日本の腎移植は生体移植が8割を占めるが,ドナーの体験はほとんどわかっていない.本研究は,わが国の生体腎移植ドナーの腎提供の体験を明らかにすることを目的とした.都内大学病院で内視鏡下腎提供を行い外来通院しているドナー15名を対象に半構成面接を行い,グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した.
結果,コアカテゴリー『「自分しかいない」ことの確認とその意味の深まり』を見出した.レシピエントが健康な頃,遠い世界だった移植は,腎障害の共有,移植情報の獲得,医師の勧めにより自分の問題になった.自分自身と向き合い,おかれている状況,選択肢を考慮し,自分しかいないことを確認し提供に進むが,提供の意思とは別に術直前まで心が揺れていた.
術後には変化が3つ生じた.患者と家族の2つの役割をもつこと,レシピエントへの新たな認識をもつこと,レシピエントの回復過程に影響を受けながら腎提供の意味づけをすることである.ドナーは提供後も自分しかいないことの意味を深めていることが明らかになった.
以上より,腎提供はドナーの新たな自己概念を再構築する体験と考えられた.
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