日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
29 巻, 3 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著
  • ─褥瘡発生時の体圧との関連
    松本 尚子, 大島 弓子, 米田 雅彦
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_3-3_12
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,褥瘡の発生につながる細胞外マトリックス(以下ECMとする)の破壊に対する体圧の影響を明らかにすることである.
    材料は,ヒト線維芽細胞,血管内皮細胞である.培養した細胞に加圧(50 mmHg)を行った後,細胞形態とECMの変化,MMPのようなECMの分解酵素と合成成分の発現を分析した.50 mmHgの加圧で線維芽細胞の形態は変化を起こし,フィブロネクチンの発現の減少,バーシカン,コラーゲンとMMP3,ADAMTS4の発現の増加を確認し,血管内皮細胞の形態は変化を認めなかった.結果から,約50 mmHg値を体圧分散の目安としていることは有効ではないかと考える.しかし,圧力が組織全体へ影響を与え,組織を支持しているECM構築に変化を引き起こしている可能性もある.よって,体圧のみではなく組織全体への影響も考えた看護介入を検討する必要性があることが示唆された.
  • 松本 尚子, 大島 弓子, 米田 雅彦
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_13-3_23
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,褥瘡創面の細胞外マトリックス(以下ECMとする)分子の構築状態と,褥瘡創面の関連性を明らかにすることである.褥瘡と診断された8名に使用していたガーゼに付着した滲出液から抽出したタンパク質を対象とし,抗体を用いてECM構築分子の存在について検索し,酵素交代測定法(ELISA)によりMMP3の発現量を測定した.その結果,ⅰ)褥瘡創面の状態によって抗体反応のパターンが違うこと,ⅱ)一つの褥瘡創面でも部位により抗体反応が違う,ⅲ)MMP3の発現量が対象によって違いがあることが明らかになった.このことから,対象によって褥瘡創面のECM分子の構築状態が違うことが考えられ,褥瘡創面の状態に応じた看護介入を考慮することが重要である.また,褥瘡創面から MMP3が検出されたことから,MMP3が褥瘡に何らかの関連性があることが示唆された.
  • 高田 幸江
    原稿種別: 原著
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_24-3_33
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    日本の腎移植は生体移植が8割を占めるが,ドナーの体験はほとんどわかっていない.本研究は,わが国の生体腎移植ドナーの腎提供の体験を明らかにすることを目的とした.都内大学病院で内視鏡下腎提供を行い外来通院しているドナー15名を対象に半構成面接を行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した.
    結果,コアカテゴリー『「自分しかいない」ことの確認とその意味の深まり』を見出した.レシピエントが健康な頃,遠い世界だった移植は,腎障害の共有,移植情報の獲得,医師の勧めにより自分の問題になった.自分自身と向き合い,おかれている状況,選択肢を考慮し,自分しかいないことを確認し提供に進むが,提供の意思とは別に術直前まで心が揺れていた.
    術後には変化が3つ生じた.患者と家族の2つの役割をもつこと,レシピエントへの新たな認識をもつこと,レシピエントの回復過程に影響を受けながら腎提供の意味づけをすることである.ドナーは提供後も自分しかいないことの意味を深めていることが明らかになった.
    以上より,腎提供はドナーの新たな自己概念を再構築する体験と考えられた.
研究報告
  • 大西 奈保子
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_34-3_42
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    ターミナルケアに携わる看護師に必要な態度とは,患者やその家族から死にまつわる言葉や態度が示されても,行為的にも心理的にも彼らから逃げずに関わり続けられることである.本論文では,看護師がこのような態度をとるための動機づけの要因でもある《肯定的な気づき》と,態度変容過程を明らかにすることを目的とした.
    研究方法は,研究の趣旨に賛同を得られたターミナルケアの実践者である看護師30名に個人面接をし,その内容をGrounded Theory Approachにて分析した.
    その結果,ターミナルケアの実践が辛く苦しい経験だけではなく,患者や家族との相互関係から看護師自身が彼らからケアされるような経験でもあるといった《肯定的な気づき》が,患者やその家族から逃げずに関わることができる態度に結びつき,この《肯定的な気づき》は,《臨床での経験》や《教育的な働きかけの享受経験》や《ライフヒストリーの経験》によって促されることが明らかとなった.このためターミナルケアに携わる看護師に対して《肯定的な気づき》ができるように,これらの要因を意識化させ肯定的に意味づけることが看護師への援助となると言える.
  • 青木 雅子
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_43-3_51
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    先天性心疾患患者の小児期におけるボディイメージの形成過程を明らかにすることを目的に,グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.
    先天性心疾患をもつ21名の成人患者に,小児期における身体に対する思いを回想してもらった.ボディイメージの形成過程は,もの心ついた時に認識した身体に対するあたりまえさを自分なりのあたりまえさに再構築していく『あたりまえさの創造』であった.【もの心ついたときのあたりまえさ】を基盤にし,友だち社会に進出して認識した身体心理社会的な【不都合さの実感】を,【同化への試み】【ジレンマとの駆け引き】【体内の調整力の発揮】をしながら,【自分らしいあたりまえさの再構築】へと変化修正させていた.体内感覚を頼りにしたボディイメージは,社会的営みを通して自己イメージへと創造されており,身体の適切な理解,他者からの了解,安心,コントロール感の獲得,他者との共軛,理想像との一体感,適応の実感を高めることが安定した自己構築につながると考えられた.
  • ─身体症状に対する認知,身体的状況,セルフ・エフィカシーに着目して─
    上田 さとみ, 勝野 とわ子
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_52-3_59
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:高齢がん患者のがんへの心理的適応に影響する要因を知ることを目的として,身体症状に対する認知,身体的状況,セルフ・エフィカシーに着目し関連を検討した.
    方法:65歳以上の52名の高齢がん患者を対象とし,自記式の質問紙法を実施した.質問紙は,「末期がん患者用セルフ・エフィカシー尺度」「日本語版Mental Adjustment to Cancer Scale」「VAS」「KPS」を用いた.Kendallのτと重回帰分析を用いて分析した.
    結果:「前向きな態度」と身体的状況,セルフ・エフィカシーとの間で有意な正の相関があり,「絶望感」と身体的状況,身体症状に対する認知,セルフ・エフィカシーとの間で有意な負の相関がみられた.さらに,影響要因を検討した結果,「絶望感」に対して身体的状況と身体症状に対する認知が各々有意に影響していた.
    結論:身体的状況と症状に対する認知を包括した看護ケアを提供することで絶望感が軽減できる可能性が示唆された.
  • 折山 早苗, 渡邉 久美
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_60-3_67
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は,患者の自殺・自殺企図に直面した精神科看護師の心的ストレス反応およびその経過,対処行動を明らかにすることを目的とした.
    方法:対象は,中国地方の精神科病院に勤務する看護師で患者の自殺・自殺企図に直面した経験のある267人に無記名自記式質問紙を用いた.調査内容は,年齢,性別,勤務年数,患者の自殺・自殺企図に直面した経験の有無と回数,心的ストレス反応の有無と持続期間,対処行動とした.
    結果:1)看護師の心的ストレス反応として,自責感や緊張,不安,無気力が挙げられ,自責感,無気力に関しては,10年以上ももち続ける看護師が多く存在した.2)性別による対処行動の違いでは,男性が「嗜好品(飲酒・喫煙)」,女性は「人に話を聞いてもらう」が有意に多かった.
    結論:患者の自殺・自殺企図に直面した看護師の心的ストレス反応に留意し,適切に対処行動がとれるよう長期的なサポートが必要であることが示唆された.
  • 佐藤 美幸, 作田 裕美, 小林 敏生, 片岡 健
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_68-3_75
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は,体内水分量の観点から,体内水分量に影響を与える因子について検討し,病的多飲水の一因を探ることを目的とした.
    方法:精神科病院入院中の統合失調症男性患者に,生体インピーダンス法(BIS法)を用いて体内水分量を測定し,病的多飲水患者(多飲群)35名,非多飲水患者(非多飲群)23名を比較対象とした.体内水分データと体内水分量に影響を与えると考えられる因子である,血漿浸透圧,尿比重,年齢,病歴,抗精神病薬投与量,抗コリン薬投与量,口渇感,喫煙量,多飲行動の有無,水中毒のエピソードについて検討した.
    結果:統合失調症患者において血漿浸透圧が上昇している者はなく,血漿浸透圧が低下しているにもかかわらず,多飲行動がみられる者が存在した.また,その他の因子について,重回帰分析を行った結果,%ICF,%TBFは,水中毒のエピソードと関連があり,エピソードをもつ者は,%ICF,%TBFが高い傾向にあった.
  • ─炎症性腸疾患を抱える人々へのリラクセーション・認知行動療法─
    金子 眞理子
    原稿種別: 研究報告
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_76-3_84
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    【研究目的】 「ストレスマネジメントを目的としたリエゾン精神看護介入法」を試行,評価することである.
    【方法】 内容は〈リラクセーション法〉〈認知行動療法を用いた面接〉〈療養生活における心身のストレスマネジメントを中心とした看護相談〉からなる6セッションで構成される介入法を作成し,試行,評価した.
    【結果】 対象は炎症性腸疾患を抱え社会生活を営む者4名で平均年齢は36.8歳であった.リラクセーション介入後はPOMS得点が低下し,気分のプロフィールは健康群にみられる氷山型を示した.主観的評定においては,「身体感覚」と「気分」にもたらす効果が認められた.対象群に特徴的な認知は「すべき思考」「マイナス思考」「レッテル貼り」であり,POMS,HADSの安定は5セッション項から認められ,セッションを重ねるにつれ,認知の歪みの頻度が低下した.
    【結語】 介入後にSF-36v2™による心身の健康度が上昇したことから,本介入は,精神面の安寧とストレス対処,QOLに効果をもたらすことが示唆された.
その他
  • 千葉 理恵, 宮本 有紀
    原稿種別: その他
    2009 年 29 巻 3 号 p. 3_85-3_91
    発行日: 2009/09/16
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    目的:リカバリー評価尺度の特徴について,文献の知見を整理し,わが国での今後の研究課題について示唆を得ること.
    方法:PubMed,CINAHL(収載:1995~2008年8月)をデータベースとして,キーワードの,recovery,scale,mental illnessをすべて含む文献や,その引用文献なども含めた中から,計28編の英語文献を対象とし,分析・整理した.
    結果:発表されているリカバリー評価尺度は20種類以上あり,測定する対象や方法によって,①リカバリーを連続的スコアにより評価する尺度,②リカバリーを,ステージにより評価する尺度,③リカバリーへの志向・姿勢・知識を評価する尺度,④リカバリーを促進するプログラムや環境を評価する尺度,の4つに分類され,さまざまな介入プログラムに用いられていることが明らかになった.
    結論:今後は,日本文化に合ったリカバリーを適切に評価し得るような,日本語のリカバリー評価尺度を開発する必要性が示唆された.
feedback
Top