related phenomena used handy GPS (GARMIN etrex).
    ・Measurement of landslides area in lateral moraine used GPS (Trimble GPS Pathfinder Pro-XR) and clinometer.

    2. Geomorphological mapping
     A Geomorphological map of the study area was constructed using:
    ・Topographic map (1:50000; contour interval 40m ; compiled by Survey Department of His Majesty’s Government of Nepal in 1996)
    ・CORONA satellite photographs (taken in Mar. 1968 and Nov. 1964)
    ・ASTER satellite images (taken in Nov. 2004)
    ・Aerial photographs (taken in 1992 )
       ・Oblique photographs (taken in 1995 by Shuji Iwata)

    Results
    1. Features of landslides, slope failures and their related phenomena
     Landslides, slope failures and their related phenomena on and around the ablation area of the Khumbu Glacier can be classified into 4 types. (1) Landslides with single or multiple sliding blocks on the inner slopes of lateral moraines. (2) Slope failures on the inner slopes of lateral moraines consisted of steep concave slopes with parabolic profiles and depositional slopes below. (3) Parallel gullies and simple talus slopes on the inner slopes of lateral moraines. (4) Landslide on the bedrock slopes.
     The type (1) and (2) are mainly distributed on the south-east facing slopes. Tension cracks or ridge-top depression suggesting the possibility of future landslides are also well developed on south-east facing slopes (Fig. 3). The type (3) is mainly distributed on north-west facing slopes. The type (4) is distributed on the spurs adjacent to the Khumbu Glacier.
     In the whole area of the Sagarmatha (Everest) region, the distribution of the type (1) and (2) are dominant in the east, south-east and south facing slopes.

    2. Recent landform changes
     The type (1) and (2) occurred between 1964 and 2004. Both types are observed only on the sunny side of the east, south-east, south and south-west facing slopes.
     The type (2) (occurred between 1964 and 2004) is located in two locations; one is in the ablation area of Khumbu Glacier, where the most intensive surface lowering has occurred (Iwata et al. , 2000), and the other is the ablation area of Imja Glacier, where the supraglacial lake has expanded gradually from 1960s.
  • 西井 稜子
    p. 253
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    高山帯の稜線付近には等高線と平行するように伸びる小崖(凹地)がしばしば認められ,重力性の変形地形として認識されている.近年では大規模地すべり・大規模崩壊といったマスムーブメントとの関係が指摘されている.山地斜面における複雑な斜面変動の実態を明らかにするためには,個々の小崖地形の成因に対して詳細な検討が必要である.そこで本研究では複数の小崖が存在し,その成因が清水ほか(1980)により検討されている飛騨山脈三ッ岳周辺において,その分布と形態的特性を詳細に調査し,その成因を考察する. 2.調査地域調査地域は,飛騨山脈の中央部に位置する烏帽子岳から野口五郎岳にかけての,南北に伸びる主稜線周辺の斜面である.主稜線の標高は,約2,500 mから2,920 mである.主稜線の東斜面は,南北に走る高瀬川断層により基盤岩が脆弱化し崩壊が多く土石流が発生しやすい。最終氷期後半には野口五郎岳南西側斜面,南東側斜面,および三ッ岳北東側斜面に氷河が存在していたと考えられている(五百沢 1979).この地域の地質は,野口五郎岳と三ッ岳のほぼ中間部を境に北は奥黒部花崗岩,南は有明花崗岩からなる.この付近の更新世中期以降の隆起速度は約2.9_から_4.0 mm/年と推定されている(原山ほか 1991)。3.調査方法空中写真判読より小崖地形,崩壊地,氷河地形,周氷河性平滑斜面を認定し,地形学図を作成した.特に,小崖地形の位置は,現地調査により確認した.小崖が谷によって分断,あるいは凹地が埋積されている場合でも,両端の小崖の山向き斜面の走向傾斜がほぼ同じと考えられるものは連続する1つの小崖地形とした.また,1 m以下の崖において連続性に乏しく更に崖長が5 m以下の極端に短いものについては小崖地形とみなしていない.現地では地形の特徴を把握するため,小崖地形の横断形と縦断形の測量を行った.地質構造に関して,稜線付近の基盤の節理の走向傾斜を計測し,電研式岩盤分類法に基づいて,連続的に稜線付近の基盤の岩盤性状の分類を行った.また,数ヵ所の凹地においてピット掘削を行い,凹地内堆積物の分析を行った.4.小崖地形の配列パターンによるタイプ分け調査地域の小崖地形は,ほぼ南北に伸びる主稜線と大略平行に標高約2,350_から_2,920 mにかけて分布する.小崖地形の分布の配列パターンから大きく3つのグループに分けられる.稜線を挟む両側の斜面が急傾斜で稜線直下まで表層崩壊により谷頭侵食が進んでいる場所では,小崖地形が稜線付近に集中して分布する(タイプA),対称性を持つ稜線では,小崖地形は稜線を挟んで斜面中腹に対になって分布する(タイプB),斜面勾配が非対称の稜線では,小崖地形は緩傾斜の斜面に偏って分布する(タイプC),以上のタイプとは異なる,カールを切る小崖地形も存在する(タイプD).5.各タイプの形成メカニズムタイプAの範囲は,調査範囲の中で,最も岩盤の風化が進んでいる場所である.そのため,風化に伴う表層崩壊が稜線付近まで及び,稜線近くに40°以上の急勾配斜面が存在している.このような山稜上部の形態のため,稜線付近には引っ張り応力がはたらいていることが推測される.ここでの卓越する節理の方向は,凹地の方向とほぼ一致している.そのため,稜線に平行な節理に沿って,開口性の凹地が形成されたと考えられる.このタイプAの凹地の1箇所で,ピット調査を行い,堆積物中に含まれる有機物の年代測定を行った.その結果,1140±20 yrBP(パレオ・ラボ(株), PLD-5149)という値が得られた.この値は,タイプAの凹地のいくつかが,現在進行している崩壊作用に関連して形成されているものであることを示唆する.タイプBでは,山体の横断形と,小崖地形の位置が対称性をもつことから,山体上部の陥没によって小崖地形が形成されたことが推測される. タイプCでは,山体の横断形は非対称である.ここでは,急斜面側の侵食の進行により,稜線付近の不安定化が進んだと考えられる.節理の走向が凹地の伸びの方向と一致し,傾斜が高角度であるため,小崖に対して山側の斜面が相対的に落ちる正断層によって形成されたと考えられる.タイプDの小崖地形は,最終氷期後半に形成されたと考えられるカール内に分布する.この小崖地形は,他のものに比べ崖長,崖高が大きいが,周囲の起伏は小さい.最終氷期後半以降の氷河の後退に伴う応力解放により形成された可能性が考えられる.6.まとめ約8 kmにわたる稜線に沿って,小崖地形の分布と形態的特徴を調べ,形成メカニズムを推定した結果,地質の風化程度と,山稜の形状,氷河地形の有無により,山体変形のタイプが異なることが考えられる.
  • 清水 孝治
    p. 254
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    本報告では,商工人名録や会社役員録,地元資産家に関する史・資料を用いて,大正初期の岐阜県大垣における地元資産家層の存在形態の分析・検討を進め,当該地域における地元資産家層の社会・経済的特性,その具体的な活動実態の把握を試みた。
  • 猿田 智子
    p. 255
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1.はじめにヒートアイランド現象が起きやすいのは晴天で静穏な間帯である.地表状態の差異がヒートアイランド現象発現の主要な原因であるが,生活排熱,オフィスや工場などの排熱,自動車の排熱など,つまり都市部に集中する人工排熱も原因とされている.日々では変化しない地表状態や規則正しい時間・季節変化をする太陽放射に比べて,人工排熱は人間の活動と密接に関係する.すなわち非休日に比べて休日には都心部での人工排熱は少ないと予想される.このことに着目して,休日と非休日とで,ヒートアイランド強度に差があるかどうかを統計的に検証し,間接的ではあるが人工排熱の寄与を検証することを研究の目的とする.本研究では,東京大手町とヒートアイランドの影響を受けていない周辺のアメダス観測点のデータ(1995年1月から2004年12月の10年間分)から,条件に合う日を抽出し,休日と非休日とでヒートアイランド強度に差があるかどうかを検討した.2.データ使用したデータは,「気象庁(電子閲覧室)」より,アメダス観測データの「地点ごとのデータ」から,「1ヶ月の毎日の値」と「1日の毎時の値」を取り出して使用した.使用した項目は,「平均気温,最高気温,最低気温,平均風速,最大風速,降水量,日照時間」の7項目である.3.データ処理本研究では,ヒートアイランド強度を,大手町の気温から館野の気温を差し引いたもの定義とした.また,ここでは土日祝日と年末年始を休日とし,それ以外の日を非休日と定義した.気象庁から取得したデータをExcelに落とし,「休日・非休日別,地点別で,平均気温・最高気温・最低気温の平均値を月毎に求める」といったクロス集計を行い,そこから地点間の差をとりヒートアイランド強度を求めた.順に,時間帯や天候,風の強さなどの項目を利用してデータにフィルターを掛けていき,そこから人工排熱の影響が出やすい条件を模索した.4.結果と考察休日と非休日とでは,自然現象の発現に差が出ることは,確率的にありえないと考える.この仮定のもとで,休日と非休日とで,ヒートアイランド強度に差があるかどうかを統計的に検証した結果,休日と非休日とで,ヒートアイランド強度に差が生じ,夏の日中,冬の明け方,特に,晴天・曇天日,弱風日には顕著な差が出ることがわかった.また,夏季・冬季においては日中,春季・秋季においては明け方に大きく出ることも分かった.結論として,東京都心のヒートアイランド現象に対する人工排熱の寄与を確認することが出来たといえる.よって,一般に小さいと思われていたヒートアイランド現象に対する人工排熱の影響は,意外にも大きいことが明らかになった.
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