日本看護管理学会誌
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ISSN-L : 1347-0140
26 巻, 1 号
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論点
原著
  • 近末 清美, 山本 真由美, 新宅 祐子, 西山 史江, 村田 由香
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:急性期病院の看護の質向上における主任看護師の役割と課題を明確にすることである.

    方法:中国地方3県の300床以上の急性期病院10施設の主任経験5年目以上の主任看護師を対象とし,4~6名のフォーカスグループ・インタビューにて,主任看護師としての役割と役割遂行上の課題について半構造的面接法を用い質的研究を行った.データは逐語録に起こし,その中から主任看護師の役割と役割遂行上の課題に関連する箇所を抽出し質的記述的に分析した.

    結果:10施設47名のインタビューデータを分析対象とした.主任看護師の役割は【看護師長とのコラボレーション】【スタッフのエンパワーメント】【医療安全を目標にした活動】【業務改善の仕組みづくり】【多様な人々とのコーディネーション】【病院経営を見据えた行動】【主任看護師としての自己啓発】の7カテゴリー,役割遂行上の課題は【管理者としての力量不足の実感】【キャリア発達の迷い】の2カテゴリーが抽出された.

    考察:急性期病院の主任看護師は,看護の質向上を目指した看護師長のビジョンを基に,看護師長とコラボレ―ションした医療変革期における病院経営を見据えてのマネジメントと,部署の専門性を高め質の高いケア提供をめざした人材育成など多様な役割を担っていた.主任看護師としての役割を担う上で能力向上の必要性の認識と役割遂行との間にジレンマを感じ,キャリア発達の迷いが生じると考えられた.

  • 鬼頭 幸子
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,エスノグラフィーに基づいて急性期一般病棟の看護師が看護補助者(以下,補助者)へ患者の清潔ケアを委任する様相を明らかにすることである.2施設の各1病棟で,看護師長2名,経験年数5年以上の看護師8名,補助者6名に約3か月間,参加観察と半構成的面接を行った.その結果,2施設に共通する8つの様相,1.看護師は,清潔ケアを看護本来の仕事と捉え,許容を超えた時に看護補助者への委任を考える,2.看護師は,委任の責任をとる覚悟で患者と看護補助者の安全を確保し委任を決める,3.看護師は,医療の資格を持たない看護補助者に任せられることを見極める,4.看護師は,過剰な量にならないよう気にかけて委任し,看護補助者は無理なく引き受ける,5.看護師は,看護補助者の背景を踏まえて簡潔に委任内容を伝え,看護補助者は難なく理解する,6.安全に実施されるよう看護師と看護補助者は事前に必要な情報を共有する,7.看護師は,患者に負担をかけないよう清潔ケアのタイミングで観察や処置を行う,8.看護師と看護補助者は阿吽の呼吸で清潔ケアを行う様相が明らかになった.各施設に特異的な様相として,A病棟では,補助者は忙しい看護師を助けるために自己判断で清潔ケアを行う様相,B病棟では患者に最善の清潔ケアを考えるリーダー看護師から自分達のやり方を守る補助者への委任は難航する様相が明らかになった.

  • 芥田 ゆみ, 池崎 澄江, 北池 正
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 21-31
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:超高齢化社会に向けた医療提供体制として地域医療が推進されている.在宅看護の質と量を担保するため,病院に所属する専門看護師(CNS)・認定看護師(CN)の活用が注目されている.本研究では,それらの看護師による在宅看護を支援する活動の実態と要因を明らかにする.

    方法:A県内の病院に所属するCNS・CN216名を対象とした自記式質問紙調査.調査項目は,独自に作成した在宅看護支援活動(直接ケア・相談・退院支援・教育研究)の実施の有無を従属変数とし,患者やケアに関する相談ができるネットワーク,環境の評価,基本属性との関連についてロジスティック回帰分析を行った.

    結果:回収率60.4%,有効回答数130件(有効回答率60.2%).患者宅での直接ケアの実施は25.4%と低く,相談は76.9%と最も多かった.分野別では,皮膚・排泄ケア認定看護師の実践割合が高かった(直接ケア45.8%~相談95.8%).全カテゴリに有意に関連していたのは,病院外でネットワークのある職種数(OR:1.29~1.87)だった.直接ケアと教育研究には共通して,「専門性を活かせる認識」と「地域の会議への参加経験」が有意だった.

    結論:病院に所属するCNS・CNが在宅看護の支援活動を行うためには,病院外の多職種とのネットワークを持つ,CNS・CN自身が在宅領域で専門性を活かせるという認識を高めることが重要である.

  • 小澤 理香子, 菅谷 智一, 森 千鶴
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】病棟看護師のワーク・エンゲイジメントに影響する要因を明らかにすること.

    【方法】2施設の総合病院の病棟看護師535名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施.個人背景,就労の状況,日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版,精神的回復力尺度,新職業性ストレス簡易調査票を調査した.分析方法は,ワーク・エンゲイジメントを従属変数としたステップワイズによる重回帰分析を行った.

    【結果】317名から回収(回収率59.25%),有効な回答が得られた269名(有効回答率84.86%)を分析対象とした.看護師のワーク・エンゲイジメントには,レジリエンス(β=.298,p<.001)と個人背景の年齢(β=.225,p<.001),仕事の資源の仕事の意義(β=.214,p<.001),仕事の適性(β=.109,p<.05),ワークセルフバランス(ポジティブ)(β=.280,p<.001)が影響を与えていた.

    【考察】看護師は,個人が持っているレジリエンスを活用するとともに,仕事に意義を感じ積み重ね,肯定的に捉えること,自分に向いていると実感することが,いきいきと働くことにつながる可能性が考えられた.仕事の意義が言語化されるような環境の整備や,自分の実践を肯定的に捉えられるような支援が必要であると考えられた.

  • 竹内 朋子, 戸ケ里 泰典, 山西 文子
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 86-93
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    看護組織のストレス対処力であるSense of Coherence(SOC)の測定スケールを作成し,信頼性と妥当性を検証することを目的とした.首都圏の約300~900床規模の8病院に勤務する看護師3316名を対象に自己記入式質問紙調査を実施し,基本属性(年齢,性別,看護師経験年数等),看護組織のSOC,基準変数として仕事満足度とWork-SOCをたずねた.協力の同意が得られた看護師2054名から調査票が返送され(回収率61.9%),1933名分の有効回答を分析対象とした(有効回答率58.3%).回答者の平均年齢は33.0±9.7歳,女性が89.9%,看護師経験平均年数は9.9±9.0年,部署経験平均年数は3.6±3.2年であった.16項目版スケールのI-T相関は全て.50以上であり,スケール全体のCronbach’s α係数は.912であった.また,共分散構造分析の結果,修正指数にもとづいて誤差共分散を修正した16項目モデルのCFIは.915,RSMEAは.077であった.さらに,16項目版スケールと仕事満足度(r=.451,p<.001),16項目版スケールとWork-SOC(r=.638,p<.001)とには,それぞれ有意な正の相関がみられた.これらの結果から,看護組織のSOCスケール(誤差共分散修正16項目モデル)の信頼性,併存妥当性,収束妥当性が確認された.

  • 小松 由美子, 赤松 公子
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 129-139
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:本研究の目的は看護師への支援を含めた患者の家族を支援する看護師長の役割行動を測定する尺度を開発し,信頼性,妥当性を検証することである.

    方法:先行研究や臨床経験をもとに尺度原案を作成した.質問項目の内容的妥当性を得るためにエキスパートによる項目の検討を行った.急性期一般病棟に勤務する看護師長568名を対象に,81項目の5件法による無記名自記式質問紙調査を郵送法にて実施した.分析は,項目分析,探索的因子分析,Cronbach’sα係数,外的基準との相関分析であった.

    結果:有効回答率は230名(40.4%)であった.最尤法,プロマックス回転による探索的因子分析の結果4因子44項目が抽出され,「危機状態にある家族を支援する看護師への承認と保証」「危機状態の家族の安寧とニーズを読み解くための環境調整と意図的な接近」「家族の時間・空間を確保する場づくりと気遣い」「危機状態の家族と医療チームとの橋渡し」と命名された.各因子のCronbach’sα係数は.884~.921であった.外的基準との相関係数は,.398~.662.であり.01水準で有意な関連が認められた.

    結論:開発した尺度の信頼性と妥当性は概ね確保できた.

  • 鈴木 智子
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 140-149
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,新人から一人前の段階にある看護師の職業経験の質と自我同一性,職業的アイデンティティ,レジリエンスとの関連を明らかにすることを目的とした.単純無作為に200病院を抽出し,看護管理者の承諾を得た39施設の入職3年目までの看護師950名を対象に,基本属性,職業経験の質,自我同一性,職業的アイデンティティ,レジリエンスを調査した.回収数341名(回収率35.9%)のうち,有効回答は312名(有効回答率32.8%)であった.分析にはPearsonの相関係数分析と重回帰分析を用いた.その結果,職業経験の質と職業的アイデンティティ(r=.565,p<.01),および職業的アイデンティティとレジリエンス(r=.551,p<.01)の間に有意な相関を認めた.職業経験の質の最も強い影響要因は職業的アイデンティティ(β=.432,p<.001)であり,次にレジリエンス(β=.219,p<.001)であった.自己斉一性・連続性は,「発達課題の達成と職業の経験を両立する経験」(β=-.239,p=.005)と「迷いながらも職業を継続する経験」(β=-.272, p=.001)の負の影響要因であった.職業経験の質向上には職業的アイデンティティの向上とレジリエンスが重要であり,自我の強さと看護師としてのアイデンティティの葛藤が職業経験の質に影響する可能性があることを念頭に置く必要がある.

  • 星 美鈴, 佐々木 晶世, 杉本 健太郎, 大竹 まり子, 丸山 幸恵, 土肥 眞奈, 中村 幸代, 柏木 聖代, 叶谷 由佳
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 150-158
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:本研究は,地域包括ケアシステムに貢献できる看護職に必要なコンピテンシーを明らかにすることを目的とした.

    方法:特別養護老人ホーム,病院の退院支援部署,訪問看護ステーションで,看護職経験が10年以上の10名を対象に半構造化面接を実施し,質的帰納的に分析を行った(倫理委員会許可番号:A180800014).

    結果:地域包括ケアシステムにおける看護職に必要なコンピテンシーについて,30のカテゴリが抽出された.得られたコンピテンシーをまとめた結果,『多職種連携』『日常生活や健康管理の視点をもった看護提供』『地域包括ケアにおける看護職としての役割自覚』『看取りの対応』『介護職との関わり』『看護職同士の連携』『コミュニケーション』『アセスメント』『リーダーシップ』『認知症ケア』『ケアマネジメントと移行支援』『合意形成の実施』『人材育成』の13項目に分類された.今後は対象者を拡大して一般化を図るとともに,地域包括ケアシステムに貢献できる看護職の教育プログラムを作成する必要があると考える.

  • 宮坂 佐和子, 金子 さゆり
    原稿種別: 原著
    2022 年 26 巻 1 号 p. 201-211
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,夜勤指導の判断基準への活用および効果的な指導体制を整備するために,新人看護師の夜勤独り立ち時期を明らかにし,夜勤独り立ち時期における看護実践能力,新人指導体制との関連を明らかにすることを目的とする.20病院に勤務する新人看護師614名と所属病棟の看護師長198名を対象に無記名自記式質問紙調査を行った.調査内容は,夜勤独り立ちの時期,新人看護師の個人属性と看護実践能力,病棟のストラクチャー指標とプロセス指標からなる.分析は夜勤独り立ち時期を日数換算し,中央値をもって早期群と晩期群に区分した.個人属性,夜勤独り立ち時期における看護実践能力,病棟のストラクチャー指標とプロセス指標について,夜勤独り立ち時期の早期群と晩期群の2群間でMann-WhitneyのU検定,χ2検定を行った.結果,急性期病院の新人看護師の夜勤独り立ち時期は,6月から見られ始め多くが9~10月であり,夜勤業務に必要な看護実践能力を獲得したうえで,夜勤独り立ちの判断がなされていた.夜勤独り立ちに必要な看護実践能力としては,6つのコンピテンス(基本的責務,倫理的実践,リスクマネジメント,クリニカルジャッジメント,看護の計画的展開,援助的人間関係)の実施頻度が「たいてい行っている」状態に到達している必要性が示唆された.

実践報告
  • 下村 晃子, 芦田 和恵, 山下 智佳子, 富永 幸江
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 26 巻 1 号 p. 76-85
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】脳神経系疾患患者に有効な「転倒転落リスクアセスメントツールと予防対策(以下アセスメントツール)」を作成し,項目を統計学的に検証しアセスメントツールを完成する.

    【方法】対象:脳神経系疾患専門病院に入院した患者で,入院中にアセスメントツールで評価を行った366名の評価データ1002例.方法:看護師が対象患者の状況を,アセスメントツールを用いて評価した.またアセスメントツールの使用感について看護師15名にアンケートを行った.分析:転倒有無の2群間でアセスメントツールの項目についてオッズ比を算出し,アンケートによる臨床的意義も加味し項目を精選した.

    【結果】アセスメントツールの統計学的検証とアンケート結果から,オッズ比が低い「睡眠薬・精神安定剤の服用がある」を削除し,単変量解析で有意差のあった転倒リスク要因の「記憶障害」を加え,「転倒経験」「歩行障害」「めまい・立ちくらみ」「ナースコールが押せない」「徘徊・多動」「看護師の直感」「記憶障害」の計7項目でアセスメントツールを完成させた.完成したアセスメントツールの感度・特異度は,感度87.5%,特異度34.3%,AUC 0.768であった.

    【考察】完成したアセスメントツールは既存のツールと同程度の予測精度を持つと考えられた.また,アセスメントツール作成過程において実際の臨床状況の観点が入ったことで,より臨床で評価しやすいものになったと考える.

  • ―アクションリサーチを通して―
    和田 由樹
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 26 巻 1 号 p. 189-200
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:本研究は,副看護師長と研究者による「語りあいの会」を開催し,副看護師長の人材育成に関する認知や行動の変化において,「語りあいの会」が副看護師長にとってどのような場であったのかを明らかにすることである.

    方法:アクションリサーチ手法を用いた質的記述的研究.アクションは,副看護師長と研究者が語りあいの会を開催することである.副看護師長3名が語りあいの会に参加し,それ以外にインタビューのみに参加した看護師及び副看護部長の8名,計11名が研究参加者であった.語りあいの会は5回開催した.

    結果:「語りあいの会」では,事例シートを用いて事例提示,その事例をもとに研究参加者と研究者が自由に対話した.「語りあいの会」に参加した副看護師長は,それぞれに人材育成に関する認知や行動に変化があった.インタビューのみに参加した研究参加者からも副看護師長の人材育成に関する変化を認める語りがあった.

    考察:会は自己の理解を語り,他者の理解と対比することによって自分の考え方や立場を振り返る副看護師長同士の「対話」がなされ,それは自己内省の場であった.同職位である副看護師長同士が「語りあいの会」で対話したことによって気づきを得,そこから実践知を獲得し,その結果人材育成に関する認知や行動に変化がおきた可能性が示唆された.

総説
  • 井本 英津子
    原稿種別: 総説
    2022 年 26 巻 1 号 p. 32-43
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は看護師の看護実践能力を体系的に把握し,時代の変遷とともに求められる看護実践能力を明らかにして,看護実践能力向上ための教育的支援の示唆を得ることを目的とする.文献検索はCINAL, Medline, 医学中央雑誌を使用し,キーワードは「nursing practice(看護実践)」and「professional competence(専門能力)」and 「nurse(看護師)」とし,査読ありのJournal Articleに限定し検索した.除外基準に基づき45件を選定した.対象文献の看護実践能力の概念,定義を整理し,看護実践能力の構成要素を類似性・相違性の観点から帰納的にスキルごとに分類した.その結果,看護実践能力の概念,定義は統一した見解は示されていなかった.看護実践能力の構成要素は,6つのスキル「手技的スキル」,「状況判断スキル」,「対人関係スキル」,「役割遂行スキル」,「自律的スキル」,「課題解決スキル」が抽出された.さらに看護実践能力は,時代の変遷とともに組織・チームでの自己の役割を意識したスキルが求められていた.今後,看護基礎教育では専門職業人としての学習強化の必要性,看護継続教育では新人期から組織や社会から期待される役割を意識した「状況判断スキル」,「役割遂行スキル」,「自律的スキル」,「課題解決スキル」を学ぶ機会などの教育支援の必要性が示唆された.

資料
  • 野田 明敬
    原稿種別: 資料
    2022 年 26 巻 1 号 p. 44-54
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,中堅看護師の職業の継続に影響する個人的な要因を明らかにすることを目的とした.研究協力者は,総合病院および訪問看護ステーションにおいて,臨床経験5年以上の中堅看護師17名を対象に,半構造化面接を行い質的に分析した.分析の結果,『看護職に対する魅力』,『看護職の有意義感』,『看護職に対する適性』,『職場内の対人関係能力』の4つのカテゴリーが抽出された.これら4つのカテゴリーは,中堅看護師の職業を継続する内的な個人的要因として考えることができた.抽出された4つの個人的要因は,互いに影響し合っており,「自分は看護職を継続できる」という意志に影響を与え,「看護職を継続しようとする行動」につながり,「看護職を継続している」という状態にあると解釈することができた.この4つの個人的要因が「自分は看護職を継続できる」という意志に影響を与えている状況は,社会的学習理論の自己効力感で説明することができると考えられた.看護職の職業の継続には,これら4つの個人的要因に対して適切な支援をし,看護職に特化した自己効力感を高める必要があることが示唆された.

  • 星野 純子, 古川 直美, 堀田 将士, 武藤 英理, 中山 綾子
    原稿種別: 資料
    2022 年 26 巻 1 号 p. 64-75
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,看護師の病院内教育による学習の程度と,施設環境と個人要因が学習に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.対象は,隣接する2つの県内の病院に勤務している看護師であった.2,777名に質問票等を配布し,1,243名の回収(回収率44.8%)を得て,従属変数に欠損値のない者1,185名を分析対象とした.調査方法は,郵送による自記式質問紙調査であった.調査項目は,対象者の個人要因の他,現在勤めている施設の病床数,職場におけるメンターやモデルとなる人の有無,指導役割経験の有無などの施設環境要因と既存のキャリア自律心理尺度およびキャリア自律行動尺度,院内教育による看護師の学習尺度であった.院内教育による看護師の学習を従属変数とする階層的重回帰分析を用いた.院内教育による看護師の学習尺度の5つの下位因子のうち,「看護の基本の習得」は最も高い平均値10.8点を示し,「人としての自己の成長」は最も低い平均値8.8点を示した.階層的重回帰分析の結果,院内教育による看護師の学習に関連する要因は,看護師の年齢,性別,臨床経験,施設の病床数,メンターやモデルとなる人の有無,指導役割経験,キャリア自律心理,キャリア自律行動であった.学習できる施設環境と教育を受け取ろうとする看護師の意識の高さは,院内教育による学習を促進する可能性が示唆された.

  • 大谷 則子
    原稿種別: 資料
    2022 年 26 巻 1 号 p. 94-103
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,外来化学療法室に勤務する看護師の経験を記述的に明らかにすることである.総合病院外来化学療法室に勤務する2名の看護師を研究参加者とし,非構造化面接を行った.それぞれの看護師の語りに注目して経験を記述し,その経験がいかに外来化学療法室という場を成り立たせているのか,それぞれの看護師の経験に埋め込まれた看護の拠りどころは何か,外来化学療法室に勤務する経験を自身のキャリアにどう位置づけているのか現象学的な態度を手がかりに探求した.

    その結果,外来化学療法室は「じっくり関われる場」「きちんと話をする場」として経験されており,その経験は長期にわたって個々の患者と関わるという外来化学療法室固有の状況に支えられていた.それぞれの看護師の経験には「頑張っている患者の力になりたい」「がんを生きる患者の生活をどう支えていくのか」という各々の看護師の看護の拠りどころとなるものが埋め込まれていた.また,外来化学療法室に配属され働き続ける中で,それぞれの看護師は,配置転換や患者との関わりを節目としながら,「一皮むけた経験」を積み重ね,それぞれの看護師固有の物語を紡ぎ,「一皮むけた経験」を意味づけ,看護師としての自身の存在価値に気づき,キャリアの課題を乗り越え発達させていた.

  • 笠松 由佳, 小玉 淑巨, 福家 幸子, 宗村 美江子, 若本 恵子, 深堀 浩樹
    原稿種別: 資料
    2022 年 26 巻 1 号 p. 104-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:「『看護管理者のコンピテンシー・モデル』を活用した教育プログラム」を受けた看護管理者が認識した看護管理者としての行動や意識の変化,および組織の変化を明らかにする.さらに,看護管理者が教育プログラムを通してコンピテンシーを理解していく様相を明らかにする.

    方法:看護管理者の育成手法として開発されたこの教育プログラムは,6クラスター,16コンピテンシーで構成され,各コンピテンシーは6段階のレベルに分かれている.教育プログラムを実施している2施設に所属する看護管理者15名を対象にフォーカスグループインタビューを行い,内容分析のinductive approachにより分析した.

    結果:看護管理者としての行動や意識の変化と組織の変化として4つのカテゴリー【冷静さと俯瞰力がつく】【自己確信できる】【作りたかった部署を実現させる】【看護管理者全員同じ目標に向かう】が抽出された.教育プログラムにおけるコンピテンシー理解の様相として2カテゴリー【事例記載の困難を乗り越えコンピテンシー概念の理解を深める】【コンピテンシーの内在化が進み使いこなす】が抽出された.

    結論:本教育プログラムにより,看護管理者は個人の行動や意識の変化のみならず,組織全体の変化も感じていた.事例記載は,実践を振り返る機会となりコンピテンシーの理解を深めていた可能性がある.

  • 久冨 和子, 戸ヶ里 泰典
    原稿種別: 資料
    2022 年 26 巻 1 号 p. 115-128
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:精神科専門病院に勤務する看護師(以下,精神科看護師)が直面する倫理的ジレンマの実態を調査し,倫理的ジレンマと精神的ストレスとの関連を明らかにすることである.

    方法:6つの精神科専門病院(以下,精神科病院)の看護職員486人を対象とし,2019年7月に無記名自記式質問紙調査を実施した.有効回答数418部を分析対象とした.倫理的ジレンマを評価するインデックスは「臨床場面」「看護師Xの倫理的価値」「看護師X以外の人間」の3つのファセットからなるファセットデザインにより構築した.各項目の心理的負担度の平均とケースの頻度得点の積で倫理的ジレンマストレッサースコアを求め,内的整合性とモデルの適合度の確認をした.各々の項目は頻度と負担感の二つの側面について評価し,ファセットで設定した6つの臨床場面における倫理的ジレンマが精神的ストレスに与える影響を重回帰分析で分析した.

    結果・考察:重回帰分析の結果,臨床場面の「患者以外の人間関係」において生じる倫理的ジレンマが,精神的ストレスに与える影響が強いことが示された.倫理的ジレンマを解決するためには,他の医療スタッフと適切に連携を行い,患者の意思決定において,患者にとって必要なことを見極めていくことである.また,倫理的ジレンマに対して,構えることなく声をあげられる組織風土の醸成が必要であることが示唆された.

  • 渋谷 紋子, 奥山 絢子, 佐々木 美奈子
    原稿種別: 資料
    2022 年 26 巻 1 号 p. 159-169
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    ジャーナル オープンアクセス

    看護師長の多くは患者ラウンドを行っているが,その指針がある病院は日本全体の23%にとどまっている.本研究では,急性期病院で看護師長が行う患者ラウンドの行動指針への示唆を得るために,急性期病院に勤務する看護師長が行う患者ラウンドの目的及び看護管理への活用の構造について明らかにすることを目的とした.急性期病院に勤務し良好な病棟管理を行っている看護師長10名に対し,半構成的面接を実施し,KJ法を参考に分析を行った.急性期病院の看護師長の患者ラウンドの目的として,【患者ラウンドの結果を活用して効果的・効率的なスタッフ教育につなげる】【看護師長として積極的に関わりスタッフのケアの提供をサポートする】【看護師長の直観や気づきから得られる情報をケアに活かし満足度向上につなげる】【急性期医療を提供している自部署の医療サービスの質を評価する】【急性期病院の役割発揮のために速やかに効果的なベッドコントロールにつなげる】【患者ラウンドで成功体験を得ることで看護師長としてのワーク・モチベーションにつなげる】の6つの最終ラベルが抽出された.さらに,最終ラベルの関係性を構造化し,看護師長が看護管理に患者ラウンドをどのように活用しているのかを明らかにした.本研究結果を参考にして患者ラウンドを行うことで,急性期病院における良好な病棟運営の一助となる可能性がある.

  • 小玉 淑巨, 深堀 浩樹, 國江 慶子, 相澤 恵子, 庄子 由美, 谷口 陽子, 西田 和美, 丸山 美津子, 奥 裕美
    原稿種別: 資料
    2022 年 26 巻 1 号 p. 170-178
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    ジャーナル オープンアクセス

    患者のニーズが複雑化している中で,質の高い看護を効率的に提供するためには,看護管理についての知識や技術を身に着けておく必要がある.そのために,看護師を育成する看護基礎教育から看護管理学を教授していくことが求められる.そこで本研究は,看護基礎教育で教授することが重要と思われる看護管理学の内容について,看護管理者や看護管理研究者を含む有識者の認識から明らかにすることを目的とした.

    研究方法はデルファイ法であり,調査票を用いてデータを収集した.対象者は,一般社団法人日本看護管理学会理事,監事,評議員134名,調査項目は日本看護管理学会教育委員会委員が,既存のカリキュラムや文献を参考に選定した59項目とした.Webにてデルファイ法3回の調査票を配布し,看護基礎教育で教授する上での重要度を5件法にて尋ねた.中央値4以上,IQR 1以下,項目の評価4以上の百分率が75%以上であることを重要度が高いと判断した.

    デルファイ法3回の調査を経て,看護基礎教育における看護管理学の学習内容32項目が同定された.これらの項目には,新人看護師が看護ケアを行う際に必要となるマネジメント能力や専門職としての在り方を示すものが含まれていた.看護基礎教育と新人看護職員研修における看護管理学教育の連続性についても検討する必要が示唆された.

  • 土屋 美穂, 宇城 令
    原稿種別: 資料
    2022 年 26 巻 1 号 p. 179-188
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/26
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,急性期病院に勤務している病棟看護師を対象とし,目標管理における目標達成度に関連する要因について明らかにすることである.対象は,A,B,C県の9施設の病棟看護師806名(分析対象者370名)とし,自記式質問紙調査を行った.調査項目は,目的変数に個人および組織の目標を達成する「目標達成度」,説明変数は面接者の職位,面接時間等,目標管理の時期として「目標設定段階」,「目標実行段階」,「目標評価段階」,「目標管理全般」とし,多項ロジスティック回帰分析を行った.その結果,目的変数である「目標達成度」のうち,「個人・組織目標共に達成度が低い群」を基準とした場合,「目標設定段階」及び「目標管理全般」の「セルフコントロール」は「個人・組織目標共に達成度が高い群」と有意な正の関連が認められた.

    これらより病棟看護師の目標達成度には,管理者は目標管理の最初の段階である「目標設定段階」で,意図的に,病棟看護師が仕事自体に動機付けられ行動できるよう組織目標と個人目標の関連性について理解を促すことが重要であった.そして病棟看護師自身が優先度をつけた目標を設定し自己評価を行うといったセルフコントロールできるようにする必要性が考えられた.

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