発展途上国の農家家計に関する分離特性仮説の研究は, すでに多くの研究者によって行われ, ほとんどの国々においては, 分離特性が成立するという仮説が棄却されたのであるが, インドネシアは例外的に棄却されなかった.
本稿の目的は, この仮説の妥当性について, 中部ジャワ・ジョクジャカルタ近郊農村における家計調査の結果にもとづき, 再検討したものである.
インドネシアを対象とした既往研究では, 実証方法として, 労働需要と家計特性の相関関係の有無を検証する方法が採用されているが, 本稿では, 労働の限界生産力と賃金率の均等性を検証する接近法も合わせて試みられた. また, 理論的枠組みについても, 既往研究では, 農業生産における家族労働と雇用労働, 自家農業と農外雇用における家族労働が完全代替的であると仮定されたが, 本稿では, 自家農業に投入する家族労働力と, その他労働力の不完全代替の可能性を容認し, 農村労働市場における需要制約の有無を別途検証できる枠組みを用いた点に特徴がある.
分析の結果, 既往研究同様, 農村労働市場における需要制約の存在は認められなかったが, 分離特性仮説は棄却された. この結果は, 過剰労働が存在しないにもかかわらず生産と家計消費の分離が認められないことを示すものである.
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